砂時計

第12週(2007年5月28〜6月1日放送)

☆★
 入院した杏(佐藤めぐみ)を祖母・美佐代(大森暁美)が見舞った時からすでに具合が悪そうだったので、その後の死にも何となく覚悟は出来てしまっていた。とはいえ、杏と大悟(竹財輝之助)をつなぐキーパーソンとしての美佐代の存在感は絶大。大森暁美演じる杏のおばあちゃんはどこまでも毅然としていてカッコよかった。
 最終週に対する感想は第11週とほぼ同じ。本編が見えないほどの回想につぐ回想も、それを2週続けられるとさすがにつらい。ついに時間が2007年に追いついた時には、ここまでエピソードが用意されていないとは思わなかった。ただ、最後の最後に杏、大吾、藤(渋江譲二)、椎香(木内晶子)プラス1=あかね(小野真弓)だけの世界に行き着いたのは納得のいくところ。
 最初からタイトルバックが“どんどはれ”となるであろうことは誰にだって予測できたはずだが、いざそれを現実として締めくくられると消化不良に陥ってしまった。どうしたって、藤の方がいい男に見えてしまって。いい人扱いされてしまっては、もはや一生浮かばれないという教訓は、長々しく響き続ける?!
 先週にも書いたが、やはり第8週、第9週あたりがせつなさのピークだったし、作りが丁寧だったのもそのあたりまでだった。もちろん、トータルの評価は今回の点数よりも高い。(麻生結一)

第11週(2007年5月21〜25日放送)

☆☆
 小学生、中学生、高校生編において積み重ねられてきた丁寧さはやはり失われてしまったけれども、新たなるキャラクターとその関係性を整理し直すことに専心した第10週の犠牲のおかげさまで(?!)、執念に彩られたこの初恋話もついに最終バックストレートに差し掛かってきた。ただ、最後まで見通すと、第8週、第9週あたりが切なさのピークだったと思い返してしまうような気もする。
 第10週でもよからぬ動きをし続けた椎香(木内晶子)が、今度は大悟(竹財輝之助)と藤(渋江譲二)に号令して、佐倉(須賀貴匡)と結婚、即ニューヨークに発つ杏(佐藤めぐみ)の送別会を企てる。しかし、その日が杏と佐倉の母・久美子(山口美也子)との初対面の日に重なったものだから、その2つを陰ながら一緒くたにする暴挙に。杏につれなくする久美子に黙っていられない大吾が陰から日向に走りこんでいってしまう展開はあまりにも予測通りだけれど、ここまで培われてきた大吾のパーソナリティが分厚いだけに、それも無きにしも非ずと思わせるところは帯ドラの鑑というべきか。
 それにしてもこの佐倉の母・久美子は、『花嫁とパパ』の三浦(田口淳之介)の母・房江(田島令子)とそっくりである。それは瞬間デジャブに陥るほどの紋切り型も、久美子はほどなくして杏に謝罪。もちろん、その程度のおざなりな和解で一件落着とはいくはずもなく、佐倉は杏が大切にしている砂時計に対して嫉妬。これまで杏と大吾の遅攻になれているだけに、ここでの二人の破局は余計に速攻に映る。
 杏の言葉と大悟の説教が一言一句変わらなかったことにショックを受ける佐倉。こういう大事な場面にはこのドラマの得意技はとりわけ効果的である。ちなみに、大吾の説教グセは小学校の教師的職業病らしい。なるほど。
 第11週の最大の特徴は、驚くべきほどに一つの台詞、一つのシーンを繰り返えしていたことに尽きるだろう。もちろん、これまでにもそれを多様してきたドラマだったわけだが、仕事中の大吾を杏が松江に訪ねた一連にいたっては、ほぼすべてが回想で構成されていた。通常これほどにやられると単なる水増しにしか思えないだろうが、このドラマにおいてはそのたびに悔恨が深まっていく黄金パターンゆえ、ここでこのやり方以外の手法はさすがに思い浮かばない。
 メインストーリーからはすっかりはずれた存在になってしまったが、椎香のあかね評が辛口なのには笑ってしまった。いきなりに「あのエキセンテリックな人」呼ばわりするとは、エキセンテリックはエキセンテリックを知るということか。さらに、

