嫌われ松子の一生

第11回(2006年12月21日放送)

☆☆
 教会の火事に責任を感じ家庭学校を去った松子だったが、シスター(リリィ)の説得で再び家庭学校で働き始めることに。一方、牧師となった赤木(北村一輝)と出会った洋一(要潤)は、赤木の教えのおかげでようやく心を開き、出所後は松子の元に戻り一緒に暮らしたいという自分の本当の気持ちに気づく。しかし松子は覚醒剤の後遺症から幻聴・幻覚・うつが発症し自宅療養を余儀なくされ、すさんだ生活に堕ちてしまっていた。病院でめぐみ(小池栄子)に偶然再会した松子は、めぐみに励まされ生きる希望を再び取り戻す。しかし喜びもつかの間、その夜外国人窃盗団に暴行を受け、瀕死の状態に。なんとか部屋にたどり着いた松子は、今まで自分と関わってきた人々を感謝の気持ちで回想しつつ、安らかにこの世を去る。
 洋一の心の変容は遅きに失した。あともう少し早く松子と再会を果たすことができていれば、松子に本当の幸せが訪れたであろうに…。転落後の松子は不運の連続だった。傍から見れば救いようのない一生だったが、松子の死に際は実に穏やかであった。誰を恨むわけでもなく逆に感謝の気持ちで息を引き取った松子は、自分の人生を不幸せだとは思っていなかったのだろう。悲惨な松子の一生だったが、心安らかに幕を閉じたことが唯一の救いだった。さて、全編を通してなかなかの力作だったが、若干ありふれた終わり方になってしまった感がする。そこが少し残念であった。(仲村英一郎)

第10回(2006年12月14日放送)

☆☆
 田所(佐藤B作)を殺害した龍洋一(要潤)に懲役16年の刑が確定。松子(内山理名)は面会に行くが、洋一は頑なに心を閉ざしたままで、自分のことは忘れて新しい人生を歩んでくれと繰り返す。それでも松子はお腹の中の赤ちゃんと、洋一の出所を待つつもりだった。しかし、ある日階段での転倒が原因となり流産した松子は最後の望みまで無くす。傷心の松子に救いの手を差し伸べてくれたのは家庭学校のシスター(リリィ)だった。松子は家庭学校で子供たちの世話をする仕事を始めるが、クリスマスツリーからの失火で教会が火事に。目の前で焼け落ちる教会とともに、松子の一縷の希望が崩れ落ちていった。
 不幸に次ぐ不幸を経験してきた松子。それでもその度に乗り越えてきたのだが、さすがに限界だろう。いよいよ来週は最終回。松子が亡くなるまでに、せめて少しばかりの幸せだけでも味わってほしいと切に願う。松子のことを忘れられないが近づくこともできない不器用な洋一の心の変容だけが松子を救えるはずであるが…。(仲村英一郎)

第8回(2006年11月30日放送)

☆☆
 松子(内山理名)と再会した龍洋一(要潤)は、松子を探すためにヤクザになったことを打ち明け、松子への愛を告白する。松子は、一緒に暮らす条件としてヤクザを辞めることを洋一に提示する。条件を飲んだ洋一と松子は同棲を始めるが、なかなか足を洗えない洋一。さらに洋一は麻薬捜査官の情報屋として危ない橋を渡っていた。精神的に追い詰められシャブ中になってしまう洋一。美容院を休んだ松子を心配して訪問しためぐみ(小池栄子)は松子のアザだらけの顔をみて言葉を失う。洋一と別れるよう松子を説得するめぐみに対して、「人生を洋一と初めからやり直したい。洋一なら地獄までついていける」と言う。それを聞いていた洋一は、麻薬捜査官への情報提供を断り松子と新たな人生を始める決意をした。しかし、そのせいで情報提供をしていた事が組にばれ、命を狙われる羽目に。
 洋一を最後のパートナーに選んだ松子。転落人生のきっかけを作った洋一と生まれ故郷の大野島に帰りたいという松子の切ない言葉、殴られても気にしないから一人にしないでと洋一に懇願する姿が、痛々しい。松子の転落人生は洋一で始まり洋一で終わるということか。かなり屈折しているものの、洋一の松子への愛は純粋なものだった。それだけがこの物語の救いなのかもしれない。(仲村英一郎)

第7回(2006年11月23日放送)

