のだめカンタービレ

第10回(2006年12月18日放送)

☆☆☆
 のだめ(上野樹里)のピアノの弾き姿はますます魅力的に。辛くもマラドーナ・ピアノコンクールの本選に進んだのだめだったが、明後日には本番という慌しさ。さらには当日演奏の2曲のノルマに対して江藤(豊原功補)がセレクトした曲が、これまでまったく練習もしていないシューマンの「ピアノソナタ第2番」と、よりによってストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3つの楽章」って、そりゃいくらなんでも無茶苦茶だろうと思わせるも、江藤の妻・かおり(白石美帆)の思考を完全麻痺させるサイコキネシス(?!)まで繰り出して、見事にシューマンは会得。めまぐるしく進化するのだめだったが、さすがに発熱には勝てず。結局ペトルーシュカは手付かずで、コンクール会場に向かう。
 ミソはバス移動中に乗客の着メロで冨田勲作曲「きょうの料理」が鳴るところ。なるほど、「ペトルーシュカ」と「きょうの料理」は同じリズム、音型だったか。本番でのだめがここを原曲にバリエーション化させてしまうところは笑うところだが、実際に音として聴くと大いに感心させられた。それ以上に、「ペトルーシュカ」が民放のゴールデンタイムに流れてしまったことに感激してしまうのだけれど。出番の時間ギリギリのシチュエーションでなぜタクシーを使わなかったのかは、もちろん「きょうの料理」が着メロとして鳴らなくてはならなかったからである!
 もちろん、いくらいい演奏(編曲?)をしても、曲を変えて弾くことはコンクールでは論外ということで、のだめは選から漏れるが、一位なしの意はのだめの演奏を踏まえての審査委員長・オクレール(マヌエル・ドンセル)による判断なのだろう。前話、今話を通しての千秋(玉木宏)による懇切丁寧な実況中継風解説は、『医龍』の救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)に匹敵した?!
 R☆Sオケのコンマスもしくはコンミスをめぐっては清良(水川あさみ)とライバル、千秋をめぐっては新都フィルのオーディションをパスしたティンパニの真澄(小出恵介)とライバル関係になる高橋(木村了)が登場するも、「きょうの料理」変奏曲の前ではどうしても印象が飛んでしまって。ただ、ブッフォン国際だのマラドーナだのといった、サッカー選手の名前をコンクールに当てた安易なネーミングには引っかかるところ。出場者のプログラムにはプロコフィエフのピアノソナタ第7番なんて凄みのある選曲も潜んでいたりして、ドラマとは別の興趣が生まれていたりもした。(麻生結一)

第9回(2006年12月11日放送)

☆☆☆
 その弾き姿を含めて、のだめ(上野樹里)の天才的な閃きに満ちたピアニズムを堪能できた第9回。見事だったのは、シューベルト、ショパン、ドビュッシーのそれぞれのスタイルが見事に弾き分けられていたこと。とりわけ、付き合ったことがないタイプと付き合ってみたくなったから、との理由でマラドーナ・ピアノ・コンクールの第一次予選にシューベルトのピアノソナタ第16番を自ら選んだものの、気難しくてなかなか仲良くなれなかったところに、幻の千秋(玉木宏)が出現。楽譜と正面から向き合えという的確な助言が功を奏して、のだめがシューベルトの核心に至る場面が、無心に音楽する喜びにあふれていて見事だった。その演奏が一次予選の本番に連なっていく流れも実にスムーズ。この渋い選曲が最大ボリュームで取り上げられていたのもうれしかった。
 のだめにコンクール出場を決断させたのが賞金と留学権獲得のためであると知った千秋は、ついに飛行機恐怖症を克服。北海道へのフライトを成功させたのち、催眠療法のお礼にカネならぬカニをのだめに貢ぐ。
 依然として永岡真実の写真集のことを引きずっているお久しぶりのシュトレーゼマン(竹中直人)はそのことを言い当て(カニを貢いだことではなく、飛行機恐怖症を克服したこと)、今すぐの留学を勧めるも、千秋はグズグズとしていて決断できない。そんな千秋を再び博多弁でのだめが叱咤するシーンは、レッスン中に江藤(豊原功補)にすごんだ時とイコール。その江藤の妻・かおり役で白石美帆が登場し、のだめにドビュッシー的ルンルン攻撃を伝授。コンクールの裏技話もリアルすぎてちょっと面白かったり。R☆Sオーケストラの再演がサントリーホールで、しかもクリスマスに決定。さすがはドラマのスポンサー、太っ腹ですね。
 幼いころにのだめと因縁がある悠人(伊藤隆大)との再会により、のだめにかつての忌まわしい記憶、トラウマが蘇ったところで次週へ。ここの場面でバックにかかっていた「四季」の攻撃的演奏がちょっと気になった。(麻生結一)

