Dr.コトー診療所2006

第10回(2006年12月14日放送)

☆☆
 ドラマの序盤戦に、「これ以上この島から重症患者を出さないためにも、コトー(吉岡秀隆)と彩佳(柴咲コウ)の話が分散されて、バリエーションが出るのはいいことかもしれない」と書いたが、結局彩佳の出番は予想以上に少なかった。正一(小林薫)が彩佳に会いに行く東京のパートにしみじみとなるにつけ、いっそう残念な気持ちになる。いろいろ理由はあるんだろうけれど。今回のシリーズには何かが足りないと思っていのだが、それは彩佳の一途さではなかったか。
 生存率でしか患者を判断しない鳴海(堺雅人)はまた相変わらず。五島と彩佳の電話から(コトーは自らを五島と名乗っていた)、志木那島の人口が1800人であることが、あとコトーが彩佳の病気のことを黙っていた期間が一年近くであったことが判明。東京へ向かうコトーが島の美しさを再発見する場面は、このシリーズ中でも最高の抒情ぶり。それにしても、東京に行ってからのコトーは明るかった。(麻生結一)

第9回(2006年12月7日放送)

☆☆
 ミナ(蒼井優)の過去にスポットが当たるのは順当としても、実はミナと結婚していたDV男、知明(忍成修吾)までもがコトー(吉岡秀隆)の手術台にのぼってしまうとは。ミナが知明を助ける過程が大切だったとしても、いろいろと引っかかってしまって、素直にこのドラマらしい味わいに浸れないのはやはり具合が悪かろう。(麻生結一)

第8回(2006年11月30日放送)

☆☆
 コトー(吉岡秀隆)、手術に明け暮れる日々。そしてついに奇跡を呼ぶ男に(ステーブ・マーティンの日本未公開作『奇跡を呼ぶ男』はいい映画です。テーマもちょっと今話に似てる?!)。
 生還をとげるまでのゆかり(桜井幸子)の描写はいかにも思わせぶりな感じで随所にひっかかったが、それが好まれる味と言えば味なのかもしれない。末期とは?とのコトーの問いかけが眼前に広がる海で昇華されてしまうのもきれいごとに感じられた。トータルとしてのシリーズの中の1本ではなく、単発としてのこれだったら、むしろ容認できたかもしれないが。鳴海(堺雅人)の冷淡はどういう意図なのか、こちらは容認しがたい。(麻生結一)

第7回(2006年11月23日放送)

☆☆
 このドラマにしかなしえないような雰囲気は相変わらずに満点なのだけれど、この野戦病院ならぬ野戦診療所ぶりはやはりちょっと度を越えている気がする。胃がんで余命3ヶ月と診断されるゆかり(桜井幸子)と、本土の病院で出産するはずが、やはりというべきか、診療所で無事に出産した春江(高橋史子)の対比も残酷に、次回はさらに涙を誘う展開になる模様。さらには、抗がん剤の治療を決意するゆかりと東京で乳がん治療を続ける彩佳(柴咲コウ)もまた対比されているわけで、ちょっと詰め込みすぎにも思えてくるのだが。(麻生結一)

第6回(2006年11月16日放送)

☆☆
 豪快で不器用な重雄(泉谷しげる)の優しさにドラマは救われる。ただ、剛利(時任三郎)の経済的窮地が漁港の仲間たちによって買い戻された剛宝丸の存在で本当に救われるのかどうかは、そういう計算はドラマ中になかったのでよくわからない。
 もはや順番制、もしくは当番制と化しているオペ担当(切る方ではなく、切られる方の)。今話ではタバコを吸っていたはずの邦夫(春山幹介)が腹膜炎の手術に挑む。ここまでくると、コトー(吉岡秀隆)のおしおきか何かにも感じられてくるが、とりあえず海の河童=剛利が海に戻った後味だけは最高だった。(麻生結一)

第5回(2006年11月9日放送)

