おいしいプロポーズ

最終回「あなただけを愛してる」(2006年6月25日放送)

☆★
 鈴子(長谷川京子)は、道造(橋爪功)から小切手をもらって春樹(小出恵介)と別れることを決意。もちろんそれは見せかけで、実は春樹のことを考えて身を引いたということ……という展開にしろ、春樹とミチル(サエコ)の婚約パーティの当日にミラノに旅立つ鈴子という図にしろ、あまりにも既視感のあるもの。そういう展開にしてしまった都合上、このドラマの売りだった美男美女二人の微笑ましいシーンも控えめとあっては、35分を過ぎるまで全く見どころ無し状態。それならそれで、終盤でどんな逆転をしてくれるのかと思いきや、春樹が婚約パーティの席上で婚約破棄を言い出す直前でフェードアウトしあっという間に1年後へって、えーっ!?春樹とミチルが結婚しなければ得られないはずの、ミチルの父親からの融資は果たしてどうなったのやら。お気楽なラブストーリーが悪いとは思わないが、せめてそのドラマ中で「大きな障害」と設定されたものをいかに克服するかぐらいは責任を持って描いていただきたいもので。それでも、ラストの鈴子と春樹の再会がとびきりロマンティックに決まったりすれば最終的な評価を上げることもできただろうが、そのシチュエーションにしろ描写にしろ地味そのもの、おそらく本当はミラノロケぐらいやりたかったところなのだろうけれど、それにしても平板すぎるラストシーンではないか。今回、もっとも好感度が高かったのは意外にも、婚約破棄をされても全くめげないミチルだったりして。それに引き替え、もはや使いっ走りしかしてなかった藤森(小澤征悦)の不憫さよ。実はオーソドックスな話こそ、レベル高くフィニッシュするのは確かに難しいものだけれど、このドラマもまさにそういう意味での失敗作に終わってしまった印象。(安川正吾)

第9回「別れの予感」(2006年6月18日放送)

☆☆
 このドラマのレビューでは何度となく「微笑ましい」と言っているが、このドラマを一言で表すとすればやはりその言葉に尽きるだろう。今回にしても、鈴子(長谷川京子)と春樹(小出恵介)が二人で料理を作るシーンなどは微笑ましさに満ちていた。それ以外にも、「トラットリア・バンビーナ」の支配人だった大河内(西村雅彦)が社員食堂でうどんコーナーのオヤジをやらされていたりするあたりも楽しいし、マキ(小池栄子)と徹(天野ひろゆき)の一足飛びなラブラブっぷりも、彩りとして見ればまあ、必要十分ではあるだろう。
 しかしやっぱり、エピソード全体として密度が薄い印象は変わらず、「面白いドラマ」として誰かに勧めたくなる魅力があるかというと、そこまでになりきれない。理由としてもっとも致命的なのはやはり、ミチル(サエコ)の敵キャラとしての魅力のなさではなかろうか。敵なのだからいい人である必要はないのだが、鈴子と春樹が社食で仲むつまじく話しているところを目撃した次の瞬間に、道造(橋爪功)のもとに駆け込んで泣き落としをかけるような他力本願ぶりは興ざめ以外の何ものでもない。もう一人のキーパーソン藤森(小澤征悦)にしても今回は、改めて春樹にプレッシャーをかける一言を言うぐらいで、ドラマ的には何もしていないに等しかった。終盤にさしかかったこの段階でこういう「見なくてもいいエピソード」をやってしまうのはあまりにもったいない。まさか消極的なワールドカップ対策だったわけでもあるまいが。(安川正吾)

第8回「恋に落ちるなんて」(2006年6月11日放送)

☆☆
 鈴子(長谷川京子)と春樹(小出恵介)がお互いへの想いを確認しあい、「お付き合い」状態に突入。「トラットリア・バンビーナ」の面々は祝福ムードだし、春樹の会社との労使問題(?)もひとまず解決して、二人は心おきなく平和なひとときを過ごす。唯一の障害が外堀から埋めてくるミチル(サエコ)ということになったわけだが、それよりは真摯な態度で

