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ファイト (NHK総合月〜土曜8:15〜8:30)
連続テレビ小説
制作・著作/NHK
制作統括/鈴木圭
作/橋部敦子
演出/小林武(1)、伊勢田雅也(2、3、6、8、12、15、18、24、27)、東山充裕(4、5、20、23、26)、久保田充(7、11)、亀村朋子(9、13、17)、梛川善郎(10、14、16、19、22、25)、吉田努(21)
音楽/榊原大
題字・タイトル画(最終回出演)/西原理恵子
語り/柴田祐規子アナウンサー
出演/木戸優…本仮屋ユイカ、木戸啓太…緒形直人、木戸亜沙子…酒井法子、駒田琴子…川原亜矢子、駒田敏美…三原じゅん子、品川太郎…瀬川亮、駒田大和…おかやまはじめ、助産師…白川和子、川崎弘道…山口馬木也、木戸檀…田中冴樹、木戸希(最終回)…田中冴樹、亀井鉄男…沼田爆、中村洋介…山崎一、岡部聖也…三浦春馬、黒木里夏…垣内彩未、新庄厚志…及川以造、新庄(片岡)真理…佐藤仁美、竹中雅彦…升野英知、吉本健…石井智也、吉本(熊谷)志乃…松本加奈子、木戸檀(最終回)…八木俊彦、駒田哲也…谷山毅、ピエール・ペラン…フローラン・ダバディー、鬼塚…木村栄、青山真也…星智也、笠井竹子…宍戸美和公、山田松葉…猫田直、伊藤小梅…田辺ひかり、西郷ミサエ…藤森夕子、金井和也…小川隆市、カメラマン…田村円、記者…石本竜介、東野栞…田島穂奈美、北風楓…近野成美、南田萌…志田菜々子、小川助教授…市川勇、TVディレクター…大城英司、TVスタッフ…遠藤博之、琴子のアシスタント…荻原明子、作業員…加世幸市、バイト先の上司…森喜行、女将のかつ子…荒井洸子、安井葉子…神津はづき、熊谷洋二…東海幸之助、新井弘基…小林高鹿、木戸優(子供時代)…山口愛、林道彦…菊池均也、騎手…武豊、大山教授…原田大二郎、平田ふみ…菅井きん、手品の先生…マギー司郎、黒木修二…渡辺徹、今岡篤…井上順、高倉佳代…三林京子、西郷吾一…藤村俊二、西郷珠子…草村礼子、駒田絹子…由紀さおり、駒田隆行…児玉清、村上義高…田村高廣
ほか

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第16週「こころ」(7/11〜7/16放送)
☆☆☆
 副題とはいえ、朝ドラのタイトルらしきものに「こころ」ってつけるのは、あまりにも苦々しい試みではないか。登場人物たちにとことん意地悪なこの朝ドラであるならば、そのあたりの意図が含まれていたとしても驚きはしない。もちろん、ほめてるんですよ。何はともあれ、「こころ」は「こころ」でも雲泥の差を感じさせた(もちろん「雲」が『ファイト』)、優(本仮屋ユイカ)の思いのせつなさと、啓太(緒形直人)のとことんな不遇ぶりに泣かされた第16週だった。
 女将引退後に音大受験を宣言する絹子(由紀さおり)に触発される形で、将来は心に関する仕事につくべく高校に戻ることを家族に告げる優と、その言葉に心から喜ぶ啓太。この2人の周りにこれほど明るい未来が示唆されるのは、ここ最近ではまったく記憶にない。っていうか、もしかして初めて?!途中、岡部(三浦春馬)のイケメン化のおまけつき。
 その久々の幸福感が長く続くものでないことは、もはや言うまでもないだろう。琴子(川原亜矢子)と太郎(瀬川亮)の結婚話にショックを受けた優が、直後の琴子からの電話に精一杯明るく振舞う様があまりにも痛々しい。
 追い討ちをかけるように、結婚の挨拶にやって来た太郎に意表をつかれてうろたえる隆行(児玉清)の懇願により、優はその席に同席させられてしまう羽目に。普通のドラマであるならばコメディのパートになるはずのこのシーンも途端に悲痛なものに。太郎の人柄を聞き出そうと優に問うたはずの隆行だったが、そこで優の太郎を思う本当の気持ちを察して、それをそっと胸にしまう。途中のコミカルな児玉清はなかなか見られるものではない。その軽妙さに欠ける感じがむしろおかし味を醸し出してたり。
 せつない優の心情をサンドイッチするのは、もはや不運の鬼とも言うべき啓太の顛末。手と足の骨折で済んだと思われたケガが、神経に及ぶものだったとは。もはや啓太はその手で木戸のバネを作ることは出来なくなる?すぐに深く悩む自分が嫌いだった優が、人の心に敏感であることはむしろいいことであると絹子に励まされるシーンには、優ならずとも心を救われたけれど。(麻生結一)


第15週「まけない」(7/4〜7/9放送)
☆☆☆
 いつも肝心なことを何も話そうとしない啓太(緒形直人)に対して意地になる亜沙子(酒井法子)の思いをくんで、お正月には四万に来てほしいとの思いを電話で伝えようとする優(本仮屋ユイカ)だったが、電話に出た啓太(緒形直人)はまるで廃人のようなうわの空の受け答え。第14週の一人カラオケも悲痛だったが、この啓太の自失ぶりはそれを上回る。朝ドラ史上に残るダークな瞬間だったのでは。
 調子の出ない優は気分を変えるべく温泉に向かうも、運悪く琴子(川原亜矢子)と一緒に入るはめになり、太郎(瀬川亮)のことを思うにいっそう苦々しい気持ちに。琴子をお肌の3回目の曲がり角のおばさん呼ばわりして、真っ向勝負を挑む場面が夢で残念?! もちろん、男の子にもてるための雑誌を読むのは、四万に訪ねてきたタダの岡部(三浦春馬)のためではない。竹子(宍戸美和公)、松葉(猫田直)、小梅(田辺ひかり)の仲居連には人気絶大だったんだけど。
 川崎(山口馬木也)が亜沙子に訊ねた花の名前はフリージア。次回のカラオケで亜沙子が「風立ちぬ」を熱唱する伏線かと思いきや、明らかになったのは啓太と亜沙子が合コンで知り合ったとの事実の方。水場で花の手入れをしている亜沙子も、実際にはそれを言い訳に川崎の帰りを待つようになっていた。川崎は亜沙子をあえて「檀君のお母さん」と呼ぶことでしかもはや自制が効かないか。この2人のテーマ曲がねっとりとしていてなかなかいい。
 その直後に酔いどれの啓太から電話がかかってくれば、見るものはその落差に打ちひしがれるばかりかな。

