暖流

第11週(2007年6月25〜29日放送)

☆☆☆
 この春クールで一貫して良心的であり続けた希少な今作は、最終週に至るまでこれまでといっさい変わりないドラマ的節度を保っていたのと同時に、随所に普通のテレビドラマを越えようとする野心も垣間見せたのがとても意外で、それだけにちょっとうれしくなってしまった。日疋(山田純大)と啓子(さとうやすえ)の“きってもきれない兄妹”問題は、吟花(小西美帆)が密かに依頼していたDNA鑑定によって、兄妹でもなんでもなかったことが即判明。ここまで引っ張れるだけ引っ張ってきた重要エピソードをこれほどまでにあっさりと放棄していいものかと最初は思ったが、それこそがこのドラマの節度ある見せ方のようにも思えてくる。そのあたりの粘り腰は東海テレビ枠の昼ドラに任せておけばいいわけだし。ただ、日疋が人(=吟花)の机の封筒の中身を勝手に見るキャラクターにはとても思えない。あっさり捌くにしても、ここはもう少し丁寧に扱ってほしかった。
 ドラマの中盤以降、事実上の主演は小西美帆演じる吟花であった。最終週においても、吟花は志摩総合病院を葬り去った自らの所業、そしてエンパイア総合病院において自らが置かれている立場に苦悶し続ける。その陰影は病院をのっとられ、借金を背負わされようとも、依然としてそれなりに凛とし続けている啓子には微塵もない。それだけ複雑なキャラクターであった吟花の決断にこそ、最後まで興味をそそられた。
 それにしても、摩訶不思議であった二時間サスペンスの如き海辺のラストシーン。ここでエンパイア総合病院を辞めた啓子に残った吟花が対峙する構図に、『麗わしき鬼』との相似を見る。なるほど、この物語は吟花と啓子の愛憎関係が常にその奥底に流れていた。もっと言ってしまうならば、吟花による一方的な愛憎なのだけれど、そこもちょっと『麗わしき鬼』に似てたりして。だったらいっそ、思い切って二人のツーショットで終わってもよかった気がしたが、メロドラマ的要求を考えると日疋が登場しないわけにもいかなかったか。病院の粉飾決算を暴かれた理事長・正岡(松井誠)の処分もその一部始終を描いていなかったただけに、啓子と日疋の恋愛パートぐらいは成就させなければいけなかっただろうけれど、何となくそれが刺身のツマ的に扱われていたのがなかなかユニークだった。
 そんな中でももっとも興味をそそられたのは、絵本作家にして末期がん患者である一条(湯江健幸)の、吟花、および啓子との関わり方だった。第9週から登場した一条は敵対する吟花と啓子のそれぞれとともに心の交流を育んできた。病院に残る吟花にはエンパイア総合病院の出資持分を、借金のある啓子には1億5千万円の小切手を、とは何たる大盤振る舞い。確かにリアルなお話ではないだろうけれど、とりわけ吟花にとっての唯一の精神的拠り所となっていた一条はすでにリアルを超越した存在にも思えたし、だからこそ何もかもを見通している彼の施しはちっとも嫌味に映らない。ここにギリシア悲劇を持ち出すのは大仰かもしれないが、このあまりにもテレビドラマ的でないキャラクターに心引かれて、いくつかのマイナスポイントを差し引いても評価はプラスとなった。(麻生結一)

第10週(2007年6月18〜22日放送)

