ヒミツの花園

第11回(2007年3月20日放送)

☆★
 画家にしろ作家にしろ作品を創造、生み出す者にとって“人のアイデアを盗む”という行為がどれだけの罪なのか、自分を含めた周囲にどれだけの影響を与えることなのか…残念ながら私には理屈以上の実感としては理解できないが、まぁ結局そういう事を悶々と一人悩んでいた長男・航(堺雅人)のネガティブな、もとい“繊細な”思いが「ヒミツ」となって物語を11話も引っ張ってくれたわけである。もちろん当事者達にとっては兄弟の血の繋がり云々も、その父親同士が盗作をした者・された者という複雑な間柄だったことも「大問題」には違いないだろうが、その大問題ぶりと視聴者(少なくとも私個人)の共感度には少なからずギャップを感じずにはいられない。
 こちら側との温度差はさておきながら、ドラマはエピローグとなり、兄弟達は絆を再確認したところで、それぞれが自分の夢を叶える為に花園ゆり子を解散し、独立・自立しようという展開に。口火を切ったのが四男・陽(本郷奏多)。イギリスへ古典文学の勉強をするために留学するらしい。次男・修(池田鉄洋)は本来描きたかった少年漫画に再挑戦、三男・智(要潤)はマンションを出て一人暮らしをしながら引き続きマネジメントの仕事に励む予定で、長男・航はもう一度絵筆を持つ決意と共に夏世(釈由美子)に対する想いも告げた。意表を突かれた事は一つもなかったが最終回には相応しい締め括り方だろうなと思う。
 それにしてもこのドラマは本当に何を描きたかったのか。編集者・月山夏世の成長?恋愛?或いは、その彼女を軸に影響を受けて変化・自立していく花園ゆり子こと片岡兄弟?まぁ…いずれも描かれていなかったとは言わないが、広く浅くあっちもこっちもと半端にエピソードを並べた結果として逆に印象に残るエピソードがなくなってしまったのでは、と思うと残念。当初キャストや設定を各情報雑誌で読んだ際に、もう少しスピード感やドタバタ感のあるコメディと期待した私自身の思い込みがドラマに対する低い評価に繋がってしまったとも言えるが、その辺りはご勘弁願いたい。これでも毎週「来週こそは盛り上がって来るだろうか?」とかすかに期待はし続けたのだ。
 しかしながらそのドラマのテンションが最終話まで限りなくフラットなままだったというのも、過激な設定・展開の多い作品が増える中ではある意味珍しく、むしろそのふんわり、まったりとしたテイストこそがこのドラマの目指すカラーだったのか?と最後に来てふと思ってしまった。
 最後に訂正。美那絵(滝沢沙織)を怪しく見守る謎の男(神保悟志)は刑事だったようで。という事は何話か前に小料理屋のカウンターで落としかけた銃は本物?おもちゃだとばかり…失礼。(綾瀬まき)

第10回(2007年3月13日放送)


 陽(本郷奏多)が他の兄弟達と血が繋がっていない事を知ってしまった前回の出来事の後にどういったやりとりがあった結果かはわからないが、夏世(釈由美子)は花園ゆり子の担当に復帰し、片岡家にはまたいつもの賑やかな雰囲気が戻っていた。夏世と航(堺雅人)のいいムードに触発されたらしい修(池田鉄洋)が憧れの美那絵(滝沢沙織)と遊園地デートをするエピソードなども盛り込まれていたが、その航達、周囲に影響を与えるほどのいい関係に発展しているように見えただろうか…。いやこの二人に限らない。全体的に何となく緩い。亮子(真矢みき)と一郎(寺島進)の関係が「花園ゆり子」が誰かという誤解が解けたからと言って急によりを戻す方向に向かったのも残念で、無論結果的にそうなるのはいいが脇役だからこそもうちょっと「遊び」があってもよかった気がする。せっかくの個性派役者がキャスティングされているのにもったいないなぁ、と。
 智(要潤)の夏世に対する想いもそう。あっさりし過ぎ。ひと言でフラれて笑顔で納得している心の裏では酷く傷ついているかもしれないが、それが見ている者に伝わってこなければ深みは生まれない。(このドラマにすでに“奥行き”は必要ないのか?)
 さて、花園ゆり子の盗作疑惑の浮上は、画家であった父親(山本圭)がかつて陽の実父の作品を盗作していた、という事件へ繋ぐ為の振りにすぎなかったが、この時点で何が「ヒミツ」だったのかすっかりわかってしまう展開は…どうなんだろう。あと1話残っているがいいのだろうか。来週は1時間かけてエピローグにするつもりだろうか。(綾瀬まき)

