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華岡青洲の妻 (NHK総合金曜21:15〜21:58)
金曜時代劇
制作・著作/NHK大阪
制作統括/谷口卓敬
原作/有吉佐和子
脚本/古田求(1、2、6)、森脇京子(3、4、5)
演出/野田雄介(1、2、6)、勝田夏子(3、5)、中寺圭木(4)
音楽/牟岐礼
語り/渡辺美佐子
出演/加恵…和久井映見、華岡青洲(雲平)…谷原章介、於勝…中島ひろ子、小陸…小田茜、妹背佐次兵衛…楠年明、良庵…三上市朗、民…和泉敬子、米次郎…久保山知洋、利兵衛…大鷹明良、小弁(4才)…藤川博歌、小弁(10才)…村崎真彩、加恵(8才)…我妻瞳、華岡直道…石田太郎、豊…根岸季衣、於継…田中好子
ほか

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最終回「永久の花々」(3/4放送)
☆☆☆★
 のっけから飛び出す渡辺美佐子によるナレーションの縦横無尽ぶりが圧巻だ。加恵(和久井映見)の内助の功を称える村人の噂話までも肩代わりしてしまうだなんて、面白すぎます。
 加恵との魂の和解をとげた於継(田中好子)がこの世をさってから早ニ年。帯刀を許されるまでの身分になった青洲(谷原章介)は紀州に並ぶもののない医師に。家の建て替え計画も立ち上がっての順風満帆の最中に、暴牛(こってうし)の角に突かれて乳がざくろの様に割れて中身が飛び出している女が運ばれてくる。この絶好の患者に乳が女の命につながっているという話が迷信であることを青洲は見事に証明する。
 加恵が真っ先に小陸(小田茜)の声の変調に気がつくあたりは、それだけ聴覚が鋭くなっているからか。程なく喉にグリグリが出来て血瘤が発覚するも、時を同じくして、乳がんの手術をしてほしいという話が舞い込んできて、思わず武者震いする青洲も血瘤には手をつけられない。占いも医者も自分と自分の身内は助けられないとの言われが皮肉に響く。何かを忘れようとするかのように多忙に華岡家の主婦を務める小陸が倒れたシーンもまた、於継のときと同様にスローモーションと俯瞰ショットの合わせ技での構成。
 ここからが凄すぎる。視力を失ってからは華岡家の主婦化して一人身を通した小陸の境遇に詫びる加恵に対して、偽りの美談を、女同士の醜い戦いを暴く小陸の告白があまりにもショッキングだ。

小陸「私は見てましたんえ……」

ではじまる独白にはただただ震えるしかない。おかはんと姉さんの何という、その恐ろしい間柄。あんな目にあうぐらいならば病気で苦しんで死んだ方がマシ、嫁に行かなかったことが何よりの幸せだったと告白する小陸には悲しみを突き抜けた凄まじさがやどる。確かに、この人だけがみんな見てましたのよし。その静けさを思い出すと、いっそう怖くなる。
 いったんは床に就いて沈静化したかに思えるも、再び起き上がってはじまる恨み節第2弾。世間では偉いと褒めてるけれどと突っ込む小陸に、加恵は心底於継を賢い立派な方だと思っていたと切り返すと、そう思えるのは加恵が勝ったからだと女の核心を突く小陸。矛先はついには嫁姑のおぞましい間柄を横着に知らんふりを通した青洲にまで。血縁の女兄弟は男の何の役には立たないとの告白には、加恵もただ打ちのめされるしかない。ここに封建社会における女の立ち位置が浮き彫りになるあたりは有吉佐和子文学の真骨頂だろう。
 世界初の乳がん手術に成功して賞賛を浴びる青洲と、その1ヶ月前に42歳でこの世を去った小陸のことを、そして華岡家の礎を築いた於継のことを思い、仏壇を前に泣き崩れる加恵の明暗。ドラマの緊張感がさらに高まって行く中で、何もかもが鮮やかに切り取られていく様は見事と言うしかない。曼荼羅華の花が咲き乱れる只中に立ち尽くす加恵の目に映るのは於継ではないか。ここで深々とお辞儀をする加恵の姿は清々しく感じられるも、加恵の墓が於継の墓にたちはだかるように立てられていること、その2つの墓を重ねて倍にしても青洲の墓には及ばないことを見せつけて、清々しさを一瞬のうちに打ち消すエピローグの意地悪ぶりにも妙な満足感が残る。(麻生結一)


