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愛のソレア (フジテレビ系月〜金曜13:30〜14:00)
制作/東海テレビ放送、泉放送制作
企画/鶴啓二郎
プロデューサー/高村幹、平野一夫、福田誠、小松貴生
脚本/小森名津、岩村匡子
演出/佐藤健光、島崎敏樹、茂山佳則
音楽/寺嶋民哉
主題歌/『口づけ』Fayray
出演/【第4部】久我美保…荻野目慶子、尾崎恭一…堀江慶、田所凛子…星遙子、尾崎万里子…高橋美穂、久我美咲…田中明、編集長・田辺…山口仁、編集部・鴨居…山崎潤、編集部・山本…本郷弦、秘書・神谷…山口粧太、教室生徒…倉田恭子、教室生徒…篠永あや、教室生徒…吉田麻起子、板前・原…恩田括、編集部・孝子…井上朋子、医者…田口主将、カメラマン・吉村…杉山彦々、教師…歌川椎子、男…金田進一、客…菅野達也、野村信次、女医…前田真里、家政婦…小熊恭子、杉下…小野了、客…松本公成、医師…窪園純一、記者…ヘイデル龍生、記者…戸崎二郎、記者…福月里代、記者…鈴木琴乃、院長…浅沼晋平、医師…中山克己、バーテン…中村まこと、うえだ峻、下村彰宏、大和、記者…田村学、田所源一…石田太郎、久我耕作…長谷川初範、【第3部】須藤美保(花園しのぶ)…荻野目慶子、尾崎恭一…堀江慶、尾崎凛子…星遙子、尾崎宗司…八木橋修、越谷典子…田岡美也子、水上舞子…大西麻恵、堂門肇…黒部進、加勢大周、鈴木悟…渡辺大、竹内早苗…神野幸、田宮…石橋正高、カメラマン…吉田朝、記者…猫田直、司会者…田上ひろし、記者…舟木幸、記者…平良政幸、カメラマン…花井京乃助、カメラマン…大塚太心、記者…大塚幸太、小久保…隈部洋平、制作担当…藤原習作、松倉千佳…星ひとみ、レポーター…杉本真紀、司会者…杉本真紀、影山昇…山中篤、社長…戸沢佑介、戸塚専務…松山鷹志、遠藤ミク…栗山かほり、下田…小沢和義、小林…中野剛、アナウンサー…山田透、高橋先生…橋沢進一、番組広報…大関真、男優…高畑雄亮、水上怜子…栗田よう子、編集者…弘中麻紀、田所源一…石田太郎、久我耕作…長谷川初範、【第1、2部】須藤美保…前田綾花、田所洋一…半田健人、田所凛子…松下萌子、澄江…坂上香織、田所知子…肘井美佳、野上吉造…野添義弘、野上登与子…中上ちか、京子…井上彩名、葉子…田中ちなみ、富江…伊藤昌子、須藤晃…桑原成吾、賄い…星野晶子、野上茂夫…砂川政人、小倉…加々美正史、伯父…森喜行、親戚…本多晋、順子…柴田梨沙、客…田中登志哉、鈴木…森山米次、客…砂丘光男、社長…小寺大介、大学生…武智健二、大学生…渡辺淳、巡査…針原茂、警察官…大野英憲、追っ手…幹事米吾、追っ手…岡部務、漁師…林京介、漁師…石鍋多加史、消防団…大久保運、警官…野口雅弘、院長…長克巳、看護師…須永千重、老婆…神田時枝、赤線の女…速水陽子、医師…大石継太、医師…小山かつひろ、田所マサ…奈良富士子、田所源一…石田太郎、久我耕作…長谷川初範
ほか

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第14週(12/27〜12/29放送)
☆☆
 これまでの熱い展開から一転、いかにも後日談的な結末には少々ガッカリ。万里子(高橋美穂)の葬儀後、恭一(堀江慶)は自らの死に場所を求めて、フリーのジャーナリストとして中東へ旅立つ。そんな恭一をとめることを凛子(星遙子)に懇願された美保(荻野目慶子)は心臓発作を起こした久我(長谷川初範)をほったらかしに(一応薬のケースは渡したけれど)、成田空港へ。ところがすでに飛行機は離陸した後、自宅に戻ると久我は死亡しており、美保は保護責任者遺棄致死の罪で懲役2年の実刑判決を受ける。
 まぁ、これぐらいやらないと、これまでのショックエピソードとつりあわないのではとの心配はわかるも、久我を置き去りする美保にはまったく共感できないので。せめて、家を飛び出した後に発作、という段取りでもよかったのでは。
 里親に出された美咲(田中明)を何を手がかりにか探し出し、役所にまで日参して食い下がった末に引きとったのが、とことんやる人・凛子だったのは、皮肉な運命にこそ眼目があるこのドラマ的には当然の成り行きというべきか。ちょっと面白かったのは、凛子が美保との仲を“戦友”と例えていたこと。言い得て妙ですよね。
 そのことを凛子の手紙で知らされて、1年前に恭一も中東から帰国。出所した美保と運命の再会をし、ついに美咲の口から美咲が恭一の子であることが語られる。美保には意地悪だった運命の女神だったが、美咲は愛される存在だった模様。実の子と知るや、恭一が美咲をいきなり呼び捨てってのも、ちょっといやらしいというか。
 最終回に傑作タイトルバックがなかったのも残念。それにしても、あの最後の一回り。なぜ和服だったの?まるで『黒革の手帖』風に、美保は最後の最後にてっきり夜の女になるものだと思っていたのに、実際には塀の中の人になっちゃいましたね。(麻生結一)


第13週(12/20〜12/24放送)
☆☆☆
 久我ビルディングの贈収賄事件に引き続いて、アトリエ・ドール内部のリークにより、美保(荻野目慶子)のW不倫もスクープされて(何がWなの?!)、久我家を襲う二重のスキャンダル(こちらは正真正銘のW)。もちろん、贈収賄事件をすっぱ抜いたのは恭一(堀江慶)だし、W不倫をリークしたのは万里子(高橋美穂)の仕業と、相反する意図ながら夫婦で似たような所業に至るあたりは、皮肉な運命こそを描こうとするこのドラマらしいところ。
 そんな己の愛の境遇を言い表す美保と恭一の言葉の応酬が聞き物。

