ハゲタカ
最終回「新しきバイアウト」(2007年3月24日放送)
☆☆☆★
銃に撃たれ倒れた鷲津(大森南朋)のその後も気になるけれど、まずは本編開始後わずか2分で大空電機がホライズンのもとでの新体制となり、塚本(大杉漣)が「前社長」になってるあたりの鮮やかな語り口に感じ入る。芝野(柴田恭兵)は新社長・大賀(松重豊)のもとでフェニックス計画を遂行することになるのだが、大賀が押しつけるリストラの実情は芝野の理想とは程遠く、その軋轢の果てに従業員・牛島(徳井優)が死ぬ。葬式に出た芝野は牛島の息子から追い返され、その脳裏に浮かぶのはかつての鷲津をやはり葬式で追い返した学生時代の三島由香(栗山千明)の姿だが、その由香は悔恨の涙を流す芝野を今度は静かに迎え、(いみじくも冒頭で本人が叫んだように)男達の戦いをつぶさに見てきた“身内”としての由香の存在意味も、ここに来て極まった。
その由香の言葉に導かれるように、今はリハビリに明け暮れる鷲津に芝野は会いに行き、軍需企業レンダント社に売却されようとしているカメラ・レンズ部門をともに救いたいと申し出る。かくしてここに、ついに芝野&鷲津のドリームチームが発足する!「鷲津ファンド」を立ち上げてエンプロイー・バイアウト(EBO)を企てる鷲津の元には、かつての部下・中延(志賀廣太郎)はもちろん、一度は鷲津を裏切った村田(嶋田久作)も集まり、芝野は大空電機内で暗躍。そしてMGS銀行の飯島(中尾彬)までも(金と引き替えにではあるが)鷲津に協力することに。かつての盟友も仇敵も入り乱れてホライズンに一矢報いようとするその展開は、あたかもウェルメイドなクライム・サスペンスのような外連味があって、まことにゾクゾクさせられた。単純な娯楽作ならばここで西野(松田龍平)も絡んでくるところだろうが、西野に対してはまったく別の形での結末を用意する上品さも見上げたものと言えよう。
順番は前後するが、鷲津にとっての出発点である三島製作所に関しても、EBOに参加することを芝野が依頼することで、きちんとケリがついた形。そして三島製作所の従業員が出し合った出資金の小切手が、このEBOを成功させるかどうかのキーパーソンである技術者・加藤(田中泯)の心を動かす。人物配置にまったく隙がないのにも敬服を覚える。
鷲津「世の中の99.9%は金で決まる。(中略)だけど残りの0.1%。こればっかりはそうもいかない。私はこの仕事を通じて、逆にそのことを学びました」
テレビドラマ的にはある意味真っ当な結論ではあるけれど、そこにたどり着くまでのこの6時間の蓄積がこの台詞に重みを加え、その理想を信じてもいいのだという気分にさせてくれる。かくしてEBOは見事成功するわけだが、その記者会見の席上で芝野が、かつて敵対した男・鷲津に対して
芝野「出会えて、良かったと思っています」
なんて言うのも、ドラマのラストだからこその感慨があり、これこそ連続ドラマを見続けて最終回を迎えることの醍醐味なのだとしみじみ思わされた。
このドラマ、大筋から細部に至るまで丁寧に作られた素晴らしい作品だった。万人向けでは決してなかったけれど、視聴率(本来スポンサーのための数字であるはずのものが、なぜか近年は視聴者からの支持率のように扱われている)に振り回されない番組作りができるNHKならば、こういう作品がもっとあっていい。このようなドラマが存在しうることを嬉しく思うし、少なくない人々がこのドラマを支持していたという知らせもまた、一ドラマファンとして心を強くせずにはおれない。(桜川正太)
第5回「ホワイトナイト」(2007年3月17日放送)
☆☆☆
