医龍 Team Medical Dragon

第9回(2006年6月8日放送)

☆☆
 恐れおののいてしまうほどのこっ恥ずかしい場面が連打されるに、これはもはやスポ魂物と呼びたくもなるが、そうであっても見ながらに悪い気がしないのは、やはり物語のメリハリが常にわかりやすく、しっかりと効いているからである。閉鎖的な医局に風穴を開けるという改革案の名の下に、野口教授(岸部一徳)は、北日本大学の霧島軍司(北村一輝)を次期教授候補に推薦する。野口から信念が強すぎるとネチネチいじめられる加藤晶(稲森いずみ)は窮地にたたされるも、もはや誰も“医龍”と呼ばない朝田龍太郎(坂口憲二)に促されて、救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)が野口に反旗を翻し、加藤を教授選に推薦すると堂々宣言。要所要所で一番目立ってるのがこの人だ。
 これでチームドラゴン存続なるかと思いきや、次なるバチスタの患者は一万人に一人の症例、完全内臓逆位と赤ちゃんと、一難さってまた一難の展開には見飽きさせない趣向が凝らされている。伊集院(小池徹平)の裏切りがほのめかされるあたりも、ケレン味たっぷり。
 問題のこっ恥ずかしい場面の中でも、これはと思われたのは2箇所。バチスタ手術を前にした女子高生・村野里奈(東海林愛美)に対して、藤吉圭介(佐々木蔵之介)が誇らしげに一緒に闘う仲間達として紹介するチームドラゴンの面々の、清々しくも晴れやかな表情をカメラのパンが映し出す演出には思わず苦笑い。生死をかけた患者を前にして、これはちょっとやりすぎか。追い討ちをかけるように、この第2回バチスタ手術に挑むチームドラゴンの面々が廊下を行く姿は、やはり『ライトスタッフ』か『アルマゲドン』の趣だ。第1回とは一転、この手術のギャラリーは少ないどころかたったの二人も、それが鬼頭の霧島に対してのマンツーマン実況中継となると、むしろ豪華版とも思えてくる。
 更なるこっ恥ずかしい場面は、論文のために切らなくてもいい患者のバチスタ手術をしていた霧島に対しての反発心が起爆になって、加藤が主催した決起集会がクライマックスを迎えるところ。みんなで手を重ね合わせたクサすぎる演出の彼方から、「エイエイオー」の掛け声が聞こえてくるようだった。ただ、仮に実際に掛け声が聞こえたとしても、それも当然と思わせるのは、野口と霧島がわかりやすく悪代官風に君臨しているからだろう。人間を分厚く描いている物語ではないが、シンプルに読み物的に楽しめる域では、これが今クールの民放ドラマ随一ではないだろうか。(麻生結一)

第8回(2006年6月1日放送)

☆☆★
 一流は一流を知るの巻?! 荒瀬(阿部サダヲ)の過去については、初登場のバーテンダー・山口香(奥菜恵)、およびマスター(モロ師岡)の説明台詞によって一気呵成にオールカバー。だし巻卵好きの一点で、荒瀬の人間味も増してくるが、この小道具がこの第8回を通しての重要な心情的横糸になる。
 そのキャラクターについて深く知る間もなく、コンビニ強盗の銃弾に倒れる香。この欠落部分に対してのフォローにはまったく怠りなく、救急車での搬送中に、荒瀬と香の回想が一気に捌かれる段取りのよさは、これまでのこのドラマの通りだ。
 ついにここで、救えない命もあるという話になるのかと思いきや、やはり蝮ならぬ“医龍”な朝田は決してあきらめない。人手が足りない一大事も、ここで朝田は手術の第一助手に、何と救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)を指名!一刻を争うときに、

