麗わしき鬼

第13週(2007年6月25〜29日放送)

☆☆☆
 もはや物語的懸案事項は悠子(遠野凪子)と洵子(金子さやか)がいかに許し合うかのみのように思われ、物足りない最終週になるのではないかと不安になっていたのだが、そんな心配は無用のものだった。二人の許し合いはこれまでの通例通り意外にあっさりと行われて、その後洵子が悠子の子供を再び代理出産することを思いつくあたりまではなんとなく予想の範囲内だったのだけれど、そこに「悠子がスキルス性胃ガンで余命4カ月」という要素が加わってくると、俄然ドラマティックになってくる。主人公が死ぬという終わり方は、連続ドラマの終わり方としては最も陳腐なものとして考えられがちだが、常に愛に飢えていたこの悠子というキャラクターがそんな運命に見舞われるという展開はなんとも切なく、そういう意味ではまことにこの作品のラストにふさわしいものだと思われた。
 悠子の病気を知ってますます代理出産にこだわる洵子と悠子の愛に自分が負けたのだと悟った犀一(松田賢二)はやがて物語から退場。代理出産への障害はなくなったように思われたが、自分の余命を知ってしまった悠子は、子供が生まれても自分が死んでしまっているのでは意味がないと、むしろ頑なにその申し出を拒否する。それでも自分のすべてを賭けて悠子を説得しようとする洵子は、これまでで初めて、(ドラマ的な意味でも、キャラクターの迫力という意味でも)悠子と対等に渡り合ったように見えた。やがて悠子の心変わりのキッカケになったのはみちる(内浦純一)を父親として迎えるというアイデア。かくして、50歳にして未だ毎朝テントを張ってるらしいみちるから採取された精子を悠子の卵子に受精させて、それが洵子の子宮の中で育まれることに。みちるが英矢(増沢望)の腹違いの弟、すなわち眉川家の直系であるという事実がここでばっちり活きた。
 そして二ヶ月後、布団に横たわる悠子の横で、悠子の子供をお腹の中に感じながら、洵子は悠子への愛をささやく。その瞬間、居酒屋「鬼」2階の四畳半の部屋が、シルクのシーツの海に変わる!そうして洵子の愛の中で死んでいく悠子の満たされた表情に、一視聴者であるこちらまでもが癒されたような気分になった。さらに数ヶ月後、洵子と悠子の愛の結晶にして眉川家の正当な跡取りとして生まれた娘を、洵子、みちる、英矢、啓子(鮎ゆうき)、富弓(川上麻衣子)、太郎(山口翔悟)という血のつながりの有無を超えてつながった家族たちが見守る場面の、なんと美しいことか。トライアングルどころではない、まさに至高の愛がそこに確かに存在した。
 そして三年後のシーンで明らかになったのは、これまでの話は何と、パパになったみちるが三歳の娘に聞かせていたのだという事実!なるほど、だからみちるが語り部だったのか。三歳児相手に話すにはあまりにエグすぎる話だけど、悠子の血を引く娘にはそれぐらい易々と受け入れる度量がすでに垣間見える!?やがて、その娘「ゆうこ」と夕日の中を歩いていくみちるパパ&洵子ママをベンチから見守るのは二体のススキのみみずく、それが夕日にがきらきらと輝いて……って、あまりにベタでやりすぎではないかと思いつつ、手を繋ぐ三人をきっと見たかったであろう悠子のことを思うとやっぱり切なくなってしまうという、まさに作り手の思う壺にはまってしまった(そしてそれが気持ちいい)ラストシーンだった。(桜川正太)

第12週(2007年6月18〜22日放送)

