不信のとき〜ウーマン・ウォーズ〜

第12回(2006年9月21日放送)


 正直言って、わけのわからない最終回だった。何しろこれまでの11回までと登場人物のキャラクター設定がことごとく違っているのである。冒頭の和子(杉田かおる)の7分半に及ぶ説教から、いきなりに首をひねらされた。和子ってこんなに思慮深く、慈愛に満ちたキャラクターだったの?てっきりかなりの悪玉だと思ってたのに。「家政婦は見た」どころではない、盗聴器仕掛けて湯のみこぼしてた人と同一人物ですよね。大体、これまでのおどろおどろしいナレーションは何だったのとも言いたくなる。奇妙だ。
 道子(米倉涼子)は近藤(小泉孝太郎)から、近藤は道子から卒業というくだりは、さらにさっぱり意味がわからなかった。思わせぶりだった2人の言動も、そのすべてが肩透かしだったということか。どちらにしても、結局みんないい人になっちゃったわけで、その締めくくりはいかにもダメなテレビドラマの典型であった。
 音楽演出はもともと趣味が悪かったが、その煽りっぷりはそれなりに笑えるポイントではあった。ただ、こうもべったりと全編に音楽がつけられてしまうと、もはや耳をふさぎたくなる。
 マユミ(福田沙紀)が子持ちシンガーとしてデビューしたことを知った小柳(石田純一)がいかにも幸福そうだったエピローグにはニヤリとさせられたが、どうしてこのエピソードをエンドロールにまぎれさせなければいけなかったのだろう。あまりにももったいない。逆に、朋子(江波杏子)の墓前でのつぶやきは、何をどうしたかったのだろう。何かしらを煙に巻いたつもりならば、その試みは完全なる不発と言わざるを得ない。
 もともと連ドラの最終回には期待するものではないが、それにしてもそのおざなりぶりたるや。義雄を演じた石黒賢の愚かなる男ぶりは終始光っていただけに、その彼の元気がなくなってしまっては、ドラマの輝きが失われてしまったのも当然かもしれない。(麻生結一)

第11回(2006年9月14日放送)

☆★
 これまでの義雄(石黒賢)の報いに対しての女たちの復讐につぐ復讐が繰り広げられる展開はまったく白熱しなかったわけではないが、「先天性無精子症」から矢継ぎ早に「進行胃がん」まで告知されてしまったら、これまでの悪行分と差し引いてもチャラ以上、道子(米倉涼子)と近藤(小泉孝太郎)の関係も鑑みるならば、義雄は単なる愚かで気の毒な人に見えてくる。まぁ、実際もそうなのだろうけれど。
 マチ子もしくは路子(松下由樹)の復讐劇のアイテムが、いかにもとってつけたようだったのはそのサプライズを随所に弱めていて残念。マユミ(福田沙紀)に出て行かれてしまった小柳(石田純一)の活躍ももはやこれまでか。これまた残念。(麻生結一)

第10回(2006年9月7日放送)

☆☆
 小柳(石田純一)が説く、男が女に嘘をつく論も、道子(米倉涼子)とマチ子、もしくは路子(松下由樹)の長編直接対決に比較するならばかわいくさえ思えてくるが、肝心のその対決の方も長かったわりには振り切れるほどにヒートアップするところまではいかなかったという印象。

マチ子もしくは路子「自分が倫理にかなった立場にいるからって……」

なんて台詞の硬さも、ボルテージを下げる効果を果たしていたか。
 そんなある程度予測の範囲内だったご両人の対談に比較するならば、子供第一主義を謳い、聖人演説をしゃあしゃあとぶつ和子は、盗聴器を仕込んで道子、義雄(石黒賢)夫婦の会話を盗み聞きして、その悪党ぶりをさらに一歩進める(これまでもやってたのか?!)。どんでん返し風に使われた、道子(米倉涼子)が連呼する「先天性無精子症」の告白よりも、それを盗聴器越しに聞いて、思わずお茶をこぼしちゃう和子の方にビックリしたりもして。まぁ、一言でこの回を説明してしまうならば、愚かなる義雄(石黒賢)、自業自得も哀れなり、という感じでしょうか。(麻生結一)

第9回(2006年8月31日放送)