鬼頭「私に釣り合う執刀医かどうか、拝見させてもらうわ」

と奇妙なほどの余裕綽々をかませるろところが、また別の意味で頼もしかったり。というわけで、解説の名手、鬼頭の手がふさがったために、今回の手術実況中継解説担当は内科医の藤吉(佐々木蔵之介)と一流看護士・里原ミキ(水川あさみ)にゆだねられた。
 そしてついに、荒瀬が麻酔医としての本領を発揮して、危険だったはずの手術はノリノリにスピードアップ!ドラマのテンポのそれにあわせるかのように、流麗に物語られていく。藤吉の解説により、これまでのいかなる手術も朝田にとっては全力を出しきっていなかったことまでもがここに判明。駄目押しするかの如く、

藤吉「最高の麻酔医と最高の外科医が患者の心臓を基点につながってる」

との名調子。明真大学付属病院恐るべし。ここにもまた詩人がいた!
 大手術後、荒瀬は香にだし巻き卵的愛の告白を。そんな荒瀬の善悪すべてを理解している朝田の悟りの境地は、ここにいっそう極まった!さらに、鬼頭の第一助手ぶりも大絶賛。いつから朝田は褒め殺しの達人にもなった?! どちらにしてもここは、一流は一流を知るの雨あられである。
 朝田に深い敵意を抱く北日本大学の霧島軍司(北村一輝)の狙いは、論文のみならず、もっとひどいことを仕掛けてくるという、加藤(稲森いずみ)に語ったミキの予測は、ついに笑顔が硬直してしまった野口教授(岸部一徳)のと結託によるものであったと的中するあたりは、次回第9回のお話。(麻生結一)

第7回(2006年5月25日放送)

☆☆★
 これまでいっさい語られることのなかった北日本大学の胸部心臓外科医・霧島軍司(北村一輝)の今昔が一気呵成に語られた、第7回折り返し地点過ぎまで。一流看護士・里原ミキ(水川あさみ)がそこまでの出番数トップだったのは当然で、実は霧島とミキは異母兄弟だった。藤吉圭介(佐々木蔵之介)によって語られる、家政婦のようにこき使われていたミキの過酷な境遇は、まさに東海テレビの昼ドラヒロイン風。そして、霧島についての説明が佳境に達したところで、ミキがその説明をドラマティックに引き継ぐ。これぞ説明台詞三昧ドラマの真骨頂というたすきリレーぶりに、「待ってました」と思わず掛け声をかけたくなる。ミキの実母の説明などまったく無視してしまうあたりも、話のテンポが落ちないことを最優先とすると、それはそれで有用であったろう。
 実は“医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)も北日本大学では霧島と同僚で、単なる的確で優秀な医師である霧島が、心臓と対話までしまう、心臓外科学会のドリトル先生、朝田にもはやかなわないと観念したゆえに追放に至った経緯がここに判明する。それにしても、そのことに加藤晶(稲森いずみ)が気がついていなかったとは、間が抜けているというか何というかね。これまで氷の女然としていた加藤の実態は、 霧島にまんまとバチスタ手術を出し抜かれたことを蒸し返すまでもなく、結構な詰めの甘い、そそっかしい人だったりする可能性大あり。泣き崩れる加藤が雨に打たれてずぶ濡れになる場面は、秀作『ブルー、もしくはブルー』のデジャブを見ているようだった。
 ドラマの終盤は麻酔医・荒瀬門次(阿部サダヲ)の黒い過去について。荒瀬の説明では、『医龍』最高の語り部の座を渡してなるものかと、救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)が大活躍する。その見えの切りっぷりは、もはや説明台詞の域を超えつつあるか。金で技術を売るのがポリシーとチームドラゴン入りを拒絶する荒瀬がいかにしてチームドラゴン入りするのか、今後楽しみなところだ。
 クライマックスは朝田のイメージトレーニングとしてのシャドー手術に集うチームドラゴンの面々、屋上に大集合。カメラはその全員をグルグルと回っていくよ。さわやかな台詞でビシッと決める朝田は、いつの間に善行の塊のようなキャラに。どちらにしても、チームドラゴンの結束がいっそう固まって、めでたしめでたし。(麻生結一)

第6回(2006年5月18日放送)

