TV DRAMA REVIEW HOME

冬の輪舞 (フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00)
制作/東海テレビ放送、ビデオフォーカス
企画/鶴啓二郎
プロデューサー/西本淳一、大久保直実
原作/『あの道この道』吉屋信子
脚本/中山乃莉子、田部俊行
演出/西本淳一、藤木靖之、村松弘之、皆川智之、田中康司
音楽/中川幸太郎
主題歌/『優しい光』サラブレンド
出演/大丸(水島・佐藤)しのぶ…遠野凪子、水島(大丸)千鶴子…黒坂真美、大丸則子…若林志穂、大丸澄夫…泉政行、大丸(原田)新太郎…松田悟志、大丸百合…碇由貴子、大丸慶子…立原麻衣、内浦純一、愛川裕子、和泉ちぬ、小柳友貴美、田口主将、大西多摩恵、星ルイス、沼崎悠、かとうあつき、兎本有紀、阿部六郎、野村信次、鈴木修平、児玉頼信、須永千重、花悠子、浜近高徳、鐘築建二、牛山茂、浅見小四郎、博通哲平、桑原裕子、増田英治、大竹竜二、山口剛、大塚太心、熊面鯉、小田切健、藤家さっこ、藤井章満、松本想世、日下部琴、石井千智、古舘遥輝、山口茜、藤津摩衣、佐藤哲也…志村東吾、大丸裕喜…樋口浩二、山岡省吾…草薙良一、沢柳迪子、坂井寿美江、溝口順子、泉よし子、五十嵐美鈴、農塚誓志、加藤忠男、青沼神対馬、松永麻里、西手武、宮崎敦司、菅原田真紀、橘川丈仁郎、山嵜聡弘、西村敦子、清木場直子、松本享子、早川亜希、大村祐理子、彩世侑希、古賀道枝、白井沙樹、宮川佳大、一倉梨沙、宮本武士、野田吉行、坂東美佳、向井伊希子、高畑雄亮、尾関伸嗣、伊藤主税、岡田修一良、脇田滋行、安藤さくら、鈴木康太、植田健、足利翔一、増田忍、玉山博之、佐野友香、ナレーション…小沢寿美恵、水島龍作…吉満涼太、大丸耕造…冨家規政、水島静子…いしのようこ
ほか

>>公式サイト


第13週(3/28〜4/1放送)
☆☆★
 ドラマティックに葛藤し続けていたこのドラマのキャラクターたちにもっとも縁遠いと思われる「みんなで仲良く」が最終週に掲げられたテーマ。山岡(草薙良一)から愛人になることを条件に融資を持ちかけられたしのぶ(遠野凪子)は、きっぱりと断ったかと思ったら、愛人になることもいとわなくなったりと、その葛藤クィーンぶりは最後まで衰えを知らない。病院を守るためには鬼にもなると宣言する則子(若林志穂)あたりは、葛藤度の低さがキャラクターにインパクトを与えられなかった最大の原因か。
 そんな則子に比べるならば、本当は優しい人なのかもという母・則子への期待も裏切られ、山岡に殴りかかっていくも、返り討ちにあってあえなく撃沈、憂さ晴らしに酔っ払ってしまう澄夫(泉政行)の方がよほどだらしなくていい感じ。そんな澄夫を前にして、いくら逃げても自分の運命から逃げることは出来ないと最後まで闘う宣言をするしのぶの強靭さには遠く及ばないけれど。
 しのぶの決意を聞きつけて、山岡に包丁を突きつける千鶴子(黒坂真美)の姿+山岡が百合の花を千鶴子に投げつけ、さらにはその花瓶の水を浴びせようとするも、それを千鶴子が巧みによけたために、百合(碇由貴子)の顔にピシャリとかかって、ついには百合の記憶が戻るという二段構えがなかなか分厚い。山岡が花瓶そのものまでは投げなかったあたりもチャーミングで○。
 一気に蘇った忌まわしき過去の数々に打ちのめされた百合は、財布など手にする時間もないままに飛び出していったはずだったが、いつの間にやら定番の伊豆の崖にたたずむ。

百合「私さえいなければ、誰も死なずにすんだ」

と新太郎パパ(松田悟志)、耕造おじいちゃん(冨家規政)、さらには本当のパパ=哲也(志村東吾)の死にまで矢継ぎ早に責任を感じるあたり、血はつながっていないくともさすがはしのぶに育てられた娘だと思わせる。そんな百合のあとを追ってまたまた伊豆へとやってきたしのぶと千鶴子は、その崖に落ちていた哲也から送られたベビーリングを発見。もしかしてと思う千鶴子に対して、

しのぶ「あの子はそんなことする子じゃないわ」

と、ちょっと前にも飛び込んだ事実もあたかもなかったことであるかのような確信に満ちたしのぶの口調には鬼気迫るものが。結局、2人が取り替えられたあの家で気を失っていた百合。どうしてそこにたどり着いたのかは判然としないも、3人でののしり合いの凄まじさに一切のつじつまも気にならなくなった?! そのドサクサに、龍作(吉満涼太)殺害の回想シーンが。そういえば、龍作って百合のおじいちゃんだったんですよね。大忙しの百合は絶叫の末に気絶する。
 気を失ったまま、いつの間にか大丸家に移送された百合は目を覚ますなり、もはやどこにも行き場がないと悶絶するも、そんな百合に対して真っ先に優しい言葉をかけたのは、な・な・なんと則子だった!さらには病院売却にも同意して、3億円を山岡につき返す180度の改心ぶり。一体則子に何があったのか、さっぱりわからない。とんでもない女たちに関わった、くわばらくわばらと退散する山岡の気持ちの方がよほど一貫してたりして。
 東京から離れることを決意した千鶴子を百合が止めるシーンはひたすらに感動的になるはずも、そう簡単には大団円には持ち込ませじとか、ここでまたまた百合は突然気を失ってしまう。担架に乗せられた百合と一緒に走るしのぶ、千鶴子、澄夫。さらには指示を受けて全力で賭けていく看護士。少なくとも、『救命病棟24時』ではこれほどの迫力のあるシーンはなかったぞ。
 以前の貧血だとするしのぶの診断はまったくの誤診で、百合はIgA腎症だった。腎機能が低下、何度も貧血を起こして尿毒症に、肺に水がたまっており、このままの状態が続くと命も危ない。母親として、医者として失格だと、しのぶはまたまた己を責める。意識を取り戻した百合は、自分のことを思ってくれる二人の母親に感謝の念。ついに理解しあう2人の母と1人の娘の構図は、1人の母=静子(いしのようこ)と2人の娘=しのぶと千鶴子の構図の変形で、このあたりにこのドラマの運命論的な真骨頂がある。
 百合が助かる方法はもはや腎臓移植しかない。実の母親である千鶴子であればHLA(白血球の血液型)が適合する可能性は高く、腎臓を移植できるはずだ。ところがドナーとして検査を受けた千鶴子は肥大型心筋症であることが判明して、移植が困難になる。

