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H2〜君といた日々 (TBS系木曜22:00〜22:54)
製作著作/オフィスクレッシェンド、TBS
プロデューサー/市山竜次
原作/あだち充『H2』
脚本/関えり香(1、3、5、8、10)、山崎淳也(2、4、6、7、9、11)
演出/堤幸彦(1)、今井夏木(2、3、7、11)、鬼頭理三(4、5、8、10)、丸毛典子(6、9)
音楽/佐藤直樹
主題歌/『over...』K
出演/国見比呂…山田孝之、古賀春華…石原さとみ、橘英雄…田中幸太朗、雨宮ひかり…市川由衣、木根竜太郎…石垣佑磨、野田敦…中尾明慶、国見信子…石野真子、小宮慶子…田丸麻紀、古賀富士夫…的場浩司、斉藤洋介、武野功雄、円城寺あや、森廉、佐川周二…北条隆博、弓削智久、中村友也、貫地谷しほり、青木崇高、佐藤めぐみ、柳沢なな、佐藤二朗、半海一晃、久保晶、インリン・オブ・ジョイトイ、八名信夫、野々村真、酒井敏也、林剛史、野久保直樹、今村恵子、横浜ベイスターズ牛島和彦監督・山中正竹球団専務、国見太郎…柳沢慎吾、雨宮さくら…七瀬なつみ、雨宮太一…杉本哲太、柳道男…竜雷太
ほか

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第11回(3/24放送)
☆☆★
 甲子園での比呂(山田孝之)と英雄(田中幸太朗)の対決は、9回裏の最終打席に持ち込まれる。ひかり(市川由衣)と春華(石原さとみ)が見守る中、ボール3つに続きファウル2つでフルカウント、いよいよ最後の一球に。

比呂「勝手にストレートしかねぇって決めつけた目か……それだよ英雄……その融通のきかねえ、馬鹿正直さに、雨宮ひかりは惚れたんだ」

と言いながら、比呂の剛速球はやはりど真ん中へ。しかしあろうことか英雄はそれを空振り。かくして千川高校は、明和一高に勝利する。後で英雄が

英雄「完全に負けたんだ……比呂にも、自分自身にも。許せない……そんな自分が」

と呟くように、そこでストレートが来ることを信じなかったことは確かに比呂への、英雄自身への、そしてひかりへの裏切りだった。因縁の対決をただ勝った負けたで終わらせない展開の巧みさ、そしてその後味の何とも言えない切なさに感じ入る。ここまでなら間違いなく☆☆☆かそれ以上だったのだが。
 その後一気に時間が進むのはいいとしても、甲子園で決勝に進んだ千川高校のその後の試合結果にも、ひかりの“選択”にもまったく触れないのには、大いに白けた気分にさせられた。甲子園での対決を受けて、ひかりと英雄の間に、そしてひかりと比呂の間にどんな関係の変化が起こったかぐらいはせめて描写してから先に進んでくれないと、見る側としてはこれまで盛り上がった気持ちをどこに持って行けばいいのか分からなくなる。
 後半で輝いたのが春華だったことは喜ばしいことだろう。比呂の剛速球を、一球だけ打席に立って経験してみた春華が、その凄さにはしゃいでそれまでのわだかまりを忘れてしまうシーンはなんとも微笑ましい。その後、春華に

