セクシーボイスアンドロボ

第11回「ロボ」(2007年6月19日放送)

☆☆☆
 最終回に、初回のゲストであった三日坊主(中村獅童)が再登場するあたりの趣向からして憎いことこの上ないけれど、ニコ(大後寿々花)とロボ(松山ケンイチ)の前に現れた三日坊主の幽霊がロボの考えたいい加減な呪文によって救済され、“本当にやりたかったこと”を思い出すという展開にも感じ入った。やがて三日坊主のことが見えなくなってしまったニコ=“この世のことで忙しい人”も同じロボの呪文で自分を守ることができるも、やっぱり三日坊主の姿は見えないまま。結局そのズレこそが、その後のニコとロボの“喧嘩したわけでもないし引っ越したわけでもない”なんとなくの別離につながったのかと考えると切なくなる。筋道の通った物語というよりはあくまでシーンの際立ちやセリフの含蓄で見せるタイプのドラマであることを考えれば、夜の街角で星空を見上げるロボに(傍目には話しかけることは可能な距離なのに)話しかけられないニコ、という状況の美しさも理解できよう。

「ロボの言うとおり、あたしはずっと自分の味方でいようと思う。なぜなら、あたしを救えるのは、宇宙であたしだけだから」

とは、なんとも美しい幕切れのモノローグである。この作品の複雑なテイストには、視聴者としては当初大いに不安になったり混乱させられたりもしたけれど、最終的にはその圧倒的なリリシズムにいい意味でねじふせられてしまったという印象だった。(桜川正太)

第10回「幸子」(2007年6月12日放送)

☆☆☆
 真境名マキ(浅丘ルリ子)が2億円でニコ(大後寿々花)を買う(正確には養子にする)と言い出すなかなかに衝撃的な冒頭から、マキが置いていった1億円に困惑する林家の人々という展開になるは当然として、その後は金に飽かして水族館まで建てた人気漫画家・信田コーン(篠井英介)が自分の来世はニコの子供(“幸子”)だと信じてニコに50億円を贈ろうとしているという話、そして信田と信田の妻の話、果ては東京大停電……と、まるで連想ゲームでもやっているかのように話の主題が変わっていく。そんな構成は「ZI」のエピソードを彷彿とさせるものであったが、水槽や夜のバスや灯りの付いた窓などの四角く区切られたものがなんだか好きだとか、砂のトンネルを両側から掘って指が触れ合う瞬間が嬉しいとか、灯りがついたらなんだか終わりという感じがするとかいうセリフにちりばめられた叙情感が物語を貫いて、話をひとつの結論に収束させないことでドラマに深みを産み出すという難しいことを今回は見事にやってのけたという印象だった。個人的にはこのエピソードを見たことでようやく「ZI」も理解できた感じがして、もしかしたら第6話は再評価が必要かもしれないとも思える。
 ともあれ、作品の出来映えが充実してきている一方でますます万人受けの難しい方向に行ってる気がしなくもないが、昨今ますます保守化傾向の強いゴールデンのドラマにおいてこういう企画が成り立つこと自体が一縷の希望。視聴率のみが云々されて失敗作とか決め付けられないことを心から願う。(桜川正太)

第9回「プッチーニ後編」(2007年6月5日放送)

☆☆☆
 第2回が初期ならではの勢いに満ちた佳作だったとするならば、今回はドラマ的にある種の高みに到達したという印象の、最終回目前ならではの傑作。ロボ(松山ケンイチ)と昭子(小林聡美)の同棲生活から、プッチーニによる真境名マキ(浅丘ルリ子)の襲撃決行、崎山(鶴田忍)が依頼したプッチーニの「最後の仕事」、かつてマキが裏切った恋人・小野(マイク真木)とマキの結末、そしてニコ(大後寿々花)とロボの関係、ついでにマックスロボの復活(?)まで、ひじょうに多くの要素が見事に渾然一体となって、えもいわれぬ感動を与えてくれた。恋についての話でもあり、死についての話でもあり、正義についての話でもあり、救済についての話でもあり、友情についての話でもあり……とテーマ的にもいい意味でごった煮状態だったわけだが、一口でまとめるならば、中学校の教室のシーンで後ろの壁に貼られていた習字の言葉が適当だろうか。「生きる」。
 ニコがプッチーニに向かって言う「死ぬって言うのは、自分だけがいなくなってそれで終わるわけじゃない」という言葉も(同じテーマでラストを締めくくるナレーションも)良かったが、一番心に残ったのは、冒頭でニコの父・竹男(塚本晋也)が言ったこの一言だったりする。

