白夜行

第11回(2006年3月23日放送)

☆☆☆
 素晴らしい出来ばえだった第10回をもう少しいい点にしていれば、この壮絶極まりなかった最終回にもあと★つけられたのにと大いに後悔する。かわいい悪い花・雪穂(綾瀬はるか)が陽のあたる場所に2号店を開こうとしたのは、太陽の下を一緒に歩きたかった亮司(山田孝之)のためだったか。手に手を取り合って歩んできたこれまでは、裁かれたかった二人にとっての死刑台までの道行きだったとたどり着くと、何ともやるせない気持ちになってくる。
 これまで父・洋介(平田満)と松浦(渡部篤郎)を殺してきた亮司のハサミの一撃も、ニ度にわたって仕留めるチャンスがありながら、不死身の笹垣(武田鉄矢)には通用せず。滔々と語られるこれまでの罪歴を間違いだらけと断罪しつつ、自らの命を救ってくれたこと、また典子(西田尚美)に子供が生まれたことも言い添えて、精一杯やったその人生を褒めてやる、そして捕まえてやれなかったことに懺悔の思いを込める笹垣に父性が宿る。途中から 「桐原」ではなく、「亮司」と笹垣が呼び変えるあたりの細やかさにも心ひかれるところ。
 その亮司の死に様は、山田孝之の鬼気迫る演技によっていっそう胸に迫ってくるものに。そして、警察の取調べでこれまでの歩みを逆逆に捻じ曲げていく雪穂の供述には震えがきた。ひとかけらの真実を失ってまでも、誰にも本性を明かさずにビルの薄暗い部屋で太陽としての自分をまっとうしようとする雪穂の凄みと悲しみたるや。亮司によって人生をささげられた雪穂は、それが何のためなのかという自問自答にも答えられいままに、嘘に嘘を重ねても何としても幸せにならなければならない生き地獄という罰の中で、生きる屍として生き残る。第1回の冒頭からの裏返しとして位置づけて、最終回を雪穂のナレーションで通した語り口も凝りに凝ったもの。運命を駄目押しするエピローグで全体を甘くしてしまったのは、徹底が過ぎたとも言えるが。
 サボテンの鉢から出てきたサングラスの欠片から松浦の生き死を笹垣に気づかせるあたりの偶然ぶりも、このドラマの都合のよさを象徴してるようにも思えた。そのあたりを刈り込んで2時間の3回シリーズ程度にした方が、この作品の場合にはよかったのではないだろうか。最後の3回にわたってのドラマティックな畳み掛けには恐れ入っただけに、それ以前でつまずいて低視聴率に終始してしまったのが嘆かわしい。その数字が力作中の力作なんか見たくないという反応だとするならば、いっそう嘆かわしい気持ちになるのだけれど。(麻生結一)

第10回(2006年3月16日放送)

☆☆☆
 結局は医療ミスと判断される義母・礼子(八千草薫)の死も、手は下していなくても実際には雪穂(綾瀬はるか)による二人目の母殺し。人の愛し方がわからなくなったと涙ながらに語る雪穂の姿に、その落ちた穴が実は同じだったのかもしれないと感じる、付き添っていた篠塚(柏原崇)は、雪穂に自首させようと誓うことに。
 殺人現場に番犬みたいに張り付いて、息子・亮司(山田孝之)を守ろうとしてきた弥生子(麻生祐未)は「私が殺したんです」と苛まれるままに、ハサミによって逝ってしまう。確かにみんな死んでしまったのだけれど、その遺骨の引き取りてがもはや笹垣(武田鉄矢)しかいないというあたり、あまりにも悲しい。前にも書いたことだが、台詞のない弥生子の悲しみはその酔いどれのままに迫ってきた。
 何をしても気づかれない幽霊は気づいてもらおうと犯罪を繰り返すも、それでも誰にも気づいてもらえない、と亮司が典子(西田尚美)に語る小説は、さらに強力にドラマとの入れ子構造になっていく。しみじみとする間もなく、そのままにぐいぐいとドラマの求心力が高まっていくのが目に見えるようだった。
 「本当の罪は心と記憶に下される」との大江図書館のBBSへの書き込みを見せる行為によって、一人客観的な立場だった谷口(余貴美子)が弥生子に続いて笹垣と繋がる。笹垣を殺す細工をするために事務所に侵入した亮司は、そこで弥生子の遺影と遺骨と対面し、その横に置かれた笠垣のノートを発見する。そのノートに記されたすべては、亮司と雪穂の道のりそのものだった。
 ここで抜群なのは、これまでの亮司と雪穂の道のりを笹垣が谷口に語って聞かせる説明的な部分が、亮司が笹垣のノートを一枚一枚めくっていくテンポ感と同じだったところ。二人を同情の余地のないアホと言い放つ笹垣が、共に責めを追うものは己と頭を下げる場面に、笹垣の重みもグッと増す。時間と労力を使って書き記された二人の記憶にむせび泣く亮司が、こんな殺し方をしてはいけないと行動に移るあたりの心理も大いに納得がいくところだった。亮司とその役を演じる山田孝之が、これまでにないほどに重なって見えて、ゾクッとさせられた。親を殺してまで手に入れた人生の終焉は最終回にあるも、やはりこの回こそが最高だったのではないだろうか。(麻生結一)