☆☆☆
 洵子(金子さやか)のお腹の子に関する真実がみちる(内浦純一)の口から明かされるその前に、毒の総合商社・磯村麗花(村井美樹)が悠子(遠野凪子)にそれを告げ口してしまい、ついに悠子が鬼になる。まずは、長い間二人の絆の象徴だったみみずくのみみちゃんとずくちゃん(および洵子のぬいぐるみ数体)が絶命。次に犀一(松田賢二)に対して繰り出したのは、ついに来ました食えない食べ物シリーズ!たわしコロッケ、財布ステーキ、ぞうりカツレツに続いたのは携帯電話ケーキ、って何だかさすがにネタ切れっぽい気もしますが、2年連続でそんなものを出されるという難役?をこなした松田賢二氏には拍手を贈りましょう。一方洵子に対しての悠子の攻撃は、黒人の男マック(ショーン・マイケル)との濡れ場を眉川家の応接間で見せつけるというよくわけのわからない方向に。ほとんどまともに描写されることもなく終わったこのシーンは正直、一体何だったの?って感じではあった。この場面に先んじて麗花がその顔をナイフで斬りつけられるという事件があり、犯人は身長180センチぐらいの男という話だったので、てっきり悠子がこの黒人男を差し向けたということか(で、マック・ザ・ナイフってシャレか?)と思いきや、明言はされなかったのもちょっぴり不完全燃焼。太郎(山口翔悟)の言うとおり、どこかの誰かに恨みを買っていたというだけのことかもしれないけれど。
 その後、悠子の院長室襲撃などを経て(非常事態なのにどことなくユーモラスな院長・英矢(増沢望)がいい味)、啓子(鮎ゆうき)から監督不行き届きを責められた富弓(川上麻衣子)が悠子を説得にかかる。

富弓「あんたの愛が負けたのよ」

とのとどめのセリフはなかなかに衝撃的だったも、それで絶望した悠子がついに洵子に包丁を突きつけるとあっては、それ完璧に逆効果ですよ富弓さん!かくして、殺す殺さないのもみ合いの末に悠子と洵子は揃って見事な階段落ちを披露、その結果洵子は流産してしまうことに。
 おそらくは最大の盛り上がりの週であっただろうと思われるも、ドラマ的に盛り上がると言うよりはネタの量で勝負といった感じだったのは少々残念でもあるのだが、悠子(というか、女優・遠野凪子)の迫力はいかんなく発揮されていて、そういう意味では期待通りだった。(桜川正太)

第11週(2007年6月11〜15日放送)

☆☆★
 悠子(遠野凪子)と犀一(松田賢二)の子供を代理出産すると洵子(金子さやか)が決めてからの数回は、周囲を説得する様子や人工授精のプロセスなどが丁寧に描かれて、まるで実録ドラマといった趣き。それはそれで誠実な姿勢ではあるのだが、このドラマに期待する面白さとは若干異なっていたような気がしなくもない。週後半、洵子が犀一とベッドインしてしまい、さらに犀一の子供を妊娠したことから物語は大きく動き始め……ということで、盛り上がりは次週に持ち越しというところ。それにしても、やはり気になるのは磯村麗花(村井美樹)。太郎(山口翔悟)の見合い相手として出てきたときはただの当て馬的キャラかと思われたが、よもやここまで存在感を増すとは。太郎に近づく過程で洵子と犀一の密会を目撃した上ホテルの部屋にしけこむのまで確認しちゃうという、方向性のよく分からない粘着っぷりは“毒の総合商社”という称号にふさわしい!?どうやら第一部・二部における那代子(山下容莉枝)、第三部における溝口(吉満涼太)に続くラスボスは彼女に決定ということのようで。いや、ラスボスは悠子で麗花はそのひとつ前か?(桜川正太)

第10週(2007年6月4〜8日放送)

