喰いタン

第9回「ごちそうさま!!最後に残した四つの誓い」(2006年3月11日放送)

☆☆
 海の中で爆発に巻き込まれて行方不明になった高野(東山紀之)は、記憶喪失となり、いただきますも言わないダンサー、イベリア・イベリコとして登場。というか、華麗にステップを踏むシーンなんかはむしろ少年隊のヒガシ本人って感じですけど。高野が記憶を取り戻してなお、食べ物に興味のないフリをしてキャバレーで情報収集をするあたりや、麻薬の取り引きを阻止するべく豪華客船に潜り込んだ後のユルユルなアクションなどは、いつもの喰いタンという感じで、なかなかに楽しめた。しかし冒頭の高野が死んだと思いこみ喪失感に沈むホームズエージェンシーの面々なんてシーンが長々と続けられるのは、やはりちょっとこのドラマには似つかわしくないと感じられたところ。ドラマ中のたとえを使うなら、それはあたかもしょっぱすぎるおにぎりのよう。ラストで喰いタンがホームズエージェンシーを離れるにしても、あれでは寂しすぎると思うのだが。シリーズ全体を通して、面白い部分は多々ありつつも、後半になるに従って作りがいささかラフになり、最終的には平均的な出来映えになってしまった印象だった。(安川正吾)

第8回「お好み焼きを食い荒らす!」(2006年3月4日放送)

☆☆
 高野(東山紀之)が麻薬組織と関わりが!?という疑惑も、高野、涼介(森田剛)、京子(市川実日子)の3人で時限爆弾付きの倉庫に閉じこめられて残り10分という状況も、全く深刻にならないどころかむしろずるずるの馴れ合い風に終始してしまうあたりは、ドラマとしてはギリギリではあるけれど、それでもある種の味にはなっているか。小麦粉を使って脱出を企てるというのも、現実味はともかくとしていかにも「喰いタン」らしいとは思えるし。しかし、箸の片方に念を入れると、天井に刺さっていたもう片方が落ちるなんてシーンは、いくらなんでも世界観が違いすぎてちょっと興ざめ。せめてもう少しさりげない見せ方でも良かったと思うのだけど。さらにその後、高野がおっとっとと海に落ちるまではギャグかと思いきや、直後に爆発に巻き込まれ行方不明になり、涼介も京子も桃ちゃん(京野ことみ)も涙するなんてえらくシリアスな締めで週またぎとなってしまい、いささか戸惑ってしまった。ユルかったり深刻だったり、振り幅が大きいという意味では「時効警察」にも通じるのだが、こちらはどうもそれが、トータルとしての面白味にまでは高まっていない感じ。後編にして最終話の次回に期待、と言いたいところだけど、今回の話は、どう考えても1話完結にしておいた方が美しかったのでは。このドラマ自体、終盤だからと言って妙に気負った話にする必要はなかったと思うのだが……(気負った話にしたせいで、喰いタンなのにほとんど食ってないし)。さて、15分延長の次回をどう面白く見せてくれるのだろうか。というか、喰いタンはちゃんと食うことで事件を解決してくれるのだろうか!?
 それにしても、最後で「高野聖也、(中略)3月4日PM9:50現在いまだ発見されず…」とテロップが用意されていたのだが、野球で延びたせいで実際に出たのは午後10時20分となってしまい、せっかくのネタもプチぶち壊し状態なのが悲しい。野球至上編成の切なさだなあ。(安川正吾)

第7回「学校給食を喰いまくる!」(2006年2月25日放送)

☆☆
 学校給食という目の付け所はいいと思うのだけれど、肝心の事件の方が学校とも給食ともほとんど関係がない故か、「喰いタン」ならではの面白味が薄かった印象。好き嫌いで給食を残すことを巡る議論は確かに興味深くはあるけれど、これが探偵ドラマである以上、物語の本筋とあまりに乖離したところでそんな話をされてもという感じで少々居心地が悪い。「学校の怪談」じみたシークエンスを経て、「もったいないオバケ」の正体が実は先生だったというあたりも、意外性はハナから期待していないにしろ、もう少しドラマ的に楽しませて欲しかった気がする。第4話同様、桃ちゃん(京野ことみ)あたりのツッコミキャラが絡んでこなかったが故に、ボケキャラである高野(東山紀之)の個性が今ひとつ際立たなかったのもマイナス要因だったか。(安川正吾)

第6回「思い出コロッケを食い尽くす!」(2006年2月18日放送)

☆☆★
 「時効警察」が時効前の事件を捜査すれば、「喰いタン」は時効後の事件を調べる?ともあれ、商店街のコロッケなんてノスタルジックなネタと20年前のパン屋殺人事件が絡み合った末に、いつものメンバーが総動員される事態になるあたり、娯楽作品としての過不足のなさは相変わらず。桃ちゃん(京野ことみ)が「いがらしー」と書いた紙をわざわざ五十嵐(佐野史郎)の耳元で掲げるなんていう、盗聴器がらみのドタバタなども楽しいのだが、今回の黒幕・須藤(梨本謙次郎)をおびき出すシークエンスはもう少しキレのいい見せ方をして欲しかった気もする。とはいえ、パン屋が殺されコロッケ屋が姿を消したという事件の顛末が美しい着地を見せるラストはやはり見事。ミステリーとしてはツッコミどころもないわけではないが、美味しい食べ物とそれを愛する人々を肯定する視線が清々しく、どうしたって憎めない作品というポジションが確立された感じ。(安川正吾)

第5回「バレンタインチョコを食いまくる!」(2006年2月11日放送)