第9回(2006年3月9日放送)

☆☆☆
 愛せないであろう子供の代わりに店を育てていくとしんみり言う雪穂に、初めて本音を聞いたと答える義母・礼子(八千草薫)。二人がほぼ初めて親子としての心を通わせるエピソードが前に効いているだけに、倒れて病院に運ばれた礼子に自首を勧められるも、一人じゃないから戻れないと返し、自らの手で礼子の命を奪おうとする雪穂の壮絶さには身震いさせられた。
 亮司(山田孝之)は大胆にも笹垣の留守を見計らって事務所に不法進入。同棲し始めた薬剤師の典子(西田尚美)には小説のトリックのためと言い訳して青酸カリを手に入れ、それを使って笠垣を亡きものにしようと魂胆する。しかし、礼子が庭のサボテンの下にあるものの秘密を知ってしまったことで、雪穂が再び手を汚してしまうことを亮司はさせじとそちらは断念。雪穂に代わって礼子の命を断つ。ここでの亮司と礼子の応酬はその宿命の皮肉を駄目押しする。
 八千草薫が演じる役柄を「お母さん」と呼ばせるのはやはり年齢的に違和感があるとこれまでずっと引っかかっていたのだが、ここでの

礼子「二人してそのざまか。あわれやな」

の一言の凄みにはただただ恐れ入った。
 今度は急接近してペラペラと自らのことをしゃべり、あっという間に亮司と気を許す関係になる典子に引っかかってくるも、ここであまり時間を使ってしまっては肝心要のところまで行き着かなかっただろうから、と今回は考えることにする。ほとんど出番のない弥生子(麻生祐未)さえもそのキャラクターが深まっていることを考えると(飲んだくれているシーン以外ないのに!)、今しばらく見守るべきかもしれない。ただ、あと2回しか残されていないが。残りわずかな亮司と雪穂の生き地獄への歩みを思うと、次回がピークになるような気がする。(麻生結一)

第8回(2006年3月2日放送)

☆☆★
 誰もが目をそむけるほどの醜さを、お互いに抱きしめ合うことを決めた地点からまたも時は過ぎ、さらに2年後からの物語。秋吉を名乗る亮司(山田孝之)は雪穂(綾瀬はるか)の手引きで開発途中の社内システムの雛形を盗み、ITベンチャーに持ち込んでシステムエンジニアとして日中から大活躍。単独ではもはや太陽の下に戻ってる?! 雪穂は夫・高宮(塩谷瞬)の持ちビルで会員制のブテック・MACOTO'S CLOSETを経営。そんな店の前には、探偵事務所をはじめた笹垣(武田鉄矢)がいまだにしつこく張り込んでいるというのが大前提。
 この結婚は売春と言い切る雪穂が離婚の好条件を引き出すために、高宮を見合いに破れて再び東京に復帰していた三沢千都留(佐藤仁美)と引き合わせたり、暴力を振るったと見せかけるため、高宮を酒と薬で漬けて亮司を家に招きいれ、亮司に自らを殴らせるまでのアリバイ工作をするあたりの凄みはもはや定番といったところ。その日マンションに宿泊した共同経営者にそのことを気付かれるリスクを危惧しないのかとも思うが、眼帯姿の雪穂の迫力にそれもありかと思わされる。大体、妻の店に自分の名前をつける夫って時点で、すでに問題ありでしょうに。自分のレストランに別れた妻の名前をつける朝ドラ『風のハルカ』のハルカの父・陽介(渡辺いっけい)ってパターンもあったけど(命名時点ではまだ離婚前だった?)。
 盗み出したシステムの件で興信所から尾行されていた亮司もまた、三沢千都留という偽の設定を思いついて利用し、興信所を煙に巻く万全ぶり。そのいずれにも貢献した三沢千都留こそが今話のMVPだったりして。
 亮司は興信所をまき、雪穂は事実を捻じ曲げて高宮との離婚を成立させ、雪穂は早速に店の名前をR&Yに変える。それを笹垣に告げ口にいった篠塚(柏原崇)は、笹垣からもらった写真で亮司の顔を知っているはず。そうなってくると、篠塚と高宮が語り合う横の席で盗み聞きする亮司は大変なニアミスをしているということになるが、その点での緊迫感を煽るような見せ方は一切なかった。(麻生結一)