竹男「神様が願い事叶えてくれるんじゃないんだよ」

 ……と、これはまったくもって個人的な感傷でしかないが、このドラマはおそらく、見た人の数だけそういった「本筋というわけではないけど印象に残る言葉や場面」がある作品だろう。そういう作品は、万人にわかるように懇切丁寧にあらすじを追うタイプの番組に比べると広く支持されにくいものだろうが、そんな難しいことに挑んでくれただけでこのドラマの作り手には拍手を贈りたいし、そして(全てのエピソードにおいてというわけではないにしろ)その挑戦を成功させていることには心から敬服を覚える。(桜川正太)

第8回「プッチーニ前編」(2007年5月29日放送)

☆☆★
 死にゆく人の願いを叶える謎の三人組「プッチーニ」の正体は看護士の昭子(小林聡美)、絵美理(ともさかりえ)、恵(もたいまさこ)って、またすごいゲストが来ましたね、要するに「すいか」そのまんまなわけですが。ほのかに可笑しく、けれどどこか疲れた表情のこの三人の存在感のあまりの絶妙さに、当初はまるでプッチーニが主役でロボ(松山ケンイチ)とニコ(大後寿々花)こそがゲストのような気さえしてしまうも、ロボが昭子に恋してニコのもとから去るという衝撃的なラストシーンにそんな考えはすっかり改まる。そうか、前半でロボが携帯を落ち葉の中に隠すというシチュエーションは、これまでずっと携帯でつながっていたニコとの別れの予兆だったわけか。ちなみにどうでもいい話ではあるが、ニコの母(片桐はいり)は、お葬式のシーンでプッチーニと同席するも絡まず。これはちょっと残念だった!?
 ともあれ物語的には、ロボの恋の行方、残されたニコのショックと共にこのプッチーニが真境名マキ(浅丘ルリ子)の命を狙っているという話が後編への引っ張りになっていて、それはもちろんとても気になるのだけれど、やっぱり今回も枝葉末節の部分にはっとさせられること多し。

ロボ「ふーん、そうなのか。二人でいるってことは、いつまでも夕焼けの中にいるみたいなものなんだ」

なんてセリフはまさに真骨頂といったところ。ひいお爺さんがかつて好きだったらしい“玉枝”に勘違いされたニコが、

ニコ「あたし、逃げるから。逃げるからね!」

と走り去ることでひいお爺さんの最後の願いが成就するあたりの皮肉な切なさもいい。第6回のレビューでは少々厳しいことも書いたが、今回のエピソードを見ると、これこそが「セクシーボイスアンドロボ」なのだというものを、作り手は実はちゃんとわかっていたのだろうと思える。(桜川正太)

第6回「ZI」(2007年5月15日放送)

☆☆
 標的だった男と二人して“家族にハマって”しまい、明日は殺そうと思いつつその男や子供と暮らし続ける殺し屋ZI(りょう)の物語は、そこだけ抜き出せば文句なく切ないし、いいドラマになりそうに思われる。しかし実際はと言えば、あまりにも唐突に銃撃戦に巻き込まれたりする構成がどうにもしっくり来ず、設定のポテンシャルが活かされていない印象だった。後半、韓流スターファンのおばさま方と人文字の「サヨナラ」を作るなんて部分はもはや完全に別の話。必要があったのかすらよくわからないし、おばさま方をある意味騙して参加させていたような描写があったのもちょっと引っかかった。「家族」に関する含蓄は相変わらずしんみりさせてくれるし、その他にじんわりと良い部分も多いのだけど、トータルとしての出来映えという意味では方向性を失ってしまったような印象を受けてしまう。(桜川正太)

