バンビ〜ノ!

第9回(2007年6月13日放送)

☆☆★
 見終わったあとの清清しさでは今クール随一と言えるかもしれないこのドラマ。夏の新作パスタのコンペにおいて、厨房復帰の千載一遇のチャンスが訪れるも、注意力散漫がまねいたオーダーミスを笑顔でフォローしてくれるホールの先輩たちのプロフェッショナルを見せつけられて、伴(松本潤)は自らコンペへの参加を辞退する。
 このドラマの好感度の高いところは、伴の精神的成長を急かさないところだ(成長に関わりなく、南部鉄器の名人に説教する仲居とは雲泥!)。その1年後に念願かなって厨房に戻るタイミングが最終回前の回というのも、納得のいく話の運びである。
 最近のいかにも岡田惠和調の作品とは趣を異にする今作だが、登場人物に悪い人がいないのは、失敗作と言われているほどに悪い出来ではない『あいのうた』に通じるところだろうか。(麻生結一)

第8回(2007年6月6日放送)

☆☆
 人のレシピを勝手に見ていいのか、さらにはそのレシピ通りの卒業制作ティラミスが果たして“バンビーノ風”なのか、等々首をひねりたくなった箇所もなきにしもあらずだけれど、見終わったあとの何とも言えないさわやかさにはやはり捨てがたいものがある。自転車で転んで(?)腕を負傷したために、不本意にも伴(松本潤)をアシスタントとしてつけられてしまうドルチェ担当の織田(ほっしゃん。)の微妙な変容を、ここまでと変わらず無言演技で見せきる徹底ぶりも潔し。ただ、織田が自転車に乗るキャラにも思えないのだが。(麻生結一)

第7回(2007年5月30日放送)

☆☆
 人の気持ちは難しい、もしくは与那嶺(北村一輝)が謎かける愛についてのお話。あすか(香里奈)の恋人にして、かつてはバッカナーレでも働いていた元凄腕の料理人・羽山(池内博之)が柄の悪いヒモ状態から、スカンピとカラスミのスパゲッティが御題の伴(松本潤)とのパスタ対決によって一気に改心しちゃうのはどうかと思ったけれど、それもまたこのドラマらしい温かい眼差しゆえだろう。仕事で疲れている仲間たちを思いやって腕を振るった伴のパスタは、まさに愛で満たされていたか。最後の牙城かと期待した香取(佐藤隆太)もすでに優しさの塊に。おかげさまで、ドラマの後味はさらにマイルドになってきてる。(麻生結一)

第6回(2007年5月23日放送)

☆☆
 ここまでミスを連発するからには、伴(松本潤)は単にホール係にむいてないだけではとも思えてくるが、リムジンで乗りつけるうるさ型の常連客・野上(戸田恵子)に、「バッカナーレ」のみんなが作ってくれた料理をマズそうだと言われてしまったことに発奮。『ベストキッド』的な訓練を実らせて(例がいつもながらに古い?!)、野上に再チャレンジを挑む伴はこれまでと変わらず生真面目一本やりでかわいらしい。
 伴を取り巻く登場人物がいい人ばっかりになってきてしまったのを是正するためのキャラクターが野上なのだろうけれど、そのいずれも極端に思える。ただ、極小ながら金星をあげたに見せて(実際、伴がたどたどしく語るレシピはいかにもおいしそうだった)、これまで優しかった与那嶺(北村一輝)にお灸をすえられてしまう締めくくりにスポ根的なノリは普遍で、清々しく見通せる。ロクなドラマがない今クール中では実にありがたい存在だ。
 伴をへたれ呼ばわりする香取役の佐藤隆太は、大河ドラマ『風林火山』の方ではへたれな平蔵を演じている。どうしても平蔵役の方がしっくりくるが、香取役も悪くない。(麻生結一)

第5回(2007年5月16日放送)