啓太「教えてくれよ。俺って何だよ」

携帯は投げ捨てられ、その危うさはいよいよ頂点に。東京に上京する前に優に任務を託された隆行(児玉清)は、啓太を連れ帰るべく四万に誘うも失敗。大晦日の白昼、車道に飛び出す啓太を呼び止めたのは、その耳に届いた優の声だった。さらに東京滞在を延長させていた隆行は、生気を取り戻した啓太を再度四万に誘うことに成功。ここの啓太の復活はわかりにくかったが、ひげを剃るように促す隆行の含蓄にはしみじみとなる。
 大晦日のスペシャルステージでは5曲歌うか、女将の絹子(由紀さおり)。放送では「愛燦燦」の一曲のみは、アフリカの貧困撲滅を目的としたライブイベントLIVE8の抜粋版に同じ。火消しよろしく、亜沙子と川崎の間に割って入って無駄にバケツに水をくむ佳代(三林京子)が、おせち料理を残して久々の家族団らんを演出するあたりは心憎いところ。琴子は素敵も、私は私との境地が、自分らしい女将を目指す敏美(三原順子)の話から導かれるあたりもいかにもこのドラマらしい。
 年越しそばを食べながら来年の抱負を語り合う木戸家の人々の中でも、とりわけ啓太は高らかと木戸のバネを再び作ることを宣言する。すっかり元気になった啓太は東京を引き払って高崎に戻ることになるも、四万の帰りに川崎に気をとられて自動車事故に。第7週、第10週あたりがこれまでの中ではとりわけ心に残るが、この第15週は最初「はいじん」の副題かと思うほどに、啓太の有様は痛切に感じられた。本当の副題「まけない」も、ラストシーンまで見るとそれもアイロニーに思えてしまったり。(麻生結一)


第14週「すき」(6/27〜7/2放送)
☆☆☆
 啓太(緒方直人)が暮らす東京のアパートは、映画『ビッグ』の主人公が宿泊したニューヨークの安ホテル並にあまりにも物騒な場所に見える。優(本仮屋ユイカ)に電話してきた岡部(三浦春馬)のように啓太のファンを自称するものもいるに、いまやパンダと化したその啓太は優が訪ねてきても、お茶っ葉が残ってないので出すお茶もない。って、まだ東京に出てきた来たばかりだと思うんですけど。ただ、これだけ日々がんばってるのに、

優「何でがんばらないのよ」

って実の娘に詰め寄られちゃ、こみ上げてくるのはただ虚しさのみか。大都会・東京を久々にテレビドラマで味あわせられた瞬間だった。四万に帰る前にあんまん持参で再び啓太に会いに行った優だったが、東京には可能性なんかないと言う優に対して、ついに啓太は声を荒げてしまう。
 言葉もなく涙ながらにその場を去った優のつらさで実害をこうむったのはむしろ太郎(瀬川亮)だったか。カレシのお墨付きをもらってお泊り気分がいっそう盛り上がってきたところに、傷心の優が舞い戻ってきたおかげで琴子(川原亜矢子)のマンションを追い出される羽目になってしまう太郎。このあたりがベタな出入りコメディっぽくなるのは、このドラマにしてはちょっと珍しい感じ。
 亜沙子(酒井法子)と川崎(山口馬木也)は檀(田中冴樹)のケガをきっかけに再びいい雰囲気に。それにしても、夜の寝かしつかされ方といい、クリスマスプレゼントの中身といい、どうしても檀が幼稚園児に映ってしまって具合が悪い。だったら、そういう設定でも良かったのでは。
 14歳年下の太郎の部屋(?!)にお泊り後、駒乃間の事務所(?!)でゴロ寝していた琴子に、最近のドキドキを告白した亜沙子は自分のために生きてきた琴子に比べるならば、それぐらい許される心持を正当化しようとするも、啓太が就職したはずだった通信販売の会社がつぶれたことを琴子の口から初めて聞かされてショックを受ける。さらに亜沙子の感に触れたのは、亜沙子にそのことをしゃべってしまったことを、琴子が優に先回りして電話していたこと。友達のことだったらまだ仕様がない。でも夫の会社がつぶれたことを妻の私が知らないってどういうこと!、という亜沙子の吐露にはさすがに身につまさる。それ以上にショッキングだったのが、啓太の泥酔と一人カラオケの虚しさよ。これはちょっと痛々しすぎる。
 柴田祐規子アナの語りは、

ナレーション「琴子に教えてもらって作ったクッションを太郎に渡したいと思ったが、渡せなくなってしまった」

のくだりを何回リピートしたことか。おそらく実際の回数よりも印象が強くなった要因は、ここ数週間の地道な積み重ねに尽きるだろう。クリスマスカラーのクッションはそれ以外の使い道はなかったはずなのに、やはりそうなってみるといっそうせつなさがこみ上げてくる。副題は「むなしい」か「せつない」あたりだったかなと確認してみると、もっと直接的に「すき」だった。(麻生結一)


第13週「とうきょうへ」(6/20〜6/25放送)
☆☆☆
 優(本仮屋ユイカ)、東京で琴子(川原亜矢子)のアシスタントになる、という番外編風も、やがてきちっり主旋律に絡み合っていくあたりには抜群の安心感がある。物語自体のドラマテックはむしろハラハラさせてくれるのだけれど。
 駒乃館が宿泊客の少ない閑散期に入ったことで、敏美(三原順子)が東京に行く意欲に満ち満ちていると、社会勉強になるようなことがいっぱいあるのではと絹子(由紀さおり)は優の東京行きを推奨する。無念の敏美に提示された代替案は回る寿司屋って。
 うれしさいっぱいの優とは対照的に、啓太(緒形直人)は黒木(渡辺徹)に紹介してもらった新しい就職先の通販会社に意気込んで初出社するも、合理化のターゲットとなった会社はその日からなくなってしまっていた。啓太は黒木に仕事を紹介してもらったことを鼻で笑って、黒木に恨み言を連ねる。歯車はドンドンと狂うばかりか。
 好きなことを仕事にする琴子にあこがれを抱いて、優は東京で生活し始めるも、髪振り乱して夜中まで仕事と格闘する琴子の姿を目撃。テレビ番組で部屋を改装することになると、アイディアが浮かばずにますます必死に、というか単なるヒステリー化していった琴子は、これまでのいい人ぶりから一転、単なる悪い人になる。そんな琴子にカリカリとされる優は、だんだん申し訳ない気分になっていかざるを得ない。
 優は確信する。自分にしか出来ない仕事=誰にも助けてもらえない仕事の公式。正気を取り戻した(?!)琴子は、10のうち9がつらいことかもしれない好きな仕事についてしみじみと語る。広島東洋カープの野村謙二郎も2000安打を達成した際のインタビューで同じようなことをしみじみと言ってたっけ。それでも残りの1のうれしいこと、楽しいことの瞬間があるから続けていられるのか。この答えは、亡くなったおじいさんの思い出を大事にする平田ふみ(菅井きん)のためにいい仕事をした琴子には当てはまるかもしれないが、同じ東京の空の下で就職活動している啓太のことを考えると、まったくの正論もむしろ苦々しく聞こえてきたりして。
 インテリア小物の教室で作ったクッションを手にした優は太郎(瀬川亮)のことを思い浮かべるも、その太郎はもはや琴子とため口の関係。いつの間にそこまで!優はそんな2人の関係を知らない火種が少しずつ大きくなっていくフリがまた、このドラマにちょっとした影を加える。
 亜沙子(酒井法子)は意識するようになった川崎(山口馬木也)と遊びたがる檀(田中冴樹)が川崎を父親代わりに甘えることを心配するがあまり、川崎と衝突。ただ、檀はちゃんと啓太ただ一人がお父さんだとわかっていた。この第13週はほとんどが優の話も、このあたりの細かいフォローがあるからこそ、それが跳ね返ってくる形で優の話にも真実味が深まるのだ。
 檀曰く、バネを作ってる啓太はかっこいい。ただ、現状の啓太はパンダの着ぐるみの人。新宿都庁前でチンピラに絡まれて、それを助けたのが着ぐるみ姿の啓太だったとのエピソードは、東京の人口密度を無視するにもほどがあると思うも、こんなビターテイストで週をまたぐあたりにはやはり感心してしまう。汗だくの正義の味方となると、『ニコニコ日記』の最終週のガイセーバーを思い出したが、ここにはあの時のような爽快感はもちろん皆無だ。(麻生結一)


