時効警察

第9回(2006年3月10日放送)

☆☆★
 趣味の捜査のための交通費がかかりすぎるが故に、今回が霧山修一郎(オダギリジョー)最後の事件。「やわらか地蔵」や「デュマ、デュマ、デュマ」なんて刹那的な小ネタの応酬が楽しいのは、もはや言わずもがな。ROLLYや鳥肌実といった、ゴールデンタイムのドラマではまずお目にかかれないキャスティングも今回は見どころだった。
 しかし、単純極まりない事件を、一般的なミステリードラマのような手法で紆余曲折させる(本命の真犯人以外に、金のトラブルがあった男やら、風俗で働いていた愛人やらを出してみたりするあたりの)やり方は、すでにこのドラマにはそぐわないものとなっていると感じさせられたところ。本気でミスリードしようと思っているようにも見えないし。さらに言えば、そんな回り道をした割には、真犯人が被害者を“殺した”ことではなく“作品を盗んだ”ことだけしか霧山は証明しておらず、しかしそれで真犯人があっさり自白してしまうあたりの都合の良さは、いくらユルさが身上とはいっても守って欲しい一線を越えてしまった気もする。最終回だからと言って気負った感じがないのはまことにこのドラマらしくて結構だが、後味としては少々物足りなさが残ったか。まあ、それだけにセカンドシーズンへの期待も高まってしまうわけなのだが。(安川正吾)

第8回(2006年3月3日放送)

☆☆☆★
 15円のバナナやら40がらみの太郎くんやらカメやらザリガニやら霧山(オダギリジョー)そっくりの変質者やら「多め亭」やら「まいまい」やら「荒熊さん」やらのネタの連打の合間に、15年前の女子高生殺人の謎がテンポ良く描かれ(普通は逆なんだろうけど)、笑いどころ満載。おまけに、“あっち系”のオダギリジョー、下着を盗むオダギリジョー、セーラー服を着るオダギリジョーと、役者ファンへのサービスも大充実(!?)。登場人物の布陣から見れば、同級生だった関ヶ原弥生(櫻井淳子)しか真犯人はあり得ないのだが、誰が犯人かではなく誰が犯人かを発見するに至る過程“のみ”を楽しむという、このドラマならではのスタイルを質的にも量的にも極めたという意味で、今回は素晴らしい出来映えだった。最後の“瓶のタイムカプセル”でいい話にまとまるように見えて「またぞろけむたりぃ」なんてオチちゃうあたりも、このドラマのポテンシャルを存分に活かした形。脚本・演出はケラリーノ・サンドロヴィッチ氏(脚本は連名)、さすがです。(安川正吾)

第7回(2006年2月24日放送)

☆☆★
 あの「3億円事件」(厳密には、有名なあの事件を模して行われた、架空の「平成3億円事件」)と、「主婦の発明」というおよそ繋がらなさそうなネタを組み合わせたあたりがまず巧み。時効後の事件の犯人を見つけるのが身上のはずの霧山(オダギリジョー)が、今回は「犯人でないことを証明する」ために奔走するのも面白いし、それに伴って最後の「誰にも言いませんカード」の意味合いが微妙に異なるものになるあたりも楽しい。自分こそが犯人だと申し出る主婦、秋津聡子を演じた葉月里緒菜も、美しいけれどどっかネジの外れた感じのキャラということでハマリ役だった。
 しかしあえて苦言を呈したいのは、いささか斜に構えすぎてるようにも見えた演出。たとえば熊本(岩松了)たちのドタバタシーンならそれはそれでいいのだけれど、聡子と大宮(モロ師岡)が肉体関係を結ぶなどの、いわば事件の中核をなす部分さえもきちんと描写することを避けたせいで、事件そのものの輪郭がずいぶんボケたものになってしまった印象が否めない。さらに、霧山が聡子と話している後ろで、三日月がタイムマシンに乗っちゃってるなんてシーンは、思いつき自体は面白いとは思うのだが、これから核心に入ろうというところで見る側の気を散らせるだけにしかなっていないと思うのだけど。
 それにしても、「喰いタン」がコロッケやった次の週では「時効警察」がコロッケ食ってますね。なんだろ、この奇妙なシンクロニシティは。(安川正吾)