美保「私たちにとって過ちではなくても、罪には違いないのよ。だから犯した罪の報いを受けている」

するとそれを言い換えて、

恭一「愛が深いだけだ。愛の深さが罪の深さなのかもしれない。それが俺たちなんだ」

と切り替えしてみせる。このカップル、だんだん神々しくなってきております。
 確かに凛子(星遙子)もその昔(7年前か)、花園しのぶ=美保のスキャンダルを売りましたね。知子(肘井美佳)=万里子の図式に加えて、ここに凛子=万里子までもが成立。もともと知子=凛子だったわけで、すると知子=凛子=万里子までつながってしまうというイコールの乱れ打ち。
 似たもの同士好きにすればと家を出る恭一は成就できなかった恋の代わりに美保の個展を開くことに奔走する。あれれ、美咲(田中明)とおじちゃま=恭一って、久我をケガさせた件で絶縁したはずじゃ?そんな美咲が恭一にケーキを食べさせあってる様をドアの隙間から覗き込む万里子がにらみを利かせると効果音が「ブ〜ン」。楽しすぎです。
 もはや効果音とともにある万里子は、今度は久我(長谷川初範)のもとへ押しかけお見舞いし、美咲が久我の子ではなく恭一の子であるとの女の感を告げる。さらには再びのつわりに歓喜。ちなみに妊娠に気がついた時の効果音「チ〜ン」でした。他にも「ド〜ン」なんてのもありましたでしょうか。
 ところが、このつわりの兆候だと思われた相次ぐ吐き気は、食道がん末期の症状だった。医者から病名を聞かされ、愕然とする万里子がへたり込む場所は外堀公園だったでしょうか。ロケに選ぶ場所も素敵です。
 余命いくばくもないと悟った万里子は、美保に恭一を返してほしいと土下座のアピール。

万里子「私が死んだら、主人はお返しします」

美保「ほ・ほ・ほんとうなの、万里子さん!」

どんなに邪険にされてもいいから、3ヶ月だけあの人を貸してほしいと懇願する万里子の必死の様には、もはや美保への憎悪むき出しの姿はない。それなのに病気だからといってお情けで愛を得ようとは思わないとか、恭一にはこのことを伝えないでほしいとか、だったら美保に何を望む万里子!
 自らの死後にもあとで恭一にわかるようにと洋服収納にラベル張りとは、万里子にもこんな慎ましやかな一面があったとは。当然、その事実を美保が黙っていられるはずもなく、決して万里子にそのことを悟られてはいけないと決死の覚悟で恭一に告げちゃった。万里子に対しては自然体で振うように涙ながらに美保は言うも、恭一だってそのことを隠しとおせるはずもなく、たまたらず凛子の店に外出して美保に感謝の電話をするも、驚くべきは恭一に変わって凛子までもが美保に感謝の言葉を連ねるあたり。時は流れたと言うべきか。
 ついに倒れた万里子は、美保から恭一に万里子の病気のことが知らされていたことを悟って、

万里子「美保先生の個展、成功させてね」

と希うなんて、悲しすぎるじゃないと思わせた矢先に、

万里子「私いろんな悪いことしたけど、美保先生の生き方が好きだった」

と面白発言をしてしまう万里子がやっぱり大好きだ。

恭一「俺も父さんみたいに万里子に刺されてやればよかったのに」

ともがき苦しむ恭一を察してか、病気になって今が一番幸せと口走っちゃうあたりに、薄幸の鏡を見る思い。
 死んでいくものは美しい記憶になるけれど、生き続けていくものは嫉妬や猜疑心に身を焼かれ狂い、醜悪になるばかりかなとは久我の心境。万里子の爆弾発言が引っかかって、医者に美咲と本当の親子なのかとDNA検査を申し込んだつもりだったか、それ以前に先天性の機能障害=無精子症であることが判明してしまい愕然。あまりにも早々に白黒ついてしまい、

美保「あなたの子か恭一君の子か、わからないの」

とのかつての美保の告白も、重みを失ってしまったよ。驚いたのは、久我がそのことを激白するなり、いきなりに走りこんで皿を洗い出した美保のスピーディさ。その目にも留まらぬ早業には目がくらむよう。
 父親としての自負が揺らぐ久我は、恭一からもらった美咲のホイッスルを自分が注文した赤い紐のホイッスルに無理やり交換させようするあたりに、やはり久我の嫉妬病は直っていなかったと確認する。久我>恭一を鮮明に打ち出した美咲の即決に救われるものの。
 そして3ヵ月後、魂のビスクドール展が開催。その中にあの万里子によって叩き壊された「永遠」(とタイトルされたみたい)が万里子との共同制作という形で出品されていた。あれほどに粉々になった人形をいかにして修復?この人形を写した写真をきっと万里子は見れずに死んでしまうであろうと思っていたけれど、実際には見られて本当によかったです。
 生きていた時間の中で、美保は3人の素敵な男に出会えた。3人に共通なのは真っ直ぐで純粋な部分。その共通点こそが美保自身でもあったと語りつくすあたり、恭一も大人になりましたね。
 個展の模様が掲載される雑誌が発売されるまで生きていられるのかを思い、美保を前にして万里子は号泣。

万里子「美保先生、ちょっと泣いていいですか?」

初登場時の微笑ましい万里子が一瞬戻ってきた。そしてついに万里子、逝く。ここ2週間のこのドラマは、完全に彼女のものでしたね。(麻生結一)


第12週(12/13〜12/17放送)
☆☆☆
 わけあって、この第12週は短縮版の速報という形でご了承ください。実際にはすでに遅れているわけですから速報でも何でもないのですが、いっそう大変なことになってきたこのドラマのこの週をスルーするのもあまりに惜しいと思いまして、はやる気持ちだけは速報級ということです。
 ここ数週は大々的に久我(長谷川初範)の特集が組まれていたが、この第13週はその大爆発ぶりで万里子(高橋美穂)が他を圧倒!流産、飛び降り自殺未遂とあまりにも過酷な過程を経てきた万里子は鬱々していても仕方がないとビスクドール教室に復活したまではよかったのだが、あれほどまでに万里子的更生を誓った恭一(堀江慶)の心はやはり7年前の恋にとらわれているようにしか見えない。酔っ払って帰ってきた恭一はベッドに倒れこみながら、