☆☆★
 今クール随一の物語的充実ぶりを維持してきたこのメロドラマもいよいよ大詰め。最終週を前にして、まだまだドラマ的な余裕があるのは心強い限りだ。ララブラブにすっかりと舞い上がる日疋(山田純大)と啓子(さとうやすえ)のご両人はまさに交際宣言目前。そこに冷水をかけるのは、もちろん啓子の母にしてすっかり庶民派も板についてきた滝子(宮田圭子)の役割である。日疋と啓子が兄妹であると聞かされて、啓子はもちろんトーンダウン。その突然の恋愛的失速が理解できない日疋は当然の如く理由を問いただすも、啓子に嫌いになったと言い放たれてしまう。
 そんな二人の不穏を敏感にかぎつけて、強引に割って入ろうとするのはもちろん吟花(小西美帆)。ところが、これまで隠し持っていた日疋の父親の形見らしい懐中時計を返却しようとしたばっかりに、そこに「志摩泰英」の名前が記されていることが明らかになって、日疋もまた啓子と兄妹であることを察する。裏番組的に言えば(『麗わしき鬼』)、啓子と日疋は“きってもきれない兄妹”であったというのが最終週前週における到達点であった。
 エンパイア総合病院の理事長・正岡(松井誠)が、吟花との口約束であった分院建設なんてまったく考えておらず、ビジネス優先にタワーマンションを建設しようとしている計画も明るみに。ただ、“きってもきれない兄妹”ネタにこれがかなうはずもなく、あまり目立たなかったのは、吟花の境遇にも似て何となく哀れ。
 急患の受付をめぐって、正岡の愛人でもある看護師長・山本(濱田佳菜)の意向を無視して患者を診察した田所(峰岸徹)がその責任をとる形で辞表を叩きつけて、ついにドラマから姿を消す。先週分でも書いたが、やはりこのキャラクターにはいかほどの他意もなく、高潔なままに啓子や日疋の前から去っていった格好である。
 意外だったのは、看護師長に従順と思われた看護主任の水野(長澤奈央)にそれなりにスポットが当たったこと。水野が啓子に看護師としての有り様を相談したことをきっかけとして、啓子は近隣住人に対しての自宅診療を開始。そんな啓子の様を「赤ひげ先生」と命名するのは、滝子ではなく水野。あの若さで「赤ひげ」を即座に連想するとは!もしかすると、江口洋介主演のテレビドラマ版を見ていたのかもしれないが?!(麻生結一)

第9週(2007年6月11〜15日放送)