第8回(2006年12月4日放送)

☆☆☆
 全日本音楽コンクールのためのオーケストラ休止期間中もスコアの勉強に没頭した千秋(玉木宏)は、練習再開後から水を得た魚のごとく音楽の鬼になる。途中、ヴィオラのパート練習があったり、なかなかそれらしい雰囲気も出ていてよかったのでは。
 ただ、音楽は時として映像を甘やかすものである。通常であれば、こういう物量的なクラシックの使い方は許容できないし、普通に考えても選曲がおかしいと思わざるを得ないところもある。今まさにブラ1(ブラームス 交響曲第1番のこと)の練習をしているときに、なぜ「イタリア」? オーボエ協奏曲本番前のステージ袖のシーンに「ボレロ」もありえない。ただ、この物語の一側面には、古今東西の名曲群をジュークボックス的に連打する啓蒙的な使命もあるはずなので、それならばもっとやるべきだとも思えきてたりして。
 実際の公演のシーンはその熱気がこちら側にも伝わってきてよかった。とりわけブラ1。第1楽章は約1分ほどと恐ろしく軽い扱いも、練習でそれなりにさらっていたわけだから、第4楽章をメインにしたのは正しい判断だろう(それでも3分弱しかなかったが)。 ブラボーの嵐に一人席に座ったままむせび泣くのだめ(上野樹里)の演奏への感動と千秋への思いとが複雑に入り混じった思いがせつない。演奏前にのだめがかけたブラボーに周りの客はひいていたけれど、あれはぜんぜんありです。
 千秋の口から告白される飛行機恐怖症の治療は試されたものすべてが効かなかったはずも、のだめの催眠法は怖いほどの即効性を見せる。これはのだめのシャーマニックな力ゆえか、それとも永岡真実の写真集を所望したシュトレーゼマン(竹中直人)の時計の力か。
 ただ、千秋がトラウマを克服するシーンは、そのまま「マタイ」で通してほしかったし、それがふさわしかったに思える。もしくは、せっかくのだめが弾き始めたシューベルトのまだ何番かわからないピアノソナタでもよかったと思うが(結局今話も、のだめの実演パートはおなら体操を楽しそうに弾くのみか)。大体、あまりに曲がコロコロと変わると下品にもなるし。ただ、この場面の余韻は心に残る。(麻生結一)

第7回(2006年11月27日放送)

☆☆☆
 谷岡(西村雅彦)に変わってのだめ(上野樹里)の担当教師になった江藤(豊原功補)の脅迫的な態度に対して、博多弁ですごんでみせるのだめは迫力があったけれど、やっぱりエキセントリックなまでにピアノに熱狂するその弾き姿こそを見たい。教育実習用の「おなら体操」はあったけれど。江藤のテーマ曲は「フィンランディア」で固定かと思われたが、態度が軟化したのちは変更になるんだろうか。
 峰(瑛太)とその父(伊武雅刀)によって命名されたR☆Sオーケストラの最初の演奏会用に選ばれた曲目は、モーツァルトの「オーボエ協奏曲」とブラームスの「交響曲第1番」。音楽監修がオーボエ奏者の茂木大輔さんだけに、オーボエ協奏曲にはより念が入っていたと思われるも(リートを削るシーンが実にいい)、言葉ずらであれば黒木(福士誠治)が演奏するオーボエのいぶし銀の音色が、のだめにときめいてピンク色のモーツァルトになるのも想像できるけれど、実際の音でそれをわからせるのはなかなか難しい。演奏はピンク色になったというよりも、録音が緩んだ感じにしか聴こえなかった。エコー強めの手っ取り早い効果はあまり音楽的とは言えないのでは。
 ちょっと面白かったのは、あまりにもクールな谷岡の教育身上。これまではのだめに調子を合わせていただけだったのか。その谷岡役の西村雅彦が指揮者に扮して、作曲家や楽曲の解説なども織り交ぜつつ、クラシック業界のインサイドストーリーとして巧みに見せてくれた異色ドラマ『MAESTRO』のことを思い出す。当時CXで放送されていた知的教養系の深夜番組は見どころのあるものが少なくなかった。(麻生結一)

