わたしたちの教科書

第11回(2007年6月21日放送)

☆☆
 コンスタントに加地(伊藤淳史)のスタンスがフラフラだったり、いじめがあることを認めてほしいと副校長・雨木(風吹ジュン)に直談判する先生たちの改心ぶりがきれいごとに過ぎたりと、リアルに欠ける部分が多発するのはこれまで通りなのだれど、徹底した扇動的な見せ方はそれなりのまとまりを示していた。
 法廷での不完全燃焼な対決の後、弁護士としてではなく、明日香(志田未来)の一母親として積木珠子(菅野美穂)が雨木に対峙する場面は、真実であった明日香と雨木との交流ばかりでなく、あやふやだった明日香のパーソナリティも浮き彫りして、ここまでの最良のシーンになっていた。いじめを公表すべきか否かの雨木のジレンマが息子・音也(五十嵐隼士)の過去に起因するものだという真相も理解できるところではあったが、そんな音也が猟奇的に振舞う様は常にわかりやすさの極み。それまでの雰囲気は台無しになるも、そうすることが狙いのドラマだとするなれば見事に当たっているといえなくもないか。
 様々に焼却処分した兼良陸(冨浦智嗣)が、雨木の手紙に限って埋め立て処分にしていたご都合主義はまだ許容できるとしても、生徒を法廷に立たせないという積木珠子のポリシーが仁科朋美(谷村美月)の出現でいとも簡単に覆されるあたりはあまりにもいい加減だ。一言で言ってしまうと、実に不思議なドラマである。(麻生結一)

第10回(2007年6月14日放送)

☆★
 何ともとっ散らかったドラマである。教育問題を取り上げようとしているのかと思いきや、早々犯人探しの『ライアーゲーム』風になり、さらには裁判物の装丁まで設えて、ここまではごった煮スープの趣。今回はといえば誠実な教師像も合わせ技で描かれていて、それはそれで見進めるのに苦労はないのだけれど、肝心要であるはずの見る側の心を揺さぶるまでにはいたっていない。
 ポーこと山田加寿子(鈴木かすみ)が転校するにいたったいきさつを加地(伊藤淳史)が語ってきかせる場面など雰囲気はあるのだが、そこで語られる言葉はいまさらながらの理想論で、そういうドラマだったのかとちょっと戸惑いをおぼえた。いよいよ雨木(風吹ジュン)とその息子・音也(五十嵐隼人)の話がクローズアップされるようだが、ご多分に漏れず随分と大仰だ。もともと大仰なドラマなので、いまさらそれを言っても仕方がないのだけれど。
 いじめの主犯格だった兼良(冨浦智嗣)が今度はいじめられる側になってしまう闇深さにはやるせない気持ちになるも、それにしても彼のボーイソプラノはすごい!(麻生結一)

第9回(2007年6月7日放送)

☆★
 このドラマは裁判の方が向いていると第8回時には思ったけれど、早々前言撤回せざるを得なかった第9回。ジョーカーが熊沢(佐藤二朗)だったという一連はいかにもというあざとさが気になったし(大体、ジョーカーなる呼び名が『ライアーゲーム』そのものである)、熊沢とその娘・桜(波瑠)の関係性も唐突で、醸成しきれていたとは言いがたい。もちろん、この近距離な伏線こそがテクニックであると言われてしまえばそれまでだが。
 加地(伊藤淳史)と大城(真木よう子)の話をこっそり聞いていたりする戸板(大倉孝二)は、もはや珠子(菅野美穂)の忍びの者。物語を紡ぐ際にこれほど便利な手段もないだろう。珠子が困ったときには戸板が忍び的に活躍すればいいわけである。珠子とポーこと山田加寿子(鈴木かすみ)の真摯な交流が、ドラマの初心を思い出させてくれる数少ない救い。(麻生結一)

第8回(2007年5月31日放送)

☆☆
 日本の裁判制度はそれほどに時間を要するということか、明日香(志田未来)の自殺から1年後の設定。こういう描き方では教育の何たるかには迫れるはずがないも、犯人探しに焦点があるとすればそれはそれで間違っていないのかもしれない。
 いよいよ裁判がはじまって、いきなりに「リストラゲーム」なんて言われるじゃないかと心配したが、さすがにそこまで中身を抜いてくることはなかったのは朗報。明日香の元担任・亜紀子(市川実和子)の伸びきった証言はいくらなんでもリアリティに欠けている。あの資質では1日たりとも教師は務まらないだろう。ただ、存分にヒヤヒヤはさせてくれたのだから、当初のサスペンス的目的は達成されていたと言うべきか。
 序盤から加地(伊藤淳史)に絡んでいたポーこと山田加寿子(鈴木かすみ)は単なるサブキャラクターかと思っていたが、実はそこにもいじめが存在した形で本編に交わってきたのはいい意味で予想外だった。このドラマは裁判話に徹した方がフィットするのかもしれない。(麻生結一)

