金色の翼

第13週(2007年9月24〜28日放送)

☆☆☆
 セツ(剣幸)が島からもドラマからも去り、奥寺(黒田アーサー)なども事実上の退場をしていく中、すべてを知った槙(高杉瑞穂)が修子(国分佐智子)への愛を認めて、物語は再び「修子と槙のドラマ」へ……という流れは予想できたにしても、まさか玻留(倉貫匡弘)と修子が槙殺しを画策するという展開になるとは!ここで玻留が(思い起こせば第1週から)ずっと持ち続けてきた拳銃がついに使われるわけだが、それだけではなく修子もまた別の拳銃を手にする!
 二つの銃口が狙う先、そして鳴り響く銃声の顛末に関して多くを語るのはやめておこう。最後の最後に保科刑事(高嶺ふぶき)が取りはからうあの行為はちょっとあり得ないかなとは思いつつも、それでもこれまでの修子のあまりにも哀しすぎる「愛」の定義を思えば、

修子「周りを高い塀で囲まれてはいても、私の心は、今とても自由なの。何の嘘もやましさもなく、心はまっすぐ、あの人に向かって飛んでいけるから。それが愛だというなら、私はあの人を愛してる」

という台詞の延長線上にあるあの甘く美しいラストシーンにはやはり心を動かさざるを得ない。
 昨年同クールの秀作『美しい罠』よりもさらに「ミステリー」を前面に押し出した意欲作だったと思われるが、作品全体としては、そのジャンル的義務感に足を引っ張られて若干損をした部分もあったかもしれないとも思う。だがそれでも、それを補って余りある映像作品としての魅力があったのも事実。まぶしい空と海を一望しながらそこで展開される人間関係そのままにどこかしら閉塞感がある島のホテルのシーン、そして修子の心にある不可侵な場所を具現化したかのようなしっとりとした東京の一軒家のシーン。いずれも独特の「空気感」が常に存在して、作品を高みに引き上げていた。
 さらにこれまでも何度となく触れたが、何よりの白眉は修子の見事な存在感。その美しさ、妖しさ、危うさたるや!こんな正統派ファム・ファタールが日本のドラマに存在し得ていたということ自体が奇跡とさえ言いたくなる。修子というキャラクターを作り上げることができた時点で、この作品はある水準に達することを約束されたと言えるのかもしれない。(桜川正太)

第12週(2007年9月17〜21日放送)

☆☆★
 槙(高杉瑞穂)の兄・檀をセツ(剣幸)が手にかけたのではないかという疑惑もまた、これまでの例にならって一度はペンディングされるものの、他のネタに比べれば遙かに速やかに真実へと迫っていく。セツの修子(国分佐智子)への告白、そして槙への告白と二段構えで明らかになっていくその過去は、やがて保科刑事(高嶺ふぶき)の手で物的証拠が見つかるまでに至り、物語の流れを大きく変えるまでのものに。ただ、殺されたのはロケットの写真でしか出てこない男であるがゆえに、その死の真相も彼に対する槙のこだわりも、インパクトという意味ではいささか弱い。恋人を愛するあまりに罪を犯した檀と、夫を愛するあまりに罪を隠したセツを評して修子が言う

修子「どちらも愛しすぎた結果の不幸せ……いいえ、愛し方を間違えたと言った方がいいかしら」

という台詞は、この時点ではあまり身につまされるものではなかった。しかし最終週直前となれば盛り上げネタはこれだけではない。上記の話と前後して、いつの間にかすっかり回復していた迫田(片岡弘貴)が槙に語ったことによって、「セニョーラ(=修子)偽物疑惑」が不意に浮かび上がる!迫田が根拠とするのは、日ノ原の奥方にあると日ノ原氏が語っていたという「鳥の翼のような形の火傷」。なるほど、迫田が修子のスカートに手を入れたとき気づいたのは、それがないことだったわけね、と、6週越しでやっと納得。じゃああの修子は誰なのかと言えば、セニョーラが親しかったメイドかもしれないと槙は思いこむ……って、そのメイドが「オクサマニハー、オオキナシアワセトー……」と占いする映像を見せられていた我々としては「そんな馬鹿な!?」ってことになるわけだが、ご丁寧にそのメイドの姿が修子に入れ替わったバージョンを見せられると、あるいはそういうこともあるかもしれない……と思わされてしまったりもする。

