ちりとてちん

第4週 「小さな鯉のメロディ」(2007年10月22〜27日放送)

☆☆★
 徒然亭草若(渡瀬恒彦)がどうして高座に穴を空けたのかの理由はいまだ語られずも、草若を慕って同じく高座から遠ざかっている弟子・草々(青木崇高)の現状は丁寧に説明されていた。ゆえに、喜代美(貫地谷しほり)が下座を務めて「辻占茶屋」に再チャレンジする道程にはしみじみとなる。床屋・磯七(松尾貴史)の計らいで開かれた落語会の本番にて、喜代美が鬼門の「ふるさと」を誤って完全演奏してしまうオチにもおかし味あり。貫地谷しほりの役作りはもう少し大雑把の方が初々しいはず。(麻生結一)

第3週「エビチリも積もれば山となる」(2007年10月15〜20日放送)

☆☆
 舞台は小浜から大阪へ。第3週目にして、再び新キャラクターの説明に追われることになる。ある程度は予測できたが、エピソードはかなり泥臭くなってきた。
 庭先で「愛宕山」を口ずさむ徒然亭草若(渡瀬恒彦)の声に導かれる形で、喜代美(貫地谷しほり)と草若が初対面するメルヘン風は悪くない。それにしても、渡瀬恒彦がおじいさん役をやるようになったとは。草若の弟子・徒然亭草々(青木崇高)は『タイガー&ドラゴン』の小虎(長瀬智也)に酷似した役作り。落語界のはみ出しものは、こういうイメージなんだろうか?
 結局喜代美は草若のところに下宿して、フリーライター・奈津子(原沙知絵)のアシスタントになる。アシスタントを雇うとは、あの時代のフリーライターはなかなか儲かっていた模様。
 小浜から大阪に舞台を移そうとも、B子こと喜代美とA子こと清海(佐藤めぐみ)の好対照ぶりは普遍。えびの背綿を地道に取る人=B子、下ごしらえされたえびを華麗に(?!)いためる人=A子の構図は喜代美のみじめっぷりがせつなくもいとおしい。“哀れの”田中(徳井優)との哀れ合戦にも快勝って、どんだけ哀れ!メインストーリーには関わりないところででも、あまりにもおいしい存在である“哀れの”田中にはまた登場していただきたい。(麻生結一)

第2週 「身から出た鯖」(2007年10月8〜13日放送)

☆☆★
 9年の月日が過ぎ去っても、依然として脇役人生を送っている高校三年生の和田喜代美(貫地谷しほり)が、一念発起して小浜を飛び出すところまでを描いた第2週。物語のスタートが1982年だったので、今現在は1991年ということになる。「一年の計は春の球技大会にあり」のまま、バレーボールのヘディングで一笑いとる喜代美の劣等感は、年月によってさらに磨かれていることが即座にわかる。
 同姓同音異字同名のクラスメートにして、もはや学校のマドンナ的存在であるA子こと和田清海(佐藤めぐみ)とのコントラストが鮮明になればなるほど、ドラマのおかし味は深まっていく構造は普遍の模様。学園祭での三味線ライヴの顛末もとても充実していたけれど、小3の遠足で見つけた石をA子とB子で取替えっこする話には第1週に引き続いてしみじみとなる。言い訳ばっかりして、逃げてばかりの自分をその石が映しているようだと気がつく喜代美の過去と現在を、この秀逸な小道具は見事に映し出していた。
 A子を演じる佐藤めぐみは、今年の春に放送された島根県を舞台にした昼ドラ『砂時計』でも日本海の女(実は出身は東京だったが)を演じていた。佐藤めぐみは本格的に日本海女優の道を歩みはじめた?!

