吾輩は主婦である

第8週(2006年7月10〜14日放送)

☆☆☆
 なるほど、最終週は「こころ」にならって遺書構成なのか。まだ何も語られていない時点ですでに大いに感激するも、その後に連打される面白遺書群にもそれぞれ楽しませていただいた。
 じゅん(荒井健太郎)宛ての遺書では、吾輩(斉藤由貴)が117年ぶりに教壇に立つシチュエーションもいいが、その授業内容も『女王の教室』ばりに的を射ていてある意 味爽快。吾輩、コウジ(坂巻恵介)、朝野(高橋一生)が入り乱れるまゆみ(東亜優)へのラブレター代筆合戦も『シラノ』風で秀逸かつ、その結末は至ってお昼ならではの健全さに満ち満ちていて清々しくさえあった。
 ちよこ(竹下景子)宛ての遺書篇は一転しみじみ調。漱石のゆかりの地散策には、日曜朝7:30あたりのテレビに充満しているゆったりとした空気感が?! その散歩道が夏目坂だったり(吾輩ならずとも風景一変にビックリ!)、福屋のせんべい食べたり、漱石公園の銅像を見たりと(赤門だけは2時間サスペンスのデタラメ地理ばりにワープだったけれど)、涙ものの時の流れが過ぎ行くも、ここまでの溜めが効いていたちよこの心情吐露と吾輩が示唆するその将来にもほろっとなる。それにしても、このドラマの竹下景子は新しかった!これほどまでにギアチェンジ自在の女優さんだったとは、さすがの一言です。
 一際分厚かったたかし(及川光博)の遺書には、ミュージカル「つぼみの花咲く時」のメイキング秘話が満載!グランドピアノの前にたたずむ郵便ボーイ・たかしはハーレムでトランペットの前にたたずむ黒人少年とイコールか。ピアノが遺書的プレゼントという展開を、『純情きらり』のパロディと思うのはいくらなんでも深読みすぎだろうか。
 吾輩のナレーションを勤める本田博太郎が雑司が谷墓地の管理人役で登場。容貌は『レザボア・ドッグス』もその存在感は死神風。みどりへの遺書朗読ではこちらまで拍手したくなる。そしてドラマは振り出しに戻る。やすこ(池津祥子)が騒音おばさんばりに登場すると、ドラマも途端に泥臭くなるのだが、それもまたこのドラマの味ということで。(麻生結一)

第7週(2006年7月3〜7日放送)

☆☆★
 みどり(斉藤由貴)の実父・小沢(鈴木ヒロミツ)絡みのエピソードは時間をかけたわりにはこのドラマのテイストになじまない感じもしたが、のちのちにドッペルゲンガーではなく、単なるみどりと瓜二つであることが判明する美乃梨(斉藤由貴・二役、三役?)の出現により、更なる斉藤由貴の持ち芸(?)が楽しめたあたりは、残された時間が少なくなってきているだけにありがたかった。
 そして吾輩(斉藤由貴・二役、三役?)にとっては死を意味する胃潰瘍の宣告!フィナーレへの準備は万端ということで、最終週にも大いに期待しいた。(麻生結一)

第6週(2006年6月26〜30日放送)

☆☆★
 各話読みきりで連打されるエピソードは、それなりに派手に盛り上がってくれて相変わらず楽しいのだが、この第6週はそれを作家の苦悩のようなものが上回っていたようないなかったような。ゆきお(川平慈英)がつぼみ(能世あんな)を突き放すためのミュージカルを吾輩(斉藤由貴)とたかし(及川光博)が共作(大学時代以来?!)、そこにゆきおの前妻・みなこ(宮地雅子)が飛び入りしてくれたのも地味に豪華だったが、つぼみの再就職先が夜のバイト、大塚のキャバクラ「ミスサイゴン」で、源氏名が「みどり」とはまた手の込んだことを。
 マンションを売る売らないで登場した夜しずかをペンネームとする人気作家の朝野(高橋一生)はまるっきりクドカン風で、芥川賞まで受賞しておきながら自殺未遂を起こすあたり、苦々しいというか、いたたまれないというか。机に向かうと睡魔が襲ってくるのが物書きの宿命という部分で共感し合ったり、書きたいものが見つからないという相談を叱咤したりしてるうちに、終いには吾輩の書生になるに至り、身につまされるばかりでそこでは笑えなかったが、吾輩=みどり間での行き来が久々に復活して、斉藤由貴の至芸を存分に堪能出来たのはいつもにも増してのお得感があった。
 ペ・ヤングンロケ地巡りツアーのために韓国を訪れていたために、『おならスースー鈴之助』目当てでやってきたペ・ヤングンとニアミスしてしまうちよこ(竹下景子)があまりにも哀れも、ここは屈託なく笑えたところ。その『おならスースー鈴之助』と夜しずか作の『キャミソール』の差が毒のあるなしとか言われてしまうと、またまたシュンとしてしまうのだが。(麻生結一)