第6回(2006年11月20日放送)

☆☆☆
 千秋(玉木宏)のピアノに触発されて、不眠不休でラフマピアコ2番(そう呼ぶんだ)を練習したのだめ(上野樹里)の超高速演奏も、そのエキセントリックな弾き方が天才肌のそれっぽくて説得力満点である。こういう作り込みこそがこのドラマの音楽の魅力を支えているのだ。サンプルはいろいろありそうで、その複合型といった感じかな。さらには千秋が伴奏パートを引き受ける2台のピアノによる第1楽章の演奏にも、江藤(豊原功補)ならずともビックリ感激できる。普段聴けないバージョンならば、耳タコな曲でもちょっとうれしい。
 なぜもっと上を目指さないというのだめへの助言が、千秋自らに跳ね返ってくる自問自答が利いているおかげで、清良(水川あさみ)が呼びかけての学生オーケストラ結成の話もスムーズに受け入れられる。Sオケ解散のどんちゃん騒ぎも最後の最後でしみじみとさせてくれて、そしてみんな次のステージへ。
 千秋の特大ピンナップが載る「CLASSIC LIFE」は何となく「MOSTLY CLASSIC」に似てるような。昔はこの雑誌、フリーだったんですけどねぇ。オーボエの黒木(福士誠治)は『純情きらり』で果たせなかった音大ライフをここで取り戻す?! 彩子(上原美佐)のテーマソングがサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番に固定の模様。こういうちょっとひねった選曲はさらに楽しい。(麻生結一)

第5回(2006年11月13日放送)

☆☆☆
 音楽する喜びや音大的キャンパスライフのにぎやかしさのみならず、のだめ(上野樹里)のピアニストとしての成長のキッカケまでもフォローするにいたって、これまで以上に見ごたえのある回になっていた。
 学園祭で激突したAオケとSオケの対決では、和装コーディネートでも音楽的な興趣でも、Sオケの「ラプソディ・イン・ブルー」の和製ビッグバンドバージョンの方が断然カッコよかった。

千秋「曲のアレンジがいい」

まったく。あれをアレンジしてたのは誰の設定?約3分間に押し込んでしまうにはあまりにももったいない、もっと聴いていたいと思わせた名アレンジだった。ピアノ科だけにピアニカで参加することになったのだめのソロもやはり一流。
 冒頭からシュトレーゼマンを追い掛け回す秘書・エリーゼ(吉瀬美智子)はドイツ語よりも日本語の方が流暢なのはある意味当然?! そんな彼女の立派な日本語で、若かれしころのシュトレーゼマンと桃ヶ丘音楽大学理事長・美奈子(秋吉久美子)の悲恋が語られるも、そのときのシュトレーゼマンと現在の音楽しないのだめとが重なり合ってくるあたりの構成も絶妙である。Sオケの「ラプソディ・イン・ブルー」を褒めつつ、のだめに将来の希望を問うシュトレーゼマンから「今のままでは千秋とは一緒にいられない」と言われ、さらにはシュトレーゼマン指揮Aオケとピアノで共演した千秋(玉木宏)のラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番を聴くにつけ、愕然とするのだめの心境に、ドラマがかつてないほどに引き締まる。どんなにドタバタとやってくれても、音楽の魅力が物語をピリッとさせるあたり、ズルイというか、素敵というか。
 千秋のラフマニノフは堅実がモットーという感じの演奏だったが、それをバックミュージックにお手製であるきぐるみのマングースの首を持って、のだめがキャンパスを走るシーンは見せ方のうまさが光ったところ。ただ、いくら学園祭とて演奏中はホールへの出入りはできないはずだが。
 やっぱり2楽章がオミットされていたのは残念だったが、千秋とシュトレーゼマンのやりとりが面白かったリハーサル風景はなかなかの見ものだった。

千秋「何で俺がラフマニノフでクネクネしなきゃいけないんですか?」

との反抗には思わずニヤリ(ラフマニノフの捉え方の問題といいますか)。本番の最終末、曲が終わるのを嫌だと、もっとシュトレーゼマンの音楽を感じていたいと思う千秋の心持にも、リハーサル以来のタメが効いていたおかげで、実感がこもってその思いがこちら側にまで伝わってきた。
 シュトレーゼマンのテーマ曲はこれまでのプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」は封印されていたが、マーラーの交響曲第1番がほとんど爆発のような効果音風に使われていたのには笑ってしまった。(麻生結一)

