美しい罠

第13週(2006年9月25〜29日放送)

☆☆☆★
 めまぐるしく人間関係が変化したこの作品をさらに高速回転させたかのように、1話毎に状況と関係性が逆転する、密度の濃い最終週だった。怒濤の一週間は、懐かしいボロアパートの一室での、類子(櫻井淳子)と槐(高杉瑞穂)の会話で幕を開ける(ちなみに類子はここに住むために戻ってきたわけではなく、取り壊されるので立ち寄ってみただけらしい。道理で空き室なわけですね)。類子に、過去4年間幸せだったかと尋ね、そうでなければ何もかもを奪った甲斐がないとする槐と、自分は充分に幸せだったからもっと喜ぶべきだと言う類子の、そのやり取りにまずは感じ入る。この部屋で愛を交わしそうになった夜のことを思い出しながらも、二人はそれ以上近づくことはできない。その頃不破(麿赤兒)は、類子と槐が敬吾の死に関与しているらしいことを澪(木内晶子)から聞き、真実を聞き出そうと類子のもとへ。恐ろしい男だと周囲から言われ続けていた割に、ドラマ的には意外に大きな脅威となってこなかったこの不破が、マグロにとどめを刺す方法を語りながら類子を追い詰める様はようやく本領発揮といった感じで楽しめた部分だった。しかし実は彼の本領はその程度ではなく、この後、もっとすごいことをしでかすのだが……。
 ともあれ、その場は槐によって救われ、類子は槐とともに逃避行へ。高飛びする前に類子が望んだのは、槐とともに満天の星空を見ることだった。語り合いながら、静かに重ねられる二人の手、そして……。ここに二人の思いは通じ合い、類子と槐は山小屋で体を重ねる。類子的にはそのまま槐の前から立ち去るつもりだったはずが、翌朝飛び込んできた「不破が死んだ」との知らせに、また二人の運命は大きく軌道を変える。未明に静かに湖にこぎ出した一艘のボート、突然爆発したそれには不破が乗っていて、自殺したのだというのだ。
 屋敷に戻ってきた類子は、不破がまだ離婚届を出していなかったことを知る。つまり類子は未亡人であり、当初の目論見通り不破の財産を手にすることに。槐はと言えば、澪がすでに婚姻届を出していたことから澪の夫となっていた。これから死ぬまで自分の夫として、そして百香(岡田芳花)の父として生きるのが償いだと槐に言う澪は、ここへ来て初めてこの物語の登場人物として遜色のない怖さ、もしくは人間臭さを発揮した!かくして、あの山小屋での夜が幻であったかのように、類子と槐は再び引き裂かれる。

類子「これでどうやら、私たちの愛は全うできそうね」
槐「ああ。……永遠に」

と、金で結びついたパートナーとしての会話を交わす類子と槐。だが、

類子「とうとうやったわ、とうとう……私は大金を手に入れた」

と言いながらの高笑いがやがて涙に変わる類子の哀しさよ。
 しかしもちろん、このままでは終わらない。数日後、槐からの呼び出しに応えて「秘密の部屋」へと趣いた類子は、そこに飾られていた着衣の女体画がいつのまにかヌード画になっているのを見つける!一体誰が、とおののく彼女のもとに、結婚前に話した3本のマッチの話を引用しながら現れたのは、死んだはずの不破だった!絵が変わっているという趣向はその手間を考えればいかにも奇妙で、緻密なこの作品らしからぬ印象も受けるが、これまでの上品さを考えればこういう下世話な虚仮威しもお楽しみの範疇だろう。この後、なんとかその場を後にして玄関から逃げようとする類子の前にいつの間にか立ちはだかる不破、なんていうホラー映画的シークエンスも、外連味としてはまったく悪くない。こういう「ドラマ的飛び道具」を気持ちよく見ていられるのも、そこに至るまでの伏線がきっちり論理的にはりめぐらされているからで、中でも火曜放送分の不破と岩田(鶴田忍)の約5分に及ぶツーショットの会話は、長い付き合いだったらしいこの二人の関係にも決着を付けていて見事だった。その会話の結果としてこの二人が選んだ、壮絶すぎる決別の形にも大いに戦慄させられた。
 やがて屋敷に槐が駆けつけ、槐VS猟銃片手の不破の対決に。容赦なく槐の脇腹と足を打ち抜き、その上で類子に銃を握らせて、類子が槐を愛しているのか試そうとする不破もまた、まぎれもなく切ない男である。

