氷壁

第5回「戻れないふたり」(2006年2月18日放送)

☆☆
 裁判の最終版に飛び出す妻・美那子(鶴田真由)の奥寺(玉木宏)のことを愛してる証言により、奥寺と美那子はついに後戻りできないところまで来てしまった様相も、ドラマの出来ばえの方も何となく締まらないままにもはや後戻りできないところにまで来てしまったか。
 登山ルックの奥寺と美那子の二人が三ツ峠で待ち合わせする場面にしても、八代(石坂浩二)が大動脈乖離で倒れてしまうエピソードにしても、智之(武田真治)が奥寺を外堀から追い詰めていくくだりにしても、やはりどこかしら間が抜けているというか、しっくりとこないのはこれまで通り。毎回の予告編はそれなりに高まっているように見えるのだけど、予告編がいいときは往々にして内容がくだらないことが多いのも事実。(麻生結一)

第4回「裁かれたプライバシー」(2006年2月4日放送)

☆☆
 裁判では敵同士の奥寺(玉木宏)と美那子(鶴田真由)が精神的に接近してきたことによって、お話自体はそれなりに動いてきているのだが、全体的に間が抜けた感じが付きまとうのは前3回とあまり変わらない。温度差によってのカラビナの破損の可能性が明るみになるくだりも、ここではあっさりとスルーされて(やはり美那子の実家・工藤家の扱いがパターン過ぎて興ざめ)、ベースキャンプマネージャーの森脇(石丸謙二郎)もいかにも裏切りそうな感じのままに裏切るか。さほどの悪人でもない八代(石坂浩二)も、ワーグナーに聴きほれているあたりだけはベタに悪役風。
 ラスト、裁判の打ち合わせをすっぽかして、奥寺が美那子と山を目指すドラマティックな展開も、奥寺、美那子ともに何を考えているのかよくわからないので、ドラマの緊密感と結びついてこない。どこかで立て直してくれるのではと、期待してみているのだけれど、ここまで来てしまうとちょっと難しくなったような気がする。 (麻生結一)

第3回「愛と疑惑」(2006年1月28日放送)

☆☆
 裁判劇へと展開していけばきっと盛り返してくれると密かに期待していたも、どうにもドラマの軽さに歯止めがかからない。内容に忠実に通俗的にいくのであれば、もっと演出にケレン味があった方がいいが、それがまったくないのでドラマが熱を帯びてこない。
 いったい美那子(鶴田真由)は何をどうしたいのか。北沢(山本太郎)の死の原因とされるヤシロ製のカラビナを作った張本人・工藤(高橋克実)にも悲壮感が薄い。べったりとついてくる音楽の使い方も随所にマイナス効果。そして毎度のごとき、NHKのドラマのアフレコのまずさ。(麻生結一)

第2回(2006年1月21日放送)

☆☆
 北沢(山本太郎)が滑落した後の展開からは、さすがにドラマが引き締まった。ロケの効果が抜群なのもいうまでもない。ただ、そこまでたどり着くまでの展開は見進めるのに苦労するほどにこなれていない感じを受けた。気を失った北沢に、「好きだ」と叫ぶ奥寺(玉木宏)には少なからず驚いたけれど。
 八代(石坂浩二)の下請けとしてカラビナを製造している兄・工藤(高橋克実)のもとに美那子(鶴田真由)が里帰りするエピソードの紋切型ぶりなど、予想を超えた不出来ぶりで、その後が思いやられるも、北沢が滑落したにもかかわらず、頂上アタックを試みさせようとする八代(石坂浩二)の御曹司・智之(武田真治)の中途半端な扱いを見せられるにつけ、これは重症と思わせた。演出、脚本その他いかなる要素にも問題点があるように思えるこのドラマ。人生の教科書であり続けた栄光の土曜ドラマの、この8年間のブランクはあまりにも大きかったということか。あまりに悲しい。(麻生結一)

第1回(2006年1月14日放送)

☆☆
 名作ドラマの宝庫だったNHKの土曜ドラマ枠の復活に、大いなる期待を抱いている方も少なくないだろう。ただ、見始めてしばらく経つにつれて、かつての土曜ドラマのイメージはとりあえずいったん忘れた方が懸命であるような気がしてくる。
 井上靖の同名小説の時代設定を現代に置き換えて描いている旨は了解出来るし、キャストも適材適所のように見えるが、どうにもドラマにコクが出ていない。奥寺(玉木宏)と北沢(山本太郎)の過去の因縁にしても、美那子(鶴田真由)に思いを寄せる北沢の恋愛感情にしても、随所に説明調でダイアローグがそれぞれの関係性を深めていない点が気になってくる。まぁ、土曜ドラマの大復活(8年ぶり?!)ということで、過大な期待感を抱いてしまっていたのも事実。この第1回はプロローグのようなものだったし、次回以降に期待したいと思う。(麻生結一)

氷壁

土曜ドラマ
NHK総合土曜22:00〜22:58
制作・著作:NHK
制作統括:佐野元彦、青木信也
原案:井上靖『氷壁』
作:前川洋一
演出:長沖渉、土屋勝裕、小林大児
音楽:村松崇継
主題歌:『彼方の光』リベラ
語り:石澤典夫アナウンサー
出演:奥寺恭平…玉木宏、八代美那子…鶴田真由、北沢彰…山本太郎、八代智之…武田真治、北沢ゆかり…吹石一恵、森脇茂雄…石丸謙二郎、室井秀彦…相島一之、松本照彦…矢島健一、工藤多喜子…小松みゆき、裁判長…藤田宗久、木村教授…浅見小四郎、平山…中山克己、川端…桑名湧、上田…六角精児、工藤高志…小野隆世、工藤さやか…萩原茉彩、南部大介…伊武雅刀、工藤敬一…高橋克実、樋口正昭…寺田農、北沢秋子…吉行和子、八代哲夫…石坂浩二