母親失格

第13週(2006年3月26〜30日放送)

☆★
 慎一(佐戸井けん太)が突如末期ガン宣告を受けて死に、千弘(森本更紗)はすったもんだの末に出産しと、最終週でそれなりにまとまったようにも思えるが、3ヶ月間を帯で通して紡いできた話ならではの高みという印象ではなかった。物語としてはそれなりに起伏があったとも思うけれど、視聴者的に先の見えすぎる話が延々続いたり、そうかと思うとしっかりと説得力を持たせて描かなければならない部分がさらりと描かれすぎたりと、その進行スピードがどうにもちぐはぐな感じだったのは、再三指摘してきた通り。さらに、愚かだったかと思うと突然賢くなったりする(あるいはその逆の)キャラクターの一貫性のなさも、後半は特につらいところだった。
 それにしても、テレビ的タブー感のある性体験および出産の年齢は今や14歳なのだなあなんて、本筋とはまったく関係ないところに感慨を覚えずにはいられない。子どもを抱いた千弘、もとい森本更紗嬢のビジュアルはどちらかといえば痛々しく、やはり出産はいくらなんでも早すぎるでしょうと常識的な結論にたどりついてしまったりして。(桜川正太)

第12週(2006年3月19〜23日放送)

☆★
 弘美(芳本美代子)と千弘(森本更紗)の気持ちのすれ違いもここまで繰り返されるといったい何が問題なのかさっぱりわからなくなるのだが、それでも二人にとってはいかんともしがたいらしく、やがて手に手を取り合って自殺を選ぶ。そんな大決断に至るまでのあっさり味はもはや定番の域で、助けに来た千賀子(原千晶)がどう見ても近くでスタンバってたようにしか見えないあたりも、作り手が何かをあきらめてしまったようにしか思えない。“恐ろしいこと”をこうも何度も手を変え品を変えやっちゃう弘美が“母親失格”から“人間失格”へ格上げ(?)されるのにはちょっと笑ってしまったけれど。そして木曜分終盤からは倉本家に戻った千弘の「14歳の母」編に突入。千弘の妊娠が、弘美や千賀子や慎一(佐戸井けん太)にばれてしまうあたりも開き直ったようなあっさり味で、何だかここまで来ると小ネタ大会といった趣き。(桜川正太)

第11週(2006年3月12〜16日放送)

☆★
 千賀子(原千晶)が妊娠していなかったことも、弘美(芳本美代子)が妊娠したことも、あっという間に周囲の人に知られることになって肩すかし。本題はむしろ、弘美の妊娠を知った千弘(森本更紗)の疎外感にあったわけだが、それならば「お腹の子どもを千弘と交換してくれと弘美に頼む千賀子」なんてその場しのぎのネタに寄り道せず(ましてやそれで週またぎなどせず)、もっと誠実に千弘の心の動きをクローズアップすべきではなかったか。相変わらず肝心なところに限って心情を掘り下げることから逃げてしまうせいで、千弘が弘美のお腹を蹴るという展開が全く説得力を伴わず、唐突であざといだけにしか見えない。それで弘美が流産し、千弘を愛せない状態になってしまうというドラマティックさ自体は決して悪くないのだけれど、それにしたって千弘が“お腹の子を殺す”あたりは、もう少し別の、良い見せ方があったのではないだろうか。腹部をクリーンヒットするあのキックじゃあまりに直截的すぎて、視聴者としては情状酌量の余地がなさ過ぎる。罪を償おうと倉本家に戻ってきた千弘を弘美がいびったりする逆転の面白さも、これじゃ盛り上がらない。P&G提供のドラマで「タオルの汚れが落ちてない」なんてシーンをやった勇気は敬服ものかもしれないけれど。(桜川正太)

第10週(2006年3月5〜9日放送)