恭一「傷口がさ、なかなかふさがらなくてさ。まだ流れるんだ。血がさ」

とこぼすや、子供を作ろうと無理やりに万里子を押し倒す。
 そんな状況に耐えられなくなった万里子はついに家出するも、その家出先が美保のビスクドール教室とは。そのことを報告するべく恭一を呼び出した美保は、胸から血を流しているのは恭一だけではないと切り返すも、恭一は万里子への贖罪としての愛が正しいのか否かを自問自答するのみ。
 新展開は、かつて知子(肘井美佳)が洋一(半田健人)にしたようなことを万里子が恭一にするのではないかと恐れを抱く凛子(星遙子)と美保の思惑が、『愛のソレア』史上初めて一致するところ。この2人のタッグチームは最強かと思われたのだが、いったんは家に帰るも一切叱ろうとしない恭一の態度に愕然し、ついには恭一、美保、美咲(田中明)のあの3ショットの写真を見つけてしまったあたりから、万里子の壊れっぷりはいかなる抑止力もかなわなくなる。
 不穏だらけの空気中に唯一といってもいい幸福感が漂うのが、昔久我が凝っていたという模型飛行機が音もなく室内を静かに飛ぶシーン。その飛行機の様を見守る久我家の人々の満たされた面持ちは、これが最後なのだろうか?!
 モーツァルトのレクイエムにのって、すさまじい形相で恭一の持ち物から家捜しする万里子は、ひき続いてほとんど素人探偵の事件簿ちっくに美保と美咲(田中明)の後を尾行。そしてついに人物相関図の全貌を察する万里子。凛子に詰め寄る際のズーミングの切り替えしは、通常であれば絶対使用禁止となるようなケレン味の塊だ。
 ここからは嫉妬の域を超えて、ほとんどホラーの世界。仕事から帰った恭一を出迎える万里子は、美保の教室で制作したビスクドールを腹話術風に声色を変えて、

エイミー「パパ、パパ、パパパパ。」

と呼びかけるって、こりゃ怪奇以外の何物でもない。ちなみにエイミーは、このビスクドールに万里子が命名した名前。そのエスカレートぶりはとどまるところを知らず、今度は恭一が書いた雑誌の記事に掲載された美保の写真に包丁を突き立て、切り刻み、それを美保に送りつける始末。ここでのビスクドールのエイミーちゃんなめで万里子の激情カットがカッコよすぎです。
 エピソードとしての面白さという意味では、万里子が美保、恭一、そして凛子を「凛」に呼びつけるシーンが出色の出来。ツワモノ3人をキリキリ舞させる万里子の悪魔性はさらに持続し、美保との関係を告白する恭一に対しては、

万里子「出た出た、しっぽがトゥラ〜ントゥラ〜ン」

と辞書に載っていないような言葉で終始圧倒。ついに万里子は知子を越えた?!
 久我ビルディングの贈収賄事件を恭一がスクープするという横糸では、雑誌が発売になる前日に恭一が久我を救おうとする心境の変化が面白い。確かにここまで長期にわたっていがみ合ってれば、それなりの親しみぐらい沸いてくるのかもしれませんね。というわけで、短縮版の速報を終わります。(麻生結一)


第11週(12/6〜12/10放送)
☆☆☆
 美保(荻野目慶子)と恭一(堀江慶)の密会現場に久我(長谷川初範)が乗り込んで行くのっけからドラマはヒートアップ。恭一ともみ合ううちに足を負傷してしまう久我に対しての美保の言い訳がスゴイ。

美保「私は家族を壊すつもりはないんです。ただ、今夜だけはあの人に抱かれたいと思いました」

久我「お前は自分で何を言ってるのかわかっているのか?」

まったくだ。
 のこのこと久我の病院にお見舞いに行ったりしているうちに、恭一は万里子(高橋美穂)と別れることを決意する。そんな恭一を心配する凛子は、

凛子(星遙子)「私怖いんです。万里子さんと知子さんが重なって」

と、言ってはいけない予言をついに口走ってしまう。まったく怖すぎる。
 これぞれがそれぞれに崩壊する有り様でも、もっとも身体性が高かったのが先週からハイテンションを維持し続けている久我。傷が治るまでの期間限定で美保が甲斐甲斐しい貞淑な妻を演じているつもりならば、いっそ傷なんか治らなければいいと、果物ナイフを自らの足につきたてる!

久我「この体が血の一滴までなくなろうとも、私はお前を放しはしないぞ。これがお前への私の愛だ!」

そんな捨て身のアピールが利いたか、美保は久我を選ぶことを宣言(これで何回目?!)。久我ファミリーが親子で手に手を取り合う場面での久我の男泣きにはさすがに泣けてくる。
 いっこうに懲りない恭一は、退院した久我のもとに押しかけてまたまた出ました宣戦布告。こいつは恋愛ゾンビか!そんな恭一に67歳とは思えない身のこなしで松葉杖を武器に応戦する久我だったが、殴られる一方の恭一に覆いかぶり身を挺してかばう美保を目のあたりにして、久我はまたまた大いに落ち込む。鏡に映されるのは嫉妬にかられ、老いさらばえた男の姿。
 久我と生きていくことを、そして恭一への思いを一生封印して生きることを決めた美保だったが、

「怖い。怖いわ。まるでもう1人の自分が自分の中にいるみたい」

って、こちらもなかなか懲りない模様。ちょっと前からだけれど、荻野目慶子が受けの芝居になってきてるあたりがこのドラマをいっそう引き締めているところだと感心させられる。
 やはり自分を偽れない恭一は万里子に離婚を切り出そうとするも、先んじて赤ちゃんが出来たことを万里子から告白されてしまう。恭一のギョっとした表情はもはや十八番になりましたね。
 ビスクドール教室で万里子から妊娠を告白された美保は、生まれてくる子供の父親になる自覚を持つようにと時期談判するも、まったく聞き耳を持たない恭一はついに万里子に離婚を宣言。取り乱して外に飛び出した万里子は恭一と口論になってもみ合ううちに階段から転落して、流産してしまう。
 自分と関わった人間はみんな不幸になっていくと嘆く美保。このままでは洋一(半田健人)のときと同じように恭一も、そしてその家庭もめちゃくちゃにしてしまいそうだと恐れおののく。ちょっと遅いよ。
 ここで真打登場とばかりに勝手に久我邸に入ってきて、凛子は美保に恨み節の連打するのだったが、久我はまだ完治していない痛い足を我慢して折り曲げて、そんな凛子に対して土下座して謝罪する。

久我「美保の罪は私の罪でもあり……」

美保はそんな久我の姿に感動。あまりにも有償にして無償の愛がここに極限まで高められた形に。
 恭一もまた命の重さを痛感し、ようやく万里子と一緒に生きていくことを決意する。見ものは、万里子のお見舞いに行った美保(また余計なことを)のことを万里子がビスクドール教室の先生だと凛子に紹介したときの凛子の受け答え。

凛子「それはそれははじめまして。私、万里子の母でございます」

って、恐ろしすぎる!
 恭一から昔好きだった人のことが忘れられないと告白された万里子は、爆発する思いを美保に吐露。

万里子「私から子供を奪ったのはどんな女なんだろうって、考えただけでその相手を殺したいぐらいの衝動に駆られてしまうことがあるんです」

また物騒な。そんな万里子を見かねて、ついに美保は告白を決意するのだが……。

美保「ねぇ、万里子さん。実は……」

そこに飛び込んでくる凛子!

