新マチべン〜オトナの出番〜
第4回「名前の無い依頼人」(2007年7月21日放送)
☆★
人生のセカンドチャンスに関する物語は確かにこの新シリーズには似つかわしいのかもしれないが、出来ばえのレヴェルからするとテレ朝のディテクティヴ物でも間に合うかなと思ったりもして。徳永(渡哲也)、堺田(石坂浩二)に引き続いて、レグラン法律事務所における第3の男・岡村(地井武男)が弁護することになったのは、かつて岡村が勤めていた音響メーカーの上司にして、岡村をリストラした張本人・長畑(板尾創路)であった、というまたもや主人公たちの因縁が絡んだお話で、またかという印象は否めない。それなりにいい話風には仕上がっているも、土曜ドラマで見る作品にはもう少し違ったものであってほしいというせつなる願いを込めて。確かに旧シリーズも同路線ではあったが、あちらの第4話は大変な秀作だっただけに、いっそうガッカリした。(麻生結一)
第3回「親を捨てられますか?」(2007年7月14日放送)
☆☆
2話分を持ちこたえさせるだけの質量がなかった第1エピソードに比較するならば、インテリをひけらかすもまだ事件を担当した経験さえない堺田(石坂浩二)が当番弁護士を引き受けるネグレクトをテーマにした今話の方がいかにもNHK的だったし、見ごたえもあった。ただ、かつてのNHKのドラマと比べてしまうと、やはりドラマの仕立てが随分と甘口になっている。堺田自らが万引きをした少年・大地(泉澤祐希)と似たような過去を持つという前提になると、どうしても安っぽい浪花節になってしまいかねない。堺田は自らを、岡村(地井武男)のような浪花節ではない、と最後に言い訳していたけれど。
まぁ、そういうありきたりな2時間サスペンスのテイストを狙っているとすれば、それはそれで致し方もないが、あのピアノ・バーのシーンだけは逆立ちしても許容できない。せっかくのドラマのテンションを台無しにしていたのは前2話同様だった。
大地たちの育児放棄をする母・麻里亜(高橋由美子)の改心も性急に思えた。ここをじっくり描いてこその“土曜ドラマ”ではないのだろうか?そうなるとむしろ、こちらのエピソードで2話分使うべきだったのかもしれない。堺田と大地の掛け合いはその水と油ぶりが魅力だった。堺田にはもう一事案ほどやっていただきたいも、無理かな。(麻生結一)
第2回「美しき復讐者」(2007年7月7日放送)
☆★
痴漢話が導入に過ぎなかったのはいいとしても、マンモス電気による欠陥ヒーターの隠蔽話が唐突なる個の善意によって帳消しになったような締めくくり方はいかにも消化不良だ。大企業の悪質な不正行為という確信犯的悪意を物語的に後退させなければいけない理由があったとすれば、少なくとも第1話でもう少し話を進めるべきだった。第2話まで待たされた末に、この間延びした丸いおさめようでは何とも釈然としない。メーカーのリコール隠しにスポットを当てるあたりはタイムリーだと思ったけれど。(麻生結一)
第1回「新米弁護士は60歳」(2007年6月30日放送)
☆☆★
2006年に放送された全ドラマ中、心惹かれた数少ない作品の1本が『マチベン』であった。脚本の井上由美子さんが同作品で向田邦子賞を受賞されたのも至極納得の結果である。そしてうれしいことに、その第2弾が制作された。キャスティングが総入れ替えされていたのには大いに驚いたが、いろいろとオトナの事情もあるのだろう。こうなるともはや続編でもなんでもなく、別物と考えるべきであろうし、タイトルも副題の『オトナの出番』の方が内容を言い当てているのかもしれない。そのあたりは見ながらに確認していくとして。
元新聞記者・徳永源太郎(渡哲也)、画廊のオーナー・堺田春樹(石坂浩二)、音響メーカーをリストラされた後、弁護士になるために15年の歳月を費やしてきた岡村重勝(地井武男)の60男たちが、司法修習を終えた日に声を掛け合って、程なくしてレグラン(オトナの)法律事務所に結集するまでの流れは予想以上にスムーズにしてわかりやすい。痴漢の被害者である及川玲子(黒木瞳)に依頼された1円訴訟はただでさえ新米弁護士たちには荷が重いも、裁判において玲子が早々に証言を撤回する意表もハッとさせられて、第2話への期待感は否が応にも高まる。痴漢の加害者・土井猛役に鶴見辰吾、玲子の前夫役に小日向文世とキャスティングも一癖も二癖もある感じ。これからどれだけ分厚く展開してくれるのか、大いに楽しみだ。(麻生結一)