Ns’あおい

第11回(2006年3月21日放送)

☆☆☆
 あおい(石原さとみ)が泉田(片平なぎさ)の命を助けるために、処分を覚悟で挿管をするだろうということは先週分の予告で半分ぐらいバラされていたのだが(まぁそうでなくても、ドラマ的にはそういう展開しかあり得ないのだが)、それでも、レンチやハンガーを使った即席挿管セットで一心不乱に処置するあおいという図には心を動かされた。最初から最後まで、このドラマの魅力のひじょうに大きな部分を占めていたのが、この利発でまっすぐな美空あおいというキャラクターと、それを的確に演じた石原さとみという女優だったことは疑う余地もない。
 さてその行為の甲斐あって泉田は助かったものの、看護師による挿管という行為は法律違反。人を助けたことで罰されるというのはなんとも皮肉な話だが、かといって一定のルールのもとで行われるからこそ安心して医療を受けられるという部分も確かにあるわけで、果たしてこの難しい問題にこのドラマがどう答えを出してくれるのかは大いに期待させられたところ。いわばその答えに当たる、高樹(柳葉敏郎)の

高樹「(自分にとって、守るべきは)幼い頃に教わったことです。人にはやさしくしなさい、嘘をついてはいけません、困った人がいたら助けてあげなさい……。母親や父親、祖父母、学校の先生に教わったことです」

という台詞は、少々感傷的すぎるきらいはあるにしろ、胸に残るものだった。だがその後あおいや高樹が処分されずに済んだのはこの台詞ゆえではなく、田所(西村雅彦)が責任をかぶったからだという苦々しさもまた一つの答えということで、このドラマの誠実さがここでも発揮されたようだ。
 しかし、田所が“最終回でいい人化”というお決まり路線をたどることになった過程については、少々心許ない。一致団結して患者を助ける病院スタッフ達の行動を目の当たりにするというシークエンスや、母親との会話とその後の死というあたりで辛うじて説明されていたけれど、これまでの悪役ぶりを考えるとその程度で改心するとは思えないのだが。まあ、そこは最終回と言うことで大目に見るとしても、田所が病院を去る時に、突然皆が微笑みながら見送ってしまうあたりは、やはりいささか陳腐すぎるように感じられた。それにしてもそのシーン、病院には大勢の人が働いていただろうに、見送るのは病棟のスタッフ8人「のみ」というのはむしろ、田所がいかに人望がなかったかを示しているようで、感動的になるはずがむしろお寒くなってしまった気がする。まさかそれが狙いだったわけでもあるまい。(余談だが、看護婦仲間で一番目立っていた加納(加藤貴子)が突然存在を消していたのもひどく気になった。スケジュールの都合?)
 ともあれ、手堅く作られた中規模バジェットの作品という印象から大きくはみ出ることは決してなかったものの、第1話における期待度に対する最終的な出来映えという意味では、今クール随一と言えるかもしれない。こういう誠実な作りのドラマがもっと増えて欲しいと心から思う。(安川正吾)

第10回(2006年3月14日放送)

☆☆☆
 どちらかといえば和み担当だった病棟の三羽ガラスの一人・吾郎(平賀雅臣)が、肝硬変で余命幾ばくもないとなれば、あおい(石原さとみ)ならずとも大いに衝撃を受ける話。その吾郎に「お香典治療」を施して死ぬ前に検査代や薬代をかさ上げしようとする田所(西村雅彦)と、それに反対するあおいや小峰(杉田かおる)、その板挟みになる江藤(八嶋智人)という構図を経て、まだ花の咲いていない、否、一輪だけ咲いている桜の木の下でのお花見という微笑ましくも切ないシチュエーションに至る構成は、まさにこのドラマの良い部分を凝縮した形だった。目に見えない桜吹雪の中で幸せそうに笑う吾郎とあおいの姿が印象に残る。
 そして吾郎は他界。間をおかずに展開する、総師長・泉田(片平なぎさ)の講演にあおいがついていくというシチュエーションが、次なる事件の始まりとなるわけだが、まずはあおいと泉田の過去の因縁が明かされることに。あおいの母が死んだ時、ずっと心臓マッサージを続け、その形見であるお守りをあおいに手渡してくれた看護師は、泉田だった。死ぬ前に娘に会いたいというあおいの母の最後の望みを叶えてあげられなかった、と言って謝る泉田にあおいが言う、