第9回(2007年3月6日放送)

☆★
 夏世(釈由美子)が花園ゆり子の担当を外された。航(堺雅人)が出版社に男性編集者への変更を申し入れたからだ。ショックを受けつつも航の真意を察した夏世は、その配置替えを社の命令と割り切って受け入れることに。一方、片岡家には蛍湖出版の編集者・畑中(岸博之)が新たな担当としてやってきたが夏世とは違う高圧的な態度に智(要潤)や修(池田鉄洋)達は不満を隠せない。何とか夏世を呼び戻したい智や修の説得も失敗に終わり諦めかけた矢先に陽(本郷奏多)が動いた。夏世を遠ざけた理由が「兄弟の秘密を守るため」であり、その秘密が自分の出生に関する事だと勘付いていた彼は逆に兄達の思いが重荷になっていたのだ。これ以上自分の為に兄達が犠牲を強いられるような生き方をして欲しくない、だから本当の事を教えて欲しいと、上がりこんだ夏世の部屋で迎えに来た航達に涙ながらに訴える陽。その思いに航が口を開いた。「陽、お前は俺たちの本当の弟じゃない。」
 まぁ、そういう事だろうというのは想定内。では何故そこまで?というのが最終回にむけての最大のポイント。彼らの父親・片岡亮(山本圭)が病床で航に告白した「何か」がその秘密らしいが、頼むから「そう来たか!」と思わず唸る過去や理由が欲しいところでもある。…とは言えこのドラマのこれまでのテイストを考えるとあまり過激な設定もかえって陳腐か。
 ドラマの出来としては残念ながら相変わらず消化不良な印象。一郎(寺島進)と亮子(真矢みき)のせっかくの熱い掛け合いも、みすず(松岡璃奈子)の不可思議な笑みも、小料理屋のカウンターで男(神保悟志)がゴロリと拳銃(玩具)を落とす意味深な行動も一体何の為やら。それでも★を減らさなかったのはただただ陽の泣き顔が可愛かったからである。あの顔で泣かれたら夏世じゃなくても「泣いていいよ。」と肩を貸したくなるというもの。今週はいつも以上に客観性を欠いた感想になってしまった…ご容赦。(綾瀬まき)

第8回(2007年2月27日放送)

☆★
「少女の夢を壊した!」という色付けで書かれた花園ゆり子の正体を暴露する記事が週刊誌に掲載された。それを取り上げたワイドショー番組をTVで見て驚く片岡兄弟。リークした田丸編集長(田中哲司)の目的は話題性による雑誌の売上増を狙ったものだったが、このままでは「花園ゆり子」のイメージダウンになると、騒動の沈静化を口実に、そして1回だけという条件で取材の承諾を取り付ける。しかしその特集は狙い通りのフィーバーを巻き起こし「花園ゆり子」の周辺は俄に騒がしくなるのだった。「個人」が注目される事で興奮を隠せない修(池田鉄洋)、元来目立つことが嫌いではなさそうな智(要潤)、困惑の陽(本郷奏多)、そして兄弟達の本音が見えてきた事で、これまで保ってきた平穏とバランスが崩れ始めている事態に不安を隠せない航(堺雅人)。航は何を守ろうとしているのか、一度きりの約束だった筈の取材のオファーを持って来る夏世(釈由美子)に冷たく言い放つ。「迷惑です。もうここには来ないで下さい。」
 花園ゆり子の正体が世間に知れるという展開、無論視聴者は最初から知っているのだから、それ自体がメインでないのはわかるが、それにしても盛り上がりが今ひとつで残念。航の葛藤や夏世の必死さを出したいのなら、むしろコミカルなシーンを省いてでもここはグッと内面に踏み込んだ脚本と演出でもよかったような気もするけれど。
 ところでここにきてちょっと思ったのが、このドラマ、実に映像(と音)が「すっきり」しているという事。と言っても誉め言葉ではなく「スカスカ」という意味。例えば蛍湖出版社のコミック編集部。田丸編集長の背後には広い窓からいつも青い海が望めて室内も明るくデスクも資料も整然。美しい事務所は理想だが「イメージ」の問題としてあまりにも編集部らしくないと感じるのは私だけだろうか。兄弟が住む高級マンションもちょっとカメラを引くと大衆スーパーの看板が見えたりしていてこれも興ざめ。(量販店が悪いと言っているのではない)。リアル=良質とは思わないが出演者の芝居が引き立たない原因がこういう部分にも少しあるような気がした。要は作り手の意気込みの問題、とでも言おうか。(或いは予算か?)
 次週は陽が何やら思い切った行動に出るような予告だったが、個人的には夏世が編集担当になってからの彼の地味ながらも変化していく様は見ていて興味深い。兄弟の秘密にも絡む張本人の活躍の予感に軽く期待しておこう。(綾瀬まき)

