たったひとつの恋

第10回(2006年12月16日放送)

☆☆★
 思い起こせば冒頭から、軽く引いてしまうぐらいベタなシチュエーションと、この上なくみずみずしい叙情性の間をひっきりなしに行き来してきたこのドラマ。全体としてはみずみずしさのほうが勝っていたと思うけれど、この最終回だけを見ればいささかベタさの方が強く感じられた印象だったかもしれない。向こうから婚約破棄を言い出してくれる物わかりのいい婚約者に、長い置き手紙を読ませるためのいささか回りくどい展開、そして極めつけはバスを走って追っかけ……と、「いかにも最終回」なシークエンスの連打という印象だった。最終的に、恋のために空港行きリムジンを停車させてしまったりするあたりは、このドラマの長所のはずだった恋愛至上感が悪い方向に働いた部分だったか。あまりの無茶苦茶さというか傍若無人さに、心に残るはずのラストシーン、ヒロト(亀梨和也)のナオ(綾瀬はるか)へのプロポーズがすっかりかすんでしまった。
 そんな中、今回一番印象に残ったのは、亜紀子(余貴美子)の恐喝未遂にきちんと片が付けられるあたり。それを受け入れるみつこ(田中好子)も良かった。ただ、脇役で存在感を見せたのはこの二人のみ。寂しそうに呟くシーンのある雅彦(財津和夫)などはまだいいほうで、達也(要潤)などは明らかに「用済み」的扱いなのがちょっと悲しい。レン(齋藤隆成)が作ったクジラがここへきてそれなりに活かされたのは良かったけれど、ご本人は野球合宿とやらで常に不在なのももったいなかった。中学生に成長したレンを出しにくかったのはわかるのだが、そのせいであのクジラがヒロトとナオをつなぎとめる必然性が薄れてしまっているような。
 とまあ、ここへきていろいろケチもつけてしまったが、この最終回はもちろんのこと、全編を通じてまことに美しい画作りがなされていたことは、強調しておきたい。(安川正吾)

第9回(2006年12月9日放送)

☆☆☆
 ナオ(綾瀬はるか)を抱きしめるアユタ(平岡祐太)というシーンが結果的に週またぎのためだけのネタっぽくなってしまったのは肩すかしだったが、それが大事件に発展しないあたりこそがこの作品らしいリアリズムでもあるか。その後、横浜湾を行く船の上での、ヒロト(亀梨和也)とナオの別れのシーンの美しさで、多少のネガティブ要素は吹き飛んでしまった印象だ。苦くて甘い切なさをたっぷり含んだ台詞のやり取りが、淡々とした語り口で描かれる様は、まさにこれこそが二十歳の恋といった趣きで、白眉の出来映えだった。
 やがて三年の時間が経過し、ヒロトは工場をたたみ、いつの間にかユウコ(戸田恵梨香)と別れてしまっていたコウ(田中聖)も別の女性と結婚。それでもユウコとはいい友達として連絡を取り合っているコウと、ナオとの1年に1度の光のやり取りですら叶わなくなったヒロトはあまりに好対照だ。けれどドラマ的にそれだけではお話にならないわけで、ヒロトは結婚を間近に控えたらしいナオと偶然再会する。その偶然は“いかにもドラマ”だったとしても、港の広い空間を効果的に使った(それはそのまま、二人の心の距離でもあるのだろう)絵作りには見惚れてしまう。その後にやってくる、今は閉鎖されてしまった工場での二度目の再会に、例の“オレンジのいがいがの”が生きるシチュエーションにもまったく無駄はないし、二人が再会を果たすまでの思わせぶりにも過不足はない。予定調和を美しくやり遂げるのもまた、作り手の力量ということだろう。
 てっきり23日の放送で最終回かと思ったら、次回でラストの模様。90年代なら、23日放送で季節感いっぱいに感動のフィナーレってのもあり得たでしょうが、昨今はそういうわけにもいきませんか。単に、不振を伝えられる視聴率のせいかもしれないけれど。(安川正吾)

第8回(2006年12月2日放送)

☆☆☆
 あらすじだけを語ってしまえば、いよいよ本格的にオーソドックスな「身分違いの恋」物語、それ以上でも以下でもないのだけれど、滑らかなストーリー運びに加えて、ディティールがきっちり描かれていることによるこの後味の良さはやはり特筆すべきものがある。ドラマというものがあらすじのみでできているわけではないという好例といえるだろう。件の「オレンジのいがいがの」と懐中電灯の光で通信しあうナオ(綾瀬はるか)とヒロト(亀梨和也)を、レン(齋藤隆成)が