修子「あなたは今、見るもの聞くもの、すべてが信じられなくなってるの。なにひとつ、真実が見えなくなってるんだわ」

 はい、まさにその状態です。そんなモヤモヤのまま週をまたがされることを覚悟していたが、金曜放送分であれよあれよと言う間に真相が明らかに!「鳥の翼の形の火傷」を持つのはなんと……。詳しくは敢えて伏せることにするが、ここで、これまで丁寧に積み重ねられてきた伏線が効いた。そしてさらに畳みかけられる修子の罪の告白。ここへ来て、前述の修子の台詞(ひとつめの方)にも大いに感じ入ることに。
 そしていよいよ最終週。これまでのように外連味たっぷりなサスペンス的またぎ方ではなく、謎がとりあえず一段落した状態にしたあたり、次週のもうひと盛り上がりへの自信と受け取ってよろしいですね?(桜川正太)

第11週(2007年9月10〜14日放送)

☆☆★
 案の定、またしても迫田(片岡弘貴)による真犯人の告発は先延ばしに。実際の真犯人が誰かと言うよりは、迫田がその犯人を黙っていること、そして修子(国分佐智子)もそれを望んでいることこそが重要なファクターだとはわかっていても、件の「真犯人」の正体はここ数週間の視聴者側のモチベーションのひとつなわけで、それをここまで引っ張られるとさすがに若干厳しい心持ちにもなってくるような。
 そんな中、物語の引っかき回しを担当するのは絹子先生、もとい保科刑事(高嶺ふぶき)。迫田突き落としの犯人として、これまで全く疑われる余地がないと思われていた石野(田中聡元)や奥寺(黒田アーサー)などでさえ犯人たり得ることをあの手この手で示してみせたりするあたりは、ちょっぴり『探偵学園Q』風味!?まあちょっとしたお遊びということでしょうけど。本筋としてはやがて、ホテルに送られてきた謎のファクスなどによって槙(高杉瑞穂)の兄・檀の存在がクローズアップされるわけだが、檀が島に潜んでいる可能性を誰かが口にするたびにセツ(剣幸)が断定的に否定するあたりは大いに気になるところ。そして挙げ句の果てに、セツの夫の遺影の中から、もうひとつ「銀のロケット(中には女性の写真)」が発見されるとあっては、視聴者の頭の中には「まさか檀はセツによって……!?」なんて想像もうずまく。このあたりの、説明しすぎない品のいいサスペンス感は相変わらずお見事である。(桜川正太)

第10週(2007年9月3〜7日放送)