☆☆★
 パティシエ連続殺人に関しては、現場で発見されたケーキが実は……という部分はなかなか面白いものの、喰いタンたるもの原料がプロ仕様でないことにすぐに気づかなくてどうするという感じだし、犯人がどうしてわざわざそんな予告殺人めいたことをしたのかは全く謎のままということで、まあこんなもんかという出来。しかしそれに、五十嵐(佐野史郎)とその娘のありがちながらもハートウォーミングな物語を絡め、五十嵐と桃ちゃん(京野ことみ)の新婚生活風景なんて悪ノリを経て、クライマックスでは桃ちゃんが意外に粘っこいアクションシーンを披露し、挙げ句に照明きらめく中で高野(東山紀之)はマトリックスもどきと来れば、やっぱりそのサービス精神には敬服せずにはいられない。最初はてっきり高野と絡みまくると思っていた涼介(森田剛)の相方がもっぱらハジメ少年(須賀健太)になっちゃってて、絶妙の掛け合いを見せてくれるあたりも可笑しい。やっぱり事件よりも、それ以外の部分に軸足がある方が圧倒的に楽しいドラマに仕上がるようで。(安川正吾)

第4回「毒入り鍋を食い倒す!?」(2006年2月4日放送)

☆☆
 第3回はうっかり見逃してしまいました。ゴメンナサイ。
 で第4回。孫を捜して欲しいだけだったはずの老婆・房枝(草村礼子)が“毒入り鍋”で人殺ししようとするのをいかに阻止するかというのが今回のクライマックスだったわけだが、つまり、ホームズエージェンシーを訪ねた当初はそのつもりではなかったのが途中からそうなったということですよね。そのあたりの変化がいつ起きたのかが(後から考えれば分かるのだけど)少なくともドラマの流れの中でわかりづらかったが故に、どうも話に勢いが出ない。そもそも、房枝が殺人を企てるきっかけになるのは京子(市川実日子)の勘違いだったわけだが、その勘違いの要因だった「房枝と殺人の対象である松本(浜田晃)が、同じ町の出身で同じ年」って事実が単なる偶然ってあたりにもひっかかる。行方不明のはずの孫の所在が五十嵐(佐野史郎)から知らされるってのもなんだか興ざめ。という具合に本筋にメリハリがないものだから、高野(東山紀之)らが美人谷で鍋を食うあたりの寄り道も、印象が拡散するばかりであまり楽しくないんだな。あと今回は桃ちゃん(京野ことみ)が出なかったのも勢いがなかった一因か?「食べることは命をいただくこと」なんていう台詞がさらりと出てくる“正しさ”は一貫して評価できるところだし、キャラクター物としての楽しさは確立されているから、これ以上下がることはないと思うけれど。(安川正吾)

第2回「中華街を食い尽くす!」(2006年1月21日放送)

☆☆★
 被害者が最後に食べたと思われた麻婆豆腐が実は……というミステリー風味をベースに、涼介(森田剛)と金田一ことカネダ・ハジメ少年(須賀健太)の友情話で味付けし、さらに最後にはマイ箸で包丁相手に闘う高野(東山紀之)なんてアクションシーンまでも盛り込んで、おまけにしっかりと京子(市川実日子)にも見せ場があるという、まことに危なげのない安定した出来映え。桃ちゃんこと緒方警部(京野ことみ)と五十嵐刑事(佐野史郎)のやりとりも楽しい。前回書いたことと矛盾するが、なんかこのドラマに関しては、別にすごく凝った話を見せてくれなくてもこのまんまのペースでいいような気がしてきた。(安川正吾)

第1回「食いしん坊探偵!事件現場の証拠を食う!?」(2006年1月14日放送)

☆☆★
 いきなりJALの機体から始まるあたり、前夜に終わった同じ伴一彦脚本の「スチュワーデス刑事」からこの作品へのバトンタッチってこと?(局は違うけど)……なんてことも思わせつつ、なかなかに好調な滑り出し。とにかく何でも食べまくり、それによって事件を解決するユニークな主人公と、グルメもののウンチクがうまく合わさった形で、まずは楽しめた。しかし現場にあった寿司が出前用のそれでなかったことは、怪しむきっかけにはなっても犯行の証明にはならないと思うのだけど。結局真犯人の自白で収めてしまうあたりは、「時効警察」とまったく同じ構造だったりして(そういえば寿司屋の親方こと光石研は「時効警察」にも出てる)。これが日本のディテクティブもののよく言えばスタンダード、悪く言えば限界ってことなんだろうか。そういった部分でいい意味で裏切ってくれるかどうかが評価の分かれ目かもしれないが、ともあれ、安定した出来のドラマにはなりそう。(安川正吾)

喰いタン

日本テレビ系土曜21:00〜21:54
製作著作:日本テレビ
制作協力:AVEC
プロデューサー:次屋尚、山本由緒
原作:寺沢大介『喰いタン』
脚本:伴一彦
演出:中島悟(1、2、5、8、9)、渡部智明(3、6)、位部将人(4、7)
音楽:小西康陽
主題歌:『結晶』B'z
出演:高橋聖也…東山紀之、野田涼介…森田剛、緒方桃…京野ことみ、出水京子…市川実日子、金田一…須賀健太、少路勇介、新海悟、光石研、石田太郎、長澤秀平、須藤温子、六角精児、六角慎司、FLIP-FLAP、田島絵里香、亀山助清、上村依子、銀粉蝶、平泉成、大島蓉子、田中聡元、浜田晃、草村礼子、小池里奈、法月康平、金田龍之介、梨本謙次郎、北川弘美、インリン・オブ・ジョイトイ、佐々木蔵之介、五十嵐修稔…佐野史郎、山内崇…伊東四朗