紅の紋章

第12、13週(2006年12月18〜22、25〜27日放送)

☆★
 玲子(小嶺麗奈)と道也(山口馬木也)の子供である孝行(高木涼生)を後継者にすべく沢村(小林勝也)が狙う一方で、孝行は辻(小木茂光)と自分の子であると純子(酒井美紀)がついた嘘を真に受けた辻家の人々も巻き込んで、孝行をめぐる攻防戦といった趣きに。しかし、自分の血を引いているわけではない子供にそこまで執着する沢村の心情が全くわからないがゆえに、やっぱり盛り上がりきれない。沢村による辻興産の買収ネタなんてのも間にはさみつつ、結局は、これまで話にだけは出てきていた邦代(立原麻衣)の父、川田政吉(井上順)が最終週になって登場し、リーサルウェポンさながらに孝行の件も買収の件も純子の出自の件もすべて収めて一件落着。これまで頑なだった純子もなぜか最終回にだけはすんなりと道也の求愛を受け入れ、めでたしめでたしというお話。
 この枠の作品はしばしば「ドロドロ」という言葉で表現されるが、いわばそれは心情的しがらみがそのまま物語の起伏となる様子を形容したものだろう。そういう意味ではこのドラマは、物語の起伏は確かにあったがまったく「ドロドロ」ではなかった。必ずしも「ドロドロ」であればいいというものでもないけれど、同じストーリー展開で、しかし登場人物の心情的しがらみがしっかりと捉えられる出来映えであれば、なかなかの佳作に仕上がったであろうに、残念でならない。
 ともあれ、

邦代「あの人は母親失格です」

ということで、劇中の人物も関心はすでに後番組(「母親失格」)に移っている模様!?視聴者としても大いに期待してます。(安川正吾)

第11週(2006年12月11〜15日放送)


 道也(山口馬木也)が医師免許を剥奪されて物乞いにまで身をやつした理由にしろ、それを救うために玲子(小嶺麗奈)が沢村(小林勝也)という男の囲い者になることにする決意にしろ、それを聞いて思わず玲子を抱いてしまったらしい道也の心情にしろ、そこに至るまでの感情の積み重ねがないが故に、見ているこちらの頭にはただひたすらにハテナマークが浮かぶのみ。結果的に道也と玲子の子供を純子(酒井美紀)が育てることになるというのはいかにもこの枠らしい展開だけれど、逆に言えば「いかにもこの枠らしい展開」の上っ面をなぞっているだけにしか見えない。今週のキーパーソンであるはずの沢村の描き方にしてもぞんざいで、悪役キャラクターとしての魅力が皆無なのも致命的。そういった点に比べれば、手の施しようのない患者を手術したことで医師免許が剥奪されたなどというあたりの、細部のツッコミどころはもはや些細な問題といったところだ。(安川正吾)

第10週(2006年12月4〜8日放送)

☆★
 実は辻(小木茂光)の死が自殺によるものだったという事実の隠蔽に手を貸した道也(山口馬木也)や、自殺だと知りつつ生徒に対して病死だと“嘘を言って”しまう純子(酒井美紀)、父の自殺を受け入れられないばかりに道也が殺したのだと言い出す綾子(満島ひかり)……と、それなりに面白くなる要素は相変わらずあるものの、どうにも話が波に乗らないのもまた相変わらず。登場人物達の心情の一貫性のなさがその大きな原因であることはまず間違いがないだろう。エピソード毎にどころか、シーン毎に登場人物たちの方向性がころころ変わるので、視聴者としてはドラマ的うねりに身を任せることができない。水曜放送分の綾子などその最たるもので、前半では道也を殺人犯呼ばわりしていたかと思ったら、後半では突然、過疎村に行くという道也に対して自分を置いていくのかと切なげに問うてみたり。その間に珠彦(川久保拓司)から聞いた、辻の死が“自己犠牲の精神”によるものだという話が影響してることを差し引いても、あまりに急すぎる変わり様でしょう。だいたいその、辻が未来のある若者にペースメーカーを譲ろうとしたという話にしても、何度も繰り返されることですっかり既成事実化してしまっているが、そんな話、先週ありました?って感じだし。まあ、このドラマにおいてこういう気持ちになるのはもう何度めかなので、ああまたか、と思うしかないのだが。
 最終的に道也は病院を畳み、一方純子は学校を辞め、さらに辻家を突然出奔するわけだが、そこに至るまでの心情変化も決してスムーズに納得できるほど積み重ねられてはおらず、こうなると道也にしろ純子にしろ、自らのナイーブさを理由に好き勝手をしているだけの人たちにしか見えない(思い起こせば最初からそうだったか)。それにしても、本来なら否が応でも盛り上がるあたりであるはずの10週目にしてこのガッカリ感はあまりにも残念すぎる。(安川正吾)