第4回(2006年11月6日放送)

☆☆☆
 いきなりに、見せる弾き方のパフォーマンスでSオケらしくを扇動するコンマスの峰龍太郎(瑛太)に対して、「田園」や「英雄」と違って表題のないベト7(=ベートーヴェン交響曲第7番のことらしい)に勝手に物語やイメージをつけてはいけないと千秋(玉木宏)はオケを押さえつける。解釈としての冒険は、やはりそれなりの基本あってのその先のことだろうし(いかなるジャンルにおいてもか)、千秋が言う「譜面通り、正確に」がやはり正論なのだろうけれど、今さらに『初心者のためのオーケストラ入門』を読んでいる峰がまくし立てた「偉大すぎる」、「とっつきにくい」、「これくらいやんないとつまんない」という第7交響曲のイメージが、そのままクラシック的なるものに連なるのも事実だ。そのあたりの、「なぜにSオケに表題のない曲があてがわれたのか?」というシュトレーゼンマン(竹中直人)からの問いが、定期演奏会でのパフォーマンスで気持ちよく回答されていたあたり、なかなか巧みだった。
 のだめ(上野樹里)が千秋の部屋に持ち込んだ布団つきのもっさりとしたテーブル(=こたつ)の出現で、物語も中盤に間延びするが(のん気で攻撃性のない平和の象徴=こたつのBGMにドヴォルザークの「新世界」とは思い切ったことを)、それこそがドラマ自体のこたつ的堕落ってことで。のだめお気に入りの「プリごろ太 宇宙友情大冒険」の中に、千秋が予見したオケのヒントが入ってなさそうで、メタファーとしての役割をそれなりに果たしているあたりも、緩くてらしい感じ。オケの練習中に倒れる千秋の口から宇宙アメがこぼれるシーンは『クビトの悪戯』の虹玉かと思ったけれど(テレビ東京で深い時間帯に放送中も、レビューはやってなくてすみません)。
 実際の演奏で、交響曲第7番の第1楽章と第4楽章しかやってくれなかったのはちょっと残念だったが(それでも5分近くの確保は立派か)、湧き上がる、迫ってくる、計算のない個性は、その短い演奏から十二分に伝わってきた。楽器を持ち上げる奏法は、マーラーの交響曲などでは時折出てくるもの(ベートーヴェンでそれが許されるものかはよくわからないが)。確かに歓声には笑いが混じっていたかもしれないけれど、楽しくもスポーティにカッコいい演奏で決めてくれて、表題無表題が有名無名を分けやすいクラシックのそのあたりを打破する役割も果たしてくれていた。
 エピローグ、ついにのだめが千秋にキスをする締めくくりも後味がよかったが、とりわけ今話の千秋を演じる玉木宏はイメージにはまっていた気がする。(麻生結一)

第3回(2006年10月30日放送)

☆☆★
 個性の強い面々が一堂に会するのがクラシックのオーケストラ。そんな一つ一つの強烈な個性と独裁者たる指揮者がぶつかり合う場ゆえ、オーケストラのリハーサルはめっぽう面白い。当然、のだめ(上野樹里)の正拳突きでノックダウン状態のシュトレーゼマン(竹中直人)の代役として、千秋(玉木宏)がSオケを指揮することになる展開が面白くならないはずがないのである。