☆☆☆
 第8週の激流から、物語は再び温々とした暖流へ。あの転覆劇から1年後の設定で、あまりにもおろかなお母様・滝子(宮田圭子)のせいで1億円の借金を背負わされた啓子(さとうやすえ)は当然として、元院長代理の田所(峰岸徹)もエンパイア総合病院に残留したのか。第6週の院内感染問題の際には怪しげな動きも垣間見せて、実はここにも裏があるのかとずっと引っかかっていたのだが、この一大事中に啓子に対してこちょこちょ攻撃を陽気に仕掛けるぐらいだから、田所はかつてのセクハラ患者・大村(ケーシー高峰)と同じほどに無害な人なのだろう。
 日疋(山田純大)は消息不明中もタイトルバックに残り、エンパイア総合病院に残留しなかった笹島(本宮泰風)はタイトルバックからも抹消される。現理事長である正岡(松井誠)の悪人顔に比較するならば、かわいらしくさえ思えていた笹島のわかりやすい悪人風がもう拝めなくなるかと思うと、ちょっとさびしい。
 アメリカで経済学を学んで、1年ぶりに帰国した新副院長・吟花(小西美帆)の振る舞いは、第1週でアメリカから帰国した際の啓子のアメリカ的颯爽にイコール。この大階段おりは啓子の真似をした吟花の意図的な演出であったのだから、吟花の啓子に対する恨みの深さといったら底なしなのだろう。
 とはいえ、根っから悪人ではない吟花は、正岡に約束を取り付けていたはずの分院建設も焦らされて、早々にお飾りとして孤立してしまう。ここで吟花の心を真っ当に引き戻す絵本作家にして、末期がんで余命いくばくもない一条(湯江健幸)の存在が効いている。吟花にばかりでなく、ドラマにも安らぎを与えてくれる。
 吟花は一条の絵本を購入したその帰り、道行く日疋を目撃。またご近所に事務所を開いてましたね。田所曰く、身を隠すに最適な雑居ビルにある事務所だったとしても、弁護士会にでも連絡すればあっという間に消息もわかったかもしれないが、浮世離れしたお嬢様の啓子にはそのアイディアは浮かばなかったということで了解してみることにする。
 エンパイア・ホールディングスのスキャンダルを暴こうと長きにわたって動いていた日疋の企みはあまりにあっけなく断たれるも、暴客に襲われ、傷だらけのままに啓子のアパートに足を向けてしまう日疋の衝動的行動は納得のいくところだった。ただ、いくらスキャンダルの立証に興奮していたとしても、USBフラッシュドライブをいきなり抜いてしまうのは感心できませんねぇ。
 日疋が啓子のアパートを訪れた時、幸運にも滝子(宮田圭子)はアパートの大家(林家ペー)の強引な誘いによって町内会の旅行に出かけて留守。『麗わしき鬼』に登場するいかなるキャラクターであったとすれば、一晩二人きりとなるこんな絶好シチュエーションを見逃すがずがないも、あまりにも慎ましい啓子と日疋は怪我の治療ほどの交流のみ。翌朝、滝子が旅行中の宴会で受けたセクハラ行為に怒って、早めにアパートに帰ってきちゃったものだからさあ大変。あまりにも穏やかな朝食風景が一変、修羅の場と化す。『麗わしき鬼』の錯綜した世界でも、滝子であれば生きていけそう?!
 第9週の結びでは、滝子に責め立てられたラ・メールのママにして、日疋のママでもある幸江(辺見マリ)があっさりと前言撤回。啓子と日疋が異母兄妹であると高らかに宣言して、遅まきながら昼ドラのフルコースを貫徹させる。
 そんなこととは露知らず、日疋は吟花の招きによって、エンパイア総合病院の顧問弁護士に就任。石渡病院の債権者リストに啓子の父・志摩泰英(近藤正臣)の名前がなかったことを日疋から知らされる吟花と、吟花の憎しみの心中をようやく垣間見た啓子の距離感は、日疋を挟んで再びに至近距離に。ドラマのボルテージはいっそうあがっているだけに、昼ドラ的に盛り込みすぎないことを祈るのみである。(麻生結一)

第8週(2007年6月4〜8日放送)

☆☆☆
 暖流は第8週、まさに激流に。これまでのあらゆるエピソードが、志摩総合病院の新たなる門出になるはずだった役員会議に向けて収斂していく様はあまりにもドラマティック。啓子(さとうやすえ)と日疋(山田純大)の恋愛模様がかつてないほどのメロドラマ的盛り上がりを見せたのとは反比例するように、志摩総合病院がこれでもかと崩壊の一途をたどる展開は、帯ドラを追いかける醍醐味を存分に味わせてくれた。物語が前のめりに推進するのに忙しく、減点対象の古風極まりない回想が少なかったのも○である。
 初登場組は、院長候補になる売れっ子脳外科医・藤林(磯部勉)と、第2位の大口出資者となる帝日海上火災の正岡(松井誠)。この二人が西田夫人(美雪花代)にも匹敵する悪人顔であったのは、後々に当然と判明。ここに何かと「お嬢さん」を連発する小早川(中野英雄)と実は企業買収のスペシャリストだった高見沢薫(辻沢響江)が加わって、あまりにもわかりやすい悪の集団が完成する。万全と思われた日疋の仕込みをすべて覆し、エンパイヤ総合病院まで一気にスタートさせた一連の転覆劇は実に鮮やかだった。
 そんな悪の集団から担がれる役員会議の影の主役・吟花(小西美帆)は新理事にまで就任。啓子の念願であった地域医療センターの建設計画を白紙に戻し、石渡病院再建を高らかに宣言して、ついに啓子への復讐を果たす。正岡役の松井誠が『風林火山』で演じる北条氏康は、