則子「百合、どうしてあなただけがこんなつらい目に」

って、あなたこそがその急先鋒だったんでしょうに。
 死後72時間で、損傷が激しくなければドナーからの腎臓の移植が可能である旨を聞かされた千鶴子は、自分の首にナイフを突きつけて移植を迫る。もはやその覚悟を止められないと千鶴子を抱きしめるしのぶは、自らが罪に問われることも覚悟して手術に踏み切ることに。もはやここで変に粘る必要もなしと判断してか、この手術はあっさりと成功。百合の体の中では、千鶴子の腎臓が動いている。
 駆けつけた則子がみんなの家論をぶつと、家族一緒に仲良く暮らす案が満場一致で可決される。みんながみんなに支えられて生きてるのだとの限りなく丸い納めっぷりは、ちょっと前までみんながみんなで足引っ張り合ってた醜さの対極だ。ちなみに、澄夫は海外で医療活動に従事するために日本を去るとのこと。
 3ヵ月後、しのぶは伊豆に大丸診療所を開設する。2人の母親と2つの家がある境遇を楽しいと言い切る百合の屈託のなさは、今度こそ本物のよう。果たして自分の運命に勝てたのかと問いかけながら微笑みあうしのぶと千鶴子。少なくとも、5月には金曜エンタテイメントでスペシャルをやるぐらいだから、ドラマ的には大勝利ということでしょうね。
 印象に残るのは終始濃密に絡み続けた出演陣の好演ぶり。ドラマのピークは第9週目で、ここはもっといい点数をつけてもよかった。ニタテでは成功作は生まれないとのジンクスも見事に打ち破ってみせた。次の『危険な関係』も強力そうなので(ラクロの名作小説を傑作『愛しき者へ』の脚本家・金谷祐子がアレンジ)、ついにこの枠も黄金期に入ったということか。(麻生結一)


第12週(3/21〜3/25放送)
☆☆☆
 最終週を前にして今ひとたびのピークに到達した、どこを切り取っても何てことだとしか言いようのない第12週。再度の発作が命取りとなることを知りつつ、耕造(冨家規政)は千鶴子(黒坂真美)に会うために病院から抜け出してくる。断ち切られていた千鶴子と耕造の絆が復活するこの初っ端から、ただ事ではないファイス・トゥ・フェイスのオンパレードはいきなりにボルテージも最高潮に。神様だって親子の絆は断ち切れないとかみ締めるように言う耕造は、百合(碇由貴子)に母親の名乗りをするよう千鶴子に言い残して別れを告げ、家に帰りつくなり清々しい気持ちだと微笑みながら倒れ、そのまま息をひきとる。
 耕造の最期に間に合わなかった千鶴子がその亡きがらにすがりついて号泣する様を見て、百合の懐疑心が深まるばかり。もはや隠し通せないと観念したしのぶ(遠野凪子)は、ついに百合に出生の真実を打ち明ける。時間をかけて少しずつ理解できれば言いといってる割には、千鶴子と哲也(志村東吾)の不倫関係で生まれた子供であることまでを一気呵成に聞かせてしまって、百合はもちろん大ショック。そんな様を見て、

則子(若林志穂)「親の因果が子に報い」

と憎まれ口を叩くあたり、この人の悪さもいよいよ極まってきた感じ。
 嘘で塗り固められたこの家族がもう一度やり直すことを模索する中で、千鶴子は一晩だけ百合と一緒にいさせてほしいと懇願。この台詞って、どこかで聞いたことがあるような。そうだ、龍作(吉満涼太)殺人に至ったあの時とまったく同じだ。嫌な予感がする。
 このドラマ随一の正しい人だったはずの耕造に、病院再建の目的で作った3億円もの借金があったことが発覚。耕造が死ぬと待ってましたとばかりに、銀行は債権回収会社に取立てを任せて、大丸家をつぶしにかかる。そこへいかにも怪しげに3億円の融資の話を持ちかけてきたのは、千鶴子のパトロンにして不動産業を営む山岡。まぁ、この人がいい人のはずはないと思っていましたが。
 驚くべきは、千鶴子がいつの間にか大丸家を気軽に訪れる仲になっているあたり。山岡(草薙良一)の本性を暴く千鶴子に対して、病院を救うためならば、悪魔(=山岡)の手だって借りるべきと主張する則子が久々に正面衝突する懐かしさの裏側で、山岡は百合に本当のママ=千鶴子と一緒に暮らせるようにしてやるとそそのかす。そこに千鶴子が割って入ってきたものだから、山岡は千鶴子の過去を百合に明かそうと。するととっさに千鶴子は山岡に対して刃物をむけてしまった。やっぱりだ。龍作(吉満涼太)殺人のあの時とまったく同じだ。実父殺しの鬼のような女であることを暴露された千鶴子は、百合を無理やりに店から追い出して高笑いしてみせるも、その表情は次第に涙に暮れる。
 6時過ぎには店から追い出された百合は10時過ぎになっても家に戻らない。これはおかしいと百合を探したしのぶ、千鶴子、そして新太郎(松田悟志)は、雲が低く立ち込めた伊豆の岸壁(?!)の際に立つ百合を発見。って、今何時ですか!まさかすべてはAMの出来事だったとか。もしくは、この時が早朝の意?!
 もはや時間の概念もすっ飛ばして、いつも百合を愛していたと熱弁をふるう新太郎に愛の張り手をみまわれても、人殺しの娘だと自暴自棄になる百合に対して、今度は千鶴子が岩の上で土下座。取り乱した百合が足を滑らせると、そんな百合を抱きかかえるようにして新太郎も一緒に絶壁から転落する。岸壁から下を覗き込んで、百合の名前を絶叫するしのぶと千鶴子が尋常じゃない。今週最大の何てことだがここ。
 重症を負った新太郎は、 