☆☆
 和子(杉田かおる)の語りが美文調ではないのがどうにも不満なのだけれど(日本語がガクガクとしている)、不倫物のベタドラマとしての肝はきちっと抑えてあるので、それなりにノリノリで見ていられるのが助かるところ。音楽のあおりっぷりも、お品が悪くてらしい感じが随所にハマっている。道子(米倉涼子)よりも先に和子が、義雄(石黒賢)がパンツをはいていない事実に気がつかなければいけなかったのはわかるが、こういう無理矢理を力ずくで押し通してしまうと、おかし味も緩んでしまうのがもったいない。勢いでのみ見せきったのは正解だったかもしれないが。
 義雄の母・朋子(江波杏子)が共依存症であったというカミングアウトも降って沸いたような話だった。借金話がこちらに摩り替えられたように思えるも、確かにドロドロが×2になってしまってはちと重いか。
 絶品だったのは小柳(石田純一)による和子のプロファイリング。和子は幸薄そうな顔相の悪意のないおせっかいの塊という鋭い指摘はあまりにも的を射ている。そんな小柳も息子の嫁(金子さやか)にマユミ(福田沙紀)との関係を脅されて、ハワイの別荘をおねだりされてしまう受難に遭遇する。『ダンドリ』では女子高生だったはずの金子さやかは、一転欲まみれの悪女役って、まったくすごいの一言です。
 あおりにあおって人間どもへの試練をちらつかされるも、今度こそ避けられない妻と愛人の本格一騎打ちはさらに次回へ持ち越しにということに。こうやってドラマの速度が落ちてくる中で見る側の思考も冷静になってくると、お互いに離婚して、やり直せばいいのに、という単純な話に見えてきてしまうのは、その“ドロドロ”が“ドロ”ぐらいで収まってしまって都合が悪い。その点、『美しい罠』は静かにドロドロし続ける、その持続性が優秀である。(麻生結一)

第8回(2006年8月24日放送)

☆☆
 嫉妬に狂った銀座のママ・マチ子もしくは路子(松下由樹)のピンポンダッシュが見られるかと大いに期待したが、和子(杉田かおる)がそれを阻止。まったく余計なことをと思うも、このドラマ的にはその寸止め感が面白いところなんだろう。
 道子(米倉涼子)が近藤(小泉孝太郎)との密会を写真週刊誌にスクープされたって、そんなに申し訳ないって思わなくていいとの和子の助言は、義雄(石黒賢)の言動を思えばあまりにも的を射ているのだけれど、このエピソードとてそれほどの波乱に至らないあたりは、その寸止めぶりの典型なのだろうか。
 和子がナレーションでべったりとすべてを説明してくれるので、展開、心情ともども隅々までわかりやすくはあるんだけれど、わかりやすすぎてつまらないとも思える。二重生活も複数年にわたって絶好調だった義雄が残した不倫の証拠となる忘れ物がパンツっていうのは、バカバカしくていいのだけれど。(麻生結一)

第7回(2006年8月17日放送)

☆☆
 愛人・マチ子、実は路子(松下由樹)が正妻にして出産仕事復帰後も順風満帆の道子(米倉涼子)にじわじわと怒りの炎をたぎらせるあたりは、サブタイトル「危険な情事」のまさにグレン・クローズばりだったり。単純に、道子と近藤(小泉孝太郎)の逢引がそれを指していただけかもしれないが。せっかくだったら、マチ子、実は路子にはネットの地図検索で、浅井家を思いっきりデフォルトにしてほしかった気も。
 相変わらずここぞというタイミングだけは逃さないドロドロ派のベタっぷりは繰り返されている。「家政婦は見た」ならぬ「ベビーシッターは見た」風の和子(杉田かおる)や、道子の自宅書道教室に俊也(和田正人)が潜入するあたりも同一ライン。小柳(石田純一)の子供を産んだマユミ(福田沙紀)は、やはり契約出産だったのか。小柳、もしくはマユミ(おそらく小柳)の惨めな結末が見えるようで、何となく悲しい。(麻生結一)

第5回(2006年8月3日放送)

☆☆
 愛人・マチ子改め路子(松下由樹)の出産から矢継ぎ早に、正妻・道子(米倉涼子)もついに妊娠を果たして、義雄(石黒賢)は未来的年子の父親に、という展開をこれでもかと劇的に見せてくる手法はこれまで通り。最終盤、なかなか連絡してくれない義雄の会社前で、マチ子改め路子が待ち構えている場面の貫禄たるや、それは演じる松下由樹がいかにも愛人ぽくないがゆえの迫力満点か。それでも何となく愛人風にみせていく。
 外で女を作ったことに気がついた夫の妻は、最初は夫を泳がせるも、いつの間にか妻自身が泳ぎだしたりしてって、和子(杉田かおる)も小柳(石田純一)に負けじと面白発言で笑わせてくれるも、その小柳の出番が少なかったのは大いに不満だ。マユミ(福田沙紀)もCD発売告知のためだけであるかのように、チラッと顔見世した程度だったし。まぁ、このカップルは脇役なのだから致し方ないのだけれど。(麻生結一)

第4回(2006年7月27日放送)