椎香「大吾君はあのあかねさんって人に首根っこ抑えられてて、全然ダメなんだから」

と、ここにこっそりドラマの真実が。結局、成人式の翌日だったか、待ち合わせの場所にいけなかった理由までも杏にしゃべってしまう大吾ってどうなんだろう、というもやもやした気持ちに応えてくれたズバリぶりだったのでは。(麻生結一)

第10週(2007年5月14〜18日放送)

☆★
 執念の初恋物語もついに大人時代に本格突入。ここ最近、怖いほどにコミコミだったタイトルバックのキャストのテロップもちょっと余裕が出たか、2007年26歳冬。そしてついに回想シーンとの二重構造は解かれた。2000年のパートは、杏(佐藤めぐみ)と大吾(竹財輝之助)の成人式での再会のためのみのものだった模様。
 物語を先に進めるにはまずは4人の再結集が先決とばかりに、月曜日の回では強引過ぎるほどのドラマ的荒技が連発される。東京と仁摩は地理的に同スケールとばかりに、40歳のカレとケンカした末に杏の部屋に転がり込んだ椎香(木内晶子)は、東京に出張中の大吾と道端でバッタリ再会。即、杏の部屋に連れ込まれ(?!)、ほどなく藤(渋江譲二)まで合流し、そこにすかさず杏が帰ってくる。すると椎香によってすでに大量購入済みにより、真冬の花火大会となる。
 その寒空に大吾のマフラーを杏に巻かせたかったのはわかるんだけど、ここは接着剤の椎香をもうちょっとうまく立ち回らせてほしかった。椎香のはかりごとのダメ押しにより、杏と大吾が渋谷デートを高校時代以来に再現することに。ここでビックリだったのは、杏と大吾の待ち合わせ場所がNHK前だったこと。かつてドラマ中にNHKの卵ロゴが堂々映し出されたのは、NHKのドラマ中にも知らない!
 入社から5年、杏が絵本編集部へ異動になる段取りも、それが念願であった伏線もあった方がよかったのでは。初仕事となる「絵本で楽しむ日本の伝統シリーズ」での担当が、島根代表のあかね(小野真弓)となる皮肉は、まさに

美佐代(大森暁美)「よりによってまぁ」

なのだけれど。
 杏と佐倉(須賀貴匡)との出会いはさらに強引。とにかく物語を結婚話にまで進めようとする意図はわかるのだけれど。杏が勤める出版社の場所、杏と佐倉がタクシーをひろう場所、新宿が先であとの降り場が四ツ谷、といった並びが実際の地理とバラバラであるのはドラマ的によくあることなのだけれど、これまでにこれでもかと過剰なほどに丁寧だったこの昼ドラだけに、ちょっと残念な気にもなった。さらには、公園での奇跡的再会(?!)、待ち合わせのバーのカウンターに預けられた合い鍵、佐倉の海外赴任=杏の遠距離恋愛的トラウマと連打されると、もはや傍観するしかなくなってしまう。
 大吾が例の砂時計のペンダントを捨てられず、杏の祖母・美佐代のところに駆け込む展開は、第10週で最も納得のいく箇所だった。このアイテムは砂時計本体ほどに大きくないので、どんぶらことは戻ってこないでしょうから。
 途中、望月なる佐倉の元カノ(高木りな)が登場。杏に水をかける。

杏「修羅場っちゃった」

ここで杏はいまさらながらに未練たらしい女であることに気がついたらしい!(麻生結一)

第9週(2007年5月7〜11日放送)