小梅(江波杏子)「夫の仇が息子の師匠♪」

の小唄風のまま、その9年間は喜代美の父・正典(松重豊)が若狭塗箸製作所の社長・秀臣(川平慈英)の元で若狭塗箸職人としての修業を乗り越えた年月でもあったか。そんな正典を取材にくる大阪のフリーライター・緒方奈津子(原沙知絵)が初登場。「フリーライターという自立した響き」、時代である。その奈津子が執筆する雑誌「SABRINA」の巻頭特集は「アジア映画に恋して」、これもまた時代の香りがする。
 子供のころに三味線をかじったアドバンテージも(「ちりとてちん」で挫折!)、喜代美の母・糸子(和久井映見)の予言通りに選曲が五木ひろしの『ふるさと』に決定したころにはすでに腕前を追い抜かれ、結局喜代美は三味線ライヴでは照明担当となる。ちなみに五木ひろしは福井県出身。
 そんなこんなで落ち込む喜代美を叱咤し励ます親友の順子(宮嶋麻衣)は祖父・正太郎(米倉斉加年)亡き今、ドラマ最大の賢者になった。順子の喜代美に対する辛口コメントがそのたびに心に響く。喜代美と離れ離れになっても、順子の言葉は機能するのだろうか。
 全編に笑い満載のこの第2週だったけれど、最後は人情もののよさで締めくくってくれた。これがこの朝ドラの肝なのだろう。研いでも研いでも後悔ばっかりのお箸になりたくない、いつかきっときれいな模様になってみせると自らを塗箸に例え言い放って小浜を去る喜代美に向け、のど自慢大会で涙ながらに「ふるさと」を熱唱する糸子も胸にしみたけれど、皮を張り替えた三味線を喜代美に託す小梅のかっこよさといったらもう。遠足で拾った石同様に、伏線の妙をここに堪能する。
 前の朝ドラはどうしたことかロケにさっぱり魅力がなかったが、今回は実にいい。ここまでは予想以上の充実ぶりを示している『ちりとてちん』なれど、朝ドラの常として大阪編でバランスを崩す場合が多いだけに、第3週はちょっと心配である。(麻生結一)

第1週「笑う門には福井来る」(2007年10月1〜6日放送)