氏康「恨みを忘れて己の大望だけを見つめよ」

とのたまわれていたけれども、恨みつらみに誤認情報までもない交ぜに大望を得ようとしている吟花の今後やいかに。
 ここまで啓子と日疋は随所に異母兄妹を匂わせていたように思ったけれど、田所(峰岸徹)によって啓子と日疋の関係を知ったラ・メールのママにして、日疋のママでもある幸江(辺見マリ)がノー・リアクションだったのにはちょっと驚いた。田所は日疋と幸江ママの関係を知らない? 昼ドラのフルコースぶりにちょっと揺らぎが?!
 役員会の大前提、日疋を睡眠薬で眠らせて、出資先に帝日海上火災をと吟花が耳元ささやき作戦ですりこませる手法はかなり古風であった。かつてはテレビドラマでもこの手の黒魔術に時々お目にかかっていたような、いなかったような。最近はすっかりご無沙汰だったこの魔女系限定の演劇的手法。確かにもはや吟花は魔女のようなものだけれど。
 それにしても、株取引で墓穴を掘ったあまりにもおろかなお母様・滝子を演じる宮田圭子が絶品である。このキャラクターの腹立たしさといったらもう。画面に登場するだけでひたすらイライラとさせられる。さすがです。全編を通して蚊帳の外、かつ何一つ得ることが出来なかった笹島は悲劇的状況からも見放されて、単なるピエロ。少なくとも第8週においては、いろんな意味で笹島はあまりにもかわいそうだった。(麻生結一)

第7週(2007年5月28〜6月1日放送)

☆☆★
 少なくともゴールデンタイムのドラマよりは充実している今クールの昼ドラ群でも、話の筋の面白さに限定するならば、このドラマが頭一つ以上抜けていることは確かだ。ただ、補足説明としての効力しか持たない回想が繰り返されるのはどうにもかったるい。そこに効果音つきとは見せ方も古めかしいし。『砂時計』のような回想の積み上げが意味をなすわけではないので、そこでドラマのテンポ感が鈍るのはあまりにももったいない。ただ、かなり盛り上がった先週が物語的ピークかと思われたも、この第7週も負けず劣らず先を読み進める喜びに衰えがみられなかったのは頼もしい限りである。
 吟花(小西美帆)がいかにも怪しげな小早川猛(中野英雄)と高見沢薫(辻沢響江)の口車にのってしまうのも、日疋(山田純大)と啓子(さとうやすえ)のアツアツぶりが引き金に、石渡病院再建のラストチャンスを切望するゆえか。見ず知らずの人から「お嬢さん!」なんて声をかけられたら、通常の心理状態ならば怪しむだろうけれど。
 最大の見せ場は、志摩総合病院を個人病院から医療法人に移行させて、建て直しをはかるために日疋が召集した全体会議の実況中継。この医療法人化計画案にそれぞれがそれぞれの思惑でうごめく人間模様こそが、このドラマの本領中の本領であろう。日疋が振るう大鉈に対しておなじみのヒステリーを起こす滝子(宮田啓子)、仮病的にひき篭もった滝子をむげに出来ず、役員就任を拒む啓子、反旗を翻した部長陣が日疋に返り討ち(=事実上の解雇)にあった様を見て、いったんは改革派の顔を決め込む笹島(本宮泰風)。そんな笹島が吟花経由で笹島並みに悪人顔の西田夫人(美雪花代)とも結託を企てたりと、その仕掛けぶりは程のいい縦横無尽である。
 中でも一番驚いたのは、志摩家のお手伝い・君恵(松村康恵)と高見沢薫が因縁深深しい母娘であったこと。少なからず君恵の手引きがあったように臭わせるが、真綿で首を絞めるかのごとく滝子を借金地獄へと追い込んでいく高見沢薫のアコギに君恵は堪りかねたようでもあり、この新しい関係性もさらに物語的な興味をそそらせる。さらに、日疋が暴漢に襲われるは、志摩家には中傷ビラが貼られるはの選り取り見取りで、次週も楽しみだ。(麻生結一)

第6週(2007年5月21〜25日放送)