第12週「やりたいこと」(6/13〜6/18放送)
☆☆☆
 啓太と口論になって飛び出した亜沙子(酒井法子)は、川崎(山口馬木也)に連れられてのカラオケで「天使のウィンク」(振りつき)を披露。お宝映像です。もう一泊することになった啓太と亜沙子のために、敏美(三原じゅん子)が計らって優(本仮屋ユイカ)と檀(田中冴樹)を散らかってても気にしない敏美の家に泊めるも、2人きりになってもその気まずさは助長されるばかり。本当は妻でも母でもない一人の女として甘えたい気持ちを今までずっとそうしてきたように封じ込めてしまう亜沙子を酒井法子が切なく演じる。
 仲居見習いから仲居に昇格した優は早速太郎(瀬川亮)に報告の電話をするも、太郎は取り合ってくれない。それもそのはずで、太郎は休暇を東京で琴子(川原亜矢子)とボウリングデート中だったか。かなり前の隆行(児玉清)の予想が的中する形になるも、琴子と太郎のカップルは意表をついていてなかなか面白い。
 優が初めて一人で受け持った部屋には、ソフトボール部に監督である新庄(及川以造)と担任の片岡(佐藤仁美)が、

新庄「お忍び!」

で宿泊中だった。2人から話を聞いたことで、久々に里夏(垣内彩未)のことを思い起こした優は、やはりこの話題では琴子に電話せずにはいられなくなる。ここで優と琴子のホットラインを出したのはよかった。優が太郎に思いを寄せていることをこれまでよりも匂わせてきているだけに、ここに優、琴子、太郎に新たなる三角関係が出来た構図。このあたりの人間関係のクロスぶりはこのドラマが頻繁に繰り返す含みの部分だ。
 夢に見たサイゴウジョンコに会うため休日に高崎を訪れた優は、馬にケガさせないようにという思いが強すぎてか、馬がケガしてしまう夢ばかりを見る村上(田村高廣)の夢の話を聞く。何でもない話のようだが、やはり村上のエピソードにはことごとく感動してしまう。「電車を乗り間違えないように」のオウム返しにもニコニコとさせられる。隆行(児玉清)が疎開時代の話を聞かせるエピソードも含蓄があってよかった。
 工場にやってきた岡部(三浦春馬)に優が今の不安な気持ちを話すうちに思いついて連絡した里夏と再会。お互いを思いながらもそれ以上に言葉が続かない2人は、ソフトボールのフォームで川に向かっての石投げ合戦をする。次々と川に投げ込まれる石と2人の後ろに広がる青い空。相変わらず演出によって紡がれる叙情が実にいい。本当に自分がやりたいことを早く見つけるんだと誓う優の瞳も涙でうるんでるよ。
 工場を売ることを告げる啓太に優が問う。

優「それって負けるってこと?何も悪いことをしていないのに、負けたまま終わるってこと?」

優のあまりにもストレートな物言いが啓太にとっていかにショックであったかは想像に難くない。ここに優も工場を売ることに反対表明したことで、工場を売る気だった啓太の決意も大いに揺らいで、ついには前言撤回となる。その報告を受けた亜沙子としては、自分の反対意見は無視されて、まったく同様の優のスタンスにあっさりと心変わりした啓太の態度がわだかまりを募らせる。終いには、何にもないからいけないと、2人きりの夜のことを蒸し返してみるも、鈍感すぎる啓太には亜沙子がどうして怒っているのかわからない。このあたりの生々しさは、朝ドラとしては限界の領域を超えているかもしれない。
 東京の会社への就職が決まった啓太は、木戸バネ製作所の元従業員が集まって激励してくれるに、それが黒木(渡辺徹)の紹介であることなど言えるはずもない。人には言えないことばかりの集積はいかにもらしいビターテイスト。優が家族みんなに渡す贈り物の中では、当然啓太への目覚まし時計に一番時間が割かれるも、檀、亜沙子、優の目覚ましメッセージよりも啓太のそっけないお礼の電話の方にこのドラマとしての有り様があった気がする。(麻生結一)


第11週「あいたい」(6/6〜6/11放送)
☆☆☆
 啓太(緒形直人)と亜沙子(酒井法子)のWぎっくり腰は家族のプライドの話にまでも行き着くのか。しかも実にしみじみと。まず最初の琴子(川原亜矢子)と整形外科医の川崎(山口馬木也)のお見合い話のライト調が、優(本仮屋ユイカ)の仲居としての度重なる受難に連なっていくあたりもまったく予想できなかった。肩こり体質の琴子に対して川崎が伝授する肩こりに効く体操の音楽がラジオ体操第1であるあたりはいかにもNHKのドラマ。
 琴子と川崎にお茶を出した優(本仮屋ユイカ)は、お部屋までお客様に冷たい水を届けることを頼まれたにもかかわらず、お見合い話に注目する駒乃間の人々と話しているうちにそのことを忘れてしまう。女将の絹子(由紀さおり)に厳しく注意され、社会人として働くことの厳しさを知る優は、汚名返上とばかりに枕が合わないお客様のために綿を抜いて低い枕を繕おう。すると、その心遣いにお客様は大喜び。さぞかしグッスリ睡眠していただけたはずと翌朝出勤すると、何と枕の中に待針が残っていたと言うではないか。直接謝りに行こうとする優に、従業員のミスは全部私の責任だとピシャリと言う絹子の厳しさは、それがあまりにも真っ当であるだけにいっそう痛切に響く。
 すっかり落ち込んでしまう優も、いったんは優のお金で温泉に入れるわけがないとせっかくの招待を断った啓太から宿泊の予約が入ったことで元気が復活。ソフトボールの投球フォームから雑巾をバケツに投げ込んだ優に対して、敏美(三原順子)がストライクと告げるユーモアのほんわかあたりは、このドラマが決して明るさを失わない部分の典型だ。
 工場を手放すことを告げる啓太の言葉に対して、冗談じゃないと、プライドの問題だと亜沙子が激怒する週末回のその締めくくりこそが、何といってもこの週の山であった。家を売って工場を残した、そこまでして残した工場を売ると言う啓太の信念も何にもない行為に振り回されていただけなのかとの亜沙子の嘆きの言葉はかつてないほどに痛感させられるもの。ここでの酒井法子は途中台詞回しがおぼつかなくなるのだが、その感じがいっそう真摯に響くのだ。このテンションをもう一回、というのもまたちょっと難しかったのかもしれない。
 実際には前回会った檀(田中冴樹)の家出の際に、4人一緒に暮らせるようにしてほしいと訴えていた亜沙子の要望に、啓太ならではの真摯さで応えただけだったことを持ち出すと、亜沙子の態度に微妙に引っかかるものも出てくるが、家族全員が痛みを伴ってきた状況がプライドにかかわる部分を増幅させ続けているとここは思うことにして。それとも、その時々で真逆のことを言いつつも、その正しさがブレない亜沙子をある意味の賢者ととるべき?!
 何はともあれ、亜沙子は布団を干そうとして、啓太は冷蔵庫に食材をしまおうとしてほぼ同時間にぎっくり腰になる大胆な展開は、うっすらと深い絆も盛り込んであって大いに気に入った。啓太のぎっくり腰を優に伝える伝令役で、岡部(三浦春馬)も大活躍。啓太と亜沙子のギリギリの会話とのカットバックで、としみと見た流れ星に優がとっさの願い事する。バネ工場が早く動きますようにとは、この結びには大いに泣かされた。時間割をお姉ちゃんにそろえてもらう檀の年齢不詳ぶりはやっぱりどうしても気になってしまうのだけれど。(麻生結一)