☆☆☆
 いよいよはじまった奈良橋文代(江波杏子)のバチスタ手術はスポーツの実況中継的な面白さで見せつくしてのぶち抜き31分間。一回たりとも別エピソードで寄り道しなかったのは大したものだ。ドラマ的禁じ手である説明台詞も、それだけで31分やってしまうとそれはそれで味わいになることをここに教えられる。
 “医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)が心臓を止めずにオンビートでの手術を宣言したのを口火に、説明台詞の大洪水に突入。ついには誰も“おぼっちゃま”とは呼ばなくなった今回第ニ助手を務める伊集院登(小池徹平)の第一声、

伊集院「朝田先生の手術だ。波乱があることはとっくに覚悟している」

が視聴者の予想を後押ししてくれてちょっと気持ちいい。その後は悪の権化的扱いの野口教授(岸部一徳)、もっぱらコメディ担当の木原(池田鉄洋)、救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)、同医師・権藤(小林すすむ)、同麻酔医・荒瀬(阿部サダヲ)らが、まるで隣同士で息を合わせているかのように、文節単位での説明台詞を高速にリレーしていく。とりわけ見事なのが、鬼頭の医学的詳細解説と権藤の素人然としたあいづちとの名人芸的掛け合い。朝田の見事なメスさばきにざわめく教授陣に対して冷ややかに、

鬼頭「解説がほしければ、野球中継でも見てなさい!」

って、ご自分こそがバチスタ実況中継の最大の担い手でしょ。朝田の的確な判断力もすごいのだろうけれど、それ以上にすごかったのが朝田のすごさを端的に言い表し続ける鬼頭の国語表現力。

鬼頭「彼の脳には極めて生々しい人体が生きている!」

ニヤリとしたかと思うと、この手術の失敗を前々から予言していたその通りに、あまりにすごすぎる朝田についていけない麻酔医の技量が遅れ、臨床工学士がいっぱいいっぱいぶりを目ざとく発見し、追い討ちをかけるように前話でも加藤晶(稲森いずみ)に語った手術掛け算論を悪女口調で披露してくれる。
 程なくして臨床工学士1がトイレタイムを要求。臨床工学士2もあたふたとする中、実は人工心肺装置を使えた(そんな前ふり、ありましたっけ?)伊集院が即席臨床工学士に。このユーティリティぶりこそが伊集院起用の最大の理由だった?! すると、手術中の加藤までもが、

加藤「いつしかこの男のリズムに全員が飲み込まれてる」

と国語力に卓越したところを見せ付ける。カメラは手術台を中心点にグルグルと回転し、見る側もまたこの展開に飲み込まれていくうちに、バチスタ手術成功。ここまでで20分。
 ところが、朝田は心筋の動きが悪くなっているためにこのままでは助からないと、引き続いてのバイパス手術を宣言。ところが心室細動に。人工心肺を再装着が必要になるが、伊集院は機械を触っていたため、再手洗いをしなければならない。波乱があることはとっくに覚悟していた伊集院も、さすがにこの状態は予測してなかった模様。
 術野に人手が足りないとなった時、朝田は一流看護士・里原ミキ(水川あさみ)にグラフト採取を命じる。ドラマのボルテージは最高潮に達した風も、ここ最近は看護士の越権の有無がドラマ的お決まりになりつつあるので、展開としてはここではそれほど驚けない。チームのあり様を朝田に問う加藤の言葉が重くのしかかるが、結局は朝田の弁舌に加藤は敗北。前話でも不要に思えた文代の息子の涙がドラマの勢いを失速させて、手術篇はここに終了する。
 加藤が記者会見を仕込んでおいたおかげで、医師法違反もあっさりと不問に付されるも、翌朝の新聞には北日本大学の霧島軍司(北村一輝)が先にバチスタ手術を成功させたことになっていた。加藤がベラベラと手術日程をしゃべっちゃったばっかりにしてやられたわけだが、記者会見にはテレビも来ていたはずなので、だったらその夜のテレビのニュースではどう扱われていたのかが気になってくる。このあたりこそを『トップキャスター』でやっていただけるとよかったのに。(麻生結一)

第5回(2006年5月11日放送)