あおい「あのとき握った母の手は、まだ温かかった……私はしっかりと、そのぬくもりを感じることができました」

という言葉が、「医者ではない、看護師のできること」というテーマを浮き彫りにする。すっかり打ち解けモードになった泉田は、実は患者本位の新病棟を造りたいという信念を持って、桜川病院を利益の出る体質にしようとしていたという話もし始めて、

泉田「あなたはまだまだ伸びる。だから約束して。これからは私を信じて、一人で突っ走ったり、ルール違反はしないと」

なんて台詞も出るのだが、このエピソードで唯一ひっかかったのがここか。と言ってもこのシーン自体に問題があったわけではなく、これまでのエピソードで、ここでの台詞を裏打ちするほどの「泉田の伏魔殿ぶり」が印象に残っていないせい。1回ぐらいは、あおいが泉田とガチンコで対決するような話があっても良かったとも思える。まあ過ぎたことを言っても仕方ないのだけど。
 やがて降ってきた大雨の中、車で帰途についたあおい達だったが、それまで何度か目まいを訴えていた泉田が左手足の麻痺を訴え、倒れてしまう。さらに車はタイヤが脱輪して立ち往生、しかも泉田は嘔吐物が喉に詰まって呼吸停止状態に。高樹(柳葉敏郎)から電話で指示を仰ぎながらも、懸命に心臓マッサージをするあおいの姿に、シリーズ冒頭で語られたあの雪の日の話が重なる。エピソードをまたぐ伏線がきちんと作用するこのドラマの良さがまたしても発揮され、ひじょうにスリリングな終わり方となった。
 ……と、ここまでは全く申し分ないのだが、そんな終わり方をした直後に、その後があっさり予想できてしまう予告を流す無神経さには少々文句をつけたい気分。思えば、先週の予告でも、今週分後半のショッキングな展開をバラしていたし。ここへきて、本編の方が良い出来映えになってきているだけに、その点だけは残念でたまらない。(安川正吾)

第9回(2006年3月7日放送)

☆☆☆
 昏睡状態に陥った夫とその看護に疲れた妻という構図そのものには、やはり多少は既視感を感じずにはいられないものの、すべてを真っ正面から誠実に描くこのドラマの語り口がこれ以上にハマる題材もない。夫の生き甲斐だった花屋をたたもうとする妻(山下容莉枝)が花のセリに行くのにあおい(石原さとみ)がついていくという、いかにもドラマ的な展開がとても自然で美しいものに思えたのは、「花」という題材の良さもあっただろうか。単なる金のいいバイトとしてこれまで看護助手の仕事をしてきた北沢(小山慶一郎)が、看護という仕事に目覚める様子も無駄なく絡み合い、彼の“渾身のデモ(MD)”が、「看護が起こす奇跡」のきっかけとなる着地もお見事。この感動的なエピソードをもって、「まあまあ」と「わりといい」の間でせめぎ合っていたクオリティもついにブレイクスルーを迎えた印象だった。(安川正吾)

第8回(2006年2月28日放送)

☆☆★
 かつて患者と娘を天秤にかけて患者を選んだが故に妻から捨てられた高樹(柳葉敏郎)が、再び同じジレンマに陥るという展開に意外性はなくても、どちらの選択肢もそれぞれに切実でドラマ的には大いに盛り上がった。江藤(八嶋智人)では急変した患者の処置ができないとわかった時点で、娘・美保(森本更紗)のバイオリン発表会へと向かった高樹を呼び出すことを即決するあおい(石原さとみ)は、その直前に「絶対高樹を発表会に行かせる」と美保と約束していたことを思えば薄情だけれど、その迷いのなさこそがこのキャラクターの美点。今回、長い回想があったがゆえに出番は少なめだったあおいだが、このシーンだけで主人公としての存在感をしっかりと見せた格好だった。
 しかし、高樹がラストで娘の作文を受け取る部分はいささか陳腐で、展開としても蛇足っぽい。高樹が「父であるより医者であることを選択した」ことを何らかの形で肯定する必要があったのは理解できるのだが、もう少し別な方法はなかったものか。その前の、空港での即席バイオリン発表会という見せ場がそれなりに美しかっただけに、この締め方は残念でならない。とはいえ、何度も書いているように、このあたりのベタさを補う良いテイストがあることも確かなのだが。(安川正吾)

第7回(2006年2月21日放送)