第10週「おかあさん」(5/30〜6/4放送)
☆☆☆
 ついに駒乃館の仲居として働き始めた優(本仮屋ユイカ)のことを思い、何のためにバネを作ってきたのかという究極の問いに対して、娘を働かせてしまったことを結果と考えてしまう生真面目な父・啓太(緒形直人)と、傍らで仲居をしながら、その一挙手一投足に気をかける細やかさを見せる亜沙子(酒井法子)の2つの正反対の優しさに育まれる形で、優の食欲は完全復活した模様も、檀(田中冴樹)がドサクサにまかないの朝食を家族みんなで食べていることに関しては、他の仲居から陰口をたたかれている。
 この第10週でもっとも感激したのは、西郷(藤村俊二)と一緒に四万温泉にやってきた調教師の村上(田村高廣)の『破れ太鼓』ぶり!西郷と村上の奥さんに逃げられたコンビ(西郷は三度逃げられたらしい。女に二度刺された白川(藤竜也)『汚れた舌』)に匹敵する?!)に愛妻家の隆行(児玉清)を加えての晩酌もほろ酔い気分に、ジョンコがポッコポッコポッコポッコ歩いてる音から始まって、太鼓のバチを振るいはじめる村上、というか田村高廣の姿に目頭が熱くなる。
 CDデビューかかってたのに、喉の調子が悪くてサイゴウジョンコの応援歌を西郷の前で披露できなかった女将の絹子(由紀さおり)のショーの代わりになる形で(優の指導役の敏美(三原じゅん子)はその一節を披露してくれたけれど)、すかさず操る隆行のスポットライトに照られた村上、というか田村高廣の太鼓をたたく勇姿は、まるで『無法松の一生』の阪東妻三郎が乗り移ったかのよう。すでに就寝していたお客が全員起きてきたって、それは起きてきて聞く価値のある太鼓。目を閉じた優には快走するジョンコの姿が見えるよ。

ナレーション「がんばれ。そう語りかけられている気がした」

まさに思いましたね。
 啓太が熱心に見ていたドラマ『私は仲居でございます』で優になぞらえたいじめられる主演の仲居を演じていたのは、忘れたい朝ドラランキングでは必ずや上位につけてくるはずの『こころ』でヒロインの親友役を好演していた羽田実加。それにしてもテーマ曲は羽田健太郎作曲の『渡る世間は鬼ばかり』にそっくりだな。ひそかに“羽田”つながり?! 酒井法子の主演ドラマは『女将になります』でしたけど。
 お見合いのために駒乃間に戻ってきた琴子(川原亜矢子)と亜沙子のわだかまりはまだ完全には晴れていないみたい。才能に満ち溢れた琴子にお見合いなどせずに仕事を続けるようにと勧める亜沙子だが、琴子は現在の自分を才能の一言ですべてを片付けてほしくないと激怒したその勢いで、目前のお見合いをキャンセルしてしまう。
 檀が摘んできてくれた花を亜沙子が花瓶に入れたそれを優が旅館に置いたことをきっかけにして、亜沙子は絹子から駒乃間の床の間の生け花までも任された。趣味のフラワーアレンジメントをついに活かせるとやる気満々の亜沙子はいっそう忙しくなったために、ますます檀をかまってやれなくなることに。檀経由で優が仲居の仕事をしていることを聞きつけた佳代(三林京子)は、啓太(緒形直人)のもとに駆けつけてきて、その全責任は啓太にあると怒鳴りつける。たまったものではない啓太から電話でその憤りをぶつけられたためにイライラとしてしまった亜沙子は、亜沙子の帰りを寝ずに待っていた檀の夜更かしをきつく叱ってしまう。
 第10週の最後は檀の家出を描いたエピソードだった。温泉町を駆け回って檀を必死に探す優の姿が印象的。そういえば、優が走る姿は随分と久しぶりだ。高崎の村上厩舎まで一人でやってきた檀を最初に発見するのが琴子であることがミソである。琴子も幼いころ、母親の帰りを待ち、待ってたことを知られないようにして寝ていたのだ。
 お母さんのところには帰らないと頑な檀に、優が亜沙子のもとに、檀は啓太のもとにと最初の構図を完全逆転させるぐらいの意地悪はこのドラマならばやるのかもと思ったが、そうはならなかった。ところで檀って何歳でしたっけ? 小学生にしては幼すぎるような気もするが、背負ってたのがランドセルとすると。(麻生結一)


第9週「はたらく」(5/23〜5/28放送)
☆☆☆
 四万温泉で暮らすことになった優(本仮屋ユイカ)の空白の日々を埋めてくれたのは、女将の絹子(由紀さおり)に言いつけられた駒乃館の細々としたお手伝いの数々。本当は学校に戻ってほしい啓太(緒形直人)の気持ちとは反対に、優は仲居になりたいと四万温泉の旅館に片っ端から就活をかけるも、16歳の優を相手にしてくれるところがあるはずもなく。最初は優が働くことに反対していた亜沙子(酒井法子)も、その懸命な姿に仲居見習いとして優を置いてほしいと絹子に頼み込む。
 とりあえずのことではなく、やりたいと思ったことをやりたいと言い放つ優の真っ直ぐさもきっぱりとしていていいが、いつになったら自分のことは自分のことで決めていいのかという優の問いに、やめた方がいいことにはずっと反対すると答える亜沙子の決然とした親心も実にいい。
 33歳のときに25歳と年齢をサバ読んで仕事を物にした経験を持つ敏美(三原じゅん子)に手を借りた大人っぽく見えるメイク作戦が失敗した優の顔を見て、ふきだす亜沙子もケッサク。反対するしか能のない啓太とは間逆の包容力を見せた亜沙子がこの第9週は断然輝いて見えた。(麻生結一)


