わるいやつら

第6回(2007年2月23日放送)

☆☆
 チセ(余喜美子)の夫殺害はやはり戸谷(上川隆也)の仕業だった。豊美(米倉涼子)はなんとか刑事・嘉治貞一(金子昇)に密告しようとするが戸谷に邪魔される。そしてついに戸谷の魔の手は豊美に向かう…。
 戸谷の本心をつかみ損ねている豊美だったが、遂には首を絞められ、土に埋められてしまう。原作を読んだことのあるせいか、豊美のポジションがいまだに不安定な気がしてならない(ドラマと原作は別物と割り切らねばならないとは分かっているのだが…)。結局豊美は「わるいやつら」の中には入らない方向へ向いているのだろうか。だとするならば、非常に残念に思う。清張3部作の最終章となるこの作品では、豊美は思いっきりその悪女ぶりを発揮して欲しい。が、まだ今回で5回。今後に思い切り期待したい。(仲村英一郎)

第5回(2007年2月16日放送)

☆☆★
 サスペンスらしいけれん味を忘れて、ただひたすらに墨絵のようになっていたここ数回もある意味凄かったのだけれど、チセ(余貴美子)の夫・春彦(笹野高史)の死をめぐって、いよいよ豊美(米倉涼子)と戸谷(上川隆也)が本格対決となって、期待通りのブラックホール感を垣間見せはじめる。とりわけ、春彦の葬儀に乱入中、突如気を失った豊美が病室で目を覚ましてからの一連には迫力があった。
 ただ、現状は見せ方が物語を主導している状態。この枠だけにあと何回やるのかわからないが、ひたすらに“わるく”なってくれることを楽しみにしたい。戸谷の友人にして弁護士の下見沢(北村一輝)は、いつの間にやら戸谷病院の理事長に、って早速にわるいなぁ。(麻生結一)

第4回(2007年2月9日放送)

☆☆
 戸谷(上川隆也)がますます「わるいやつ」になってきた。目的のためなら女を好き勝手に利用する。金のためにチセ(余喜美子)と槇村隆子(笛木優子)を、その金を稼ぐ手段としての殺人のために豊美(米倉涼子)を。豊美に時折つぶやく弱気の言葉は本音か芝居か。
 そんな中、もう一人の「わるいやつ」が現れた。チセである。どうやらチセの腹は決まったらしい。夫殺害だ。夫を殺すためなら、何億でも出すから殺してほしいと戸谷に頼み込むチセ。病院の資金繰りのためには第二の殺人も平気になってしまった戸谷。両者の利害は一致する。今回のラストでチセの夫の遺体を乗せた霊柩車が病院を出るが、これはやはり第二の殺人なのか。
 気になるといえば、チセの夫の隣のベッドで入院していた嘉治貞一(金子昇)である。捜査一課の刑事が登場するとなると今後の展開に深く交わってくることは間違いないだろう。(仲村英一郎)

第3回(2007年2月2日放送)

☆☆
 病院の経営難を乗り越えたい気持ちと単なる男の下心から槇村隆子(笛木優子)に近づく戸谷(上川隆也)。しかしそれは意外にも隆子にあっけなくかわされてしまう。一方、寺島豊美(米倉涼子)は戸谷への思いを断ち切るために下見沢(北村一輝)とつきあうと宣言したが、思いと気持ちは裏腹。戸谷の第二の完全犯罪となるはずだった、チセ(余貴美子)の夫殺害を阻止する。
 「わるいやつら」という題名通り、毒々しい個性をもっと強調してほしいところ。上川隆也は、甘いマスクを存分に活かし、かなり「わるいやつ」を演じているのだが、他のキャラクターはまだまだ甘い。原作とドラマとは似て非なるものと言われればそれまでだが、原作のもっていた登場人物たちの性悪さをもっと前面に出してほしい。
 チセの夫が点滴を受けているときに戸谷に抱きついたのは不安からもあるがそれよりも、夫を殺しているという恐怖と歓喜がないまぜになった気持ちからのはず。そこがうまく描かれていなかった。点滴をすりかえた豊美の心情もいまひとつ納得できない。
 視聴者から批判が巻き起こるくらいの「わるいやつら」となることを期待したい。(仲村英一郎)