☆☆★
 子宮筋腫が見つかった小峰(杉田かおる)は、婦人科の担当医・不動(田中要次)からは全摘出を勧められるも、本人は息子に弟を作ってやりたい気持ちがあってそれを受け入れられない。しかし不動は「なんでも全摘しちゃう先生」で、おそらく意見を曲げないだろうとの江藤(八嶋智人)の情報。これまでのあおい(石原さとみ)なら、患者の意志よりも自分の主義や面子を重視するこの医者に真っ正面から噛みついたのではないかと思われるのだが、結果的に田所(西村雅彦)の影響力を使って“政治的に”解決してメデタシメデタシとなるとは、あおいも少しは大人になったってこと?
 という具合に、あの青臭くも小気味よい主人公はすっかりなりを潜め、案の定すっかり登場人物達のプライベートな話に軸足が移ってしまった感があって、それは正直残念なところ。しかしまあ、それはそういうものとして見るならば、全体的な出来映えは決して悪いわけではない。今回にしても、小峰の看護士としての矜持によって、家族のいない猫耳こと佐伯(矢柴俊博)の孤独が昇華されるというメインの筋は、ほろりとさせられて楽しめた部分。しかし、小峰に対する同僚ナース達の態度が変化していくあたりの描写は、台詞回しにしろ展開にしろいかにも陳腐で、全く評価できない。相変わらずいいところと悪いところが半々なのだが、誠実なテイストを守り続けているあたりも加味して、今回はこの点数で。(安川正吾)

第6回(2006年2月14日放送)

☆☆
 研修医・江藤(八嶋智人)がコンプレックスを克服して“粗大ゴミ”から“ヒーロー”になるというメインの物語自体は、ヒーローのお面などの小道具も効果的に使われて、出来映えとしては決して悪くない。だが、本当はこの人の成長をこそ見せて欲しい主人公のあおい(石原さとみ)が、すっかり江藤を導くメンター的役割になってしまっているのはちょっと違うだろと思わずにはいられないのだが。さらに、いかにも「看護士から見た病院の現実」的なことを描くかのように始まったドラマのわりに、結局こういうプライベートな“いい話”に終始してしまうのも物足りないところ。しかし、小峰(杉田かおる)の昏倒に高樹(柳葉敏郎)の離婚話と、どうも後半はその手のエピソードてんこ盛りになってしまいそうな不安が若干出てきたなぁ。……で、総師長・泉田(片平なぎさ)が伏魔殿ぶりを見せるのはいつですか?(安川正吾)

第5回(2006年2月7日放送)

☆☆★
 江藤(八嶋智人)がMRIに腕時計を近づけて壊してしまうという冒頭の話が、来るべきトラブルの序章であると同時に、ラストシーンの小道具(福引きでもらった安物の時計)への伏線になっているという無駄のない構成をはじめとして、ところどころに上手さを感じられた好エピソード。心臓にペースメーカーを入れた患者・サクラ(佐々木すみ江)の赤いカートがMRI検査室の前に置いてあることにあおい(石原さとみ)が気づかずに通り過ぎたり、あるいは夕陽を見ていたサクラがランニングする野球部の一団が通り過ぎた後に倒れていたりといった、いかにもドラマチックな語り口もばっちりハマった。江藤が保身のために嘘をついていると(田所(西村雅彦)の言うとおり、それを見ていたわけでもないのに)責め立てるあおいはあまりにも青臭いけれど、それもその後の高樹(柳葉敏郎)の言葉でしっかりフォローされて、ドラマとしての公正さも保たれている。こういう公正さがあってこそ、このドラマの誠実さは胸に響く。このトーンのままで後半戦も乗り切って欲しい。(安川正吾)

第4回(2006年1月31日放送)

☆☆
 あおい(石原さとみ)が本院時代にやったことについては、これまでの彼女の行動を見ればまあ予想のつくところ。それ自体は確かに、看護士という仕事に関する大きな矛盾をはらむ興味深い事例ではあるのだが、そこで週またぎなんてしてしまったせいで、ドラマ的には虚仮威しっぽい印象の方が残ってしまったのが少し残念。ここはもう少しストレートにこの真相を語り、それが病院の職員それぞれに及ぼす動揺をきちんと描写した方がこの深刻なテーマが活かされた気がするのだが。あおいの話の影響で他のナースたちに迷いが、って話は、崩壊のホの字も見えないままに収束してしまい、すぐにあおいの「単純なミス」話へと移行してしまったのは物足りないと感じさせられたところだった。
 その後、本院の医師、輸送サービスの人、あおいに命を助けられたそば屋の主人、さらにはあおいのミスで風呂場で昏倒してしまった患者までもが立て続けにあおいのことを良く言うのは、さすがに少し甘すぎるか。とはいえ高樹(柳葉敏郎)が「ルール」についてあおいに忠告する台詞のおかげで最後にはうまく締まった感じだし、輸送サービスの人があおいに影響されて救命士を目指そうとしているなんて話は実にいい落としどころ。評価したい部分とそうでもない部分がないまぜになっていて採点にも迷うのだけど、もっと良くなる芽を感じるドラマだけに、少し厳しめにこの点数にしておこう。(安川正吾)