第8週「しんじる」(5/16〜5/21放送)
☆☆☆
 学校に行けなくなった優(元仮屋ユイカ)は、唯一真実を話せる相手、琴子(川原亜矢子)に誘われて東京へ。その際に東京競馬場での中央競馬に初めて出場したサイゴウジョンコのレースを観戦すると、いきなり初勝利の目撃者になってジョンコと一緒にテレビに映っちゃった!それに唯一気がついた檀(田中冴樹)が口を閉ざすあたりは、なかなかに節度がある?! 応援する気満々の隆行(児玉清)をちゃかす絹子(由紀さおり)こそが応援歌を熱唱するあたり、メインストーリーの過酷が際立つ中にあってのコメディロールのすべてを、駒乃館が受け持っている印象。サイゴウジョンコを知らない亜沙子(酒井法子)は新聞も読まないし、ローカルニュースも見ないと推測される。
 太郎(瀬川亮)に学校へ行っていないことをお父さんにだけは言えないと語って優が外に出た途端、厩舎の前に父・啓太(緒形直人)が立っているあたりの痛切さはこのドラマならではのよさだろう。ただ、子供を心配するあまりとはいえ、仲居の仕事を長々と休んでしまう亜沙子はあまりにもおざなり。代わりに、掃除の達人として敏美(三原じゅん子)をしごく助っ人として、最初は檀の付き添い役だったはずの佳代(三林京子)が大活躍って、面白キャラたちの勢いを借りてそのあたりの不都合をうやむやにするつもりだった?!
 印象的だったのは、優がジョンコを抱きしめて泣く姿と、琴子が亜沙子に優から聞いた話を尋ねられても決して語らず、そのたびに3回謝ったシーン。前者は見せ方のうまさだし、後者はこれまでのお話のタメの部分がここに効いていた。まさか亜沙子と琴子も優と里夏(垣内彩未)みたいなことにならないと思うけど。
 亜沙子と一緒に四万温泉へ行くことになった優と、千載一遇のチャンスだったG1を走らずに休ませることになった群馬競馬の星・サイゴウジョンコの境遇が重ねあわされたところで、第8週は美しく結ばれる。啓太のあまりの頑なさも、あの事件の時には優が啓太を信じたんだから、今度は啓太だって優を信じてあげてと亜沙子に頼まれたときに、自分の責任だからこそ優を学校に行かせるんだと真摯に思うところまでくると、なるほどと思わせた。第9週は駒乃館にメインが移るとなると、啓太の居たたまれなさは孤独感ともない交ぜになっていくのだろうか。

「ごめんね」

とお互いに声をかける優と里夏の余韻も格別だ。ただ、魂の第7週と比べると落ちるか。その余韻分を含んでの第8週だった気がする。(麻生結一)


第7週「ともだち」(5/9〜5/14放送)
☆☆☆★
 昔の朝ドラには「魂の」と括りたくなるような週がたくさんあった。ここ最近はそういう思いにさせられることは皆無だが(出来ばえは優秀だったが、『てるてる家族』は別カテゴリーにつき)、この朝ドラの第7週はまさに魂の週だった。
 週頭に「これまでのファイト」と題してストーリーの総おさらいがされるも、ここで費やされた時間はたったの20秒。不出来な朝ドラであるならば、毎話ごとに1分ほどの復習があったりもするので、そのあたりで時間稼ぎしないあたりも実に潔くていい。里夏(垣内彩未)に仲直りを提案されるも、優にだって意地がある。そのことは啓太(緒形直人)や亜沙子(酒井法子)には相談することができないのだが、琴子(川原亜矢子)にはすんなり告白出来てしまう。ここでの優と亜沙子と琴子の人物の距離間があまりにも危うくて絶妙だ。
 啓太に会いに来た黒木(渡辺徹)の言葉から、里夏が優との不仲を隠していることを察した優の心境に変化が。里夏を含む友達グループの輪に自ら入っていき、教室に再び居場所を確保する。そして二度と居場所を失いたくないと思う。ここの容易さがこの第7週のミソで、程なくして啓太のことを悪く書いた里夏から他の友達へのメールを偶然目にしてしまったところに、優の心持が何倍ものつらさとして身にしみてくる。里夏の裏切りを擁護する優の電話には、聞き役になる琴子ならずともいたたまれなくなった。
 付き合いカラオケの感想をメールで聞かれた友達の栞(田島穂奈美)に嫌われたくないばっかりに調子を合わせているうち、口に出してしまう。

優「お父さんのことはほっとくしかないって思ってるんだよね」

その会話を夜のゴミ分別のバイトに行ったはずも忘れ物を取りに帰った啓太に聞かれてしまって……。父・啓太を傷つけ、悲しませ、裏切ってしまった優。朝、弁当の具をつめる啓太の背中があまりにも寂しい。裏切られたのかとの村上(田村高廣)の問いに、友達=里夏に裏切られ、お父さん=啓太を裏切ったと答える優の真摯さにも胸が締め付けられたが、そのことをよくあることと答え返す村上の含蓄にもしみじみとなった。
 実はしばらく前から熱があった啓太が作ってくれた不恰好な玉子焼きは床に落ちて里夏に踏みつけられてしまう。そのことで何かが失壊してしまい、私のお父さんは間違ったことを何もしてないと優はみんなの前で言い切る。
 とんこつラーメンが好きな太郎(瀬川亮)に優は問う。ラーメンに塩かしょうゆしかなかったらどっちを選ぶ?さらに、テレビと冷蔵庫のどちらか捨てなきゃいけないとしたら?そして最後に聞く。親友と父親のどちらか一人しか助けられないとしたら? 塩とテレビと父親を選んだ太郎の答えに涙して、その場を飛び出す優。その後を追う太郎。その様を見て

村上「女、泣かしちゃいけねぇな」

って。このシリアスなシーンにこれほど笑っていいのかと思えるほどにこの魂の週で一番笑った場所がここ。
 本当は里夏のお父さんこそが悪いと強く断言してしまったことを後悔した優は、泣きながらまた琴子に電話する。また一人になっちゃうと。ところが実際は、

ナレーション「一人にならずにすんだ」

すんだどころか、逆に里夏がみんなからシカトされることに。東京土産を一人一人に手渡す栞も、里夏の分はない。実際は栞がもっとも悪い?! 優は里夏を助けたいと思うも、自分を守るためにはそれも出来ない。黒木が言った「何かを守るために、誰かを傷つけなければいけないことがある」との言葉をそのまま黒木に返す優は、里夏を傷つけて平気でいることなど出来るはずもなく、自分を責め続け、そして学校に行けなくなる。
 電話が鳴ってドキッとすると檀(田中冴樹)からだったり、契約書のサインが携帯購入のためのものだったりといったもったいつけといて意図的にはずしてくるような場面のタメもいいのだけれど、やはりソフトに専心する里夏と自転車の優が視線を合わすことなくすれ違う場面が心に残る。群馬競馬最強となって、中央競馬に昇格する絶好調のサイゴウジョンコとはあまりにも対照的な優の行き着く場所にただただせつなくなった。この魂の週を見てしまうと、このドラマを他の連ドラ群とは同列に考えたくなくなる。(麻生結一)


第6週「ありがとう」(5/2〜5/7放送)
☆☆☆
 厩務員の太郎(瀬川亮)がいい。木戸バネ製作所が世間を騒がせていたときにニュースを見ていないがために、優(本仮屋ユイカ)に対して同情的じゃなかった態度をいまさらながら謝る週冒頭に、このキャラクターの優しさがにじみ出ている。ソフトボールをやめた優に対して、