不破「俺はお前が憎い。(中略)だが、憎いことは憎いが、愛おしいことも、愛おしい。俺はお前に出会って、今一度、人を愛する命の炎を燃やすことができた」

そんな言葉を、あの素晴らしく人間離れした表情でかみしめるように呟く不破。ここへ来て麿赤兒氏がこの人物を演じたことの意味も極まった!そして響く銃声、カーテンに飛び散る血!
 そんな血の惨劇を経てたどりつく清々しいラストシーンは、一度はすれ違いそうになった類子と槐の再びの出会い。冒頭と同じように帽子が小道具となるあたりの仕掛けもいい。最後の最後でまとめてくれたのはレイ(剣幸)で、後半の方向転換ぶりには違和感を覚えさせられた彼女だったが、

レイ「人の心は醜いわ。でも美しい。愛は残酷。でも愛は、やはり美しい」

なんて言葉を聞くと、傍観者としてのこの人もこの物語世界には確かに必要な要素だったのだろうと思えてくる。
 とにもかくにも、なんていうカタルシス。この感慨のためなら、3カ月間、65話をもらさず見たことを誇りにさえ思えて、テレビドラマとは本来こうあるべきものだと感じずにはいられない。それほどに見応えのある作品だった。(安川正吾)

第12週(2006年9月18〜22日放送)

☆☆☆
 百香(岡田芳花)は実は岩田(鶴田忍)の孫などではなく、敬吾(大沢樹生)と吉野尚美(七咲友梨)の間に生まれた子供だった。なるほど、そういうことだったか!しかし驚きはそれにとどまらない。百香は戸籍的にも敬吾の子で、さらに養子縁組により、槐(高杉瑞穂)がちゃっかり親権者となっていた。これこそがずっとほのめかされ続けていた槐の“切り札”だったというわけだ。もう少し盛り上がるのかと思われた会社乗っ取りがらみネタ、不破(麿赤兒)が社長を解任されるあたりの流れがあっさり気味だったのも、この展開のためであったならばまったくノープロブレムと言えよう。
 槐はその“切り札”を最大限に利用し、百香が不破の手に戻るための条件を提示する。その条件とは、財産のほとんどを槐に渡すこと、そして不破と類子(櫻井淳子)が離婚すること。これに従えば、類子は手に入るはずだった財産を二重に奪われると言うことになる。どうみても類子劣勢なれど、この時点ではまだ類子は

類子「だけど、どんな切り札も使いどころを間違えれば、ただのクズになるわ。(中略)まだゲームは終わってない。私が負けない限り」

とうそぶいてみせるわけで。そんな類子が企てたのは、「切り札を湖に沈める」=百香を湖で事故に見せかけて殺すことだった。水辺にいただけで気絶するほどだった水恐怖症はいつの間にか軽くなっていたようだが、それでも溺れ死にそうになった時の苦しさを思い出した類子は、百香殺しをぎりぎりのところで思いとどまることに。後半まったく意識されなくなっていた類子の事故の記憶がこんなところで作用するとは、なんて巧みな!いささか時系列は遡るが、敬吾が紙飛行機にして飛ばしていたサイン済みの婚姻届がきっちり伏線になっているのにも舌を巻いた。
 ともあれそこで百香に手をかけられなかったことで、この“ゲーム”における類子の負けが確定する。

類子「私は、あなたに負けたんじゃない。自分自身に負けたの。人の心を捨てきれなかった、自分の弱さに。でも負けたこと、後悔してないわ」

 こう言ってのける潔さこそがこの主人公を際立たせている美点。そして槐の“わらの女”としての勤めを終えた類子は、4年経っても空き家だったらしい?かつてのボロアパートへと戻ってくる。しかし、不破は簡単に槐の要求に屈しない素振りを見せているし、澪(木内晶子)は敬吾の死に類子が関わっていた証拠(槐の捏造だが)を見つけてしまった。ラスト1週間を残すのみとなっても、まだまだ波乱含みで予断を許さない展開には嬉しくなるばかりだ。
 それにしてもこのドラマ、相変わらず細部も素晴らしい。類子が不破から離婚届を渡されるシーンでの、なぜ不破が本当は「恒三」なのに「恒大」と名乗っているかという会話から導かれる、この夫婦ならではの愛の有り様などは印象的だった。いつの間にか設定に加わったように感じられていた、類子が子供の産めない体になってしまったことの理由が4年前に毒薬を飲み干したためという仕掛けも、これ見よがしに描写されないが故に逆に胸に迫る。ドラマ的愉悦を硬軟取り混ぜてこれでもかと楽しませてくれるこの作品の作り手には心からの拍手を贈りたい。(安川正吾)

