華麗なる一族

第7回(2007年2月25日放送)

☆☆★
 鉄平(木村拓哉)の情熱で成功間近に思えた高炉建設。しかし、父・大介(北大路欣也)の鬼気迫る執念は天を味方につけたかのようだった。高炉建設中の爆発火災。これが両者の運命をがらりと一変させた。そして時を同じくして鉄平は自分の出生の秘密を知る…。
 ここで高炉爆発とは思ってもみなかった。巧妙な筋書きだ。情熱が勝つか、執念が勝つか。すさまじい展開に驚くばかり。また、7回にいたるまで一度もそのテンションを下げることのないこのドラマにも脱帽だ。今後は舞台を法廷において父子の対決が繰り広げられるようだが、ますますテンションは上がるばかり。これほどまでに次回を待ちわびるドラマは久しぶりだ。(仲村英一郎)

第6回(2007年2月18日放送)

☆☆★
 いよいよ鉄平(木村拓哉)と父・大介(北大路欣也)の戦いが始まった。大介は阪神銀行を守るために鉄平が実権を握る阪神特殊製鋼を切り捨てることを決意する。それは鉄平と大介の戦いであると同時に、大介にとっては父敬介との戦いでもあった。高炉建設は無理だと信じる大介、高炉建設を絶対に実現しようと奔走する鉄平。どちらかが勝ちどちらかが負ける。そんな壮絶な親子の戦いが始まったのである。
 今回は鉄平が大活躍するシーンが多かった。周囲からの圧力を情熱と信念で乗り切ろうとする青年実業家の役を非常に好演していた。オチは大体想像のついていたものだったが、数百人の労働者を見て目を潤ませるシーンでは、思わず目頭が熱くなった。木村拓哉=キムタクの図式は破られたのではないかと思う。木村拓哉は良い俳優に成長した。主役級の共演者を横にしても、彼の存在は少しもかすむことがない。それだけでも十分な証明ではないか。(仲村英一郎)

第5回(2007年2月11日放送)

☆☆★
 自らのスキャンダルをリークした人物を探し出せぬまま大川(西田敏行)は息を引き取る。鉄平(木村拓哉)は大川の死の間際にきっと探し出すと約束する。父・大介(北大路欣也)がその張本人だと分かった時、鉄平は愕然となる。そんなとき、家族でキジ撃ちに出かけた際、鉄平の銃が大介の額を誤射してしまう事件が起きる。自分を撃とうとしたのかと疑心暗鬼の大介と鉄平の仲は決定的に深い溝ができる。
 ますます深まる父子の溝。徐々に露呈していく万俵家の秘密。猛烈な加速度でストーリーが進行している。一瞬も目を離せないドラマだ。(仲村英一郎)

第4回(2007年2月4日放送)

☆☆★
 銑鉄の供給を名古屋の第一製鉄からもぎとった喜びも束の間、帝国製鉄から通産省への横槍が入り、再び供給ストップの窮地に立たされる鉄平(木村拓哉)。鉄平を救ってくれたのは義父でもある元通産省大臣大川(西田敏行)だった。大川は病床の身にも関わらず、通産省に出掛け、その権力を活かして阪神特殊製鋼への銑鉄供給を再開させる。病院に戻るクルマに乗り込む大川。その姿を感謝の気持ちで見送る鉄平。
 一方、父・大介(北大路欣也)は三栄銀行から闇献金を受け取っているという大川のスキャンダルを聞きつける。そして三栄銀行からの吸収合併を防ぐべく、そのスキャンダルを非情にも新聞にリークする。こうして大介と鉄平は親子でありながら、血で血を洗う戦いの渦に巻き込まれていく。
 今回の注目すべき俳優は、西田敏行であった。鉄平を実のわが子のように見つめる視線には本物の愛が感じられた。通産省から病院に戻るクルマの中で鉄平に見せた視線はまさに親子のそれだった。西田敏行は名優であるという認識を強くさせられた。
 西田敏行ならず多くの芸達者な役者に囲まれ丁々発止の掛け合いがあるものの、木村は一歩も引けを取らず、夢に燃える若手実業家をうまく演じている。木村の健闘に拍手を送りたい。(仲村英一郎)