☆☆★
 8年の刑期を終えた松子(内山理名)に現実は厳しかった。島津(杉本哲太)のもとに戻ることを夢見て刑務所内で美容師の免許を取った松子だったが、島津は妻子持ちになっていた。失意の松子は銀座の美容室で働き始める。同じく懲役の経験があるオーナーの内田あかね(秋野暢子)は何かにつけて松子を励ました。しばらく経ったある日、沢村めぐみ(小池栄子)が客としてやってくる。経営不振に悩む夫の事務所を救うためアダルトビデオに出演するのだとめぐみに告白された松子は動揺する。そんな折り、松子の転落人生のきっかけを作った龍洋一(要潤)と偶然再会するが、それはさらなるドロ沼への始まりだった。
 テンポ良くストーリーが展開していくものの、それは松子の転落人生が加速していくということでもある。新たな希望を持つたびに裏切られる松子。不幸を絵に描いたような人生なのに決して希望を捨てないところに共感してしまうのだろうか、画面から目を離すことができない。ドロ沼の始まりだという、龍との再会が今度はどのような悲劇を松子にもたらすのだろうか。(仲村英一郎)

第6回(2006年11月16日放送)

☆☆★
 昭和51年夏、松子は懲役8年の刑を女子刑務所で受けることに。先輩受刑者たちからのいじめや嫌がらせを受ける松子(内山理名)だったが、そんな時に必ずかばってくれるのが沢村めぐみ(小池栄子)だった。いつしか二人の間には友情が芽生える。連行されていく松子に「いつまでも待っている」と声をかけてくれた島津(杉本哲太)への、出すことのない手紙を書き続けていた松子の元に、島津から一通の手紙が届く。手紙には松子の出所を待っているとしたためられており、喜びを隠せない松子。めぐみはその言葉を信じて希望を捨てるなと言い残して、出所する。そんなめぐみの励ましに背中を押されて松子は刑務所内で美容技術の勉強を始める。
 それぞれに悲しい過去を背負った受刑者の集う場、刑務所。その中でも松子は夢見ることを止めなかった。島津からのたった一通の手紙を信じ、出所後のために美容技術を学ぶ松子。やさぐれてしまいそうな中でいつでも小さな希望を見いだそうとする松子の心のけなげさには声援を送りたくなる。しかし、きっと次回でも松子の期待は見事に裏切られるのだろう。いつの日か、松子に真の幸せがやってきてほしい、と祈りながら毎回画面に向かってしまう。(仲村英一郎)

第5回(2006年11月9日放送)

☆☆★
 小野寺(吹越満)殺害により全国に指名手配された松子(内山理名)が向かった先は、太宰治が入水自殺をとげた玉川上水だった。そこで理容店を営む島津(杉本哲太)に声をかけられ自殺を思いとどまった松子は、島津と一緒に暮らし始めることに。松子にとって、誠実な島津との束の間の平穏な日々が訪れた。しかし、ある日、島津の好意にこれ以上甘えることはできない、と松子は島津の元を去って行く。赤木(北村一輝)との再会を果たした松子に、赤木は一緒に逃亡しようと提案する。が、すでに自首を決意していた松子の心は翻らなかった。最後のさよならを言うために戻った島津の家に、警察が乗り込み松子は逮捕される。そんな松子の背中に「いつまでも待っているから」と島津は声をかけた。
 今回も気がつくとエンドロールだった。主な登場人物は松子、島津、赤木の3人だけなのだが、その3人が熱い好演を見せている。特に島津役の杉本哲太は、不器用な男の松子への静かな愛を非常に上手く演じていて、観ている側の心を強く揺さぶった。赤木役の北村一輝が、松子を後ろから抱きしめて涙するシーンも心に残った。ストーリーの面白さというものももちろんあるが、役者の演技力に見せられた回だった。(仲村英一郎)

第4回(2006年11月2日放送)