第11週(2006年9月11〜15日放送)

☆☆★
 ラスト近くになって子供が重要な要素となるのはこの枠としては常道だが、それが岩田(鶴田忍)の孫という、類子(櫻井淳子)から随分遠い存在として現れるのは意外というか、新鮮というか。この少女・百香(岡田芳花)が物語にどういう役割を果たすのかまったく見当がつかないあたりにワクワクさせられる。とりあえずは、百香のはしかをめぐって、類子と槐(高杉瑞穂)がまるで“夫婦みたい”(byレイ(剣幸))に息の合ったところを見せるのは、駆け引きの間に生まれたちょっとした安らぎという趣きだった。だがその後に、百香が岩田に似ていないというこれまたレイによる念押しがあったところをみると、この少女の役割はそれだけにとどまるわけではないのかもしれない。余談だが、この百香ちゃんのはしか演技はかなり真に迫っていて、この週に限って言えば助演女優賞ものだった。
 そんな話と平行して、手を組んだ槐と川嶋(片岡弘貴)による会社乗っ取り計画も進行。顧客リストを流出させて悪評をたてて株価を下げて株を買いたたく、って、理屈は間違ってないけどそんな簡単なものかしらと思ったりもするが、このあたりの描写はこの枠ではこれが限界か。それにしたってその流出させた犯人の正体が「名うてのハッカーです」の一言ですんじゃうのにはちょっと苦笑してしまったけれど。
 とはいえそんな部分を補ってあまりある、ドラマとしての見応えを随所にちりばめているのもまた事実。川嶋こそが実は草太(水谷百輔)の父親だったというカミングアウトは、嬉しいサプライズだった(なるほど、川嶋と千津(山口美也子)の微妙な取り引き関係はそこに立脚していたのか!)。そこに至る過程で、草太が片付けなかったワインの瓶が伏線になるあたりもさりげなくお見事。そして金曜放送分(正確には木曜放送分のラスト)で、死んだはずの女・吉野尚美(七咲友梨)が再登場というのもまた、まったくもって想定外!未だに敬吾(大沢樹生)と槐を取り違えて覚えていると思われる彼女の存在が、状況にどのような変化をもたらすのだろうか。
 こんな具合に織りなされる起伏のあるストーリーはもちろんこのドラマの長所だが、

類子「考えてみれば、この山荘にはなぜか、孤独な人ばかり集まるわね」
槐「(略)あの星だって、重なってるように見えて、実は何万光年も離れてる」

という何気ない台詞や、階段の踊り場の窓から何かの啓示のように光が差してみたりする絵作りなど、枝葉末節の部分までにきっちり気が配られている素晴らしさをこそ強調しておきたいところだ。さらに、槐に“切り札”の存在をほのめかされ、油断ならない状況になるほどに

類子「いいわ槐。こうなれば、あなたの企みに最後の最後まで付き合ってあげる。たとえ燃え尽きようと、人生は一度きりだもの。どうせなら、楽しい方がいい」

と微笑んでみせる(おまけにそのせいでお肌にも艶が出てるらしい)類子の不敵でありながらナイーブな存在感も、まさに脂が乗りきったという感じで非の打ち所がない。フィニッシュまでわずか2週間と迫ってきたのが残念なほどだ。(安川正吾)

第10週(2006年9月4〜8日放送)