第7回(2006年2月23日放送)

☆☆★
 かなりの資産家らしいダンス部の先輩・高宮(塩谷瞬)をたらしこめている際の、さらには取調室で笹垣(武田鉄矢)に尋問されている時の、そのいずれもの雪穂(綾瀬はるか)の満面の笑顔があまりに怖い。もう一人主役である亮司(山田孝之)は、せめて一人だけでも幸せにしたという免罪符がほしくて、幽霊のように雪穂を陰ながら見守っていくことを心に決めて姿を消す。
 それから2年、再び雪穂の前に現れた亮司は、感情に振り回されるのは疲れたと表情も穏やかになったのはよかったとして、その間をこの男はどうやって生き抜いてきたの?ダークサイドを歩んできた道のりを考えてしまうと、穏やかでもいられなかったはずとも思えるのだが。このドラマのリアリティの危うさはこういったところに一事が万事で出てくるのだけれど、それを言い始めるとキリがないので、とりあえずは問わないことにしよう。確かに堂々と渋谷のスクランブル交差点あたりを歩き回っていたならば、穏やかにだってなれるのかもしれないけれど。
 高宮の好きな人(佐藤仁美)をホテルに泊まらせる泊まらせないの攻防って、随分と話が小ぶりになったなと思わせたが、亮司と笹垣のニアミスはそろそろやっておきたかったところではあるか。ところどころに引っかかるところもあるが、元から最悪だった亮司と雪穂の二人の純愛が、その最悪を正当化することによって、いっそうに二人だけの世界に高まっていくあたりの奇妙な純度の高さはやはりならではのワールドであろうし、そのあたりのやりきれない思いの皮肉っぽさにも一通りではない含みがあっていい。(麻生結一)

第6回(2006年2月16日放送)

☆☆★
 これまでその立ち位置において今一歩得体が知れなかった松浦(渡部篤郎)の存在、亮司(山田孝之)との因縁は、亮司に松浦を殺させることによってドラマティックに終焉。何かにつけて脅したり殴ったりする松浦の態度は、それが自らを重ね合わせた亮司に対する愛情の裏返しだったとすると、白夜は奪われた夜、それとも与えられた昼、夜を昼とを見せかける太陽は悪意か善意か、との亮司の自問自答もまた、そんな表裏一体の位置関係とエコーしてくるようにも思えてくる。こういう役柄を演じた時の渡部篤郎はやはり雰囲気抜群だ。
 これまで存在感が希薄だった古賀(田中幸太朗)は弥生子(麻生祐未)の尾行の成り行きで、松浦に遭遇。亮司が松浦を殺した直前に、松浦から殺されてしまうも、その後の証拠隠滅ぶり(松浦逃走中って)が相も変わらずおざなりにつき、部下を殺された笹垣(武田鉄矢)の憤りも空振りに思えてしまう。
 亮司と雪穂(綾瀬はるか)のねじれた純愛ぶりはすべての発端であった因縁のネガを取り戻しても、なおいっそう沈み込んでいくのだろうけれど、これまでは雪穂の凄みが最大のみどころになっていただけに、雪穂のエピソードが少なかった今話はそのあたりで食い足りない印象が残った。(麻生結一)

第5回(2006年2月9日放送)