レン「知ってるよ。あの光は、ナオ姉ちゃんとお兄ちゃんの、クジラの声なんだよね」

とたとえたりするあたりのリリカルさはもとより、家を出ることを決めたナオに達也(要潤)が言う、

達也「お母さんの涙、捨てていくのか」

なんて台詞も大いに胸を刺す。そして今回も、ここぞというところで的確に存在感を発揮するナオの母・みつこ(田中好子)の素晴らしさよ。

みつこ「だとしたら、恋って怖いわね」

なんて台詞ひとつが、見事なまでに深く、不穏にさえ聞こえるのがまったく見事だ。
 家を出たナオがなんだかんだでアユタ(平岡祐太)の部屋にたどりつき、そこでアユタに抱きしめられることになる一方で、ヒロトは箱根から戻る夜行バスで、自殺直前だった棚田(田口浩正)と全く色気のないツーショットなんていう対比がなんとも皮肉だ。それにしても、アユタは実はヒロトのことが好きっていうオチなんじゃないかと思っていたけど、さすがに違いましたか。(安川正吾)

第7回(2006年11月25日放送)

☆☆☆
 ヒロト(亀梨和也)とナオ(綾瀬はるか)の小舟の上での逢瀬がこの上なく微笑ましくそして美しいほどに、それを写真に撮ってナオの父・雅彦(財津和夫)をゆすろうとするヒロトの母・亜紀子(余貴美子)の行動になんともやりきれない気分になる。やがて達也(要潤)の口から、ナオが襲われかけた事実も雅彦に伝わってしまい、月丘家は一気に、二人の仲を否定する流れに。最終的に、ヒロトに会わないようナオを説得したのは、これまで目立たなかったナオの母・みつこ(田中好子)だったわけだが、静かな口調ながら率直で決して揺らがないこの母親とナオの切ないやり取りは、あざとい外連味などどこにもないにも関わらずまったく目が離せない場面となっていた。その少し前、ナオはヒロトのために手袋を編み、ヒロトはレン(齋藤隆成)とともにナオのために鯨のオブジェを作っているという、異なる場所で紡がれる穏やかな相思相愛ぶりも清々しかった。“身分違いの恋”というオーソドックスそのものの題材を扱いながらも、記号的エピソードの羅列に甘んじることなく、それでもきっちりこの題材ならではのロマンスや障害を描き出す、作品としての確かな目線に惚れ惚れとする。(安川正吾)

第6回(2006年11月18日放送)

☆☆☆
 ナオ(綾瀬はるか)を襲った山下(波岡一喜)と対決し、右手のケガと引き替えにカタをつけるヒロト(亀梨和也)の姿が今回のドラマ的クライマックスだったとしても、心に残るのはむしろ、船の上で語り合うヒロトとナオの姿であったりするあたりがこのドラマ最大の美点。ワンシーンとしてはほとんど掟破りと言うべき長尺を割いているのだが、このままこの若い二人をずっと見続けていたい気持ちにすらさせられる。ヒロトとナオが意外にあっさり通過してしまった「身分違い」ならではの葛藤に悩み続けるコウ(田中聖)とユウコ(戸田恵梨香)に関する描写も、いいスパイスになっている感じ。わざわざヒロトの家にまで押しかけて「ナオと別れて欲しい」と言う達也(要潤)にしろ、ナオが子供を産めない(かもしれない)ことやそう長く生きられない可能性をヒロトに告げる父の雅彦(財津和夫)にしろ、決して過剰でないが故に逆にその心情が胸に迫ってくる。ストーリーうんぬんというよりは、ひたすらにその世界に浸っていたくなる、そんな作品になってきた。(安川正吾)

第5回(2006年11月11日放送)