凛子「あなた、今万里子さんに何を言おうとしたの?」

危機管理対策は万全と、ちゃんと廊下で話を盗み聞きしていた凛子に手抜かりなし!
 こんな状況ですべての真実を知ったならば、万里子はそれこそ知子(肘井美佳)以上になると恐れた凛子は、ついに恭一に父・洋一は母・知子に殺されたという、最後の秘密を恭一に告げる。洋一の二の舞だけは避けようとする凛子の親心にお得意の衝撃を受ける恭一。
 ここからは万里子の半狂乱特集。病室に飾られていた白薔薇をめちゃめちゃにした挙句、病院を飛び出す万里子。驚いた恭一があてどなく病院の付近を捜していると、ビルの屋上に万里子の姿を発見。まさに飛び降りんとする万里子は、恭一に向かってこれまでの思いを絶叫する。ここはこのドラマには珍しく(?!)、真っ向勝負的に感動的な場面を作っている。ビルの高さを見せ付ける俯瞰画があざとくて実に効果的。

恭一「俺はお前を愛してみせる!」

と言い放って、ギリギリのところで万里子を抱きとめて助ける恭一が、ついに真っ当な人間らしさを見せる。あられもない姿で抱きとめられる万里子のおでこのバンソウコがはがれそうな感じがまたリアル!やはり、この枠のロケは抜群ですねぇ。(麻生結一)


第10週(11/29〜12/3放送)
☆☆☆
 第10週は、7年間のブランクを感じさせない勢いで運命の導くまま、気の向くままに恭一(堀江慶)を求め始める美保(荻野目慶子)に対して、ただひたすらに嫉妬の虫となる久我(長谷川初範)の悶絶大特集。はじめに断っておくが、言い訳をこねて密会を繰り返す美保と恭一の方が明らかに悪く、どう考えても久我に非はない。老いと孤独の恐怖にさいなまれつつ、そのたびに暴力という最終手段に訴えるしかない久我だったが、その暴力こそが美保が何よりも嫌っているもの。暴力を振るう久我に向けられる美保のまなざしには嫌悪以外の何ものもなく、何の非もなかったはずの久我が結局は暴力亭主的な非の塊となってしまう繰り返しにただただいたたまれない気持ちになる。

久我「年をとるということは欲も徳もなくなってかれていくことだと思っていたがどうしてどうして」

とは、美保が恭一と会っていたと思い込んだ久我が美保を平手打ちにしたあとに発した反省の弁。この「どうしてどうして」のニュアンスが悲しすぎるでしょ。しかも、発言ごと無視されてるし。
 オフィシャルページレベルでしか判然としなかった久我の経歴が、ついにご本人のカミングアウトによって明らかになる。

久我「老舗とはいえ、一介の呉服屋から今の株式会社久我ビルディングにしたのはこの私だ!」

決して家にはいかなる仕事に関することも持ち帰ることがなかった久我がここにきていきなり仕事熱心となる怪も、久我の立たされたかつてなき苦悩の表われか。繰り返し言おう。久我は悪くありません!
 ビスクドール教室の生徒である万里子(高橋美穂)が恭一の妻であることをまだ知らなかった時代の美保による夫の浮気を心配する万里子への助言、

美保「ドンと構えてらっしゃい」

の「ドン」の部分を引き伸ばし、

万里子「ド〜ン」

と口移しのアレンジバージョンで繰り返す万里子の将来について、ロダンのママ・元子(米倉涼子)の行きつけの美容室のオーナー・曜子(紫吹淳)に占ってもらうとするならば、きっと

曜子「まっ逆さまに落ちていく……」

とのご神託がくだるのでは(『黒革の手帖』)。
 怪しげな行動をとる恭一に対して、

万里子「妻ってね、夫が仕事で遅くなったのはそうでないのか、何となくわかるのよ」

とは、その過分の呪術力が予想以上の不幸を招きそうで怖い。

万里子「あなたの中で何が起こっているの?」

との的を得た質問の切り返しっぷりもあまりに不吉?!
 美保と恭一の運命論を論じる上で欠かせない最重要人物の1人、凛子(星遙子)が久我の呼びかけに応じて7年ぶりとなるタッグチームを再結成。
 
凛子「7年前だって、散々こういうやり取りを繰り返してきたんじゃない」

その果てにあの生々しいベッドインがあったかと思うと(第8週参照)、この2人のツーショットにも危うさを感じずにはいられない。
 凛子の直談判も毎度のごとく空砲に(むしろ火に油を注いでる?!)、恭一との密会を繰り返す美保にまたまた暴力を振ってしまう久我に対して、恭一からもらった笛を吹いて助けを呼ぶ美咲(田中明)と、『女優・杏子』の最終回のラストシーンで、舞台に立って笛を吹く立つ杏子とが重なった方っていらっしゃいますか?
 そしてついに美保は生徒の万里子(高橋美穂)こそが恭一の妻であることを知る。

万里子「美保先生ってね、昔女優さんだったんですって」

とのコメントによって、万里子のバックボーンのすべてを見きった気になるも、恭一と万里子の年齢設定を知ってちょっとわからなくなる。最初はたった7年前にあれほどの有名女優だった美保=女優・花園しのぶを知らないなんて、万里子の親は子供にテレビを見せない教育をしていたのだと即座に思ったのだが、1982年時点での恭一は24歳で万里子は27歳と、万里子は姉さん女房だったのだ。となると、7年前の万里子は20歳となる。謎は深まるばかり。
 美咲の誕生日に撮影された3ショットのバースデイフォトを見るなり、

美咲「お父様、髪の毛真っ白でおじい様みたい」

って、そりゃあんまりだ。恭一の写真と比べられちゃ、67歳の久我は太刀打ち出来るはずもなく。愛ではなくて感謝してしまう美保に、感謝ではなく愛を求める、歯がゆいほどに優しい久我の恨み節がむなしく響く。
 それに比べて、離れていくことこそが美保を救うことになると誓い、あれだけ来ちゃダメって美保から言われてるのに、終いには毎日美保に会いに来てる恭一の無意識的な悪魔性ときたら、7年前からちっとも成長してないじゃないの。運命はいかなる成長をも無化させてしまうというのか。
 そんな2人の密会の詳細をあまりにももろくディスクローズしてしまう美咲の爆弾性は、『落ちた偶像』ばりにハラハラさせるもの。美咲お気に入りの石投げが恭一によって伝授されたものであったことを知った久我が豹変。かつてなきほどに美咲を殴りつける久我をとめようとして突き飛ばされてしまった美咲をかばう美保は、ついに久我に決別宣言する。