☆☆☆
 折り返しの第6週にして、啓子(さとうやすえ)と日疋(山田純大)がついに接近。二人が時計を振る仕草をしながら見つめ合うあたりは誠に微笑ましいシーンなれど、それこそがこれまで表面上は静かだった人間関係を決壊させるきっかけに!酒に酔った笹島(本宮泰風)が医局で啓子を暴行未遂なんてシーンは序の口で、啓子はセクハラ患者・大村(ケーシー高峰)の急変の報によってその場を救われるのだが、その大村の腹痛の原因が大腸菌だったことから、院内感染の疑いが浮上することに。結局はその大腸菌は、胸のストーンがヘビーになってしまった(!?)大村が病院を抜け出して飲み食いしたせいであり院内感染ではなかったことがわかるも、内部告発を受けた保健所が検査に来て、志摩総合病院はさらなる悪評にさらされる。そんな過程ももちろんスリリングだが、その内部告発者が吟花(小西美帆)だったことで、物語はさらなる高みへと。吟花が啓子に

吟花「(啓子は)優しいんじゃなかった。冷淡だって思われるのが嫌で、優しく振る舞ってただけだっけ。だから気付かずに人を傷つけるの」

と言い放つシーンは、来るか来るかと思っていたものが丁度いいタイミングで来るドラマ的愉悦をばっちり与えてくれる。そんな言葉さえ許そうとする啓子の優しさこそがよけい傷つけるのだと決め付ける吟花はもはや坊主憎けりゃ何とやらの世界だが、そんな心情をも納得させてくれるだけの蓄積もここまでにきちんとあった。ああドラマだ!
 やがて吟花は啓子と和解し笑い合うのだが、その直前に吟花の前には、吟花の父に恩があると話す“金得商事”社長の小早川(中野英雄)と高見沢薫(辻沢響江)が現れているわけで、ついに悪の影が吟花にさえ取り憑いたということなのか。遡ると高見沢薫は、金を貸した滝子(宮田圭子)に家や別荘を担保にする一筆を書かせているわけで、志摩家を取り巻く暗雲は濃くなる一方。そんな中、日疋が疲労のため倒れたこと自体はそう大きな事件ではないのかもしれないが、その描写の中で会議が盗聴されていることを視聴者にさりげなく教える語り口の鮮やかさにも感服する。とにもかくにも不穏な要素だらけ、見る側としても全く気が抜けない。
 決して今風の早いテンポの物語ではないにも関わらず、たった6週目とは思えぬほどのこの密度感、この煮詰まり具合。いや、そもそも連続ドラマとはかくあるべきものではなかったか。昔ながらの“ドラマ好き”にこそお勧めしたい秀作であると言い切ってしまおう。(桜川正太)

第5週(2007年5月14〜18日放送)

☆☆★
 余命いくばくもない泰英(近藤正臣)のため、啓子(さとうやすえ)は笹島(本宮泰風)からのプロポーズを承諾。というよりも、泰英にウェディングドレス姿をみせるために笹島を受け入れたようにしかみえない。危篤だった泰英も、啓子の晴れ姿披露の間はちょっと元気に。そういえば、タイトルバックの二人の花嫁にはどういう意味があるんだろうか。二つのデザインはよく似てるように見えたが。
 啓子は腹痛を訴えるセクハラ患者・大村(ケーシー高峰)に呼び出され、そのまま午後の診察を続けることに。その間に泰英は息をひきとる。その最期に日疋(山田純大)を枕元に呼び、「祐三」とファーストネームで呼びかけたのは物語的に意味深だったが、一患者役でケーシー高峰が出てきたのはドラマ的に意味深だった。まさかセクハラのためだけの出演とも思えないし。本当は白衣姿のケーシーさんの尊顔こそを拝したいのだけれど。
 日疋に父の形見と懐中時計を渡していた母・幸江(辺見マリ)はかつて愛人関係にあった泰英の見舞いに訪れていたも、花嫁衣裳披露の取り込み中を察してそのまま帰ってしまったため、泰英とはついに会えなかった。後日、泰英の妻・滝子(宮田圭子)が幸江の営む「ラ・メール」に乗り込んできてのビンタ合戦には本当にビックリした。合計5発の意地の張り合い!鈍い音が響きあった後、二人はカウンター越しに酒を飲み交わす。雪解けムードが漂ったのもつかの間、日疋が幸江の子=泰英の子であると勘ぐって再びに決裂する。
 滝子は予想通りに株取引に失敗するも、コンサルタント・高見沢薫(辻沢響江)から更に2千万円、前回分とあわせて5千万円を借りて再チャレンジを試みる。こりゃ、ダメだ。
 かつて自殺した父が営んでいた病院跡地に啓子念願の訪問看護センターが建設されることになって、吟花(小西美帆)の顔は曇りっぱなし。さらには泰英の葬儀で葬儀委員長まで務めて絶好調だった笹島と啓子の結婚話がいっこうに進まないことにイライラとなる。追い討ちをかけるように日疋はよりによって看護師寮の吟花の隣の部屋に引っ越してくる。我慢の限界だったか、訪問介護センターの準備委員会への協力を持ちかけられて、吟花は思わず啓子にキレる。ドラマの当初は吟花目線の進行だったが、どんどんと悪人顔になっていくにしたがって、その影も次第に薄くなっていっているような。悪の影は深まるばかりなのだが。(麻生結一)