☆☆☆
 ナオ(綾瀬はるか)が抱いていた「ヒロト(亀梨和也)に別の彼女疑惑」が、「誤解だ」の一言であっさり解決したのには肩すかしを感じなくもないが、その単純さこそが「若さ」だったりするのも事実。かくして仲直りしたヒロトとナオ、そしてつきあい始めたコウ(田中聖)とユウコ(戸田恵梨香)、そして独り者のアユタ(平岡祐太)の5人が“デート”する描写に前半部がほぼ割かれたのだが、このロケ撮影部分、好天にも恵まれてとても瑞々しい画となっていた。その後、夜の高校に忍び込むあたりも、定番のシチュエーションと言えばそうなのだけれど、たっぷりと叙情的に描き込んでくれたおかげで心に残るシーンとなった。
 後半の山場は、ヒロトたちのかつての同級生でチンピラ然とした山下(波岡一喜)が、ナオを誘拐しようとする衝撃的なシークエンス。白昼堂々と街なかでその凶行が行われてしまうことにしろ、他の人は誰も通らないその現場にヒロトとナオの兄・達也(要潤)が立て続けに通りかかってしまうことにしろ、一歩間違えれば醒めてしまいそうな危ういところだったが、奇をてらわない見せ方が功を奏してドラマ性が勝った印象。達也がヒロトに「帰れ」と言い放つシーン、そして一度は達也と家に帰りかけたナオが踵を返してヒロトを探すシーン、ヒロトに叫んだナオの台詞、その後のヒロトのモノローグまで、若い恋ならではの切なさがどんどんと高まっていく。この少し前に展開された、友人と大学から帰る途中のユウコがコウを無視するという部分のやりきれなさも、ラストの高まりへの勢いをうまくつけてくれていた。
 そんな全体の出来映えにはまったく文句ないけれど、ヒロトのモノローグの中で「タイタニック」が引用されてしまうあたりのベタさは少々興ざめだったか。身分違いの恋物語にケルト風のBGMが流れる時点で、意識していることを最初から隠していなかったにしても、ああもはっきり言われてしまうと、見たくなかった馬脚を無理矢理見せられてしまったような気分になる。(安川正吾)

第4回(2006年11月4日放送)

☆☆☆
 ヒロト(亀梨和也)の弟・レン(齋藤隆成)の発作をきっかけに、これまでほのめかされていたナオ(綾瀬はるか)の病気の詳細が明らかに。レンを心配するあまりに取り乱しナオにひどい言葉を浴びせてしまうヒロトの兄弟愛も泣かせるけれど、血液のガンを患っていたナオが兄の達也(要潤)からの骨髄移植で救われたという話を聞けば、これまで達也が見せていたナオを気にかける様子もこれまた切ないものに思えてくる。さらに、ヒロトの母・亜紀子(余貴美子)が、ヒロトには別に彼女がいるという嘘をナオに言って遠ざけようとしたり、ナオの父・雅彦(財津和夫)がヒロトのことを調査していたりと、それぞれの家族がからむことで「身分違いの恋」というテーマもぐっと際立ってきた。少しずつ発展しているもうひとつの「身分違い」、コウ(田中聖)とユウコ(戸田恵梨香)のこの後も気になるところ。
 一方で、ユウコがナオの病気のことをヒロトに伝えるシーンなどは、奇をてらわないじんわりとした味わいが胸にしみるこれまでのムードできっちり魅せてくれた。定番そのものの物語や美男美女だらけのその意匠には好き嫌いもあるだろうが、そういった上物以外の部分も丁寧に作り込まれ続けている。(安川正吾)

第3回(2006年10月28日放送)

☆☆★
 ナオ(綾瀬はるか)が、スタージュエリーなる有名企業の社長令嬢であることを雑誌記事で見て、今更のように境遇の違いを思い知ったヒロト(亀梨和也)は、二人の関係を進めることを躊躇い始める。そんな冒頭に対するラストは、ロジカルに考えればその境遇の違いを乗り越える決意とかそういう類のシチュエーションであるべきなのだけれど、そんなことにはほとんど触れずあくまでエモーショナルなままにカタをつけて、視聴者を納得させてしまうのは北川脚本の真骨頂という感じ。そこに至るまでに、今回だけで2度も友人達に“騙される”シーンがあるのは(例によってヒロトが劇中でそれを突っ込むにしても)ちょっとどうかと思ったが、美味しそうな食べ物がたっぷりフィーチャーされた微笑ましいディナー風景や、コスモクロックをバックにした初々しいラブシーンを見れば、まあいいかと思えてしまう。横断歩道を渡り始めたナオをヒロトが追うのではなくもう一度呼び戻すという、微妙に定型からはずした見せ方も、二人の関係を象徴していて興味深かった。もっとも、前半部で取引先の若社長がヒロトの見た目に嫉妬するようなコメントを言うあたりのルックス偏重主義は、どちらかといえばあまり良くない意味でこの脚本家らしいと思わせられるところなのだが(おそらく多くの男性は、立場的に絶対的優位にあるときにあんな言葉を口にしようとは思わないはず)、まあ、それも些細なことではある。
 ともあれ、展開などに大きな驚きがあるわけではないにしても、丁寧に作られている作品という印象は続いている。(安川正吾)