☆☆★
 松子(内山理名)は働き初めて3ヶ月でソープランド「白夜」のNo.1となる。そんな松子に人情派のマネージャー赤木(北村一輝)は「いつまでもこの世界に留まらず、早く出口を見付けろ」と親身に忠告する。しかし松子の心の支えだった赤木はオーナーと経営方針で対立し、解雇されるはめに。姉のように慕っていた先輩ソープ嬢スミ子(鈴木蘭々)も時を同じくして店を辞め、故郷に戻って小料理屋を開くと松子に告げる。赤木のいつも言っていた「出口」をみつけたスミ子を祝うとともに羨む松子。
 新マネージャーになってから素人同然のソープ嬢がはびこるようになって様変わりした「白夜」。そんな折、同業と名乗る客の小野寺(吹越満)に二人で組んで仕事しないかともちかけられ、松子は中州を出て雄琴へ移る。儲けは小野寺の期待通り順調だったが、松子は心身ともにボロボロになり、覚醒剤も常用するように。しかも小野寺は松子の稼いだ金をすべてギャンブルにつぎ込んでしまっていた。「出口」を無くした人生に嫌気がさした松子は包丁を手に取り、衝動的に小野寺を殺害する。
 かなりのスピード感あふれる回で、あっという間にエンドロールが始まってしまい、驚いた。画面にぐいぐいと引き込まれるように観ていた。ソープ嬢に転身した松子の話し方、しぐさ、身なりが、見事に変貌し全く別人の松子であった。内山理名の役への入れ込み具合がよくわかる。迫真の演技だった。(仲村英一郎)

第3回(2006年10月26日放送)

☆☆
 八女川徹也(萩原聖人)の死で虚ろになった松子(内山理名)の心を埋めてくれたのは、徹也の親友・岡野(谷原章介)だった。二人はある日、泊まりがけで徹也の墓参りに出掛ける。岡野は墓前で「松子さんは僕が守ってみせる」と徹也に誓う。その夜、松子と岡野は結ばれ、松子の愛人生活が始まった。しかしその幸せも長続きはしなかった。不倫が妻にばれた岡野は、松子に二人の関係は「大人の関係」だったと本音を漏らす。岡野の愛を信じていた松子だったが、岡野にとって松子と付き合った理由は、徹也への嫉妬心からだったのだ。そして岡野は松子の前から去る。絶望にくれた松子はとっさにリストカットするものの、結局死ねず朝を迎える。なにかが吹っ切れたようになった松子は、ソープランド「白夜」を訪れ、ソープ嬢へと転身する。
 物語には「緊張」と「緩和」の程よいバランスが必要である。本作品の場合、転落女の人生であることが端からわかっているので、「緊張」のみの展開になってしまって結局観ている側が疲れるというパターンに陥りやすい。しかしエンドロールでNGシーンを挿入したりしているところなどをみると、それだけでは終わらせないぞという制作側の意図が伺える。
 グレン・ミラーのメジャー調のスタンダード曲が効果的に使われていると、初回のレビューでも書いたが、今回もうまく使われていた。それは、松子が岡野の家を突然訪問するシーンである。いわゆる修羅場の場面であるので、BGMもマイナー調の選曲が普通なのだが、主題歌である「In The Mood」をバックに、コマ送りを一部使ったコミカルな演出がなされていて、非常に良い「緩和」のシーンとなった。本作品にはこのような「緩和」の演出が必要であり、特徴となるはずだ。(仲村英一郎)

第2回(2006年10月19日放送)

☆☆
 昭和48年秋。松子は作家志望の八女川徹也(萩原聖人)と同棲生活を初め、生まれて初めての安住の地を見つける。簡単に言えば、徹也は松子にとってヒモ同然なのだが、徹也に必要とされているという幸福感に松子は満たされていた。しかしなかなか芽のでない徹也は次第に酒に溺れ初め、原稿用紙に一行も書けない日々が続く。仕事もしない徹也を支えるために、ソープランド「白夜」の面接に行く松子。しかし、「白夜」の支配人赤木研一郎(北村一輝)に、松子が捨て鉢になってやって来たことを見抜かれ、追い返される。松子は実家に金の無心をするが、父と妹が死んだことを知らされ茫然自失となる。その頃徹也は自宅で赤木の名刺を見付け、松子が「白夜」で働いていると勘違いし、雨の降る中電車に投身自殺する。
 これだけ読むと、悪い男にひっかかった不幸な女の話、と思われるかもしれない。しかし、どれだけ徹也が酒に溺れようと暴力をふるおうと、松子は幸せだった。ソープランドで働こうと悲壮な決意をして面接を受けたのも、徹也の作家としての可能性を信じて自ら進んで選んだのだ。松子は馬鹿がつくほど純粋に徹也を愛していた。松子は愛のために生きる女なのかもしれない。その一方で松子には危険な面もあった。赤木はソープでの面接の時にそれをすでに見抜いていた。「あんたは極端だ。フレが激しい。無鉄砲でとてもあぶなっかしい」と。松子がそれほど愛した徹也の投身自殺は、徹也の松子への贖罪の意味と自分の才能を見限ったからだったのであろう。最愛の徹也を失い、松子の転落人生はさらに加速しそうな気配だ。
 今回は初回とは違い、トーンが非常に暗かった。できれば初回のようにさりげないコミカルな要素を付け加えてくれると、視聴者側ももう少し気楽に見られるのだが。(仲村英一郎)