☆☆★ 
 ユーモアとペーソスに溢れたこの新しい朝ドラの第1週目を見て、久々に晴れ晴れとした気持ちになる。物語は1982年夏、9歳の和田喜代美(桑島真里乃)が父・正典(松重豊)、母・糸子(和久井映見)、弟・正平(星野亜門)とともに祖父・正太郎(米倉斉加年)、祖母・小梅(江波杏子)、叔父・小次郎(京本政樹)が暮らす福井県小浜市に引っ越してくるところからはじまる。10年ぶりの里帰りとなる正典は家業である若狭塗箸を継ぐ心積もりだったが、その職人である祖父・正太郎(米倉斉加年)はかつて修行を投げ出した正典を許そうとしない。正太郎が塗箸の名人であることは、伝統工芸士の伝統マークによって一目でわかる。「神は細部に宿る」とまで言うのは大げさだけれど、そんなちょっとした細部にこのドラマが何となくちゃんとしてそうな好印象を持つ。
 それにしても、喜代美の早々脇役人生を歩み始めるへたれっぷりが実に微笑ましい。同姓同音異字同名のクラスメート・和田清海(佐藤初)は才色兼備でクラスのマドンナ。そんな清海(佐藤初)と何の因果か鉢合わせしてしまったことにより、喜代美は生来のネガティヴ・シンキングぶりを人知れず全開させる。音楽の授業の合唱に例えて、Aパートよりも人気のないBパートの方、つまりは主役のAではなくて脇役のB、ついにはA子ではなく和田B子襲名へと発展するネガティヴなとんとん拍子などは実に小気味よく、随所に挿入されるネガティヴな妄想シーンもおかし味にあふれている。
 ドラマの調子が出てきたのは落語「愛宕山」の再現が出てくる第3回あたりから。登場人物が時代劇の扮装で落語の一席を演じる趣向はすでに『タイガー&ドラゴン』で見慣れたものだけれど、ここでもいいアクセントになっていた。常時おとぼけの母・糸子を演じる和久井映見のふっきれぶりは、「愛宕山」の一八役でも堪能できる。これはぜひとも続けていただきたい。『芋たこなんきん』で途中多重構造の語り口が放棄されたようなことにならなければいいが。
 あまりにも唐突な正太郎の死は、喜代美との名コンビぶりでドラマに含蓄を与えてくれていただけに大いに残念である。第1週で最重要人物が死んでしまう朝ドラには苦々しい思い出が多いので、そのあたりも気がかりだ。週の最後には9年の月日が流れて、高校三年生の喜代美(貫地谷しほり)が登場する構成からすると、この第1週は全体のプロローグという位置づけになろう。喜代美は塗箸職人ではなく、落語家を目指す話らしいので、そのきっかけをくれた正太郎の死は致し方なかったのかもしれないが、米倉斉加年演じる正太郎が絶品だっただけに、このキャラクターが物語からいなくなってしまうのはやはりもったいない気がする。正太郎を「ちゃん」づけで呼ぶ元芸者の祖母・小梅を演じる江波杏子の粋ぶりはならではの魅力。正太郎の葬儀にて、かつての正太郎の弟子であり、その後に正太郎と袂を分かって大量生産の箸工場を経営する清海の父・秀臣(川平慈英)を追い返す場面の小梅には、さすがの凄みがあった。
 隕石と同じくすべては天災ゆえにとあきらめなさいと冷静に喜代美を諭す野口順子(伊藤千由李)は、9年後も喜代美のよき理解者であり続けるのだろう。その父にして魚屋食堂を営む幸助(久々沢徹)の焼きさば仲裁はレギュラー化?! 妙に達観した弟の正平(星野亜門)とそれにいちいちつっこむ正典の掛け合いも地味に面白かった。
 起死回生の一発を遠足にて狙った喜代美が糸子に託したクラスで一番のお弁当(=手打ちの越前そば!)はあまりにもみじめすぎて、思い返しても笑ってしまう(確かに手間のかかり方では一番だったか)。遠足でA子、B子がそれぞれに拾う石のお話も心に残った。できることならば、もう1週ぐらいは9歳の喜代美編を見ていたかった気もする。
 上沼恵美子のナレーションは想像以上に涼やかかつ軽みがあって上等。その言い回しはこれまた久々に居心地がいい。(麻生結一)

ちりとてちん

NHK総合月〜土曜08:15〜08:30
連続テレビ小説
制作・著作:NHK大阪
制作統括:遠藤理史
作:藤本有紀
演出:伊勢田雅也
音楽:佐橋俊彦
テーマ曲ピアノ演奏:松下奈緒
語り:上沼恵美子
出演:和田喜代美…貫地谷しほり、和田糸子…和久井映見、和田正典…松重豊、和田小次郎…京本政樹、緒方奈津子…原沙知絵、竹谷修…渡辺正行、徒然亭草々…青木崇高、和田清海…佐藤めぐみ、熊五郎…木村祐一、吉田志保(写真)…藤吉久美子、磯七…松尾貴史、菊江…キムラ緑子、和田秀臣…川平慈英、和田友春…友井雄亮、野口幸助…久ケ沢徹、野口松江…松永玲子、和田正平…橋本淳、咲…田実陽子、ガラス屋…鍋島浩、野口順子…宮嶋麻衣、和田静…生稲晃子、お花…新海なつ、音大の教授…キダ・タロー、和田喜代美(少女時代)…桑島真里乃、和田正平(少年時代)…星野亜門、和田清海(少女時代)…佐藤初、野口順子(少女時代)…伊藤千由李、大沢竜一…宇仁菅真、音楽の先生…濱田佳菜、あわれの田中…徳井優、和田正太郎…米倉斉加年、和田小梅…江波杏子、徒然亭草若…渡瀬恒彦