☆☆★
 これほどに陰惨な内容に終始する物語が連続ドラマにそぐうとは思えないも、表情の微妙な変化でその心情を生々しく表現するヒロイン役の綾瀬はるかの迫力には随所に身震いさせられた。雪穂(綾瀬はるか)が幸せじゃないと、死んだことになっている意味がない亮司(山田孝之)はいっそうに完全に陽のあたらない世界の住人に。松浦(渡部篤郎)の許可なしにゲーム制作の途中請負を容易くはじめるあたりのリアリティのなさは、もはやおなじみ化しつつあるが。
 雪穂と一夜を共にした後に身を引く覚悟をする亮司の思いも虚しく、雪穂に気が合ったはずの金持ちの御曹司・篠塚(柏原崇)は雪穂の親友・江利子(大塚ちひろ)と付き合い始める。ソシアルダンス部の部長に雪穂、それから江利子と、ピンポイントで恋愛し続けるこの御曹司への雪穂の興味は、いつしか気づかぬほどに幸せな江利子に対しての嫉妬の塊に変容。またしても亮司に江利子の暴行、盗撮を依頼する雪穂にはさすがに怖くなってくる。たしなめる亮司に人生の不公平を八つ当たりする雪穂にはもはや同情できないし、松浦と組むことを雪穂にほのめかされて、即座に江利子を襲う亮司もまた薄弱すぎる存在にしか映らないも、何となしにしみじみとさせるあたりはドラマの醸成効果ゆえであろう。完全なる計算ずくの芝居の達人、雪穂にとって、その程度は他の人と亮司とでは違う旨の説明にそれなりの真実味を与えているのは、やはり綾瀬はるかの力演によるものかもしれない。
 回を追うごとにいっそうの偏執狂ぶりを発揮している笹垣(武田鉄矢)は、親切面して義母・礼子(八千草薫)に雪穂の催眠療法を薦めるって、そんなデタラメな。登場人物のことごとくの闇深き有り様にあっては、この人だけがある意味喜ばしくなってる?!(麻生結一)

第4回(2006年2月2日放送)

☆☆
 亮司(山田孝之)が泥水の中を這い回っている間に、雪穂(綾瀬はるか)は恋をしていたという次なる展開に、ドラマの雰囲気は引き続き満点級。ただ、各行為の陰惨ぶりに安心してしまってか、どうにもエピソードの描きこみが足りないような気がする。裏切りの裏切りが裏切りを呼ぶにつけ、隙を見せた奴が負けるとの亮司の信念自体は、それが最終的には己にも跳ね返ってくるのかもと思えて含みを感じさせたけれど。
 戸籍上はすでに死亡している亮司の大胆な行動ぶりは、“ドラマだから”、という念押しなしにはありえないほどの縦横無尽。かつての売春の客である銀行員・奈美江(奥貫薫)ともくろむキャッシュカードの偽造にしても、いかにもイージーすぎる気がした。奈美江の行く末にしても、恫喝からスタートする関係性が友情に転化するとは到底思えないので、裏切りの結末にもむべなるかなとしか思えないし。
 そのようなマイナスポイントも、亮司と雪穂がせつなくこんがらがっていくあたりにここまでは救われていた。ただ、一般的な共感の域を、もはやこの二人は超えてしまっているような気もする。笹垣(武田鉄矢)の、察しよくいかなる事件をもことごとく亮司と雪穂に結び付けてしまおうとする思考は、これはこれで偏執狂的な存在としてありなのかもしれないが。ニヤっとさせたのは、好きなタイプがスカーレット・オハラだとM系との解釈。(麻生結一)

第3回(2006年1月26日放送)

☆☆★
 相変わらずみっちりと作ってある。亮司(山田孝之)と雪穂(綾瀬はるか)の二人のシーンはいずれもが見ごたえあり。とりわけ、自首を口にする亮司に、これまで何のために罪を重ねてきたのかと叱咤する雪穂には凄みがあった。雪穂が一枚上手と垣間見せるあたりは、ドラマの行き着く地点を予感させもする。
 ただ、亮司が売春宿に加担してたり、死亡届を捏造してたりするエピソードが立て続けに出てくるにつけ、その陰惨ぶりには何となくついていけなくなってくる。亮司と雪穂の宿命を際立たせる要素を取り揃えるのは必須としても、であるならばもう少し弥生子(麻生祐未)や松浦(渡部篤郎)といった周辺キャラクターも、主人公たちに丁寧に絡ませてほしい気がする。(麻生結一)

第2回(2006年1月19日放送)