美保「私はこの家庭を壊すつもりなんかまったくないのよ」

って、そんな嘘ばっかり。完全に壊しにかかってるでしょうよ。
 美保を奪わないでと土下座する久我に対して、卑怯者呼ばわりする恭一

「もうあの人に会うまいと、やっと決めたところだったのに」

って、そんな嘘ばっかり。会う気満々だったくせに。そして恭一は久我に美保的宣戦布告をする。(麻生結一)


第9週(11/22〜11/26放送)
☆☆☆
 あれから7年の設定ということは昭和50年の7年後だから昭和57年、西暦で言えば1982年で、ここからが第4部となる模様。美保(荻野目慶子)は女優引退後に娘・美咲(田中明)を出産。その美咲は小学1年生に、美保自身は現在ビスクドール教室の先生になっている。ヨーロッパの磁器人形であるビスクドールが唐突に登場したのにはちょっと面食らうも、ドラマの雰囲気を考えるとあの妖気を帯びた表情などはあまりにもはまっているといえるかもしれない。
 24歳となった恭一(堀江慶)は光和出版にお勤めする編集者に。ようやく年相応の雰囲気になってきた感じは、若かれしころの江藤潤風?! そんな恭一は死期の近い源一(石田太郎)から託されて、洋一(半田健人)の祥月命日から遅れること一日で墓参りにやってくると、毎年一日ずらしてお墓参りをしていた美保と衝撃的な再会をとげる。それが衝撃的であることはカメラのアングルとズーミング、音楽と効果音の連続攻撃で否応なくわかるところ。これが運命の第1矢目。
 運命の第2矢目は、おそらくは机の上に平積みになっていた「月刊波涛」という雑誌の企画で元女優の人形作家にインタビューすることになった恭一がその教室を訪れて、その作家先生こそが美保と知る場面。普通取材先の名前ぐらい聞いてくるだろうにと思うのだけれど、お互いの驚きようのただ事じゃない空気感に、すべての不自然が吹っ飛んだ。
 愛しい者たちへ鎮魂をこめて人形を作るとしみじみ語る美保に対して、美保の存在は抹消したと言い切る恭一。ここで恭一の妻・万里子(高橋美穂)が美保の教室の生徒だった、という第3の運命の矢が放たれる。早々に子供がほしいと思っている万里子が、病院にいくことを渋る恭一の無関心ぶりを察して女性の影を見るあたり、半狂乱のうちに絶命した洋一の妻・知子(肘井美佳)のダブって見えたり。
 有名私立小学校の教壇に立つ女教師のハレンチスキャンダルを暴こうと、校門の前でハッていた恭一が、美保の娘・美咲(田中明)を不審者から救ってしまう第4の矢まで見進めると、運命を深追いする手厚さに脱帽するしかない。
 さらに、凛子(星遙子)が営んでいる小料理屋・凛の出店資金が、実は7年前に恭一のためにと美保が源一に託したお金であったことが、臨終の源一の口から恭一に伝えられる。この事実を知ったら、どこまで乱れ果ててしまうのだろうかと不安になる凛子だが、元来女将顔だっただけに、これは一点の曇りもなく納得がいく職業換えだと言えよう。それにしても、源一の大往生のためっぷり(=なかなか逝かない)は、現代劇の域を超えていたのでは。
 すっかり白髪になった久我の職業の謎についてはこれまでにも触れてきたが、実は老舗呉服屋主人であったことがオフィシャルサイトの人物紹介にて判明。ところがこの第4部にいたって、久我ビルディング会長と肩書きがグレードアップしてる。
 不審者から美咲を救った恭一にお礼を言うべく母娘で訪ねた出版社にて、どうしたことかスリーショットの記念写真を撮影。ここで写真を送ってほしいと三咲が頼むに、当然恭一はその住所を知ってるわな。
 送られてきた写真を美保が隠し持つにしても、見つけてくださいと言わんばかりの鏡台の引き出しにハンカチでサンドイッチして。美保と恭一が密会していたまさにそのとき、割り箸の棘が刺さった美咲が刺抜きを探してる間にそのリーショット写真を発見したことで、本当の親子かもしれない3人がすでにご対面していたことに久我はショックを受けるも、そのことを美保には告げない。これはいかにも久我らしい保留の仕方。
 一方、万里子は美保に恋のお悩み相談中。しかもよりによって、過去の恋について、かつて愛した人について質問しちゃってるよ。近い将来の万里子の崩壊ぶりが予測できるだけに、見る側もいっそうそわそわとしてしまう。予測的中の恭一は美保に迫る。

恭一「何も求めない。君を困らせるようなことはしない。だからただ会いたい。会いたいんだ」

って、それが困るんだってば。畳み掛けてくるつながりの強引さは、今後のお話をスムーズに進めていくために必要不可欠なものでしょう。
 ちょっと気になったのが喫茶店でかかっていた「ワン・モア・ナイト」。あの曲は1985年のヒットだから、ここでかかるのはおかしい。「ニューヨクシティ・セレナーデ」はジャストなんだけど。(麻生結一)


第8週(11/15〜11/19放送)
☆☆☆
 あんな年上の女=美保(荻野目慶子)と公園でバナナ一口ずつ食べてるところを見られてしまった恭一(堀江慶)は、同級生の舞子(大西麻恵)の口を封じるべくキス。その口封じ策がバレるや、徹底的に口封じしてと今度は制服を脱ぎ出す舞子は、挙句には美保に直談判。舞子の言う、女にもてあそばれていると気がつかない、歯がゆいというかバカというか信じられない人間である男どもに自らも当てはめて自嘲するあたりが、いかにも久我(長谷川初範)らしい大人の男の含蓄。
 凛子(星遙子)が命に代えても、たとえ刺し違えようとも恭一を守る宣言をすべての過去を暴露することで果たすあたりから、ドラマは風雲急を告げる。ここで美保は本能的に恭一の中の洋一(半田健人)を探り当てていたことを知ることに。すべてを悟り、自らの指を噛んで泣き叫ぶ37歳の美保=荻野目慶子と17歳の美保=前田綾花がここでぴったりと重なり合うあたり、いかにこのキャスティングが絶妙だったかがわかるところ。
 寝込んだ美保のお見舞いに恭一がリンゴなんか買っていくものだから、案の定美保はりんごの皮をむいているときにナイフで手を切り、すると恭一が美保の指をくわえる。そのとき線香花火をやっていたときにやけどした指をくわえてくれた洋一と恭一が今後は重なる仕組み。このあたりの折り目正しさこそがこのドラマの真骨頂と言えるだろう。
 自分の愛した女が両親と自分を不幸にした原因だということを知ってしまったら、その傷は一生消えないかもしれない。それだけは避けなければとの思いは絶頂に達し、鬼になって恭一を守る決心をする美保は、そのすべて一歩手前までの真実を恭一に告白。すべてを告げ終わったとの美保の薄っすらとした微笑には震えるしかない。そんなすべてを聞いて単純に美保を恨む恭一は、どんなに年食って見えてもやはり設定は高校生でしたね。