第7回(2007年5月24日放送)

☆★
 新キャラクターとして明日香(志田未来)の元担任・三澤(市川実和子)が登場。ユルとワルが融合したような三澤の性格設定はこのドラマの常のようにやりすぎるほどにわかりやすいが、そうしておいた方が裁判がはじまった際にハラハラさせられて有用であろうことは予想がつく。
 第5話でクローズアップされた剣道部・兼良(冨浦智嗣)がいじめの首謀者であることも判明して、いよいよ裁判編へ移行する模様。そのボーイソプラノは悪の化身の証明だったか。ちょっとためになったのは、珠子(菅野美穂)が締めくくりに読み上げる裁判所に提出される訴状の内容。シナリオのページも確実に稼げたはず。(麻生結一)

第6回(2007年5月17日放送)

☆★
 いじめの実態調査に乗り出す副校長の雨木(風吹ジュン)といい、加地(伊藤淳史)に急激に好意を寄せてきた同僚の大城(真木よう子)といい、はたまた出入り業者から袖の下を受け取っていた戸板(大倉孝二)が弁護士・積木珠子(菅野美穂)に接触する締めくくりといい、誰も彼もにうさんくささを臭わせるあたり、いったいどこを目指しているドラマなのかがますますわからなくなる。
積木珠子の先輩弁護士・瀬里直之(谷原章介)が別れ話と解雇話を一緒くたにするエピソードは、裁判物としての大前提なのだろうか? じゃなかったら、いらないだろうし。物語としての謎以上に、ドラマのあり方としての謎は深まるばかりである。だれそれが怪しくて、それもすでにお見通しであるところまでも懇切丁寧に教えてくれる『ライアーゲーム』に比べるならば、よりサスペンスフルと言えるのかもしれないが、キャラクターの描きこみ以上にそれが大切なことなのかももはやよくわからない。ここまで謎だらけだと、別の意味で見届ける楽しみも生まれたりして。(麻生結一)

第5回(2007年5月10日放送)

☆★
 学校版『ライアーゲーム』の様相はいっそう強まる。うさんくさい登場人物にもまれてあたふたとし続けるしかない加地(伊藤淳史)は、せっかく見つけたいじめの物的証拠である明日香(志田未来)の所持品を、またまた雨木副校長(風吹ジュン)に返却してしまう。その雨木の息子はどうやら刑務所に入っている模様。このエピソードをオンにする必要があるのかどうかは、もう数話見ればわかるのだろう。終いに「少数決」とか言われそうでちょっと怖い……。
 中では、弁護士・積木珠子(菅野美穂)と明日香いじめの全貌を語ろうとした仁科朋美(谷村美月)の問答がかろうじて興味をさそった。剣道部・兼良(冨浦智嗣)のストーカー疑惑は、このドラマらしく極端の類型につき、ピンとこない。明日香の所持品をいったん落としたのも意味があったんだろうか?(麻生結一)

第4回(2007年5月3日放送)

☆★
 物語が学校の問題からは程遠くなってきているのは、案の定といえば案の定である。若年性の認知症であることが判明する明日香(志田未来)の父・謙太郎(河原雅彦)に、弁護士・積木珠子(菅野美穂)が何とか裁判の原告をやらせようと必死になればなるほど、ドラマのフォーカスはますますズレていくばかり。キャバクラでも大活躍の吉越(酒井若菜)が生徒の名前の読み間違えに気がついて教師的改心するエピソードの安易さには、もはやあきれるしかない。
 扇動に徹するテイストが『ライアーゲーム』に似ているように感じる。もちろん、新枠のあちらは基本がゲームなのだからそれでいいのかもしれないが、教育問題をサスペンスフルにのみさばくのはあまりにも見識がなさ過ぎる。最初からそのあたりをのみ意図されていたとするならば、まんまとだまされていたことになるのだが、視聴者をだますのは『ライアーゲーム』の方に一括していただきたかったというのが正直なところ。(麻生結一)

第3回(2007年4月26日放送)