☆☆★
 すべてを捨てて「バッカナーレ」に戻った伴(松本潤)だったも、オーナーシェフ・宍戸鉄幹(市村正親)に命じられたのは厨房で料理を作ることではなく、「バッカナーレ」の社員としての仕事、ホール係=カメリエーレだった。すっかり意気消沈する伴はホールの仕事にどうしても身が入らない。
 伴の不注意でグラスが割れてしまったミスを、給仕長・与那嶺(北村一輝)の歌声とホールスタッフのチームワークで帳消しにする早業はプロの仕事を思わせたが、厨房の手際と同様にこちらの方も何となくスムーズさを欠いているように感じられる。見せ方にもう少しケレン味があってもいいのかもしれない。いっさいのケレンもなかった『拝啓、父上様』は妙にリアルだったけれど。
 評判のイタリア料理の店にお供した際、副料理長・桑原(佐々木蔵之介)に伴が一括されるところがいい。『スロースタート』第2話、『セクシーボイスアンドロボ』第3話に引き続いての「仕事について」三部作?! 今の若者は仕事が続かないと言われる中で、根気よく仕事を続けている「バッカナーレ」のスタッフたちが輝いて見える。(麻生結一)

第4回(2007年5月9日放送)

☆☆★
 喧騒と静寂の振り幅が絶妙だった第3回に比べると物足りなく思えたが、伴(松本潤)が「バッカナーレ」への帰還を決心する故郷・博多編でもドラマの真摯さが維持されていてよかった。
 悩める伴を同棲中のアパートに残し、恋人の恵理(吹石一恵)は単身六本木の「バッカナーレ」へ。春野菜とパンチェッタのスパゲッテイを食べた後、厨房を見せてもらって涙するシーンがこの第4回のもっとも重要な場面であったことからもわかるように、この回の事実上の主役は恵理だった。能動的なキスで伴の決断に背中を押す潔さは、博多女の心意気かな。「バッカナーレ」の厨房が止まって見えたのはこれまでと変わらず困りものだとは思ったけれど、恵理の目のみ映った生き生きと料理を作る伴の姿がその物足りなさをカバーする。
 もう一人の博多女・母・聡子(余貴美子)の潔さにはさらに驚く。大学を中退してまで料理人を目指そうとする息子に対して、反対するどころかほのぼのしくアシスト。危うく授業料を振り込むところだったと笑顔で言われてしまっては、伴ももはやがんばるしかない。修行の道はひたすらに厳しいだけに、ここでの恋人と母親の優しさは一服の清涼剤のようにも感じられた。(麻生結一)

第3回(2007年5月2日放送)

☆☆★
 嵐のような週末に露呈した段取りの悪さも、無駄な動きが多いとの副料理長・桑原(佐々木蔵之介)による適切な助言を取り入れて、さらには居残りの自主練によってだいぶ仕事に慣れてきた伴(松本潤)だったが、ついに「バッカナーレ」でのヘルプ、改めバイト見習いも終わりをつげ、博多に帰るところまで。相変わらず厨房のシーンに全体の連動感は乏しいも、これまでの喧騒一辺倒ではなく、カーニバルの後の静けさまでがしっかりと描かれていて充実していた。物語の振り幅が俄然大きくなった感じだ。
 「バッカナーレ」に残りたいと申し出る伴を叱咤したオーナーシェフ・宍戸(市村正親)が、伴のために作ったペスカトーレが温かい。最終日、伴が作ったまかないが完食となるエピソードは台詞はなしも後味最高。その初金星も伴には知らされない構成がまた美味である。
 伴にとりわけ厳しくあたった香取(佐藤隆太)をはじめとしたそれぞれの登場人物が、真摯に仕事に取り組む姿勢が丁寧に描かれているところにも好感が持てる。ユルユルとした修行物を毎朝見ている今のタイミングが(『どんど晴れ』)、このドラマのスタンスをいっそう尊く思わせているのも事実だが。それにしても、伴もびっくりの東京のラーメンはやっぱり高いですよね。(麻生結一)

第2回(2007年4月25日放送)