第3回(2007年1月28日放送)

☆☆★
 父・大介(北大路欣也)が頭取を務める阪神銀行は、阪神特殊製鋼高炉建設への融資を50%から40%へと、10%の減額を決定した。額にして20億円。鉄平(木村拓哉)の抗議を大介はにべもなく退け、鉄平は窮地に立たされる。阪神銀行からの融資を諦めた鉄平は、東京へ向かい都市銀行回りをするが、どこも受け付けてくれない。妻(長谷川京子)の勧めもあり、鉄平は義父でもある元通産省大臣大川(西田敏行)の元へ。鉄平の窮地を知った大川は「三協銀行」への紹介状を鉄平に渡し、その一通の紹介状のおかげで「三協銀行」は10億円の融資を承諾する。そして、残り10億円の調達に困り果て、意気消沈した鉄平を励ましたのは、元恋人の芙佐子(稲森いずみ)だった。気を取り直した鉄平は、唯一残された最後の砦、大同銀行頭取・三雲(柳葉敏郎)に融資を願い出る。銭高常務(西村雅彦)の小賢しい嘘に立腹していた三雲だったが、鉄平の高炉建設にかける情熱に改めて心を動かされ、10億円の融資を最終的には引き受ける。難産の末高炉建設実現が決定し、喚起に沸く従業員に囲まれた鉄平は、満足な顔を見せる(喜色満面の笑みを浮かべる・・とかでもいいのでは)のであった。
 一方、父・大介は大蔵省の推進する金融再編という戦いに明け暮れていた。「小が大を食う」ためには預金高を都市銀行の中で9位にまで上げなければならない。大介は、万博景気に沸く大阪周辺をターゲットに目標預金高の上方修正を各支店長に告げる。支店長たちの必死の健闘で目標額は達成したが、過労による犠牲者まで出てしまう。
 今回も一瞬の気も抜けない展開であった。基本的に経済小説を軸にしているのだが、視聴者にわかりやすく噛み砕かれていて好感を抱ける。大介と鉄平という熱い情熱にあふれる二人の性格は対照的。今回のストーリーで緊張を解いてくれたのは、鉄平と芙佐子の再会のシーンだ。数少ないセリフだったにも関わらず、二人の過去の関係がよくわかる秀逸なシーンだった。稲森いずみの演技も自然でとてもよかった。しかし、芙佐子の存在は鉄平にとって吉と出るのか凶と出るのか。
 今回で第3話が終了したわけだが、ここまでの出来は想像以上に上々である。今後もこのテンション・質の高さを維持してもらいたいと願う。(仲村英一郎)

第2回(2007年1月21日放送)

☆☆★
 初回放送からなんとなく気にはなっていたのだが、高須相子役の鈴木京香が凄い。2回目の放送を観て確信した。彼女抜きではこのドラマは語れないだろう。
鈴木京香は、主人公鉄平(木村拓哉)の父・大介(北大路欣也)の愛人役なのだが、その役柄と演技の相乗効果で、迫力が半端ではない。主役の鉄平すら食ってしまう存在感をかもし出している。相子は大介の愛人であるとともに万俵家の閨閥(けいばつ)を仕切る、いわば万俵家の政治家である。閨閥、そして大介の不実を憎む鉄平にとって相子は許しがたい存在であり、その意味では相子はこのドラマでは非情なる「悪女」なのだ。だが、その悪女ぶりに見惚れてしまうほど役作りの完成度が高い。このドラマのジョーカーは高須相子、すなわち鈴木京香と言える。
 ストーリーは高炉建設に奔走する鉄平と金融再編に立ち向かうべく策略をめぐらす大介の話が軸だった。そしてその二つの軸は鉄平の出生の秘密という因縁がもとになり複雑に絡み合い、さらに高須相子が拍車をかける。
 初回と同じく濃密に凝縮された回であった。次回を楽しみに思える久しぶりのドラマである。(仲村英一郎)

