家族〜妻の不在・夫の存在〜

第7回(2006年12月1日放送)

☆☆★
 悠斗(宇都秀星)の最善を考えた亮平(竹野内豊)は、理美(石田ゆり子)との離婚に同意。悠斗の親権も明け渡して、フランスへの転勤を決心をする。そして、これが最後との思いを胸に家族3人で過ごす場面で、亮平は理想の父親像に限りなく近づいてきていく。遊園地のカン倒し(?)は確認できただけでも6、7回挑み(2100円、よくあれだけの100円玉を持っていたものだ)、亮平はついに悠斗のために電車の模型をゲット。悠斗の中で刻まれたであろう頼りになる父親像が何のてらいもなく描かれているあたり、このドラマのよさそのものである。コメディのパートは総じて古めかしいが。
 シンちゃんこと佐伯(渡哲也)とさやか(星野真里)の話も予想よりもシビアに進行。あくまで誠実な佐伯に対して、津久野(劇団ひとり)からも30万円だましとったさやかが単なる金目当てであれば、それはそれで納得のいく話になるが、捨て猫じゃないんだからと自虐的になるさやかの思いにもフォローは入っている。もちろん、普通のテレビドラマならば最終回により戻し(=丸い結末)がくるのがろうが。ラスト、理美の転落事故から早速最終回1回前の趣だったし。
 季節モノは定番としても、

美帆先生(さくら)「悠斗くんにクリスマス会にはぜひ遊びに来てくれって伝えてください」

って、これじゃ男らしすぎるでしょ。(麻生結一)

第6回(2006年11月24日放送)

☆☆☆
 ドラマの誠実は、回を追うごとに増す一方である。引っかかるところもないではないが、それ以上にいかにもテレビドラマらしいじっくりとしたよさがつまっている点が好ましい、好感度大の作品である。なお、点数は次回以降の伸びしろ分も加味してのもの。
 亮平(竹野内豊)が悠斗(宇都秀星)を理美(石田ゆり子)のもとへ返した、その3週間後。フランスの食品見本市の出張から帰ってきた亮平は、いきなりに悠斗の幻影を見る。これだけ取り出すと病んでるニュアンスが含まれなくもないが、その後のしっとりとしたテイストにまぎれて、いつの間にか気にならなくなる。
 双方の言い分が大きく食い違う離婚調停の場面はじっくりと場面を積み重ねる構成で、その正攻法がこのドラマには似つかわしく思える。弁護士としては丁寧語、個人としてはタメ口となる変幻自在ぶりに、

亮平「そんな勝手に使い分けないでください!」

と突っ込まれる、なぜだかフルネーム扱いの弁護士・古葉詩織(木村多江)は理美の代理人であるにも関わらず、いっそう亮平の境遇に同情的になっていく。そのあたりの微妙な立ち位置が視聴者的な目線とフィットするところで、ドラマのバランサーとしての役割を担ってきている。それにしてもこの弁護士さんには、何ともじっとりとした雰囲気が立ち込めてます。
 理美と宿本(金子昇)との関係を疑う古葉詩織が、結局理美の代理人を降りる言い争いの場面も、それが全体のしっとり調を損なうものではない。どうしてそこまで離婚にこだわるのか、という理美に対する古葉詩織の問いかけも効いていて、ここでもドラマのバランサーとしての役割を果たしてくれるあたりが頼もしい限りだ。
 最近、こういう正々堂々としたテレビドラマが減っているも、ここには懐かしいような、古めかしいような、背筋を正したくなるような、居心地のいい安心感がある。つまり、ちゃんと人間を描こうとしているわけである。どちらにしても、このクール中でも指折りの一本であることに間違いない。
 まだよくわからないのが、シンちゃんこと佐伯(渡哲也)の家に出入りするようになるキャバクラ嬢・さやか(星野真里)の存在。病死した妻・加奈子(中田喜子)がいったんは養子にしようとまでしたさやかを、実は20年近くわが子のようにかわいがっていたことを妻の死後に佐伯が知って、という大前提は、この後亮平の話ともリンクしていくのだろうか。
 大好きなパパとママが憎しみあったら、傷つくのは悠斗と古葉詩織に説得されて、ついに離婚を決意する亮平の心理は決して急かすことなく描かれる(やはり古葉詩織、大活躍である)。それだけに、亮平が保育園の散歩中の悠斗に会いに行き、ママを守ってやるようにと告げる場面がいっそう心に染みるのである。ここのロケ撮影も実に美しかった。亮平がちゃんと保育園の先生に面会の許可をとっていたのか、ちょっと心配になったが。(麻生結一)