第6回(2006年2月17日放送)

☆☆☆
 事件が時効になって始まるはずのドラマなのに、時効直前の事件がクローズアップされるという掟破りをやってのけたのは、やはりその変化球っぷりが印象的だった第4話と同じ園子温氏。しかも今回、時効事件を捜査する空しさに霧山(オダギリジョー)が今更のように気付いたという設定で、霧山という存在をドラマ的にほぼ無力化してしまったのもユニークな試みだった。
 三日月(麻生久美子)や熊本(岩松了)や十文字(豊原功補)ら総武警察署の面々が相変わらずぬるくて楽しいやりとりを繰り広げているその目の前に、時効まであと数日という指名手配犯、茗荷谷かよ子(森口瑤子)がスナック「私」のママとして立っているのに誰もなかなか気付かないという前半部のシチュエーションは、このドラマならではの緩くも切実なサスペンスがくっきりと浮かび上がってお見事。都電の色から犯行当時の回想に入るあたりで、演出的にぐっと締めるあたりの緩急も効いている。
 ママに恋してしまった十文字が霧山とほぼ時を同じくして「ママ=茗荷谷かよ子」に気付いてからは、十文字の葛藤がドラマを盛り上げる。かよ子の娘・真弓(吉高由里子)が、十文字たちが警察の人間だと知ってわざと自分の母の店に連れて行ったというのも切なくていいし、今回の霧山の「誰にも言いませんカード」の使い方は、最後に三日月が言ったように確かに「かっこよかった」。何度となく口ずさまれる「もしも明日が」に関しては、てっきり犯行当時あたりにこの曲が流行っていたということなのかと思ったが、実はもう20年以上も前のヒット曲だったのですね(1983年)。まぁそんなことは関係なく、あの歌のシンプルでありながら胸に迫る歌詞とメロディがかなり効果的に使われていたことは事実なのだけれど。ともあれ、物語自体は「掟破り」ではありつつ、このドラマの「掟」にもちゃんと配慮した、見応えあるエピソードだった。(安川正吾)

第5回(2006年2月10日放送)

☆☆★
 キスで人が死ぬと言えば、ちょっと前にアメリカでそういう事件があったよなぁなんて思いながら見ていたら、元ネタはホントにそれだったみたいで。ピーナッツってところまで一緒かよなんて、まぁそのあたりは本来ならば減点対象になりかねない部分ではあるのだけれど、そこに被害者の本郷高志(乃木涼介)と付き人の及川(東幹久)の関係という要素でツイストを加えてあるのは評価できるし、霧山(オダギリジョー)が真実にたどり着く過程も丁寧すぎるぐらい丁寧に描かれていた。その上で、本筋以外の枝葉末節もいつものように面白く作られていて、安定感という意味ではこれまでのエピソードの中で一番だったのでは。ただ、もうちょっと壊れてる部分がある方がこのドラマらしいかないう気持ちもどこかであったりもして、人間というのは本当にわがままなものですね。(安川正吾)

第4回(2006年2月3日放送)

☆☆★
 「アンフェア」のことを「anego刑事」なんて呼んでたら、こちらは「アネゴ探偵」だって。ともあれ今回は、真犯人と目される女優のアヤメ旅子(永作博美)に霧山(オダギリジョー)が夢中になってしまうわ(でも実は演技だった?)、その旅子はドラマの話題作りのためにむしろ真犯人という噂をたてられたがってるわ、4回目にして変化球投げまくりで、そのあたりの遠慮なさっぷりがいい。事件の真相が語られる部分に関しては、その「真相」も含めてもうちょっとメリハリのあるシーンになって欲しい感じもしたが、その他の部分の楽しさが完全にそういったことを超越しはじめている。(安川正吾)

第3回(2006年1月27日放送)