☆☆★
 魂が高いレベルに達した気がする悠子(遠野凪子)は相変わらず絶好調。洵子(金子さやか)と犀一(松田賢二)をも含めた“美しい愛”なんか提唱するもんだから、却って三人の関係は微妙なものに。ほどなく犀一は悠子と別居を始め、洵子に「愛している」と迫るという展開となるわけだが、ここで「俺達は互いにフリーで出会ったと思えばいい」なんて言い出す犀一の強引さはなかなかのもので、むしろ悠子との似た者夫婦っぷりをアピールした格好だった!?そんな犀一と洵子が、自分が提唱した“美しい愛”は否定したくせに影ではこそこそ会っていたことに激怒した悠子は、レストランで傘投げ攻撃、ボトル投げ攻撃、そして割れたボトルで斬りつけ攻撃(未遂)!このまま姉妹どんぶりドロドロ路線へ突入かと思われるも、引っかき回し型ヒロインにしては内省的な悠子と、引っかき回され型ヒロインにしては陶酔型の洵子は相性ぴったりということで、ほどなく和解。二人の仲の良さを見せつけられてタジタジになっている犀一がなんとも愉快、って、こんなラブコメ調なオチでいいの!?いや、きっといいんでしょう、今のところは。
 その後は洵子の義理の弟・太郎(山口翔悟)のお見合い話などにも寄り道しつつ、気になるのはやはり“トライアングルの愛”を謳歌する悠子、洵子、犀一の姿。洵子と犀一の関係がキスどまりなのはちょっと納得いかないけど、そのあたりは今後のお楽しみってことだろうか。この上なく安定しているように見えた三人だが、子宮は失ったけど子供は欲しい悠子が「代理母」を思いついたことで、何やら不穏な雲行きに。この「代理母」ネタを出すためだけに、自分はあっちのほうでまだ現役だと2回も繰り返す老人を出すあたりの芸の細かさなんかもニヤリとさせられるところ。
 物語的にはいささか小さい話になってきて、そういう意味では多少食い足りない感じもするものの、演技や演出も含めた総合的なところで見るとやはりある種の勢いがあるので、それに呑まれてる気分は全くもって悪くない。それにしても、食べ物が出るときいつもきっちりとその画を抜いてきますね。これはきっと、例のネタへの伏線に違いない。(桜川正太)

第9週(2007年5月28〜6月1日放送)

☆☆★
 予想していたよりは長かった気がする洵子(金子さやか)と水上(唐橋充)の禁じられた愛編だが、悠子(遠野凪子)が本気で始動したとなれば一気にカタがつく方向へ。水上との一騎打ちという様相を呈するも、悠子さん全く負ける気がしません!そんな悠子に向かって“女同士の愛”の行為を「ナメクジみたい」とこき下ろし、ワインまでぶっかけた水上はまあ頑張った方とは言えるのだけれど、その後悠子の恋人・留美(嘉門洋子)が仕掛けた美人局ならぬ美男局にひっかかり、男とベッドにいるところを洵子に目撃されてしまった延長線上でいきなり死亡。やっぱり悠子の敵じゃなかったようです。
 その後、洵子は当然のようにその遠因を作った悠子に一瞬心を閉ざすも、悠子が子宮内膜症を患っていたことをきっかけにそういう感情は案の定あっさりとリセットされて、次なるネタはほとんど巻き添え食って悠子に捨てられた留美の復讐!“女同士の愛の怨み”はとてつもなく激しいらしく、留美は真夜中の病室で悠子の首を絞めるわ、洵子の靴にムカデ入れるわ、あげくの果てに自らのおマタに洵子の顔を押しつけるわのやりたい放題。そんな留美を癒したのは富弓(川上麻衣子)のご祈祷パワー(久々に登場)だった……かと思いきや実は演技で、お祓いのどさくさに乗じて留美は洵子を刺そうとしたというオチだったか(どうでもいいけど、このシチュエーションを含め今週はなんと刃傷沙汰未遂が3回も!)。そんな留美は階段から落ちて怪我したはずが忽然といなくなって、その後「老婆のようになって歩いていた」と風の噂ふうに語られてしまったあたり、やっぱりこれっきりのキャラってことなんでしょうかね。ちょっともったいない。
 途中でほとんど脈絡無く挟まれるゲイバーIKIでのショータイムなどに代表されるように、その場その場を楽しませることにひたすら注力している感じで、ドラマの面白さとしてはいささか邪道な印象が強くなってきたような。それはそれで悪くないのだけれど、その邪道尽くしが一回転して迫力のある王道ドラマとなった「偽りの花園」のあとでは若干物足りなさも覚えるし、裏番組の「暖流」がこれ以上ないくらい正統派な積み上げをしているのを見ると、こちらももう少し積み上がるものがあってもいいような気もする。いやまあ、充分面白いんですけどね。(桜川正太)

第8週(2007年5月21〜25日放送)