千秋「運命や第九ほどメジャーではないが、スケールが大きく躍動感あふれる素晴らしい交響曲!」

ベートーヴェン交響曲第7番の説明とのギャップで、あまりにも悲しいベートーヴェンを奏でるSオケのヘタクソぶりが強調されるくだりである。ここでベートーヴェンの交響曲第7番がセレクトされているところが、まさにこの作品のスタンスを物語っている。
 確かに「運命」や「第九」ほどの一般的認知度はないかもしれないが、日本に限ったとしてもコンサートで取り上げられる回数では少なくとも「運命」には負けていないほどの有名曲であろう第7番交響曲(もともと「運命」というニックネームが普及していない海外ではなおさらそう)。つまり「運命」や「第九」に比肩する名曲をテーマ曲に据えているのだから、クラシックになじみのない視聴者へのフレッシュなインパクトはいっそう強いはずだ。この物語が非クラシックファンへのクラシックの訴求を任としているとすれば、これほどに真っ当な選択肢はないのである。
 ドラマの中の選曲にもそのあたりの配慮がある。ほぼ有名曲、もしくは有名作曲家のマイナー曲で固められている選曲も、いかにもっぽい感じを臭わせず、ドラマを邪魔しない程度の慎みがある。シュトレーゼマンのテーマ曲として、プロコフィエフの「ロメジュリ」を固定にしてるあたりもわかりやすくていい。
 いつも遅れてくる歩くコントラバスのおちびちゃん、もしくは落ちた弁当をほお張るスパイスガール(?!)、桜(サエコ)の貧乏な理由もクラシックねただったりして、ぶれないところにも安心感がある(桜の父・日出美(升毅)は名器揃いのヴァイオリンコレクションを大豪邸の隠し部屋に個人展示しているも、本人はヴァイオリンをまったく弾けない宝の持ち腐れ)。このあたり、音楽のドラマだったはずも音楽の何がしかも示せなかった前の朝ドラ(『純情きらり』)あたりとは雲泥の差である。
 ただ、野球部のマネージャー並に千秋に好き好き攻撃するのだめが、ドラマ的にもマスコットガール級になりつつあるのはちょっと残念。千秋にピアノは続けた方がいいと真っ当なアドバイスをして、本物のマエストロとしての片鱗をチラッと見せたはずのシュトレーゼマンは、キャバクラのそれほどに指揮ぶりで生気を垣間見せないのは、継続的な不安材料である。ご飯を作るのも副指揮者の仕事か?! 携帯の番号が団員に回るや、音楽に関わりない電話がひっきりなしにかかってきて、子供相談室状態に陥る千秋が、ある種の的を射ていて笑えた。(麻生結一)

第2回(2006年10月23日放送)

☆☆☆
 これだけドタバタかつベタギャグで押し通しても、品格を失わずにクラシックの世界観もきちっと垣間見せてくれるのだから、まったく大したものである。第1話のゆったりテンポから一転、この第2話は13分間のアバンタイトルから物語にドライブが利いていて、いよいよテイストがこなれてきた感じだ。
 同じく千秋(玉木宏)に想いを寄せるのだめ(上野樹里)を殺すリスト最上位に載せた上で、至近距離な嫌がらせを繰り返すティンパニの真澄(小出恵介)が、Aオケを首になるシーンはケッサク。あれだけバカバカしくやりながらにして、ティンパニが大活躍する「第九」の冒頭はきちっと聴かせてくれるのだから、立派としか言いようがない。本当はのだめのピアノと真澄のティンパニの、異種格闘技的対決こそを見たかったけれど。
 ロックな龍太郎(瑛太)とのだめの伴奏によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番が、「春」ならぬ「梅雨」とはまさに。千秋の気をひこうとお色気で勝負するべく、薄着で過ごしていたらしいのだめがカゼをひいてしまった(=死にかけの芋虫状態になった)ために、龍太郎の追試には千秋が伴奏を受け持つことに。初めて合わせたとは思えない千秋の気持ちいいサポートぶりに、崇高なベートーヴェンの精神、光る青春の喜びと稲妻をかなぐり捨てて、結局はお花畑にたたずんでいるかのような龍太郎の心持と同調できて、見ているこちらもとっても気持ちがいい。月9連投の瑛太は、仕事できる臭を放ち続けていた『サプリ』よりも、こっちの役の方が断然圧倒的にしっくりとくる。
 千秋への想いに破れ、いったんは学校をやめて田舎の山形に帰ろうとする真澄は、教室から聴こえもれてくるその「春」の演奏にしみじみと、

真澄「やっぱり音楽って素晴らしいわね」

とつぶやく。どんなにハメをはずして遊んでくれようとも、最終的にはこの結論が用意されているあたりがこの物語の強いところ。マーラーの千人の交響曲で名演を残しているらしいシュトレーゼマン(竹中直人)の合コン的ハメは、これぐらいのはずし方でとどめておいていただきたいが。
 ただ、「春」の演奏の途中から「ラプソディ・イン・ブルー」になっちゃうのはどうなんだろう。 あまりにもよくあるパターンだけれど、オペラのヒロインは顔じゃないと、役をはずされた美貌の彩子(上原美佐)が悪酔いするほどに言い切っているドラマであるならば(?)、そのあたりもちゃんとしてほしいところだ。(麻生結一)

第1回(2006年10月16日放送)