☆☆★
 迫田(片岡弘貴)がらみの盛り上がりはもうしばらくおあずけのまま、とりあえずお話を盛り上げるのは玖未(上野なつひ)の妊娠関連話。その妊娠の事実はもちろん、その父親が玻留(倉貫匡弘)だということも、奥寺(黒田アーサー)にだけはバレないようにしようとする修子(国分佐智子)や槙(高杉瑞穂)だが、このところいろんな意味で便利使いキャラになってる感じの梅原(五代高之)の暗躍もあって、あっという間にすべての情報は奥寺の知るところに。修子に頼まれた槙の手引きで逃亡した玻留なれど、またしても梅原のリークによって居場所を知られ、奥寺から鞭打ちの刑に処される!セツ(剣幸)が言及していたように、むしろその事実を修子との関係強化のために積極的に利用すればいいものを、そうはできないのは一人娘への溺愛ゆえということか。しかし身内への溺愛なら修子だって負けてはおらず、玻留を傷つけたのが奥寺だと知るや、まったく同じように奥寺に鞭を!いかにも扇情的な深紅のドレスを纏った修子が、奥寺に馬乗りになって手錠をかけ、鞭を振るうあたりのエロティックさはまたしても眼福なことこの上ない。それまで奥寺がさんざん自分の優位性を吹いていたが故に「修子さん、こんなことして大丈夫?」と思ったりもしたが、ベッドの上で鞭打たれたなんて奥寺的には恥ずかしくて誰にも言えないから無問題ということなんでしょうね。それにしても、このシーンのような妖しさ、不敵さと、その直後に槙の前で玻留との思い出を語るシーンのような儚さ、か弱さを行き来する修子の美しさたるや。繰り返しになるかもしれないが、この修子というキャラクターの振り幅をこれほど自然に作り出せたことは、この作品の数多い成功点のひとつだろう。
 一方ホテルでは、絹子への不審を覚えた杉浦(佐々木勝彦)が、それまでの寡黙な支配人という顔を捨ててその正体を探る。杉浦にしてもその妻・栄子(増子倭文江)にしても、これまでかなり節度のある人物に描かれていたことを思えば、いきなり絹子の部屋を家捜ししてしまう暴挙にはちょっと首を傾げてしまったが、ともあれそれで絹子の本当の身分が明らかに。小説家としてはオーバースペックだったナイスバディの謎がこれでついに解ける!?果たしてその正体は……警視庁捜査一課の刑事!って、スーツ姿に変身したことによって、そのトゥーマッチなナイスバディの違和感がむしろさらに際だっているような。まあそんなことはいいとして気になるのは、絹子がずっと調べていたらしい8年前の殺人事件が、それだけの時間と経費を使って潜入捜査するほどの重大事件にはちょっと思えないこと。そのあたりの説明はこれからなされるのだろうか、それともそういうことは気にすべきではないのだろうか?そして次週、絹子に促された迫田によって、ついに迫田を突き落とした犯人が明らかに……?いや、またしても例によって焦らされてしまいそうな予感もしますが。
 そういえば週またぎのネタとしてもうひとつ残されたのが、自分の居場所をチクった槙への復讐を企てているらしい玻留の動向なのだが、先述のように実際の“裏切り者"は梅原で、要するに単なる玻留の思いこみ。やむを得ない理由があったというよりは、玻留が自発的にオレオレ詐欺に引っかかったような感じだったあのシーンをつぶさに見た身としては、こちらのネタにはどうも没入できない気がしなくもない。(桜川正太)

第9週(2007年8月27〜31日放送)

☆☆★ 
 修子(国分佐智子)を利用して奥寺(黒田アーサー)の会社を乗っ取ろうとするセツ(剣幸)&槙(高杉瑞穂)陣営、同じく修子を利用してセツの島を我が物にしようとする奥寺、そしてその両方を手玉に取っておそらくは共倒れさせようとしている修子と、三つ巴の状況を呈する中、槙は修子を「敵でありながら護る」存在に。修子のためならどんなひどいことでもすると表明する一方で、百合のにおいに欲情して(?)修子にキスしてしまったりするあたりの、愛憎半ばする描写は相変わらず絶妙である。
 そんな中、意識は取り戻したが言葉は話せない状態の迫田(片岡弘貴)を手元に引き取ったセツ&慎陣営が戦況を一歩リードし、油断できない身の上になった修子も再び島にとどまり続けることに。ここへ来てその食えない女ぶりを遺憾なく発揮し始めたセツであるが故に、静江(沖直未)が暴露する、かつて静江の恋人を奪ったやり口もむべなるかなといった感じ。その方法が修子が夫に接近した(と噂されていた)やり方と同じだったりするあたり、意外にも修子とセツは似たもの同士だった?まあ、前クールの『孤独の賭け』でも、長谷川京子さんがまったく同じやり方で伊藤英明に近づいてたような気がしますが。
 一方、迫田の存在を理生(肘井美佳)から聞いてやってきた玻留(倉貫匡弘)は迫田が芝居をしているのではないかと疑い、化けの皮をはごうとするのだが、水の入ったピッチャーを使うとはまた考えましたね。それで車椅子ごと倒れた迫田に対して玻留はさらに疑惑を深める……のはいいとして、そのシーンでテーブルの上からピッチャーが消えていたのは何か意味があったのだろうか?ともあれいわばワイルドカードである迫田がドラマ的に真価を発揮するのはさらに先延ばしなようで、いやはや、やきもきさせてくれます。
 代わりに伏兵として週またぎネタとなったのは、玖未(上野なつひ)が玻留の子供を妊娠したという告白!玖未がその直前に起こした刃傷沙汰といい、この枠としてはおなじみのネタだけれど、これまでこの上なく上品に進んできたこの作品としてはいささか泥臭いような印象を受けなくもない。妊娠の事実そのものより、修子があまりに深刻な顔で