☆☆★
 槐(高杉瑞穂)と能瀬(大城英司)が不破(麿赤兒)に仕掛けている会社乗っ取りの行方も気になるけれど、まずは類子(櫻井淳子)VS澪(木内晶子)で第1ラウンド。人気絵本作家・きしのみおの新刊発売記念サイン会のはずが誰も来ないと思ったら、類子が金にあかして絵本を全部買い占めちゃってた!なんてシンプルかつ効果的な嫌がらせだろうか。サイン会に閑古鳥という「吾輩は主婦である」的恥ずかしさもさることながら(横に猫ひろしがいなかっただけまだマシ!?)、それ以上に「売れていると言われるものの、誰にも届いていない」というのは確かに、作家としてはもっとも居心地の悪いものかもしれないとも思われ、そういう“正しさ”はまことにこの作品らしい。
 類子の快進撃はまだ続く。議員である澪の叔父が幹事長になったタイミングで、澪と殺人未遂犯(=槐)が交際していることを週刊誌に暴露!懲りずに開いた2回目のサイン会で、ファンではなく報道陣に取り囲まれてしまう澪は、もはや恥ずかしいとか言ってる場合ではなく、その一件が元で家族や親戚から勘当され、次の絵本を出す機会までも失ってしまう。なるほど、その状況こそが、「家族も仕事も失っても、槐への愛を貫けるのか」という類子の言葉を形にしたものということか。先週“いささか形而上的”と評した部分をきっちり具現化して見せてくれるあたりがまことにお見事である。
 しかしこうなるとむしろ、澪は槐に執着するしかなくなるんじゃないかと思ったら、登場人物の心を説明するためのキャラとなりはててしまったレイ(剣幸)が同じようなことを言い、事態はまさにそういう方向へ。槐のシャツまで脱がせた類子の誘惑がアシストとなって、槐とついにベッドを共にした澪は、それまでとは打って変わって勝ち誇った態度で類子の前に現れ、入籍宣言を!強がりを言いつつ、自室で密かに打ちひしがれる類子が悲しい。
 一方、水面下で不破を裏切っていた能瀬を殴って、誠実さを見せた槐が単独で不破と組む運びに。しかしそれは、槐を不破のお気に入りにするための狂言だったということで、会社乗っ取り作戦も着々と進行中の様子。ボートのオール選びと人生の伴侶選びをイコールにした川嶋(片岡弘貴)のお説教に心を打たれた草太(水谷百輔)も少しずつ沙織(芳賀優里亜)に接近して、こちらも何かが築かれつつある(いや、壊れつつある、か?)。ラストスパートへの準備は完全に整ったという印象だ。
 蛇足だけれど、恋に対してまっすぐな沙織に類子がエールを贈るシーンは、久々にこの主人公の純粋な一面を見られて嬉しくなった。こういう、何気ない部分の品の良さも、間違いなくこの作品の美点だろう。(安川正吾)

第9週(2006年8月28〜9月1日放送)

☆☆★
 仮出所した槐(高杉瑞穂)が、会社乗っ取り屋・能瀬(大城英司)の片腕として、類子(櫻井淳子)の前に再び姿を現す。ライバルの買収をもくろむ不破(麿赤兒)に資金援助を申し出つつ、逆に不破から“大事なものを奪う”ことを企んでいる様子の槐だが、不破とて槐が善意のビジネスパートナーでないことは織り込み済みで、毒も摂りようによっては薬になると余裕の発言。こういう展開になると、不破VS槐の金を巡る攻防を説得力ある描写で見せてくれるかどうかでこの後の評価が決まってくる気がするのだが、さて、果たしてその枠でそんな硬派なドラマを見せてくれるのだろうか?期待半分、不安半分といったところ。
 一方類子はと言えば、“愛かお金か”をめぐって澪(木内晶子)と競り合うのだが、現状ではこの議論はいささか形而上的で、ドラマを牽引するネタとしてはいささか弱いように思えた。どちらもお互いを「かわいそうな人」と言って痛み分け、ではいくらなんでも物足りない。このあたりもまた、次週に期待、だろうか。
 草太(水谷百輔)に寄せる思いをハートの形のクッキーで見せつける“柳原のお嬢様”沙織(芳賀優里亜)の、露骨に当て馬的な存在感が、このドラマの中でどのような役割を果たすかは大いに気になるも、今週はこの後の盛り上がりのためにひたすら状況設定をしたということで、その分キャッチーな面白味には少々欠けたようだ。(安川正吾)

第8週(2006年8月21〜25日放送)

☆☆★
 類子(櫻井淳子)が自ら毒薬を飲むという危険を冒してまで槐(高杉瑞穂)を陥れ、槐が逮捕されるまでに至る顛末が、回想シーンもふんだんに描写されたのが木曜放送分まで。類子が何やら企んでいることは前々からきちんと織り込まれていただけに、一連の展開のクライマックスたる部分でここまで回想を交えて丁寧にやってくれなくても良かったのではないかとも思われ、このドラマの堅実さがここではいささかマイナスに働いた印象だった。地下の槐の部屋で、天井に映る偽物の星空を見ながら類子が