☆☆★
 ただでさえキッチュを極める展開も、悠子(遠野凪子)の再登場によりその振り幅はいっそう激しく大きなものになる。物語のドライブ感にゾクゾクとさせた『偽りの花園』よりも、へビー級の掛け合いで随所に笑いを作った『牡丹と薔薇』の方にやはり近いといっそうに思わせた第8週。どちらにしても、悠子の再登場に5週間も待たされなくてよかった!
 洵子(金子さやか)に親子以上の愛を抱く英矢(増沢望)は、洵子と水上(唐橋充)との結婚に断固反対。オナルな水上に洵子をやるぐるらいなら、「親指姫」のモグラにでも嫁入りさせた方がマシ、との英語の構文のような理屈をこねる英矢が力むのなんのって。
 一方、啓子(鮎ゆうき)は英矢の家父長制度そのままの横暴に対抗して、洵子を支援する側に。本当は実子・太郎(山口翔悟)を眉川病院の後釜にすえる画策なのだけれど。かつてのウーマンリブの闘士、別の意味で絶好調です。
 確かに立ち位置があまりにも微妙なゆえに(?!)、はっきりしたことを言うのを差し控えていたみちる(内浦純一)が、かつて関係のあった水上と洵子の結婚に反対するのは当然と言えば当然か。水上に関して「テクニックうまいし、裸にすればいい男」とみちるが語るとさらに生々しいことに。
 第7週のレビューでの予測がズバリ的中!洵子が命を助けた患者・那波(松田賢二)の妻として、タヒチから帰国する形で悠子が早々に戦線復帰してくれた。逆行の光の中から登場する華々しい復活ぶりには思わずニッコリである。実は時子(大沢逸美)と富弓(川上麻衣子)のタッグチームが実父・南崎(菊池隆則)を殺害していた事実を知っても、乱暴者の父親を2人が殺してくれたことにむしろ感謝感激する悠子のハイパーポジティブぶりは普遍のアナーキー。洵子と悠子の呪われた関係性も拡大解釈の達人である悠子によって、この世で類まれな切っても切れない姉妹に昇華される。
 容態が急変した時子の臨終にも悠子は滑り込みセーフ。霊柩車がこれほどまでに悠然と行く画はあまり記憶にない。時子の死は少し早すぎる気もしたけれど、それによって大沢逸美の怪演のインパクトが薄まることはない。今年のオスカーで『リトル・ミス・サンシャイン』のアラン・アーキンが最優秀助演男優賞を獲得できたのならば、大沢逸美だってそれに値するでしょう。できれば、『北条時宗』の時頼(渡辺謙)みたいに、死後もブロンズ状態で出てきていただきたいところ。
 失踪中の悠子の過去も次第にじりじりと判明してくる。中絶手術後に経過が悪く、その挙句子宮ガンを患い、子宮を摘出していた悠子。そのすべては洵子のせいだといったんは責め立てる悠子だったが、その9秒後には広々とした姉の心で洵子を許す。さらにその千里眼によってか、すれ違った程度の水上をおしべ野郎と即断罪。姉として洵子と水上を引き離すべく、洵子のマネージャーへの就任を宣言、ってそんなデタラメな。その役職が機能するかどうかは置いておくとしても、やはり12年の年月は悠子を確実にパワーアップさせている。あらゆるアブノーマルな関係を出し尽くすかのごとく、いまやネイルの先生である悠子は、アシスタントの留美(嘉門洋子)とレズビアンな関係も進行中。まったく復帰早々、超多忙な悠子であった。
 そういえば、またしてもタイトルバックがマイナーチェンジ。このタイトルバックは本編に勝るとも劣らぬほどに鮮烈だ。完全な静止画捌きだったらさらにカッコよかっただろうけれど、ビー玉やサイコロも交えてごちゃごちゃと悪趣味スレスレを行き来してこそ、東海ドラマの昼ドラと一目でわからせるところかもしれない。
 悠子のマンションに通う洵子の姿を見て、『日本列島 だんちでクイズ.』における金子さやかの脱力した司会ぶりをふと思い出す。時々生だったりしたその変則放送ぶりにより、あの番組もまた侮れなかった?!(麻生結一)

第7週(2007年5月14〜18日放送)