第4週(2007年5月7〜11日放送)

☆☆★
 泰則(村杉蝉之介)の医療ミスをきっかけに、第3週よりさらによくないことが怒涛のように志摩総合病院に押し寄せてくる。笹島(本宮泰風)が手術室に居合わせた全員に口封じしたにもかかわらず、日疋(山田純大)の密偵である吟花(小西美帆)の聞き込みによって、ことの次第はあまりにもあっさりと明らかに。死相を漂わせていた泰則は予想を覆すことなく、トラックにはねられてあっけなく死んでしまう。
 泰則の死を天罰と絶望する泰英(近藤正臣)は、元事務長・糸田(高橋一平)を殺してしまったことを副院長の田所(峰岸徹)に告白。しかし、週の終わりに泰英が殴打した後に糸田にとどめを刺したチンピラが警察に捕まって、泰英の無罪が証明される。ここで気になってくるのが、志摩家のお手伝い・君恵(松村康世)が隠し持っている血痕のついた泰英のコートの袖の存在である。この役割が失効したはずのアイテムが二度と登場しないとはどうしても思えないのだけれど。糸田殺しの犯人逮捕のニュースが新聞に載ったか否か(=君恵が知ったか否か)、ちょっぴり気になってくる。
 泰則の死に打ちひしがれた滝子(宮田圭子)は、以前にも増してネット株取引に没頭。資金のない滝子にアタッシュケースいっぱいの現金を用立てる、コンサルタントを称する高見沢薫(辻沢杏子改め辻沢響江)がまた見るからに怪しい。そのあたりのわかりやすさはこのドラマの売りでもあるのだが。
 手術ミスを謝罪する説明会見での土下座、産婦人科医の大量離脱、診察に訪れる患者の激減と逆風続きの隙を狙って、笹島(本宮泰風)が啓子(さとうやすえ)に再プロポーズ。これが受け入れられて内心しめしめと思ったであろう吟花(小西美帆)も、日疋への率直告白につれなくされてしまう。いいことが起きない度ではこのクールの昼ドラ随一であろうが、それぞれがそれぞれに面白みを有しているのが何とも頼もしいところ。ざっくりと見るのならば、ざっくりと作られた夜の連ドラ群でも事足りるかもしれないが、しっかりと見る分には物語を地道に積み上げてくれる昼ドラの方が、少なくとも今クールに関しては向いているように思える。(麻生結一)

第3週(2007年4月30〜5月4日放送)

