下北サンデーズ

第9回「さよならサンデーズ」(2006年9月7日放送)

☆☆
 突然の放送打ち切りということで、急遽2話分が1話に編集されたのがよくわかる性急な話の運びだった。ここまで丹念に描かれてきたのが最後の最後で消化不良気味に終わってしまったのは非常に残念。ゆいか(上戸彩)のサンデーズ退団で1話、サンデーズ復帰までが1話、というのが本来の予定だったのだろう。
 結局大手プロダクションに飲み込まれてしまったサンデーズからゆいかが引き抜かれてしまうくだりはこれが芸能界の現実か、という歯痒い思いを拭い去ることができなかった。その分、後半でゆいかがメジャーの世界のいい加減さに耐えられなくなって自ら飛び出し下北に戻るくだりは非常に爽快感があった。
 現実的な視点に立つと、前半部のストーリーがノンフィクション的で後半部がフィクション的であることはすぐに分かる。が、あえてフィクション的エンディングで夢を残した形にしたのは、大半の視聴者の望むところだったであろう。
 そしてサイドストーリーではあったが、代沢(藤井フミヤ)とヒロ太(三宅弘城)の和解のシーンは心温まる物があった。ただ、積年の確執から和解に至ったという経緯を考えるともう少しその過程が細かく描かれても良かったような気がする。
 本編を通じて、メジャーとマイナーの対立図式も一つのテーマだったと思うが、最終的にゆいかはメジャーを蹴りマイナーを選んだ。しかしメジャーに駆け上がりたくない演劇人などいないはず。彼女にいつか再び訪れるはずの、メジャーとマイナーの狭間での新たなジレンマを続編として見てみたい。(仲村英一郎)

☆☆★
 同じく上戸彩を擁した『アテンションプリーズ』よりもこちらの方が面白くなかったはずもなく、小劇場というテーマその他のいろんな意味で損をしてしまったこのドラマを気の毒にも思うが、結果的にはそれによって吹っきらざるを得なかったというか、意図してかせずか、テレビ的ドラマツルギーを放棄するはめになったために、ようやっとデタラメな情熱が全開になってくれて、何が飛び出すかわからないという、ちょっと面白い最終回になっていた。
 もしかしたら、「土下座なんかしなくていい世界」(=ショービス)の話をもう少し分厚くやる予定だったのかもしれないが、それがオミットされたせいか否か、存分にカリカチュアされたテレビドラマ制作の揶揄は、ここまでやるかと思うほどになかなか痛烈だった。富美男(北村総一朗)によるレンボーブリッジ踊り封鎖の後、ゆいか(上戸彩)の逃避行でドラマはさらなるハチャメチャぶりを極める。
 ちょっとしたヤケのやん八のようにも思えるも、代沢(藤井フミヤ)が乳牛とともに迎えにやってくるあたりのおかし味も、あまりにもテレビドラマ的ではなく気に入った。それも、ゆいかがメジャーに足を踏み入れる直前に、メジャー経験者である代沢に教えを請う場面があったればこそなので、ガチャガチャとしっぱなしというわけでもなかったことになる。
 ヌーベル演劇祭で本多劇場に進出したサンデーズの舞台『下北ソングス』で、ゆいかの代役を務めるはずだった亜希子(山口紗弥加)は極度の緊張症によりダウンするも、そのことをあくたがわ(佐々木蔵之介)が知らないのはかなり奇妙では。ただ、そんな窮地のサンデーズを救うべく、ウェディングドレス姿で現れるゆいかは、ちょっとした『卒業』の逆バージョンになってたりして、終わりよければ、という気分で収めてくれる。確かにこの最終回は完全版ではなかったのかもしれないが、その不完全さがこのドラマにふさわしかったような気もしてくる。(麻生結一)

第8回「サルたちのシモキタザワ」(2006年8月31日放送)