春華「この場所で、何か思い残すことなんかあったら、ちゃんと次の場所になんか行けない。でしょ?」

と言われた比呂は、留学することになったひかりにもう一度会いにでも行くのかと思いきや、“初恋に決着をつけるため”もう一度英雄に挑む。このあたりのストイックさは相変わらずいい味だ。ど真ん中3球勝負、その顛末は、ライバル二人の高校最後の対戦にふさわしく。
 かくして、比呂には春華、英雄にはひかりという、四角関係は本来あるべき(?)形を示唆して、彼らの高校時代は終わる。6年後には比呂は大リーグへ、春華はフライトアテンダントに。青春時代の約束が成就して物語はキレイに収まるが、春華のあのドジっぷりでフライトアテンダントが勤まっているのか、とっても心配です。
 このドラマ、展開の上手さに舌を巻いたと思ったら突然滞るテンポにがっかりさせられ、かと思えば不意にこの上なく情感が高まって……と、クオリティ的に浮き沈みの激しい作品という印象だった。後半はかなり安定したものの、結局最後の最後まで“安心して見られる”域までは行かなかったのは、ちょっと残念だったかな。美しいシーンや台詞は本当にたくさんあったのだけど。(櫻田もんがい)


第10回(3/17放送)
☆☆★
 比呂(山田孝之)の千川高と英雄(田中幸太朗)の明和一高は、昨年に続いてそろって夏の甲子園へ。エピソード冒頭で

英雄「もし、甲子園でさ。うちと千川の対戦が決まったら、お前に、頼みがあるんだ」

とひかり(市川由衣)に切り出した英雄だが、一体何を頼んだかはなかなか明かされず、回想を乱れ打ちしてさんざん思わせぶりをやったあげくにそれを視聴者が知るのは野田(中尾明慶)の口から。ストレートに見せた方がいいものを妙にこねくりまわしてしまうのは、前半の欠点が突然ぶり返したかのよう。おまけに比呂が野田に「今、腹一杯」とたこ焼きを断るシーンまでセピア色の回想って。このドラマ相変わらず、上手いところと拙いところの落差が激しすぎる。
 ともかく、

英雄「あさっての試合が終わったら、もう一度ちゃんと選んで欲しいんだ。俺か、比呂か」

というその“頼み”が、最終回に向けてのキモということのようだ。ひかりが選ぶのは勝った方、と決めつけられてるのはちょっとおかしい気がするのだが、まあそこは若さ故に考え方がシンプルなのだってことで。ここでついにクローズアップされるのが春華(石原さとみ)の心情。比呂が勝てば、比呂はひかりの方へ行ってしまうかもしれないということを知りながら、微笑んで比呂を試合に送り出すその健気さがいい。春華については今回は他にもいくつか心情的見せ場があって、ようやく石原さとみの面目躍如という感じ。
 かくして、“野球の神様”のみならず視聴者もずっと見たかった、第2回以来の比呂と英雄の一騎打ち。さて、どのような結末を、どのような味付けで見せてくれますか。(櫻田もんがい)


第9回(3/10放送)
☆☆☆
 ひかり(市川由衣)の母・さくら(七瀬なつみ)の死に対して、練習にも出なくなるほどに衝撃を隠せないのが比呂(山田孝之)なら、再び野球部の夏季限定マネージャーとなって“張りつめた糸みたい”に忙しく過ごすのがひかり。英雄(田中幸太朗)としては、少しぐらい自分の前で泣いたり甘えたりしてくれたほうが安心なのだが、ひかりはそうしようとはしない。そんなひかりの心を溶かしたのはやはり比呂、というよりは比呂と共有している母の思い出。子供の頃遊んだ空き地でキャッチボールをしながら……というそのシチュエーションが、見る側のノスタルジアを絶妙にかき立てるあたりが上手い。思い出の中のさくらが子供の頃のように二人の名前を呼ぶ声がして二人が振り向くという、ベタとも言えそうなシーンに、意外なほどに心を突き動かされてしまった。ともあれ、そんな時間を経て四角関係はまたしても微妙なきしみを見せ始める。これまでは比呂の初恋への悔いがその主な原因だったわけだが、今度はひかりの比呂に対する、いわば母の思いを継いだような形の思いがその引き金になっていたりして、まことに青春とは厄介なもので。
 それにしても、ひかり。英雄に「比呂のこと、好きか」と問われれば、嘘をつけず「バーカ」とごまかしてみたり、決勝戦の比呂を客席で見ながら