☆☆★
 ストップモーションやスプリットスクリーンの多様、変なSEが随所に入っていたりと見せ方のケレン味は悪趣味スレスレに極まってきたも、その内容には似つかわしいように思える。 この第5回は、患者選びではチャ レンジしないのに、執刀メンバーではチャレンジし続ける(?!)加藤晶(稲森いずみ)の今昔といった趣に。論文データの成績をあげるために、これまでは症例の悪い患者は切り捨てて、教授の座へと邁進していたも、その症例の悪い患者にして、初めての担当患者が死んだ時にはその胸で泣いたこともあった、かつてお世話になった元婦長・奈良橋文代(江波杏子)と語らう中で、医療に対する崇高な理想を抱いていたかつての自らを振り返って大いに反省するのだが、ミイラ取りがミイラになっていたことをここまであっさりと認める人ならば、そういう道も歩まなかったのではという意地悪な見方にもなったりして。元泣き虫・加藤は泣き方を変えただけだったという奈良橋の指摘はしみじみとするところ。
 バチスタ手術前手術では、加藤の第一助手を務めた伊集院登(小池徹平)が飛躍的に腕を上げたことが確認される。さすがは朝田に毎日切らせまくらされていただけのことはある。性格的にも細かい仕事に向いているとの合格点には何となく納得。そしてついに里原ミキ(水川あさみ)が一流看護士としてのベールを脱ぐ!救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)によると、器械出しが絶品、反射神経抜群とのこと。つまりは見えないだけで、その実態はチームドラゴンは天才集団だったということか。手術中に腕組み歩きしながら内容確認する“医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)がやはり一番見えないのだけれど。
 『七人の侍』方式のチーム選抜は新趣向で、第一助手により優秀な外科医をつけると加藤が自ら名乗り。そして切り札=朝田が手の内にある限りにおいて勝負を下りる気はないと、論文+患者の全部成功を目論む。このあたりの欲張りぶりも、人となりが明らかになってきたことで、もはやそれほど嫌味には映らない。
 結局はチームドラゴンに入ったと思わせていたERの麻酔医・荒瀬(阿部サダヲ)を加えぬままに、バチスタ手術決行に。ラストのメンバー紹介などはまるで宇宙飛行士がスペースシャトルに乗り込む瞬間のような重々しさも、よく知らない人たちもちらほら含まれていていたので、そのチームドラゴンその他大勢組のことがちょっと気になってくる。一つ疑問だったのは文代の息子の存在。第5話までに限っては、とってつけたようだった。(麻生結一)

第4回(2006年5月4日放送)

☆☆
 朝田龍太郎(坂口憲二)が明真大学付属病院にはびこる闇の部分にメスを入れて万事解決していく展開は第2回以降普遍になってきている。不整脈を起こして運び込まれた少年・稲垣大輔(伊藤純平)と伊集院(小池徹平)がそれほど親密というわけでもない心の交流をするあたりもすでに2回目で新味なし。
 最大の見せ場は、野口教授(岸部一徳)に絶対服従を貫いて、問題のペースメーカーの臨床レポートを書いている沖秀之(袴田吉彦)が、稲垣君の急変に野口教授お墨付きの欠陥ペースメーカーを植え替えようとしたその時、朝田が乱入してきて即そのペースメーカー(沖に言わせれば野口そのもの)を踏みつける場面だろう。絶対絶命のピンチを自作自演、もはや代わりのペースメーカーはないともったいつけるだけつけて、

藤吉(佐々木蔵之介)「ハイ、お待たせ!」

と最新機種が届けられるあたり、もはやピザか何かのデリバリーサービスのようでさえあった。郷土の名産を前ふりに聞いておいて、それから系列病院に飛ばしちゃう、野口の陰湿な手のひら返しももはや定番の趣。こういうテイストのドラマが嫌いな方もたくさんいらっしゃるだろうが、同じようなドラマが毎クール登場するところを見ると、このわかりやすさへの需要は多いのだろう。
 朝田は病院の屋上で裸になってどこの武術の型を披露しているのかと思ったら、