藤森(小澤征悦)「彼は、君とはうまく行かないと思う」

と鈴子に忠告する藤森のほうがドラマ的にはずっと不穏で。
 全体的な雰囲気は決して悪くないのだが、時間のほとんどが鈴子と春樹の関係性のみに割かれているわりには語られていることは多くない。マキ(小池栄子)と徹(天野ひろゆき)の話も一応平行しているのだが、徹がまるでそういう契約になっているかのように「1回につき1シーンの登場」しかしない現状では、微笑ましいだけでドラマを盛り上げる要素にはなりきれないし(というか、いつの間にそこまでの関係になったんだ?)。もう少し密度が高くてもいい気がするのだけれど、ないものねだりだろうか。(安川正吾)

第7回「突然のキス」(2006年6月4日放送)

☆☆
 鈴子(長谷川京子)の父の店が取られたのは藤森(小澤征悦)のせいではなく、徹(天野ひろゆき)が“町金のヤバいところ”からお金を借りていたせいだったことが、マキ(小池栄子)によって冒頭でいきなり知らされる。徹がダメ人間であることは自明であるが故に、それがどうして鈴子にまで伝わらず藤森が責任を全部ひっかぶってしまったのかには疑問が残るも、藤森のバカがつくほどの実直さを思えば、辛うじて納得できるかなという感じ。しかしそうなると徹は、自分の過失がもとで鈴子と藤森を別れさせたにも関わらずそれをずっと黙っていたってことになるわけで、そこまで行くと単なるダメ人間を超えて人間性を疑うレベルではあるまいか。せめてそのあたりをきちんと徹に贖罪させるシーンがあってもよかったのではないかと思うのだが、そういう描写は全くなし。そこまでの気遣いが必要なキャラクターでもないということだろうか。ともあれその事実を知った鈴子は、藤森への態度を軟化させることになり、焼けぼっくいに火がつく可能性もここで提示される。
 その藤森が紹介した弁護士を通して、「トラットリア・バンビーナ」は葛城フードコーポレーションに解雇不当の申し立てを行うのだが、そのために道造(橋爪功)が仕向けたガラの悪い男達から営業妨害に遭う羽目に。この「ガラの悪い男達」の描写がありきたりなのもいただけない部分で、こういった細部にまで気を配ってくれれば、いいドラマになり得ると思うのだが…。少々時間を遡れば、弁護士を紹介したのが藤森であることが秘書の大河内(石井正則)に知られてしまうあたりも、もう少し丁寧なシチュエーション作りをして欲しかった気がする。とは言え、早々にそれがバレたことが藤森から春樹(小出恵介)への慇懃この上ない宣戦布告につながるわけで、タイミング的には問題なし。それに刺激される形で春樹は鈴子に想いを告白し“突然のキス”をする!かなり本気で鈴子の唇に吸い付いているふうの春樹の姿はテレビドラマ的にはあまり美しくないも、それがこのキャラクターの若さと一途さを表現していると思えば好感も持てるか!?そんなわけで恋愛ドラマとしてはしごく真っ当に盛り上がっているのだが、恋愛以外は全くきちんと描かれていないあたりに物足りなさも感じてきた。(安川正吾)

第6回「予期せぬ三角関係」(2006年5月28日放送)

☆☆★
 春樹(小出恵介)が「トラットリア・バンビーナ」の閉店を決定し、そもそも利害の一致しない立場だった鈴子(長谷川京子)との対立的関係がより鮮明になったことで、作品のムードは当初のシンデレラストーリー的なものから一変。だがそれでラブストーリーとしては深まりを見せ、これがなかなか悪くない。これならば、あのタイミングでの沙織(小林麻央)の退場も必然だったと思える。「バンビーナ」の危機を救う手助けをする形で、鈴子の元彼・藤森(小澤征悦)もようやく本格的に物語に介入してきた。ただただ地味で実直なその佇まいはあらゆる意味で春樹と正反対だけれど、だからこそ今後の波乱(主に、鈴子の心情面においての)を予感させてくれる。一方春樹の方はと言えば、フイになってしまった養殖エビの代わりに(?)ミチル(サエコ)と婚約させられそうになるのだが、その後またしても春樹の部屋で待っていたミチルが意外に切ない表情を見せるものだから、こちらも恋の障害としてはそれなりのパワーを持ちうるか。
 こういったキャラクター配置は、恋愛ドラマのセオリー通りといえば確かにそうなのだけれど、それが陳腐と言うよりは、ちょっと懐かしくてイイ感じと思わせてくれるレベルにはなっているのでは。マキ(小池栄子)と徹(天野ひろゆき)というデコボコな二人の急接近ぶりも微笑ましくていい。
 些細なことだが、サブタイトルの「三角関係」ってのはどう考えても鈴子、春樹、藤森ですよね。そう考えると、やっぱりミチルは当て馬に過ぎないのか。(安川正吾)