第5週(2006年6月19〜23日放送)

☆☆★
 笑いもほのぼのもすっかり安定飛行に入った感がある。もう少し冒険してほしい気もするが、これだけ満遍なく楽しませてくれているのだから、それを望むのもちょっと贅沢かもしれない。この第5週は吾輩(斉藤由貴)自らのエピソードというよりも、15年間音信不通だったらしいたかし(及川光博)の妹・ももえ(猫背椿)の華麗なる恋愛遍歴や、妻子ある尾形(小野武彦)とちよこ(竹下景子)の不倫を疑ったりといった、吾輩の夢想のエスカレートで見せる間接的なお話が多かった。
 痴漢男から振込詐欺へと流行り物で連なった失踪騒ぎのひろしは、本人の知らぬところで“人間”への問いにまで至って、ニヤリとさせられる。金曜日にろくなことが起きないという吾輩のみならない、昼ドラ普遍の法則を取り上げるあたりもいかにもそれっぽい裏着目で面白いが、ここでもやはり吾輩演じる斉藤由貴のぬ〜っとしたところから一気に爆発に及ぶ、その瞬発力に感動するばかりなのだ。(麻生結一)

第4週(2006年6月12〜16日放送)

☆☆☆
 みどりというよりも男・吾輩(斉藤由貴)の恋の話から、ドラマはいっそうに好調。その恋愛対象であるじゅん(荒井健太郎)の担任・すみれ(原史奈)をマドンナと名づけるあたり、これまでの趣向を引き継いでいるが、ここでのマドンナと歌手の“マドンナ”(48歳)がごっちゃになるところなどは、いかにもらしいおかし味だ。離婚の理由が何と無修正ビデオだったゆきお(川平慈英)のたかし(及川光博)への励ましの言葉が、90年代のポップスが中身のないことの暴露に連なるあたりには、ドラマとはまったく関係なく笑ってしまった。
 これまで各方面からやられっぱなしだったそのたかしは、2つのエピソードによってちょっぴり頼もしい存在に。「女性タブン」へ堂々連載されるはずだった『吾輩は主婦である』が『吾輩はちょっとエッチな主婦なのです』に差し替えられていた(挿絵のISOYANAもちょっと気になる)、といういかにも業界っぽいお話の火元である編集者・小暮(温水洋一)に対して、たかしが高らかにみどりが夏目漱石であることを宣言する場面がその一つ。もう一人の編集者・小松(岡田義徳)が吾輩の才能を認めて、改めて連載となるというまとめの話は、前号の読者の投稿と類似したタイトルの連載がその後はじまってしまうというのも、よく考えると奇妙だけれど。ちなみに、たかしが吾輩に買ってあげたレッツノートのカラー天板赤20万円は、正確に言えば駅前の電気屋には売ってません(あれはネット直販なので)。
 もう一つは、娘のまゆみ(東亜優)をいかさまタレントスカウトから救い出し、ようやくまゆみと和解するエピソードだが、ここはブルセラ業に身を落とした飯掘(尾美としのり)の濃い目のキャラにすべてが飲み込まれてしまった印象も。
 実はそのあゆみの話の裏エピソードである、吾輩が食器用洗剤のCM、さらにはシャンプーのCMに連続出演に出演する話こそがおバカ度が傑出していて楽しめた。ここで登場する制作会社のAD・中島(桐谷健太)にしろ、飯掘にしろ、チラッとしか登場しないキャラもレギュラーをも凌ぐほどにあまりにも面白い。空き巣の入られた矢名家を訪れる刑事役の半海一晃とちよこ役の竹下景子との絡みは、二人ともが出演している『純情きらり』では実現しなかった夢のツーショットだったり。
 といろいろと書いてみても、結論は唯一つ、斉藤由貴演じる吾輩の喜ばしさに尽きるのである。オーバーアクトとオーバーアクトが掛け合わされると通常騒々しく品も悪くなるものだが、そうはさせない斉藤由貴は、『木更津キャッツアイ』のときの薬師丸ひろ子とちょっと近いかもしれない。数少ない不満の一つはミュージカルシーンがなかったことぐらいか。(麻生結一)