芝野(柴田恭兵)VS鷲津(大森南朋)の構図の中に西野(松田龍平)率いるIT企業ハイパークリエイションが参入してきたことをきっかけに、大空電機の経営権の行方も、そしてドラマの展開もまったく予想がつかないものに。芝野はここではむしろ、“ハゲタカ”鷲津VS“ホワイトナイト”西野の戦いを、オブザーバー的に見ている様相となった。その芝野が西野と料亭で会うシーンにおいて、西野が「私のバイブルです」と取り出した大木会長(菅原文太)の『大木流経営論』があまりに真新しく帯までかかってるあたりの見せ方がうまい。この時点で既に、大空電機現社長の塚本(大杉漣)が持っている同じ本のボロボロさかげんと対比されているわけだが、この本はさらにもう一度、鷲津が大空電機の売却先として接触する中国電機メーカー・テクスン社の社長の“宝物”(やはりボロボロ)としても登場する。一連の短いシークエンスで、西野と鷲津それぞれの大空電機への姿勢が視聴者に印象づけられるあたり、まったく無駄のない語り口だ。
この後、西乃屋の件はもとより三島製作所のことまで引き合いに出して鷲津を非難する西野と鷲津は対立を深めていくのだが、それと平行して描かれる、ホライズンにおける“鷲津体制”が徐々に崩壊していく様子もまた、ぞくぞくさせられたところ。最終的に、本社に無断でテクスン社への売却を画策していたことがばれてしまった鷲津は、西野と直接対決をしている生放送の最中に本社から解雇されてしまうことに。三島製作所を再び閉鎖に追い込みたくないという気持ちひとつが、向かうところ敵無しだった鷲津の運命をここまで狂わせてしまうというドラマティックさに感じ入る。かくして大空電機の一件は西野の勝利──かと思いきや、ハイパークリエイションはインサイダー取引の疑いで強制捜査を受け、西野もまたこのゲームの参加資格を失う。西野は拳銃片手に鷲津のもとへとやってきて……。そこで第1話冒頭の、撃たれて水に浮かんでいる鷲津というシーンになるわけだ。経済ネタを決して過度に単純化することなく描きつつ、ドラマとしての外連味も忘れないあたり、作り手の技巧を感じさせてくれる。(桜川正太)
第4回「激震!株主総会」(2007年3月10日放送)
☆☆☆
斜陽の電機メーカー・大空電機の“X部門”を軍事産業に売却したいホライズン本社の意向により、その買収を企てることになった鷲津(大森南朋)。一方、三葉銀行を辞めて企業再生家となっていた芝野(柴田恭兵)が大空電機のターンアラウンドマネージャーとなったことで、因縁のふたりの対決がここに三たび実現。従業員にとっては、“ハゲタカ”鷲津も“コストカッター”芝野も、ともに憎むべき存在であるわけだが、大空電機のカリスマ創業者・大木(菅原文太)に向かって鷲津が言う、
鷲津「あなたが死んでも、会社は、大空電機は、生き続けなければいけないんです」
という言葉もまた真実であり、単純に出るわけもないその答えを、視聴者もまた大いに考えさせられることになる。二流のドラマなら安易な人情話的結論でお茶を濁してしまうのだろうが、さてこの作品はどう出るのか……と思いきや、大木からの遺言とも言える手紙を、株主総会の席上で芝野が代読して一気に場の人々の気持ちをさらってしまうという展開は、筋書きだけを書けばまさにその「安易な人情話的結論」のようで、いささか意表をつかれたところ。ただこのドラマのすごいところは、そういう「視聴者に向けてのわかりやすい盛り上がり」を作りつつ、その「わかりやすさ」こそが劇中の株主達の心を捉え、プロキシーファイトで影響力を得ようとした鷲津をひとまずの敗北に追い込むという多元的な構造で、いやはややっぱり侮れない。もちろん、「モノ作りの魂」を訴えたその手紙の内容そのものも「プロジェクトX」ばりに感動的であり、「安易」などではまったくなかった。この大空電機はもともと軍需工場で大木が得たレンズ磨きの技術に立脚しているということがここでさらりと述べられるのだが、それこそがまた軍需産業へと売られようとしているという皮肉な事実もまた、巧妙な隠し味となっている。