☆☆★
 夏休みに島に帰省した剛洋(富岡涼)と、そんな剛洋の学費のために積み立ててきた全額を未公開株の詐欺に引っかかって失ってしまった剛利(時任三郎)を取り巻く過酷が、空気感としてドラマに漂っていた第5回。
 真人(細田よしひこ)の船がしけの海でエンジントラブルを起こすクライマックスは、相変わらずに暗い画面、嵐で声も聞き取れないという見せ方のリアリティで押す。真人の船を救う剛利の命知らずの大活躍はそれと対極にあり、微妙なところでバランスをとっている感じだ。
 パート1からの自己模倣が繰り返されている気がしないでもないが、見終わった後のじんわりとした印象はこのシリーズならではと言えるところで、そのあたりの安心感がこのドラマの高い人気を支えているのかもしれない。(麻生結一)

第4回(2006年11月2日放送)

☆☆★
 乳がんの治療のために東京に居を移した彩香(柴咲コウ)は、コトー(吉岡秀隆)との電話越しに志木那島に近づく豊漁祭の太鼓の音を聞く。抗癌剤の副作用に不安がつのる彩香の望郷の念がせつなく迫ってくる、アバンタイトルにして今話ベストのシーンだ。こういうじわっとなるようなよさこそが、このドラマの真骨頂。コトーお得意の大手術など、いっそういらない気がしてくる(山下務(船木誠勝)の妻で妊婦の春江(高橋史子)の転倒が大事に至らなかったのは、ドラマ的にも幸い)。
 この第4話全編に苦々しく響いていたのは、2年前の豊漁祭で倒れた妻・昌代(朝加真由美)も、もしもその時に酔いつぶれていなかったらと自らを責めさいなむ正一(小林薫)の心情。だからこそ、昌代が正一を祭りに誘うエピソードには救われる思いがした。結局祭りに行き着けない正一と昌代が、缶ビールで乾杯する背中にも含蓄がにじむ。
 すべては良かれと思って、正一に絡むは謝るはでいかにもらしかった重雄(泉谷しげる)が、最後の最後に垣間見せた孤独にはゾクッとさせられた。ただ、コトーに対して老後のことまで託したのはちょっとわかり安すぎて残念。
 上記のいずれもに比較すると、事故の賠償金を背負われてた剛利(時任三郎)が未公開株に手を出す、いかにもありがちなお話は、そのあざとさが目についてガッカリだった。こういうベタな苦境が含まれていることこそが、視聴率の原動力なのかもしれないが。
 ミナ(蒼井優)と色ボケ中という好ましい状況を差し引いても、和田演じる筧利夫は、パート1での抑えたよさが消えている。これもまた、今の方が評判がよかったりするのだろうか?(麻生結一)

第3回(2006年10月26日放送)

☆☆★
 これ以上この島から重症患者を出さないためにも、コトー(吉岡秀隆)と彩佳(柴咲コウ)の話が分散されて、バリエーションが出るのはいいことかもしれないと思い始めていたのに、頑なに重症患者を出してしまうあたりは、もはやさすがとしか言いようがない。喘息治療のために島に移り住んでいたひな(尾ア千瑛)を開腹手術してしまう展開は、腹腔内出血の原因になった貝拾いの理由でホロっとさせられなかったら、逆に怒り出してしまうところだ。
 とても彩佳の代役が務まりそうにないどころか、恐怖の注射女として知れ渡ってしまったミナ(蒼井優)が、ひなの一件をきっかけに一人前の看護師として歩み始めるという回だった第3回。島の健康診断で、ミナの注射の列には誰も並ばないというプロローグから、ミナに輸血依頼が殺到するエピローグまでの流れは実にスムーズ。
 そんな留守中の出来事に、

彩香「オペがあったんですか?」

とコトーとの電話先で彩香が驚いたところをみると、コトーも連日オペをしているわけではないことはわかった?! 剛洋(富岡涼)からコトーへの手紙の構成あたりは、まったくの『北の国から』。その遺伝子は今作品に見事に受け継がれているようだ。(麻生結一)

第2回(2006年10月19日放送)