類子「そうよ。この輝きがあれば、愛なんていらないわ。愛なんていらない」

と呟きながら涙を流すシーンは、この第2部のラストとして印象的だっただけに、一気呵成にここまでたどり着いてほしかったと思わずにはいられない。水曜放送分の、ライフルが火を噴いた瞬間に類子と槐がふいに我に返りお互いの唇をむさぼりあうシークエンスにしても、情感が高まった故の印象的な場面になるはずが、回想シーンと説明台詞の連打で勢いが失われていたためか、唐突さばかりが目についてどちらかといえば少々「笑える」シーンになってしまったのはいささか残念だった。
 4年後となった金曜放送分からは、類子はすっかり“成り上がり”の妻になって贅沢な生活を謳歌中。“おとぎ話の住人”から脱却したらしい澪(木内晶子)が、今後の類子の好敵手となりそうだが、当然のように槐の再登場も匂わせて、次週へというところ。個人的には草太(水谷百輔)と類子の関係が続いていたことが少々驚きで、愛人関係も4年続くとなかなか立派なものでは。ちなみに、随所で類子の心情を視聴者に説明してくれるレイ(剣幸)は、もはや敵でもなんでもなく、「危険な関係」における艶子(姿晴香)さん的立場(=表も裏も、酸いも甘いも知った相談役)にすっかりおさまってしまったらしい。このキャラに期待していた者としてはいささか物足りないのだが、さすがにここまで来ると、こういうものとして納得するしかなさそうだ。
 ちなみに、「危険な関係」とのカブりがかなり意識的に行われているこのドラマ、このサイトにおける評価も、今のところほぼ同じような変遷をたどっている。最終週に向けてうなぎ上りに盛り上がっていった「危険な関係」を超えることができるかどうか、期待したいところだ。(安川正吾)

第7週(2006年8月14〜18日放送)

☆☆★
 類子(櫻井淳子)と沢木(高杉瑞穂)が油断ならない関係となって、物語もぐっと緊張感が増してきた。類子が敬吾(大沢樹生)殺しの主謀者だという“証拠”を持つことで、類子を思いのままにしようとする沢木だが、類子の方も負けてはいない。不破(麿赤兒)に心臓発作を起こさせるための薬を飲ませるように沢木が強要したのを逆手にとって、沢木を陥れる画策をしたようなのだが……。楽しませてくれるのは、共謀と裏切りの間でギリギリのバランスを保つ類子と沢木のみならず、不破は暴発した銃のニセモノを使って敬吾殺しの犯人を割り出そうとして久々に一筋縄ではいかないところを見せてくれたし、川嶋(片岡弘貴)なんかも小物なりに状況をひっかきまわしてくれてイイ感じ。さらに帰ってきた草太(水谷百輔)が大人の女の色香にやられて類子の手先となる一方で、岩田(鶴田忍)は類子が不破のジュースに妙な物を入れているのではと疑ったはいいが、実はそれは類子の計略で、本人の意図せざるところで類子の思うがままだったりするのもキャラクター配置に無駄がない。一時期はシドニーへ退場かと思われた澪(木内晶子)にしても、もはや全く隠さなくなった沢木への想いが純粋であればあるほどに不穏な予感を抱かせる存在になってきた。ただ、レイ(剣幸)ひとりだけは、毎回違うウィッグで登場したりして見た目的には楽しませてくれるものの、ドラマ的には面白みを感じさせるほどには動いていない感じがするのが少々残念。類子と沢木が結託して不破の遺産を奪おうとしていると、ずいぶんとあっさり正解を導き出したようだけど、その理由がどうやら女(あるいは女優)のカン以上のものではないらしいのは少々勿体ないような。
 ともあれ、さまざまな思惑が絡み合い、誰の計画も予定通りには進まないという先の見えない展開の一方で、ドラマとしてはきっちりコントロールされた上品さを漂わせており、相変わらず見応えは充分だ。(安川正吾)

第6週(2006年8月7〜11日放送)

