富豪刑事デラックス

第7回「富豪刑事の三ツ星レストラン」(2006年6月2日放送)

☆☆
 出来の悪かった第6話もレストラン絡みの話で、今度はプラス『料理の達人』のパロディって、もはやねた切れ気味も、トリックがしっかりしていた分(またもやズラねただったが)、この第7回の方がはるかに見ごたえはあった。
 そんなズラトリックや、通りすがりの食いしん坊としてしつこいほどにセルフパロディを仕掛けてくる鎌倉、というよりも山下真司、さらにはピンクのコックコートがかわいくて、またまた全国的(今回は世界的?)に有名になってしまった現実を思わずスルーしてしまいそうになった神戸美和子(深田恭子)などなど、お楽しみはいろいろとあったが、そんな中でももっとも笑えたのは、フランス帰りの三ツ星シェフ・久留米(田中要次)のなぜだか標的になってしまった狐塚虎彦(相島一之)のコック修行ぶり。たまねぎのみじん切りではパリでも通用するレヴェルにまで見事到達して、このシリーズはじまって以来、初めてスポットライトを浴びた回を締めくくってくれた。(麻生結一)

第6回「ウェディングプランナーの富豪刑事」(2006年5月26日放送)

☆★
 神戸美和子(深田恭子)の資料室整理生活を冒頭に見せるあたり、富豪刑事版『おみやさん』を予測させるが、別にそれ以上の意図もなかったという、いかにもこのドラマらしい肩すかしがらしいといえばらしい。日本最高級のレストランチェーンの新オーナーに就任した黒崎(西村和彦)のその名前は他局のドラマを気にしているのかと最初思ったが、全然それに連なる引き出しもなかった。
 美和子がウェディングプランナーをやってみたかったという理由だけから、ウェディングプランニング会社を立ち上げて、黒崎のレストランを買収してしまう一連の段取りが今回のデラックスだが、北田(入江雅人)による遺言書作成の秘密も誰が見てもあまりにもわかってしまうようなトリックだし、黒崎がアリバイ作りのため純子(野波麻帆)と裕美(中山恵)の二人を監禁するのも、それだったら別の容疑が発生してしまうでしょうにと、逆に心配になってきて、何もかもがグズグズに思えてくる。
 それでも美和子の決め説教の一説、

「人は額に汗してこそ」

という、あまりにも美和子に似つかわしくないフレーズには思わず笑ってしまって、見終わったあとにはパブロフの犬的な充実感が残るあたり、それはそれで困ったものである。(麻生結一)

第5回「富豪刑事と魔性の貴婦人」(2006年5月19日放送)

☆☆
 有名IT企業社長・北条(若杉宏二)が遺体で発見される(会社名がサイバードットって、またあからさまな)殺人事件の虚実ない交ぜはフリだけで、のちのちは『ブラック・ウィドー』のダイジェスト版のような展開になる。
 その北条の妻である知能犯・貴子を演じるのが喜多嶋舞とくれば、否が応にも『相棒』シリーズの傑作「クイズ王」を思い出さずにはいられない。貴子の愛人である南田役を演じる岡田浩暉もまた、『相棒』シリーズの傑作「女優」で似たような役を演じていたために、ちょっとしたセルフパロディのようにも思えてくるが、テレ朝のドラマ自体がエターナルなセルフパロディだとまで言ってしまうと、その指摘すべては意味をなさなくなってしまうか。
 美和子(深田恭子)のみならず、鎌倉(山下真司)までもがおとり捜査に絡んでくるあたりがこの第5回のお楽しみ。大トリとして喜久右衛門(夏八木勲)にお出ましいただくと、ドラマのスケール感もいつもにもまして盛大で楽しげになっていい。(麻生結一)

第4回「占星術の富豪刑事」(2006年5月12日放送)