☆☆★
 病院の資金繰りに苦しみ、さらには妻・慶子(森口瑤子)から離婚を迫られる戸谷(上川隆也)が、料亭の女将である愛人・チセ(余貴美子)に持ちかけられた夫・藤島(笹野高史)殺しを決行しようとするも、幇助するはずだった豊美(米倉涼子)が裏切り、それを阻止するまでを描いた第3回。第1回に見せたような凄みはさらに後退して、コントラストの強い青味を帯びた黒く鈍く光るような独特の色調の画面は、もはや墨絵のように見えてしまうほどに、ドラマの方もひたすらに工芸品のような渋い仕上がりになってきている。
 よって、『黒革の手帖』のような俗っぽい面白さは皆無。キャストに弱いところもある不安材料をカバーして、どこまで濃密なドラマを展開してくれるかに期待したい。(麻生結一)

第2回(2007年1月26日放送)

☆☆★
 物語が後半にホップしていくような見せ方が絶妙だった第1回に比べるならば、龍子(小島聖)死亡後はつばぜり合いのような展開になって今ひとつインパクトに欠けた。完全犯罪完了間近、豊美(米倉涼子)がわざわざ龍子の葬儀に参列するのも奇妙に思えたが(ドラマ中でもそのあたりは再三指摘があったも)、この小休止が次なるステップに連なる予兆はあるので、点数は据え置きにする。
 龍子を葬った後もいたって冷静だった豊美(米倉涼子)は、赤ちゃんを抱けなかったことをきっかけに正体を失うことに。執拗に手を洗うくだりは、第1話で戸谷(上川隆也)が台詞を引用した『マクベス』のマクベス夫人である。ここにこのドラマが進もうとしている方向が何となく見えてきたような気がする。コントラストを効かせた黒い画面は相変わらず冴えてる。(麻生結一)

第1回(2007年1月19日放送)

☆☆★
 テレ朝が米倉涼子を主演に起用した松本清張物としては第3弾になるが、神山由美子脚本作としては『黒革の手帖』以来の第2弾で、さすがにドラマの濃密さは『けものみち』からワンランク上がった感じだ。物語の序盤は断片的なエピソードが独特で、登場人物たちの執着ぶりがわかりづらい印象も与えたが、スタイリッシュな演出とのブレンドは極上。考え抜かれた映像美の数々にもうならされる。
 看護師・寺島豊美(米倉涼子)がすでに肉体関係にある戸倉病院の院長・戸谷信一(上川隆也)とデザイナー・槇村隆子(笛木優子)との関係にメラメラとなるあたりから、物語は俄然加速していく。この感覚は紛れもなく神山節だ。今後の松本清張から逸脱、完全読み替えぶりにいっそう期待感が膨む。
 登場するなり死相さえ漂わせ、そしてその通りになる横武龍子を演じる小島聖の陰にして淫なオーラがこの第1章(と呼ぶらしい)では圧倒的だった。ただ、この方の淫らぶりに限らずとも、このドラマは12禁ぐらいにはしておかなければいけないかもしれない。(麻生結一)

☆☆
 米倉涼子主演の松本清張シリーズ最終章「わるいやつら」。「黒革の手帳」「けものみち」に続く第三弾である。
 舞台となるのは戸谷信一(上川隆也)が院長を務める戸谷病院。戸谷は医療に対する情熱が薄い一方で、複数の富裕な女性から資金を援助してもらっている。初回は戸谷をめぐる女性関係と看護師・寺島豊美(米倉涼子)との出会いを中心に描かれている。戸谷が交際をもった横武龍子(小島聖)を、戸谷と豊美が共謀して龍子殺害を企てるところで初回は終わる。
 戸谷をめぐる女性とその関係の描写にかなりの時間が費やされていたが、なぜ豊美が戸谷に、殺人の共謀者となるくらいまで入れ込むようになったかの理由がいまひとつ判然としなかった。また「黒革の手帳」「けものみち」に比べると、全体的に迫力が欠けていたような気がする。これからの進展に期待して今回は星二つ。(仲村英一郎)

わるいやつら

テレビ朝日系金曜21:00〜21:54
制作:ABC、tv asahi
制作協力:ザ・ワークス
チーフプロデューサー:五十嵐文郎
プロデューサー:内山聖子、奈良井正巳、中川慎子
原作:松本清張『わるいやつら』
脚本:神山由美子
演出:松田秀知、藤田明二
音楽:佐藤隼
主題歌:『Luna』安良城紅
出演:寺島豊美…米倉涼子、下見沢作雄…北村一輝、槇村隆子…笛木優子、横武龍子…小島聖、樋口美津代…大森暁美、横武常治郎…佐渡稔、藤島チセ…余貴美子、葉山耕太…平山広行、沼田看護師長…朝加真由美、粕谷事務長…伊武雅刀、戸谷信一…上川隆也