修子「産んではいけない。あなたの幸せのためにも、その子は産んではいけない。産んではいけない」

と繰り返す言葉の真意が気になるところである。
 それにしても毎回振り返ると非常にいろいろなことが起きているのに、それぞれの要素が無駄なく物語を紡いでいくのには本当に敬服する。加えて今週は、金曜放送分で修子と槙がアトリエで話しているシーンなど印象的な画作りも冴えていて、国分佐知子嬢の美しさとも相まってまことに眼福なドラマであり続けている。(桜川正太)

第8週(2007年8月20〜24日放送)

☆☆★
修子(国分佐智子)「昨日という日はすべて海の向こうに捨ててきた。(中略)なのに誰もが私を、あの島に引き戻そうとする」

 というわけで、迫田(片岡弘貴)に預かった書類を持っているというセツ(剣幸)からの電話をきっかけに、修子は再び島へと舞い戻る。セスナから降り立つ白い服の修子を出迎えるのは、愛を裏切られたという思い故に修子の敵となった慎(高杉瑞穂)。初回での修子初登場シーンと比べて、その服の色だけでなく、二人の関係性も、そして(視聴者にとっての)人物の見え方も全く違うあたりにゾクゾクさせられる。「迫田の書類」を手に入れるために修子が理生(肘井美佳)を利用するあたりも面白いけれど、やがて何かを企んだ様子でセツと奥寺(黒田アーサー)両方にすり寄ってみせる修子の、再びの妖女っぷりがやっぱり一番の見せ場だっただろうか。そして金曜放送分のラストで、迫田が意識を取り戻したという知らせが飛び込んで……と、全体を通しての起伏のなかではどちらかといえば「タメ」の週だったようにも思うが、それでも毎回ある一定のレベルには軽く達しているのが頼もしい。前クールといい今クールといい、見応えあるドラマが重なっている昼1時半の充実っぷりはドラマ界の一筋の希望と言えるのでは。(桜川正太)

第7週(2007年8月13〜17日放送)

☆☆★
 迫田(片岡弘貴)の落下事件を経て、槙(高杉瑞穂)は警察に重要参考人として引っ張られ、そして修子(国分佐智子)はホテルをチェックアウトし玻留(倉貫匡弘)と東京へ。そして数年後……という展開かと思いきやさにあらず、証拠不十分で釈放された槙は、以前見つけた一軒家で暮らす修子の元へすぐに姿を現す。どっちが裏切った、どっちが利用したと激しく口論する二人のぶつかり合いが、やがて乱暴な抱擁に、そして熱烈な接吻に変わり……と、ほんの数シーンで二人を元の鞘に収めてしまうあたりのお手並みがまったくもって鮮やか。展開だけ見ればいささか唐突に思えなくもないのだが、それまでのニュアンスあふれる台詞のやりとりや、美しい画面作り、そして的確な演技などを見せられれば、納得するしかなくなる。ことが終わった後、花の散らばる畳の部屋で眠る美男美女というシーンの、ホテルを舞台にしていたこれまでとはひと味違うウェットなエロティックさも印象に残る。
 夏の間のひとときでいいからこの隠れ家で一緒にいてほしいと槙に頼む修子には、先週のあの圧倒的な妖女の面影はなく、視聴者はまたしても槙とともに彼女を信じてしまうことになる。縁側のある一軒家、風鈴、蚊帳、浴衣などがもたらすノスタルジアも、その甘い気分に拍車をかける。しかし二人きりの甘い生活は長続きせず、アフリカに行っていたという玻留が大量のビンテージワインとともに帰国したのに続いて、奥寺(黒田アーサー)、理生(肘井美佳)、さらに絹子センセイ(高嶺ふぶき)までもがお宅訪問を。結婚しようと口にした槙をまたしても突き放す修子の真意や(二人ともがそれぞれに流す一筋の涙が美しい!)、迫田を落とした真犯人が果たして誰なのかも大いに気になるところだけれど、