第9週(2006年11月27〜12月1日放送)

☆★
 もっともドラマティックに盛り上がるべき、純子(酒井美紀)の過去が露呈する先週分が盛り上がりきれなかったのはやはり大きなマイナスであったように思える。今週はそこからどう純子がはい上がるかの話になるかと思いきや、辻(小木茂光)が離婚を言い出したり、辻がそれをやめた途端に邦代(立原麻衣)が小姑的イジメを始めたり、純子が肺炎で倒れたりと、その場限りのエピソードが続いていくのには少々げんなりした。それはあたかも劇中で、ただ壊されるためだけに作られ続けた天使の像のよう。そんな展開の末に突然、純子と道也(山口馬木也)が兄弟ではないことが辻から純子に伝えられるシーンに、作り手の意図とは別のところでびっくり。そうなる必然性もドラマ的タメもなく告白が始まってしまうのは先週もそうだったけれど、何だろうこのドラマティックさの欠如は。ここまでくるともはやわざとやっているようにも思えてくる。生徒達の感情のもつれにしろ、何が生徒達の心を変えたのかよくわからないままに(天使の像が、というのなら、もう少し違う見せ方がありそうで)なし崩し的に解決。週ラストの、辻の死のシーンだけはそれなりに美しく決まった印象だが、ストーリーの起伏だけが辛うじてドラマを支えている状態には物足りなさを覚えずにいられない。(安川正吾)

第8週(2006年11月20〜22、24日放送)

☆☆
 週明け早々、純子(酒井美紀)の過去を調べ始める邦代(立原麻衣)のフルスロットルぶりは面白いとしても、女郎だった事実はえらくあっさりとわかってしまって肩すかし。というか、それを突き止めるまでの描写すらろくにない。その後に玲子(小嶺麗奈)が、女郎をしていたのは自分だと偽り、それを邦代が信じるという展開になるのなら尚のこと、そこに至るまでの展開はきっちり見せて欲しかったところ。そういったディティールをいかに描くかが、帯ドラマならではの醍醐味ではあるまいか。
 それでも、辻(小木茂光)に自分の過去をきちんと告げた方が良いのではないかと悩み始めた純子に対し、それは必要のないことだと諭す玲子、道也(山口馬木也)、珠彦(川久保拓司)の言葉はそれぞれに切実で、複数の思惑が絡み合うこの枠らしい面白さを感じられた部分。ここから純子がどう決断を下すのか……と思ったら、ほとんどタメもなく辻に告白しちゃって、エーッ?となる。もう少しドラマティックでもよかったと思うのだが。けれど、辻が道也と自分を対比しながらそれを受け入れていく過程は悪くなかった。相変わらず、辻が流れの中心に来ると話が引き締まる。
 しかし純子は、辻への告白だけでは満足しなかった!玲子が女郎だと信じている邦代に対しても同様にタメなしで告白しちゃう純子を見て、またエーッ!?。さらにすっかり勢いづいちゃった感じで、生徒達へのカミングアウトすらあっさり済ませてしまう純子先生である。ここまで来るとちょっと笑いさえ出てきてしまうのだが、この場面では玲子の名誉を守るためという理由がきっちりと提示されていた分、展開への説得力は感じられた。それによって綾子(満島ひかり)はもちろん、もっとも純子に信頼を寄せていた女生徒達ですら純子を見捨てる“針のむしろ”状態に、辻ならずともいたたまれない気分になってしまう。
 そんな具合に、良い部分と一言申し上げたくなる部分とが代わりばんこに来た印象の今週だった。何を言われても細い眉をしかめてじっと堪え、常に自分より他人のことを考える純子というキャラクターに、ようやく主人公としての魅力が感じられてきたように思えなくもない。(安川正吾)

第7週(2006年11月13〜17日放送)