第1回(2007年1月14日放送)

☆☆☆
 初回視聴率が関東地区27.7%(ビデオリサーチ社調べ)、関西地区30.5%(同)と好発進。前評判通り今クール一番の話題作となりそうな勢いだ。「華麗なる一族」のタイトルにふさわしく、脇役陣も主役クラスの俳優が集結しており、まさに「華麗なるキャスト」。キャストのみならずセット・美術にも映画並みの贅をつくされ、TBSの本気度が窺い知れる。原作は、「白い巨塔」「不毛地帯」「沈まぬ太陽」などの社会派作家・山崎豊子の同名小説(1973年発表)。原作は阪神銀行頭取・万俵大介が主人公であったが、ドラマは大介の長男・鉄平を主人公に翻案。
 時は1960年代後半。舞台は大阪万博を間近に控え高度成長真っ只中の神戸。万俵鉄平(木村拓哉)は父・大介(北大路欣也)がオーナーを務める万俵財閥の主力企業・阪神特殊製鋼の専務として実質的な経営権を握り、その情熱を新製品の開発に注いでいた。鉄平の考案する新製品は世界にひけをとらないものばかりだったが、それは同時に同業他社の脅威でもあった。特に帝国製鉄は銑鉄(純度の高い鉄の塊)の供給停止など様々な妨害策を立て、阪神特殊製鋼の躍進を阻もうとする。製品開発には欠かせない銑鉄を自社でも製造するためには念願の自社高炉の建設しかないと決断した鉄平は、阪神銀行のオーナー頭取でもある大介に250億円の融資を願い出た。しかし大介には、大蔵省の推進する金融再編の波に揺れる阪神銀行の行く末の方が案じられて仕方なかった。預貯金高第10位の都市銀行である阪神銀行が大銀行に合併されるのは時間の問題だったからだ。大介は「小が大を食う合併」を企てようとする。その一方で大介は鉄平の出生に関して疑念を抱いていた。風貌のみならず、その高い理想と行動力は祖父・敬介に生き写し。やがてふとしたきっかけからその疑念は確信へと変わる…。
 冒頭にも触れたように、これはTBSの威信を賭けたドラマと言って過言ではないだろう。その意気込みはすべてのシーンから伝わってくる。主演の木村拓哉もその期待をがっちりと受け止めた演技で申し分なく、一皮むけた役者に変貌を遂げたと実感した。脇役陣もしっかりとその役割を果たしており、欠点をあげることすらできない。この初回の出来映えをそのまま最終回まで維持できたとするなら、ドラマ史上に残る傑作となるかもしれない。(仲村英一郎)

華麗なる一族

TBS系日曜21:00〜21:54
日曜劇場
製作著作:TBS
制作:TBSテレビ
企画:瀬戸口克陽、植田博樹
プロデューサー:福澤克雄、石丸彰彦
原作:山崎豊子
脚本:橋本裕志
演出:福澤克雄、山室大輔
音楽:服部隆之
ナレーション:倍賞千恵子
出演:万俵鉄平…木村拓哉、高須相子…鈴木京香、万俵早苗…長谷川京子、万俵銀平…山本耕史、万俵二子…相武紗季、美馬一子…吹石一恵、美馬中…仲村トオル、津村鷹志、鶴田忍、佐野史郎、鶴田芙佐子…稲森いずみ、鶴田志乃…多岐川裕美、一之瀬四々彦…成宮寛貴、一之瀬工場長…平泉成、中丸新将、渡辺寛二、銭高常務…西村雅彦、綿貫千太郎…笑福亭鶴瓶、金田明夫、和島所長…矢島健一、田中隆三、鼓太郎、大川一郎…西田敏行、大亀専務…武田鉄矢、永田大蔵大臣…津川雅彦、三雲祥一…柳葉敏郎、万俵寧子…原田美枝子、万俵大介…北大路欣也