修子「私に言わせれば、愛は互いに相手を束縛するものでしかないわ。愛という名の銃を胸につきつけて、あなたのすべてが欲しいと脅すようなもの」

だとか

修子「愛するってね、相手から自由を奪うか、それとも相手の自由になるか。どっちにしろ、お互い自由を束縛することだわ。私は愛なんかに束縛されたくはない」

などと、愛に対してあまりにペシミスティックな修子が救われるのかどうかこそが、後半の一番の見所となりそうだ。ここまででようやく折り返し、さてこのドラマは我々をいったいどこまで連れていってくれるのだろう。(桜川正太)

第6週(2007年8月6〜10日放送)

☆☆☆
 劇中の登場人物のみならず、視聴者相手にさえ「虫も殺さぬ善人」的印象を見事に植え付けていた修子(国分佐智子)の妖婦っぷりが立て続けに明らかに!その美脚をチラリと見せて迫田(片岡弘貴)をベッドに誘い込むその手腕はほんの手始め。セツ(剣幸)が静江(沖直未)からの借金で窮地に追い込まれたのをきっかけに、実は慎(高杉瑞穂)と組んで騙そうとしていたと理生(肘井美佳)が告白すれば、それなら知っていたと平然と言い放つ。まったくもってよくできたサスペンス的展開であるが、修子の快進撃(?)はそれにとどまらない。槙に、夫を殺したのも自分だと明言してしまう!それでも、夫から逃げ出すための翼が欲しかったのだと涙ながらに語る修子の言葉には、慎もろとも見ているこっちもほだされて、木曜放送分ではまたしても、二人の抱擁が織りなすメロドラマに酔わされた。このまま二人は逃避行して、第2部に突入なのか……と一瞬でも思ってしまった自分が見事に作り手に騙されていたことに気づくのは、翌日放送分。迫田が何者かにバルコニーから突き落とされ(きっと誰か落ちるだろうとは思っていたが、やっぱり迫田だったか!)、ドラマは一転してクローズドサークル系ミステリーに!?慎がずっと自室にいたことを知っている視聴者としては、名探偵気取りの奥寺(黒田アーサー)が慎こそ犯人だとして意気揚々と指さすあたりにはどちらかといえばなごんでいたのだけれど、先だって慎が約束の印として修子に渡した、(殺人犯として逃亡中の)兄からもらったロケットがそこで動かぬ証拠としてまさかの登場。支配人・杉浦(佐々木勝彦)とその妻・栄子(増子倭文江)が実は慎の兄に殺された娘の両親だったという隠された事実までもがここで明かされ(今思えば、第1週あたりで栄子が「慎にやめられては困る」的なことを意味深に言っていた!)、唖然としている間に慎は下手人であるという流れに。慎にしてみればそのロケットは修子が持っていたはずで、ということは慎は修子に陥れられたということで、すなわち修子が語っていた「翼への欲求」も実は嘘だったわけで……。
 いやはや、何たる語り口、何たる騙し方!ここまで丁寧に丁寧に積み重ねてきた描写が、一気に太い伏線となって怒濤の如く慎を、そして視聴者を呑み込んだ。そう、「騙し騙され」をドラマとして作るなら、やっぱりこれぐらいのレベルであってほしいもの。まったく期待を裏切らない出来映えに、本当に嬉しくなる。
 それにしても蛇足ながら気になるのは、修子のスカートの中に手を入れた迫田が何かに気づいて固まっていたこと。修子のスカートの下には何か秘密が……?まさか男でしたなんてネタは、この作品に限ってはありえないだろうけど。(桜川正太)