☆☆★
 どうにも見せ方の古めかしさがひっかかるのだけれど、典型的な大河メロドラマであればこういうテイストこそが似つかわしいのかもしれない。とにかく志摩総合病院には大変なことが起こり続けるので、物語のその先がどうしても気になるドラマになっている。
 殺された元事務長・糸田(高橋一平)が残した携帯の着信履歴を手がかりに、とうとう泰英(近藤正臣)にまで警察の捜査が及ぶも、血痕のついた泰英のコートの袖だけをを隠し持つお手伝いの君恵(松村康世)の機転で、その場は事無く終える。やはり君恵が終始不気味だ。
 そんな泰英(近藤正臣)はついに泰則(村杉蝉之介)と啓子(さとうやすえ)に、余命3ヶ月の末期ガンであることを告白。すでに泰英からその病状を知らされている滝子(宮田圭子)は、笹島(本宮泰風)に啓子との結婚をたきつけたり、日疋(山田純大)の母・幸江(辺見マリ)が営むバー“ラ・メール”に乗り込んでいったりと今週も大忙し。“ラ・メール”の場所をインターネットで突き止めるあたり、さすがはネット株取引に精を出す滝子である。
 笹島(本宮泰風)から手渡された手切れ金も突っぱねて、自殺未遂から立ち直ったかに見えた看護師・堤秀美(秋山実希)だったが、啓子と笹島のツーショットに嫉妬して、今度は飛び降り自殺しとうとする。その間一髪で止めに入ったのはまたしても吟花(小西美帆)!ここをしつこくやったおかげで、笹島が微塵の共感にも値しないキャラクターであることが良しかれ悪しかれ鮮明になった。
 大変なことのダメ押しも二段構えの念の入れよう。啓子が空港で命を救った高田光子(雪代敬子)の手術では、見るからに手がおぼつかなかった泰則が案の定医療ミスを犯してしまい、光子はほとんど手術されることなく死亡。時を同じくして、泰英も吐血して倒れる。
 地道に劇的なエピソードが連ねられていく中にあって若干なりとも明るかったのは、吟花が日疋と行きつけのおでんの屋台が同じだったことに喜ぶところぐらいだったか。啓子、日疋、そして吟花の3人が物語の軸であることには変わりないが、笹島、泰則、滝子、そして泰英にもスポットはちゃんとあたっている。がんばって正統派の群像劇路線を貫いてほしい願望も含めて、点数は甘めです。(麻生結一)

第2週(2007年4月23〜27日放送)

☆☆
 溜まっていた池の水がその一定量を超えて、あふれはじめてきたまさにそのとき。第2週を締めくくったナレーションは、この週に起こったすべてを見事に言い当てている。志摩家の隠し資産を突き止めたことをネタに口止め料を要求してきた元事務長・糸田(高橋一平)を、泰英(近藤正臣)は何の前触れもなく撲殺。そのときに着用していたコートの袖口に血の跡を見つけたお手伝い・君恵(松村康世)は、その袖だけ切り取って保管するって、これは怖い。
 病院経営の悪化に伴う志摩家の別荘売却案が、新事務長である日疋(山田純大)の魂胆と疑う滝子(宮田圭子)が、ネットの株取引に熱狂する様は狂気そのもので、お手伝い・君恵に負けず劣らず怖い。そんな滝子も泰英から余命いくばくもないことを告白されると、その場に泣き崩れるしかなかった。
 外科医の笹島(本宮泰風)はカルテを盗み見て、泰英の死期が近いことを知り、泰英の娘・啓子(さとうやすえ)に近づくことを画策。時を同じく笹島の子を身ごもった看護師の堤秀美(秋山実希)がリストカットをはかるが、お腹の子供は無事だった。
 日疋の予算削減策に伴って、小児科は週勤2日制に。たまらず助っ人を買って出た啓子は臨床不足からか、アレルギー症状の子供を風邪と誤診してしまうが、日疋がそのフォローに回ったことをきっかけに、この二人が雪解けムードになる。これが第2週唯一の明るいエピソードで、その他は生真面目に淡々と暗い。
 ケレンの塊のような『麗わしき鬼』の裏で放送されていることもそのコントラストを強めているが、この正統的なメロドラマぶりはいっそう貴重に思える。わかりやすい見せ方が随所に古臭く感じられるも、深刻を極める予告を見ていると、ついつい次回が見たくなってしまうのである。
 そういえば、同じくMBS制作の『新・いのちの現場2』でも病院の院長役が近藤正臣で、医者役が山田純大だった。『芋たこなんきん』では明るい看護師役だった小西美帆は、看護師役の連投ということになる。(麻生結一)