☆☆☆
 今回の脚本・演出は、熊本役として出演もしている岩松了。冒頭の署内でのおふざけの部分は、正直、前2回に比べて少々テンポが悪い感じもしたのだけど、本編の「脚本の妙」的な部分ではさすがにその力を見せつけた印象だった。
 駅の売店に差し込んである新聞のある種の“美しさ”という、誰もが感じたことはあってもほとんど話題にしたことはないであろうことがメインのモチーフになっているあたりからして面白い。さらに、事件を目撃した駅の売り子、道子(緒川たまき)が住んでいたマンションが、彼女の仕事場である駅の売店に“影を作っていた”という事実が、事件を解く鍵になると同時に、象徴的にその当時の彼女の人生を語ってしまうあたりの上手さたるや。この道子が、霧山の独特なキャラに全く動じない“強敵”であるあたりもなかなかに痛快。最後に真犯人が、自分はずっと刑を受け続けていると述懐するあたりも含めて、この企画のポテンシャルを活かした好エピソードだった。(安川正吾)

第2回(2006年1月20日放送)

☆☆★
 「トリック」あたりとはまた雰囲気の異なる、ゆるやかな小ネタの応酬がやはり楽しい。熊本(岩松了)と三日月(麻生久美子)のラブホテル疑惑や、熊本の超能力者疑惑という挿話が事件解決のヒントになってるようなそうでもないような感じも脚本の妙を感じさせてくれたし、今回は☆3つ……とも思ったが、行きがけの駄賃みたいな形で手に入れたマイクロカセット1本が最後のとどめとなってしまうあたりに若干の不満を感じる。あんなカセット聞いたら霧山(オダギリジョー)じゃなくてもあの人が犯人だとわかっちゃうよねえ。まあ、今回の話ではその重大な証拠が“もう1つの偶然”によって霧散していたという事実にこそ面白味を感じるべきなのだとは思うけれど、そこはそれ、ドラマなわけだから、もうちょっと“霧山ならではの謎解き”を見せてくれてもいいような気がする。まあ、今のままでも充分面白いとは思うんだけど、贅沢でしょうかね。(安川正吾)

第1回(2006年1月13日放送)

☆☆★
 決して犯人を“追いつめない”刑事(もどき)というアイデアが、アイデア倒れにならずにちゃんと統一感のある作品に仕上がっていることは大いに評価したい。ただ、ドラマとしての面白味は今のところ、その雰囲気とちりばめられた小ネタに限られているあたりが少し勿体ないところで、これで事件のほうがもう少し先の見えない展開をしてくれたらとも思うのだが、望みすぎだろうか。
 ところで、最後に霧山が犯人に渡す「誰にも言いませんカード」は面白いのだけど、じゃあそれまでさんざん話に参加してた時効管理課の他の人たちは真犯人のことを聞いたんだろうか?気になる。(安川正吾)

時効警察

テレビ朝日系金曜23:15〜24:10
制作:テレビ朝日、MMJ
チーフプロデューサー:黒田徹也
プロデューサー:横地郁英、遠田孝一
脚本:三木聡(1、2、9)、岩松了(3、7)、園子温(4、6)、高山直也(5)、塚本連平(5)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(8)、山田あかね(8)
脚本協力:山田あかね(5)
監督:三木聡(1、2、9)、岩松了(3)、園子温(4、6)、塚本連平(5、7)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(8)
音楽:坂口修
主題歌:『雨』CEYREN
出演:霧山修一朗…オダギリジョー、三日月しずか…麻生久美子、十文字疾風…豊原功補、又来…ふせえり、蜂須賀…緋田康人、サネイエ…江口のりこ、大友みなみ、星野奈津子、永田良輔、諸沢…光石研、熊本…岩松了、ナレーション…由紀さおり、【以下ゲスト:第1回】高田聖子、笹野高史、東ちづる、【第2回】いか八朗、塩山みさこ、山野海、窪園純一、宮澤あかり、成瀬労、片桐はいり、村松利史、田中要次、佐藤蛾次郎、岡本信人、池脇千鶴、【第3回】田中哲司、山崎えり、大西武志、緒川たまき、【第4回】広田レオナ、柳ユーレイ、大口広司、麿赤兒、永作博美、【第5回】乃木涼介、佐藤正宏、東幹久、奥菜恵、【第6回】吉高由里子、大森博史、森口瑤子、【第7回】モロ師岡、松井涼子、田山涼成、葉月里緒奈、【第8回】真木よう子、犬山イヌコ、廣川三憲、清水宏、野間口徹、綾田俊樹、根岸季衣、櫻井淳子、【第9回】ROLLY、つぐみ、村松利史、鳥肌実、三谷昇、笹野高史、りょう