ひかり「やっぱり、来るんじゃなかった……(中略)……比呂の試合見に来ると、勝っても負けても、泣きそうになるから」

なんて言ってみたりと、その一挙手一投足が切なくて切なくて。極めつけは、ついに英雄と比呂が同列に並べられた新聞記事を見ているシーン。あれを英雄のスクラップブックと比呂のスクラップブックのどちらに貼ったのか考えると、また一層切なさも募る。
 しかし、ひかりがいい具合に葛藤すればするほどに、春華(石原さとみ)が物語的に埋没していくのは別の意味で切ないんだけど。(櫻田もんがい)


第8回(3/3放送)
☆☆☆
 夏の甲子園は英雄(田中幸太朗)の明和一高が制覇、そして翌年の春の大会は比呂(山田孝之)の千川高校が制覇と、実に半年以上の時間を1回で駆け抜けた今回。野球以外の部分もてんこ盛りながら、ダレもせず飛ばしすぎもせずという展開はなかなかに絶妙。この感じが前半からあればなぁとつくづく思うが、とにかくここに来て、お遊びの部分も含めてそのポテンシャルを生かした作りになってきたのは喜ばしい。
 目に怪我をして初めて弱さを見せた英雄を目の当たりにして、ひかり(市川由衣)は“比呂離れ”を宣言。比呂はようやくひかりへの思いを吹っ切り、春華(石原さとみ)のために甲子園に行きたいと思うようになる……。いずれも様々な可能性を抱えた若者だからこその悩み、そして選択という感じで、そのまっすぐさが切なくもすがすがしい。時間的には前後するが、春華のことで比呂をどやす野田(中尾明慶)、なんてのも青春感たっぷりでいい(中尾くん、出番は多くないがいい味出してます)。かくして四角関係は一巡してもとのところに戻った格好に。次なる事件は何かと思いきや、比呂をずっと応援してくれていたひかりの母・さくら(七瀬なつみ)の死とは。唐突感も若干ないわけではないが、人の死とは案外そういうものかもしれず、むしろこの一件が比呂やひかりにどのような変化をもたらすのかの興味の方が大きい。
 ちなみにお邪魔虫だった木根(石垣佑磨)と美歩(貫地谷しほり)は、予想通りカップルとなり、「森の時計」でデート!?裏番組をからかう余裕まであるとは大したものです。(櫻田もんがい)


第7回(2/24放送)
☆☆☆
 何度も言ってしまうけれど、やはりこのドラマ、野球をやってくれさえすれば面白い。というか、比呂(山田孝之)と英雄(田中幸太朗)が野球で対決するというシンプルでストイックな対立構造のもとでこそ、全ての物語的仕掛けがうまく機能するようにチューニングされているのだ。今までも垣間見えていたそんな巧みさはおそらく原作譲りなのではないかと思うが、今回はそれがようやく最大限に生かされた感があった。
 比呂が甲子園での2回戦に臨むことになった日は、8月16日=ひかり(市川由衣)の誕生日。毎年この日にベストピッチングを見せる比呂は、勝ちボール以外をひかりにプレゼントしたことがない。そんな逸話が、他でもない比呂のピッチング故に千川高校が敗北を喫するという意外な顛末を経て、ぐんと切ないものとして生きてくる。“1年半遅かった思春期”ゆえにひかりをあっさりと英雄に渡してしまったことを悔やみながら、せめて大好きな野球では英雄とちゃんと戦いたいと思っていた比呂の思い。それは見ているこちらまで苦しくなるほどに、青くて、まっすぐで、切ない。そんな比呂を抱きとめてやれるのは比呂をずっと見てきたひかりをおいて他におらず、春華(石原さとみ)が二人の様子を目撃しながらなすすべもないというラストも大きな余韻を残す。そして春華のアップから、あの美しいエンディングへ……うーん、この流れ、完璧です!
 とか言いつつも、比呂がピッチングを崩す理由がやっぱり怪我だったりするのには、思わず「何度目だ比呂の怪我」というつっこみをしたくもなる。ほとんど弱点のないスーパーピッチャーとして描かれているだけに、不慮の怪我ぐらいしか比呂の投球を邪魔する物はないってことか。しかしそんな引っかかりも今回は、比呂の不調に早々に気づいて監督に進言する対戦相手のピッチャー(林剛史)のためらいがさりげなく描き込まれているあたりの丁寧さに救われた感じ。
 それにしても球場の看板に「甥を投げないでください」なんて、小ネタも細かいというか大仕掛けというか。まあそういうネタを考える余裕のある現場だって事は何よりですけど。(櫻田もんがい)