☆☆
 明日香(志田未来)と二人でプリクラに写っていた仁科朋美(谷村美月)の告白により、弁護士・積木珠子(菅野美穂)は明日香が学校でいじめられた事実にまで何とか行き着く。明日香の死の究明に割って入ってくるサイドのエピソードはいずれもがセンセーショナルでひたすらに暗いので、見進めるのがいっそうつらくなってくる。
 実は理科の教師であった(?!)加地(伊藤淳史)の授業中に、英語の受験勉強をしていた山藤拓巳(登野城佑真)のキャラクターなどはその典型。熱血教師然とした加地の熱意にいったんはほだされたポーズを見せたかと思いきや、地方出身らしい社会科の大城早紀(真木よう子)の中傷ビラをご丁寧にも作成していたりする行為で、ドラマの陰湿はさらに深まる。確かに山藤の母親(栗田よう子)のような不条理な父兄は多そうだけれど、そこにまさに身勝手の好例である給食費未払い問題までをも突っ込まれると、逆にリアリティを損ねかねない。
 積木珠子が仁科朋美と接触した最初は、ラフマニノフの書籍を介してだった。ドラマのラフマニノフづくしが仮に本筋とかかわってくるとするとちょっと面白い。期待を裏切ってほしくない。(麻生結一)

第2回(2007年4月19日放送)

☆☆
 早速に明日香(志田未来)の死が究明されるのかと思いきや、弁護士・積木珠子(菅野美穂)によって明日香との関係が語られ、いったん話は過去にそらされる。ここで明日香は珠子の本当の子供ではなく、3ヶ月しか一緒に生活したことのない結婚相手の連れ子だったことが判明した。なるほど、これで年齢的に合点がいく。
 よみがえってきた自責の念によって、珠子は明日香の死をうやむやにしようとする学校側と闘うことを決意。その本気の度合いは珠子の昔話にほだされて、つい心を許してしまった善良の塊・加地(伊藤淳史)が口にした自らの責任についての言葉を録音していた周到ぶりからも見て取れる。
 明日香を児童擁護施設に連れて行った途中に買ってあげたたいやきの話などはそれなりに感動的なのかもしれないが、やはり肝心の学校の話からは後退してしまった印象の第2話だった。ただ、資料保存のための証拠の差し押さえが描かれたことで、第3話への興味はつながった。
 忽然と消えた個人情報が書かれた指導記録を隠していたのが八幡(水嶋ヒロ)だったというサブエピソードは、若い教師の、というよりも、いまどきの若者的行動パターンが垣間見えてちょっと面白かったのだが、ここでクローズアップされた八幡のパーソナリティは今後のストーリーに関わってくるのだろうか。(麻生結一)

第1回(2007年4月12日放送)

☆☆
 臨時教員・加地(伊藤淳史)が担任を務める2年3組の藍沢明日香(志田未来)が、校舎の窓から転落して死亡するという締めくくりはあまりにもセンセーショナル。ここのところ、ドラマ開始から30分たっていたとしても、理解できるような中身のくりぬかれたドラマ作りにある種の職人的な手腕を見せていた坂元裕二脚本作だけに、ここでの真摯なスタンスはどうしたことかと思うも、もしかしたらセンセーショナルこそが身上のドラマかもしれないので、もうしばらく様子を見る必要があるだろう。
 音楽はラフマニノフづくし。テーマの重みを音楽のメローが中和することが出来るか。それにしても、副校長の雨木真澄(風吹ジュン)が明日香の死を告げるシーンに、交響曲第2番第2楽章冒頭はコケた。センスの問題。(麻生結一)

わたしたちの教科書

フジテレビ系木曜22:00〜22:54
制作著作:フジテレビ
プロデュース:鈴木吉弘、菊地裕幸
脚本:坂元裕二
演出:河毛俊作、葉山浩樹、西坂瑞城
音楽:岩代太郎
主題歌:『Water Me』BONNIE PINK
出演:積木珠子…菅野美穂、加地耕平…伊藤淳史、大城早紀…真木よう子、吉越希美…酒井若菜、戸板篤彦…大倉孝二、八幡大輔…水嶋ヒロ、熊沢茂市…佐藤二朗、大桑久雄…戸田昌宏、宇田昌史…前川泰之、仁科朋美…谷村美月、兼良陸…冨浦智嗣、山田加寿子…鈴木かすみ、須藤彩佳…柳田衣里佳、山西麻衣…伊藤沙莉、野部千春…山本ひかる、本多雅樹…池田晃信、登野城佑真、洋食屋『ぶらじる』コック…土田アシモ、洋食屋『ぶらじる』おばちゃん…よしのよしこ、原田裕子、瀬里直之…谷原章介、日野圭輔…小市慢太郎、高田聖子、藍沢明日香…志田未来、雨木真澄…風吹ジュン