☆☆★
 英矢(増沢望)に子種がないことも、富弓(川上麻衣子)が義正(菊池隆則)殺しに関わっていたことも次々に明るみに出て、洵子(金子さやか)もまた、悠子(遠野凪子)が自分の姉であることも含め全てを知ってしまう。第3部終盤の大盛り上がりなのだが、それを巻き起こすキッカケになるのが溝口(吉満涼太)というその場限りな便利使い的キャラであるあたりは第2部とイコールで、ここはちょっと残念だった部分。まあそれにしても、その結果として展開する悠子の事故、中絶、そして失踪という流れはドラマティックで、すでにしてある種のカタルシスがあるのはさすがというべきか。展開そのものというよりは、ひとえに演じる女優の存在感ゆえという解釈もできるけれど。
 そして物語は12年後へ。見違えるようにぱりっとした産婦人科医として登場した29歳の洵子と、眉川病院を自分のものにするという野心を持った色男・水上(唐橋充)との関係がとりあえずのトピック。この水上が実はバイセクシャルで、かつてみちる(内浦純一)の“大勢のアマンの中の一人”だったという設定にはいささか驚いたけれど、果たしてそれが単なるネタ以上の話にまで発展するかは望み薄といった感じもする。縮小版『暖流』といった趣のこの話はまあどう考えても場つなぎでしょうね。水上を「あの男が側に来るだけで嫌悪感でムズムズしてどうにもならなくなる」と言い切る英矢の頑固ジジイバージョン(存在感が鞆泰(津嘉山正種)に酷似してきてる!)はちょっと面白いかな。みちるの女装も明らかにグレードアップしてますね、すでに劇中年齢49歳のはずなのにそうは全く見えないのは女装テクのおかげ!?それにしても、富弓が殺人に関わっていたことがスルーされてしまった感じなのはちょっと引っかかった。すでに時効が成立しているであろうとは言え。
 まあ何はともあれ視聴者としては「早く悠子を出せ!」と言ったところだけど、『偽りの花園』では美琶子またはユリエ(上原さくら)の再登場を約5週も引っ張った中島先生のこと、さてさていつまで焦らされることやら。その『偽り〜』でユリエと結婚してた松田賢二氏が患者・那波役で出てきて思わせぶりに妻のことを語っていたが、これってやっぱりそういうことですかね。(桜川正太)

第6週(2007年5月7〜11日放送)

☆☆★
 みちる(内浦純一)のゲイバーで、銀髪のウィッグをつけて星田(磯崎竜一)を誘惑する悠子なんて場面はほとんど悪ノリの域だとしても、洵子(金子さやか)を思う気持ちが高じて星田に処女を捧げてしまう悠子の激情は文句なくドラマティック。こういう、ネタ的シーンと本気で戦慄させられるようなシーンが見事に一体となっているから、この作品は油断できない。一方そんな形で恋を踏みにじられた洵子は、悠子に対して絶交を言い渡したのみならず、時子(大沢逸美)が悠子の母親だと暴露するという意趣返しに出る!悠子は当然その事実に拒絶反応を示すわけだが、娘たちの愛憎が母親たちにまで波及してきた格好で、話運びにまったく無駄がない。
 しかしこの後、悠子と洵子にしろ、悠子と時子にしろ、意外に早々に和解。予定調和な話は長引かせないというあたりも徹底してる。代わりに浮上したのは、悠子が星田の子供を身ごもってしまったという話!この枠としては定番ネタなれど、その件に関して悠子が

悠子「このお腹の中にいるのは、あんたの赤ちゃんかもしれない。(中略)あたし、あんたのためにこの子を産む」

なんてことを言いだし、洵子もあっさり賛同して、まるで文化祭の出し物でも考えるかのように楽しそうに子供を育てる計画を立てていたりするあたりのズラし加減、そしてズラしてあるからこそ立ち上るリアリティは、やはり独特の輝きを放っている。悠子のお腹に耳を当てる洵子、なんてビジュアルも、ちょっとアブなくてだからこそ美しい。洵子の出生の秘密などが本格的に絡むのは来週以降のようだが、その前段階にしてこれだけ楽しませてくれるのだから脱帽である。(桜川正太)