第7回(2007年2月20日放送)

☆★
 花園ゆり子の人気作品「忍法アラベスク」のドラマ化の話が舞い込んだ。主役を演じるタレントの大ファンだという片岡家の修(池田鉄洋)は大乗り気だが、一方「原作を越えたドラマはない。」と陽(本郷奏多)は消極的。とりあえずマネージャーとして話を聞こうという智(要潤)に、航(堺雅人)は任せる、とそっけなく、この意見のバラバラな兄弟たちと番組プロデューサー(光石研)との間に立って、何とかこの話を成功させようと張り切るのが今回の月山夏世(釈由美子)の役どころだ。ところがあまりにも原作とかけはなれた脚本が用意されていた事に夏世が妥協できず、その態度に怒ったプロデューサーがオファー自体を撤回してしまうという展開に。責任を感じて落ち込む夏世を「貴女は作品を守ってくれたんでしょう?」と優しく航が慰めるあたりでようやく「おっ?恋愛モード突入か?」と僅かに期待したものの、田丸編集長(田中哲司)がリークしたらしい「花園ゆり子の正体は男?!」というような週刊誌の記事がかぶって「続く」となった。
 このドラマ、ハートフルコメディと言う割には笑いの部分も、ホロッとさせるような暖かいエピソードについても印象に強く残るエピソードが殆どなく、またヒロイン一人に対してあれだけの個性的な男性が周りを囲んでいるのに「恋愛」の描き方もかなり消極的。視聴者の好みは別としてもドラマとしての「売り」のポイントが絞れてないのが理由ではと思うがどうだろう。兄弟たちの「ヒミツ」に関しても上の3人と陽との間に何かあるのだろうなぁ…くらいの事は想像に容易いし。せっかく亮子(真矢みき)が片岡兄弟4人を前にコミカルな芝居を見せても、ストーリーの中では空回りしてしまうのが残念。
 ヒミツといえば、小料理屋の女将・美那絵(滝沢沙織)と何らかの関係にあるらしい男(神保悟志)はなんなのだろう。いきなり頭に雪を積もらせてきたり、店で唐突に泣き出してみたり…笑わせたいのか、それとも何か重要な事実を握ってるキーパーソンとして温存しているのか?(…とは到底思えないが。)
 次週は彼らの正体がバレたことで巻き起こる騒動に期待。少しはパンチの効いた展開になると嬉しい。(綾瀬まき)

第6回(2007年2月13日放送)