☆☆★
 英作(清水紘治)が死んだことで後ろ盾を失い、病院の資金繰りに苦慮することになる道也(山口馬木也)の話を皮切りに、その道也に心臓の手術を受けることになった辻(小木茂光)と道也の対決、そしてさらに辻の跡を継ぐか悩む珠彦(川久保拓司)の決心……と、またしても打って変わって今週は男達が話の中心に。ほとんど辻というか小木茂光氏の独壇場という感じだったが、これがまったくもって悪くない。純子(酒井美紀)と道也が兄妹でないことを道也に告げる辻の意図は自らの死を覚悟してということかと思いきや、道也の医師としての倫理観を利用して自らが助かるためだったという金曜分での告白には大いに感心させられた。道也にしても、告げられたその真実に悩みつつも医師としての使命を全うしようとする描写によって、これまでの上っ滑りな描き方から一歩突っ込んだ人間らしさがようやく出てきたように思える。
 一方、理事長代理を辻から仰せつかった純子の前に、“理事長代理補佐を拝命した”邦代(立原麻衣)が再登場。これでお役ご免かと思われたことが杞憂だったことには安心しつつ、辻興産の秘書室長・岸川(浪花勇二)を泥棒呼ばわりした挙げ句にそれが純子の企みだと言い切るその小物悪役っぷりには苦笑してしまう。しかし来週分では期待に違わず、純子が女郎だったことを突き止めてくれる様子。今週が「男の戦い」だったとしたら、来週は「女の戦い」となるということだろうか。女生徒たちが“ベーゼのまねごと”に興じる部分や、4人揃った辻家の食卓がまことに微笑ましいあたりに細部の面白さも感じられるようになり、ようやくこの枠らしい作品になってきたと言えるかもしれない。(安川正吾)

第6週(2006年11月6〜10日放送)

☆☆
 あの衝撃(笑撃?)の「兄妹宣言」からちょうど一週間、今度は純子(酒井美紀)と道也(山口馬木也)が「愛し合ってもいい関係である宣言」が!戸籍上は確かに兄妹なれど、実は純子と堂本英作(清水紘治)の血はつながっていないという。またしても一週前の積み上げを完全にひっくり返してしまったわけだが、ここまで来ると見る側としてもそれなりに耐性ができるというか、そのバラバラ加減を楽しむ余裕が出てきたりもする。先週のレビューで「まるで複数の著者が綴るリレー小説を見ているかのよう」と書いたが、本当にそういう狙いが最初からあったのかもしれないとさえ思えてきた。
 だが、今のところドラマ内で「純子と道也が愛し合ってもいい関係である」ことを知っているのは、英作と辻精太郎(小木茂光)の二人のみ。その他の人にとってはあくまで「兄妹」だというのに、綾子(満島ひかり)や玲子(小嶺麗奈)は

綾子「あの二人って、近親相姦?」

玲子「お互いの気持ちを確かめ合うように、激しく熱く、愛し合っているはずだわ」

と、まるで兄妹であることがまったく意味のないことのような躊躇いのない言いよう。もはやタブーのほとんどない国内ドラマの恋愛事情において、「近親相姦」さえも低いハードルになっちゃったってことでしょうか。恐ろしいことです。ともあれそんなふうに噂になっている純子と道也の、雷に驚いて「キャッ」なんて記号的なシーンにはあまり感心しないけれど(おまけにこのとき、どう見ても不自然な距離を純子は移動している!)、布団を離しながらもお互いを意識して眠れない静かなエロチシズムは悪くなかった。
 その後に語られる、純子の生徒・絵美(阪田瑞穂)の妊娠騒動に関しては、純子も一度妊娠→堕胎という道をたどっているだけにもっと深いところで純子に関わってくるかと思ったが、その顛末はまともすぎるほどにまともであった。ただ、その件を当初秘密にされたことから、理性的なはずの辻が純子に対して疑心暗鬼になり、すんでのところでまた理性を取り戻すあたりの流れは、役者の好演もあってスリリングな出来映えとなっており、それこそが今週分の肝だったと言えそうだ。
 蛇足になるが、邦代(立原麻衣)は先週分をもってお役ご免ということだろうか?登場時から一度も、本当の意味で純子に対する脅威であったことがなかった人だけに、存在感を出すならここからだと思っていたのだが……。もしこれっきりだとすれば残念だ。(安川正吾)

第5週(2006年10月30〜11月3日放送)

☆☆
 6年前、純子(酒井美紀)のもとを道也(山口馬木也)が去った理由は、純子と道也が腹違いの兄妹だったから……って、えーっ!?あまりに脈絡なく提示される驚愕の新事実。伏線のようなものがまったく引かれていた印象がないのが作り手の作戦のうちだというのなら、それはそれでいいかというところなのだが、わからないのはその後。実の父親と判明した堂本英作(清水紘治)に会いに行くという純子に玲子(小嶺麗奈)は激昂し、