☆☆
 弘美(芳本美代子)が家族を捨てて保(比留間由哲)に走るまでが納得のいく形で描かれなかったのは今までさんざん述べてきた通りだけれど、何はともあれそこを出発地点として考えてみれば、一度は弘美に捨てられかけた千弘(森本更紗)の、弘美を愛すればこそ許せないという心情は理解できるし、確かに切ない。ゆえに、千弘のこの気持ちこそが軸となった話が展開された今週前半は、千弘と弘美に慎一(佐戸井けん太)も交えたそれぞれの切なさが交錯して、なかなかに見応えがあったように感じられた。倉本家における「最後の晩餐」で皆が許し合おうとするあたりなどは、もしかしたらこのドラマにおいてもっとも高まりを見せてくれた部分だったかもしれない。ちなみにそこに至るまでに、千賀子(原千晶)の元愛人・輝夫(中村譲)が久しぶりに絡んできて場を引っかき回すのはいかにも時間稼ぎ的ではあったが、その結果かつての構図が逆転したかのような「夜の女となってオヤジどもをもてなす弘美とそれを止める千賀子」というネタ的面白味のあるシーンが見られたのもまったくもって悪くなかった。
 そんなこんなで千弘とも慎一とも別れ、新天地に向かおうとした弘美だが、慎一の子を身ごもっていることが判明しその計画は流れてしまう。一方妊娠したと思ったら想像妊娠だった千賀子が、お腹の子を自分にくれと弘美に請う展開は、なるほどそう来たかとは思わせられたけれど、それにしたって千賀子が妊娠したと思い込み柊家の人々に誇らしげに発表するまでが短絡的すぎるでしょうよ。こういう細部を大事にしてくれれば、もう少し高みに行けるポテンシャルを持った話であっただろう。すでに過去完了形で言うしかないあたりが残念だが。(桜川正太)

第9週(2006年2月26〜3月2日放送)

☆★
 一度は保(比留間由哲)と駆け落ちしかけた弘美(芳本美代子)が、千弘(森本更紗)の事故を目の当たりにしてそれを取りやめるという展開がおかしいとは思わないし、その駆け落ち未遂が露呈してしまった結果、保との愛も千賀子(原千晶)との友情も、千弘や慎一(佐戸井けん太)との家族の絆も弘美の手からこぼれ落ちてしまう因果応報はそれなりにドラマティックではある。さらには千弘のテレビ落としに清美(銀粉調)&芙美江(一色彩子)の母親コンビの悪だくみに慎一のご乱心にと、ネタ的にも事欠かない一週間ではあった。それでもやっぱりどこか楽しめきれない気持ちが残るのは、先週分において、弘美が家族よりも保を選ぶ決断をする過程が説得力のある形で描かれなかったことが影響しているとしか言いようがない。そこが釈然としないから、弘美が慎一や千弘に訴える「改心」が本音なのか口だけのことなのかさえ視聴者には区別が付かないではないか。
 それにしても、気になるのは倉本家の近くにあるらしい海の見える喫茶店。以前マスターらしき人もちらりと登場していたし、かつては千弘も友達とよく来ていたことを思うと健全なお店のはずなのだが……。最近は弘美と保が密会に使ったりしていたので「人目はないのか?」と奇妙に思っていたが、今週金曜分においては慎一が千賀子に無理矢理キスしていたりして、一体どういう場所なんでしょうか。(桜川正太)

第8週(2006年2月19〜23日放送)

☆★
 登場人物の関係性が突然がらりと変わるのはこの枠のドラマの大きな面白味でもあるわけだが、だからといって登場人物の性格までがらりと変わってしまうように見えるのは困りもの。あまりに殊勝すぎる千賀子(原千晶)にしろ、その千賀子に対してあまりに熱烈すぎる保(比留間由哲)にしても、過去の描写を考えると到底受け入れられるものではない。加えて今週のメインの展開である、保が弘美(芳本美代子)に対しての思いを再燃させ、弘美がそれを受け入れていく過程もほとんど段取りばかりとなれば、見ている方のテンションは下がりっぱなし。倉本家の幸福の象徴のはずだったプリザーブドフラワーが鍋の中でぐつぐつ煮られる羽目になるあたりのオカズ的部分はそれなりに楽しめなくもないけれど、弘美が保のために倉本家を捨てようと決意するなどの重要な部分に限って薄味になるという致命的な欠点が相変わらず続いていて、この分ではもはやリカバリーは無さそうだ。(桜川正太)

第7週(2006年2月12〜16日放送)

☆☆
 店の借金という縛りがなくなってなお、千賀子(原千晶)のもとにいることを選ぶ千弘(森本更紗)と、そんな千弘を突き放して弘美(芳本美代子)のもとへ返す千賀子。登場人物達の主体的な気持ちの動きによって、ようやく面白い部分が出てきたかと思われたのがこの週の前半で、それは大いに結構なことであった。そしてドラマはいよいよ、実の父とは保(比留間由哲)であると千弘が知るというフェーズへ。ここでまたさぞ盛り上がると思いきや、勘の良すぎる千弘は保が父親ではないかと薄々感づいている上に、保の母・芙美江(一色彩子)が千弘にそれをバラしてしまう瞬間は直接的に描かれさえせず、本当にがっかり。確かに今更時間をかけるようなことでもないかもしれないけれど、それにしたってもう少しインパクトのある描き方がなされてもいいと思うのだが。
 その後、実の母にも実の父にも愛されずに生まれてきたと思いこんで傷ついた千弘の心を弘美たちが癒そうとする中、保が千賀子に突然プロポーズ。あまりの脈絡のなさに、源一郎(峰岸徹)ならずとも、なぜ?と言いたくなる。そこに至るまでの積み上げが、千賀子と保が酒を酌み交わすシーンだけではまったく足りてない。というわけで相変わらず薄味のままではあるが、新展開があっただけでも良しとすべきなのかもしれない。(桜川正太)