第3週(2006年6月5〜9日放送)

☆☆★
 みどり(斉藤由貴)の正体を怪しんだやすこ(池津祥子)によるトラップ的俳句の会において、みどりは酔った勢いで夏目漱石であることを高らかに宣言するも、その告白以上に酒乱であったことの方がインパクトが強かったらしく、逆に一目置かれる存在に格上げされちゃった!その模様が克明に収録されているビデオ「みどりさんハンパしちゃってゴメン!」がこの第3週の白眉。なるほど、ジェッキー・チェン映画のNG集風につき、BGMも『プロジェクトA』!ですか。実際に『プロジェクトA』を劇場に見に行くと、このテーマソングが休憩時間にいじめのように繰り返しかかっていたという苦々しい記憶もついでに思い出されたりもして。
 苦慮したちよこ(竹下景子)はみどりの除霊を思いついて、家に呼んだのが着物姿のスピリチュアルアドバイザーの拓海源太郎(菅原大吉)って、またベタな。当然偽造紙幣は専門外な霊媒師による悪霊退散のバックミュージックにアンビエント風がまたそれっぽくて楽しい。
 そんな吾輩がモンナシーヌのテーマ「その日暮らしの貴婦人」、もしくは「魚は目を開けて眠る」を聴くと瞬間的にみどりに戻るのは、純喫茶ジャンバルジャン限定であることが確認され、まだまだつぼみのつぼみ(能世あんな)の提案により、みどりというよりも吾輩はジャンバルジャンでパートすることに。この設定が絶品なのは、吾輩は明治の文豪だけに喫茶店の給仕に身をやつすことの意味が出るのと、メイドコスプレとが入り組んでオーバーラップしてくるために、おかし味が×2になるため。
 小説のねたの聞き込みとしてはじまったやすことその夫・ひろし(レッド吉田)の、悪の三冠王と善の三冠王の今昔もそれなりに面白かったけれど(ちらっと『スケバン刑事』のパロディが!出来れば斉藤さんにやってほしかったけど)、やっぱり芥川的ぼんやりとした不安と餃子がうまくできたささやかな幸せの狭間で格闘する吾輩としてのみどりが主軸になったパートにはかなわない。しつこいようだけれど、劇中踊りまくる斉藤さんにはやはり違和感がある。ここでの違和感は感動と同義である。(麻生結一)

第2週(2006年5月29〜6月2日放送)

☆☆★
 宮藤官九郎脚本作の中では上出来とは言えなかった『ぼくの魔法使い』の様に、みどり(斉藤由貴)は主婦と漱石=吾輩とをめまぐるしく往復するのかと思っていたが、その予想に反してこの第2週はおおむねみどりは吾輩に固定。エピソード自体もこの手の定番づくしという感じだったが、斉藤由貴の大真面目な吾輩ぶりを見ているだけも大いに楽しめた。
 基本的には小ネタ的ドタバタとそこからのずらしを連続させて見せていく構成になっているも、母親についての作文を書いた息子のじゅん(荒井健太郎)に対して、母性本能に目覚める吾輩の心情を描いてしんみりとさせる叙情性などは、いかにもらしいテイストでうまみがある。
 やすこ(池津祥子)による、みどり=ビリー・ミリガン=多重人格者説は、それが単なる漱石の乗り移りと油断していただけに、その端的な推理に妙に納得させられる。まぁ、そういうダークサイドな話にはならないでしょうけど。
 繰り返しになるが、斉藤由貴の大活躍ぶりが何とも頼もしい。猫と人間の人格が混ざった猫格よろしく、首に鈴をつけられて、何を食べても何を飲んでもいちいちうまかったら洗脳されまいって。この人が演じると、こういう荒唐無稽もそれなりに形になるから大したものだ。そして毎回のオープニングでの、決して踊らない人であった斉藤さんのステップを見るにつけ、繰り返し鮮烈に驚かされるのである。(麻生結一)

第1週(2006年5月22〜26日放送)