里原ミキ(水川あさみ)「イメージトレーニングよ」

って、なるほど。そんな裸の朝田から伊集院は熱烈に、

「お前が必要だ」

と言われて、コロッと落ちちゃった。
 というわけで、今回の『七人の侍』方式は、前話から目をつけていたERの麻酔医・荒瀬(阿部サダヲ)がさしたる感動エピソードももらえぬままにチームドラゴンドラゴン入り。これでメンバーは一流看護士・里原ミキ、裸の朝田に求められた“おぼっちゃま”こと研修医の伊集院、そして鹿児島の系列病院に3ヶ月後移動になる前にバチスタ手術を成し遂げたい内科医の藤吉(佐々木蔵之介)に荒瀬を加えた4人になった。で、あと何人必要なの?
 ゆっくり数えて七つで落とす手術のたびに、

荒瀬「ハイ、落ちた」

って言われるなんて、そんな病院で手術を受けるのは嫌ですけどね。(麻生結一)

第3回(2006年4月27日放送)

☆☆
 切らない選択をすることで、何でも切りたがる外科医とは一味違うところをみせた“医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)。そのあたりの懐の深さに感じ入ってか、一流看護士・里原ミキ(水川あさみ)、“おぼっちゃま”こと研修医の伊集院(小池徹平)に引き続いて、「外科医は単なる傷害犯」と言ってはばからなかった内科医の藤吉(佐々木蔵之介)が翻意してチームドラゴン入りを果たす。これが命のかかった手術スタッフの選考と生真面目に考えれば、この段取りはどうなんだろうという疑問も沸いてくるが、『七人の侍』もしくは『荒野の七人』ぐらいの、鬼退治に行くメンバーの人選ぐらいに思えば、むしろ爽快ですらある。唐突に心停止で倒れた藤吉を(大学時代に心臓の病歴ありとのいかにもな前ふりはあったが)朝田が路上で蘇生させてしまうところまでいってしまうと、もはやどういったジャンルのドラマを見てるのかよくわからなくもなってくるのだが。
 藤吉とその娘・樹里(向井地美音)のエピソードが第3話のほとんどを占めていたため、医局の極悪人達の登場が少なめだったのはちょっと残念だった。ちなみに、悪人なのか善人なのかまだ判断のつかない救命救急部教授・鬼頭笙子(夏木マリ)は、ERの本場、シカゴのハモンド大学で助教授まで上り詰めた人らしい。そんなERのことを、

朝田「思った以上にエキサイティングな現場かもな」

って言われるとこけちゃうんだけど。もしかしてこのドラマ最大の問題点は朝田その人だったりする?!(麻生結一)

第2回(2006年4月20日放送)

☆☆★
 第1回は見通すだけでも大いに難儀したが、ドラマ的な見せ方も落ち着いてきて、第2回はその真逆に爽快に見通せてよかった。リアリティとは遠いところにあるドラマのテイストにグッと真実味を加えていたのが、末期がん患者の佐々木文子(加藤治子)と、そんな妻が抗癌剤の治験で苦しんでいる様に心を痛めている夫の五郎(井川比佐志)のお二人。役者がいいとこれほどまでにドラマの印象も変わるものか。すでに亡くなっている患者の文子(加藤治子)から研修医の伊集院(小池徹平)にひらがなだけのメールが届くエピローグにはほろっとさせられる。そんな伊集院に勲章云々と声をかける朝田が、せっかくの余韻をぶち壊していたが。
 メインストーリーは、その伊集院が手術を通してやれば出来ることを“医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)から学ぶというお話で、すでに職場復帰した模様の一流看護士・里原ミキ(水川あさみ)に引き続いて、伊集院もバチスタ手術のメンバーにめでたく加えられる。読切りの物語に絡めて、チームドラゴンの人員が一人ずつ決まっていくやり方は『七人の侍』方式だ。
 手術シーンが生々しいので、血を見るのが嫌いな方にはお薦めできないが、ヒロイックかつ劇画調の見せ方もこれはこれでありなのかもしれない。これほどまでに悪人面の医者が揃うのも壮観といえば壮観なので、ドラマのケレン味を許容さえ出来れば、それなりに楽しめるドラマになっていく気がしてきた。(麻生結一)