恭一「僕を産んでくれた……」

との言葉を聞いて、今度は凛子のジレンマが浮き彫りになる。その罪深い告白がショッキング。

凛子「恭一、お母さんだって女なのよ。女として恭一を愛せたら……、そんな罪深い夢を見るただの女なのよ」

こんな母からの問いかけにも何とか持ちこたえるあたりは、さすがに設定は高校生でも、年食って見える恭一。
 最初期からの生き残りは久我だけじゃなかった!凛子もまた自分に父・洋一を見ていたのかと疑念を持つ恭一を説き伏せるのは、奇跡の生還をとげた田所源一(石田太郎)。

源一「愛しい者の中に恋しい者を見る。人はそうやって自分を励ましながら生きていくものだよ」

素直に聞けば名言じみた言葉の裏側に、凛子の中に七年前に死んだマサ(奈良富士子)を見ているとこっそり爆弾発言を含ませるあたりは、老人ホームで隠居しようとも郭の亭主の凄みは失われていない証拠。
 そんな凛子の報告をカウンターバーで聞くにつけ、寂寞とした気持ちになるあたりはさすが含蓄の人、久我(長谷川初範)。そして人一倍愛するものの心を捕まえることが出来ない似たもの同士がなんと生々しくベットイン。このドラマを第8週まで見続けてきて、知子(肘井美佳)が洋一を刺し殺したのにも驚いたが、これはそれを超えるかも。
 そのベットの中でか、久我は言ったらしい。

「私たちは輪廻という輪の中で、それぞれの役割を与えられた」

と。その夜を

「たった一度の氾濫」

と表して、名言返しで応酬する凛子もやはり並じゃない。またその会話を恭一はこっそり聞いちゃってるし。
 そうこうしているうちに、美保が妊娠3ケ月であることが発覚。果たして恭一の子なのか、それとも久我の子なのか。そのすべてを受け入れる久我の優しさに美保もついに結婚、女優引退を決意。まぁ、これでめでたしめでたしといかないのは、予告編を見ずとも明らかなのだけれど。(麻生結一)


第7週(11/8〜11/12放送)
☆☆★
 自伝『この愛に生きて』のヒットで奇跡的に息を吹き返すあたりが、転んでもただでは起きないいかにも美保(荻野目慶子)らしい。そんな自伝が映画化されれば興行収入20億は下らないと目算されるも、愛した人を不幸にしてしまう怖さ、失ってしまう恐怖から、もうあんな思いは二度といやだと決してその権利を手放そうとしない美保にしても、そんな美保がかつて愛した人が自分の伯父(本当は実父)・洋一(半田健人)であると知り、運命的なものを感じるままに勢いに任せて唇を奪う相変わらず老けた17歳・恭一(堀江慶)にしても、はたまた眉間のしわが尋常じゃない鬼の形相で恭一を美保から守ろうとしているつもりの凛子(星遙子)にしても、その思惑は映画化はNOで一致しているはずなのに、どうしてここまで映画にするしないでもめてしまうのか、いやその一点だけで一週間持たせてしまえるのか、そのあたりの力感がこのドラマのすごいところ。
 恭一のためなら鬼にでも夜叉にでもなってやる宣言をする凛子と、それなりの痛みに耐える覚悟のある人間にしか夜叉になれないと実体験に基づいて切り返す美保との舌戦は壮絶な見どころ。息子の域を超えて思いやる(実際にも本当の息子ではない)恭一が美保側につくや迷わずはり手をあびせる凛子の直情ぶりには恐れ入るしかない。
 この第7週ではそんな強烈な2人に勝るとも劣らなかったのが尾崎(八木橋修)の醜態ぶり。取り立て屋には殴られるは、息子には突き飛ばされるはでボロボロ。借金苦の果てに遺書まで書いて死のうとするも、義子ではあっても本当の息子のように育ててきたはずの恭一に美保を説得するべくホテルに一室用意までしてしまうあたりのせっぱ詰まった突き抜けっぷりはある意味清々しかったり。土下座どころか足の裏だってなめるとまで言い放ったのに、

尾崎「俺たちとあの女とどっちが大事なんだ」

と心の底ではまったくと言っていいほど美保への感謝の気持ちがないあたりも首尾一貫してる?!
 自伝の出版によってまたも運命の女神にソッポ向かれそうだった美保は、

恭一「胸を張っていていいんだ」

との一言でついに恭一と洋一を重ね合わせ、はたまた唇も重ね合わせ。そんな2人の運命の糸だって断ち切ってしまう宣言をするなり、そのまま気絶してしまう凛子の壮絶さはそれはそれでなかなか小気味いい。花園しのぶのマネージャーとしての宿命か、典子(田岡美也子)はまたまたお詫びに回らなきゃいけない事態に。このドラマで社会的に真っ当なのはこの人ぐらいでしょうか。(麻生結一)


第6週(11/1〜11/5放送)
☆☆☆
 美保(荻野目慶子)への思い、結果としての目的は正反対も、スキャンダルのリークという手段を共有した凛子(星遙子)と久我(長谷川初範)の即席タッグチームによってかつて赤線で働いていたことを公にされ、映画『アイシャドウ』の主役を降板させられるや、転がる石のように転落の一途をたどる美保の女優人生が、その急降下と同じ、いやそれ以上の急上昇をとげるまでの顛末。
 美保はそれとは知らず、かつて愛し抜いた男、洋一(半田健人)の実の息子であるオッサン高校生・恭一(堀江慶)を落ちぶれた自らのサンドバックとして胸に抱く。夫である尾崎(八木橋修)と息子である恭一を短期間でいっぺんに寝取られた凛子は、

凛子「出て行け」

と恭一を家から追い出しておいて、その次の瞬間には美保の自宅に乗り込んでいって必死の形相で息子探しをする複雑さ。その息子を溺愛する様は、まるで恋人に接しているかのよう。ここにもまた洋一=恭一の構図が潜んでいる。