☆☆★
 2007年26歳冬、大人・杏の家に、月島兄弟、大人・藤(渋江譲二)と大人・椎香(木内晶子)が結集。大悟(竹財輝之助)の婚約者・あかね(小野真弓)とちょっとした情報提供=文通しあっていることを告白する。
 1999年、杏18歳の秋、楓(渡辺典子)と結婚後も引越しようとしない杏の父・正弘(羽場裕一)が使ってるVAIO(おそらくXR?)がちょっと懐かしかったり。カナダに留学することになった椎香(垣内彩未)の送別会のために島根に帰った杏は、必然的に大吾(佐野和真)と再会する。2人が強風の川縁で語り合う場面が実にいい。そこを通りかかった今や大吾のカノジョ・歩(悠城早矢)が後方に自転車で通り過ぎるディテールも、何事にも手厚いこのドラマらしい。
 お互いがお互いに持っていた大切なものを捨てる儀式が二連発。とりわけ藤(青柳塁斗)との初旅行先で、大吾からもらった砂時計を捨てるシーンは絶品。映像の美しさは相変わらずである。やっぱりこのドラマ、ロケがいい。まぁ、ほとんどロケなんだけど。
 そしてついに一緒に泊まる段になるも、夜の藤を拒否?! すると翌朝、海岸に捨てたはずの砂時計が海岸に流れ着いている。このできすぎた感がいかにもなのだけれど、それでこそとも思わせる。
 杏からプレゼントされた砂時計のペンダントを捨ててくれと歩に託した大吾だったも、杏が大ケガをしたと大吾にかまをかけた歩からペンダントは返却。

歩「嫌な女だね、私」

とペンダントを返す歩がむしろいい女の子に見える。大吾が杏の思い出にひたるのみだった出雲大社への旅の途中の歩は本当に悲しかった。私はどうして人を傷つけるのかと悩む杏を、楓はそれはそれぞれにおあいこだと慰める。大吾も同類とすると、その二乗効果はいかほどか。
 Y2K問題は大丈夫だったと見える2000年18歳冬。結局はキスさえもしなかった杏と藤は初詣にて別れる(つきあう前にはキスはあったも)。「こんなんじゃ、幸せになれないよね」とは、大事な人を傷つける天才、杏にも自覚はあるんだ。
 これまでは週はじめと週終わりに2007年は限定されていたが、大人・杏が勤める出版社をあかね(小野真弓)が訪ねて、週中にも今=2007年が挿入される。あれれと思っていると、再び回想となった2002年20歳冬の杏は何と、佐藤めぐみが演じる短大生・杏であった。小林涼子演じる中・高校生バージョンの杏は砂時計を握り締めて泣きじゃくるところで終わりだった。
 足をくじいた美佐代(大森暁美)のお見舞いがてら島根に帰った杏は、成人式当日に挨拶に来たスーツ姿の大吾と再会。あまりの杏の変貌ぶり(小林涼子→佐藤めぐみ)にビックリするかと思うも、大吾の動揺はゼロ。2年ぶりのツーショットはあまりにもいい感じに見えたが、大吾の島大の後輩・あかねの介入で歯車が狂う。
 交通事故にあったあかねに付き添ったために、大吾は杏と会う約束をしていたサンドミュージアムに行けない。携帯を持ってないのかと思うと、大吾はすかさず公衆電話でサンドミュージアムに電話。しかし、すでに閉館していた。2000年の大学生は携帯を持っていた気もするが、このすれ違いの物語にはあっては困るアイテムだったか。どちらにしても、いよいよこの初恋特化ドラマも佳境に入ってきた。(麻生結一)

第8週(2007年4月30〜5月4日放送)

☆☆★
 母・美和子(伊藤裕子)が自殺して以来、いつだって誰かを押しつぶすとのトラウマを抱える杏(小林涼子)が、自分のために教師になる夢を捨てようとする大悟(佐野和真)との関係を清算した1998年16歳、春。それからさらに半年後の1998年、杏17歳、冬。大吾が人生からいなくなってぽっかり穴が開いちゃった杏は、