第6週(2006年2月5〜9日放送)

☆★
輝夫(中村譲)「埒があかねぇ。いつまでたっても行ったり来たりの繰り返しさ」

って、どうやら同じような話が続いてる自覚は作り手側にもあったようだが、またしても千弘(森本更紗)は弘美(芳本美代子)のもとを去って千賀子(原千晶)のもとへ、というわけでやっぱり話はループ状態に。まあ、今回は千弘が「自分の意志で」そうしたということになっているのがミソといえばミソで、そういう意味では多少は楽しめる部分もあったか。それにしても、倉本家の店が借金のカタに取られそうだというシチュエーションに関して、週初めは「店を手放して別の場所で再出発」なんて言ってる余裕があったのが、借金自体は変わってないはずなのに金曜分では「夜逃げしかない」という状況になっている理由がよくわからない。このあたりの描写の荒さが「ループ感」につながってるようにも思うのだが。
 時折挿入される、千賀子に母親としての何かが目覚めはじめているような描写は気になるところだが、質的に安定しないためドラマ性を深めるまでには至っていない印象。とにかく今は、保(比留間由哲)が実の父だということを一刻も早く千弘が知って、話が次のステップに進むことを祈るように待つのみである。(桜川正太)

第5週(2006年1月29〜2月2日放送)

☆★
 弘美(芳本美代子)が実の母ではないと知った千弘(森本更紗)がまたしても家を飛び出して(何度目!?)、千賀子(原千晶)のもとに身を寄せるも、千弘と弘美を「アミスタ」で引き合わせるという保(比留間由哲)の小粋な(?)はからいもあって、千弘は弘美たちと暮らすことを選び……と、あらすじだけを書き出せば大きく間違ったことが行われているわけでは決してないのだけれど、だからと言って面白いドラマかといえばそうは思えないわけで。登場人物の心情描写が薄味なのは第一部からずっと一貫していることだが、加えて起こる出来事も同じようなことの繰り返しとなれば、次週をお楽しみにと言われてもまったく食指は動かない。憂鬱なのは次なる展開への布石がまったく見えないこと。こんな話があと8週延々続くのならばそれは「母親失格」ならぬ「連ドラ失格」というところであろうし、ぜひここは踏ん張っていただきたいところ。(桜川正太)

第4週(2006年1月22〜26日放送)

☆☆
 話のペースが落ちるのは想定していた通りだけれど、結局のところ稼働しているネタが「千弘(森本更紗)の出生の秘密」ひとつだけなので、物語に深みが生まれるわけでもなく。千弘が実は自分の腹を痛めた子であるという千賀子(原千晶)の告白なども、(「紅の紋章」の全くタメのない告白シーンほどではないものの)意外にあっさりと流れてしまい、期待したほどの盛り上がり(あるいはその予兆でもいいのだが)はなかった。その千賀子が、もったいぶる割には正攻法でしか仕掛けてこないのも、外連味という意味では少々物足りないところ。そもそもタロット占いで悪いカードを引いてイライラしているようじゃ、悪役としては役者が不足している。
 終わったことを云々しても仕方ないが、やはり第一部における濃密な描写の欠如が、物語を着々と蝕んでいるようにも見える。弘美(芳本美代子)と保(比留間由哲)が愛し合う間柄だったことなんて、作り手もすでに忘れてしまってるのじゃなかろうかというぐらいの扱いだし。好意的に見るのも、そろそろ限界かもしれない。(桜川正太)

第3週(2006年1月15〜19日放送)

☆☆
 弘美(芳本美代子)が赤ん坊の千弘とともに千賀子(原千晶)のもとから出奔し、やがて中学生に成長した千弘(森本更紗)を交えて再会して緊張状態が始まるまでが、先週に引き続きよどみのない語り口で過不足なく綴られていくのだが、そのよどみのなさこそが薄味感につながっているのもまた相変わらず。とはいえ、ここまでは「生みの親と育ての親」という主題に持っていくためのいわばプロローグなわけで、視聴者としてはある程度展開が読めるそういう部分を、ダラダラしない形でやるのは確かにひとつの方法ではあるだろう。そうだとするならば、プロローグ後の「本編」が始まる(と思われる)来週以降が正念場と言えそうだ。今までは「中盤以降20年後となり、母となった千弘がその娘との愛憎関係を繰り広げる」という展開が待っているとしか思えない速いペースだったが、ドラマ中の時代がすでに2000年代であることを考えてもそれはないだろうから、きっとこの後は、ひとつひとつのエピソードを丹念に描き込むドラマになる、はずだ。(桜川正太)