☆☆★
 敬吾(大沢樹生)の死はもしかしたら沢木(高杉瑞穂)が仕組んだものだったのかという疑惑で週を持ち越した割に、その件に片がつくのは木曜放送分。それまでの3日分は、類子(櫻井淳子)が冷蔵庫に忘れた刺身や豆腐が話題になったり(結局敬吾が入れたんだろうと言うことで一件落着?)、川嶋(片岡弘貴)が言うに事欠いて小谷教授(窪園純一)と類子が“危険な関係”なんじゃないかと不破(麿赤兒)に進言してみたりと、それなりに面白いけれど若干その場しのぎっぽいネタをつないだ感じで、少々緊張感に欠けたか。未だドラマ的には眠れる巨人といった感じのレイ(剣幸)にしても、いろいろと類子を脅かすような思わせぶり発言を繰り返す割には、本質的に絡んでくるわけでもなく。ただ、今は不破の使用人だがかつては一緒にマグロ漁船に乗っていたコックの岩田(鶴田忍)が不破をどやし「恒さん」と呼ぶあたりのディティールはこの脚本家らしくて楽しい。
 そして沢木が敬吾の死を仕組んだことを認める木曜放送分は、いかにもショッキングに盛り上がった。現在のシーンと回想が映像効果まったく無しで絡み合う舞台劇風な演出は、他のドラマなら奇妙に感じられたかもしれないが、「偽りの花園」によってまたワンステップ上の境地に達したこの枠ならばまったく問題なし。沢木が拾った類子のハンカチは、沢木の秘めた思いを象徴するのかと思いきや、実はそんな生やさしい物ではなく、敬吾殺しを類子の仕業に見せるために使われていたという仕掛けにはすっかりしてやられた気分になる。さらに沢木が、その一件のみならず、類子に出会ったごく最初の段階から綿密な計画の上で行動し、類子よりも有利な立場に立とうとしていたという事実も、驚きを増幅させる。落ち着いて考えてみれば決して意外な展開ではないのだが、これまでのロマンティックな描写や、沢木というキャラクターの誠実そうな存在感などに、類子のみならず視聴者もすっかり騙されてしまった形だ。
 失意のままに、死ぬことさえ考える類子だが、雨の滴に自分の「生」を再確認し生き続けることを決意。水に恐怖を感じている類子が水によって生かされるという趣向に感じ入る。かくして戦いながら生きることを決めた類子と、まるで自分のなけなしの思いを断ち切るように(というのも甘っちょろい見方か?)類子の写真を燃やす沢木の、対決の章が幕を開ける。先だって澪(木内晶子)が語ったスピカのふたつの星の話が、ここへきて見事に類子と沢木の関係を象徴することになるというあたりも、まったくもって巧みだ。
 と、本編の方もきっちりと面白いのだけれど、それでも今週の一番の功労賞は、あのお年で類子をお姫様だっこしてみせる不破、いや麿赤兒氏かも!?櫻井さんが軽いというのもあるのでしょうが、それにしても恐れ入りました。(安川正吾)

第5週(2006年7月31〜8月4日放送)

☆☆☆
 類子(櫻井淳子)が沢木(高杉瑞穂)の勧めに従って、敬吾(大沢樹生)に対して「遺産相続を辞退する」旨の誓約書を書く月曜放送分からして、どういう展開になるのかとワクワクさせてくれる。この誓約書の一件は、遺産相続の権利が生まれる前にこのような一筆を書いても法的には何の意味もないという法律豆知識にとどまらず、結果的に不破(麿赤兒)が敬吾を勘当するトリガーになるのだから、まことにあっぱれな知謀っぷり。これで敬吾はとりあえず物語的に無力化され、この後はますます存在感を増すレイ(剣幸)との対決になっていくのかと予想されたが、敬吾は無力化どころか、なんと類子の部屋で銃を暴発させて死んでしまった!
 もと看護士といえども、目の前でしかも銃の暴発で人が死ぬのを見ればショックなわけで、類子は今までになく取り乱す(視聴者的にもあまりに意外で唖然としてしまったが)。そこにやってきた沢木は敬吾が死んだ場所が湖であるかのように偽装工作をし、類子は良心の呵責に苦しみつつ秘密を抱えることになる。そんな類子と沢木の、敬吾の死体を前にしたキスシーンの背徳感は思わずニヤニヤさせられたところ。類子の部屋の絨毯に染みついた血を隠す手段が敷物ひとつってのは「そんなもんでいいの!?」て感じだったけど、でも現実的には意外とそういうものなのかも。類子が冷蔵庫の中にしまった刺身のパックは、次なる展開への伏線か。カルパッチョ事件に続き、食べ物が重要な小道具になるのはもはやこのドラマの恒例になりつつある?
 ともあれやがて類子の頭に去来するのは、沢木が実はすべてを仕組んでいたのではないかという疑念。銃が暴発したことについては不破も何か思うところがあるようで、駆け引きが中心だったこれまでとはがらりと様相を変えて、良い意味で重苦しいサスペンスになってきた。名台詞連発のレイの今後の動向も大いに気になるところではある。
 そんなわけで今クール、大人の鑑賞に堪える“緩くないドラマ”は本作、“緩いドラマ”は「結婚できない男」という説には諸手を挙げて賛成です。(安川正吾)

第4週(2006年7月24〜28日放送)