杏「未来が真っ白になっちゃった」

とあしたのジョーと異母兄弟のようなことをのたまう。
 そんな杏に初恋はどうしてもすれ違ってしまう論を披露する楓(渡辺典子)が、杏の父・正弘(羽場裕一)の愛の告白によってついに女医であると断定された!単に白衣姿で病院に入り浸ってる人ではなかったことがわかって一安心でした。
 大悟は地元で教師になるためのエリートコース、島根大学を受験すべく、都合よく戻ってきてくれた歩(悠城早矢)に勉強を教えてもらうことに。だったら、歩をいったん物語からアウトさせる必要はなかったのではとも思えてきたが、二番目の存在でもいいから付き合ってと大吾に再告白するあたりはいじらしい。
 もう誰のことも一生好きにならないと宣言する杏に、初恋は二番目三番目があるから初恋、なる名言を吐く藤(青柳塁斗)。そんな藤こそが結局はこの世で一番やさしいと再認識した杏は、杏の誕生日に藤と付き合うことを決断する。
 ファムファタルぶりを発揮していた脅威の中学生・椎香(垣内彩未)がいろいろあって態度を軟化させ、杏と仲直りしてしまったのは残念だったけれど(?!)、恋愛至上主義を貫く面々の悲喜交々をこれだけみっちりと見せられては、もう恐れ入りますと言うしかない。月島酒造の概観他、ロケのシーンもことごとく丁寧に作ってある。修学旅行中の大吾=歩が杏=藤とバッタリ出くわす東京の狭さもまた恋愛至上ゆえのことだろうか?!(麻生結一)

第7週(2007年4月23〜27日放送)

☆☆
 第6週の終わりから大人・椎香(木内晶子)が登場した大人・杏(佐藤めぐみ)、2007年26歳冬パート。物語とは関係ないが、東海テレビの昼ドラで主演経験済みの木内晶子は、『麗わしき鬼』で女子高生中の金子さやか、遠野凪子と同世代なので、そうすると佐藤めぐみとともに女子高生時代から演じていてもおかしくなかったことになる。もちろん、その逆もあり得た。どちらにしても、大人・杏と大人・椎香が仲良しなのはあまりにも東海テレビ枠的で、そこを深読みしはじめるとドンドン怖くなってくる。中学生・椎香役の垣内彩未とは大人・杏役の佐藤めぐみの方が似ているたすきがけ状態もちょっと気になるのだが。ちなみに美人は美人でも、まるでテイストが異なる美人に変貌を遂げた大人・椎香は娯楽映画の買い付けをやっているらしい。
 大悟(佐野和真)から距離を置こうと言われた杏(小林涼子)、1998年16歳冬。いつでも連絡を取り合えるようにとポケベルを購入を決意する杏だったが、バイトをがんばりすぎたために発熱(明らかに顔が赤かった!)。出張で不在の父・正弘(羽場裕一)に変わって、藤(青柳塁斗)に看病してもらうことになる。しかし、そこに大吾がバイト代をはたいて東京に来てしまったものだから、さらに状況はこんがらがってしまって。
 病院に行った杏に声をかけたのは白衣姿の楓(渡辺典子)。今度こそ楓は医者に違いないと思うが、それらしい台詞はいまだにない。もしかしたら薬剤師かもしれないし。正弘との関係も判然とせず。今後も楓の動向に油断はできない?!
 大吾のやりたい仕事は、進路指導中に突如小学校の先生に決定。そんな大吾に謝ろうと島根に向かった杏の前で、椎香は大吾に大胆キス。バイト先に差し入れ攻撃に出るも大吾に拒絶されると、

椎香「だって、来たいんだもん」

とは何たるファムファタルぶり!
 そんな椎香は藤の父親だと思われていた高杉(曽我悠多)が実は自らの父親だった事実を知り、飛び降り自殺しようとする。それもこれも

椎香「杏ちゃんのせいだけんね」

と集約されてしまうと、またまた杏は母・の死を思い出さないではいられない。経済的理由も重なって、東京の大学進学はおろか、先生になるという真新しい夢までも捨てると大吾は言い放つも、すべては自分と一緒にいるためと聞かされるとやる切れない気持ちにもなり、ついに杏と大吾は別れることになる。結局は別れたり仲直りの繰り返しなのだが。(麻生結一)