玲子「お姉ちゃんはよその家の人になっちゃうの。私から離れて行くに決まってるわ」

と言ってみたり(その後、純子の描いたバラの絵を切り裂くオマケ付き)、

玲子「私はあなたたちが兄妹なんて納得してないからね。二人が兄弟なんて、あるわけがない」

と言ってみたり。一体何が気にくわないのやら全くわからない。その勢いで玲子は、酔いつぶれた珠彦(川久保拓司)の耳元に、純子が女郎だったという話をささやくのだが、後でそれを珠彦から切り出されて驚いていたのをみると、聞かれているとは思ってなかったってこと!?隙のある人ってことなのか、無垢を装うポーズってことなのか、相変わらずこの玲子という人は理解しがたい。比べてはいけないと思いつつ比べてしまうと、「偽りの花園」の美琶子もしくはユリエ(上原さくら)であればその理解しがたさが楽しめる域にまで昇華されていたのだが、玲子の場合は支離滅裂以外の何ものにも見えないのがつらいところだ。
 ともあれ最終的に純子は、女郎だった過去を隠したまま辻(小木茂光)と結婚。珠彦は辻家の中で一人純子の過去を知っており、綾子(満島ひかり)は再び純子の味方となったが純子と道也の関係次第では敵にもなりうる状態。そして伏兵として玲子や邦代(立原麻衣)の存在もあり……と、それなりに役者と状況は揃っている。しかし、そこにいたるまでの挿話の配置や感情の流れ方が緻密でないが故に、物語に没入するのはまことに難しい。
 それにしても、2週ごとにそれまでの流れを全く無視した話になってしまうあたり、まるで複数の著者が綴るリレー小説を見ているかのよう。もしかしたらそういう面白さを狙ったのかもしれないけれど。(安川正吾)

第4週(2006年10月23〜27日放送)

☆☆
 綾子(満島ひかり)が家出したり自殺未遂したりというあたりはほとんど場つなぎのネタという感じではあったけれど(それにしても、偶然通りかかったゴロツキによく絡まれるドラマですね)、それを補って余りあったのが、水曜放送分ラストにおける道也(山口馬木也)の再登場。それも、綾子をすっかり明るい少女に変貌させた“婚約者”として純子(酒井美紀)の前に現れるという劇的な展開は、このドラマが始まって以来、初めて本当の意味で楽しめたと思えたところだったかもしれない。
 純子的には衝撃の再会のはずが、道也は純子に会って驚くでもなく、まるで初対面のような態度を貫く。この枠的には「記憶喪失」なんてことも充分にあり得ると思われたが、今回はそこまで破天荒な話ではなく、単に知らないフリをしていただけ。そんな道也を純子は美術室に呼び出し、6年前に突然自分の前から姿を消してしまった理由を問い詰めるも、道也ははぐらかす。面白かったのはそれからで、二人の密会を目撃した綾子が突如悪魔的に行動し始めて二人の関係を突き止めてしまうあたりは、まことにこの枠らしい外連味でいっぱいだった。先週に引き続き、綾子を演じる満島ひかりの演技がこの役に大きな説得力を与えているように思える。
 週またぎは綾子のジェラシーネタで引っ張るかと思いきや、金曜放送分のラストシーンは辻(小木茂光)の純子へのプロポーズ!これまた、いつかは来るネタだろうとは思っていたものの、このタイミングで来ると確かに驚きもある。予告で、辻と邦代(立原麻衣)のシーンにプロポーズの言葉を重ねているあたりのミスリードもこの枠らしい。悪い意味で引っかかる台詞回しや細部の描写も相変わらず随所に見受けられるものの、それでも素直に「面白くなってきた」と言える第4週だった。低空安定飛行を続けるかに思えたこのドラマも、ようやく高度を上げる準備が整ったと言うところだろうか。(安川正吾)

第3週(2006年10月16〜20日放送)

