非公式コラム

Vol.10:ファイト、風のハルカ、そして純情きらり〜その3(2006.03.30)

 朝ドラの基本とも言うべき、最初と締めが故郷、中盤が大都市という大きな流れは『風のハルカ』『かりん』のどちらも同じだが、その中で描かれている展開に伴うエピソードの数が雲泥。朝ドラではちょっとでも何となく書き進めることは許されないのだろう。それをやってしまうと、『天花』『こころ』『わかば』『さくら』のような事態に陥ってしまいかねない。その差こそが『かりん』を秀作たらしめているし、『風のハルカ』を薄味の朝ドラにしてしまっているのだ。『風のハルカ』に充満している「何となく」という気分は、少なくとも朝ドラには向いていない。
 ヒロインの両親役も『風のハルカ』は弱い。確かに『かりん』が強すぎるのかもしれないが。『風のハルカ』の真矢みきと『かりん』の十朱幸代がそれぞれに演じる母親の恋愛歴のドラマティック度もまた雲泥の差。ただ、木綿子の有り様に共感がわかないのを役者の存在感だけのせいにするのは気の毒かもしれない。ドラマの中で木綿子が他のキャラクターときちっとぶつかっていない分、やはりこのキャラクターには共感しづらいのだ。陽介(渡辺いっけい)も基本的には似たようなものだったが、正巳(黄川田将也)の失踪を契機に若干キャラクターが立ってきたか。
 これまでの『風のハルカ』は、子供時代の第1週とハルカと奈々枝(水川あさみが幼馴染対決を果たす第10週以外は、☆☆あたりを行ったり来たりしているような凡庸な出来ばえだったが(とりわけ旅行会社のパートは不出来過ぎる)、3月に入ってからかなり良くなってきたような気がする。やはり先ほども触れた正巳の失踪によって各キャラクターが程よく絡んだことによって、ドラマの密度が一段階上がったのではないだろうか。百江(木村佳乃)のいてもいなくてもいい感じは依然として改善されていないが(あまりにももったい気がして)、それでもこの朝ドラはむしろ最後の1ヶ月にこそ最良の時を迎えているのかもしれない。『やんちゃくれ』以降の15作品の中では、特別な『てるてる家族』を除くと『風のハルカ』がもっとも充実した最後の1ヶ月を送っている朝ドラであろう。『ファイト』の中盤までと『風のハルカ』の最終盤が連なるならば、どうしても早起きして見たくなる朝ドラの6ヶ月にちょっと欠けるぐらいにはなっていたはず。一作品でそれをかなえてくれる、そういう朝ドラがぜひ見てみたい。(麻生結一)