新太郎「みんなで仲良く」

と言い残して死亡。百合は軽症ですむものの、記憶喪失になる。そんな百合の哀れな姿を見て、なぜだか正気を取り戻したのが則子だったりするあたりがまたすごいのなんのって。百合の記憶が戻る前に今度こそみんなの前から消えるという千鶴子は、百合からまた逃げるのかとしのぶに説教される。そんなしのぶは百合からは「しのぶ先生」呼ばわりされたかと思ったら、山岡からは「不幸という名の地獄でもがく白鳥」と命名されて言い寄られるにいたる。札束なめのこのベタなツーショットにすべては極まった感じ。(麻生結一)


第11週(3/14〜3/18放送)
☆☆★
 親子を結ぶ糸があまりにも太いとのことはこれまでの10週分で散々語られてきたわけだが、警察官に補導された百合(碇由貴子)を実の母親だと言って助ける千鶴子(黒坂真美)もまたその例外ではなかった。則子(若林志穂)に出ていくようにののしられて、またまた千鶴子の店を訪ねる百合だったが、そこで千鶴子が百合のやけどのあとに気が付くあたりのドラマティックも見え見えなれど決まっているとしか言いようがない。
 百合のあまりの態度の悪さに大激怒して、百合の出生の秘密を口走ろうとする則子は百合に負けないぐらい、いやそれ以上に言葉遣いがダーティ化。百合を殺人者の娘呼ばわりするにとどまらず、千鶴子と会いたいと言い出す耕造(冨家規政)に千鶴子とこれ以上かかわりを持つのならば離縁するとまで言い放ったり、ついにはせんべいのかぶりつき方までもが奇妙奇天烈だったりと、これまでなりを潜めていた分までも一気に挽回しようと無理をしてか、完全な壊れキャラに成り代わった模様。
 百合が持っていたスナックかもめのマッチを見つけて駆けつけた水島改め佐藤改め大丸しのぶ(遠野凪子)は、ついに千鶴子と遭遇。千鶴子はしのぶの目の前で百合の赤ちゃん時代の写真を破いて再度決別を宣言するが、百合が真実の扉に手をかけたことで問題はその域では済まされないことに。

しのぶ「どうしたらいいの。私はどうしたら」

新太郎「どうしたらいいんだ」

との自問自答合戦にはただただ目頭が熱くなる?! 百合に真実を告げずに縛り付けておくのがしのぶのエゴだとするならば、愛するがゆえに百合から手を引こうとする千鶴子はまさに『コーカサスの白墨の話』に重なってくる。(麻生結一)


第10週(3/7〜3/11放送)
☆☆☆
 物語的な求心力を思えば第9週こそがピークだったと思うが、大変なことになりはじめてからの情報が完全に欠落している龍作(吉満涼太)がその一つ一つをたどっていく過程は、想像以上にサスペンスフルなものだった。そのおぞまし過ぎる関係性をまとめて突きつけられることにより、改めてその不幸の山に嬉々とし続けた第10週。
 澄夫(泉政行)が殴ったどこかの工事現場の作業員こそが龍作であったことを知るしのぶ(遠野凪子)は驚きよろめいて、床にメスが落下するスローモーション。この作品でのこういうディテールの面白さは一級品と称したい。自分が今ここにいることを告白すべきか否かで葛藤するしのぶもらしかったが、誰かに殴られたことを急に思い出すや否や、病室で暴れだすあたり、龍作健在といった感じで妙にうれしくなる。看護婦になるはずだったしのぶが医者に!さほど気に止めなかった事実も、龍作の目で見直すとこれも物凄いどんでん返しだったと知る次第。
 静子(いしのようこ)が8年前にガンで死んだことを聞かされて、龍作はひたすらに号泣する。説教と恨み節をしのぶに並べられていっそう意気消沈したかと思いきや、早々に病院を抜け出しちゃった。何してきたかと思ったら、実は伊豆の静子の墓参りに行ってたって、あんな血だらけのジャンパーのまま?