第6回(2/17放送)
☆☆
 比呂(山田孝之)の怪我は、「ボクシングやってたからこの手の怪我に関しては専門家」(って、そういうもの!?)とうそぶく大竹(弓削智久)の緊急オペで事なきを得る。さらに最後の一球をナイスキャッチした島(中村友也)の活躍で、千川高校は地区大会優勝を決め、甲子園へ。まあ先週からの確定事項だった感は否めないものの、それでもやはりこういうシーンには胸が熱くなる。
 ここまでで約15分、残りの時間はひたすら恋愛方面に費やされることに。合宿で留守にしているひかり(市川由衣)の部屋で行きがかり上寝ることになった比呂、寝ている比呂と抱き合うような体勢になってしまい胸を騒がせるひかり、それをひかりが告げないことを不審に思う英雄(田中幸太朗)……と、要素的には全く正しいのだが、それでも英雄がひかりにあんなふうに怒りをぶちまけるのはいささか唐突に思えるような。ともあれそんなシチュエーションを皮切りに、これまでなんとなく安定していた四人の関係が崩れ始める。明和一のマネージャー美歩(貫地谷しほり)と木根(石垣佑磨)の陰謀でカップルがバラバラにされ、春華(石原さとみ)と英雄という今までになかった組み合わせでデートする羽目になったりするのはなかなかに楽しいが、それだけは終わらず。バッグを取り違えたことがきっかけで、ひかりも自分と同じように比呂の誕生日を暗証番号として使っていることを知った春華は心中穏やかでない。しかも木根が余計なことを吹き込んだものだからますます疑念はふくらみ……。そんな展開の積み重ねは大いに結構ながら、こういういわば些細な恋愛ネタをラストに強調して次エピソードへの引っ張りにするのはどうなのだろう。せっかく甲子園に来て、記念すべき第一戦を迎えようと言うところですよ、やっぱり野球への期待をこそ煽るべきだったのでは?
 このドラマ、そのあたりの“見せ方の軸のブレ”が激しく、いい素材を活かしきれていない感じがどうにもぬぐえない。いいシーンもいい台詞も多いのに、それらが一体となった高まりを見せそうで見せてくれないというか……。後半戦で持ち直すことを切に期待します。(櫻田もんがい)