☆☆★
 劇中劇「進化しなかったサル」でサンデーズのたどってきた道程そのものが変奏されることによって、登場人物たちの演劇人としての志の高さが真摯なタッチによってこのドラマにも結実。大変好感の持てる第8話だったけれど、青春群像劇として生真面目なまでに物語が語られるほどに、テレビドラマで小演劇の世界を描くことのギャップもそのまま露呈してしまったような気がした。テンションというか、ノリというか、嗜好性がどうしても違ってしまうのは致し方ない事実だ。
 演劇人ならば演劇で落とし前をつけようと決意したサンデーズのメンバーが、ゆいか(上戸彩)の実家である旅館で本番までの10日間合宿をはるその模様は、演劇に関するドラマが演劇を描いて落とし前をつけてくれているようにも思えて清く思えた。視聴率などに関わりなく。チアダンスのドラマがちっともチアダンスを描かなかったり、音楽を愛する主人公が音楽のことを忘れてしまったりしては困ってしまうのだけれど、だからといって、ボートのドラマがボートに興じてばかりではふり幅が狭すぎるし。その点、このドラマはそのバランスもそれなりにとれていたと思うのだが……。
 役者の身体性の駆使を標榜したその舞台の冒頭は、言われなくても『2001年宇宙の旅』風で恐ろしくわかりやすかったり、時折寒々しいパフォーマンスが繰り広げられたりして、この舞台がどうこうという感想はないのだけれど、一命を取り留めた八神(石垣佑磨)の役をあくたがわ(佐々木蔵之介)が代役として演じる設定の熱さはこの第8回のテンションに似つかわしかった。八神の泣き上戸ぶりもこの舞台のクライマックスのためにあったのかと思うと、ギリギリで前話の違和感も肯定できるような気がしてきたりして。サルと3年間同棲していたゆいかの母・花(木野花)は『愛は霧のかなたに』かい。(麻生結一)

第7回「僕ら薔薇薔薇…という感じ?」(2006年8月24日放送)

☆☆
 夢が叶う過程こそが楽しいはずだったのに、団員それぞれも売れっ子になっていく中で、待望のスズナリでの公演を前にサンデーズがバラバラになってしまう回。よって、昭和のギャグシリーズ(?)以外の笑いの要素は封印され、終始展開は重々しかったが、その深刻を体現した八神(石垣佑磨)が飛び降り自殺までしてしまう展開はちょっとついていけない。複雑な家庭環境に育ってきたボンボンゆえのナイーブさが出たということだろうが、八神というキャラクターの位置づけが今一歩明確にされていなかったこともあって、あまりにも唐突な印象だった。むしろ30歳を超えて俳優しか出来ないがけっぷちのジョー(金児憲史)の魂の叫びの方に真実味を聞く。ここでやめてもよかった気がするのだが。
 ブルマ以上、ビキニ未満を宣言して、ぶれないスタンスを貫くゆいか(上戸彩)を何とかグラビアでひもビキニにさせようとくどく亜希子(山口紗弥加)が恒例となった大声で(デシベル表示はどこへ?)。

亜希子「減るもんじゃないだろ!」

と怒鳴りつけるあたりはいかにもマネージャーの類の人がいいそうな言葉だけれど、この弱小劇団をあの手この手で仕切る亜希子を演じる山口紗弥加の雰囲気は、いかにもそれらしい匂いをかもし出していて好演である。それにしても、サンボ(竹山隆範)とキャンディ(大島美幸)は感じが悪くなってる。こうしたときにこそ起こりうるグループの崩壊というダークな展開も可能だろうけれど、このドラマはそういったところは志向してなさそうだ。(麻生結一)

第6回「ブルマなゆいかが下北を回す!」(2006年8月17日放送)

☆☆★
 本多劇場のこけら落とし公演を飾った劇団の座長だった発覚したゆいか(上戸彩)の祖父・富美男(北村総一朗)が語る劇団員としての悲しい末路にリアリティがにじむも、それではさすがにドラマが終わってしまうので、サンデーズにはかすかな希望の光がさしてくるところで物語の継続にも配慮した格好。
 それほどピッチリではなかったのがむしろよかったのかもしれない?! 荒波書店主催2006ぴっちりブルマーコンテストでゆいかは準優勝に輝く。そんなゆいかに目をつけた芸能プロのスカウト・渋谷(池田鉄洋)の力が働いたか、サンデーズの次回公演はザ・スズナリに格上げに。結局「サマータイム・ストレンジャー」がいかなる舞台かよくわからないままに終わりそう。
 玲子(松永京子)とサンボ(竹山隆範)のラブストーリーは何だか唐突だった(前話にちょっとしたフリはあったが)。ちゃっかりドラマで役がついたらしいキャンディ(大島美幸)こそがサンボにはお似合いに思えるだのだが。どうにもこのドラマはサンボに甘い?!
 それにしても、銭湯で絡まれた下馬(古田新太)が「エル・ポポラッチ」呼ばわりされたのにはビックリ(最近、新作やってます!!)。ゆいかの部屋にきのこが生えてきたり、はたまた神出鬼没なケラリーノ・サンドロヴィッチが出番増えてたりするあたりの、こういったドラマの筋と関係ないところの方が面白かったりするのも事実。(麻生結一)

第5回「下北キャンディキャンディ!」(2006年8月10日放送)