龍作「しかし、お前も苦労の多い女だなぁ」

って、誰のせいだ〜っ!
 しのぶの夫・哲也(志村東吾)がすでに交通事故でこの世を去っていたことを知ってさすがに神妙になったのも束の間、千鶴子(黒坂真美)に一目会いたいと思いを募らせたが吉日、単身大丸家に乗り込むあたりは龍作の真骨頂。耕造(冨家規政)と則子(若林志穂)に対しても最初は低姿勢だったが、澄夫が自らの犯行を自供すると態度を一変。龍作は大丸家丸ごと恫喝しはじめるが、則子も負けじと恫喝し返すあたりは期待通りの激しさ。
 千鶴子は商社マンと結婚して今はアメリカ在住であると龍作に言い訳した耕造は、自分の一存で龍作を追っ払ったことを千鶴子に謝る。謝られた千鶴子は逆に耕造に謝り、その千鶴子にはケンカさえしなければと澄夫が謝る。この懺悔の無限状態が妙に心地いい。
 ところが、龍作はしのぶのために田舎仕立ての鍋を調理中にしのぶと千鶴子が赤ちゃんを抱いて写っている最近の写真を発見。千鶴子が大丸家で生活していることを確信する。しのぶも絡んだ大仕掛けでだまされていたことを知るなり、わびを言いたかっただけなのにと、夜中に大丸家のドアを叩き続ける駄々っ子的暴走王ぶりを復活させた。対面した耕造と則子には大声を張り上げるが、千鶴子が登場するなり、土下座して許しを請うあたりの緩急がまた魅力的。
 そのまま立ち去ろうとした龍作に百合を抱かせてやる千鶴子。後々思えば、これこそが余計なことだったわけだが、この瞬間はほのぼのとした雰囲気が漂う。一転、百合の父親のことを龍作が千鶴子に問いかけたことで事態は緊迫。こちらの夫も死んでただなんて、不幸の谷は絶えないなぁとしみじみと語る龍作だったが、その二つの谷が同じ谷であることをその時は知る由もなかった(『聞かせてよ愛の言葉を』風)。
 百合に何か買ってやってとくしゃくしゃのお札を千鶴子に握らせると、深々と頭を下げて退散した龍作は、そのまま飲みに行って、帰ってきたら笑顔で静子の写真を抱いたまま寝てしまったって、しのぶが笑顔で語るほどの微笑ましい話?! 虫唾が走るほど嫌いだったのに、実の父親と知って会ってみると懐かしい感じがしたと真逆の反応をする千鶴子の唐突ぶりを見るにつけ、血は争えないと思わずにはいられない。そんな千鶴子だったら、傷が治ったら地方の現場に出て行くという龍作と二度と会えないかもしれないと思って、ほんの2、3日でも一緒にすごしたいと言い出したとしても別に不思議じゃないかも。
 一緒に暮らし始めるなり、百合の足のやけどを発見した龍作は、しのぶがポットをひっくり返したことが原因と知って、わざとやったんじゃと問い詰めるも、その龍作にしのぶは即逆襲。このあたりの攻守の切り替えの早さはさすがですねぇ。さらに、祖父、娘、孫の三人が一緒に寝ていることをしのぶが哲也の遺影に向かって報告しているところを龍作が聞いてしまったものだからさぁ大変。千鶴子と百合はわかるが、どうして哲也とも一緒に寝なきゃいけないのかと問い詰める龍作の疑問があまりにも的を射ていて、思わずニンマリ。
 千鶴子の不倫関係を正当化しようとするしのぶに対して、

龍作「旦那寝取られて、天使みたいなこと言ってんじゃねぇよ」

とはこれも実に真っ当なご意見。実は龍作こそがもっとも真っ当な人間だったりして。そう思いたくなるほどに、姉妹よりも深い絆で結ばれているしのぶと千鶴子の真実がこれでもかというほどにボロボロと明らかになっていくよ。人間が真っ当であることの意味がその意味自体を失っていくダイナミズムといったら。アヒルの父=龍作とアヒルの子=千鶴子はののしりあいながらもみ合いになって、ついには龍作が冷蔵庫の角に頭をぶつけて再流血。その場にあった包丁を龍作が千鶴子に向けるなり、しのぶが自らの自己犠牲でことを収めようとするところで完結していれば、いよいよこの龍作と友重(『牡丹と薔薇』の吉満涼太)がダブってくるのだが、ここでのしのぶは軽症で済む。ここからが『牡丹と薔薇』越えの一段。人を不幸にする悪魔の血が流れている千鶴子は、白鳥とアヒルを再び取り替えると言い放って百合を連れ去ろうとする龍作に包丁を向け、自らの手で龍作を葬り去る。ここでのボルテージの高まりは、傑作・第9週にも肩を並べるか。
 自ら刑務所の中の住人となることを望んだ千鶴子は、情状酌量の余地ありにつき裁判で一緒に闘おうと励ます耕造を拒絶。今までの罪のすべてを償うと言い、また人殺しの母親なんていないほうがいいと言って、百合をしのぶに託すのだった。その後も面会に粘るしのぶだったが、あなたの本当の母親は親を殺して刑務所に入ってる、父親もその母親のせいで死んだと言うのかと千鶴子に切り返されては、不幸の化身であるしのぶも沈黙するしかない。
 同じ運命を背負った二人の絆は何があっても消えないと言うしのぶと、一人で地獄に落ちるという千鶴子の号泣つながり。しのぶと千鶴子はどんなにがんばっても悲惨な運命に勝てない?こんなに必死に生きてるのに、人生の何とひどすぎることよと泣きじゃくるしのぶが、いっさいの違和感なくピタッとくるあたりに二ヶ月強の月日の重みを感じずにはいられない。
 殺人罪となった千鶴子は懲役15年の刑に処せられる。それから月日は流れて、平成16年冬。大丸病院の副院長となったしのぶは院長になった新太郎(松田悟志)と再婚。百合(碇由貴子)は中学生になるも、義父の新太郎と反目して援交&恐喝の日々。新太郎は耕造と病院経営をめぐっても対立と、新太郎も何を好んでこの不幸の只中に身を投じてしまったのか。
 3年前に出所したはずの千鶴子は、挨拶にも来ない恩知らずと則子にののしられるも、現在はスナックかもめのママにおさまっていた。それにしてもこの風俗が平成16年?どう見ても昭和でしょうに。歳月は流れたはずなのに、むしろ時代が退行してませんか?
 警察に追われた百合が助けを求めた先が千鶴子の店だったとの世界観の狭さは、ならではの凝縮感。百合の忘れ物として、携帯電話がこのドラマでは初登場する。大丸病院でくすぶっている澄夫は本当は地域医療に携わりたかったって、『女医・優』のトラウマが蘇ってきて、この第10週最大の恐怖体験だった?!(麻生結一)