第5回「あなた、彼女のことが好きになる」(2006年5月21日放送)

☆☆
 鈴子(長谷川京子)と春樹(小出恵介)が親しくなっていく様子は微笑ましく、「だるまさんがころんだ」状態になってしまうあたりなどは特に頬がゆるんだが、ひとつのエピソードの8割方がそんな描写で埋まってしまうとさすがに物足りなさを感じずにはいられない。たとえラストに、春樹が突然「トラットリア・バンビーナ」の閉店を正式に言い渡すという逆転があったとしても、だ。一度は「バンビーナ」の閉店を見送りたいと思った春樹の心変わりの原因が、父・道造(橋爪功)の言葉ひとつというのもいささか物足りないところ。それにしてもやっぱり、沙織(小林麻央)の退場は早すぎはしなかっただろうか。春樹の留守中に部屋にあがりこむ行為を繰り返すミチル(サエコ)のような平べったいキャラクターが代わりに前面に出てくると、展開や仕掛けに新味があるわけではないというこのドラマの長所とは決して呼べない部分がより浮き彫りになってしまう印象を覚える。こうなった以上早いところ拓海(小澤征悦)に恋の障害として活躍していただかなくては困るのだが、どのように絡んでくれるのかはまた持ち越されてしまった。ときにミチルがすき焼きの準備をしながら口ずさんでいたのが「てんとう虫のサンバ」とはまたえらく古風な。“いまどきの娘”ってそういうもの?(安川正吾)

第4回「片思いのスープ」(2006年5月14日放送)

☆☆
 春樹(小出恵介)から二人だけのパーティに招待されるロマンティックな夢を見た鈴子(長谷川京子)だが、その夢が、春樹ではなくその絶倫親父・道造(橋爪功)をホストにしてまったくロマンティックでない正夢となってしまうあたりの展開は可笑しい。ラストで鈴子が春樹に振る舞う「片思いのスープ」の逸話もキレイに決まったが、そのスープが象徴するところの「春樹と沙織(小林麻央)の関係」自体は、現在進行形のエピソードでほとんど描かれないが故に切なさは今ひとつ高まらなかった印象。もしかするとこれにて沙織は退場ってことなのだろうか、ドラマ的にはもう少し役割を与えられる気もするが。代わりに登場したのは、名前からどうやら鈴子の元彼らしいと推測される藤森拓海(小澤征悦)だが、まだ本質的には関与して来ずで。(安川正吾)

第3回「バンビの誘惑」(2006年5月7日放送)

☆☆★
 春樹(小出恵介)と海辺のモーテルで一晩過ごした疑惑と、それによって自分だけクビにならないよう店の仲間達を出し抜いた疑惑を春樹自らの口から解いてもらおうとする鈴子(長谷川京子)だが、逆に春樹から交換条件をもちかけられる。それは春樹の思い人・沙織(小林麻央)を交えた会食への参加だったのだが、その場に沙織が今つきあっている男も現れ、春樹はやけ酒モードに突入。鈴子が酔っぱらった春樹を介抱していると、いきなりキスされて……。と、まあ定番のエピソードといえばそうなのだが、全体のテンポの良さと瑞々しい雰囲気のおかげで、楽しいと思える作品であり続けている。ドラマ“初主演”(「僕だけのマドンナ」は主演じゃなかったんですね)にしてオバサンオバサン連呼される長谷川京子嬢はあまりにも可哀想な気がするが、とはいえこの主人公が若くてカワイイだけのキャラではないあたりが、作品の魅力のかなりの部分を占めているのは確かだ。春樹を演じる小出恵介も、傲慢にしてナイーブという男を的確に表現しているのでは。(安川正吾)

第2回「シンデレラの条件」(2006年4月30日放送)