☆☆★
 『トップキャスター』第3話との占い師ネタ対決となったわけだが、空っぽに進めておいて、最後の最後でゾクッとさせたこちらに軍配をあげたい。『トップキャスター』の終始空っぽっていう作りも、考えようによってはすごいことだれど(普通何か入れようとするものだが、あそこまで何も込めないことを貫くのもなかなかできるものではない?!)。
 10分の1の確率のことを100人でやると、その確率は限りなく高まるとの真っ当な推察と、宝くじ程度の庶民的でささやかな1億円程度のこととの、非真っ当な見解の同居から入っていくあたりがいかにも神戸美和子(深田恭子)風。占い師・タロット重田(秋本奈緒美)がいかにして、近頃『中学生日記』の先生に就任したばかりのモロ師岡扮する大手スーパーの専務・小池(モロ師岡)を予言通りに事故死させたのかを暴く話になると、まるっと『トリック』になるはずだが、そのあたりの細かい話はあっさりとスルーし、その評判を失墜させるべく(実際には重田の占いの実行者に自首させるための作戦だったはずも、だんだん重田をおとしめているだけのように見えてくる)、美和子が偽占い師として喜久右衛門(夏八木勲)の財産を桁違いに使い尽くす方に時間をかけるのはこのドラマ的には当然のことである。パターンが次々と決まっていく大いなるマンネリズムはちょっとした癖になる気持ちよさだ。『トップキャスター』版の唯一の正しさは占い師のキャスティングだったが、秋本奈緒美もその呪術性では負けていない。
 冷静に考えると、スーパーヨコヅナ社長の片山(神山繁)や重田信者の一人・西田(筒井真理子)にはすでに美和子の面は割れているはずなのだが、ディテゥティブ物にしてそんなことはもはや大したことではないと思わせてしまうあたりもすごいと言えばすごい。競馬で大穴をあてる占いは、大掛かりな八百長かと思わせておいて、実は39回のレースに1億円ずつ賭けつづけていた正統派だったとは、その派手地味さに恐れ入った。その場で書きつけた数字と同じ番号の1万円をすぐさま披露する技も、用意されていた札束の引き画が壮観だったりする。
 結局事件はバスバスのダジャレ解決をみるも、占い師永久安泰の法則で視聴者ともどもチクッと刺されることに。最後の最後で重たい宿題を背負わされた格好だ。そんなシリアスな問題提起を聞いていたはずなのに、いつものように勝手に帰ってしまう神がかりな神戸美和子の占いだったら、やっぱりあたるのかもしれない。お話の組み立て自体にはプラス査定の材料はないのだが、全体的な趣味のよさはやはり光っている。(麻生結一)

第3回「偽装結婚の富豪刑事」(2006年5月5日放送)

☆☆★
石原(長井秀和)「リムジンで尾行する警察なんかいるかよ」

 はい、もちろんいます、それは我らが神戸美和子(深田恭子)。今回は神戸家が振り込め詐欺の被害に遭うというエピソードかと思いきやそれはあくまで導入で、そこから振り込め詐欺の犯人に振り込め詐欺を仕掛けるという展開へって、富豪刑事がクロサギになっちゃった!(異性を騙してるからアカサギか?)その手際は「クロサギ」ほどではないにしても、本物の富豪・美和子が富豪のフリ(というかそのまんま)をして、しかも「本当は金持ちじゃないんでは」と疑われてしまうあたりのバカバカしさは抜群。騙される石原を演じる長井秀和は、第1シーズンでも1カット出演して「間違いない」とか言ってた気もしますが、今回は立派な犯人役、おめでとうございます。この石原がそもそも振り込め詐欺をしかけたはずの神戸家のお嬢様を知らないのは辻褄が合わないのではないかと思ったが、それは伏線だったのか、最後には意外な人物(でもないけど)が黒幕として浮上。複数人の声を使い分ける達人も、声真似は苦手だったらしく、危機に瀕した美和子を救うのがスリッパってあたりもほどよい脱力感で。(安川正吾)

第2回「豪華客船の富豪刑事・解決篇」(2006年4月28日放送)