第1回(2006年10月12日放送)

☆☆★
 人生とは無数の歯車で出来た大きな機械のようなものだと思う。ある日突然何かのきっかけで小さな歯車が弾き出される。そして次々と歯車が連鎖的に弾き出され、その結果壊れる機械もあればなんとか動き続ける機械もある。いずれにしても、それは思いもしなかった方向へと人生を導いていく。
 そう考えてみた時、川尻松子(内山理名)は歯車を全て無くし、動かなくなってしまった機械だったのだろう。機械、とは、運命と言い換えることもできる。
 物語は松子が実家から蒸発した30年後、古アパートで他殺体として発見された現代から始まる。松子の姪、明日香(鈴木えみ)は伯母松子の存在すら知らなかったが、父の言いつけで松子の部屋の後始末に行く。そして松子の波乱に満ちた生涯について興味をもち、それまでの足取りを調べ始める。
 30年前、松子は新米の中学校教師だった。厳格な父の元で育ったこともあって松子は清楚そのもので生徒からも慕われていた。しかし、修学旅行中におきた現金盗難事件の濡れ衣を着せられる羽目に陥り、教師をクビになる。そしてこれがきっかけとなり、松子の果てしない転落の旅が始まる。
 視点は松子、明日香と交互に入れ替わる仕組みになっており、ミステリードラマとしての側面も持っている。ストーリーだけを考えた場合、転落女の悲惨な暗いドラマと思われるかもしれないが、コメディ的な要素も随所に散りばめているので、それほど重さは感じない。むしろ松子の人生の謎解きに興味津々となってしまう。ドラマを重くさせない手法として、グレン・ミラーのメジャー調のスタンダード曲を使っているのも巧妙だ。
 ちなみに原作は120万部を突破、今春公開された映画も大ヒットし、最近流行の「映画→ドラマ」というメディアミックス戦略の一つである。しかし映画よりも原作に忠実に描かれるということもあり、初回を見た段階では今後にかなりの期待が持てると思う。(仲村英一郎)

嫌われ松子の一生

TBS系木曜22:00〜22:54
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
プロデューサー:貴島誠一郎
原作:山田宗樹『嫌われ松子の一生』
脚本:成瀬活雄(1、2、3、4、6、7、8、9、10、11)
演出:酒井聖博(1、2、5、8、11)、堀英樹(3、6、9)、山本剛義(4、7、10)
音楽:長谷部徹
メインテーマ:『In The Mood』BACCHUS feat. La Gauno
出演:川尻松子…内山理名、龍洋一…要潤、沢村めぐみ…小池栄子、川尻明日香…鈴木えみ、渡辺笙…小柳友、汐見彬…羽賀研二、後藤浩平…浜田学、大倉脩二…なすび、島崎聡…蕨野睦弘、川尻チヨ…根岸季衣、川尻紀夫…尾上松也、川尻久美…渡辺夏菜、少年時代の龍洋一…本郷奏多、杉下滋男…笹野高史、井出次郎…温水洋一、丸山英次…新井康弘、佐伯俊二…高杉瑞穂、藤堂操…宮地雅子、川尻悦子…矢沢心、岡野芳江…尾上紫、吉冨一義…崎山凛、レイコ…瀬戸早妃、浅野輝彦…坂本爽、海老沢真…武野功雄、遠藤和子…山田スミ子、牧野みどり…ふせえり、真行寺るり子…有坂来瞳、裁判長…伏見哲夫、市川琴美…原田夏希、池谷実…神保悟志、永田仁美…吉野公佳、本田リエ…加藤美佳、大谷春樹…吉永雄紀、池谷実…神保悟志、徳山拓也…新妻大蔵、柴田順造…六平直政、田所志津子…橘実里、美岬の母親…川津春、少女時代の松子…村崎真彩、少女時代の久美…岩本千波、川尻恒造…塩見三省、田所文夫…佐藤B作、岡野健夫…谷原章介、八女川徹也…萩原聖人、斉藤スミ子(綾乃)…鈴木蘭々、小野寺保…吹越満、瀬川陽子…片桐はいり、島津賢治…杉本哲太、吉沢竜二…美木良介、内田あかね…秋野暢子、楠木亜也子…りりィ、赤木研一郎…北村一輝