第6週(2007年4月16〜20日放送)

☆☆
 「あの時こうしていれば」、という大人・杏(佐藤めぐみ)の後悔の問答はさらに続く2007年26歳冬。最初で最後との懇願に断りきれずに藤(青柳塁斗)と遊園地に行った杏(小林涼子)は、別れを告げる藤の後ろ姿に、励まし続けた末に自ら死を選んだ母・美和子(伊藤裕子)を重ねてしまう。こうなってくると、消息不明の藤を猪突猛進に探そうとする杏を、大悟(佐野和真)とて止めることはできない。
 いったん島根に戻った杏に東京の友達・朝ちゃん(松山まみ)から藤の消息情報が。実は歌舞伎町のキャバクラに勤めていた藤を説得するべく、杏もそこに潜入してキャバ嬢・ジュンコ18歳になる。とはいかにもな展開だが、とにかく怖そうだった先輩キャバ嬢・遥(坂上香織)が実はいい人だったおかげで、藤は実家に帰る気になる。
 ところが、杏が藤に無理やり書かせた生きてるレターのメモ帳と、杏から渡された藤情報の紙が同じだったことで、杏が大吾に嘘をついていたことの跡がつく。大吾は杏に距離を置こうと提案、椎香(垣内彩未)も大吾をめぐって杏に宣戦布告とまたまた忙しくなってくる。(麻生結一)

第5週(2007年4月9〜13日放送)

☆☆
 1997年、待ちに待った夏休み。杏(小林涼子)が大悟(佐野和真)の待ちわびる島根に帰省するや、怒涛の微笑ましい、せつない、じれったいが連打される展開はここまでを見進めてくれば想像に難くないだろう。怒ったり、じゃれあったりの喜怒哀楽が繰り返されて、砂時計を絡めて週終わりに仲直り、いっそう深くお互いを思いやるまでに至るまでの話の運びは相変わらずに丁寧だ。
 いわゆるはまってしまうタイプのドラマなので、そういうテイストがお好きな方にはさらにたまらないドラマになってきているに違いないが、その気恥ずかしい展開が我慢ならないと思われる方も多いだろう。
 若者たちのエピソードに隠れてしまったけれど、父・正弘(羽場裕一)の課長昇進のお祝いに、杏が島根行きの旅費を切り崩してバッグを買ってあげるエピソードが泣かせた。結局、女医である黒木楓(渡辺典子)の横槍によって、正弘お父さんは杏の旅費を肩代わりしなければならなくなり、赤字になってしまうのだが。(麻生結一)

第4週(2007年4月2〜6日放送)

☆☆★
 とにもかくにもせつない気持ちになりたい、胸キュン(死語か、むしろ新語か)としたい方には、このドラマは強力にお薦めできる。大人・大悟(竹財輝之助)の婚約者・あかね(小野真弓)との文通に促されて、26歳の杏(佐藤めぐみ)が過去を振り返る構成はいいとしても、それを筆にしたため続けるとはどうにも大人・杏の心情を図りかねるが、