第五回「別離」(2/25放送)
☆☆☆
 底なし沼のように深まり続けてきた女の業のせめぎあいが、麻酔薬の開発に伴う犠牲によって浄化されていく様はあまりに痛々しくもはかない。ついに麻酔薬が完成したという喜びも束の間、加恵(和久井映見)が視力を失っていたことに気が付いた青洲(谷原章介)は愕然。同じく二度薬を試した於継(田中好子)はそれは加恵の体のせいと言い張る。ここでの於継の虚勢が何とも悲しい。自分の実験では加恵の薬とは危険度が比べものにならない眠り薬が使われていたと聞かされて、さすがの於継も思わずよろける。
 加恵と青洲がたたずむ曼荼羅華が咲き乱れる畑のシ−ンが美しい。加恵が思い出す於継との果てしなき攻防は、甲斐甲斐しく加恵の世話をする青洲の姿にいまだ嫉妬心を燃やす於継より一足早く、張り合う気持ちよりももはや懐かしさが先に。
 最後の直接対決となる加恵と於継が連れ立って赴く弁(村崎真彩)の墓参りでは、これまでのことが走馬灯のように蘇ってくる。そこで於継が倒れるシーンはグッとスタイリッシュに。
 加恵が懐妊したことを於継には知らせまいとする心配りは、せめて跡継を産んでいない加恵にだけは勝っているとの於継の自尊心をおもんぱかってのこと。寝たきりの於継が世話をする加恵に対して、雲平だけが居場所だと語る二人の絡みが最大の見せ場。ありがたいと思えば思うほど胸が苦しいとは、これこそが嫁姑の関係なのだろう。
 加恵の変化に気が付いていたことに責任を感じ、一人身を通すことを心に誓い、青洲の弟子である米次郎(久保山知洋)から嫁にほしいとの申し出を頑として受けないう小陸のエピソードを挟んで、同時進行で語られる加恵の出産と於継の臨終。このあたりになると、悲しみよりもむしろ二人の女のたくましさの方に嬉々となる。
 とにかく加恵役の和久井映見がうまい。周りの熱演を受け止める静けさに漂う凛とした強さ。まったく素晴らしい女優さんです。(麻生結一)


第四回「悲しみをこえて」(2/18放送)
☆☆☆☆
 青洲(谷原章介)を間に挟む形で繰り広げられる加恵(和久井映見)と於継(田中好子)の嫁姑の面目をかけた激突に、これまでも心震わせ続けてきたが、この第4話はもはやその域にあらず。NHKの時代劇に限定しても、これほどの凄みは『一絃の琴』の最終盤以来か。めったに見られる作品ではないと思うと、いっそうかみ締めながら見せていただく心持ちに。
 青洲が本当に試したい分量の薬剤を調合した、危険を伴う人体実験に挑んだ加恵の苦しみようからただごとではない。三日間の眠りからついに覚めた加恵に、青洲が解毒剤を口移しに飲ませる一部始終を見せ付けられて、加恵と青洲が一緒に食べるおかゆを作らされて、於継は大泣き。実験中につねられたであろう太股のあざを見て、加恵は一人ほくそえむ。そんなお互いの一挙手一投足が一々面白い。実験の裏事情によって加恵と於継が同じ土俵に立たされないところから生じるお互いの温度差が、かみ合わない感じに拍車をかけて実に絶妙だ。
 ライバル心から再度実験台に志願した於継だったが、実験から目を覚ましてもそこに青洲の姿はなく。於継一人が食べる分のおかゆのための米を研ぎながら冷笑を浮かべる加恵は、紀伊の風習である雛流しを一緒に見に行こうと娘の小弁(村崎真彩)からねだられるも、於継に勝ち誇った気持ちが舞い上がって聞く耳を持たない。
 晴天の昼日中、にわかに空が暗くなってきたと加恵の目に異変を匂わせる不吉な予兆の直後、豊(根岸季衣)から嫁に行くときに持たされた加恵の櫛を川に流してしまった小弁は、その後を追ってそのまま川に流されてしまい、あっけなく命を落してしまう。
 その葬列は悲しみが深いほどに美しい。子供を亡くした親同士となって初めて共鳴し合う2人の姿はあまりにも痛切だ。泣き崩れる加恵を於継が抱きとめる場面は、テレビドラマの域を超えていた。白装束が鮮やかに眩しい。光の演出が実に高級。
 自ら麻酔薬を服用して実験を続行していた青洲を発見するなり、耳元で声をかけたり、腕をつねったりしてみるとは、加恵はさすがに医者の妻。青洲の実験に対するエゴには軽く触れるにとどまって、加恵は最後の実験に身をささげる覚悟をする。加恵の着物のために自ら機を織る於継の心はすっかりと雪解けしきったかに見えるも、加恵の再実験の話を聞かされるなり一変。織りきった生地をかまどにくべてしまう。ここまでの加恵と於継の凄みには圧倒されるばかりだが、その様のすべてを目撃している小陸(小田茜)も密かに凄い?!
 通仙散を服用して床に就いた加恵は於継に手を伸ばす。その手をしっかりと握る於継。ここでついに一体化する2人。服用から二時ほどで麻酔にかかった状態に、それが三時ほど続いてその間に手術が出来る計算となり、それから目が覚めるのに二時ほどとの思ったとおりの経過に麻酔薬は完成する。しかし、加恵の目に激痛が……。やはりこれほどのドラマはめったに見られるものではない。(麻生結一)