☆☆
 道子(米倉涼子)とマチ子改め路子(松下由樹)、義雄(石黒賢)と近藤(小泉孝太郎)、さらにはちょっかい出しの和子(杉田かおる)が織り成すモザイク具合は、極めて優秀な出来ばえの『美しき罠』ほどに複雑ではないけれど、登場人物が交錯し合うタイミングはことごとくあざとくも劇的に決まっているので見飽きることはさせない。
 身ごもったマユミ(福田沙紀)にぜひとも自分の子供を生んでほしいと懇願する小柳(石田純一)曰く、妻と愛人の序列が道子と路子の順に理想的に並んでいる“道路”の間はいいけれど、くれぐれもひっくり返って“路道”にならないようにって、まったく面白い人が言うことはやっぱり面白いです。今後も小柳の言動から目が離せない?!(麻生結一)

第3回(2006年7月20日放送)

☆☆
 主婦・道子(米倉涼子)と愛人・マチ子(松下由樹)の対比が主眼であることは承知の上だが、むしろ面白いのは夫・義雄(石黒賢)と取引先の社長・小柳(石田純一)との掛け合い漫才(?)の方。マユミ(福田沙紀)も本格的に話に絡んできて、こちらこその展開が見逃せないという感じだったりする。主眼の方は随所の古めかしさが気恥ずかしさを誘うも、義雄・小柳コンビの方は緩々に楽しげにつき、いっそこちらを主人公としてほしいところ。(麻生結一)

第2回(2006年7月13日放送)

☆☆
 愛人=マチ子(松下由樹)の休日と主婦=道子(米倉涼子)の休日との対比がまずもって面白い。愛人には日曜日だからこそデートが無理なんてテイストはいかにも有吉佐和子的な感じがする。
 義雄役の石黒賢もいかにもなのだが、取引先の社長・小柳を演じる石田純一もそのベタな男がはまってる。どうやら小柳は歌手の卵・マユミ(福田沙紀)と付き合っている模様。これは小柳が悲しい最後を迎えそうで、早々虚しくなってくる。このドラマは女のバトルをベタに味わうのが本筋だろうが、愚かな中年男の顛末を見定める方でも楽しめそうだ。いまだにパイロット訓練生を引きずる近藤(小泉孝太郎)の書道教室へ出かけることになった和子(杉田かおる)が傍観者として機能してるかはどうかはまだよくわからない。どちらにしても、隣駅に住む同士の妊娠バトルは愛人が一歩リードということでつづく。(麻生結一)

第1回(2006年7月6日放送)

☆☆
 幸か不幸か、夏クールのドラマにはフレッシュなキャストのドラマが多数を占めるのが通例も、この新しい木曜22時枠はそのあたりとは一線を画していて、昔なじみのキャストによってそれぞれが最も得意とするような役回りを演じているところに、ノスタルジックな想いにふけってしまうようなところがあって(?)、BGMの入り方なども一昔前のテイストなので、ただひたすらに懐かしく感じられた。
 肝心の物語も、ニヤケ顔と速攻の爆睡ぶりが印象的な義雄(石黒賢)を挟んで、その妻にして専業主婦の道子(米倉涼子)と銀座の高級クラブのママ・マチ子(松下由樹)の、それぞれの今昔が回想シーンもふんだんにとてもわかりやすく説明し尽くされていたおかげさまで、新しい展開にもすでに安定感があって、何の苦もなく見通すことができた。
 ひたすらにベタベタではあるけれども、こういう女のバトル物はここのところ東海テレビの昼ドラの専売特許と化していただけに、きちっと正統的にやり通してくれるのであれば、それを夜見られることを歓迎しないわけではない。ちなみに、『アテンションプリーズ』ではパッとしないパイロット訓練生を脱力して演じていた小泉孝太郎が一転、ここでは若手有名人気書道家・近藤を演じているが、第1話中ではそのギャップを埋めることが出来なかった。(麻生結一)

不信のとき〜ウーマン・ウォーズ〜

フジテレビ系木曜22:00〜22:54
制作著作:フジテレビ
プロデュース:栗原美和子、林徹
原作:『不信のとき』有吉佐和子
脚本:小野沢美暁、栗原美和子
演出:林徹、大木綾子、谷村政樹
音楽:石田勝範
主題歌:『あゝ無情』アン・ルイス
劇中歌:『グッド・バイ・マイ・ラブ』福田沙紀
出演:浅井道子…米倉涼子、野上マチ子…松下由樹、沖中和子…杉田かおる、小柳新吾…石田純一、近藤慶…小泉孝太郎、伊藤マユミ…福田沙紀、野上俊也…和田正人、椎名千明…宝積有香、金子さやか、遠山俊也、佐野賢一、日向丈、みさきゆう、大江聡、藤沢かりん、福地香代、小柳みどり…秋山菜津子、大澤千鶴子…高岡早紀、マチ子の叔母…鷲尾真知子、島原常務…平泉成、浅井朋子…江波杏子、浅井義雄…石黒賢