あかね「おかしなお願いかもしれませんが……」

と自覚はある模様。もちろん、この奇妙な文通関係とて、『麗わしき鬼』の「鬼子母神の子守唄」他に比べるならばかわいいものか?!
 1997年16歳春、東京と島根で遠距離恋愛高校生活をはじめた杏(小林涼子)と大悟(佐野和真)は、ことあるごとに揺れるのなんのって。当時、携帯もまだ高校生が持つほどには普及していなかったので、電話をどっちがきる、なんて話が成立するあたりもそのかわいらしさにうれしくなる。
 ここで二人のせつないポイントを列挙しはじめるときりがないも、その二人を圧倒するほどにせつなくなってきているのが、杏と同じく東京の高校に進学した藤(青柳塁斗)である。杏争奪戦に本格参戦した藤こそがこの第4週、もっともアピール度の高かったキャラクターだった。これまで悪人不在だったこのドラマにあって、杏を連れ立って会いに行った、もしかしかしたら藤の父親かもしれない高杉(曽我悠多)が心底の悪人面だったことも手伝って、杏との関係も含めた藤への同情は一気に高まる。
 大吾に「あぎゃんやつ」呼ばわりの楢崎歩(悠城早矢)は、コンスタントなみじめっぷりでは藤をもしのぐか。大吾とのかかわりが柔道着のみとは、恋愛アイテムとしてはあまりにもつらい。主筋がしんみりとしてるだけに、杏の誕生会を利用して藤の同級生・園田(柳下大)に告白しようとする美茅子(水落日加里)のエピソードは、元気のいいアクセントとして楽しく見られた。
 砂時計に過去として積もっていた思い出が、大吾との思い出だけじゃなかったことが鮮明になって、物語はさらにせつなくこんがらがっていくはず。繰り返しになるが、ドラマの隅々まで目新しさは皆無のドラマである。ただ、これも繰り返しになるが、せつなくなるポイントはとても手厚くてんこ盛りになっている。それにしても、中・高校生・杏役の小林涼子は菅野美穂と声が似てる。(麻生結一)

第3週(2007年3月26〜30日放送)

☆☆
 時折忘れてしまいそうになるが、この物語は2007年冬、26歳の杏(佐藤めぐみ)が過去を回想する形式をとっている。このパートの職場のシーンなどはいつもの愛の劇場風がちょっぴり垣間見られたりもするけれど、ほとんどの時間が費やされる回想される方はどこまでもしっとり調で、ふと見てる枠を忘れてしまいそうになる。
 1993年12歳の冬、母・美和子(伊藤裕子)が死を選んだ第1週、1995年14歳の夏、大悟(佐野和真)への告白に至った第2週と経てきて、第3週は中学卒業間近の1996年15歳秋、杏(小林涼子)が高校受験を控えたところから回想は再スタートする。
 杏と大悟がお互いに推薦受験のことを言い出せなかったりするイチャイチャ話は第2週と同じテンションで、ドラマはこのままある種の安定期に入るのかと思いきや、父・正弘(羽場裕一)が4年間の沈黙を破って唐突に登場。その途中、1977年の正弘と美和子の馴れ初め回想まで飛び出す。これは回想の中の回想となるわけで、そんな複雑極まりない構成は『芋たこなんきん』も真っ青のはずなのだが、これが複雑どころかむしろ単純明快にさえ思えるあたりに、いっさいのパターンを逸脱することのないこのドラマらしさを感じる。大変わかりやすいドラマだ。
 伊藤裕子が『太陽と雪のかけら』で主演を務めたならば、羽場裕一は『ぽっかぽか』シリーズ、その白衣姿から医者以外の職業は考えづらいがちゃんとした説明もない、ただ正弘の友人と説明される黒木楓役の渡辺典子は愛の劇場、ドラマ30、東海テレビと昼ドラ枠を網羅していると、昼ドラの常連が『麗わしき鬼』に負けず劣らずズラリと並んで、物語は杏の高校時代へと進んでいく。(麻生結一)

第2週(2007年3月19〜23日放送)

☆☆
 第1週で危惧した『白夜行』化は当然進行することなく、中学二年になった杏(小林涼子)と大悟(佐野和真)の喧嘩するほど仲がいい恋模様が気恥ずかしいほどにせつなく描かれていた。物語自体はこの手のピュア物からの逸脱があるわけもなく、目新しさは皆無なのだけれど、丁寧な語り口は好感が持てるところ。この丁寧な物語の進め方こそがこのドラマの最大の長所だろう。夏のキャンプのロケがそれらしく見えるところから想像するに、かなり前から撮影されていたのかもしれない。そういった丁寧の痕跡は随所に発見できる。
 花火や蛍といったいかにもキャンプ的な禁じ手アイテムも、これでもかとせつなさが連打されるこの青春メロドラマには似つかわしく思えた。歩(悠城早矢)のいたずらな宝探しゲームによって夜の道に迷う杏が、そんな自分を森の中で死んだ母・美和子(伊藤裕子)と重ね合わせるのはいくらなんでも大げさにも思えたけれど、その大げさもドラマになじんで見えるところは、誠実を極めるこの昼ドラのテイストゆえであろう。(麻生結一)