第9週(2/28〜3/4放送)
☆☆☆
 ついにエンジンがかかった感じの第9週。いったんは『牡丹と薔薇』もどきになりかけたりといろいろあったが、3ヶ月目にボルテージが最高潮に達するとは、昼ドラとしてはむしろ理想形であったか。こののっぴきならないジレンマづくしに、奇妙な勇気をもらえること請け合い?!
 どうして自分だけがいつも地獄に落とされるかと嘆くしのぶは、生まれてくる子供のために何やかやと買ってくる哲也(志村東吾)に実際は想像妊娠であったことと、もはや子供を産めない体であることを告白。さらには千鶴子(黒坂真美)が哲也の子を宿していることも告げて、自らは身を引こうとする。そんなしのぶに心を打たれた哲也は、一人で出産するために大丸家から出て行こうとしていた千鶴子に子供をあきらめるようにと説得するが、哲也はしのぶにあげたんだからせめて子供だけはと千鶴子は聞き入れようとしない。哲也はしのぶが子供が産めない体であることを告げると、千鶴子は7年前に自分がしのぶを突き落としたことが原因だと自らを責めて道の真ん中で苦悶しているところに車が!哲也は身を挺して千鶴子を助けるも、車にはねられて血だらけに。
 病院に運ばれた哲也は、かけつけたしのぶに幸せにしてやれなかったことを詫びながらはかなくなる。しのぶ、号泣。ここからが凄い!哲也の死体を前にして、しのぶが千鶴子を恫喝。臆することなく千鶴子は真実を告げ返して、しのぶは再び号泣。千鶴子に殺されるぐらいなら、自分が一生しがみついていればよかったと泣き叫ぶ。しのぶが千鶴子にこれほどまでに強硬に出たのはこれで2回目のはず。1回目はあまりにもべったりな千鶴子に逆切れした最初期(第4週)。
 哲也の焼香に現われた千鶴子に、哲也を奪っておいて哲也のお腹の子供だけを産むことだけはさせないと叫び、叩き、そして泣き崩れる。その夜、そんなことを言ってしまった自分は嫌な女だと泣きながらに反省。翌朝、しのぶは早速千鶴子と話そうと大丸家を訪れるも、すでに千鶴子はすべては自分のせいだとカッターで手首を切っていた。この子一人を殺すわけにはいかないと言う千鶴子は、かけつけた耕造(冨家規政)にお腹の子は哲也の子であることを告げて謝り、気を失う。
 しのぶと耕造の2人がかりの処置のおかげで、千鶴子は命をとり止めた。しのぶが子供が産めない体になっていたことを知った耕造は、あの時のケアが万全でなかったためだとしのぶに謝る。しかし、すべては自分で撒いた種だと再びに自らを責めるしのぶ。このあたりの懺悔の連鎖ぶりがあまりにも悲しすぎる。
 意識を取り戻すなり、

千鶴子「私、また助かってしまったのね」

との第一声にその苦々しいはさらにもう一段上の高みへ。退院後、自らのお腹を叩いて子供の命を絶とうとする千鶴子を見つけた耕造が、それをやめさせようともみ合っているところに、しのぶ登場。平気な顔をしてこの家にいられないと言う千鶴子に、ここで一緒にがんばろうと絶対逃げない宣言するしのぶ。

しのぶ「ごめんなさい。この前はおろせって言ったのに勝手なことばかり言って」

あまりの自覚の深さにしのぶが神々しくさえ映るよ。母親である資格がないと己を責める千鶴子に、資格ではなく愛情こそがその子を幸せにすると励ますしのぶ。千鶴子はしのぶに許しを請うて、生まれてくる子供を愛し抜くことを誓う。唯一出産に反対していた則子(若林志穂)までも、いつから自分は千鶴子の母親ではなくなったのかとのしみじみと反省して賛同派に。
 平成4年7月7日、千鶴子は難産ながらも女の子を出産する。しのぶは自分の子供が生まれたかのように喜ぶ。分娩中には哲也が手を握り締めたと言う千鶴子にみんなが微笑むって、この人たちの超人的な寛容さにはある種の感動を覚えずにはいられない。ただ、あくまでの「ある種」の。さらには千鶴子はしのぶに名付け親を頼むって、このエピソードは本当に微笑ましいのか?!
 しのぶは百合と命名。花言葉は純潔。悪魔がどんな魔法を使っても、百合の清らかさに打ち負かされてしまうというが、果たして。百合を自らの手に抱くしのぶには幸福感を悔しさが上回ったか、瞳には涙。ベビー服を見立てた則子を千鶴子がママと呼ぶに、しのぶは疎外感を覚える。ただ一人しのぶに気を遣う澄夫(泉政行)とて、すべての事情を知っているわけではないし。
 一ヵ月後のお宮参りの後、哲也の遺影を前に百合を見せる千鶴子にたまらなくなったしのぶは、今後マンションには来ないでほしい、および大丸家には出入りしない旨を千鶴子に伝える。納得がいかない千鶴子は紅茶を入れている途中でしのぶに食ってかかってもみ合いに。するとテーブルにあった紅茶がひっくり返って百合の足にかかってしまう。
 しのぶの応急処置がよかったも、百合の足にはやけどの跡が残るかも。大丸家に赴いたしのぶは一生かけて償うと土下座して謝る。きっと神様のバチがあたったという千鶴子。人生の出発点から運命は狂ってしまい、それがめぐりめぐって百合にふりかかってきた。千鶴子が強引にしのぶのやけどの痕を見ようとするシーンが圧巻。
 不吉な運命の数珠つながりぶりはまだまだ続く。以前からしのぶに思いを寄せていた澄夫は、自暴自棄で酔っ払ったしのぶにつけこんで襲うも、しのぶこそが本当の姉であったという真実を聞かされて愕然。あの大騒動の只中にいながらにして、これまで純粋培養でいられてたこと自体も脅威だが。
 取り乱したままにしのぶのマンションを飛び出した澄夫は、道ですれ違った男と肩が触れたことをきっかけに言い合いになり、その男を殴って傷を負わせてしまう。病院に駆けつけたしのぶが処置室で見た男とは、何と父・龍作(吉満涼太)だった。思わず「待ってました!」と声をかけたくなってしまった待望の龍作再登場。
 これだけの関係性を作り出すのに2ヶ月もの期間を費やしてきたことを思うと、いっそうに感無量。ここまで全エピソードがドラマティックに絡み合ってくると、ちょっとした爽快感さえも感じてしまう。ちなみに、原作である『あの道この道』は、1985年に大映テレビが制作した『乳姉妹』と同じ原作である。(麻生結一)