久我「父と息子が1人の女を愛する。これが宿命と言うものか」

と久我が力んでみせる喫茶店でいつも流れてるのがモーツァルトのレクイエムって、そんな喫茶店は怖すぎます。

美保「私の命よ。私が精魂込めて作り上げてきた唯一無二のもの、それが花園しのぶよ。こんな 裏切りは許せない。私、負けない!負けない!」

と自らに鞭を入れれば入れるほど、事態は悪い方へ悪い方へと流れてしまう。カレンダー撮りのキャンセルの連絡がないことにすがるもそれさえもキャンセル。そこで一触即発となった松倉千佳(星ひとみ)に映画の主役が決定し、美保のプライドはズタズタに引き裂かれたかと思いきや、原作者の堂門(黒部進)にスリスリして映画の企画を凍結させてしまうあたりの強引さはやはり美保ならではのもの。
 その極端な美保のやり方に対して、無傷で闘うのと手負いで闘うのでは戦法が違うと、大いなる理解者だったマネージャーの典子(田岡美也子)からもソッポを向かれる。たとえいずれ太陽が昇ってくるまで嵐が過ぎ去るのを待つのが現状の最善の方法だったも、その嵐に立ち向かってくのこそが美保その人。
 尾崎の手引きで業界でも評判の悪い大手の興行会社が主催するパーティーのメーンゲストに呼ばれたはずが、そこに待っていたのは花園しのぶのファンだと言うその社長ただ1人と隣室のベッドルーム。危機一髪のところを恭一と典子が乗り込んできて助け出されるも、一晩つきあったら200万円という裏のからくりを聞かされて、花園しのぶももう終わりだと明るく振舞う美保が久我の手打ちそばをすするシーンが何とも泣かせる。
 ここからは一撃必殺の逆襲劇。美保は自らの再確認のためにと恭一に説得されて自伝を書くことになる。

美保「一所懸命生きて、一所懸命人を愛した。不幸ばかりじゃなかった。恥ずべきことは何もない」

との言い切り調は置かれた状況下に関わらず普遍。『愛に生きて!』と題されたその本は50万部突破で起死回生の一発に。(麻生結一)


第5週(10/25〜10/29放送)
☆☆★
 タイトルバックもマイナーチェンジして、女優・花園しのぶとなった美保(荻野目慶子)の愛のソレアっぷりも後半戦に突入。後半戦とはいっても、この折り返し地点後は折り返し地点前よりも2倍ほど長いのだけれど。
 となると、映画の主役を取るために不倫関係を結ぶ映画プロデューサー・尾崎(八木橋修)が、まるで別人に変貌した凛子(星遙子)の夫だったり、さらにはその母・凛子を悲しませたくないと美保に食って掛かり、居合わせたパパラッチに写真を撮られてしまって暴漢扱いを受ける恭一(堀江慶)こそが、実は洋一(半田健人)の長男だったりといったドラマの核心がこれでもかと大盤振る舞いされる展開にちょっぴり心配になったりもして。
 弱いものは踏みつけられる、貧しいものに世間は冷たい、との実体験がそうさせたのか、昔の私を捨てたと言い切る荻野目慶子版の美保にはピュアで一途だった前田綾花時代の面影なしかと思いきや、対等じゃない相手を苦境に落とすことだけはしたくないと、警察に連行された恭一を助け出すために一芝居うつあたりの真っ直ぐな正義感ぶりは普遍の模様。大抵の幸せはお金で買えると言い放つ姿もどことなく悲しげで。
 大量旗を掲げた父親の野辺送りの光景に対して「詩情溢れる」と評した恭一に、私の神様=洋一の面影を無意識的に見たのか、これまで誰にも話したことのないような昔話を美保がする場面がいい。
 そんなしみじみから一転、出会ったら最後の美保と凛子は早々に全面対決ムード。

美保「昔からあなたの大事なもの横取りしてるみたいで、ごめんなさいね」

なんてねっとりした台詞も荻野目慶子が言うと妙にハマる。それにしても凛子は顔が変わりましたね。
 そんな凛子と久我(長谷川初範)が驚愕タッグを結成し、美保が赤線で働いていたことを週刊誌にリークするだなんて。女性週刊誌の編集長さえも久我が持っているマンションに住んでるらしいんですけど、いったいこの男の職業は何?
 結局映画の主役を降ろされた美保=しのぶが、ほとぼりが冷めたころに再び主役を、と尾崎に一筆書かせた文面の日付は昭和50年だったような。売春防止法が発効されたのが昭和33年だから、それから17年後とすると、設定はやはり昭和50年で正しいことになる。(麻生結一)


第4週(10/18〜10/22放送)
☆☆★
 4年の時を経てつい再会した美保(前田綾花)と洋一(半田健人)の2人は、今再び世間という崖から飛び降りると高らかに宣言する。共にしか生きられない美保と洋一の運命の結びつきを思えば、あなたのつらさは私のつらさとの尋常ではない思いつめ方も納得がいくところ。そして次はいかなる破壊的行為に出るのかと、有限実行が身上の美保だけに気が気じゃなくなる。

美保「私を殺して!」

なんて随分と物騒な台詞まで飛び出すあたりでやはりかと思いきや、美保はその運命に翻弄されてきた人生さえも不幸ばかりではなかったとの達観の境地に。過ぎた過程を戻るにはもう遅すぎたとはあまりに悲しすぎる。
 そして実際に大爆発したのは美保の方ではなく、洋一の妻・知子(肘井美佳)の方だった!

知子「死んだはずの人が生きていたなんて安っぽい感動で有頂天に なってるようだけど、そろそろお祭りは終わりにしていただきたいの」

と美保を前にして言い放ったまではまだ真っ当だったけれど、商売女に敗北したとの屈辱には耐えきれず、ついに智子の精神は壊れる。鬼の子なんて産みたくないと半狂乱になるのはまだ理解の範囲内としても、自らのコブシでお腹をたたくのに、そこに効果音をつけるのはやりるぎでしょうに。

マサ(奈良富士子)「知子さんもあそこまでするなんて、私にはちょっと」

とは、その効果音も含めての感想だったか?!
 ここのところノーマークだった凛子(松下萌子)は、洋一と結婚する試みを実はあきらめていなかった?!