第5週(2007年7月30〜8月3日放送)

☆☆
 ブラジルからやってきた迫田(片岡弘貴)がもたらしたのは、修子(国分佐智子)の夫殺し疑惑の再燃。槙(高杉瑞穂)はその言葉に動揺して修子の過去を聞き出すが、修子が語る「夫との出会い」と迫田が語るそれは大きく異なっていて……という、これまでで一番、「いわゆるサスペンス」的なあらすじを持った週ではあったものの、そのあらすじとは裏腹に視聴者的には今ひとつ盛り上がれない週であったかもしれない。修子が実はいかがわしい店で腰を振っていたのかも、エンジンに細工して夫を殺す工作をしたのかも、と、迫田の言葉によっていろいろと疑惑が噴出するものの、それらの疑惑が今ひとつ形而上的というか、慎や理生(肘井美佳)ら登場人物の誰にとっても深刻なものではない印象なので、視聴者としては身を乗り出せない。修子を真剣に愛し始めたらしい慎にとっては、修子が夫殺しかそうでないかは心情的大問題であろうことはわかるのだけど、たとえ修子が夫殺しだったところで槙の人生までもがマズいことになるようには今のところ思えないわけで(客をテラスから突き落とそうとするほうがよっぽどマズい)。そんなわけで若干食い足りない感じもしたこの週だったが、あくまでこれまでの緻密な展開と比較してというだけの話で、真実を執拗に知ろうとする槙に「修子への本気愛」を感じ取ってしまう理生の焦りなどの描写には、「この作品ならではのサスペンス」がきっちりと存在した。やはりこのドラマ、修子、槙、理生のトライアングルが機能してこそ盛り上がる。(桜川正太)

第4週(2007年7月23〜27日放送)

☆☆★
 水曜放送分までの3回は、まさに「修子(国分佐智子)と慎(高杉瑞穂)のドラマ」。逢瀬を重ねる二人の甘やかさに、よい意味でのメロドラマ的感慨が凝縮されていた。嵐の夜に続く2度目のメイクラブはアトリエのソファの上。ソファの背もたれからはみ出して絡み合う二人の手が、足が、まるでひとつの生き物のようでなんともエロチックである。一方舞台を東京に移しての、下町の一軒家における抱擁は、畳の上に寝そべりながらの安らかな印象のもの。この3回の描写だけで、修子の思いが「激情」から「愛」へと変化しつつあることを、理解させると言うよりは“感じさせる”あたりの見事さには、いつもながら舌を巻く。
 二人が刻一刻と甘い関係を極めるなか、スパイスとなるのは玻留(倉貫匡弘)と理生(肘井美佳)の存在。修子の突然の東京行きをいぶかしんで同行を申し出た玻留に玖未(上野なつひ)をあてがって同行を阻止してしまうあたりには、修子の人間観察の確かさが垣間見える!?そんな玻留のシスコン(死語?)気味の姉弟愛も今後の火種になりそうで気になるけれど、修子との間にあったことをはっきり言わない慎に対して、覚悟していたこととは言えどこか波立つ理生の心情描写の、過不足のまったくない微妙なさじ加減もやはり敬服ものである。
 そんなわけでこの週前半、修子と慎の高まりの前に脇役達はほとんど出番無しだったが、新たな客・迫田(片岡弘貴)が登場したあたりから再び物語は賑やかに。この迫田は修子の亡き夫の顧問弁護士で、偶然を装ってはいるがその来訪に何らかの意図があることは火を見るよりも明らか。修子のブラジルでの過去を知る人物だけに、展開に大きな一石を投じそうで期待大である。一方、理生との婚姻届への署名をセツ(剣幸)に迫られた奥寺(黒田アーサー)は、何を血迷ったか修子に無理やりキス!奥寺の小物っぷり全開という感じで、ぱっと見は週またぎに持ってくるような衝撃的展開には思えないのだが、迫田が「修子=ヴァンピーロ説」に改めて言及する一方で描写されると何やら意味深なものに……?とりあえずこれが奥寺の死亡フラグでないことを祈っておきましょうか。(桜川正太)