太郎「情けねぇな」

と一蹴するあたりも、全然いやみにならないあたりが不思議に魅力がある。優の提案によるサイゴウジョンコ初勝利の記念品はシャープペンだったか。
 部活をやめたことで夕食当番になった優の料理って、いつも大丈夫レベル?! 工場に引っ越したことを岡部(三浦春馬)に聞いてやって来た里夏(垣内彩未)に対して、やりたいことが見つかったと言い切る優だったが、当然やりたいことなんか見つかっているはずもない。何はともあれ、監督(及川以造)の弁当当番制は監督自らの声で廃止になった模様。優が里夏に誇らしくするところも何となく悲しい。
 友達とうまくいってないことを琴子(川原亜矢子)に告白する優は、お母さん=亜沙子(酒井法子)に言わないでほしいことが増える一方。この積み重ねは近い将来に母と娘の関係に影響を及ぼすのだろうか。
 仲居として一人立ちする亜沙子の最初のお客様は、一お客として駒乃館を訪れた母・佳代(三林京子)だった。援助のお金を受け取らない亜沙子に対して、佳代が心づけとして渡した5万円も、従業員で分けると言われてすぐに引っ込めるところまではごく普通の展開だが、ここでの佳代のコミカルは「星空の小径」を熱唱し終えた絹子(由紀さおり)に娘を頼むと頭を下げるシーンと対になって、その優しさがグッと引き立つことに。
 酔っぱらって夜中に工場を訪ねてきた黒木(渡辺徹)が啓太(緒形直人)に被害者面して俺を苦しめるなと絡む。その2人の背中を二階のガラス越しに見つめる優の視線にはドキッとした。ここは工場らしい建物の構造があってこその演出。黒木が啓太を裏切ったと面と向かって言われた黒木は、「お父さん、本当は悪いことしたんじゃないの」と里夏にも言われていたか。もはや仲のいい先輩後輩には戻れない啓太と黒木のように、優と里夏の関係も余計にこじれるばかり。
 四万温泉経由で工場を訪ねた(?!)佳代は、いつもの特上寿司ではなく、大特上5人前をとってくれるも、啓太にはそれがいやみに感じられて。ごま油のおつりも今の啓太には屈辱620円か。檀(田中冴樹)こそがかわいそうと佳代が啓太を責めているところもまた、優は目撃してしまう。
 副題「ありがとう」が直接かかっていくところは、木戸バネ製作所の従業員たちとの別れの日のエピソードだ。もう使われないかもしれない工場の機械たちに対してありがとうと言っているかのように手入れをする従業員たち。優もまた机の引き出しにしまいこんでいたグローブを取り出して、最後の手入れをする。このあたりの挿話と挿話のかかり具合も、工場を去る従業員たちの後姿が、お見送りのときの後姿でお客の満足度がわかると言う絹子の話と響きあうあたりもきれいにまとまっていたが、ここでは退職金の中身の方にむしろ気がいってしまって。
 週の最終日は従業員たちを一緒に見送った木戸ファミリーの悲喜交々。子供たちへの負担よりも工場を残すことを選んだ啓太に対する亜沙子のキツイ言葉はちょっと中途半端な気がした。優と啓太の含んで雄弁な関係に比べると、この夫婦の絡みは今のところ不完全燃焼気味。週終わりにあまり暗くならないようにとの配慮もあったかもしれないが。対して、ソフトぐらい好きなことが見つかるといいねと亜沙子が優を抱きしめる場面はその余韻が心に残る。
 毎回感心させられるのが、しみじみとショッキングな予告編。ドラマティックな展開を予見させるので、次週がいっそう楽しみになってくる。(麻生結一)


第5週「がんばらなきゃ」(4/25〜4/30放送)
☆☆☆
 「がんばらなきゃ」と題された第5週の冒頭、四万温泉で仲居の生活をすることになった母・亜沙子(酒井法子)と弟・檀(田中冴樹)の生活を表して、

「朝に早い」

とのナレーション。「朝が」ではなくて、「朝に」なんですよね。このあたりのナレーションの個性が何となく凛とした印象でこのドラマに似つかわしいように思える。絹子(由紀さおり)が優しいおかげか、隆行(児玉清)に切り絵の弟子入りをした檀の潤滑油的な存在ゆえか、亜沙子はむしろ生き生きしているように映る。
 夏休みに入ってからは9時から5時までのソフトの練習をこなしていた優(本仮屋ユイカ)は、相変わらず気まずい元親友の里夏(垣内彩未)とのホームでのクロスプレーの際に膝の靭帯を痛めてしまう。この時点で病院に行ってれば……。
 一番つらい存在は父・啓太(緒形直人)か。家を売りに出すも、見学者には必ず「バネの社長」と気づかれてしまい、うまくいかなかった人の後には絶対住みたいくないって言われちゃったら立つ瀬がないでしょ。ゴミの分別の深夜のアルバイトに汗水たらして励むさまもすごい。サラブレッドな緒形さんご自身がこういう経験をされたことはあるはずもないだろうが、いかにも昔からやってた人に見えてしまうから大したものである。思わずソファーで居眠りするさまも痛ましい限り。手伝おうとする優に「体が慣れてないだけ」と逆にいきり立つあたりも、このキャラクターならではの誠実さの空回りぶりに説得力がある。
 駒乃館のステージで熱唱する絹子の歌(今週は「川の流れのように」)が艱難辛苦の味付けとしてバックミュージック的に使われるやり方は今後も継続の模様。今回は工場に引っ越すため家を出るシーンに流れてきてほろり。
 10日間のジョンコ断ちが功を奏したか、新庄監督(及川以造)に足を見込まれた優は次の大会のベンチ入りメンバーに選出されて、異例の背番号16を渡される。早速ジョンコに報告に行くも、そこには本意ではなく続けていたという「お部屋素敵にチェンジ」を降板した琴子(川原亜矢子)の姿が。親を安心させるために無理してテレビに出ていたとは、よさそうに見えても人それぞれいろいろあるということか。そんな琴子と重ね合わせて、いつしか親のためにソフトをやっているのかもしれないと優が思い当たる場面、自転車のチェーンが外れちゃうんですよね。送られてきた檀の切り絵に書き添えられた、「ソフトがんばってね」という亜沙子の一言が重たい。
 大量リードに守られて、準決勝で当番の機会を与えられる里夏だったが、優にはまだ出番が回ってこない。病院で見てもらって、膝はもはや激しい運動が出来ないほどまでに悪化していた。

亜沙子「あんなにソフトが好きでがんばってたのに」

との台詞は先週の予告編で使われていたときにもグッときた。

ナレーション「もうソフトをがんばらなくてもいいと思ったらなぜかホッとした」

という優の気持ちも痛々しいほどに実感がある。
 ついに決勝戦。部活をやめると告白する優に、引き止めないと決然と言いきる里夏のやり取りにこのドラマのよさが詰まっている。0対0で迎えた最終回。代走で起用された優はいきなりに二盗。膝の痛みを知る勇太が心配そうに見守る中、ヒットが出て一気にホームをおとしいれる。ジョンコのお守りの鈴を鳴らしながら激走する優も感動的だが、スライティングがあまりにも本格的だったのでそちらにも妙に感心してしまった。この場面に費やされた投球は3球で、これぐらいのテンポ感がドラマ的にはリアリティを失わない程度に一番心地よいところ。
 いっそう痛快なのが、優が監督にソフトをやめることを告げる場面で、真っ先に部員が監督のお弁当を作る伝統は変だと言い放つところ。湿っぽくなるところでそうならない潔さが望ましい。ピーマンの肉詰めが入ってなかったと返す監督はこれが見納めか。
 初めて買ってもらったグローブを胸に抱き、優は初めて涙を見せる。ソフトをやめてソフトが好きでたまらないことに気づいたという最後のナレーションは、人生に断念はつきものと突き放しているようにも聞こえる。唯一の希望の光だったのは連戦連勝のサイゴウジョンコ。敵に勝ったんじゃなくて自分に勝ったジョンコは不安や恐れと闘いながら走り続けるしかないという村上(田村高廣)の言葉こそが、このドラマの大テーマなのだろう。(麻生結一)