知子「やっぱり私のことを恨んでいたのね。洋一さんをとられたって」

凛子「あなたのこと、はじめから気に食わない女だと思ってたわ」

戦慄のにらみ合いにより、凛子と知子が全面抗争に突入するのかと思ったのだけれど……。やはり凛子の臭覚は確かなものだった。
 美保と洋一の今生の別れに引用される高村光太郎の詩集。

洋一「いやなんです。あなたが行ってしまうのが」

たとえ100年会えなくても、赤い糸でつながっているとの別れの言葉に2人は別々の人生を生きていくはずだったのに……。知子は洋一を刺殺、自らも胸に刃物を突き刺し息絶える。
 そのあまりの壮絶な結末を知らされるに、美保は岸壁に立ち、運命の女神を振り向かせてみせると心に誓う。
 それから16年。そしてついに荻野目慶子登場!!! ってことは、ここからが第3部? 映画のニューフェイスで合格して、女優としてトップを目指すべく手段を選ばずやってきた女こそが、美保改め花園しのぶ37歳。てっきり美保は夜の女になるとばかり思っていたので、『女優・杏子』の夢よもう一度的な展開は大いに歓迎したい。その目力の華麗さはただ事ではなく、否が応にも期待が高まる。
 花園しのぶの愛人である映画プロデューサーの尾崎(八木橋修)は、これまた役柄が16年を経た凛子(星遙子)の夫とな。そのことを凛子は知らない?それにしても、凛子が実の子として育てている洋一と知子の長男・恭一(堀江慶)は17歳にしては随分と老けてますね。(麻生結一)


第3週(10/12〜10/15放送)
☆☆☆
 女郎を折檻するために設けられている鉄格子付きの部屋に閉じ込められていた美保(前田綾花)は、2人の別ちがたい結びつきについに観念した凛子(松下萌子)に手足を縛られた縄をほどいてもらった洋一(半田健人)によって助けられ、例の伊豆の別荘に逃避行。そこに逃げちゃったら捕まるのも当然とばかりに、程なくして田所(石田太郎)が差し向けたいかにも柄の悪そうな連中に見つかってしまう。ついに岸壁まで追い詰められ、もはやこれまでと愛を誓い合って手をつなぎ、『明日に向かって撃て』ばりに潔く海に飛び込むも、懸命の探索の結果救出されたのは美保だけだった……。
 あの高さから飛び込んで母子ともに健在とは、やはり美保の生命力の強さはただものじゃない。マサ(奈良富士子)に無理やりに堕胎させられることを恐れた美保は、収容された病院から脱出を試みるも、凛子に追いかけられてその辺に落ちている木片で袋叩きにされ、気がついたときにはすでに子供を無理やり処置させられた後だった。
 そんな美保を気の毒に思った久我(長谷川初範)は、疫病神(=美保)は災難をもたらす相手を選ぶものだとの捨て台詞とともに、美保を田所家から連れ出して自らの妾にする。
 美保の生命力以上の驚愕は、実は洋一(半田健人)が無傷で生きていたという事実。いったんは記憶を失うも、赤線廃止に異議を唱えるその筋の女のインタビューを見ていて、自らの家業を思い出す形で記憶が蘇るとはあまりにもアクロバティック。
 それから一気に4年が過ぎ去り、美保は死んだと聞かされた洋一は知子(肘井美佳)と結婚して長男が誕生。美保は久我の愛人ぶりもすっかり板についた和服の着こなし。4年もあればお互いの安否ぐらいわかるだろうに、なんて常識的発想はここでは通用しませんよ。
 洋一の面影を追い求めてか、おそらく定期購読しているのであろう(?!)『詩想』8月号に掲載された大漁旗の葬列の詩を読んで、美保はついに洋一の生存を確信する。ここで映し出される

「田所洋一」

の活字のデカさが尋常じゃないぞ!アメリカ帰りで英語がベラベラになった凛子のパワーアップぶりも含めて、かなり温まってきております。(麻生結一)


第2週(10/4〜10/8放送)
☆☆★
 女郎になったヒロイン・美保(前田綾花)は初めての客である久我(長谷川初範)から最大級の寵愛を受けるも、間髪おかずに洋一(半田健人)の子供を身ごもっていることが発覚。義妹ながら洋一と結納を執り行う強硬手段に出た凛子(松下萌子)はそのことを知るや、男たちを雇って美保を襲わせるも未遂に終わる。そこからは、逃げて、捕まって、竹刀で殴られて、ついには鉄格子に監禁されてと昼ドラ的イディオムがこれでもかというほどに詰め込まれていくが、そのわりにはさっくりと見せてしまうあたりがこのドラマの不可思議なところ。
 水面下で病気になったり手術したりと大忙しだった弟・晃(桑原成吾)は美保を訪ねてやってくるも、そこが娼館と知って激高。すべては洋一の手引きと思いこんでナイフでブスリとやって逃亡するも、責任を感じて程なく自殺する。妙に慌しいドラマの進行には大いに疑問も残るが、晃を偲んで美保が久我と弔い酒を酌み交わす場面はいい感じ。妊婦がお酒とはいかがなものかとも思うけど。
 先輩女郎連では美保の擁護派だった澄江(坂上香織)が軸になるのかと思いきや、新進気鋭の画家に刺されてあっさり死亡。意表をついて京子(井上彩名)がワル代表として頭角を現してきました。今は昔、井上彩名が裏番組『スタジオパークからこんにちは』のアシスタントをやっていた時のことを思うと、月日の流れにしみじみとなる。(麻生結一)


第1週(9/27〜10/1放送)
☆☆★
 ひたすらに回り続けるタイトルバックに、目くるめく降りかかってくる不幸の連打とそのたびに逆境をバネにしていくヒロインの生き様を深読みしてしまうのも、そこに仁王立ちする荻野目慶子の圧倒的な存在感に他ならない。ただただ身震いするしかないほどの他の追随を許さないその貫禄たっぷりな様に傑作『女優・杏子』の再現を期待してしまうも、この第1週では運命に翻弄されるヒロイン・須藤美保はまだ少女時代で、演じるのは前田綾花。ただ、その不幸の化身ぶりは荻野目慶子が乗り移ったかのように濃厚(見た目も似てる!)。

美保「貧乏の前には自分の意思なんて無力だわ!」

との台詞に集約されるひたすらに不運が折り重なって、人生の希望が一つも見出せないヒロインの有り様はこの枠の王道を行くあざとさ満載も、不思議とドラマはスルスルと流れているから不思議。あまり極端にばかり走るとディテールの突っ込みの方に忙しくなってしまって、ドラマの本筋に興ざめしてしまうことも多々あるだけに、このドラマにはこの調子でいっていただきたいところ。それにしても、ロケ撮影は相変わらずうまいよなぁ。(麻生結一)




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