第5回「うしみつ様」(2007年5月8日放送)

☆☆★
 予告でニコ(大後寿々花)とロボ(松山ケンイチ)がそろって高校の制服を着ているのを見て、「野ブタをプロデュース。」のバージョン違いみたいで大いに可笑しかったのだが、話自体も「野ブタを〜」でやってた野ブタ人形エピソードのバージョン違いみたいな感じだったのでちょっとびっくり。木皿泉氏のセルフパロディかと思ったら、脚本家は違う方でしたか、ってことはむしろオマージュって方向だろうか。ともあれ奇妙なことが次々起こる高校で潜入捜査と相成ったニコとロボ、そこに一海(村川絵梨)が教育実習にやってきてなんていう箸休めも悪くはないが、黒幕女子高生軍団との緊張感が高まる様子をもう少し丁寧に描いてもよかったような。とはいえニコの特殊技能がフル活用されたのに加え、今回はロボもオタクらしい(?)ある種の大胆さを最大限に発揮してかっこよかったし、設定のポテンシャルが活かされた楽しいエピソードであった。(桜川正太)

第4回「かんにん袋」(2007年5月1日放送)

☆☆
 「おしどり喫茶」が「おしり喫茶」に、なんてあたりからして確かに面白いんだけど、やっぱりメインどころの話がピリリとしきれない。最後に真境名マキ(浅丘ルリ子)が語る人生訓めいたものと、それに対応するニコ(大後寿々花)のモノローグなんかは、これまた相変わらず、悪くないのだが……。画面の後ろにいるエキストラ的な方々がやたらと動いてるような小ネタだらけの演出が悪いとは言わないが、そこに手間をかけているせいで肝心の主役達の見せ方が「勢いだけ」になってしまっているようにも見えて、かくも普遍性のある教訓を内包する脚本ならば、奇をてらわない実直な作り方のほうがぴったり来ると思うのだけれど。(桜川正太)

第3回「お歯黒女」(2007年4月24日放送)

☆☆★
 人をさらって養分にする恐怖の「お歯黒女」の正体が実は……というメインどころの話については、いまひとつ釈然としない部分もあってバッチリ決まったとは言い難いところ。それでも、しいたけバズーカなんてお遊びは可笑しいし、父親の給与明細、札束、人生ゲーム、乾電池といったアイテムの選び方も上手い。良い部分はたくさんあるのにそれが渾然一体となりきれないエピソードだったという意味では初回に似ていたかもしれない。それでも、

真境名マキ(浅丘ルリ子)「自分のやりたいことをやるのが、自分らしく生きるってことだと思ってるんだ。(中略)気の進まないことでも、押しつけられたことでも、自分のやり方でやり通す。それが自分らしく生きるってこと」

だとか、

ニコ(大後寿々花)「ありがとうと、お金と、両方もらえるんだ」真境名マキ「そう。それが仕事」

などという台詞に代表される含蓄は素晴らしいし、すべてが「ありがとう」という言葉に集束してゆくラストもあまりに心地よく、やはり捨てがたいドラマという印象をキープし続けている。(桜川正太)

第2回「ごぼ蔵」(2007年4月17日放送)