☆☆★
 駅前劇場での公演が好調につき、それにともなって団員それぞれにもめぐってきたキャリアアップの機会。ただ一人、代わりばえしないキャンディ(大島美幸)が8年間に及ぶ演劇生活に終止符を打つ決意をするというお話は、この題材を扱うならば避けては通れない道であった。結局、キャンディがサンデーズの面々ーに引き止められる展開は甘ちゃんなれど、あくたがわ(佐々木蔵之介)作にして、この回でテレビ化もなった「暗黒超人ビジンジャー」中の“才能”に関する台詞がここに響いてくる構成は、小演劇的なロマンティシズムがにじんでしんみりとさせられた。
 ヒロイン担当の里中ゆいか(上戸彩)は、荒波書店主催2006ぴっちりブルマーコンテストなるサブカル風のパートでのみ活躍するも、このエピソードは次回に引き継がれる模様。ただ、舞台公演「サマータイム・ストレンジャー」がまたしても刺身の妻程度の扱いだったのは残念だった。どうせなら、少しずつその全貌がわかるようにしてくれたらよかったのに。(麻生結一)

第4回「世界はサンボを座長と呼ぶんだぜ!」(2006年8月3日放送)

☆☆
 親についた嘘を嘘にしないために、仲間たちが嘘を現実として振舞ってくれるという展開は一つのパターンにつき、小演劇を舞台にしたドラマでなければ出来ないという類の話ではなかったけれど、今も昔も格差社会を地で行く光と闇の世界こそが演劇界だけに、そのシチュエーションがはまりやすいのも事実だ。
 下北は下北でも、下北半島出身だったサンボ(竹山隆範)が母・新子(吉行和子)にかくも成功した風に装うべく、サンデーズのメンバーが待望の駅前劇場公演初日前日にもう一つの虚構を演じるという一席は、定型の寄せ集めによるドタバタ調以上ではなかったも、そこからさらに全体的に緩まっている感じになっていたのはこのドラマならではの小劇場的味付けと呼んでしまっても差し支えないだろう。
 ただ、せっかくの駅前劇場進出話が一劇団員の話にすりかわってしまったのはもったい気もした。とんでもない作品を作ってしまったかも、と通し稽古でうぬぼれるあくたがわ(佐々木蔵之介)の独善あたりをクローズアップした方が、いかにも演劇チックでらしい感じになると思うが、それではテレビドラマとして成立しないか。
 ちくわ水産が下北のドゥ・マゴだったり、いつの間にやら千恵美(佐田真由美)に拮抗する存在になったらしいゆいか(上戸彩)が、新子の前でサンボの学士カノジョを演じた際はちょっとCA風だったりといった、脇道はなかなかに楽しい。(麻生結一)

第3回「仁義なき戦い〜下北女優戦争」(2006年7月27日放送)

☆☆
 このドラマの重箱の隅的な面白さは捨てがたいと思うのだけれど、ちまたではあまり指示されてない模様で、それも何となくわかる気がする。
 千恵美(佐田真由美)がかつて久留米の星と呼ばれていたというショッキングな事実の発覚に、ちくわっこくらぶというアイドルグループに所属していただの、表紙を飾ったこともあるシティ情報月刊くるめ(げっくる)がたったの250円、さらには黒木瞳も田中麗奈も表紙を飾ってきたという史実でまで畳み掛けてくる分厚さたるや。物語的にも千恵美的にも、その大いなる無駄足で悲しみを誘う?! 眠眠亭のアルバイトの面接に際して、ゆいか(上戸彩)が問われるのがオルタナティブな志望動機って、やっぱり遊んじゃってるなぁ。
  あくたがわ(佐々木蔵之介)の中ではすでに天才格のゆいかがなぜに千恵美を信奉するのかは判然としないも、そういった横ラインの筋や人物関係よりも、重箱の隅を面白がろうとするところにシフトして、それを発見しては面白がるという見方に徹するならば、このドラマは終始ニコニコしながら見ていられるだろう。ニコニコできたからといって、点数がプラスされるわけではないけれど。(麻生結一)

第2回「ビバリーシモキタ高校白書」(2006年7月20日放送)