第三回「献身」(2/4放送)
☆☆☆
 あれから4年後、小弁(村崎真彩)は4歳になり、加恵(和久井映見)は洗濯物に悪さする行儀の悪い猫=於継(田中好子)に比肩するほどの皮肉が言えるまでに成長(?!)。雲平(谷原章介)は名を青洲に改め、名医としてその名を知られるようになるも、麻酔薬の成果は得られず。
 同じころ、幼い小弁が於勝(中島ひろ子)の片方の乳がスイカのように腫れ上がっていることに気がつく。乳がんである於勝は青洲に手術をしてほしいと願い出るも、麻酔薬はまだ完成していないために、青洲はなすすべがない。女の幸せを知らなかったと加恵に語る於勝があまりにも悲痛だ。
 さらに5年が経ち、猫レヴェルでは麻酔薬の効能が実証される。ついに人体実験が必要な段階に達したところで、於継と加恵は自分の体でこそ実験してほしいと青洲に願い出る。於継と加恵が我先にと言い合いになるくだりの戦慄とユーモアのない交ぜ具合は、『華岡青洲の妻』ならではの見せ場。最初の実験台に指名された於継が髪を洗うシーンは鬼気迫っていて、あたかも死に支度の様。ここので田中好子は、映画『黒い雨』での名演を髣髴とさせる。
 薬を飲み干して半時ほどが過ぎると、於継はうなり声を上げて暴れ始めるも、実際に飲んだのは少量の曼荼羅華を焼酎にといたもので、酔って眠っていたほどのことでしかなかった。しかし周囲は医者の母親の鑑ともてはやすため、加恵は面白くない。
 締めくくりは、加恵が本当の麻酔薬での実験台を青洲に懇願する場面となるが、ここでの加恵の気迫はこれまでにもましてすごい。於継へのライバル心と青洲への自己犠牲の気持ちとが相乗効果で果てしなく高まっていく。その覚悟の推移は、加恵を演じる和久井映見の微妙な表情の変化によって見事に表現されている。こういう凄みは増村保造監督による映画版とは一味も二味も違う。(麻生結一)


第二回「嫁と姑」(1/28放送)
☆☆☆★
 おなじみの作品がこうも面白かったかと気づかされたときには、また格別の喜びがある。京から戻った雲平(谷原章介)の歓待ムードに一人乗り切れない加恵(和久井映見)。と言うか、於継(田中好子)の妨害工作により乗せてくれない。早々にゾクッとさせられるのが、雲平の学費を作るのにこの3年ですっかり織り上手になったメンバーリストに意図的な名前漏れがあった場面。於継があげたのは、雲平の妹・於勝(中島ひろ子)と小陸(小田茜)の2人だけで、加恵の名前は外されてる!ここで唖然呆然とする加恵を演じる和久井映見の表情が絶品。
 当初は寝間へ行くのも通せん坊されるも、ついに於継のお許しが。ところが、一緒に床に入って懐に手を入れて乳房を触る雲平は、

NR「外科医の目であった!」

いわゆる『87%』の陽平(本木雅弘)のような。ここでの渡辺美佐子の突き放したようなナレーションがある意味気持ちいい。原作のテイストにも同様のことが言えるのだけれど。
 於継の使い古しをありがたがって使っていた糠袋を自前にするあたりから加恵が反旗を翻して、蒼白き炎を燃やす嫁と姑の時代を超えた女同士の戦いは壮絶なことに。怖いのが、2人が静かになればなるほどいっそう炎が高く燃え上がるというあたり。
 目のアップやら、日本家屋の暗みやらといった、凝りに凝った見せ方の方にも注目。カラーなのに、時折画面がモノクロームに感じられる。ドロっとした人間模様に拍車をかける音楽も最高級。雲平の子供を無事出産して、

NR「加恵は勝ったと思った」

まだまだ勝敗がついていないことは、予告編を見ればありあり。(麻生結一)


第一回「夫のいない婚礼」(1/21放送)
☆☆☆
 これまでにも映画にテレビドラマにと繰り返し映像化されてきた『華岡青洲の妻』が金曜時代劇でリメイク。華岡青洲(谷原章介)の妻・加恵役が和久井映見で、母・於継役が田中好子と聞いたときに、この嫁姑はちょっと年齢が近すぎやしないかと危惧するも(実際にも14歳しか離れていない)、田中好子の演技的な凄みがすべてを杞憂化させてしまう。京の遊学から3年ぶりに帰った雲平=華岡青洲の足を洗おうとした加恵の手を払ってにらみつける於継の凄まじさにはただただ震えるしかない。受けにまわった和久井映見のおののきぶりも尋常じゃない。
 クレジットで目を引いたのが、増村保造の映画版でも美術を担当した西岡善信の再登板。牟岐礼の音楽もかなり強力。ここ最近にNHKが制作した文芸系の時代劇にはよそいきな感じがして若干物足りなく思っていたのが、これは大いに期待していいのでは。(麻生結一)




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