第8週(2/21〜2/25放送)
☆☆★
 大映ドラマを見た後にこちらになだれ込むと、そのミラクルベタな展開かつ、ガッチリミッチリと絡んでくるキャラクターたちの濃厚過ぎる味わいに、長きに渡ってドロドロの砦であり続けている現王者のすごさを思い知らされる。大体7年間も隔たっていたというのに、しのぶ(遠野凪子)の夫・哲也(志村東吾)が千鶴子(黒坂真美)が不倫関係にある愛人だなんて、その狭すぎる世界の何たる運命的なことか。

千鶴子「しのぶに知られたら、破滅ね」

と目を血走らせるも、早々知られても破滅どころかより強靭になる登場人物たちに思わず勇気をもらえる?!
 2人の関係を知ってて、千鶴子の顔色をうかがってたしのぶはすっかり変わってしまったと嘆く千鶴子。他人のものを何でもほしがるお嬢さんの千鶴子はぜんぜん変わってないと吐き捨てるしのぶ。お互いにお互いを誉めそやすねじれた親友関係は以前にもましてパワフルなものに。
 子供を念願していた哲也を妊娠という切り札によって取り戻したしのぶだったが、つわりは想像妊娠によるもので、7年前の忌まわしい出来事によってすでに子供が産めない体と診断されて愕然。逆に、哲也のことを吹っ切って、則子(若林志穂)がセレクトした見合い相手・雅之(内浦純一)に当日プロポーズされ、即結婚の決意をした千鶴子は、結納の途中につわりをもよおし、妊娠3ヶ月が発覚。健康で清らかな体で嫁げって、千鶴子に対して拷問のようなアドヴァイスをする則子もようやく存在感をアピール?!

千鶴子「しのぶの夫の子を妊娠してるなんて、絶対に言えない!」

と言った矢先にしのぶにそのことを勘づかれてしまうスピーディな展開はさすが。ニタテで優秀作を制作できないというジンクスも、『冬の輪舞』ならばもしかして、と期待が高まった第8週だった。(麻生結一)


第7週(2/14〜2/18放送)
☆☆★
 7年の月日を経て、しのぶ(遠野凪子)と千鶴子(黒坂真美)が運命的な再会を果たしたと思ったら、もう既に新たな地獄に向かって動き始めてましたよ。千鶴子の恋人である哲也(志村東吾)は、何としのぶの夫だった!しのぶが勤めている東和セントラル病院にやってきた新任の医師は、ニューヨークから帰国したばかりの新太郎(松田悟志)で、しかも同じ医局に配属。医療機器メーカーの営業マンである哲也は、仕事で新太郎と絡むやいきなり敵対ムードに。
 新たなる地獄を描くことこそが目的なのだから、それ以前の人間関係をあっという間に整理し、さらにはその全員をくっつけてしまうやり方はまったく理にかなっている。そのあたりの手際のよさは、さすがとしか言いようがない。一応、目に見えない何かの力が働いて、みんなが引き合うことに、との説明もあったけれど。
 もはや唯一の良心的存在である耕造(冨家規政)はしのぶとの再会に感無量となる。そのしのぶは己の意思に関係なく複雑にゆがめられた過去を払拭すべく、そして自分の手で作っていける未来において新しい人生を生き直すために、仙台にいたらしい。しのぶがいなかった7年間は、怒ったり泣いたり笑ったりが一度もなかったという千鶴子。こんな極端な人たちの今後に期待ということで。(麻生結一)


第6週(2/7〜2/11放送)
☆☆★
 まずはそのめまぐるしい攻防を整理することに。耕造(冨家規政)が激しく問いただしたことで、ついに静子(いしのようこ)は事の真実=しのぶ(遠野凪子)と千鶴子(黒坂真美)を取り替えてしまった出生直後の秘密を白状。それを立ち聞きしていたしのぶは大ショックを受けて、大丸家を飛び出す。しのぶの退院祝いに賭けていた(?!)千鶴子は、自分が許されていないのだ解釈して泣きじゃくる。則子(若林志穂)は行き先を告げずに外出する耕造がきっと静子のところに入り浸っているのだと思い、何かと気にかけるしのぶはその2人の間に生まれた子供に違いないと誤認する。その話を聞かされた千鶴子は、しのぶと異母姉妹であったのかと思い込んで、これまたショックを受ける。静子はこれまでのいきさつをしのぶに謝罪。そこへやってきた耕造に、千鶴子としのぶの2人ともを大丸家の娘として育ててほしいと仰天の申し出をする。当然しのぶはそれを受け入れないが、その時静子が吐血して倒れる。
 人間関係のみで整理しているつもりも、ここまででドラマの半分も語りきれてない。っていうか、ここからがさらなるジェットコースター状態に。東海テレビの昼ドラ恐るべし!さらに続けると、大丸病院に入院した静子は、余命3ケ月の命と診断される。耕造から説明を受けた直後、気丈に振舞うはずのしのぶだったが、静子はそのただならぬしのぶの振る舞いに、自らの命が長くないことを察知する、ってまた早いな。
 耕造はことの全貌を則子に話す。

則子「この話は私の胸に収めておきますわ」

って、則子の邪推こそが事をいっそう複雑にしてるのに。なんてことを危ぶむ暇もなく、静子に対してしのぶは、千鶴子に本当のことを継げるように迫る。

しのぶ「母さん、何度過ちを犯せば気が済むの!」

余命3ケ月の育ての親にこの厳しさ!
 大丸家に復帰したしのぶに食って掛かる千鶴子は、さらにはしのぶが異母姉妹であるのかと耕造に問い詰める。それでも事をうやむやにしようとする耕造に、しのぶが真実を告げるべく手をあげる。そこへパジャマ姿の静子がフラフラになりながら駆けつけ、千鶴子に自分こそが本当の母親であることを告げる。事の真相を聞かされた千鶴子は唖然。