☆☆★
 下北へのというよりも、演劇(貧乏な?!)への思い入れの深さによってこのドラマを受け入れる思いはちょっと変わってくるかもしれないが、どちらにしてもその他のゴールデンの連ドラとはかなり違なった方向性の、変り種のドラマにはなりつつあるのは間違いない。
 ちょっと面白かったのは、冒頭ゆいか(上戸彩)がサンデーズに入団するディテールが前後して語られた部分。今後もこれが定番になるのだろうか。
 いよいよ新作公演の初日を迎えるも、黒衣のはずが結局はもっとも目立ってしまったゆいかの未熟な失敗のオンパレードによって、舞台は収拾のつかない状態に。しかし、演劇マニアの牛乳おじさん(藤井フミヤ)からそれがむしろシュールな演出というまずまずの評価を得て、ゆいかの小演劇ライフもまずまずにスタートしたというお話に落ち着く。テレビドラマとしてはあまりに小演劇的な歩みにも思えて、ちょっと心配になってくるのだが。
 下北のドン・ファン(ビジュアルはジュリー?)、あくたがわ(佐々木蔵之介)の、恋愛、創作、批評の何でもかんでもをポジティブシンキングしてしまう都合のよさはいかにも演劇人的というべきか?! 小劇団の愛のメリーゴーランドぶりの置き換えが、『ビバリーヒルズ高校白書』風になってたりする遊びはちょっと古臭かったけれど。小劇場双六で下北のヒエラルキーを説明してくれたりするパートもやはり必要だろう。(麻生結一)

第1回「小劇場と書いて『ビンボー』と読む!?」(2006年7月13日放送)

☆☆
 まさに下北三昧ドラマで、ゆいか(上戸彩)のナレーションならずともこれをゴールデンの連ドラにしていいのかと心配になってくるも(ちょっと前にやっていた土曜ナイトドラマ枠に似つかわしそう)、ライトにいっちゃってるスタイルを維持していただければ、面白くなりそうな要素は存分にあるのでは。
 ゆいかの焦燥と演劇への目覚め、そして下北サンデーズのメンバー紹介を主とした中盤までは独特のテンションを維持していたし、今後も随所に挿入されそうな小劇場に関する豆知識群も、ちょっと懇切丁寧過ぎるかなとも思ったけれど、それなりになじんでいて違和感はなかった。ただ、稽古場のオーナー・下馬伸朗(古田新太)が登場するラストが随分と雑だったため、トータルでも散漫な印象になってしまったのは残念。登場シーンのインパクトに限っては笑ってしまったけれど。とにもかくにも、テレ朝に非ディテクティブドラマが2本も登場とは、大いなる驚きである(あと1本は『レガッタ』)。(麻生結一)

下北サンデーズ

テレビ朝日系木曜21:00〜21:54
制作:tv asahi、オフィスクレッシェンド
プロデューサー:桑田潔、市山竜次
原作:石田衣良『下北サンデーズ』
原案:石田衣良、藤井フミヤ、堤幸彦
原案協力:長坂信人
企画協力:古賀誠一
脚本:河原雅彦(1、2、3、4、5、6、7、8、9)、三浦有為子(3、4、7、8)、中津留章仁(5)、西永貴文(6)
演出:堤幸彦(1、2、5、6、9)、丸毛典子(3、4)、木村ひさし(7、8)
音楽:屋敷豪太
主題歌:『下北以上 原宿未満』藤井フミヤ
出演:里中ゆいか…上戸彩、あくたがわ翼…佐々木蔵之介、伊達千恵美…佐田真由美、江本亜希子…山口紗弥加、八神誠一…石垣佑磨、サンボ現…竹山隆範、キャンディ吉田…大島美幸、寺島玲子…松永京子、ジョー大杉…金児憲史、佐藤新…藤ケ谷太輔、田所双葉…高部あい、里中花…木野花、赤茶げ先生…黒沢かずこ、ヒロ太…三宅弘城、ケラリーノ・サンドロヴィッチ…ケラリーノ・サンドロヴィッチ、みのすけ…みのすけ、タイトルナレーション…中村正、渋谷尚人…池田鉄洋、本多劇場の本多さん…本多一夫、赤坂長寿庵…光石研、安田実・安田社長…蛭子能収、サンボの母・新子…吉行和子、大鳥ゲン…京本政樹、里中十郎…半海一晃、ハイロー…野添義弘、ブイさん…堀まゆみ、黒沼…岩尾万太郎、三谷幸三…眼鏡太郎、野田秀夫…辻修、マーキー…龍坐、友香…信川清順、トラッシュ・ガービッジ…中津留章仁・小林一英・吹上タツヒロ・ひわだこういち・カゴシマジロー・粕谷吉洋、犬☆魂…西永貴文・井澤崇行・秋枝直樹・たくませいこ・及川水生来・中島徹、学部長…谷津勲、ゆいか(子役)…桑島真里乃、劇団員…伊藤大輔・久保田寛子、代沢二朗…藤井フミヤ、下馬伸朗…古田新太、里中富美男…北村総一朗