第5回(2006年11月17日放送)

☆☆★
 妻・理美(石田ゆり子)の言い分がようやくに初出。これでイーブンとまではいかないけれど、シンちゃんこと佐伯(渡哲也)に亮平(竹野内豊)と悠斗(宇都秀星)をヘルプしないでと申し出て、何が何でも悠斗を取り戻そうとする自らを嫌な女と自認しているあたりの揺れ動きはこれまでの不満分を取り戻すかのように手厚かった。
 離婚の概念を理解するに至った悠斗の、すっかり元気がなくなったことをキッカケとして、亮平は里美に悠斗を渡すことを決断。どうしても男親では越えられない何かを背中ににじませて、亮平がその場を去っていくこの別れの場面は、これまでの亮平のがんばりを思うほどに胸を打つ(似たような場面が『クレイマー・クレイマー』にもあったか)。
 佐伯が密かに抱えているものも垣間見えてきたり、弁護士の古葉詩織(木村多江)の心情が亮平サイドに傾いてきたりと、周辺の展開の分厚さも出てきていて頼もしい。『クレイマー・クレイマー』型のドラマにはちょっと前に『彼と彼女と彼女の生きる道』もあったけれど、こちらの方がよりストレートな語り口で好感が持てる。同じく渡哲也が出演していた同局の『熟年離婚』よりもこちらの方が数段出来ばえもいい。今クールでいくならば、『僕の歩く道』に負けず劣らず誠実なドラマである。(麻生結一)

第4回(2006年11月10日放送)

☆☆★
 シンちゃんこと佐伯(渡哲也)に殴られた翌朝、幼稚園に行くのが気まずい亮平(竹野内豊)は悠斗(宇都秀星)をディズニーランドに連れ出そうとするも、そこへ突然、理美(石田ゆり子)の父・克治(夏八木勲)が訪ねてくる。自分が無職になってしまったこと、さらには理美が離婚を切り出していることも伏せて、理美を呼び戻しての理想の家族を演じるくだりにしても、例えばもう少しコミカルに味付けすることも可能だったろうが、生真面目なほどに正統的な描写に徹するあたりがこのドラマのこのドラマらしいカラーだ。
 そういった奇をてらわないエピソードの積み重ねが功を奏してか、娘の理美に心配をかけまいと手術の同意書への署名を亮平に頼むシーンでの、この義理の父との義理の息子とのやりとりがいっそうに誠実さを帯びて伝わってくる。ここまで律儀に見せていただいているわけだから、見る方もそれなりにちゃんと見なければいけないだろう。

悠斗「またクビ?」

のダイレクトさはいたたまれなかったけれど。(麻生結一)

第3回(2006年11月3日放送)

☆☆
 現状は「家族」というよりも「夫」とタイトルしたいほどに、妻の理美(石田ゆり子)から弁護士の古葉詩織(木村多江)を代理人に立てられた亮平(竹野内豊)の成り行きのみを描いている格好。雑巾制作から悠斗(宇都秀星)のお守り、はたまた人生指南にグーパンチのお見舞いに至るまで、完全なアシスト役と化しているいシンちゃんこと佐伯(渡哲也)の話はまだしも、かじるようにしか取り上げられないために理美のキャラクターがますます薄っぺらくなっているのがちょっと気になるけれど(どうせなら、何もしない方がマシにも思える)、そのわりにはそれなりの歩みでドラマが展開してるように感じられるのは、各エピソードに過剰さがないからだろうか。
 会社を首になった後に面接を受けた会社の人事担当者にして、以前亮平によってリストラされていた細田(小林すすむ)から嫌がらせを受ける場面はひねりも何もないが、主人公の設定上から避けて通れないエピソードではあった。何が起ころうともに普遍である悠斗の健気さだけが売りじゃない展開を、今後には期待したいところだ。(麻生結一)

第2回(2006年10月27日放送)