☆☆
 テレビドラマの視聴率が伸び悩むご時世に、新枠を作ってしまう英断、もしくは暴挙こそが最高のデラックス?! 第1シリーズは物語のクオリティに関係なくニコニコと出来るところが魅力だったので、出来ばえにさほど左右されない『富豪刑事』のシリーズ化はこの新枠をはずさないためにはふさわしい選択肢と言えるかもしれない?! ドラマの出来ばえも含めてニコニコとされたい方には、BS2で再放送中の『ニコニコ日記』をお薦めします。本当に素晴らしいドラマです。
 話を戻して第1話に引き続いての「豪華客船の富豪刑事 解決篇」。神戸邸内にはクレー射撃場はおろか、ヘリをちょっと飛ばせばワイナリーだってあるみたい。そんな喜久右衛門(夏八木勲)の破格の金の使いっぷりを、成金と断罪する西村を江守徹が演じていたところがまたデラックス。犯人であることを観念して毒をあおる場面などは、まるでシェークスピア劇のカタストロフィ!
 花里流の話はどうにもうまくくっついていなかったけれど、制作にABCも加わったので(第1シリーズはテレビ朝日と東宝だけだった)、関西を舞台にするパートも入れざるを得なかったとみるのは考えすぎだろうか。
 神戸美和子(深田恭子)のゆったり調がドラマ全体を支配しているので、当然のごとくテンポもあがらないのだが、このドラマの場合にはそのあがらないテンポこそが身上なので。その対極にあるのが『医龍』あたりだろうが、逆に共通するのは無駄にデラックスなところだったりする(パート2に『医龍デラックス』とはつけないだろうけれど)。
 実は西村が金に困っていることを見破った理由が、毎日同じベルトをしていたから、さらにはもしかしたらベルトを一本しか持っていないのかもしれないとまでいたるあたりが、いかにも美和子っぽくて楽しい。コンサートに行ったことがないのは、コンサートが来てくれていたからという理由もいかにもらしい感じ。
 西村がシルバーキャットを売却するために、1ヶ月にわたる航海で到着したのはスペイン!そこは治外法権ゆえに鎌倉(山下真司)たちも西村を逮捕出来ないとの畳み掛けは、時間をかけた分だけいっそうバカバカしくなっていていい。それにしても、蒔田さんはズラネタ好きだなぁ(『トリック』シリーズしかり)。長寿シリーズを制作する優秀な方って、こういうベタネタでガス抜きされるんでしょうか(『男はつらいよ』シリーズしかり)。『富豪刑事』は全編ガス抜き的でもあるのだが。(麻生結一)

第1回「豪華客船の富豪刑事」(2006年4月21日放送)

☆☆
 富豪ならではのアイデアと財力で事件を解決する富豪刑事・神戸美和子(深田恭子)の活躍を描くドラマのセカンドシリーズは、サファリパークのような“神戸家の中庭”で催される“ちょっとした朝食”風景からしてやり過ぎなほどに豪華で、タイトルに「デラックス」がついたのはなるほど伊達じゃない。美和子の通勤も、前回のヘリコプターから自家用ジェットへグレードアップ。ついでに焼畑署までデラックスになってる!?とまあ、そういった「デラックス」尽くしは確かに楽しいし、前作と同じキャストが勢揃いしたことだけでも嬉しいことなのだが、宝石「シルバーキャット」強盗未遂の犯人を捕らえるための船上オークションと、京都にいる華道の家元一家の話が交錯する作りになっていたメインエピソードは、ちょっと話が大きくなりすぎて今ひとつ乗り切れない気分も。どうやらこの2つの事件はリンクしているらしいのだが、それにしても現状で京都側の話があまりに主人公たる美和子から離れすぎているのが乗り切れない原因だろうか。「相棒」あたりならば大いに楽しめるこういう大風呂敷も、このドラマにはそぐわないように思うのだが、どうだろう。今となっては誰もこのドラマに“本格ミステリー”なんて期待していないのだから(褒めてるんですよ、念のため)、もう少しカジュアルな話に収めてもよかったのでは。そのあたりは個人的な期待ということで度外視するとしても、キャラクターが揃ってる割に誰も活躍していない上に解決のカタルシスも得られないという印象の初回になってしまったのはもったいなかった。(安川正吾)