第5週(2007年4月30〜5月4日放送)

☆☆
 掃除をさぼる男子がホウキで追い回されるという学園物的シチュエーションなら追い回す方は委員長然とした美少女と相場が決まっているものだが、我らが悠子(遠野凪子)はそれをかくも鬼気迫る表情でやってのける!BGMのミスマッチっぷりも可笑しいそんなシーンで幕を開けた今週は、その悠子と洵子(金子さやか)の友情から、二人の母親である富弓(川上麻衣子)と時子(大沢逸美)の話へとスライドし、そして母親と名乗りを上げられない娘・悠子と再会を果たした時子の葛藤へとよどみなく進んでいく。その母心のままに悠子に不審に思われるほどに優しくしてしまうばかりか、それを富弓に咎められるとつい過去の殺人のことまで口にせずにはいられない時子があまりに危なっかしい。その演技は、2週目のレビューでも触れられていたように正統派の昼ドラ的愉悦を与えてくれるものだけれど、第3部に入ってからこれまでのところはドラマとしての展開そのものも、意外に“飛び道具感”の少ない堅実な印象がある。とはいえその意匠は堅実なだけではなく、登場するや“言行不一致”なフェミニズム論で場を持っていく啓子(鮎ゆうき)や、「キス・ミー、キス・ミー・プリーズ」とあまりにそのまんまな英語で洵子にキスを迫る教師・星田(磯崎竜一)なんかの脇キャラが濃いのには相変わらずニヤニヤさせられるわけだけど。さらに、あらすじには絶対登場しないであろう、教室の3バカトリオなんかまできっちりキャラ立ちしてるあたりもいい。大いに楽しませてもらっているのだが、この布陣であればこの程度では終わらないだろうから、点数はあえて辛めにしておこう。(桜川正太)

第4週(2007年4月23〜27日放送)

☆☆★
 物語は11年後となり、高校3年生となった洵子(金子さやか)が登場。そうなると、同様に女子高生姿で登場するはずの「あの人」の登場を今か今かと期待してしまうわけだが、まずは洵子に男として反応してしまう英矢(増沢望)の禁断の欲望ネタや洵子と富弓(川上麻衣子)の再会ネタでソフトランディング。焦らしてくれます。しかしそんな焦らしタイムでさえ楽しませてくれるのがこの作品の愉快なところで、英矢がお見合いした相手・城所啓子役に、『偽りの花園』での怪演があまりに強烈だった鮎ゆうき女史をキャスティングしてくるくすぐり上手加減ったら。この啓子、お堅いインテリかと思いきや、“結婚を前提としないお見合い”を求める“トんでる女”(by鞆泰(津嘉山正種))で、程なく英矢とベッドインし、そう簡単にオーガズムに達しない主義だと大見得を切る(しかもその後にはベッドで「だめぇ〜」の絶叫付き)あたり、まったくもって面白すぎます。
 そして木曜放送分ラストで、ついについに、遠野凪子さん、もとい成長した悠子が、洵子のクラスへの転校生として登場!まったく女子高生とは思えないものすごい目力があまりに強烈。しかも、洵子の学校の制服はブレザーなのに、この日だけは転校生らしくセーラー服を着てくるあたりのサービス精神も旺盛です。当初はガン飛ばしまくりで感じ悪かった悠子も、洵子が持ってきたみみずくの「みみちゃん」を目の当たりにして態度を軟化。過去の思い出を語り合った二人は友情を誓い合うことに……と、それだけなら年頃の娘さん同士の微笑ましいエピソードだけれど、その誓いが鬼子母神像の前で行われるあたりに、そして何より遠野凪子さんの迫力に、すでにただならぬ雰囲気が漂っていて、来週以降への期待は高まる一方である。
 個人的にツボなのは、英矢と啓子の関係が話題に上ったとき、妻・房子(東山明美)はおろか洵子の前でさえ、

鞆泰「お前、(啓子に)タダ乗り決めてんのか」

なんてのたまってはばからない鞆泰の下品なジジイっぷり。その他のツッコミどころとしては、ゲイバーになっちゃった「IKI」で「鬼子母神の子守歌」を朗々と歌ってるSYO-1氏なんて悪ノリもありましたっけ。以前は軽くメイクしてるぐらいの感じだったのに、その女装っぷりがどんどんエスカレートしてるみちる(内浦純一)も、この後どこまで行っちゃうんだか、楽しみなような心配なような。(桜川正太)

