繋がれた明日

最終回「償い」(2006年3月25日放送)

☆☆★
 誤解のままに逃走した隆太(青木崇高)のその後から。繁樹(尾上寛之)と一緒にライトな変装をした直後、駅で大室(杉浦直樹)と有希子(佐藤仁美)に見つかってしまう偶然はあまりにも奇妙だが、全力疾走の隆太(青木崇高)に軽々と追いついてしまう俊足の有希子が自らの過去を語り、自殺は人を殺すことに等しいと隆太の自棄を諭す場面があまりにも素晴らしかったので、直前のおかしな部分も即吹き飛んでしまう。

有希子「みんないろいろあるんだよ」

の一言があまりにも重い。なるほど、大室が娘を失った際の担任で、その後自殺に追い込まれた教師の娘が有希子だったのか。互いの贖罪を考えれば、この二人だけでももう一つの『繋がれた明日』を語るのも容易だろう。
 隆太は警察に出頭する前にどうしても会わねばと、裁判で偽証して隆太の罪を重くした星野(本田大輔)のアパートを訪ねる。そこで星野と一緒に生活していたのは、隆太が殺した三上(弓削智久)の元恋人にして、隆太のことを執念深く恨んでいる晴枝(馬渕英俚可)だった。ここでの隆太、繁樹、晴枝、そして星野の攻防は全4話中最大の見せ場になる。隆太には包丁を手にした星野が、6年前の自分に見えたのだろう。そして、星野に刺されることで、隆太は自らを自らで裁いたということか。
 星野に刺されるも、それもまた己の罪と反省する隆太は聖人君子に過ぎると思ったが、再出所後のエピローグへの連なりまで見通すと、一つの願望としての結末に込められた真摯さは伝わってくる。現実はそうもいかないということは、加害者の顔は隠されて、被害者はさらしものという三上の母・鶴子(藤真利子)の叫びによって、ドラマを見終わった後にもいつまでもひっかかってくるのだが……。(麻生結一)

第3回「罠」(2006年3月18日放送)

☆☆★
 連夜に人殺しと同じ女から叫ばれ、警察沙汰になった隆太(青木崇高)は、6年前に殺した三上(弓削智久)の家に謝罪に行くも、家族とは会ってもらえない。するとその次の日もまた、女が隆太を待ち伏せている。その女こそ三上のかつての恋人・晴枝(馬渕英俚可)だった。憎しみの眼差しに涙を流しながら「人殺し」と怒鳴り声をあげ続ける晴枝役の馬渕英俚可の鬼気迫る体当たり演技ぶりに、隆太ならずともだんだん恐ろしくなってくる。そんな晴枝に理想と奇麗事を並べただけと己を責める保護司・大室(杉浦直樹)の、人生をやり直すチャンスはあると言う言葉が力強く隆太を支えたかに思えたが……。
 三上の母・鶴子(藤真利子)から呼び出された隆太は、不自然に果物ナイフを持たされるままに、暴行犯に仕立て上げられてそのまま逃亡。大室の説得もむなしく、隆太はそのまま姿を消す。ここで語られる大室の過去がまた痛々しい。痛みを知る人間としての陰影が、大室の保護司としてのあり様に説得力をもたらしているのであろう。
 冒頭のナレーションに違和感あり。いろいろと説明し尽くしてくれるのだが(この後の展開まで含めて)、これは断じてない方がいい。(麻生結一)

第2回「待ちぶせ」(2006年3月11日放送)