☆★
 編集者・田中一郎(寺島進)が片岡兄弟の前で土下座をしている。出版社の副社長夫人が「花園ゆり子サイン会」の開催を強引に決めてしまい、立場上断れない彼はイベントを引き受けてくれないかと航(堺雅人)等に頭を下げに来たのだ。智(要潤)は難色を示すが、「花園ゆり子」の才能をいち早く見出し、今の地位へと導いてくれた恩人でもある田中の頼みを断る事に心が痛んだ兄弟達は、とある案でそのサイン会を乗り切ろうと計画した。「替え玉」である。そしてその「花園ゆり子役」として白羽の矢が立ったのが月山夏世(釈由美子)だ。無論、彼女は無理だと拒否するが、代わりに新連載を描いてもいいという好条件につられ承諾。その日から、サインの練習、“本人”のプロフィールの暗記、言葉遣い、歩き方に至るまで…必要なのか?と思うような内容の特訓が開始され、いざ本番当日を迎える…。
 例えば田丸編集長(田中哲司)と横に並ぶ同僚編集者達の小芝居は相変わらず可笑しいし、亮子(真矢みき)や夏世の表情、兄弟達のアドリブめいたセリフのやりとりに「うまい!」と思う部分はあるのに、ドラマ全体を通して見ると何故かそれらが流れに繋がらないもどかしさがある。いつもある。逆に言えばその「流れと勢い」さえあれば、サイン会のイベント会場「花園町」に、亮子ら「月刊石仏」の社員が“偶然”取材旅行で訪れるなどという、ご都合主義な脚本にケチをつける気は起こらないのだが(むしろコメディにおいては1つの場所にバタバタと人が集まってしまうシチュエーションは歓迎だ)…気付くと粗さがしに走ってしまうようなテンションの低さには後半戦に向けての不安が募る。
 結局、イベントの直前に舞台袖で出会ったファンの少女へニセのサインをした事に気が咎めた夏世は集まったファンの前で自分が花園ゆり子ではないと白状しまう。騒然とする会場。その会衆の前に立ったのが航で、彼は「本人急病説」を打ちたて、代わりに自分達による似顔絵描きなどのサービスで場を収拾してくれたのだった。その一部始終を眺めていた亮子は「あの人達が花園ゆり子なのね。男だったのね。」と静かに田中に詰め寄る。それは確かに見ていれば分かる事だが、ここまで色々な秘密ネタを引っ張っておきながら予想外にあっさりとバレて行く様はあまりにも拍子抜け。他に小料理屋の女将・美那絵(滝沢沙織)や、美大生・みすず(松岡璃奈子)など登場はあるのに、なかなか中心部に絡んで来ない人達の役割も心配。ただの通りすがり的脇役で終わるとも思えないのだが…この辺りはいかに?(綾瀬まき)

第5回(2007年2月6日放送)

☆★
 片岡家では智(要潤)が家を出てしまっていた。(先週の放送で)夏世(釈由美子)が放った批難の言葉が原因だったのか、さらに兄弟の面倒をみる自分の母親的立場にうんざりしていたのか、少し距離を置きたいと言う口実で高級ホテルのスウィートに一人部屋を取りつつも所在無く過ごす智。その一方で残された兄弟達は彼らの生活全般の乱れもさることながら、漫画家・花園ゆり子のマネージャーとして唯一表に立って営業的な仕事をしてきた智がストライキを起こした事で、スケジュール一つわからなくなるような有様に陥っていた。今回は「漫画を描く」という技術や才能を持たない智が、それでも実は兄弟の誰よりも花園ゆり子の漫画を愛していて、だからこそポリシーを持ってバックアップ役を必死にやってきたというこれまでの経緯と、だからこそ花園ゆり子の一人としてなくてはならない存在なのだという事を皆が再確認する話、であった。
 ただ、ホテルでの兄弟同士の口論、鍋パーティーの提案・準備、子供時代の思い出話など、構成するエピソードはそれなりにあったのにメリハリに欠け全般的に散漫な出来。特に修(池田鉄洋)や夏世らが智と仲直りするきっかけの為に自宅で鍋パーティーを開く一連のシーンは結果的には食材の買い物途中で出くわした亮子(真矢みき)が強引に彼らのマンションに押し掛け、しゃぶしゃぶ指南をし、酔った勢いで自分と田中一郎(寺島進)とのかつての関係を暴露しただけで終わってしまっている。亮子と田中、そして花園ゆり子の関係性を当人達が知る展開はどこかで必要だろうし、また彼女を“笑える迷惑キャラ”として見せる意図もあっただろうから、それはそれでいいが、主軸からは外れた場面だけに長過ぎたのがただの時間稼ぎに思えてしかたなかった。(…そうだったりして。)ちなみに亮子の“空気を読まないマイペースぶり”は笑いを誘うにはギリギリな感じで、むしろ鬱陶しく…これも残念。それから時々ふらりと現れる美大生・みすず(松岡璃奈子)の唐突な航(堺雅人)に対する告白が意味不明。4兄弟(特に航)に対して何らかの影響を与える役回りなのだろうけど、そこまでの魅力は未だ感じられず。
 このドラマ、回を重ねて行く間に徐々に安定飛行に入るかと思いきや、なかなかそれも難しいようだ。しかも主役の月山夏世の行動・言動が相変わらず印象に残らない。脚本か、演技力か、個人的な興味の問題か…このオーラの無さはどこに問題があるのだろう。
 さて、オマケに今話の絶賛ポイント。兄弟の子供時代の回想シーンで次男・修役を演じた子役があまりにも池田鉄洋に激似で大笑い!これは要チェック。(綾瀬まき)