今回もうひとつのドラマ的仕掛けは、行員時代の鷲津が倒産に追い込んだ三島製作所が、その後大空電機の下請けとなることで復活を遂げていたということ。今回の鷲津の買収が成功すれば三島製作所は再び閉鎖に追い込まれるわけで、さすがの鷲津もいささかの躊躇を見せるが、それでも眼鏡の下に感傷を押し隠したままで株主総会に挑むあたり、アンチヒーローとしての筋を通してくれて潔い。そしてそんな鷲津の前には、これまた彼と浅からぬ因縁のある西野治(松田龍平)がIT企業社長として現れる。その人を食った存在感は、なるほど鷲津のドライさとも芝野のウェットさとも一線を画す“第三勢力”としての迫力充分で、今後の波乱を予感させるに充分すぎるほどだ。(桜川正太)
第3回「終わりなき入札」(2007年3月3日放送)
☆☆★
息子の伸彰(小林正寛)に社長の座を追われた瑞恵(冨士真奈美)をホライズンが担ぎ出し、サンデートイズ絡みの第2ラウンドは、再建スポンサー選定のための入札に持ち込まれる。三葉銀行VSホライズン、あるいは芝野(柴田恭兵)VS鷲津(大森南朋)という形で繰り広げられる、長時間にわたる入札のディティールが圧巻だった。しかし今回少し残念だったのは、物語的クライマックスがその入札とは別のところに存在したこと。いや、入札における駆け引きも存分に描かれていたのだが、印象としては、三島由香(栗山千明)が手に入れた伸彰の横領の証拠を本物と認めるかどうかという芝野の葛藤のほうが目立ってしまった。その葛藤は確かに人間らしい(というか、いかにもドラマの主人公らしい)が、それ故にこれまでより若干、話のスケールが小さく見えてしまったように思える。それでも、芝野の迷いを象徴する自動販売機のシーンは出色の出来映えだったし、自分に嘘をつき続けられないと三葉を去ることを決めた芝野に同僚の沼田(佐戸井けん太)が口にする、
沼田「はいつくばって、罵られて、それでも与えられた仕事をひとつひとつこなしていく。そうやって生き続けたとき、次が見えてくる。(略)やめないのも、勇気だよ、芝野」
という台詞に込められた「現実」の姿は確かに見る側に重く伝わってくるわけで、やはり上質なドラマであることには変わりない。(桜川正太)
第2回「ゴールデン・パラシュート」(2007年2月24日放送)
☆☆★
鷲津(大森南朋)率いるホライズン・インベストメントの次なるターゲット、サンデー・トイズの70周年パーティの短いシーンで、この会社が債務超過であるとか言う以前に多くの問題を抱えていることが視聴者に印象づけられる、その語り口からして上手い。その問題の元凶とは一族経営であり、ひいては社長の大河内瑞恵(冨士真奈美)なわけだが、そのいかにも「外面だけ良い放蕩経営者」ぶりは、思わず鷲津を応援したくなってしまうほど。だが、瑞恵の息子でありサンデーの専務である伸彰(小林正寛)に対して“ゴールデン・パラシュート”=とてつもない額の退職金をしかも現生という形でちらつかせる鷲津の手口は、芝野(柴田恭兵)の言うとおり、札束で人の顔をひっぱたくような所業。とは言え、サンデーのメインバンクとしてホライズンと四つに組むことになる三葉銀行にしても、来るべき他行との合併を有利に運ぶためという意識があるわけで、決して正義の味方などではない。そのあたりの決して単純ではない状況が、ディティールををそぎ落とすことなく「三葉VSホライズン」もしくは「芝野VS鷲津」という構図に昇華される様はまことに見事。とりあえずこの第1ラウンドでは芝野側が鷲津側を“出し抜く”ことになるという展開が、下品にならない程度に娯楽作的に仕上がっているのも、作り手の巧みなところだろう。また、前回鷲津がほのめかしていた“自分を変えた芝野の一言”が明らかになったわけだが、鷲津が言う