☆☆★
 新鮮でないイワシをみごとな料理に生まれ変わらせた鈴子(長谷川京子)の腕利きっぷりを認めたらしい春樹(小出恵介)は、鈴子をなぜかパーティに誘う。そのパーティの席上で、春樹が亡くなった兄ほどには期待されていないことがあまりにわかりやすく語られるのには少々興ざめなれど、この手の「マイ・フェア・レディ」もしくは「プリティ・ウーマン」系シチュエーションにここまで真っ正面から切り込まれるとむしろ新鮮な感じで、まったくもって悪くない。前回のレビューでも書いたが、春樹のような“御曹司”系キャラは韓国ドラマではよく見るタイプだけに、この枠の前作「輪舞曲」よりずっと韓国ドラマの影響を(いい意味で)受けている作品のようにも見える。
 多少の口論はありつつもなんとなくいいムードになった二人はやがて帰途につくが、春樹が自分だけを「トラットリア・バンビーノ」から引き抜こうとしていることを知った鈴子は怒り心頭で車を降り、パーティドレスのままで歩き回る羽目に。ずっと歩き続けて「寒い」「痛い」、缶コーヒーを飲んで「あったかい」「おいしい」、また歩き始めて「寒い」「痛い」と鈴子がひたすら短い言葉を繰り返すあたりの描写も微笑ましい。鈴子の勝ち気さも春樹の拝金ぶりもあまり極端に描かれすぎないあたりが、好感度の高い雰囲気を作り出していると言えそう。(安川正吾)

第1回「運命の恋人と最悪の出会い」(2006年4月23日放送)

☆☆★
 男勝りのイタリア料理シェフ・白石鈴子(長谷川京子)と、大企業の重役だが世間知らずのボンボン・葛城春樹(小出恵介)が、反発し合いながら恋をすることになる(らしい)、いわば既定路線のラブロマンス。こういうドラマではそのキャラクターをいかに好ましく描けるかでとりあえずの成否が決まる印象があるけれど、美人だが“人前で大きな声でしゃべり”媚びることなく仕事に打ち込む鈴子と、まるで韓国ドラマにおける“財閥の御曹司”的存在感ながら父親の道造(橋爪功)には頭が上がらず丸めた紙でペシペシやられる春樹という取り合わせはじゅうぶんに楽しく、そういった意味ではなかなかの好スタートを切った初回だった。それにしても、“運命の恋人と最悪の出会い”と、サブタイトルと雑誌の占いの両方で念押ししなくても、視聴者はちゃんと理解できるでしょって感じはしますけどね。
 メインエピソードは、鈴子が働く「トラットリア・バンビーノ」を、最近オーナーとなった春樹がつぶしに来て、それに異議を唱えた鈴子が店の存続をかけて春樹とその連れを料理でもてなす……という、料理ものとしては定番中の定番なお話。春樹の連れ・ジュエリーデザイナーの島崎沙織(小林麻央)の子供の頃の話をたまたま雑誌で読んで、その思い出の料理であるナポリタンをコース料理のメインディッシュに持ってくるという展開は「ザ・シェフ」かはたまた「マイリトルシェフ」かという感じで、つまるところ新味があるわけでは決してない。けれども鈴子と春樹の立ち位置は過不足なく描かれているし、鈴子と一緒に住むことになった姪のちはる(黒田凛)が、同居人の柏木マキ(小池栄子)の胸の谷間を見てなぜか生唾を飲み込んでたり、春樹の秘書・大河内(石井正則)と「トラットリア・バンビーノ」のマネージャー・大河内(西村雅彦)という、「古畑任三郎」つながりな二人(他局だけど)が“オオカワチ”と“オオコウチ”だったりするあたりの小ネタもほどよく楽しいので、週末の終わりに肩の力を抜いて見るにはちょうどよさそうだ。(安川正吾)

おいしいプロポーズ

TBS系日曜21:00〜21:54
日曜劇場
製作著作:TBS
制作:TBSテレビ
プロデューサー:伊藤一尋
脚本:小松江里子
演出:清弘誠(1、2、5)、加藤新(3、6、8、10)、山室大輔(4)、吉田健(7)、高津泰行(9)
音楽:大島ミチル
主題歌:『Flower』伴都美子
出演:白石鈴子…長谷川京子、葛城春樹…小出恵介、島崎沙織…小林麻央、柏木マキ…小池栄子、桑原裕介…天野浩成、藤田翔…大東俊介、メアリー富田…石田未来、片瀬未来…清水由紀、社長秘書…大門真紀、白石ちはる…黒田凜、大河内孝信…石井正則、白石徹…天野ひろゆき、藤森拓海…小澤征悦、平岳大、掛田誠、武発史郎、高橋慶子、酒井彩名、中丸新将、元井須美子、石塚義之、高林由紀子、大河内民雄…西村雅彦、葛城道造…橋爪功