☆☆
 乳がんの治療を東京でやることを決意する彩佳(柴咲コウ)の旅立ちの回だったが、それ以上に目をひいたのはさちおじこと左千夫(石橋蓮司)の家の全焼と大火傷の方。まったくこの島のけが人発生率といったら、少なくとも日本随一であることは間違いないと思えるほどに、コトー(吉岡秀隆)の活躍どころは満載である。『医龍』を経たことで、大概の手術シーンでもへっちゃらになっていたつもりだったが、さちおじのそれには思わず目を背けたくなる。
 ただ、そんなケレンたっぷりの展開が連打されても、これほどまでにしみじみ調を維持できているのは、ある意味驚異的である。それはコトーの癒しによるものか、はたまた彩佳の一途さによるものなのか、限定できるものではないが、それだけに二人が離れ離れになる次週以降がちょっと心配である。(麻生結一)

第1回(2006年10月12日放送)

☆☆★
 タイトルに“2006”などとついているものだから、てっきり『北の国から』路線まっしぐらのまたもやスペシャルドラマかと思ったが、今度は連ドラでの再登場ということのようだ。例によって例のごとく、理学療法士の資格を取るための学校の下見のために東京に行っていた彩佳(柴咲コウ)が、同じフェリーに乗り合わせて意識を失った中村村長(坂本長利)の応急治療を試みざるを得なくなったり、すっかり大きくなっちゃった剛洋(富岡涼)が東京の私立に合格したことを志木那島の島民が島をあげて喜んだりといった、あまりにもおなじみな定番エピソード満載の第1回で、このクール随一の安定優良株ぶりを早々悠々と発揮してくれた。
 頻繁に看護士が応急治療をするといった展開はちょっと前ならば受け入れがたかったが、『医龍』後にいたってはもはや何でもありである?! 同枠で継続的かつ計画的にドラマ的敷居を下げているとは考え難いが……。『Ns’あおい』はドラマの出来ばえに問題があり過ぎたので、それに加担する域にはない。
 この初回でもっとも手厚く取り上げられていたのは、コトー(吉岡秀隆)に内緒裏に東京で乳がんの検診を受けた彩佳の心情であった。医療従事者である自分が島のみんなに心配れるのも確かにイヤだろうが、コトーに胸を見られたくなかったという悲痛な告白はさらにダイレクトに響くところだった。
 引っかかったのは、かつてコトーと同じ研究室に在籍していたという鳴海医師(堺雅人)による彩香の主治医としての悪代官のような応対で、このドラマには似つかわしくないテイストに映った。それにはそれなりの理由があるのか、それも今後語られていくのかもしれない。村長が倒れるきっかけを作った張本人にして新米看護婦・ミナ(蒼井優)は彩佳ならずとも随所にイライラさせてくれて、その面倒くさい雰囲気はきちっと醸し出されていたと思う。(麻生結一)

Dr.コトー診療所2006

フジテレビ系木曜22:00〜22:54
制作著作:フジテレビ
プロデュース:中江功、増本淳、塚田洋子
原作:『Dr.コトー診療所』山田貴敏
脚本:吉田紀子
演出:中江功(1、2、6、7、8、10、11)、平井秀樹(3、5)、高木健太郎(4、9)
音楽:オリジナルサウンドトラック『Dr.コトー診療所2006』吉俣良
主題歌:『銀の龍の背に乗って』中島みゆき
出演:五島健助…吉岡秀隆、星野彩佳…柴咲コウ、原剛利…時任三郎、西山茉莉子…大塚寧々、仲依ミナ…蒼井優、坂野孝…大森南朋、星野昌代…朝加真由美、中村三郎…坂本長利、原剛洋…富岡涼、小沢真二…光石研、小沢小百合…神野三鈴、元木渡…山西惇、山下努…船木誠勝、坂野ゆかり…桜井幸子、山下左千夫…石橋蓮司、仲依知明…忍成修吾、五島沙知子…宮本信子、三上新一…山崎樹範、北見敏之、森上千絵、高橋史子、納谷真大、熊耳宏之、細田よしひこ、栗脇高志、東誠一郎、宮嶋剛史、増子倭文江、妹尾正文、谷津勲、松田史朗、春山幹介、尾崎千瑛、池田晃信、石川眞吾、大畑稚菜、松本梨菜、畠山彩奈、鳴海慧…堺雅人、安藤重雄…泉谷しげる、和田一範…筧利夫、星野正一…小林薫