☆☆☆
 強盗の後藤、あるいはごぼ蔵(村上淳)が、恋人と思しき“すずちゃん”に会うためだという旅に付き合うことになるロボ(松山ケンイチ)とニコ(大後寿々花)の珍道中は、桜あり、富士山あり、コスプレあり、そしてフランスパンの仏像ありで、1話めに乗り切れなかった分を補って余りある出来映え。初回ではその使われ方に不完全燃焼感のあったニコの“七色の声”も今回はいい感じで物語にオチをつけてくれたし、ラストのナレーションも美しく決まった。メインの筋以外でも、ごぼ蔵が行った先にいた夫婦(中根徹、蜷川みほ)が二人きりの時に交わす会話だったり、“2億円の仏像”を真境名マキ(浅丘ルリ子)に依頼していた老人(今福將雄)が言う言葉だったり、前夜の合コンでは運命の人に出会えなかったらしい一海(村川絵梨)とニコが交わすやりとりだったりと、短くて何気ないがはっとさせられる台詞があちこちにちりばめられているあたりもいい。
 何より、「カラーボールを髪につけた男がバイクで美容室に飛び込んでくる」というシチュエーションのみを原作から借りてきてこの話ですもん、脚色の鑑と言わせていただきましょう。ということで得点の方は、いきなりの2段階アップ。というか先週が少し辛口すぎたかも知れませんね。(桜川正太)

第1回「三日坊主」(2007年4月10日放送)

☆☆
 新枠で黒田硫黄原作コミックをドラマ化という渋すぎるチョイス、しかも主演二人の連ドラ的実績はゼロというあたりの冒険っぷりには心からエールを贈りつつ、果たしてそれが作品的に吉と出るか凶と出るかはまた別問題。この第1回だけを見れば、期待できる部分は多分にありつつも、いろいろな意味で手探り中というところであったか。冒頭のナレーションのように「スパイもの」的売り方をするのであれば、ニコ(大後寿々花)の「セクシーボイス」の見せ方などはもっとあざとくやってしまってもいいような気がするのだが。前情報なしで見た人にとっては、ニコが「七色の声で話す」という特技を持っているということさえわかりづらいレベルだったように思える(ナレーションですでに説明しているとは言え)。そのナレーションがシャアの声で有名な池田秀一氏だったり、やはり有名声優である方が役者として登場していたりする「オタク的目線」は盤石だし、脚本の良さも演出的な面白味もあるのだけれど、現状ではそのどれもが枝葉末節に留まっていて、作品全体を高めるまでには至っていない印象がある。個人的には成功して欲しい作品であるので、こんな評価で終わらないことを心から願う。(桜川正太)

セクシーボイスアンドロボ

日本テレビ系火曜22:00〜22:54
製作著作:日本テレビ
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
プロデューサー:河野英裕、小泉守、下山潤
原作:『セクシーボイスアンドロボ』黒田硫黄
脚本:木皿泉(1、2、3、6、8、9、10、11)、山岡真介(4)、根本ノンジ(5)
演出:佐藤東弥(1、2、6、8、9、11)、池田健司(3、5、10)、石尾純(4)
音楽:中塚武
主題歌:『ひとつだけ』みつき
オープニングナレーション:池田秀一
出演:ロボ(須藤威一郎)…松山ケンイチ、ニコ(林二湖)…大後寿々花、林一海…村川絵梨、林竹男…塚本晋也、林雪江…片桐はいり、名梨秀吉…岡田義徳、梶原ひかり、真境名マキ…浅丘ルリ子、【以下ゲスト:第1回】北見敏之、三日坊主…中村獅童、【第2回】六角精児、中根徹、今福將雄、蜷川みほ、ごぼ蔵…村上淳、【第3回】赤星昇一郎、六角精児、中村靖日、お歯黒女…香椎由宇、【第4回】春海四方、谷本一、半海一晃、峯村リエ、伊藤正之、かんにん袋…市川実和子、【第5回】仲里依紗、木南晴夏、高瀬友規奈、ホラン千秋、黒川智花、【第6回】白石加代子、鶴田さやか、小木茂光、ZI…りょう、【第8回】庄司永建、プッチーニ・絵美理…ともさかりえ、プッチーニ・恵…もたいまさこ、プッチーニ・昭子…小林聡美、【第9回】鶴田忍、小野一朗…マイク眞木、プッチーニ・絵美理…ともさかりえ、プッチーニ・恵…もたいまさこ、プッチーニ・昭子…小林聡美、【第10回】六角精児、澤田育子、絵沢萠子、信田コーン…篠井英介、【第11回】北見敏之、三日坊主…中村獅童