第3週(2007年7月16〜20日放送)

☆☆★
 夫殺しを噂された修子(国分佐智子)の他人を信じられない悲しみは、兄が殺人犯であるが故に肩身の狭い思いをし続けてきた槙(高杉瑞穂)への共感へと変わる。槙が噂の出所だと知った玻留(倉貫匡弘)から鉄パイプで殴られたことはむしろ槙にとってはラッキーで、負傷と引き替えに修子にキスする機会を得ることに。槙はその勢いのままに玻留にまでキス!?ってそれは酔って風呂でおぼれかけた玻留への人工呼吸だけど、ともあれこれで槙は玻留の命の恩人と言うことにもなって、ますます修子の槙への信頼は増す。さらにかつて修子が鳥かごから放したプレゼントの小鳥までもが槙に味方をして(さすがにあれは仕込みじゃないですよね?)、槙と修子はついに、嵐の夜にベッドイン。その最中に真珠の首飾りが弾け飛ぶなんて趣向はちょっぴりベタながらも、美しいベッドシーンであった。翌朝のピロートークで槙と修子が互いをイカロスの翼になぞらえるあたりでは、視聴者的には「でもイカロスの翼って最後にばらばらになっちゃったんですよね?」とつっこみたくなるのだが、そんな形で二人の今後を予感させるあたりは脚本の上手さと言うべきか。そして今週一番の圧巻は、初めて黒い服以外を身につけた修子の、神々しいまでの美しさ!ドラマの中の登場人物とともに、唖然として修子を見つめてしまった視聴者、少なくないのではなかろうか。3週目でちょっと画面に閉塞感が出てきたところだっただけに、このビジュアル的クライマックスは大きな衝撃であった。
 さてそんな修子の変化が今週の見どころの筆頭だったとすれば、鼻の差で2位だったのは間違いなく理生(肘井美佳)の心の動き。槙と修子のキスを目撃して動揺するも、

理生「あなたの魂は私が預かっておく。だから、この唇で彼女にキスしてくるといい」

と言って槙を送り出すあたり、穏やかさが身上だった彼女から迫力のようなものが感じられるようになってきた。嵐の中、槙と修子が会っていることを直感し、槙へ電話をかけそうになってやめる……なんて切なさもいい。この存在感、「仕掛ける側の女」としての活躍を今後かなり期待できそうだ。
 そんなメロドラマ的盛り上がりに比べると、セツから島を奪おうとする静江(沖直未)と、セツの株券を手に入れるためそれに協力する奥寺(黒田アーサー)の悪だくみなどは若干こじんまりした印象ではあるけれど、まあそちらが主眼というわけでもないだろうから、バランス的にはこれぐらいでいいのでしょうね。(桜川正太)

第2週(2007年7月9〜13日放送)