千鶴子「私がこの人(=静子)とあのスケベオヤジ(=龍作(吉満涼太))の子供で、しのぶがパパと慶子ママ(立原麻衣)の子供だって言うの?」

「この人」はまだしも「あのスケベオヤジ」発言は、どう考えても笑わそうとしてるでしょ。これまでにあれだけ嫌悪していただけに、千鶴子としても「あのスケベオヤジ」の娘だったとかみ締めれば、飛び出していきたくなるのもよくわかる。そんな千鶴子を追おうとして足元がおぼつかなく倒れこんでしまう静子。

耕造「静子さん、あなたは動いたらダメだ」

って、すでにかなり動いてらっしゃいますよね。
 しのぶへの敗北感に打ちのめされた千鶴子は、一人伊豆の大丸家の墓を訪れ、もはや自分の周りには誰もいないと絶望。ついには入水自殺をはかる。だた、自殺への衝動はむしろ「あのスケベオヤジ」の娘だったことにある風ににおわせる龍作の回想シーンのインサート。確かにそれはつらすぎるかもと、千鶴子への同情心が初めて芽生える。だってあの龍作ですよ。
 姿を消した千鶴子を追ってきたしのぶは、まだひざ下あたりまでしか水に入っていない千鶴子を発見。

しのぶ「何してるの、千鶴子さん!(中略)こんなことで死のうとするだらしないあなたを笑いに来たの」

自殺しようとしている千鶴子をいきなりに叱りつけるしのぶは、ここでも持ち前の他人への厳しさを発揮する。ただ、どうしてこんな中途半端なところでしのぶを登場させたのかと最初疑問に思ったが、

静子「待って!死なないで!千鶴子!」

と余命3ヶ月の静子がフラフラになりながら登場するのを見て、なるほどと思った。千鶴子を助けるべく、迷いなく海に飛び込む静子。その甲斐あって千鶴子を助け出すも、今度は静子が浜辺で倒れる。救急車を呼ぶようにとしのぶは千鶴子に叫ぶが、3人であの家に行こう(=2人が取り替えられた家)と静子は千鶴子を止める。静子は電車を乗り継いで伊豆まで来たの?、などといった疑問を持ち始めるとキリがないも、3人の迫真の演技ぶりにそういった不自然さは吹き飛んでしまった。尋常じゃない場面のロケが輪をかけて尋常じゃない東海テレビ昼ドラの真骨頂がこれだ。
 続けざまにすごいのは、直後の千鶴子の改心の早さ。医者も呼ばずに3人で川の字になって寝っころがるも、程なくして静子は発作に襲われる。

静子「2人の運命を狂わせた張本人が勝手なこと言ってると思うかもしれないけど……」

臨終直前にこっそりと反省の言葉の言葉を挟むあたり、静子は密かにキュートな人でしたね。『牡丹と薔薇』の最強キャラ・鏡子(川上麻衣子)同様に第6週にて身罷る。このあたりは、一クールの昼ドラのノウハウ、タイムテーブル的な決まりごとなのだろうか。静子(しずこ)と千鶴子(ちづこ)の音が似ているのは困りものだったが。
 静子の葬儀後、出て行こうとする千鶴子を引き止めるしのぶ。耕造は2人ともを娘としてこれからも見守っていくことを高らかに宣言し、さらには則子も2人を容認する発言をしたために、千鶴子は感激して則子の胸に飛び込む。

則子「でも、これからが大変かもしれませんね。あの2人、本当に何事もなくやっていければいいんだけど……」

要約すれば、これでは済まないってことですね。お互いの分身である2人が一つ屋根の下、生活していくのは難しいと予想したか、千鶴子を引き止めたしのぶは大丸家を出る。ちなみに、妻の葬式に不在の失踪中というスケベオヤジ龍作のスタイルは、『牡丹と薔薇』の友重(同じく吉満涼太)とまったくのイコール。
 7年の月日が流れ、時は平成3年冬。ってことは、今までは昭和59年あたりだったってことか。いきなりにラブシーンから入るあたりがいかにもという感じ。お互いの誕生石であるブルートパーズをとっかかりに、「2人の運命の再会が悲劇の第2章」になるらしいです。(麻生結一)


第5週(1/31〜2/4放送)
☆☆☆
 昼ドラは急展開でガラっと様相が変わってしまうから侮れない。第4週には大いに失望したが一転、今度は面白すぎるほどに面白くなってきた。
 序盤はザ・昼ドラ的な展開。妊娠していることが判明したしのぶ(遠野凪子)だったが、お腹の子は新太郎(松田悟志)の子であるか確信がもてない。そんな折にしのぶにと千鶴子(黒坂真美)がもみ合いになり、結果千鶴子が押してしまう格好でしのぶは階段から転落、流血してしまう。
 しのぶは助かるも子供は流産。千鶴子は大いに己を責めた末に、土下座してしのぶに許しを請う。そんな千鶴子をしのぶは許して和解。いいと思ったらお構いなしにやってしまうほどに、相手との距離のとり方がわからなくなるだなんて、そんな千鶴子も哀れといえば哀れ。千鶴子に同情の余地を感じさせるのは、泣くと突然にかわいくなるそのギャップによるところも大きい。
 ここまではテンポがよくなってきたぐらいにしか思っていなかったが、耕造(冨家規政)がしのぶと静子(いしのようこ)の血液型の不一致に気がつくあたりから(しのぶはAB型で静子はO型)、ドラマの求心力が一気に高まっていく。耕造は血液型のことを静子に問い詰めるも、静子はしのぶは自分の子だと言い張るばかり。さらには千鶴子(黒坂真美)の血液型がO型だと判明。さらに詰め寄ったことで、ついに静子は赤ちゃんがすりかえられたいきさつを告白する。
 つまりは、耕造と静子の激突がドラマを急速に引き締めた。本当のことを言ってしまったならば、きっと千鶴子が地獄に落ちてしまうと頑なになる静子役のいしのようこは、生みの母と育ての母という2つの愛情の重なりを見事に表現。
 それにもまして素晴らしかったのが、終始安定感抜群ゆえにそれだけ部分的な苦悩が引き立つ形となった耕造役の冨家規政。前クールは裏の『虹のかなた』に出演してらっしゃったが、これまでにも多数東海テレビの昼ドラに出演歴もあり、昼ドラが似合う男の本領が発揮された格好。
 本当の娘・しのぶ、育てた娘・千鶴子への愛情、かつて亡くした先妻・慶子(立原麻衣)への未練、そして成り行きで今を連れそう慶子の妹にして現妻の則子(若林志穂)と、4人の人間に対する4つの複雑な感情を抱えているわけだから、これを難役と言わずして何と言う。この枠のドラマが、演技合戦にこそ真髄があることを改めて思い直す。(麻生結一)