☆☆★
 クラシック音楽を真正面からテーマにしたドラマは珍しい。加えて、基本的にBGMはクラシックのみという徹底ぶりが潔い。危うくまぬがれて、主題歌がアイドルの曲などにならなくて本当によかった。
 初っ端から仰天したのは、桃ヶ丘音楽大学ピアノ科4年生・千秋(玉木宏)がかつて過ごしたヨーロッパでの幼少期の回想パートが、せっかくプラハでロケしたからというわけでもないだろうが、ドラマのバランスを崩すほどに長大だったこと。さらには、千秋の音楽の恩師・指揮者のセヴァスチャーノ・ヴィエラ役でズデニェク・マーカルが登場する。マーカルは現役のチェコ・フィルハーモニーの首席指揮者で、ここ最近はとりわけ渋く人気がある人。そのマーカルが演技していることに大いに感動してしまうも、それでもなかなかこのドラマのヒロインは登場しない。
 最初は千秋を魅了するピアノの音色で、さらに後姿、シルエットと散々もったいぶった甲斐もあってか、ようやく姿を現わしたゴミだめでピアノを奏でる野田恵(上野樹里)の突き抜けっぷりはなかなかのインパクトあり。“のだめ”と呼んでほしいという野田恵も、途中まではゴミだめに住んでるから“のだめ”とばかり思ってしまったが、そうではないらしい(単に名前を短めただけか)。恩師ヴィエラの教えの一つ、モーツァルトがスカトロジー嗜好という話も、ゴミだめの人・のだめの今とつながってた?!
 そののだめと千秋の絡みになってからは、ドラマにギャグっぽいトーンも加わって、いよいよ本領を発揮し始めた感じ。上野樹里はこういうナチュラルエキセント リックな役柄が妙にハマる。キャンパスの雰囲気もあれほど元気いっぱいではないにしても、いかにも音大っぽい感じは出ていた。秀逸だと思ったのは、海外留学が決まって千秋の嫉妬の対象になる指揮科の早川(諏訪雅)には愛想よく、すでに千秋の彼女ではないことを見せつけるところで、声楽科の女王・多賀谷彩子(上原美佐)が鬼の形相で夜の女王のアリアを熱唱する場面。こういうちょっとしたところに、このドラマがちゃんと音楽しようとしている部分が垣間見えてうれしい。
 逆に、大いに心配になったのが、フランツ・シュトレーゼマン(竹中直人)の存在。確かにこのドイツ人に日本人をキャスティングするんだったら、竹中直人かヒュースケンな川平慈英(『新撰組!』)ぐらいしか思いつかないが、ここからドラマが崩れていかないことを祈るのみである。
 千秋のピアノレッスン担当がエリートコース専門の江藤(豊原功補)から、落ちこぼれ専門の谷岡(西村雅彦)に変わって、そこで再びのだめと再会。二人でモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」を作っていく過程も面白かったが、のだめに指導しているはずだったも、実際には千秋に純粋に音楽を楽しむ心を思い出させるためのレッスンだったという締めくくりも、音楽がテーマのドラマらしくきれいだった。(麻生結一)

のだめカンタービレ

フジテレビ系月曜21:00〜21:54
制作著作:フジテレビ
プロデュース:若松央樹、清水一幸
原作:『のだめカンタービレ』二ノ宮知子
脚本:衛藤凛
演出:武内英樹(1、2、4、7、9、11)、川村泰祐(3、5、8、10)、谷村政樹(6)
音楽:服部隆之
主題曲:ベートーヴェン『交響曲第7番』
エンディング曲:ガーシュウィン『ラプソディ・イン・ブルー』(服部隆之編曲)
出演:野田恵…上野樹里、千秋真一…玉木宏、峰龍太郎…瑛太、三木清良…水川あさみ、奥山真澄…小出恵介、多賀谷彩子…上原美佐、大河内守…遠藤雄弥、佐久桜…サエコ、石川怜奈…岩佐真悠子、黒木泰則…福士誠治、田中真紀子…高瀬友規奈、玉木圭司…近藤公園、橋本洋平…坂本真、鈴木萌…松岡璃奈子、鈴木薫…松岡恵望子、岩井一志…山中崇、金城静香…小林きな子、井上由貴…深田あき、金井…小嶌天天、木村了、木村智仁…橋爪遼、片山智治…波岡一喜、相沢舞子…桜井千寿、菊地亨…向井理、吉瀬美智子、峰龍見…伊武雅刀、秋吉久美子、江藤かおり…白石美帆、山田明郷、宮崎美子、岩松了、江藤耕造…豊原功補、三善征子…黒田知永子、佐久間学…及川光博、河野けえ子…畑野ひろ子、谷岡肇…西村雅彦、フランツ・シュトレーゼマン…竹中直人