第5回(2/10放送)
☆☆★
 あれよあれよで決勝まで勝ち進むぐらいなら、先週放送分から夏の予選を始めてくれればよかったのにとも思うのだが、そのへんは球場での撮影スケジュールの都合なのか、それとも毎回脚本家が異なることによる調整の難しさ故か。ともかく、やはり野球をやり始めると目が離せなくなることは確かで、カウント数を示すランプが点灯するだけでドキドキさせてくれる。
 先週からの持ち越し分はライバル校の広田(青木崇高)の息のかかった工作員である野球部員、大竹(弓削智久)と島(中村友也)ネタ。この二人、不祥事でも起こして千川高校を出場停止にしようとでもするのかと勝手に思っていたのだが、そこまでえげつないことは思いつかないらしく、狙いはあくまで比呂を怪我させることらしい。そのチャンスを探しつつ意外とまじめに練習に出ちゃうもんだから、チームメイトや監督(的場浩司)からもそれなりに認められていたりするあたりの楽天的な皮肉さは面白い。おそらくこの後、チームメイトたちと力を合わせて全力で戦う楽しさに目覚めてくれるのだろうとは思うのだが、その変化を3週もかけて追うべきキャラかなあという気はする。今回でそこまでフォローしても良かったのでは?試合の流れにしても、大竹が期せずして比呂(山田孝之)に怪我を負わせたところで次回へなんてあざとい引っ張り方をするよりは、1回で勝つ(もしくは惜敗する)のカタルシスまで持って行く方がこの作品にはふさわしいように思う。初回でも妙な引っ張り方をして、第2回の冒頭で見事に肩すかしを食らわせてくれたという前科があるわけですし。
 ともあれ野球方面が盛り上がれば四角関係もおのずと切なさを帯びる。今回の主役はひかり(市川由衣)で、英雄(田中幸太朗)が好きだと言うその言葉に偽りがないことは明らかだが、その一方で比呂と春華(石原さとみ)との関係が進んでいることにも少し胸がざわついたり、かと思うと英雄と比呂の仲が良すぎることに癇癪を起こしたりと、この年頃の女の子らしい複雑な行動パターンを見事に表現した脚本と、うるむ瞳でそれを演じた役者に賛辞を送りたい。今後も、野球と4人の関係がこれぐらいのバランスで進んでくれることを望むところ。(櫻田もんがい)


第4回(2/3放送)
☆☆
 オフィスクレッシェンド作品らしいお遊びも、ひかり(市川由衣)の風呂を覗いた覗かないのラブコメ要素もいいけれど、全ては野球をやってこそ。ドラマの中心となる四角関係だって、比呂(山田孝之)と英雄(田中幸太朗)が野球を通してぶつかるという大前提があるから陳腐さから免れているのであって。比呂と春華(石原さとみ)とのデート話を今回だけで2回もだなんて、いくらなんでも力抜きすぎじゃありませんか。こんな小休止みたいなエピソード作らずに、一気に夏の大会まで行っちゃってくださいよ。野球やりましょうよ、野球。(櫻田もんがい)


第3回(1/27放送)
☆☆★
 前回分で失速したかと書いたが、今回は点数は同じながら持ち直した印象。英雄(田中幸太朗)が遠因となって野球を捨てた幼なじみ・佐川(北条隆博)が英雄につきまとい、ひかり(市川由衣)が心を痛めていることを知った比呂(山田孝之)は、前回負傷した足が完全でないままに佐川と野球対決をすることに……。そんな本筋を追っていく中で、優等生の英雄の前では「素じゃない」ひかり、そのひかりのことを気にかけずにはいられない比呂、その比呂の野球愛をある種感覚的に理解している春華(石原さとみ)という四角関係が浮かび上がってきて、何とも切ない気分にさせられる。その一方でインリンの写真集にインリンの着ボイスなんていう『STAND UP!!』的お遊びもふんだんに入れ、英雄が大真面目に過去のトラウマを話そうとしてる時に比呂(と多くの男性視聴者)はインリン(本物)の胸の谷間に釘付けなんていう逸脱すれすれもやってのけたりして、まぁこのあたりは好き嫌いもあるでしょうが、ここまでやればこそ後半の比呂のストイックさも際立つってことで、いいんじゃないでしょうか。(櫻田もんがい)


第2回(1/20放送)
☆☆★
 冒頭の「前回のあらすじ」が先週放送分の魅力を半分も伝えておらず、イヤ〜な予感を覚えたのだが、あっという間にそれは現実に。千川高校の校長(竜雷太)が野球愛好会の解散を突然命じるという展開が、最近の学園スポーツものにおいて見覚えありすぎるものであることには目をつぶるとしても、そのニュースが飛び込んできたタイミングが比呂(山田孝之)の