第2週(2006年1月8〜12日放送)

☆☆
 スピーディな展開が無駄のない語り口で進められていく。それは大いに評価すべきことなのだけれど、あまりにも無駄がなさすぎるがゆえに物足りなく感じる部分があるのも事実。例えば、当初は利用するだけのつもりだった保(比留間由哲)を千賀子(原千晶)が本当に愛していたと認識するくだり。例えば、一度は千賀子の元を去った弘美(芳本美代子)と、家を捨てる決意をした保の愛の形。例えば、それでも千賀子が弘美を許し、子供を一緒に育てようと決心する過程。いずれも、決して展開の中で語られていないわけではなく、そういう意味での手抜かりはないのだけれど、心情的にいささか薄味なものになってしまった感は否めない。中でも弘美と保の関係に関しては、もう少し濃密な描写(ベッドシーンという意味ではなく)があるべきであったように感じられる。
 それでも、ふたりの主人公が互いに助け合い、そしてぶつかり合う様は、なかなかに絶妙なバランスで構成されているし、何気ない視線の動きなどで行間に意味を滑り込ませる演技的・演出的な技巧も感じられる。今後の展開と語り口しだいでは、高いレベルで楽しめる作品になる可能性もありそうだ。主演女優二人はいずれも劣らぬ熱演を見せてくれているが、なかでも原千晶さんの、嘔吐と嗚咽が混じり合ったシーンの迫力に、もしかしたらコレは今後何かしでかしてくれるかもしれないぞと期待が高まる。(桜川正太)

第1週(2006年1月4、5日放送)

☆☆
 たった2日分の放送ではほんの導入のみといった形ではあるけれど、ともに母親にトラウマを持ちつつもまったくタイプの違う弘美(芳本美代子)と千賀子(原千晶)というふたりのキャラクターは過不足なく描かれているし、その友情模様に不穏な予感を滑り込ませることにも成功している。奇をてらわない語り口であるにもかかわらず、第1回にして刃傷沙汰を起こしてみせるあたりもいかにもこの枠らしくてニヤニヤしてしまうところ。まずは好調な滑り出しというところだろう。(桜川正太)

母親失格

フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00
制作:東海テレビ放送、ビデオフォーカス
企画:鶴啓二郎
プロデューサー:市野直親、大久保直実、大越大士
企画協力:鎌田敏夫『二人の母』より
脚本:いとう斗士八、福田裕子、田部俊行
演出:油谷誠至、藤木靖之、大井利夫
音楽:遠藤浩二
主題歌:『The Rose』SunMin
出演:倉本(加藤)弘美…芳本美代子、柊(松下)千賀子…原千晶、柊保…比留間由哲、倉本千弘…森本更紗、倉本康代…三谷侑未、巻輝夫…中村譲、進藤若葉…寺田千穂、植村拓郎…内野謙太、篠田薫、安倍エレナ、橘ゆかり、阪本麻美、西慶子、由利尚子、大沼百合子、山咲としえ、夏映子、岩崎恵子、根本貴美子、木村小百合、千葉誠樹、浅見和俊、菊池真之、加瀬愼一、高橋ありえ、平井奈津子、眞継ゆわ、中村哲也、麻里万里、羽田陸生、村岡大介、先崎洋二、田子裕史、菅野達也、永井裕久、熊面鯉、下総源太朗、小倉馨、今井彰一、小杉幸彦、山田洋、岸本功、杉崎真宏、橋谷ゆかり、阿美朝子、湧田明子、倉本慎一…佐戸井けん太、加藤清美…銀粉蝶、柊芙美江…一色彩子、長谷部香苗、浅見小四郎、吉田祐健、岩田丸、浜口悟、今橋かつよ、弓田真好杜、浜菜みやこ、松本享子、及川達郎、名田佳史、黒澤翔、酒井尊之、成國英範、橋口恵莉奈、木下綾菜、山寺優斗、小田切美織、村山謙太、熊谷瑠衣、飯塚百花、小出幸果、吉田光希、秋山悠介、小林愛里香、鈴木夢、工藤日菜子、森崎未扶琉、矢作月奈、三瓶飛翔、安食舞衣、小室琉愛、高橋拓真、赤澤美沙子…左時枝、柊源一郎…峰岸徹