☆☆★
 非のない隆太(青木崇高)が人を殺してしまった過去によって疑われ、繰り返し警察に連行されるたびに、なすすべのないやるせなさがこみ上げてくる。中傷ビラは妹・朋美(吉野紗香)の会社にもばら撒かれ、それが原因で朋美は恋人から捨てられる。そのことで朋美が取り乱しているところをアパートの住人に勘違いされて、隆太は警察に連行されてしまう。朋美の元恋人・高瀬(草野康太)に話を聞こうと会社に赴くも、今度は朋美の上司に警察に通報されてしまう。直接高瀬にあって土下座して懇願する隆太だったが、責任を押し付けないでくれと言い放たれる。そして3度目の……。
 この3回の警察沙汰は今話の後半部だけで起こるために、いっそう立て続けに感じられるし、つらさは倍増することに。救いは工務店の人たちがことごとくいい人であることぐらいか。
 更生とは読んで字のごとく甦ることであると説く保護司・大室(杉浦直樹)の随所の含蓄が光る。灰皿だって2度倒れれば腰の重い警官だって動き出す、とはリアリティのある言葉だ。
 あれだけ近所迷惑を心配してるわりに、隆太がたびたび怒鳴っていたりする奇妙さや、どことなしかテイストが古めかしく感じられるところもあるが、面白おかしいだけがドラマの題材ではないことを見せてくれるあたりは貴重だ。(麻生結一)

第1回「仮釈放」(2006年3月4日放送)

☆☆★
 土曜ドラマ大復活の第一弾『氷壁』は予想を遙かに超える不出来ぶりで大いにがっかりさせられたが、軽量で緩々だった前作の反動か、今度はひたすらに重く暗い。中間はないものかとも思うけれど、通常テレビドラマで取り上げることの難しい題材に真っ向勝負しているあたりは、極めて土曜ドラマ的であると言える。
 少年刑務所に服役中の中道隆太(青木崇高)は19歳のときに、恋人のゆかり(桜川博子)に付きまとう三上吾郎(弓削智久)と言い争う最中、持っていたナイフで刺し殺してしまう。アバンタイトルであるこの6年前の回想シーンはあまりにも真っ当で、ひねりも何もない。いくら土曜ドラマ復活第二弾であったとしても、風俗的なところまで古めかしくしなくてもと思ってしまうほどに、この地点が何年であるかわからないところもある。
 ただ、その後からの直線的で真摯なドラマの語り口を見ているうちに、不器用なまでに実直なこのドラマのあり様が段々と見えてくる。主演の青木崇高をよく知らないので役柄には色がつかないし、服役後の隆太の焦燥にはリアリティを感じる。ドラマに包容力を与えているのは、隆太の保護司である大室役の杉浦直樹。視点は違うけれど、犯罪者の社会復帰、ぬぐえぬ罪過という題材をリアリズムで押し通して描こうとしているあたりに、ダルデンヌ兄弟の『息子のまなざし』を思い出した。あれほどの秀作になることを期待したい。(麻生結一)

繋がれた明日

土曜ドラマ
NHK総合土曜22:00〜22:58
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:岩谷可奈子、内藤愼介
原作:真保裕一『繋がれた明日』
脚本:森岡利行
演出:榎戸崇泰(1、2、4)、一色隆司(3)
音楽:丸山和範
出演:中道隆太…青木崇高、中道朋美…吉野紗香、高取繁樹…尾上寛之、服部宏介…桐谷健太、横田有希子…佐藤仁美、三上吾郎…弓削智久、星野安久…本田大輔、小笹勇…山崎裕太、岩松浩志…中村俊太、足立…松田賢二、三上琢郎…大地泰仁、保護監察官・古橋不二満…長谷川朝晴、津吹ゆかり…桜川博子、細谷…伊東孝明、安西秀行…浜谷康幸、久保田栄治…脇知弘、刑務所長…山崎大輔、斉藤卓也…坂田直貴、伊藤隆也…市川しんぺー、飯島まさみ…井上美琴、田上真喜子…元木千早、柚木佑美、森田亜紀、安間里恵、島川直、宇野堅太郎、細川慶太、藪内晴枝…馬渕英俚可、高瀬勝正…草野康太、栗山忠利…でんでん、日野義孝…梅垣義明、保護監察官・岡本努…山崎一、中道文江…銀粉蝶、黛作次郎…渡辺哲、三上鶴子…藤真利子、大室敬三…杉浦直樹