第3回(2006年1月24日放送)

☆☆★
 過去2回は今回のための伏線だったと言わんばかりに、これまでの定石をひっくり返したかと思いきや、最後にまたそれをひっくり返すという荒技をやってのけた今回。田所(西村雅彦)の幼なじみ・又造(モロ師岡)が患者として現れて田所の秘められた過去をしゃべりまくるというシチュエーションで生まれるある種の「ミスリード」も効いていた。従来からの誠実な語り口と相まって、何やら深みのある苦々しさまでも感じられた好エピソードだったと思う。
 しかし、予告であおい(石原さとみ)が「私の口からお話しします」と言うシーンを入れておきながら、あの「回またぎ」はちょっとずるい。とか言ってる時点で作り手の思う壺なわけですが。ここまで引っ張って、総師長・泉田(片平なぎさ)をして「崩壊する」とまで言わしめるネタが何なのか、来週とくと見せていただくことにしましょう。(安川正吾)

第2回(2006年1月17日放送)

☆☆
 患者が自らの利益ばかりを考える医者の犠牲になり苦しむ羽目になるという大筋自体には、やっぱり目を惹くものはないし、放射線技師・片桐(鈴木浩介)の心変わりにしろ、副院長(左戸井けん太)が手術をしてくれた理由にしろ、その顛末だけを見れば予定調和そのもの。それでも、あおい(石原さとみ)が奮闘する姿だけは確かに心に残るのがこのドラマのいいところ。さらに今回は、患者の野呂を演じた村田雄浩の好演もあって、エピソードとしての好感度は高かった。ただ、大病院の功利主義を問題視してみせる割には、起こるトラブルはむしろ医者個人(この場合は西村雅彦演じる田所)の資質みたいな部分が理由になってるってあたりが少しちぐはぐな印象は受ける。
 小峰(杉田かおる)が「伏魔殿」とまで言う総師長・泉田(片平なぎさ)が今後どのようにドラマに絡んでくるかはちょっと楽しみ。(安川正吾)

第1回(2006年1月10日放送)

☆☆
 見る前の印象ではテーマにも設定にもそう目新しさはないように感じられたし、「勤務初日に寝坊してキャー」的シーンあたりの紋切り型にも一瞬うんざりしかけたけれど、奇をてらわない実直な語り口と、石原さとみ演じる美空あおいというキャラクターのみずみずしさと賢さは悪くない。その脇を固める人たちのキャスティングが、「柳葉敏郎=いい医者」「杉田かおる=厳しい先輩」「西村雅彦=イヤな医者」「八嶋智人=情けない医者」とこぞって“パブリックイメージ通り”なあたりが、どうしてもある種の「お安さ」を感じさせてしまうのは残念なところだが、意外な良作になる可能性もあるかも。(安川正吾)

Ns’あおい

フジテレビ系火曜21:00〜21:54
制作:フジテレビ、共同テレビ
企画:金井卓也
プロデューサー:小椋久雄、永井麗子
原作:こしのりょう『Ns’あおい』
脚本:吉田智子
演出:土方政人(1、2、4、6、9、11)、都築淳一(3、5、8)、石川淳一(7、10)
音楽:福島祐子、澤野弘之
主題歌:『桜』コブクロ
オープニング曲:『Destination』オオゼキタク
出演:美空あおい…石原さとみ、高樹源太…柳葉敏郎、小峰響子…杉田かおる、江藤誠…八嶋智人、北沢タケシ…小山慶一郎、加納キリコ…加藤貴子、片桐勇…鈴木浩介、バンチョ羽沢…載寧龍二、小野久美…大村美樹、西桃子…高樹マリア、亀井福太郎…六角精児、不破吾郎…平賀雅臣、佐伯龍之介…矢柴俊博、緑川雅子…高橋ひとみ、村田雄浩、草村礼子、相島一之、モロ師岡、矢島健一、佐々木すみ江、栗田よう子、山田明郷、秋本奈緒美、田中要次、山下容莉枝、大林丈史、中丸新将、大塚良重、浅沼晋平、大倉喜一…佐戸井けん太、浜松平助…小野武彦、田所義男…西村雅彦、泉田てる…片平なぎさ