☆☆☆
 屋敷の中での駆け引きシーンが多い故にいささかの閉塞感も感じられた(それがまた良い部分でもあるのだが)このドラマにとっては一服の清涼剤のような、ビルの屋上で星空を見る類子(櫻井淳子)と沢木(高杉瑞穂)というエピソードで幕を開けた第4週。一瞬「愛だの恋だの」的感情に身を任せて、愛を交わしそうになる二人だが、不破(麿赤兒)からの電話によりそれは未遂に終わる。カルパッチョ事件が実は誤解だったと知って類子への思慕を募らせ始めた不破は類子が帰ってくることを望むが、類子は再び“ゲーム”へと復帰する気にはなれずに断ろうとする。そんな類子に、不破は突然のお宅訪問攻撃!結婚を迫る不破に対する類子の、虚とも実とも取れる言葉がとてもいい。さらに、不破が類子に手渡すのが指輪などではなく、チェスの「クィーン」であるという、良い意味でドラマ的な小道具使いも効いている。ここだけ見たら、本当に、誠実な看護士に恋した人嫌いな大金持ちのロマンティックなラブストーリーのようだ。
 しかし類子の中には沢木への思いがくすぶっており、それ故に類子は結婚をためらう。そんな類子に沢木は

沢木「俺たちは互いに、金を得るために手を組んだ。その共通の目的のために、心をひとつにしようと誓ったんだ。それこそが、俺たちなりの愛し方」

と、自分たちはあくまで“ゲーム”あってこそのパートナーなのだと位置づける。それに応える形で、類子は不破のプロポーズを承諾(つまり、“ゲーム”に復帰)。純白の花嫁衣装を着た状態で、沢木に対して

類子「たとえそれが、世間には吐き捨てられるような苦い味だろうと、私は立派に飲み干してみせる。私たちの愛を、全うするために」

と、先の沢木の言葉に同意しているようでいて意趣返しのようでもある言葉を返す類子の冷たい横顔に、ゾクゾクさせられる。そしてついに夫婦となった類子と不破。新婚のベッドで語られる、不破の名前が実は恒大ではなく恒三であるというあたりのディティールが、この脚本家らしくて面白いところ。
 マダムとなって屋敷に帰ってきた類子を待つのは敬吾(大沢樹生)の猛反対、そしてもちろんレイ(剣幸)やその手先である千津(山口美也子)の嫌がらせなのだが、この相関図が変化していく展開がまた大いに楽しい。不破を巡るライバルだったはずの加奈子(派谷恵美)はあっという間に草太(水谷百輔)と出て行き、それをきっかけに千津も懐柔して、当面の敵は結婚に反対し続ける敬吾といった感じだが、バラ風呂に入浴中の類子をたらしこもうとする様子を(いかにもレイプ未遂であるかのように演出されて)澪(木内晶子)に見られてしまう敬吾の手薄さを見ると、少なくとも敬吾単独では敵ではない印象。それを見たレイまでも、どうやら本格的に類子側につきそうな感じ。じゃあ類子は向かうところ敵無しかというとそういうわけでもなく、“奥様”となった類子と沢木の間にすきま風が吹き始めた様子なのがなんとも不穏。澪が沢木への思いを募らせているのを知りながら、

類子「金のために抱かれるか、金のために抱かないか。それが五分と五分、イーブンの関係だと思わない?」

などと言い、沢木を試すような言動に出る類子に、沢木が言いなりになったままだとも思えない。敵味方がめまぐるしく変わる駆け引きの面白さから、目が離せなくなりつつある。(安川正吾)

第3週(2006年7月17〜21日放送)

☆☆★
 類子(櫻井淳子)vs不破(麿赤兒)の対決、澪(木内晶子)をめぐる沢木(高杉瑞穂)と敬吾(大沢樹生)の三角関係、そして類子と沢木の“同等なゲームのパートナー”というにはあまりに危ういやり取りと、いい具合に煮詰まってきている。沢木陣営の罠にまんまとはまってさっさと若い人同士でくっついちゃった加奈子(派谷恵美)と草太(水谷百輔)の関係なんかは、これらに比べればかなり微笑ましい感じ。個人的には、類子が沢木を男として意識するまでのペースがあまりに早すぎるような気もしたのだが、話自体が面白ければそれは減点対象になるようなことでもないだろう。夕食に出された食材がマグロかカツオかという普通に考えればどうでもいいようなことが大事件に発展し、類子が不破のもとを去って週またぎという、地に足がついている(つきすぎている?)展開にニヤリとさせられる。(安川正吾)

第2週(2006年7月10〜14日放送)

