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松本清張 黒革の手帖 (テレビ朝日系木曜21:00〜21:54)
テレビ朝日開局45周年記念
制作著作/tv asahi、共同テレビ
チーフプロデューサー/五十嵐文郎
プロデューサー/内山聖子、中山和記
原作/松本清張『黒革の手帖』
脚本/神山由美子
演出/松田秀知(1、2、5、6、7)、藤田明二(3、4、7)
音楽/上田益
主題歌/『Here alone』安良城紅
出演/原口元子…米倉涼子、安島富夫…仲村トオル、山田波子…釈由美子、中岡市子…室井滋、櫻井曜子…紫吹淳、紺野澄江…吉岡美穂、村井亨…渡辺いっけい、矢沢…萩野崇、恭子…赤坂七恵、真希…森洋子、美里…田中夕稀、麻理…高野杏子、岩村叡子…山本陽子、藤岡彰一…小野武彦、女…朝加真由美、甲田…中根徹、田村…西田健、不動産屋…真夏竜、司法書士…春田純一、伽耶子…真木よう子、秋葉…上田耕一、橋田常雄…柳葉敏郎、長谷川庄司…津川雅彦、楢林謙治…小林稔侍
ほか

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第7回(12/8放送)
☆☆☆
 長谷川(津川雅彦)からの借金の取立てに窮地に追い込まれる元子(米倉涼子)。確かに手にしたはずのお金は何処に。そして何もかもが消えていく。すべては幻だったのかのように。
 新たなるカード占いのご神託によれば、元子のごく近くにいる2人の男の、一人は信じるにたる男、もう一人は裏切り者の悪魔。いったいどっちが?というわけで、長谷川に生気を吸い取られた女(朝加真由美)の年齢的告白(40歳!)という恐怖演出を挟みつつ(?!)、元子は安島(仲村トオル)と逃亡を企てるも、長谷川によって随分昔から車にしかけられていた盗聴器のおかげで、海外への高飛びの前に安島は御用。元子も別途逃亡途中に駅で倒れ、気がつくとこれまでに踏みつけにしてきた輩に囲まれる形で手術台の上に。
 ドラマはこれでお終いかと思いきやこれは夢オチで、元子は安島の子供を身ごもっていたものの流産していたことが発覚する。しかし、転んでもタダでは起きない元子は、安島が持ち出した闇献金の額面一億の領収書を長谷川のゆすりのネタに、借金チャラプラス手付けの5千万円を返すことで貸し借りなしの五分と五分に持ち込むことに成功。5千万円が振り込まれてから領収書が本物だったとわかるあたりの綱渡りぶりがなかなかにスリリング。
 ロダンの再契約で橋口(柳葉敏郎)を切り返す場面では、やはり元子には携帯持って部屋に入ってきてほしかったとも思ったけれど、最後の最後でロダンに懲りない男どもが顔をそろえるところといい、もはや損得ではない億単位の攻防といい痛快そのもの。波子(釈由美子)に警察に垂れ込まれつつも、また一目散で逃げ出していくラストの作り方には、神山由美子脚本的な捻りと含みを感じる。
 微妙に趣味の悪い演出ぶりが随所に気になったのも事実だけれど、盗人猛々しい面々の応酬劇としては、それはそれで相応しかったのかもしれない。クオリティの安定度に関しては、今クール随一だったのでは。(麻生結一)


第6回(12/1放送)
☆☆☆
 裏口座、架空名義、脱税者、およびその手伝いの輩をステップアップの材料としてきたこれまでのやりたい放題を切り返される形で、横領と人の人生を踏みにじった報いを受けねばならなくなる元子(米倉涼子)の顛末、つまりは「あの女が堕ちていくところ」もいよいよクライマックスへ。
 ついにロダンを手に入れたあとの勝利のでんぐり返りや、一杯食わされたと知るや、橋田(柳葉敏郎)のもとに全力疾走、長谷川(津川雅彦)の伝言を伝えにきた安島(仲村トオル)には張り手一発と、けれん味溢れる見せ場がいっぱい。盗人猛々しいとはこのことかと高笑いの市子(室井滋)と橋田のツーショットはいったい?
 印象的なのは、心も体もの男にだけは決して屈服しないとの元子の素地を作った事がほのめかされる昏睡状態の母を冷ややかに見舞う場面で、一連の京都ロケはことごとく美しい。家捜しされて黒革の手帖もPCのデータも消されたって、そんなに大事なものならばバックアップぐらいとっておかないととは思うけれど。ちなみに、土地移転登記はお互いに間違いだったといえば、簡単に元に戻すことが出来るらしいです。案外でたらめなんですね。(麻生結一)