☆☆★
 槙(高杉瑞穂)と理生(肘井美佳)の、修子(国分佐智子)からお金を奪うための作戦が始動。修子に自分をぶたせて気に懸けさせるようにしてみたり、わざと邪険にしてみたりした果てに告白するという槙のツンデレ作戦は、最初こそ好調に見えるも、お節介にも鳥かごに鳥を入れてみたりという段階に行くと修子から冷たくあしらわれるように。修子的にもいろいろ葛藤があるらしいが、それをさっ引いても「デレ」の段階に進むのが早すぎるように見えて、どうやら見た目ほどはジゴロタイプじゃないらしい槙である。一方理生は、ためらいつつも、槙にふられた演技を巧みにこなしてみせたり、玻留(倉貫匡弘)とのビリヤード対決で勝利したりと、こちらはこちらで見た目以上に器用なところを垣間見せて面白い。この作戦を遂行するうちに、二人の関係性が変わっていく予兆だろうか。
 二人が計画を進める中、奥寺(黒田アーサー)が修子にご執心のあまり理生への関心を失ったことを知ったセツ(剣幸)は槙の修子接近作戦を後方支援し、静江は奥寺と手を組んで槙の過去をさぐり、奥寺の娘・玖未(上野なつひ)は玻留に誘惑され、そして誰もその作品を知らない小説家の絹子(高嶺ふぶき)は梱包材がわりに入っていたブラジルの新聞を目にしたことから修子に夫の殺人疑惑をかけて……と、登場人物達の関係もいい具合に絡まってきた。何より特筆すべきは主人公の修子で、ひたすら受け身でありながら物語を動かすという難しい役どころであるにも関わらずきっちりとその存在感をアピールして、単なる美しいお人形ではないあたりを随所に感じさせるのが頼もしい。とはいえ、この修子の喪服コスチューム七変化がこの作品の楽しみの一つであるわけことも否定はできないが(国分佐智子さん、美しすぎます!)。個人的には高嶺ふぶきさんの、役どころに対してオーバースペックにも見えるナイスバディっぷりも見逃せないところだったりするけれど。
 ともあれ、決して急がない、見る側に何も無理強いしない、そのくせしっかりと外連味も兼ね備えた、大人向けの娯楽作品である。(桜川正太)

第1週(2007年7月2〜6日放送)

☆☆★
 セスナから降り立つ喪服姿の美しい女、その手には空の鳥かご──。そんなイメージが提示される初回からして、良作の予感がびしばしと伝わってくる。第一週では、この“世界一裕福な未亡人”日ノ原修子(国分佐智子)が孤島のホテルにやってきたことで、若者らしい幸福を願う善男善女であった槙(高杉瑞穂)と理生(肘井美佳)の人生の歯車が狂い始めるまさにその瞬間が丹念に描き込まれていた。前宣伝通り、いつものドロドロ路線とは雰囲気の異なる大人味のサスペンスといった趣だが、その過程で、少女・玖未(上野なつひ)の悲鳴で幕を開ける外連味たっぷりなエピソードをさらりと入れたりするサービス精神旺盛っぷりはさすが。玖未を驚かせた“招かれざる客”は修子の弟・玻留(倉貫匡弘)だったということがやがて判明するのだが、その玻留のある行為が、修子から金を奪うことを槙に決意させるきっかけになるという展開のスムーズさもまったくもってスキがない。ホテルの宿泊客である奥寺(黒田アーサー)や静江(沖直未)、ホテルオーナーのセツ(剣幸)らの金を巡る思惑も修子に今後迫ってくるはずで、ドラマが盛り上がるネタなら事欠かないといったところ。向こう3カ月、楽しませてくれそうだ。それにしても、過去の東海テレビ枠で見覚えのある役者さんがひじょうに多いですね。『麗しき鬼』に続きこの作品も“昼ドラオールスター大集合”ってこと?なんて豪華な!(桜川正太)

金色の翼

フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00
制作:東海テレビ放送、国際放映
プロデューサー:風岡大、浦井孝行、河角直樹
原案:ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』
脚本:金谷祐子
演出:奥村正彦、村松弘之、堀口明洋
音楽:岩本正樹
主題歌:『Bamboleo』mink
出演:日ノ原修子…国分佐智子、吉岡槙…高杉瑞穂、水谷理生…肘井美佳、瀬川玻留…倉貫匡弘、保科絹子…高嶺ふぶき、脇坂静江…沖直未、杉浦敦…佐々木勝彦、杉浦栄子…増子倭文江、奥寺玖未…上野なつひ、石野和之…田中聡元、梅原誠司…五代高之、奥寺麻人…黒田アーサー、行永セツ…剣幸