鷲津「あなたが言ったんじゃないですか。しょうがないだろ、日本は資本主義なんだからって」
と言う言葉と、回想の中で芝野が言う実際の台詞が微妙に違うあたりのさじ加減も、まったく侮れないところである。1シーン1シーンの画がひじょうに丁寧に作られているのも、賞賛に値する。(桜川正太)
第1回「日本を買い叩け!」(2007年2月17日放送)
☆☆★
夏の日差しの下で子供達が虫取りをしているのどかな場面が一転し、同じ子供達が虫取り網で一万円札をすくいあげることに興じる冒頭のシークエンスからして秀逸。見応えのある作品であることをいきなりに予感させて嬉しくなる。
続く本編では、“日本を買い叩く”ために乗り込んできた外資ファンドマネージャー鷲津(大森南朋)のその合理的かつ非情なビジネス手腕を、まずは一話完結で見せた。銀行が不良債権を処分するために行う「バルクセール」あたりのマクロな描写から、それがやがて、老舗旅館西乃屋の主人・西野昭吾(宇崎竜童)の絶望そして死へとつながるミクロなエピソードまで、説明的ナレーションを入れることなく登場人物を動かす形でさばいてみせたのはまったくもってお見事。このドラマの軸となるのであろう三葉銀行の芝野(柴田恭兵)と鷲津の対立関係が、前提としてではなく積み上げられる形で確立された丁寧さも評価しておきたい。ほとんど表情を変えない鷲津の眼鏡の有無がこの男の心情を表現しているあたりも、映像作品として真っ当だ。金融界、あるいは経済ネタを扱うように見せてその実ちまちました話しか見せてくれないドラマもある中、こういう、硬派でありながらドラマとしてきちんと楽しめる作品は貴重と言えるだろう。
唯一、作品の出来映えとは全く関係ないところで不満があるとすれば、放送開始時間が一定でないことだろうか。第3回、第4回は時間がズレるそうなので、録画派の方々はご留意いただきたい。(桜川正太)
ハゲタカ
NHK総合土曜21:00〜21:58
土曜ドラマ
制作著作:NHK
制作統括:阿部康彦
原作:真山仁『ハゲタカ』『バイアウト』
脚本:林宏司
演出:大友啓史、井上剛、堀切園健太郎
音楽:佐藤直紀
テーマ曲:tomo the tomo
出演:鷲津政彦…大森南朋、西野治…松田龍平、三島由香…栗山千明、村田丈志…嶋田久作、沼田透…佐戸井けん太、中延五郎…志賀廣太郎、野中裕二…小市慢太郎、大河内伸男…山崎大輔、キャスター…宮川俊二、アラン・ウォード…ティム、アルバート・クラリス…イアン・ムーア、リン…太田緑・ロランス、三島頼子…唐木ちえみ、後藤…大関真、進藤…杉内貴、武田直也…蟹瀬誠一、大河内真也…菅原大吉、木下…村松利史、佐藤高志…谷本一、平田政夫…奥田達士、吉田…菊池隆則、山口…佐久間哲、山崎…日向丈、リー社長…薄宏、佐藤高志…谷本一、進藤…眞島秀和、西野昭吾…宇崎竜童、西野泰三…三谷昇、大河内瑞恵…冨士眞奈美、西野史子…永島暎子、大河内伸彰…小林正寛、百瀬敬一…岡本信人、日下部進…矢島健一、遠山鎌一郎…光石研、大木昇三郎…菅原文太、加藤幸夫…田中泯、塚本邦彦…大杉漣、三島健一…渡辺哲、海野重雄頭取…神山繁、迫田専務…中原丈雄、坂巻常務…津村鷹志、飯島亮介…中尾彬、芝野健夫…柴田恭兵