第4週(1/24〜1/28放送)
☆★
 千鶴子(黒坂真美)には悪気はなかったはずなれど、あまりにもお互いの距離が縮まり過ぎて、結果的にはあまりにも悪くなってしまう千鶴子に対してしのぶ(遠野凪子)が逆切れ的拒絶。すると千鶴子は態度を一変。しのぶに対して極端な主従関係を強要し、さらには酔わせたところを男友達にレイプさせるに至る。
 千鶴子がまるで『牡丹と薔薇』の香世(小沢真珠)のクローン人間になったかのように豹変するあたりは苦笑するところ?! あのドラマはいかなる苦境も大笑いで済ませてしまう力技を用いていたが、この『冬の輪舞』の場合は遠野凪子と黒坂真美がしっかりとしたリアリズム演技で闘っているので、そういうわけにはいかないでしょう。せっかくなのだから、新たなドロドロ劇に挑んでもらいたいも、どうしても『牡丹と薔薇』の夢よもう一度、ってことになっちゃうんですかね。そうなってくると、このドラマにはそれほど期待できなくなってしまうのだけれど。(麻生結一)


第3週(1/17〜1/21放送)
☆☆
 新太郎(松田悟志)をめぐって、しのぶ(遠野凪子)と千鶴子(黒坂真美)は早々徹底抗戦となるのかと思いきや、龍作(吉満涼太)に襲われたことを苦にして自殺にまで及ぶしのぶに千鶴子は同情。静子(いしのようこ)が耕造(冨家規政)に懇願して、看護学校に通うことになったしのぶが大丸家に居候することになると、千鶴子はしのぶを親友とまで呼び始める。これって、嵐の前の静けさ?! しのぶが龍作のもとから離れて生活し始めた現時点で、強敵は耕造の妻・則子(若林志穂)ただ一人か。(麻生結一)


第1、2週(1/6〜1/7、1/10〜1/14放送)
☆☆
 よかったドラマの後は往々にしてハズすことが多いと勝手に分析させていただいている東海テレビの昼ドラなれど、今度のドラマに関しては別の法則によりいいかもしれないとの予測も。その法則に関してはいずれ発表させていただくとして、とりあえずは第1週の2回分を第2週分とまとめさせていただいたファーストインプレッションより。
 時は昭和40年。伊豆の別荘で出産の運びとなるのは大丸病院の院長・大丸耕造(富家規政)の妻・慶子(立原麻衣)。無事女の子を出産するも、その別荘の管理人である水島静子(いしのようこ)に見取られて、心臓が弱かった慶子はそのまま逝ってしまう。
 死の直前に突風で窓の側のマリア像が倒れてガラズ戸が割れ、突風にに飛ばされたダーツ2本が数日前に同様出産していた静子とその娘・しのぶ、そして慶子とで写った写真に突き刺ささる。さらには、その倒れたマリア像の目からは血の涙が流れるあたりのケレン味の出し方から、そういうテイストをねらってるのかと大まかな方向性が見えてくる。
 この後からは、『牡丹と薔薇』の友重役が強烈だった吉満涼太演じる静子の夫・龍作の独壇場となる。慶子の葬式までの約束で慶子が産んだ娘・千鶴子を静子が数日あずかることになるも(このあたりの展開がいかにも厳しい)、酔ったはずみでやけどを負わせてしまった龍作は、やけど痕が残ってはお目当ての謝礼がいただけなくなると踏んで、静子が産んだ娘・しのぶと千鶴子を交換して耕造に渡してしまう。これがすべての発端で、このドラマの全容というわけ。しのぶ改め千鶴子を連れて東京に帰る耕造の車の前に静子が駆けて行き、真実を告げようとした場面のロングからのズームのひきのスピードにはただただ酔いしれるのみ。
 そして18年が過ぎ去り、昭和58年に時は移ろう。水島家の長女として育てられた本当は千鶴子の新・しのぶ(遠野凪子)は美しく成長。逆に、本当はしのぶだったはずの新・千鶴子(黒坂真美)は、「スリラー」で踊りまくる荒れた生活ぶりで、亡くなった慶子の妹にして耕造の後妻となった則子(若林志穂)をババア呼ばわりする柄の悪さ。実際には龍作の娘なのだから、血は争えないということか。ちなみに、同じく赤ちゃんが取り替えられてしまったドラマだった良心作『幸福の明日』(こちらは病院側のミスなれど)で名演を見せた若林志穂がここに再登場。
 ナレーションの言葉をそのまま借りるならば、千鶴子の伊豆行きによって「運命の歯車は音をたててきしみ始め」て、ついに新・しのぶと新・千鶴子が遭遇(この後はしのぶと千鶴子で統一)。白鳥のように美しく成長したしのぶを見せつけてやると、大丸家からのお土産・白鳥チョコレートを首からかぶりつく龍作の暴走ぶりはとどまるところを知らず、しのぶのやけどあとを気っても切れない絆と撫で回すいやらしさも発揮。
 しのぶの恋人である新太郎(松田悟志)に目をつけた千鶴子が、新太郎に家庭教師を頼み、千鶴子の弟であるひ弱な澄夫(泉政行)がしのぶに家庭教師を頼むという強引な接近戦の作り方もやってる感を漂わせて、次週以降いよいよ本格的にしのぶと千鶴子の輪廻する運命(ドラマのキャッチコピーなれど、さっぱり意味がわからん)が描かれていく見込み。(麻生結一)




Copyright© 2005 TV DRAMA REVIEW. All Rights Reserved.