第2回(2006年10月21日放送)

☆☆★
 ヒロト(亀梨和也)たちがついていた嘘がばれて、それでもナオ(綾瀬はるか)やユウコ(戸田恵梨香)が彼らの近くに居続ける理由をどのように見せてくれるかと思っていたが、それが「クリスマス前だからとにかくつないどこう」的なものとして描写されるのは正直がっかりした。もちろんそれは建前で、本音は異性として意識したからであるにしても、やはり「嘘をつかれていた」という事実を乗り越える過程みたいなものは、たとえこの淡々としたテイストの中でも必要ではなかっただろうか。今時の若者はそんなこと気にしない、と言われてしまえばそれまでだけれど。
 それでもやはり最終的に、何か言いしれぬじんわりしたものを残してくれる作品であることも確かで、今回で言うならば「オレンジのいがいがの」をめぐるシークエンスが出色だった。少年を試すようなわがままを言ってみる少女、少女のわがままを理不尽な物と知りながら叶えてみせる少年という構図が、まことに美しく決まっていた。
 だがそれに続く、お互いの家から光で合図し合うあたりはどうだっただろう。低い方(=ヒロトの家)から高い方(=ナオの家)は見えるが逆は見えないという比喩的なシーンで終わるかと思いきや、なんとナオはヒロトからの合図もばっちり発見してしまう。ヒロト自身が

ヒロト「ムリすぎだろ」

と呟いたあたり、作り手側もムリのあるシチュエーションであることは重々承知だったのかもしれないが、それにしてもいささかの興ざめ感は否めなかった。そのあたりを含め、たまに脚本と演出がケンカしているような感じを受けなくもないが、全体としては、いかにもこの脚本家らしい恋愛至上感をうまいこと今風に置き換えている印象ではある。(安川正吾)

第1回(2006年10月14日放送)

☆☆★
 町工場を切り盛りする青年と、宝石商の娘であるお嬢様の「身分違いの恋」がメインのモチーフであるならば、さぞドラマティックな展開をするのだろうと思っていたのだが、意外にも淡々とした雰囲気に終始したことにいい意味で驚かされた。ヒロト(亀梨和也)とナオ(綾瀬はるか)の出会いである魚入りバケツをひっくり返すシーンにしろ、パーティで一緒にプールに飛び込むことになるくだりにしろ、その後の待ち合わせシークエンスにしろ、恋愛ものとしてはオーソドックスというか、ベタと言ってもいいシチュエーションがちりばめられているにもかかわらず、そういった印象で終わらなかったのは、徹底的に抑制を利かせた演出の勝利であろう。金持ちは傲慢、貧乏人は粗野、的なステレオタイプ描写がほとんどなされない上品さを考えても、これは見た目よりもずっと大人向けのドラマなのかもしれない。(安川正吾)

たったひとつの恋

日本テレビ系土曜21:00〜21:54
制作著作:日本テレビ
プロデューサー:西憲彦、渡邉浩仁
脚本:北川悦吏子
演出:岩本仁志(1、2、3、5、9、10)、南雲聖一(4)、樹木まさひこ(6)、石尾純(7)、本間美由紀(8)
音楽:池頼広
主題歌:KAT-TUN
出演:神崎弘人…亀梨和也、月丘菜緒…綾瀬はるか、草野甲…田中聖、大沢亜裕太…平岡祐太、本宮裕子…戸田恵梨香、田口浩正、浜田晃、大島蓉子、レン…齋藤隆成、樋口浩二、岸博之、栗田よう子、竹内晶子、松島トモ子、高橋真唯、波岡一喜、筒井真理子、阿南健治、菅原大吉、月丘達也…要潤、淡路恵子、平泉成、池内博之、月丘みつこ…田中好子、月丘雅彦…財津和夫、神崎亜紀子…余貴美子