☆☆
 先週最後の予告で薄々わかっていたものの、純子(酒井美紀)はあっさりと教師に。もちろん6年という月日があればそういうこともあるだろうけれど、苦労してやり遂げたようにあまり思えないのは、きっと前2週の出来映えのせいだろう。
 ともあれ、お嬢様学校・三笠女学院で美術教師として働いている純子は、生徒の慈善募金活動に賛同したがために危険分子扱いされることになるのだが、その危険分子扱いした張本人の理事長・辻(小木茂光)が、ほとんど間をおかず純子を下宿人として迎え入れるのには驚いた。心を閉ざして不登校を続ける娘・綾子(満島ひかり)を何とかして欲しいという下心あってのことらしいのだが、純子に白羽の矢を立てた理由は別の生徒を更正させたことがあるからだと言われても、視聴者がそんな話見た覚えがないのでは、ドラマ的説得力は皆無。こういう、語っていないことを既成事実として進める傾向がこの作品には一貫してあるが(純子と道也(山口馬木也)の“愛”がそうであったように)、それは早めに改めていただきたいと切に願うところ。
 そういうラフさは随所に目に付くものの、それでも募金盗難事件の着地はきれいにまとめたし、次いで展開された“近づく人を死なせる魔女”綾子の話も、親友が死んだことへのトラウマとしてはずいぶんひねくれている印象はあるにしても、綾子役の若い女優の好演もあってまずは楽しめる感じ。主演の酒井美紀も、まったく女郎に見えなかった女郎時代よりはやはり、生真面目な教師役のほうがはまっている。
 それにしてもこの主人公、たいして言う必要もないところで事ある毎に自分の暗い過去をほのめかすあたり、玲子(小嶺麗奈)ならずともその不用意さには呆れるところ(実生活でそういうことをやると「ホントは聞いて欲しいんじゃないの?」と言われてしまうわけですが)。その“人様には言えない悲しい過去”が明るみに出るのはそう遠い将来のことではなさそうだ。(安川正吾)

第2週(2006年10月10〜13日放送)

☆★
 純子(酒井美紀)が自分の手で子供を育てるために逃げることを企て、道也(山口馬木也)も一緒に逃げることになったものの、途中でケガをした純子を救うために道也が堕胎手術をして……という、それなりに起伏のある筋書きは用意されている。しかし、その過程で起きる出来事がどうにもバラバラで、いまひとつドラマとしてのうねりが生まれていない印象。ディティールがしっかり描写されれば、狡猾さと優しさの間を行き来する玲子(小嶺麗奈)のキャラクターなどは奥深いものに感じられるのだろうが、現状では単純に方向性が定まっていないようにしか見えない(それにしても、玲子が道也にレイプされたふりをした意味は一体……?)。ともあれ道也が純子を身請けして自由の身にしてからドイツへと去り、早々に第1部終了ということのようだが、この状況になるまでもう少し時間をかけてもよかったのではなかろうか。ここまでの時点で純子と道也の“愛”の形がちっとも見えなかったことは、今後にも悪い影響を与えてしまいそうな気がする。(安川正吾)

第1週(2006年10月2〜6日放送)

☆★
 長い時間をかけて物語を紡ぐ帯ドラマだからこそ、挿話の粒立ちは必要不可欠なもの。そういう意味では、本作の幕開けであるところの、ジャンヌ・ダルクの伝記を子供達に話して聞かせるヒロイン純子(酒井美紀)に通りすがりの医師・堂本道也(山口馬木也)がケチをつけるというシークエンスは、いささか魅力不足だった。まず何の脈絡もなく純子の話に割り込む道也の言い方はたちの悪いイチャモン以外の何物でもないし(ましてこの男はジャンヌ・ダルク伝記を読んだことがなかった!)、それ以上にお寺の境内で私設青空学校をやってるだけの人が