第4週「さよなら」(4/18〜4/23放送)
☆☆★
 誰もが悪いのは和田倉商事だとは知っているも、大手に逆らったことへの見せしめとして横並びに注文が途絶える木戸バネ製作所。健(石井智也)と志乃(松本加奈子)のできちゃった結婚以外には明るい話題もなく、工員たちの自宅待機もついに限界に。工場をつぶさないための最後の手段として、つい先日亀井(沼田爆)に殴られたばかりの黒木(渡辺徹)に対して啓太(緒形直人)は頭を下げるが、お前は負けたのだと黒木に諭される。
 父親たちの関係性のままに、優(本仮屋ユイカ)と里夏(垣内彩未)の仲も険悪なものに。会社のごたごたを知った優は気もそぞろに、自転車から転倒して足首を捻挫し、せっかく掴んだ背番号15をよりによって一番渡したくない相手、里夏に奪われてしまう。ユニフォームに縫い付けた背番号を切り取って里夏に手渡しする場面の意地悪さは、いかにもこのドラマらしいテイストだとだんだん思えてくる。
 教室で居場所をなくした優は、足をいかしたバッティングでソフトにかけるも、なかなかうまくいかない。工員の退職金を作るため家を売るのか、工場を売るのかで啓太と亜沙子(酒井法子)は対立。亜沙子から檀(田中冴樹)を連れて四万温泉の駒乃館で仲居をやると告げられて、学校から逃げるために自分も一緒に四万に行くと言うも、ソフトをやりたかったから風花女子を選んだんでしょと言われたら、返す言葉もないか優。
 村上(田村高廣)が語る競走馬の子別れの話に優は自らを重ねて、その夜に優は壇にお父さんとお母さんと離れ離れになったサイゴウジョンコが一等賞になって、再びお父さんとお母さんと再会する話をすると、翌日のレースでそれが正夢になってジョンコは見事一着に。つらいことばかりが起こる中での唯一の希望がこのエピソード。
 豪快に焼肉のタレを飲み干していた壇がタレ断ちしても、みんなと一緒に住みたいと涙を流す場面に、なるほどだから壇はタレ好きの設定だったかと納得させられた次第。高崎駅でのラストシーンはまさに第4週の副題「さよなら」のままに。(麻生結一)


第3週「ただしいこと」(4/11〜4/16放送)
☆☆★
 第3週の副題は「ただしいこと」。どうやら副題はひらがなで統一される模様で、そうなると第2週の内容に即した提案副題も「きれつ」になるも、いくらなんでもそれは変なので、ストレートな「すりかえ」の方がふさわしいように思えてくる。
 大人からしてみても、グループのみんなと気まずくなるのは大問題だけに、里夏(垣内彩未)の裏切りを知ったとて優(本仮屋ユイカ)がトイレについて行くのは「ただしい」妥協点。あれほどの裏切り行為もアイスですべてをご破算にするアイスに弱い優のおかげさまで(?!)、優んちにお泊りの運びとなって仲良しこよしが一時的に復活。
 口が滑って和田倉商事の不正という「ただしいこと」を上毛工業新聞の記者・新井(小林高鹿)に話してしまった啓太(緒形直人)はそのことを告げるべく黒木(渡辺徹)に連絡をとるも、おいしいものをいかにもたくさん知ってそうな黒木がローストビーフとケーキ持参で先回りしてまさかの木戸家訪問。登場人物たちも感じ取っていないバツの悪い空気をすでに視聴者側には知らされているという苦々しさは、朝ドラ的には特異なことであるような印象かもしれないが、実際にはこのビターテイストこそが朝ドラの得意技だということはここ最近の旧作再放送で思い知らされているところ。このあたりはここ最近の出来ばえ自体がビターテイストな朝ドラ群とは大違いである。不正の暴露記事が新聞に出ることを告白するシーンでの、緒形直人と渡辺徹のやり取りには大いに見ごたえがあった。
 記事が出たその日から、里夏は学校に来なくなる。優と里夏のクラス担任・片岡役は、現在の再放送枠『あすか』の準ヒロインだった佐藤仁美だが、今のところ見せ場はまったくなし。
 弱いものがいくら「ただしいこと」を言ったとしても、強いものにつぶされてしまうのが世の中の常。和田倉商事は今回のバネ疑惑(ニューステロップのまま)を単なる伝票ミスと記者会見で発表。久々に学校に来た里夏からは啓太のしたことを売名行為とののしられ、しょげる優は木戸バネ製作所に群馬からっかぜテレビ他の取材が来てもコメントしない啓太にどうして「ただしいこと」をしゃべったのかと言い捨てて家を飛び出し、サイゴウジョンコの厩舎で真夜中に一人泣き続ける。ニュースを見ていない太郎(瀬川亮)や長いことケンカをしていないとファイティングポーズをとる村上(田村高廣)の優しさには、優ならずとも救われる後味のよさ。
 木戸バネ製作所に謝罪に訪れた黒木からは、自粛という名の実質上の取引停止を言い渡される。報道陣を前にして、木戸にしか出来ないバネ、自分の作ってきたバネに誇りを持っていると啓太が語る場面は感動的なところなのだろうけれど、実際には口が滑っただけだけに微妙なところ。どんなに深刻な状況に追い込まれようともおなかがすいたり(啓太の夕飯予想は的中のカレー)、テレビ映りのシャツが気になったりといったあたりに気が向くディテ−ルがいい感じ。
 私のことはどうでもいいといいつつ、すべての行いを自分に照らしてあわせて亜沙子(酒井法子)を励ます琴子(川原亜矢子)の電話も、四万温泉・駒乃館の隆行(児玉清)の陣中見舞いも、はたまた絹子(由紀さおり)の「寒い朝」の熱唱も(懸命な木戸家の人々の前途を物語るBGM?)焼け石に水とばかりに、注文書は工場に一通も届かないところで、いっそうの苦々しさを予測させてまた来週。(麻生結一)