第5回(11/25放送)
☆☆☆
 澄江(吉岡美穂)の寝返りにより、橋田(柳葉敏郎)の返り討ちにあったと思われた元子(米倉涼子)だったが、偶然タクシーで通りかかったときに橋田と澄江が仲良くお買い物している現場を目撃。澄江を再懐柔した末の本物のデータを橋田に突きつけ、その返り討ちをまんまと切り返してみせる。そして、本業にしてお得意の裏口座入金リストでダメを押す格好。ゆすりたかりをするために銀座に店を出した元子と裏口入学を斡旋するために予備校を経営している橋田の対決は、元子の勝ちということで。

橋田「賢そうに見えても所詮女のやることはどっか抜けてる」

との男のライターでは書くのが怖くなるような決め台詞(もしくは松本清張的?!)までは調子がよかった橋田だったが、

元子「偶然にお見かけしたのよ」

ってな感じで、結局運は元子に味方した。
 橋田から取り上げた梅村を転売、保証人の代わりに8千4百万円という法外なキャンセル料を払うことでロダンの早期新装オープンを持ちかける元子と長谷川(津川雅彦)のねちっこい掛け合いを見ていて、ふと2人がお通と本阿弥光悦だったときのこと(『武蔵 MUSASHI』)を思い出す。交渉成立の唯一の条件は、安島(仲村トオル)と別れること。
 まるで善人のように、踏んだり蹴ったりの目にあい続ける楢林(小林稔侍)に更なる受難が。楢林美容外科クリニックに国税局の査察が入り、開いた口がふさがらないほどの追徴課税は2億円なり。

楢林「やってないのに2億ですよ」

と橋田と肩を組み合う様があまりにもおかしい。

元子「これまでの自分を捨ててその上を目指すこと」

をスローガンとする元子は、ついに念願のロダンのママになる。その飛ぶ鳥を落とす勢いに逆に不安になって、行きつけの美容室のオーナー・曜子(紫吹淳)に占ってもらうと、

曜子「まっ逆さまに落ちていくのが……」

などという不穏なご神託を授かることに。時を同じくして、元子が勤めていた銀行の支店長だった藤岡(小野武彦)がまっ逆さまに落ちていって死亡。頻用されるドラマのテーマ曲にはピンとこないところも多いのだが、ここに使われるドロっとした感じのチェロのソロは秀逸。
 なるほど、燭台のママ・叡子(山本陽子)は長谷川の元愛人だったか。市子(室井滋)もまた、あの1千万円が実は5千万だったことを知り、また楢林の脱税を密告したのが元子だと思い込み、元子をののしる。男に憎まれるほどに高みに近づくこそが元子のモットーも、女たちにも憎まれはじめた模様。それでも、世の中の片隅で生きていくよりもいいとの言い切りが痛切でもあるんだけれど。(麻生結一)


第4回(11/11放送)
☆☆☆
 楢林(小林稔侍)からあっさりと5千万円をせしめた勢いに乗って、元子(米倉涼子)は次なるターゲットとして医大への裏口入学の斡旋業務で荒稼ぎしている橋田(柳葉敏郎)に照準をさだめる。その悪事の決定的証拠をつかむことで、橋田が買い取ったらしい『梅村』を取り上げてそれを転売し、銀座一といわれるクラブ『ロダン』を物にする資金を作るとの随分ザックリした計画が果たしてうまくいくものかと思っていると、元子が自らの替え玉として送り込んだ澄江(吉岡美穂)が橋田の手帖にびっしりと書き込まれた機密情報をデジカメで丸写しに成功して帰ってくる。
 ちょっと前にベッドを共にした仲とはいえ、いまだにその真意は測りかねる安島(仲村トオル)が深刻顔で忠告するのも聞かず、元子はすでに『ロダン』を手に入れていた長谷川(津川雅彦)のところにアポなしで訪問し、3週間以内でお金を用意できると言い放って『カルネ』を担保にさらに高い値で買い取ることを約束。
 早速に澄江が手に入れた第二の黒革の手帖ともいうべき橋田の手帖からおこした裏データをネタに橋田をゆするべく橋田医科進学ゼミナールに乗り込む元子だったが、その情報を橋田は一蹴。とっくに橋田に寝返っていた澄江が持ち帰ったデータが本物のはずもなく、見事に元子は返り討ちにあった格好に。
 第1回、第2回に比較するならば、ボルテージは随分下がっていると言わざるを得ないも、他局のドラマと比較するならばやはりこれを推薦に値するという意味で点数は据え置きに。(麻生結一)