☆☆★
 夕食の始まる時間をわざと遅く教えておいて遅刻を咎めたり、客人の土産の葉巻をけなすように仕向けて恥をかかせようとしたりと、類子(櫻井淳子)に対する不破(麿赤兒)のイジメは今ひとつセコいものに感じられはしたけれど、葉巻にブランデーをつけて楽しむという知識を披露して場を収めた類子の機転は確かになかなか胸のすくものだった。しかしこの週が本当に面白くなるのはここから後。レイ(剣幸)が連れてきた女優の卵・加奈子(派谷恵美)が、その抜群のプロポーションと無邪気な態度で不破を誘惑し、類子・沢木(高杉瑞穂)陣営の悩みの種に。とは言えもっとも不気味なのはその仕掛け人であるレイの余裕綽々っぷりで、敬吾(大沢樹生)に加奈子を誘惑させようとする類子と沢木の企みを一瞬でフイにしてみせる一方で、類子にすり寄るかのような素振りさえ見せたりもして、役者の格が類子より一枚上手なところを(元女優だけに)見せつける。当面の大きな敵であるのは事実だが、不破を“内臓まで”食い尽くしたいというレイの意図を思えば、類子と手を組む可能性も感じられるだけに、どう転がっていくのかは楽しみなところ。一方、いいところのお嬢様にして絵本作家の澪(木内晶子)をめぐる沢木と敬吾の関係性もいい具合にもつれてきた。丁寧にエピソードを積み上げる語り口の「品の良さ」はすでに確立されているようなので、あとは、人間関係がどのように煮詰まっていくのかを面白く構成してもらうのみ、といった印象だ。(安川正吾)

第1週(2006年7月3〜7日放送)

☆☆
 美しく賢い女・類子(櫻井淳子)が、ブレーン役の男・沢木(高杉瑞穂)と共に、富豪・不破恒大(麿赤兒)の妻の座に納まりその遺産をもらい受けることを目指す……という、よく言えばオーソドックス、悪く言えば使い古されたシチュエーションを、まずはスリリングに見せてくれてなかなかの滑り出し。第1週はとりあえず登場人物の顔見せに終始した感もあるが、不破の息子・敬吾(大沢樹生)、女中の千津(山口美也子)の息子・草太(水谷百輔)、不破の死んだ妻の姉で元女優のレイ(剣幸)と、類子から見て敵とも味方とも知れない(今のところはすべて敵といった感じだが)キャラクターが配置されて、今後の盛り上がりへの準備はばっちりだ。ただ金曜放送分、不破から謝罪の印(?)のドレスをもらった類子が、喜び勇んでそれを沢木の隠し部屋に報告に行ったところ、草太が後ろから話しかけてくる……なんていう、不注意きわまりない行為というか展開は、白けてしまうので控えめにしていただきたいとも思うけれど。ともあれ、センセーショナルでありながら堅実な作りのドラマを大いに期待したい。(安川正吾)

美しい罠

フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00
制作:東海テレビ放送、国際放映
プロデューサー:風岡大、浦井孝行、河角直樹
原案:カトリーヌ・アルレー『わらの女』
脚本:金谷祐子
演出:奥村正彦、村松弘之、堀口明洋
音楽:岩本正樹
主題歌:『紅蓮の月』柴田淳
出演:不破(飛田)類子…櫻井淳子、沢木槐…高杉瑞穂、岸野澪…木内晶子、不破敬吾…大沢樹生、永井草太…水谷百輔、岡本加奈子…派谷恵美、能瀬健輔…大城英司、吉野尚美…七咲友梨、柳原沙織…芳賀優里亜、桑田くるみ…豊川栄順、百香…岡田芳花・岡田七海(子役)、小谷教授…窪園純一、柳原和子…土屋美穂子、川嶋赳夫…片岡弘貴、久保酎吉、清水昭博、北村岳子、松丸雅人、牧村泉三郎、市川勉、永井千津…山口美也子、宮崎彩子、時任歩、麻生幸佑、高柳葉子、鳴海由子、大峯麻友、嶋田豪、鈴木コウヤ、佐山…那須幸蔵、西山宗佑、吉増裕土、岡崎宏、今橋由紀、麻倉成人、加島祥全、井川哲也、浅見和俊、上坂都子、岸本功、河野安郎、上原陸、吉田海夕、鈴木ひろみ、たつづきくみ、吉野家菊之介、大塚ちか、外海多伽子、唐木ちえみ、加藤裕己、村山隆大、伊藤慎、田島英明、牛若実、岡村一哲、近藤敬朋、島田真吾、長瀬美津木、滝澤嘉一、高橋ありえ、高瀬亜希、成田和歌子、麻ミナ、山崎猛、野村涼乃、前原実、春うらら、岩田雄治…鶴田忍、槙村レイ…剣幸、不破恒大…麿赤兒