第1週(2007年3月12〜16日放送)

☆☆
 ドラマは2007年冬、26歳の水瀬杏(佐藤めぐみ)が成人式以来、5年ぶりに今度は同窓会に出席するために、かつてすごした島根を訪れるところからはじまり、列車から降りたつや、早々14年前の回想になる。12歳の杏(美山加恋)は母・美和子(伊藤裕子)とともに、東京から美和子の故郷・島根に移り住んでくる。北村大悟(泉澤祐希)、月島藤(川口翔平)らと仲良くなったのもつかの間、母・美和子は自殺してしまう。
 大悟演じる泉澤祐希が母殺し云々と絡みだすとやっぱり『白夜行』を思い出さずにはいられなくなり、さらにテーマ曲だって柴咲コウなのだからいっそう雰囲気満点になってくるのだけれど、もちろん今回はそういう話ではなさそう。杏の少女時代ばかりでなく、高校時代も描かれるとすると、大変な重層的なドラマになってしまうのだが、果たしてそこまでの分厚い物語が展開されるのだろうか。
 どちらにしても、通常はシチュエーション物しかやらないこの枠だけに、こういう読み物的なドラマが登場するとそれだけでもちょっと喜ばしい思いに。早々に死んでしまった母・美和子役の伊藤裕子が主演した『太陽と雪のかけら』や『永遠の1/2』あたりのテイストに近い雰囲気を感じつつ、それ以上の面白さになりそうな予感もあったりして。(麻生結一)

砂時計

TBS系月〜金曜13:00〜13:30
愛の劇場
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
企画:三島圭太
チーフプロデューサー:貴島誠一郎
プロデューサー:加藤章一
原作:芦原妃名子『砂時計』
脚本:武田有起、藤井清美、山浦雅大
演出:松田礼人、高野英治、塚原あゆ子
音楽:遠藤浩二
主題歌:『ひと恋めぐり』柴咲コウ
出演:水瀬杏…佐藤めぐみ、水瀬杏(中学・高校生時代)…小林涼子、水瀬杏(小学生時代)…美山加恋、北村大悟…竹財輝之助、北村大悟(中学・高校生時代)…佐野和真、月島藤(中学・高校生時代)…青柳塁斗、月島椎香…木内晶子、月島椎香(中学生時代)…垣内彩未、北村大悟(小学生時代)…泉澤祐希、月島藤…渋江譲二、進藤あかね…小野真弓、佐倉圭一郎…須賀貴匡、佐倉久美子…山口美也子、月島藤(小学生時代)…川口翔平、月島椎香(小学生時代)…山内菜々、北村広子…大島蓉子、北村賢司…武野功雄、月島志津代…栗田よう子、月島圭吾…乃木涼介、田崎遥…坂上香織、高杉恭一…曽根悠多、楢崎歩…悠城早矢、朝田リカ…松山まみ、平川実茅子…水落日加里、園田洋介…柳下大、北村瓜…笠菜月、鈴木典子…水野夏美、中原麻理子…佐野光来、大木武志…川畑寿真、上野真…府金重哉、加山育美…氏家恵、青木祐子…KANA、北村瓜(幼少時代)…吉原葵、山崎昭彦…佐藤二朗、漁師…左右田一平、水瀬(黒木)楓…渡辺典子、水瀬美和子…伊藤裕子、水瀬正弘…羽場裕一、植草美佐代…大森暁美