☆☆
 第2回を通しての横糸は亮平(竹野内豊)の手作り弁当のお話。黒こげなおかず群をお友達にひやかされ、憂鬱になる悠斗(宇都秀星)がその中身を幼稚園の花壇に穴を掘って捨てるエピソードがリピートされるにつけ、何ともせつなかった。もちろん、ここが効いてるゆえ、シンちゃんこと佐伯(渡哲也)に伝授されたたこさんウィンナーを早起きして作った亮平(竹野内豊)のガッツポーズにも声援を送りたくなるわけだ。
 悠斗が完食して空になった弁当を見てグッとくる亮平には、さくらんぼ幼稚園の美帆先生(さくら)もグッときたのか、亮平に黙って悠斗を連れ帰ろうとした理美(石田ゆり子)に毅然とした態度をとったのとは真逆に、亮平派であることを堂々ここに宣言する。一方理美は、友人にして弁護士の古葉詩織(木村多江)を代理人として立てる。次回以降は悠斗の親権問題がトピックになるのだろう。
 現状、理美が共感の薄いキャラクターになっているのは、亮平に共感を促す作意だろうが、今後もそのバランスとなるといかなるものだろう。用意周到に仕事の段取りをつけていたりするのはいいとしても、いきなりにいい部屋に住んでいたりするのにもちょっと疑問。『嫌われ松子の一生』のリアリズムを見せられた翌日だったりするとなおさらだ?!
 現状、亮平のサポート役に徹しているシンちゃんこと佐伯の妻・加奈子(中田喜子)が、実はすでに病死していたことも判明。リストラのおかげで妻の最期に付き添えたと、亮平にしみじみと感謝の気持ちを伝える佐伯もまた、かつては仕事人間で、5歳だった息子の死に目にも会えなかったとの過去までを一気に説明し尽くすしたのも、亮平とのリンクがわかりやすくなった点ではよかったとするべきか。
 それにしても、亮平のせっかくの愛情弁当に

「まあまあね」

と辛らつコメントを吐く悠斗のお友達の女の子Aには笑ってしまった。(麻生結一)

第1回(2006年10月20日放送)

☆☆
 山田洋次監督以外にこんな直裁なタイトルは操れまいと思っていたが(映画『家族』1970、当時の傑作も、今見ると当時の社会状況をつぶさに見せてくれる資料的価値もあり)、それだけに竹野内豊と渡哲也の新旧スターを擁するこのドラマが、本気で家族についてを描こうとしている表れであると信じたいところだ。
 家庭を顧みない亮平(竹野内豊)に嫌気がさして、妻・理美(石田ゆり子)は息子の悠斗(宇都秀星)を連れて家を出るも、その数日後悠斗が亮平のもとに戻ってくる。そんな悠斗が幼稚園でシンちゃんと呼ぶボランティアの佐伯晋一郎(渡哲也)は、その一年前に亮平がリストラを言い渡した男だった。
 渡哲也が定年後の初老の男を演じるというと、昨年の『熟年離婚』を思い出す。あのドラマは話題にはなったが、後半完全に失速してしまって出来ばえには不満が残った。似たようなテイストのドラマとするとちょっと心配だけれど、この第1回は随所に視点の誠実さ、作りの丁重さを感じさせて、第一印象としては悪くなかった。
 『クレイマー・クレイマー』と似たような設定のドラマとしては、『僕と彼女と彼女の生きる道』が記憶に新しいが、今作は亮平とシンちゃんこと佐伯の男の友情というテイストも加味される分、一味違ったドラマになる可能性はある。サブタイトル「妻の不在・夫の存在」ならぬ、竹野内豊のパパっぷりも、男は泣いちゃいけないとあまりにもいかにもな精神論を説く渡哲也も存在感抜群なだけに、ここからどんどんよくなっていくことを期待したい。(麻生結一)

家族〜妻の不在・夫の存在〜

テレビ朝日系金曜21:00〜21:54
制作:ABC、tv asahi
制作協力:5年D組
チーフプロデューサー:五十嵐文郎
プロデューサー:中込卓也、深沢義啓、里内英司
脚本:清水有生
演出:唐木希浩(1、2、5、8)、池添博(3、6)、高橋伸之(4、7)
音楽:渡辺俊幸
主題歌:『Everything』EXILE
出演:上川亮平…竹野内豊、上川理美…石田ゆり子、津久野仁志…劇団ひとり、木下美帆…さくら、浅野由美子…清水由紀、石澤勝彦…石井智也、サブちゃん…金橋良樹、上川悠斗…宇都秀星、民子…梅沢昌代、斉藤部長…近江谷太朗、桜沢専務…中村新将、山田課長…野添義弘、細田…小林すすむ、小雪ママ…久保田磨希、ゆかりママ…かんのひとみ、健太ママ…雨音めぐみ、社員…光宣、藤尾克治…夏八木勲、かめこ…佐藤礼貴、調停委員…野村信次・小川章子、医師…神崎智孝、レギュラー保育士…太田さやか・大音文子・菅原祥子、森田さやか…星野真里、佐伯加奈子…中田喜子、宿本和則…金子昇、古葉詩織…木村多江、佐伯晋一郎…渡哲也