第1回(2006年4月13日放送)

☆★
 かっこよく決めた感じがむしろ直視できないような描写になっていたりと、劇画ノリを実写に置き換えることの難しさをある種雄弁に語っていた第1回だった。ただ、リアリティ路線を標榜しているわけでもないだろうから、その前提で見ていく必要があるだろう。
 プロローグからいきなりに回りくどい言い回しで埋め尽くされていて、さっぱり何が何だかわからないも、“医龍”こと朝田龍太郎(坂口憲二)が天才的な外科医であることは否が応にもわかってくる。コミック的には手術の様がジャズバンドのセッションのようという例えも了解できるのかもしれないが、実際にジャズ奏者の映像とかぶせられたら、その医者がまったく信頼できなくなるのは間違いないわけで……。実写的にはあまりにも奇妙な描写がその後も数珠つなぎとなるが、

加藤晶(稲森いずみ)「あなたはまぎれもなく天才よ」

と念押しされるたびに、朝田龍太郎がやはり天才的であることの確認は出来る。朝田龍太郎が理想的な外科医の手を持ってたこともよくわかったけれど、あれだけスポーツっぽく外科手術をやられたら、ドラマ的な緊迫感とはまるで無縁に。ただ、それこそを狙っているのかもしれないので、そうなってくるともはや何とも言えない。
 それにしても、説明の多いドラマだ。各登場人物の立ち位置から明真大学付属病院にまつわるディテールにいたるまで、出演者総動員で懇切丁寧に説明してくれるのだから、見てる方はラクチンそのもの。プロローグで頭を使っていたことがだんだんバカらしくなってくる。
 女としてはもてあますも、看護士としては一流の里原ミキ(水川あさみ)、あの若さで?その人選ぶりにこの医者こそをもてあましそうで心配になった?!『N'sあおい』もそうだったが、キャストの若年齢化は諸事情により致し方ないとしても、若者をスペシャリスト、はたまた賢者にしてしまう設定には、ちょっと待ってと言いたくなる。エピソードまで類似しているのは、さしあたってそれはもはや定番であると考えてみることにする。
 白衣持参で玄関まで朝田龍太郎をお出迎えする加藤晶助教授役の稲森いずみはコメディの出演作が多いも、本来はクールな役こそが似合うと思うので、その点はいいのでは。コメディ調が随所に挟み込まれるも、そこではクスリとも出来なかったが、シリアス調ではそれなりに笑えたので、差し引きゼロということになるか。(麻生結一)

医龍 Team Medical Dragon

フジテレビ系木曜22:00〜22:54
制作著作:フジテレビ
プロデュース:長部聡介、東康之
原作:乃木坂太郎『医龍-Team Medical Dragon-』原案:永井明/取材協力:吉沼美恵
脚本:林宏司
演出:久保田哲史(1、2、5、6、8、10、11)、水田成英(3、4、7、9)
音楽:河野伸、澤野弘之
主題歌:『Believe』AI
出演:朝田龍太郎…坂口憲二、加藤晶…稲森いずみ、伊集院登…小池徹平、霧島軍司…北村一輝、荒瀬門次…阿部サダヲ、里原ミキ…水川あさみ、木原毅彦…池田鉄洋、千葉雅子、中村慧子、YUKO・AIKO(FLIP-FLAP)、夏秋佳代子、加藤治子、井川比佐志、一戸奈美、小林すすむ、向井地美音、東根作寿英、森下能幸、斉藤暁、袴田吉彦、松澤仁晶、石堂夏央、伊藤純平、堤匡孝、江波杏子、金井勇太、小倉一郎、小林すすむ、菊池均也、児玉頼信、斉藤暁、奥菜恵、清水紘治、モロ師岡、中村綾、平賀雅臣、東海林愛美、田中嘉治郎、岡本竜汰、海島雪、吉野真希、石川泰子、山田誠吾、高山猛久、法福法彦、坂口進也、野村信次、津川雅彦、藤吉圭介…佐々木蔵之介、鬼頭笙子…夏木マリ、野口賢雄…岸部一徳