☆☆☆
 父親(平田満)を殺し、母親(河合美智子)を犯人に仕立て上げたおぞましい子供時代の出来事から7年、事件を葬り去るために見知らぬ他人になり続けている亮司(山田孝之)と雪穂(綾瀬はるか)の有り様がついに絡み合うほどにいっそう過酷になってきた第2回。もちろんその過酷さは被害者の息子という役回りの亮司よりも、加害者の娘であることを暴露されてしまった雪穂の方が格段につらい。ここでの雪穂がいじめられて疑われて、それでも口を開かずにためてためての挙句の果てにとなるだけに、惨めにトイレの落書きを消す雪穂とその姿に7年前と同様の質問をする亮司との再会の場面は、いっぺんに周りの霧が晴れたような、澄み切った心持にしてくれる。次の瞬間、また曇ってしまうのだけれど。
 運命の皮肉がにじむのは、雪穂を救うためにという名目で、結果的に父親と同じように卑劣な盗撮をやってしまう亮司が、果たして何のために生まれてきたのかと自問自答する、あまりの苦々しい思いに至るあたり。図書館で向かい合って座る亮司と雪穂の今が、七年前のそれと重なり合う場面にはある種の感動があるが、このドラマを正面から受け止めるにはやはり相当の余力が必要であることも事実。それにしても刑事の笹垣(武田鉄矢)の凄みは亮司ならずとも戦慄するが、それにもまして関西弁はやっぱり変。(麻生結一)

第1回(2006年1月12日放送)

☆☆★
 今クールのTBSのドラマにはいろんな気味で気が滅入るような作品が多い。人物説明の手際の悪さや潜入捜査の緩さ加減に『輪舞曲』にはすっかり気が滅入ってしまったが、『白夜行』に関していえば、そのみっちりとした演出、あまりにも陰惨な主人公たちの運命に対して気が滅入ってしまった。プロローグからして粘りすぎだし、初回を2時間にしたのは必ずしも正しかったとは思わないけれど、それだけ時間をかけただけに作品のテイストは見事に打ち出されていたとも言えるし、俳優陣の力演ぶりにも見ていて力が入った(子供による犯行を疑う刑事・笹垣を演じる武田鉄矢はとりわけ圧倒的な存在感だったが、彼が関西弁をしゃべる必要はあるのだろうか?)。
 ただ、これだけの力作を視聴者が見たくなるのかと考えると、不安がよぎる。スマッシュヒットを飛ばした『世界の中心で愛をさけぶ』のようなノスタルジーは、いくら1991年がバブルがはじけた年であることを強調してみたとしても、本当の罰が主人公たちの心と記憶に下される重さによってかき消されてしまうだろうし。せめて22時台の枠の方が良かったのではないだろうか。その湿りっ気ぶりでは裏(『けものみち』)ともかぶってしまうし、東野圭吾の直木賞受賞がタイムリーであったとしても、主人公たちの今後の成り行き同様、視聴率的には厳しくなるように思える。もちろん、視聴率とは関係ない指標をかかげて、このサイトは存在しようとしているのだけれど。(麻生結一)

白夜行

TBS系木曜21:00〜21:54
製作著作:TBS
制作:TBSテレビ
制作協力:オフィスクレッシェンド
プロデュース:石丸彰彦
原作:『白夜行』東野圭吾
脚本:森下佳子
演出:平川雄一朗(1、2、5、8、10、11)、那須田淳(3、6)、石井康晴(4、7)、高橋正尚(9)
音楽:河野伸
主題歌:『影』柴咲コウ
出演:桐原亮司…山田孝之、唐沢雪穂…綾瀬はるか、松浦勇…渡部篤郎、篠塚一成…柏原崇、古賀久志…田中幸太朗、園村友彦…小出恵介、菊池道広…田中圭、川島江利子…大塚ちひろ、佐藤仁美、高宮誠…塩谷瞬、藤重政孝、西山繭子、奥田恵梨華、春日井静奈、幼少時代の雪穂…福田麻由子、幼少時代の亮司…泉澤祐希、倉沢桃子、尾上寛之、大塚良重、朝岡実嶺、九十九一、武野功雄、唐沢礼子…八千草薫、桐原洋介…平田満、河合美智子、五代高之、的場浩司、西口奈美江…奥貫薫、栗原典子…西田尚美、桐原弥生子…麻生祐未、谷口真文…余貴美子、笹垣潤三…武田鉄矢