第3回(11/4放送)
☆☆☆
 まるで悪人列伝のごときいい人がまったく登場しないこのドラマだけに、一対一の攻防にこそ魅力があるのも当然のことか。元子(米倉涼子)v.s.楢林(小林稔侍)。楢林から渡されたスーツケースを開けるなり、そこに3千万しか入ってないことをあっさり目算するあたりはさすがは元銀行窓口。税務署に裏金がばれたら、追徴課税5千万円でもすまないんだったら、5千万円なんてちょろいものでしょ、とついには満額出させるも、最後の最後でまたまたカバンの奪い合いとは怖いほどに醜い。
 元子v.s.波子(釈由美子)。開店が遅れていることを指摘する元子に、楢林が出資を渋り出したのは元子の差し金と感づく波子がエレベーターで真っ向勝負。橋田(柳葉敏郎)が常連の料亭梅村で仲居をやっていた澄江(吉岡美穂)がカルネにデビューするその日、店がダメになったと元子に波子は掴みかかるも、力技で体を入れ替えて逆襲したのは元子の方。階級が違うといってしまえばそれまでか。
 元子v.s.橋田。売りに出た銀座一の有名店ロダンは2、3億の価値。それを買ってもらうんじゃ波子と一緒になると、橋田の交換条件をすっぽかし続ける元子。その裏では、あらゆる手段を使って代議士に驀進する安島(仲村トオル)に、橋田は女=元子と寝たことで虚勢を張り合う逆ダイナミズムを披露。
 元子v.s.市子(室井滋)。せっかく元子は市子のために楢林から一千万円の慰謝料をもらってきてあげたのにそれを返却する、過去にしがみつこうとする市子が理解できない元子。楢林との腐れ縁、男なしでは生きられない女・市子の生き方をののしる元子だったが、女の気持ちが、人の気持ちがわかっていないと市子からきりかえされる。この静かなる対決でお互いの決定的な相違が浮き彫りとなる女同士のせめぎあいこそが今話の眼目。ケトルの沸騰音から元子の部屋を見上げてニヤリとし、その場を立ち去る市子までのシークエンスが最高。
 元子v.s.安島。藤岡(小野武彦)に襲われた元子を助けた安島との応酬に冒頭から異様な緊張感。エピローグ、ある種の身持ちの固さを誇る元子が口止め料として、いや本能のおもむくままに安島の唇を奪う。
 演出が随分古めかしく感じられるも、それはそういう意図からのような感じもする。3回しかCMが入らないところもドラマに集中できていい。次回もそれぞれの一対一の攻防から目が離せない。(麻生結一)


第2回(10/28放送)
☆☆☆
 高視聴率を獲得した第1回の余波に乗ってそのまま突っ走りたかったところだけれど、日本シリーズの放送を延長してしまったことでこの第2回は放送延期の憂き目に。視聴者的にも残念だったけれど、もっと残念に思ったのはドラマを放送していた方が視聴率が稼げたはずのテレビ朝日の方だったりして。
 話題性としての勢いはそがれた格好も、ケレン味たっぷりの語り口自体は衰えを知らない。エロオヤジぶりがエスカレートする楢林(小林稔侍)がぽっと出の関西娘・波子(釈由美子)相手に2億円をつぎ込んでしまったことを楢林美容クリニックの婦長にして楢林の愛人である市子(室井滋)にリークする元子(米倉涼子)は、市子との共同謀議によって裏帳簿を入手し、一芝居うって楢林からちゃっかり5千万円をゲットする。
 元子というキャラクターには、転んでもただではおきないしたたかさよりも、執念を燃やして何とか形勢を逆転させようとする力技のがんばりぶりの方が目立つ。そのはすっぱな感じは米倉涼子の開放的なパーソナリティとダブって見えてなかなか面白い。
 『新・京都迷宮案内』では新聞記者役として春田純一がまたまた殺されそうになっていたが、こちらにはまたまたの大物役で津川雅彦が登場。テレビ朝日は『相棒』のインパクトを他のドラマにも注入しようとしてる?! (麻生結一)


第1回(10/14放送)
☆☆☆
 10年間勤め上げた銀行の架空名義口座から1億2千万円を横領していたことを支店長の藤岡(小野武彦)と次長の村井(渡辺いっけい)に気づかれたと知るや、勤務中の銀行窓口から一目散に駆け出していった元子(米倉涼子)が分散預金していたその全額をATMをはしごして引き出し完了させる冒頭から、いっさいの寄り道なしにドラマの世界観に引き込んでしまうあたりはさすがと言うしかない、今クールもっとも注目すべきドラマ。その理由は脚本が神山由美子だからに他ならないのだけれど。
 元子がクラブ「カルネ」のママに転身する夜の銀座に舞台が移ると、さしずめ悪人品評会の様相に。元子から1680円おごってもらったことをきっかけにホステス業に天性の才能を開花させ、その2ヵ月後には美容クリニック院長のエロオヤジ楢林(小林稔侍)に2億円を出資させてカルネの上階に店を構える涼子(釈由美子)の小悪魔ぶりを筆頭に(あのいかさま関西弁も悪の象徴?!)、医科進学予備校の理事長・橋田(柳葉敏郎)、楢林の内縁の妻・市子(室井滋)、代議士秘書・安島(仲村トオル)ととにかく全員人相が悪い。長谷川役の津川雅彦にいたっては、水曜日の『相棒』第3シリーズとテレ朝ドラマを掛け持ちしてのクセ者役。
 ワル役への適性は『非婚家族』ですでに証明済みの米倉涼子は、ふてぶてしさ全開でこの役にはハマっている。声の低さもどんよりとしたナレーションにピッタリでは。(麻生結一)




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