第4回(2007年1月30日放送)

☆☆
 陽(本郷奏多)にからかわれた挙句、智(要潤)とキスしそうになった事や、航(堺雅人)と抱き合うハプニングがあった事で、花園ゆり子の仕事場にも何となく行きづらくなってしまった月山夏世(釈由美子)が原稿の受け取りに使った手段が「バイク便」とは…世間の出版業界の実情はいざ知らず、編集者としての夏世自身の仕事に対するモチベーションの低さと甘さは相変わらずである。この主人公が今後どんな風に成長していくのだろうという興味が未だに持てないのは単に同性故の厳しさか?例えば失敗ばかりのダメなキャラクターであっても、主人公である以上は視聴者の記憶に留まる何らかの魅力(やたらに元気とか人懐っこいとか…)があっても良さそうなものだが、その点でどうも今ひとつ印象の薄さが拭えないのだ。最終的には仕事や恋愛を通じて変わっていく(…と思われる)彼女の描写を効果的に見せる為の「落差」であり「手段」だと言うのならいいのだが。
 さて、花園ゆり子こと片岡家。こちらは多忙なスケジュールをやり繰りして空けたたった半日の休暇を「ハワイアンセンター」で過ごすという家族旅行を明日に控え修(池田鉄洋)を筆頭に盛り上がっていた。生活水準を見れば実にささやかなレジャーだが、漫画の仕事で莫大な財産を築きながらも、実際にはそれを使う暇もない彼らにはそれでも大切な家族のイベントらしいのだ。にもかかわらず智が不参加となる。原因は飲んで朝帰りをした彼に対し夏世が言った「皆が原稿で忙しい中、一人出歩いて女性に現を抜かしている自分が恥ずかしくないのか。」という言葉。二人は口論となり“仲良し兄弟”の絆にも綻びをもたらす結果となってしまうのだが、展開上ではこれが彼らのコンプレックスや過去の出来事に触れる引き金となる筈で、4話のラストをいい按配に中途な感じで止めていたのは次週への繋ぎ方としても良かったと思う。
 主人公に対する点数がどうにも伸びず先週より☆は減か…と悩むも、OP前の修を中心とした4兄弟のコミカルなやり取りにかなり満足できたので、その高評価と相殺して今回は据え置き。それにしても航をからかうべく「抱擁」と書いた半紙を高々と掲げ、隣の兄を細やかに観察しながらニンマリとする修の小芝居然り、マンションへやってきた夏世への意地悪な質問の畳み掛け具合然り…さすが池田鉄洋!という巧さであった。背後で航達が見せるベタな慌てふためきようにも大笑い。こういうテンポのいいシーンを最初から随所に散りばめてくれていれば、あらすじのお粗末さなどは多少なりとも誤魔化せたのに…とは暴言だろうか。(綾瀬まき)

第3回(2007年1月23日放送)