富豪刑事デラックス

テレビ朝日系木曜21:00〜21:54
制作:ABC、tv asahi、東宝株式会社
企画:五十嵐文郎
企画協力:ホリプロ
制作協力:5年D組
プロデューサー:桑田潔、深沢義啓、蒔田光治、太田雅晴
原作:筒井康隆『富豪刑事』
脚本:蒔田光治(1、2、3、4、5、6、8、10)、福田卓郎(7、9、10)
演出:長江俊和(1、2、5、7、10)、常廣丈太(3、6、8、9)、池添博(4)
音楽:辻陽
主題歌:『トライアングルライフ』オオゼキタク
出演:神戸美和子…深田恭子、鎌倉熊成…山下真司、布引幸四郎…寺島進、樋口純子…野波麻帆、猿渡哲也…鈴木一真、鶴岡慶一…升毅、狐塚虎彦…相島一之、西島誠一…載寧龍二、菊池裕美…中山恵、伊東隆行…虎牙光揮、島崎…浜田晃、早川…須永慶、中山…平野稔、雨宮…浅沼晋平、神山郁三…西岡徳馬、西村礼次郎…江守徹、花里善太夫…清水紘治、花里あやめ…雛形あきこ、花里菊乃…松永京子、花里椿…平岩紙、原田黒蔵…伊武雅刀、川村…酒井敏也、錦織拓馬…工藤俊作、セレブ婦人…デヴィ・スカルノ、上層部…石井英明、弟子…中村靖日、岸谷…石井愃一、警備員…五森大輔・白木隆史、執事…北原汎、ニュースキャスター…Jerry、シェフ…ダンディGO、キャスターの声…山野井仁、宣伝カーの男…大木凡人、密売組織の男…柴崎蛾王・Daniel A.、密売組織首領…Ailton、小杉敦…金子貴俊、石原達三…長井秀和、大垣…船木誠勝、鑑識…でんでん、田中正一…イジリー岡田、レポーター…みといせい子、医師の妻…兎本有紀、結婚式場担当者…塩山みさこ、タロット重田…秋本奈緒美、片山隆三…神山繁、小池武雄…モロ師岡、西田文恵…筒井真理子、菊池祐二…坂本真、北山美紀…佐藤寛子、北条貴子…喜多嶋舞、南田利彦…岡田浩暉、北条秀正…若杉宏二、高橋邦夫…松沢仁晶、小出紀子…栗田よう子、磯山晶子…濱田万葉、太田雅美…井上碧、司会者…宮内恒雄、黒崎明彦…西村和彦、佐々木俊一…川崎麻世、北田弁護士…入江雅人、臼井久夫…おかやまはじめ、宮原智子…越智静香、今岡千賀子…久保田磨希、内山好子…佐藤康恵、本間…野添義弘、工藤…上原風馬、大河内洋輔…手塚とおる、佐々岡利一朗…峰岸徹、久留米義隆…田中要次、司会者…石井正則、塚原浩二…正名僕蔵、栗原…松永博史、中村真由美…堀内敬子、小倉陽一…北山雅康、土屋代議士…唐沢民賢、審査員…田崎真也、高瀬佳子…澤田有里、レポーター…荻野志保子、実況アナウンサー…ボンバー森尾、大崎春堂…石丸謙二郎、小坂大平…高橋長英、稲尾幸三…山田明郷、長岡悟…佐渡稔、垣内信一…顔田顔彦、今出川京一…山崎満、評論家…梨元勝、アナウンサー…赤江珠緒・吉野真治、佐藤公夫…羽場裕一、野村紀男…日村勇紀、司会者…千原靖史、有栖川奇一郎…マギー、有栖川奇二郎…田口浩正、アマテラス三上…団時朗、黒河内篤…梅津栄、池田…村杉蝉之介、鈴木松江…市毛良枝、神戸喜久右衛門…夏八木勲