第2週「すりかえ」(4/4〜4/9放送)
☆☆☆
 副題の「すりかえ」は啓太(緒形直人)の大学時代の野球部の先輩である黒木(渡辺徹)が勤務する取引先の商社が木戸バネ製作所のバネをすりかえていた事実によるものだが、優(本仮屋ユイカ)と里夏(垣内彩未)の友情関係にも軋みが出てくるドラマのW展開的には「亀裂」あたりの方がしっくりとくるかもしれない。
 女子高生にして一人で競馬観戦する優が見守る中、ついにサイゴウジョンコがデビュー戦をむかえるも、もう一伸びが足りず勝てなかったのは予想通り。雨が降ったらタオルを持って部員全員が走ったり、弁当当番まであったりして、絶対的存在であることをいっそう印象づける監督(及川以造)への批判を、練習についていけないことの言い訳だと亜沙子(酒井法子)にズバリと言い当てられて落ち込んでしまった優に対して、調教師の村上(田村高廣)が投げかける「競走馬は何のために生まれてくるのか?」との問いが実に厳しい。早く走れない馬は処分されてしまう。子孫を残すことさえも許されない。そんな競走馬としての宿命をわかっているのか、ジョンコはどんな大変なトレーニングにも一所懸命。そんな血統のよくないジョンコに自分を重ね、優が走り出すシーンを見ながら、この朝ドラは大丈夫ではないかと思った。ヒロインへの眼差しに上滑りした感じがないあたりが上々だった月曜日。
 亜沙子が腕をふるった豪華な弁当のおかげか、ピーマンの肉詰め大好物だった監督の覚えがアップ。ところがそのことで、先輩から目をつけられてしまう?! ほんの一瞬流れる嫌な空気にハラハラとなるも、足の速さを生かして右打ちから左打ちに転向するように監督から言い渡されて、ソフトへの情熱が蘇る優。なぜ左打ちかの講釈入りは、男性脚本家だったら書かないかも。ここで目を閉じて、セーフティバントを決める様をイメージするシーンに演出の幅をみた火曜日。
 フラワーアレンジメントのバイトに採用された亜沙子が土鍋の懸賞募集に躍起になっているのと、短大時代からの親友・琴子(川原亜矢子)が自分のお金でポンと馬主になっちゃうあたりの格差に、ここに深い嫉妬が生まれてしまうのかと思いきや、琴子のように自分にしかできない仕事を見つけてほしいと願う亜沙子と優との母娘の会話にほのぼのしさが漂っていい感じ。啓太がばねのすりかえを指摘すると、黒木は何も気がつかなかったことにしてほしいと頭を下げて頼むシリアスなエピソードとの対照にバランスのよさを感じた水曜日。
 当然自分がもらえるものだと思っていた里夏ではなく、予想に反して優が背番号15をもらったシーンが体育館だったのは、背番号をもらえたら厩務員の太郎(瀬川亮)にチョコレートパフェをおごってもらう約束も、部活がない日じゃないと難しいから雨の日=体育館だったのかな。俊足の左打ちは、確かにベンチに一人ほしいところ。
 いくら昼間の睡眠中に叩き起こされたとはいえ、約束を果たすべくお金だけ渡す太郎ってどうなの?代わりの冷蔵庫のアイスバーで納得する優もどうかと思ったけど。雨の中、厩舎に寄りかかってそのアイスを食べるシーンにはしみじみとなる。
 納得いかない仕事はしないとの啓太のコメントが職人気質を思わせる工場の取材記事が新聞に載ったことで、いっそう深まる啓太のジレンマ。亜沙子は周りにそのことを言いふらすも、工業日報じゃ普通の人は取ってませんよね。ご機嫌だった亜沙子に啓太がバネのすりかえのことを打ち明けたことで、いったん二人は険悪な雰囲気になるも、啓太は従業員たちの生活を守るために取引きをやめない決断をする。15分の中にいろんな要素が盛りだくさんだった木曜日。
 ベンチ入りメンバーから外れたことで、里夏はソフトボールの練習をサボり始める。仕事との口実で携帯電話を購入した亜沙子から指摘されても、優は決然と里夏も持ってない携帯は必要ないと言い切った矢先、里夏はつるんでる友達につきあってもらって携帯を購入する。
 うれしさのあまり、用もないのに亜沙子は琴子に携帯で電話するも、仕事で徹夜明けの琴子は不機嫌。おかげさまで目が覚めた琴子は村上厩舎を訪れて自分の馬にタロウと名付けるも、そのタロウの世話してる厩務員も太郎ですから。啓太は黒木から携帯で居酒屋に呼び出されて口論に。授業中には里夏たちは携帯メールのやり取りで、優は疎外感を感じる。携帯づくしだった金曜日も、優の焦燥を言い当てる突き放したようなナレーションはここでも健在。
 部活をやめると言い出す里夏から、みんなと合わないのと問われた優が、一緒にトイレに行くのは絶対変と指摘するも、これは二人だけの内緒の話と釘を刺すのは当然の成り行き。ところがその直後に里夏がその話を友達に暴露してるところを優は目撃してしまう。自分から言い出したくせに、優のことを悪く言わないで、と念押ししてる里夏がいっそう嫌な感じで怖い。
 木戸バネ製作所の記事を書いた記者の新井(小林高鹿)が訪ねてきたことで、啓太(緒形直人)は工場で一緒に酒を飲むことに。自分をごまかしながら納得できない仕事をしていると愚痴る新井に自分の仕事にプライドを持ってることを絶賛される啓太は、つい黒木(渡辺徹)の会社の不正をしゃべってしまった。オフレコでとのつもりも、新井はそのことを記事にすると言い出す。ここでも優と啓太の置かれている状況が薄っすらと対になってるのか。このあたりの手厚さに手ごたえを感じつつ、第3週目にも期待したい。
 ちなみに、ピアノ協奏曲風のテーマ曲は群馬交響楽団の演奏で、地域密着型は徹底されている。(麻生結一)


第1週「しあわせ」(3/28〜4/2放送)
☆☆★
 待ちに待った新しい朝ドラで、出足は上々と言えるだろう。本仮屋ユイカは元気のよさとナイーブさのブレンドがとても朝ドラヒロイン的で清々しい。朝ドラ史上最低視聴率のスタートも、負の遺産を引きずってのものであろうから気にするなかれ。不安要素は「である」調のナレーションだが、これが味になってくればむしろ名物となるかもしれない。
 群馬県高崎市が舞台で、主人公・優(本仮屋ユイカ)は中学3年生。毎朝通学路にある競走馬の厩舎に寄り道するのが日課で、部活のソフトボールに熱中している。

ナレーション「優は足が強い」

の連呼は、ソフトボールと馬がかかってのことだろうか。
 中学生活最後の県大会の決勝戦、最終回ツーアウト二塁三塁の場面で親友の里夏(垣内彩未)をリリーフしてマウンドに上がった優。見事ピッチャーゴロで打ち取るも、一塁へ悪送球してしまってサヨナラ負けを喫してしまう。試合後、優は自分のせいで負けたと言ってほしいと頼むも、里夏からはっきりそう言われちゃうとやっぱり落ち込んじゃうあたりの微妙なニュアンスは、前の朝ドラやその前の朝ドラあたりにはなかった丁重さ。このあたりの細やかさを今後も大事にしてもらいたいと切に願う。
 進学校の高崎中央女子高校に行ってほしかった母・亜沙子(酒井法子)の思いを振り切って、ずっとランクが下のソフトボールの強豪校・風花女子高校に進むことを決意する優。当然合格するも、一緒に入学した仲良しこよしの里夏もランクを下げたんだろうか?
 名前のないお気に入りの馬の異変にいち早く気づいた優は、感謝する馬主の西郷(藤村俊二)から名付け親を頼まれる。優が思いつきでつけたとしか思えない名前は「サイゴウジョンコ」。それにしてもなぜ「ジョンコ」?
 先輩たちが「監督!」と呼びかけて指導を受けている様をからかっていた優と里夏。ところが、優の方が最初にタッチアップの練習に指名されたことに焦りを感じてか、スライディングの際に手を負傷した優の隙を突いて、里夏は監督(及川以造)に素振りの指導をあおいで媚を売る。

ナレーション「ただそれだけで、友達に裏切られた気がした」

第1週で一番印象に残ったのがこのエピソード。このテイストこそが朝ドラの朝ドラたる痛さだ。随分と久しぶりの感じだけれど。
 破棄のない優とは対照的に、監督にスパルタ指導を受ける里夏はついにユニフォーム組に。全然期待されてない自分と、大した血統じゃないサイゴウジョンコを優が重ね合わせるあたりにはしみじみとなる。素振りに持ち帰ったバットが重過ぎることを監督に指摘されて、

ナレーション「完全に見放された」

って、随分と突き放すなぁ。このナレーション、結構面白いかも。
 父と息子のキャッチボールはよくあるけど、この父・啓太(緒形直人)と娘・優のキャッチボールもなかなかいい。サブキャラでは、焼肉のタレをストレートで飲む弟・檀(田中冴樹)が随所に笑わせてくれる。優の祖母・佳代役の三林京子はBKの朝ドラ専属じゃなかったんですね。(麻生結一)




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