☆☆
 今週は花園ゆり子による初の「現代もの」少女漫画のネーム原稿を一読して、「ときめきが足りない!」と月山夏世(釈由美子)に叩き返す田丸編集長(田中哲司)のシーンで幕開け。極めて個人的な意見だが何を隠そうこの編集長が今の所一押しである。出番は少ないものの数ある登場人物の中でもっとも早くキャラを掴んだのはこの俳優ではと思える巧さに感心している。漫画チックな風貌もいい。惜しいのが田丸と常に絡む芝居をする主人公・夏世のパワー不足。今後、物語上で夏世が激しく掛け合うようなキャラへ成長するのだとすれば、実に見ものになりそうなのだが。
 さて、その田丸編集長に「作家の才能を最大限に引き出すのも編集者の仕事だ!」とネーム直しの依頼を命じられた夏世は早速仕事場へ乗り込んだが、花園ゆり子達のリアクションは至ってクール。「胸キュンしないんです!」と、たまらず啖呵をきった夏世自身も、そうは言いつつ仕事一筋だった昨今にはときめくような出来事も思い当たらず、「僕が納得するものを提案してよ。」と言うストーリー担当の四男・陽(本郷奏多)の要望にも言葉を詰まらせてしまう有様だった。
 “胸キュン”の疑似体験をすべく映画でも観たら、とアドバイスされ実行する展開の安易さについてはもう敢えて突っ込まないでおこうと思った第3話だか、しかしながら四兄弟や脇役陣を中心に、これまでの回にはなかった“ノリ”や、またそれぞれのキャラクターが確立してきている感じが随所に見られ、コメディ(ハートフルコメディという位置づけらしい)としてのリズムは僅かに出てきたようだ。欲を言えばもう少し軽快なテンポがあっても!と思うのだがどうだろう。
 結局、夏世は三男の智(要潤)を誘い、“お涙頂戴もの”の韓流映画を観に行く(ちなみにタイトルが「私の頭の中のクレヨン」…パロディは承知だが“描いて”どうする、とツッコミたくなってしまった)。誘った夏世の方は爆睡で、「つまらなさそう」と冷ややかだった智が号泣、というオチは、まぁ想定内か。
 この後二人で食事をし、マンションのテラスから夜景を眺め、まるでデートのごとく振舞う智にまんざらでもない夏世だったのだが、もうひと息でキスという場面で四男・陽が登場。この一連のエスコートが、ときめく様を見てみたいと彼が兄に打って貰った芝居だったとわかり、夏世は傷ついてマンションを飛び出した。その様子を見てしまった航(堺雅人)は、彼女が忘れていったコートを手に追いかける。夏世を傷つけてしまった事が気になる智、その夏世に心から謝る航、ふとしたアクシデントで抱き合う格好となった二人、その場面を偶然目撃した次男・修(池田鉄洋)…などキャラクターそれぞれの「想い」のベクトルがぼちぼち見え隠れしてきた。これ以上の☆をつけるのは正直厳しいが、見続けることで芽生えてくる「面白さ」という部分に漸く期待が持てそうな気がしてきた。(綾瀬まき)

第2回(2007年1月16日放送)

☆★
 単行本表紙の色校のチェックに花園ゆり子の仕事場であるマンションへやってきた月山夏世(釈由美子)。ところが「先生達」は修(池田鉄洋)以外不在でその彼も夏世に部屋の掃除を押し付けると出掛けてしまう。いずれにせよ三男の智(要潤)が戻らないことには原稿の確認ができないとあって、彼女は仕方なく言われた掃除をしながら待つことにしたのだが、途中でやってきたライバル社の田中(寺島進)から「花園先生に。」と手渡された花束をうっかり作業場に飾ってしまった事が今回の騒動となる。
 ここまでのあらすじで既に何が起こるかは想像に容易いだろうが、案の定、ふとした弾みで花瓶が倒れ、近くに置かれていた田中用の原稿が水浸しになるのだ。その後戻ってきた修がこれを発見して取り乱し夏世を責め立てる。担当している作家のマンガを読んだこともない、タイトルすら直ぐに言えない彼女の態度も引き合いに出し「そういうの(この仕事を)バカにしてるって言うんだよ!」と。修の非難に何も言い返せなかった夏世は、マンガ喫茶で「忍法アラベスク」を読み、再び彼らの元を訪ね、自分のこれまでの態度の非を認めた上で、それでも楽しみにしている読者の為に何とか描いて欲しいと頭を下げるのだった。
 彼女の正直な告白と熱意、そして兄弟達の協力もあり原稿は無事に描き直される。一時は担当をクビだと言われた夏世への宣告も取り消された。
 それにしてもいくら架空の物語とはいえ“原稿の側に花瓶”というシチュエーションは「あり」なんだろうか。自分が持ってきた花を飾っておけと言った田中(寺島)の発言もそもそもベテラン編集者としては有り得ないし、あくまで夏世の仕事に対する甘さやモチベーションの低さを指摘する為の“きっかけ”という位置づけだとしても「漫画」のみならず「原稿」を扱う出版社に勤める人間の発想ではないと思うが。この辺りの脚本の浅さがどうも気になって仕方がない。また亮子(真矢みき)が、「花園ゆり子」によってかつての恋人が自分から離れていった事を恨み「彼女」に異様な敵対心を持っていた事が明らかになったが、思いの外“普通”の因縁だったな、と苦笑。
 ただ、兄弟達の個性的なそれぞれの朝の様子を映し出した冒頭は、まさに漫画のようで面白かったし、彼らの会話にもようやくクスッと笑えるテンポが出てきて多少なりとも動き始めた感のある2話だったと思う。せっかく登場人物の繋がりを示唆する場面(例えば初回でスケッチをする航に声をかけた少女のボーイフレンドが、四男・陽と同級生だったらしいことや、二度目の偶然の衝突を果たした智と亮子などの今後など。)が挿入されているのだから、そういった歯車が途中で外れ落ちる事なく最後まできちんと廻り続けられるような計算された物語を見たいものだ。
 サイン会の開催を機に正体を世間に現してはどうかと提案する夏世の上司・田丸(田中哲司)に対し営業の智(要潤)は素性を隠す理由を、こう答える。

