ウォーカーズ〜迷子の大人たち〜

第4回「結願」(2006年12月2日放送)

☆☆★
 徳久(江口洋介)たちのお遍路旅もあとわずかで結願(けちがん)の地・讃岐に。寺島夫妻(三浦友和・風吹ジュン)をはじめ、他のメンバーが答えを見つけていく中、徳久と翔子(戸田菜穂)だけは答えを見つけられずにいた。焦燥感に駆られる徳久。不安に苦悩する翔子。最後の八十八番・大窪寺に着く寸前に徳久は答えを見つける。「翔子のことを自分のことより大事に思えるヤツになりたい。翔子もそう思ってくれればそれが理想だ。二人がそう思っていればいつかそういう夫婦になれる」と、翔子にプロポーズする。翔子は嬉し涙でそれに応えた。自分なりの答えをようやく見つけた徳久は、大窪寺で父(市川左團次)と母(加藤登紀子)に再会する。人生最後のお遍路をするのだという。余命数ヶ月の体で逆さお遍路に向かう父の後姿を徳久は涙を浮かべ見送った。結願の記念写真を撮る坂田(原田芳雄)の質問「これから先、また迷ったらどうする?」に「歩きます!」と答えた徳久の笑顔に迷いはもうなかった。
 全4話と短かったが、非常に深くて内容の濃いドラマだった。登場人物たちの「迷い」に自分の「迷い」をだぶらせる視聴者も多かったのではないだろうか。寺島夫妻に生じていた心のすれ違いは団塊の世代にとっては身につまされるものだっただろう。一度立ち止まって自分と向き合い、過去を振り返って未来を模索する、そんな「心の再構築」がこの時代だからこそ必要なのかもしれない。(仲村英一郎)

第3回「目覚め」(2006年11月25日放送)

☆☆
 徳久(江口洋介)は父(市川左團次)危篤の報を受け急いで実家に帰ったが、亡くなったのは父ではなかった。腰を抜かした徳久だったが、15年ぶりに父とじっくり話をする機会を得る。徳久は寺を継ぐと言ったのはウソだったと告白するが、父は自分を思ってついてくれたウソなら十分嬉しいと言う。そして徳久に、好きなように生きろ、と進言する。3週間振りに戻った会社は徳久が思いもしなかった状況になっていた。自分のプロジェクトは乗っ取られ、上司からは3週間も休むとは何事だと手の平を返したように叱責される。しかし徳久には、プロジェクトを奪った同僚も自分を叱責する上司も悲しい人間にしか見えなかった。自分が誰であるかを考えるため、再び徳久は足摺岬に戻りお遍路を続ける。
 日常に埋没して見失いがちな「自分の幸せ」。このドラマはそれを思い出すきっかけを視聴者に与えようとしているのかもしれない。自分にとって大切なものとは何か。命とは何か。このドラマを見終わった時点でそれらがもちろん分かるわけではないが、考え続ける努力を忘れないこと、それこそがこのドラマの意義なのではないか。(仲村英一郎)

第2回「修行」(2006年11月18日放送)

☆☆
 徳久(江口洋介)、寺島夫妻(三浦友和・風吹ジュン)、進藤夫妻(森本レオ・鷲尾真知子)、エリ(ベッキー)、ヒロシ(瀬川亮)、坂田(原田芳雄)の同行八人に徳久の婚約者翔子(戸田菜穂)が加わった。徳久との関係を白紙に戻すためのお遍路だと言う翔子の言葉に、徳久は困惑しきり。過酷な旅が続く中、お遍路たちは本音で言葉を交わし始める。二人で生きていけるのか不安を訴える妻の気持ちを夫が理解できない寺島夫妻、過労で無くなった父母の家業を継いだものの結局は店を畳んでしまったヒロシ、30過ぎた息子をパラサイトにしたことを悔やみお遍路を死出の旅に選んだ進藤夫妻。皆それぞれに自分の秘密を打ち明け合う。一方、徳久は、本当の幸せとはなんだと一人悩み歩き続けるが迷いは深くなるばかり。そんな中、父危篤の報が入り、徳久はお遍路を中断して家路へと急ぐ。
 外見からは幸せそうに見える人たちも、皆なにかしら悩みを抱えた「迷子」なのかもしれない。派手な展開はないドラマではあるが、お遍路たちがぽつりぽつりと漏らす一言一言が胸を刺し、よく練られたセリフであることがわかる。特に、飛び降り自殺を図った進藤夫妻に徳久が言った「生きてください。生きていれば、状況は変わる」という言葉は短いながらも核心を突いたメッセージだった。(仲村英一郎)

第1回「発心」(2006年11月11日放送)

☆☆
 携帯電話会社で活躍する徳久(江口洋介)は、婚約者の翔子(戸田菜穂)を連れ、十数年ぶりに徳島の実家の寺に帰省する。そこで、父が余命半年であることを知り、母がついたウソ・「寺を継ぐ」ことを宣言してしまう。さらに父の強い勧めに反対しきれず、歩き遍路をすることになる羽目に。
 歩き遍路を始めて、元上司・寺島夫妻(三浦友和・風吹ジュン)やベテランのお遍路坂田(原田芳雄)、謎をひめた進藤夫妻(森本レオ・鷲尾真知子)らに出逢う。きっかけも目的も異なるお遍路たちの人生が束の間交錯する。
 迷うことなく人生を歩むことができればこんなに幸せなことはないだろう。が、人は悩む動物である。人それぞれに悩みを抱えて傷つきながらさ迷いつつ生きていく。ただ黙々と歩くお遍路をしたからと言って、悩みが雲散霧消するとは思えないが、自分との対話でなにかを見付けられるのではないか。
 このドラマにでてくるお遍路たちは皆それぞれ何か悩み・トラブルを抱えているようだ。例えば、寺島夫妻は、長年の生活で広がった心の距離をどう縮めていくか。お遍路を経験することで、彼らの心境がどう変わっていくのか、非常に興味がある。(仲村英一郎)

ウォーカーズ〜迷子の大人たち〜

NHK総合土曜21:00〜21:58
土曜ドラマ
制作・著作:NHK
制作統括:鈴木圭
作:鈴木聡
演出:望月良雄(1、3)、黒崎博(2、4)
音楽:細野晴臣
出演:山下徳久…江口洋介、西尾翔子…戸田菜穂、進藤英二…森本レオ、進藤和江…鷲尾真知子、村岡実…矢崎滋、エリ…ベッキー、ヒロシ…瀬川亮、冴子…片桐はいり、前田…坂田聡、坂田洋平…原田芳雄、山下道代…加藤登紀子、山下徳大…市川左團次、早雲…笹野高史、軽トラの農夫…曾我廼家文童、三好由香…岩橋道子、宿の主人…唐木太、スーパーの店員…朝比奈潔子、店の男…宮路佳伴、屋台の店主…小杉幸彦、漁師…帆足寿夫、野村医師…浅見小四郎、塩田…中平良夫、三好由香…岩橋道子、光村…安藤岳史、うどん屋のおじさん…芝本正、茶屋の主人…藏内秀樹、進藤雅樹(声)…菊口富雅、寺島靖子…風吹ジュン、寺島隆彦…三浦友和