☆☆
 初回が盛りだくさんだった分、第2回はさほど動きがなかった印象を受けたが、この手の入門修行物にありがちな、早々主人公が金星をあげてしまうような展開がないのは好印象である。
 香取(佐藤隆太)のアシスタントも満足にこなせない伴(松本潤)に的確なアドバイスを送るあすか(香里奈)は、まかないのパスタでアピールしてドラマ的にもアピール。見た目においしそうなシーンが少ないこのドラマにあって、このパスタは大いに食欲をそそる。もう少し料理の説明があってもよさそうなものだが、「バッカナーレ」のリズムについていけない伴の現状ではその余裕もないか。ただ、厨房の疾走感は相変わらずのイマイチである。
 美幸姫(内田有紀)、副料理長・桑原(佐々木蔵之介)、給仕長・与那嶺(北村一輝)の脱力した雑談風はエピローグに固定の模様でうれしい。伴が3日持つか否かの賭けに一人勝ちした与那嶺は、夜の六本木で博多弁を叫んだ伴の負けない宣言を驚くべき聴覚でキャッチ。『セクシーアンドロボ』のニコ(大後寿々花)の聴力的ライバルがまさかここにいたとは。(麻生結一)

第1回(2007年4月18日放送)

☆☆★
 岡田惠和脚本の厨房物というと、即座に異色の傑作『アンティーク』を思い出す。ただ、あれぐらいにいっちゃってるドラマを期待すると拍子抜けするほどに、こちらは正統派の青春ドラマの様相だ。「大人への扉」なんてかわいらしいテロップがことあるごとに出てくるあたりは『アンティーク』と同じテイストも、ドラマの印象はまったく違っている。
 この第1回では、博多弁が片言の博多っ子(?!)、伴(松本潤)がバイトしているイタリアンのお店「サンマルツァーノ」の遠藤(山本圭) の勧めで、春休みを利用して東京のリストランテ「バッカナーレ」にヘルプ気取りで乗り込むも、一切合財何もかもが通用せずに撃沈。遠藤の弟弟子にしてオーナーシェフである宍戸(市村正親)に、一人では何にもできないバンビーノと愛称をつけられるところまでが快調に描かれていた。
 肝心の厨房の大忙しぶりは、伴が感嘆するほどに早業のオンパレードというわけではなかった。映画『ディナーラッシュ』あたりと比べてしまうと、酷というものだが(『ディナーラッシュ』、秀作です)。伴がやめるやめないの賭けをスタッフ全員でやるエピソードはいかにも定番のそれだけれど、厨房の面々がイヤな連中揃いなのは今後に頼もしい限りだ?! 店が何となく安っぽいのも気になったが、トラットリアだからこれでいいのかな。
 ちょっと意外だったのは、伴が大学生なりに礼儀正しく、しかも早々己のとんだ思い上がりに気がついて、素直に謝る謙虚ぶり。ここで変に突っ張りすぎるキャラクターだと、ストーリーが違う方向にいってしまうので。宍戸の娘にして支配人の美幸姫(内田有紀)、副料理長・桑原(佐々木蔵之介)、給仕長・与那嶺(北村一輝)の三角関係が本筋の子供っぽさを補完して、ちょっと面白そうだ。ブロードの話。やっぱりわからないことは人に聞かなきゃいけませんねぇ。(麻生結一)

バンビ〜ノ!

日本テレビ系水曜22:00〜22:54
製作著作:日本テレビ
制作協力:MMJ
プロデュース:加藤正俊、村瀬健、浅井千端
原作:『バンビ〜ノ!』せきやてつじ
脚本:岡田惠和
演出:大谷太郎(1、2、5、7、9、11)、佐久間紀佳(3、4、6、8、10)
音楽:菅野祐悟
主題歌:『We can make it!』嵐
出演:伴省吾…松本潤、与那嶺司…北村一輝、日々野あすか…香里奈、香取望…佐藤隆太、織田利夫…ほっしゃん。、妹尾雅司…向井理、皆川こずえ…小松彩夏、佐々木崇雄、佐藤佑介、麻生幸佑、Cristo Pietro、Michael Mcateer、宍戸美幸…内田有紀、伴聡子…余貴美子、野上京子…戸田恵子、羽山靖秀…池内博之、清水英明…姜暢雄、遠藤進…山本圭、高橋恵理…吹石一恵、桑原敦…佐々木蔵之介、宍戸鉄幹…市村正親