第1週(2007年4月16〜20日放送)

☆☆★
 1938年に新聞連載されていた岸田國士の原作小説のドラマ化。敵・味方入り乱れる登場人物はかなりの数にのぼり、大作メロドラマ的な陣容は十全である。古めかしい作品を引っ張り出してきてアレンジを加えるやり方は東海テレビ枠の方のオハコだと思っていたが、変なひねりが入らない分、こちらは正統的な仕上がりになるのではないだろうか。どちらにしても第1週から早々に愛憎、因縁が見え隠れして、ワクワクさせられる展開だった。
 物語は志摩総合病院の院長・志摩泰英(近藤正臣)の娘である啓子(さとうやすえ)がアメリカから帰国、時を同じくして弁護士の日疋(山田純大)が事務長として泰英から病院の再建を委ねられたところからはじまる。冒頭、発作を起こした老女をめぐって啓子と日疋が意見を対立させる空港でのオープニングシーンなど、いかにもという感じだが、このいかにもこそがこういったドラマには不可欠である。
 ヒロインにさとうやすえの起用は驚いたけれども、実際は啓子、日疋、そして啓子とは幼なじみのはずだった看護師・石渡吟花(小西美帆)の3人が主人公と考えていいだろう。お嬢様気質の典型のような啓子には顔も名前もまったく覚えられておらず、志摩家のお屋敷に招かれたら招かれたで、啓子の母・妻・滝子(宮田圭子)から忌まわしい過去の記憶にぶしつけな物言いをされる吟花は、いきなりに共感の対象に。役柄としては、主役の啓子役よりも吟花役の方がもうけ役といえるかもしれない。
 「人間に直視できないものは太陽と自らの死」なんてナレーションはいかにも文学的。余命いくばくもない院長の泰英に病院の跡を継ぐことを期待されながらも、家に帰ると絵なんか書いちゃってる啓子の兄にして外科医の泰則(村杉蝉之介)は、いかにも戦前文学のキャラクター風だ。見るからに女癖が悪そうな笹島(本宮泰風)もそれっぽくてわかりやすい。
 第1週を締めくくった盛大なパーティシーンは、この手のドラマの定番をおさえて手抜かりなし。そこで日疋から吟花が、心を許せる相手になってほしいと、遠まわしに院内スパイ要請されるところで次週へと続く。その語り口は随所に古めかしく思えるが、それもまた作品のテイストと遠くはない。このドラマにはスタイリッシュな見せ方はむしろ不向きだろう。
 ちなみに、『暖流』のテレビドラマ化はこれで5本目、昼ドラとしても3本目。この耐久年数の高いメロドラマが21世紀にも通用するのか、期待したい。(麻生結一)

暖流

TBS系月〜金曜13:30〜14:00
ドラマ30
製作著作:毎日放送
制作:藪内広之
制作協力:MBS企画
プロデューサー:亀井弘明、中村雅人
原作:岸田國士『暖流』より
脚本:井上登紀子、森下直、森脇京子、菱田信也
演出:竹園元、山本実、芝野昌之、鈴木晴之
音楽:小六禮次郎
主題歌:『すばらしい想い』nangi
出演:志摩啓子…さとうやすえ、日疋祐三…山田純大、石渡吟花…小西美帆、笹島和也…本宮泰風、志摩泰則…村杉蝉之介、秋山実希、志摩滝子…宮田圭子、松村康世、日疋幸江…辺見マリ、ナレーション…三島ゆり子、田所茂…峰岸徹、志摩泰英…近藤正臣