「男が描いた少女漫画に女の子が感情移入できると思いますか?」

そして田丸は言う。

「なるほど。でもホントにそれだけですか?」

どうか、その“本当の理由”が視聴者を驚かせ、かつ納得できるものでありますように、と田丸編集長と共に願う。(綾瀬まき)

第1回(2007年1月9日放送)

☆☆
 深夜の雑誌編集部。同僚がやり残した入稿準備作業をする月山夏世(釈由美子)。傍らでは秒針音が不気味に響き、やがて鳴り出すハッピーバースデーのアラームに夏世は大きく嘆息。曰く誕生日をまたもや一人寂しく会社で迎えてしまった、と。そんな自身の不甲斐なさに嫌気がさし「私の人生これでいいの?」と退職を決意した夏世だが、彼女を待ち受けていたのは担当するファッション誌の休刊発表とコミック編集部への異動だった。
 新部署で彼女が担当することになったのが人気マンガ作家の「花園ゆり子」。実は“彼女”の正体は長男・航(堺雅人)、次男・修(池田鉄洋)、三男・智(要潤)、そして四男・陽(本郷奏多)からなる4人兄弟で(“実は”という程の事もない…何せサブタイトルの通りだ。)それぞれの異なる才能を生かし共同で一つの作品を仕上げているいわば兄弟ユニットなのだが、そうとは知らない夏世は、出向いた先であれこれと言いつけられるコスプレやら買い物やらの我が侭な指示に遂に声を荒げてしまう。

「私は花園ゆり子先生に会いに来たんです!」

そして、それを受けた航(堺)がきょとんとして言うのだ。

「僕らが…花園ゆり子ですけど?」

物語はその後、原稿の今夜中の完成を頼みこむ夏世の熱意に根負けするような形で一件落着。朝は会社を辞めるつもりだった夏世が、もう一度頑張ってみようと思い直す所で“続く”である。
 今作は珍しくコミック等に原作を持たないオリジナル脚本。それだけに物語の舞台設定や登場する人物の紹介・相関をより丁寧に伝えておきたいという意図はわかるが、それにしても説明にウェイトがかかり過ぎていなかっただろうか。肝心のストーリーにはメリハリもなく、また「次はこうなるのだろうなぁ。」と読めてしまう展開ばかりだった。視聴者の興味を次週まで引っ張るだけのパンチがもっと必要だったのでは、と思う。
 個性的な四兄弟を演じるには不足のない役者をキャスティングしているし、寺島進や真矢みき、田中哲司などの脇役陣も悪くない。夏世の上司(真矢)と花園ゆり子との因縁や、兄弟達のコンプレックス・トラウマ、恋模様などこれから語られるエピソードの種は蒔かれているので、きちんと芽が出て花が咲くように次週以降は一気にエンジンをかけテンポ良くストーリーを転がして欲しいものだ。その期待を前貸しで☆2つ。(綾瀬まき)

ヒミツの花園

フジテレビ系火曜22:00〜22:54
制作:関西テレビ、MMJ
プロデュース:吉條英希、遠田孝一、伊藤達哉
脚本:永田優子
演出:小松隆志、二宮浩行
音楽:仲西匡
主題歌:『Baby Don't Cry』安室奈美恵
出演:月山夏世…釈由美子、片岡航…堺雅人、片岡智…要潤、片岡修…池田鉄洋、片岡陽…本郷奏多、美那絵…滝沢沙織、田中哲司、田中一郎…寺島進、川村亮子…真矢みき