第3週(2007年4月16〜20日放送)

☆☆
 英矢(増沢望)が無精子症だということが露見すれば当然洵子(加々美瑠菜)が誰の子だという話になり、やがて富弓(川上麻衣子)は眉川家から追い出され……と、ほとんどのことが起こるべくして起こったといった趣の一週間で、そういう意味では意外性はなかった。那代子(山下容莉枝)がやたらとドラマ的に便利使いされているのもいささか興ざめであったか(最後に病院をクビになってましたが、あれってドラマ的にもお役ご免ってことでしょうか?)。
 とはいえ、登場する人間の人間くささと言うかその描写の分厚さといった部分では、同様のあらすじをたどる凡百の作品を軽々と凌駕する。英矢にしろ、鞆泰(津嘉山正種)にしろ房子(東山明美)にしろ、悠子(伊藤綺夏)を引き取って育てているフキ(千葉裕子)にしろ、優しい部分と残酷な部分をまったく同じキャラクターのままで見せてくれるあたりの視聴者的安心感は、最近のドラマではなかなか得がたいものと言えるだろう。たとえあらすじ的には意外性がなくても、1週間を楽しく見通せるだけの密度の濃さはあるわけで、そういう意味では、まったく侮れないドラマであることには変わりない。(桜川正太)

第2週(2007年4月9〜13日放送)

☆☆
 強姦、妊娠、殺人、逮捕、結婚、懲役、祈祷、出産、6年後に出所、不倫、無精子症。第2週に起こったことを順番に列挙すると、大体こんな感じだろう。悪ノリが過ぎていることは一目瞭然も、この時点ではまだ本当のヒロインである金子さやかも遠野凪子も出てきていない、前奏の段階なのだからいっそう恐ろしい。
 サイドストーリーでちょっと面白かったのは、もはや眉川病院の鬼子母神と崇め奉られる富弓(川上麻衣子)が、調子づいて祈祷師化するお話。おねえなみちる(内浦純一)と保守代表のような房子(東山明美)の意気投合も意表をつかれた。英矢(増沢望)の無精子症を暴くことに執念を燃やす那代子(山下容莉枝)のテーマ曲はどうしてベースラインだけ?
 そんなこんなの悪趣味のテンコ盛りぶりもすべてが確信犯。『牡丹と薔薇』のようにそのノリのままで押し通すのか、『偽りの花園』のようにドラマ的な凄みに転化させていくのか、その回答が見えてくるのはまだまだ果てしなく先のことであろう。
 誰もかしこもがやりたい放題なのとは一線を画して、時子を演じる大沢逸美の怪演ぶりはこの昼ドラ序盤戦の数少ない正統的な見どころになっている。ちょうど時子が自首した回の放送1時間前、『生放送 ふるさと一番!』で名古屋の古着ストリートを紹介するレポーターとして大沢逸美が登場。まさかNHKと東海テレビのコラボってことはないでしょうけれど、その麗わしきギャップには恐れ入った。(麻生結一)

第1週(2007年4月2〜6日放送)