☆☆★
 もしかすると、ある意味ではこの春クール最大の話題作かもしれない宮藤官九郎脚本作の昼ドラ。 ごく普通の専業主婦・矢名みどり(斉藤由貴)が学生時代から付き合っていた夫のたかし(及川光博)が大手レコード会社をやめてしまったことをきっかけに、お金のやりくりにさいなまれ果てて、ついには1000円札の透かしが乗り移って夏目漱石になってしまうという荒唐無稽なお話だけれど、小ネタと叙情性のブレンドはすでに功を奏しつつあり。見る側にも慣れを要するドラマでもあるかもしれないが。
 みどり役の斉藤由貴が久方ぶりに天性のコメディエンヌぶりを全開に大いに楽しませてくれる。完全妄想状態での一人芝居も冴えに冴え、大学時代に受けた『レ・ミゼラブル』のオーディションでは三次審査まで残ったなんていう、自らにまつわる楽屋落ちネタまで披露してくれて、思わず微笑ましい気持ちになる。
 そのみどりとたかしが元ミュージカル研究会同士という設定につき、いくら突然歌い出したって何の違和感がないところもおいしい。オリジナルミュージカルソングはどれもバカバカしくてニコニコできるし、随所にパロディ三昧なのも楽しめるところだ。
 みどりを「嫁のチャンピオン」「文学嫁」「嫁詩人」とと絶賛し続ける姑のちよこ役は、源一郎(三浦友和)亡き後、誰も回想する人がいなくなったばっかりに、『純情きらり』での出番が皆無になった竹下景子(もちろんナレーションは健在ですが)。昼に朝ドラを見たあとにこちらにはしごすると、竹下さんのテンションの差異に驚かされること請け合いだ。
 ただ、この第1週でもっとも驚いたのは、オープニングテーマソングで踊って歌っている斉藤由貴である。横にステップを踏むだけでも事件と言われた彼女だけに、ここまで踊ってしまっては、もはや20年越しの大事件ということになる。(麻生結一)

吾輩は主婦である

TBS系月〜金曜13:00〜13:30
愛の劇場
製作:TBS
制作協力:泉放送制作
プロデューサー:磯山晶
脚本:宮藤官九郎
演出:高成麻畝子、坪井敏雄、木村政和、川嶋龍太郎
音楽プロデューサー:志田博英
音楽:福島祐子
主題歌:『家庭内デート』やな家
出演:矢名みどり…斉藤由貴、矢名たかし…及川光博、矢名まゆみ…東亜優、矢名じゅん…荒井健太郎、やすこ…池津祥子、ゆきお…川平慈英、ひろし…レッド吉田、小松…岡田義徳、ももえ…猫背椿、朝野…高橋一生、飯堀…尾美としのり、つぼみ…能世あんな、柴田…有吉弘行、尾形…小野武彦、小暮…温水洋一、すみれ…原史奈、郵便局長…不破万作、みな子…宮地雅子、猫ひろし…猫ひろし、小沢昭一郎…鈴木ヒロミツ、刑事…半海一晃、司会…ミスターちん、中島…桐谷健太、拓海源太郎…菅原大吉、総菜屋・根本…宍戸美和公、魚屋・鈴木…青木和代、豆腐屋・小森…三鴨絵里子、ゆかり…山口真璃亜、めぐみ…豊田聖亜、五十嵐コウジ…坂巻恵介、妄想の漱石…安住紳一郎、田代…池田成志、しおり…馬渕英俚何、不良主婦しのぶ…大澤桂子、不良主婦あいこ…西慶子、編集者・沢田…澤口夏奈子、医師…西村清孝、デリヘルの客…高橋修、運送屋…吉成浩一、男子(三浦)…吉田理恩、裕太…谷村拓哉、店員…ドラゴン謙司マグマ、真島…宮下誠、あんず…加藤瑠美、しずか…佐武宇綺、空き巣…武田滋裕、カタログ屋…瀬戸将哉、男の子…吉田理恩、漱石の姉…枚田菜々子、主婦…山梨ハナ、新人作家…西谷有統、不動産屋…荒川仁彦、気持ち悪い客…森下能幸、上司…岡崎宏、店長…後藤康夫、少年たかし…東郷奏音、友達A…三代安里沙、友達B…俵未希、本屋・店員…諏訪ひろ代、不動産屋・田中…中村泰三、スタッフ…ジジ・ぷう、本屋・店員…東せいじ、本屋・店員…亀井彰夫、モエ…幸塚瑠菜、ペ・ヤングンの声…ペ・ジョンミョン、男A…パク ソヒ、男B…ペ ジョンミョン、子供たち…足立雄介・河口瑛将・林泰勇騎、スタントコーディネーター・アクションコーディネーター…田淵景也、フランス語指導…マンスール・ジャーニュ、医療指導…片山雅彦、看護指導…石田喜代美、夏目漱石の声・喪服の男…本田博太郎、矢名ちよこ…竹下景子