純子「もうここへはいらっしゃらないでください」

とはあまりに高飛車な言い方。開始後わずか数分で、この主役二人にまったく感情移入できなくなってしまったとしても無理のない話だろう。そもそもジャンヌ・ダルク伝記って“未来を信じられる話”のたぐいでしたっけ?貧しさに耐える子供達に聞かせるならもっと別の話があるような。ジャンヌ・ダルクの“信念の強さ”をヒロインのそれに重ね合わせたいらしいことはわかったけれど。
 のっけから軌道をはずれた物語はなかなか修正すること能わず、再会した二人の惹かれ合いにしろ、純子の妹・玲子(小嶺麗奈)が道也を巡る恋敵となるくだりにしろ、あまりにも全省略的で、共感からは程遠いまま。一目惚れというものがないとは言わないが、それでも「気になる異性」が「心を許せる存在」に変わる瞬間があって然るべきだし、それを起伏として見せてこそのドラマではあるまいか。
 さらに、接近していく純子と道也のその現場を、女郎としての純子の常連である相川(眞島秀和)が一度ならず二度まで偶然見てしまう展開もいただけない。相川が製薬会社の人間として道也の病院に出入りしているというならば一度目の目撃はまだあり得なくもないが(それでも早朝だったらしいことを考えるとおかしいけれど)、先立つ形でのそういう描写はなかった。
 この相川という男も謎が多くて、薬の入った鞄を自転車に積んでエッチラオッチラ漕いでるところを見て製薬会社の営業か何かかと思えば、その製薬会社は「相川」の名字を冠しており、しかもこの男には純子を身請けするだけの金があるということで、どうやら製薬会社のボンボンだったらしい。……とこのレビューを書くまで思っていたのだが、念のためサイトで確認してみると、「相川製薬」の社長令嬢の娘と結婚した婿養子で役職は専務という設定だった。そういう基本的なところは物語中で踏まえておいていただきたいのだが、こちらの見落としだろうか?
 何にしろまったく乗り切れないままに話は展開していき、あっという間に純子は相川に身請けされて女郎ではなくなる(まだ逆戻りの可能性もあるが)。そういえば清純派の酒井美紀が初の汚れ役とか喧伝されていた気がするけれど、“女郎的描写”と呼べるものはまったくと言っていいほどなかった。看板に偽りありと言いたい気もするがそれ以上に、どん底からはい上がる女の話であればまずその「どん底」をきっちり描写しておく必要があるはずで、そういう意味でもこの作品はつまづいているように思える。沖縄出身らしい女郎仲間の赤石コウ(野口かおる)だけが一人、いい味を出して救いとなっていた。ともあれ、どうにも乗り切れない一週間だったのは、秀作であった「美しい罠」の後番組だからというだけの理由ではないだろう。(安川正吾)

紅の紋章

フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00
制作:東海テレビ放送、テレパック
企画:鶴啓二郎
プロデューサー:高村幹、沼田通嗣
脚本:清水曙美、林一臣、岡本貴也
演出:杉村六郎、藤尾隆、桜庭信一
音楽:寺嶋民哉
主題歌:『Platinum Kiss』ゴスペラーズ
出演:三枝(辻)純子…酒井美紀、堂本道也…山口馬木也、辻精太郎…小木茂光、北原玲子…小嶺麗奈、辻珠彦…川久保拓司、辻綾子…満島ひかり、川田邦代…立原麻衣、相川洋…眞島秀和、大森克代…栗田よう子、北原マサ…泉晶子、黒木専務…木村栄、事務長…大森うたえもん、岸川浩一…浪花勇二、宮田…山口粧太、赤石コウ…野口かおる、渡辺照江…二階堂千寿、秋山マリ…小松愛、野原(森川)絵美…阪田瑞穂、下田京子…斎藤千晃、サユリ…島本麻衣子、コマキ…松島絵美、野原耕治…希野秀樹、看護師・君子…川先宏美、岡島峯子…大須賀裕子、岡島二郎…平尾仁、北条慎介…横堀悦夫、医師…永幡洋、中年の男…前原実、田中輝彦、保科光志、石丸ひろし、吉本信也、明良まみこ、労働者風の男…中松俊哉、雨宮文乃…小野沢知子、酔っ払い…田中登志哉、チンピラ…徳井広基・坂本和隆、主治医…花ヶ前浩一、旅館の仲居…美斉津明子、坪内弘蔵…グラシアス小林、サパークラブ・ローズの客…藤田清二・松原正隆、サパークラブ・ローズの客…かしま冠・稲川貴洋、三笠女学院PTA…藤堂陽子・つかもと景子・八十川真由野、サパークラブ・ローズの客…永田恵悟・杉田吉平、渡辺信男…森大悟、北原孝行…高木涼生、織枝…保坂香純、真嶋優、小林愛里香、青空教室の子供たち…神朱音・山川美貴・大和田凱斗・菅野友輝・大津留陸、赤ん坊…渡邉匡文、美術教室の生徒たち…門倉エリー・櫛田麻有・畠沢妙佳・木庭亜貴子・濱地沙妃・石原周子・鈴木安奈・金井理恵・谷真美也・満田朱美・鈴木千尋・石井絵理菜、三好えり子、大西美紀、三枝八重の声…山本郁子、竹林里美、母親…大浦理美恵、子供…金岡翼、ローズの客…矢崎文也、野原カナ…相原鈴夏、大森太市…北見敏之、北原征利…深水三章、森川輝男…大林丈史、沢村久蔵…小林勝也、堂本英作…清水紘治、川田政吉…井上順