マチベン

第3回「死刑囚を救えますか?」(2006年4月22日放送)

☆☆★
 予想に反しない若村麻由美の怪演ぶりも手伝って、不倫の果てに3人を殺した連続保険金殺人犯の元美容師にして稀代の悪女と謳われる愛川サチ(若村麻由美)に対する死刑判決には情状酌量の余地がないと中盤過ぎまで思わせた。しかし、殺した相手であるはずの愛人・鶴田(宅間孝行)が残したあまりにも苦々しい内容の遺書によってサチの思いがズタズタにされたいきさつをつぶさに見せられて、途端に同情の対象に反転するあたりの語り口は巧みだった。遺書の内容に関しては、サチの思いを踏みにじるものであるということ以上を語ると、仮に今後ご覧になる方がいらっしゃればさしつかえるかと思うので、詳細は控えることにする。
 第1回を見た限りでは、主人公・天地涼子を演じる江角マキコの演技の硬さがドラマの前途を不安にさせたが、ここまで見進めてくると、微妙なニュアンスとは無縁のその硬い演技がむしろ余計な感情を削ぎ落としてくれて、天地涼子の柔じゃない感じが出ていて似つかわしいと思えるようになってきた。ふと江角マキコを初めて見た映画『幻の光』のことを思い出す。実はこういう硬派な内容のドラマの方が彼女向きなのかもしれない。
 これまで閉ざされたままだった天地涼子と深川保(竜雷太)の関係性がドラマの冒頭部分、深川が面会を了解することで少し垣間見える。この話がこのドラマの締めくくりになるのだろう。(麻生結一)

第2回「依頼人を裏切れますか?」(2006年4月15日放送)

☆☆★
 依頼人・鈴木睦美(奥貫薫)が離婚調停のために弁護士・浦島(中島知子)を訪れる冒頭を見て、弁護士事務所の陣容のみならず内容までも『離婚弁護士』とかぶってきたかと危惧したが、実際にこの第2回でトピックとなる事件は、鈴木睦美の夫である高校教師・鈴木博史(大倉孝二)が身代金受け渡し現場に居合わせたことで容疑者とされてしまう誘拐事件の方だった。この猫だまし風が狙いだったとすると、そのひねくれ方に今後の期待感がむしろ膨らんだ?!
 鈴木がその当日、教え子の谷村茉衣(悠城早矢)と一緒にいたという、刑を免れるに十分なアリバイを決して話そうとしない理由が大変納得のいくところだ。確かに守秘義務は弁護士や医者の専売特許ではないはずだ。けれど、そのことは日ごろ意識されない部分であるだけに、なるほどと思わせた。楽しい面白いばかりではなく、日ごろ見過ごしてしまいそうな些細な事柄にスポットと当てる役割もフィクションは担っていると思うに、さすがは井上さんの脚本と感心した。
 ただ、鈴木が復職かなう結論には疑問が残る。この甘さはテレビドラマの限界か、それとも冤罪が晴れたならば、そうあってほしいとの願望が込められていたととるべきか。実際の復職率を知らないので、どちらがリアリティのある結末なのかはわからないけれど。(麻生結一)

第1回「法廷は涙にめざめる」(2006年4月8日放送)

☆☆
 井上由美子脚本作の弁護士ものでマチベン(町の弁護士)が主人公と聞けば、どうしたって続『ひまわり』だと思い込みたくもなる(土曜ドラマだけに、“パート2” などではなく、“続”とつくかと)。星野(上川隆也)と一緒に弁護士事務所を開業したのぞみ(松嶋菜々子)のその後がこのドラマに連なってくると考えるととてもスムーズなのだが、ヒロイン・天地涼子役は松嶋菜々子ではなく江角マキコと聞いて、ちょっとニュアンスが違うのかなと少し落胆する。ただ、同脚本家作の『弁護士迫まり子の遺言作成ファイル』シリーズのクオリティの高さなども加味するに、やはりこのドラマには大いに期待したくなる。
 いきなり被告席に涼子を立たせる驚きのオープニングの1年前という設定でドラマはスタート。元検事のヤメケンにして現マチベンの主人公の周辺を説明的にならずにじわじわとわからせてくれるあたりはさすがだったが、涼子が所属するえびす堂法律事務所の構成員が『離婚弁護士』とほぼ重なっているあたりがちょっとひっかかる。涼子が心情を綴った手紙の相手・深沢(竜雷太)なる人物の存在は、涼子の過去とともに次第に解き明かされていくのだろう。
 敵対する弁護士として、法曹一家のサラブレッドである神原啓吾(山本耕史)と最初の裁判でぶつかるあたりもこのジャンルの定番という感じでいいのだが、せっかくの土曜ドラマという変則枠で、1話完結のドラマを作ってどうするのだろうという疑問も沸く(もはや変則枠を狙ってないのかもしれないが)。ビル火災で娘のゆかり(岩田さゆり)を亡くした河瀬みゆき(松田美由紀)が、そのビルに放火した犯人でありながら未成年につき保護観察処分で済まされる進藤和彦(松山ケンイチ)を相手に民事訴訟を起こす、というこれだけのボリュームをたった1話であっさりと捌いてしまうのはあまりにもったいない。松田美由紀の熱演は見ものではあっただけに、ならばいっそうもう一歩踏み込んだドラマの展開が見たかった気がする。このドラマは面白くなってもらわなければ困るので、第2回以降にボルテージが高まっていくことをひたすらに祈るばかりだ。(麻生結一)

マチベン

土曜ドラマ
NHK総合土曜21:00〜21:58
制作・著作:NHK
制作統括:佐野元彦
作:井上由美子
演出:笠浦友愛(1、2、6)、磯智明(3、5)、黒崎博(4)
音楽:吉俣良
主題歌:『永遠』EXILE
出演:天地涼子…江角マキコ、神原啓吾…山本耕史、後藤田薫…沢田研二、浦島たまを…中島知子、村山信介…小林隆、河瀬みゆき…松田美由紀、進藤和彦…松山ケンイチ、河瀬ゆりか…岩田さゆり、友永二三夫…大出俊、橋本クリス…マリエ、進藤重彦…グラシアス小林、進藤美佐子…大沼百合子、民事法廷裁判長…草野裕、鈴木博史…大倉孝二、鈴木睦美…奥貫薫、盛岡校長…木野花、花田刑事…中村有志、谷村茉衣…悠城早矢、刑務官…不破万作、教頭…山崎海童、友永裁判長…大出俊、梶原正敏…菅原大吉、木村弁護士…小原雅人、民事法廷裁判長…川島宏知、男性リポーター…長田新、若手刑事…春日井順三、店長…瀬尾智美、梶原成美…井上花菜、鶴田聡美…伊藤かずえ、控訴審裁判長…姿晴香、向井圭子…板谷由夏、深川八重子…森下愛子、鶴田祐輔…宅間孝行、画廊店長…蛭子能収、土居勝成…池田政典、一審裁判長…須永慶、野村検事…飯田基祐、拘置所員…山口玲子、記者…京極歩・松原正隆、リポーター…こばやしあきこ・松島正芳・岩永新悟、法廷絵師…都倉聖司、愛川サチ…若村麻由美、亀井雅美…原田夏希、木下医師…野元学二、橋本クリス…マリエ、審尋裁判長…谷本一、新田昇一…岸部一徳、深川友香…谷村美月、白石検事…大谷亮介、近所の主婦…橘ユキコ、スーパー店員…池野浩子、裁判長…岡橋和彦、記者…京極歩・松原正隆、廷吏…長井貴人、松尾一成…沢村一樹、太田正孝…山本圭、深川保…竜雷太