☆☆★
 東海テレビ枠、中島丈博脚本、主演は遠野凪子と金子さやか、そしてタイトルが『麗わしき鬼』!これで期待しない方がどうかしているというものだが、まず第1部は彼女らの母親である富弓(川上麻衣子)と時子(大沢逸美)を中心とした物語。ともに四谷の裏通りにあるスナックで働く高校からの親友同士だが、時子が夫・義正(菊池隆則)の暴力に悩まされる一方で、富弓は大病院の跡取り息子・英矢(増沢望)との玉の輿へと歩を進める、というのがこの週のあらすじ。しかし、そんなあらすじに収まりきらない、細部での面白味がこれでもかと溢れているのが中島脚本の醍醐味で、しかもそれが単なるネタにとどまらず(とどまる場合もあるけれど)、物語世界に厚みを加えているあたりがまさしく職人芸。今作で言うならば、富弓たちが働くスナックのママの息子にして、英矢の腹違いの弟・みちる(内浦純一)の存在がその最たるところとなるか。昨年の『偽りの花園』における直雄(平松ゆたか)あたりも若干ナヨッとした青年であったが、今回はそのものズバリ、女装をたしなむゲイですよ。しかし舞台は昭和47年、『薔薇の葬列』の3年後とあれば、こういう感じもわりとリアルなものだったのかもしれない。それにしたってそのみちるがおねえ言葉でナレーションを担当するという大胆さには唖然としつつ、それも1週見終わった時点ではとアリかなと思えてしまうわけで、慣れって恐ろしい。というか中島先生に許容範囲をこじ開けられている気もしますけど。
 もうひとつニヤリとさせられたのが、『牡丹と薔薇』の挿入歌で名を上げ『偽りの花園』では主題歌担当にまで上り詰めたSHO-1氏が、今作ではまた挿入歌に甘んじているものの、第1回放送でその挿入歌が工藤静香さんの歌う主題歌よりも先に流れてしまうあたり。これはきっと、こちらこそが真の主題歌であるというメッセージでありましょう。とりあえず金曜分ラストで早くもレイプシーンが登場したが、ドラマ自体の激しさもこんなもんで収まるわけはなし、大いに期待しながら拝見させていただこう。(桜川正太)

麗わしき鬼

フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00
制作:東海テレビ放送、泉放送制作
企画:鶴啓二郎
プロデューサー:服部宣之、小池唯一、小松貴生
原作・脚本:中島丈博
演出:皆川智之、島ア敏樹、茂山佳則
音楽:久保田邦夫
音楽制作:住谷敦
主題歌:『雨夜の月に』工藤静香
劇中歌:『鬼子母神の子守唄』SYO-1
出演:眉川洵子…金子さやか、南崎(那波)悠子…遠野凪子、那波犀一…松田賢二、壱岐みちる…内浦純一、眉川房子…東山明美、水上雄一…唐橋充、眉川(城所)啓子…鮎ゆうき、東郷那代子…山下容莉枝、眉川太郎…山口翔悟、壱岐みずえ…清水めぐみ、南崎義正…菊池隆則、溝口増雄…吉満涼太、池沢留美…嘉門洋子、磯村麗花…村井美樹、眉川洵子(幼少時代)…加々美瑠菜、南崎悠子(幼少時代)…伊藤綺夏、南崎フキ…千葉裕子、星田比羅夫…磯崎竜一、萌子…鈴木明日香、黛…平田まり、美里…栗山かほり、のり、市原清彦、七枝実、一柳駒子…一柳みる、泉晶子、宇納佑、香山武郎…堀越大史、樋渡真司、吉本選江、鈴木徳子…美斉津明子、高見奈々子…田島穂奈美、雨音めぐみ、橘舞子、佐藤裕、上杉二美、豊美…森恵子、美佳…澤山薫、遠藤公太朗、三浦圭祐、中野友嗣、佐久間麻由、桜川博子、今吉祥子、きゅうたろう、牧村泉三郎、松田真知子、岩田丸、渥実れい子、葵うらら、星野健司、加藤隼平、針原滋、杵鞭麻衣、勝光徳、上坂都子、藤代三千代、今泉あまね、小杉幸彦、岡崎麗子…はやしだみき、中脇樹人、山田洋、たんぽぽおさむ、芝崎昇、諏訪部仁、神崎舞子、生方ななえ、志甫真弓子、中村恭子、庄司正樹、星彩佳、小林三三男、石橋あゆみ、鯉沼トキ、松阪早苗、美奈、菊地裕子、ショーン・マイケル、関口美保子、菊川浩二、上野太、山崎薫、阪口拓也、仲村辰朗、松下浩、本城憲、土田卓、鎌田秀勝、荒井健太郎、侯偉、石井萌々果、田中輝、花田奈美、今井喜美子、野貴葵、恩田愛、SYO-1、眉川鞆泰…津嘉山正種、眉川英矢…増沢望、中村(南崎)時子…大沢逸美、東野(眉川)富弓…川上麻衣子