比呂「みんな今でも充分楽しそうだ……いいじゃん、わざわざつらい思いしてまで甲子園なんて……俺、野球、誰にも嫌いになって欲しくないんだ」

との味わい深い台詞をあっさりかき消してしまったことがとてももったいなくて(しかもその後、その台詞にもその感情にも言及ナシ)、「先週のあの甘酸っぱい名ドラマはどこに!?」という気分になる。
 今週のメーン・イベントは、野球愛好会の存続を賭けた明和一高との対戦。英雄(田中幸太朗)に挑発されたフネもとい木根(石垣佑磨)がいつの間にやら野球愛好会に入っていてしかも4番に収まってたりとか、校長の息子で野球を禁じられている柳(森廉)がいかにもあだち充の漫画っぽいマスクと眼鏡を付けて“風邪男”として出場している可笑しさあたりからようやくエンジンがかかりはじめたドラマは、8回に入って比呂が本気で投げ始めたことでその球威と比例するかのようにヒートアップ。ヒーロー(比呂)VS英雄の一騎打ちがこんなに早く見られるとは思わなかったので驚くやら嬉しいやら。今回はヒットを奪った英雄の勝ちながら、あまり伸びのある打球ではなかったところに、この二人のライバルたる所以がはっきり見て取れる。
 千川最後の攻撃は、英雄のファインプレーで終了し、野球愛好会は敗北を喫することに。しかし審判の誤審を校長がしっかり見抜いているという仕掛けが、野球愛好会の今後を決定づけると共に、校長の秘められた野球愛の復活を感じさせるのが秀逸で嬉しい。そして、たとえ比呂の“野球生命”がかかった試合でも絶対手を抜かない英雄が、明和一高で一緒に野球をやろうと比呂を誘えば、比呂が

比呂「手遅れだよ……お前に投げる楽しさ、覚えちまった」

と答えるという、ストイシズムあふれる青春感もやはり本物。これこれ、これが見たかったんです。
 このまま調子よく終わってくれるかと思いきや、校長が野球部設立を認めるまでのわずかな時間でまた勢いを失う。美しいエンドクレジット映像が削られているのにもちょっとがっかり。エンディングテーマにかぶっていた、野球部設立を喜んでサイダーかけ(?)に興じる部員たち、なんてのは、イレギュラーな形を取るほどのシーンではないと思うのだが……。
 素材がいいからドラマとしての平均点はクリアしているけれど、若干失速してしまった感はぬぐえない。脚本家がいきなり交代していたりするあたりも不安材料なのだが、思い過ごしであることを祈ろう。(櫻田もんがい)


第1回(1/13放送)
☆☆☆
 サッカー部のユニフォームを着た青年が、野球の投球フォームで空き缶をゴミ箱へ……という本編のファーストシーンだけで、国見(山田孝之)の状況を感覚的に理解させてしまうあたりからしてお見事だし、缶のウーロン茶を「全部飲むなよ」なんて野田(中尾明慶)の台詞1つとっても青春まっただ中って感じで好感度。そんな好調な滑り出しを維持しながらキャラクターの紹介もそつなく終えて、迎えた中盤のクライマックス、野球同好会とサッカー部の野球対戦で国見がサッカー部のユニフォームを脱いでからの活躍も、王道展開ならではのワクワク感があって胸が熱くなる。
 後半、野球を諦めるきっかけとなった“ガラスの肘”を国見が克服(!?)することになるビックリは、原作通りかどうかは知らないがいかにもあだち充的。しかしそこからまた新たな葛藤が生まれたりもして、全くよく出来ている。ただ、見る側としては国見が野球を始めなければドラマも始まらないことは十分に承知しているわけなので、次回へ気を持たせるならもっと別の方法を選んで欲しかった気はするけれど。
 何にしろ、共に“間で語る天才”であるあだち充原作と堤幸彦演出の組み合わせが予想以上にいい化学変化を起こしているようで、今後もこれが続いてほしいと願わずにはいられない。ヒロイン・石原さとみはどうしたことかしゃがれ声なんだけど、それ故に今までとはひと味違う魅力が!?(櫻田もんがい)




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