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アイ’ムホーム (NHK総合月〜木曜23:00〜23:15)
連続ドラマ
制作・著作/NHK大阪
制作統括/一井久司
原作/石坂啓『I'm home(アイ’ムホーム)』
脚本/浅野妙子
演出/真鍋斎(1、2、5)、本木一博(3、4)
音楽/吉俣良
主題歌/『大好きだよ。』大塚愛
出演/家路久…時任三郎、清原カオル…紺野美沙子、家路ヨシコ…戸田菜穂、岡田杏子…佐藤仁美、小山田…逢坂じゅん、清原スバル…星井七瀬、清原健児…石田靖、高木亮一…内場勝則、祥子…千堂あきほ、伸吾…金替康博、昌代…中山美保、竹田社長…ぼんちおさむ、御蔭康明…芝本正、御蔭貴子…松村康世、家路弘…内藤裕敬、家路士郎…田畑猛雄、家路春代…島村晶子、家路美佐恵…千田訓子、医師…村上かず、医師…東村晃幸、看護師…久野麻子、遊園地の係員…安井マリコ、店員…明山直未、幼少時代の久…光平崇弘、幼少時代の弘…北方将太、カズエ…大山恵理乃、ユイ…森里砂、家路ヨシオ…鶴八雲、ユミ…染谷有香、野崎…野田晋市、大山部長…高見国一、努…原田孝司、サトル…藤井琢也、ヨシミ…安藤絵里菜、バーのママ…押谷かおり、加茂…恵秀、幼少時代のスバル…小坂恵、幼少時代のスバル…中山心、高木渉…金崎由名来、高木みつえ(大阪ことば指導)…田中恵理、高木隆…前田航基、精神科医…寺田農、山野辺俊…陣内孝則
ほか

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最終週「記憶の糸」(12/13〜12/16放送)
☆☆☆★
 2004年は日本のテレビドラマのクオリティがこれ以上ないというほどのボトムにまで到達してしまったかという重苦しい気持ちでいたのだが、最後の最後になってこういう良質のドラマを見せていただいたことに、一筋の光明を見出す思い。
 アッと思わせたのが、これまで繰り返し描かれてきた久(時任三郎)の目に映る仮面をかぶったヨシコ(戸田菜穂)とヨシオ(鶴八雲)の姿が、実際にはヨシコの目にもまた久が仮面をかぶっているように映っていたという事実。これまでのいきさつを思えば、この事実はあまりにも重い。
 久が単身赴任中に起こした火事を契機に、もう一度やり直せたらと思ったヨシコの果たせなかった気持ちの切なさは、ヨシコを愛していたのかいなかったのか、自分自身でもわからない久が、ヨシコとヨシオがいない家で感じる隙間風が吹くような、愛するものを失った喪失感にも通じるところ。
 上司にネパールへの出向を言い渡された久がヨシコからやさしく迎えられたのが、もはや何も期待されていないからとは、どこまでも突き放されてしまうこの主人公。それだけにいっそう、初めて家族の大切さを知った久がヨシコに謝る様が悲し過ぎる。
 久の主治医である精神科医(寺田農)が話すチベットの砂曼荼羅の話がドラマにいっそうの含蓄を持たせる。クレイアニメ風(?!)のタイトルバックが砂の世界であることとも重なり合ってくるか。
 人間の価値なんて上っ面じゃない、なんてこそばゆくなるような台詞さえも、主人公の顛末を見とどけた末で耳に入ってくると、実感がこもって聞こえてくるから不思議なものだ。帰る家がないことの孤独が押し寄せてくる駅の改札口。心を込めて「ただいま」を言おうとする決意までがとりわけ心を打つ。
 火事でドラマを円環させるにしても、またも記憶を失ったのか否かと、ヨシコもヨシオも死んでしまったのか否かと思われる最後の最後にまで大いに引き付けられた。本当に素晴らしいドラマでした。(麻生結一)


第4週「二人の妻」(12/6〜12/9放送)
☆☆☆
 記憶の喪失というカセによって生み出される、求めているのに拒絶されてしまう昔の家族との関係性と、逆に求められているのに大いなる距離感を感じてしまう今の家族との関係性は、いつしか見ているものの身近な出来事のようにも感じられて、そのあたりの普遍的なジレンマがうまくお話に乗っかる形で、このドラマの何とも物悲しい雰囲気は醸し出されてくるのかもしれない。
 印象的だったのが、胃がんが発覚したカオル(紺野美沙子)が入院する病室から、見舞いを拒絶された意思の合図としてスバル(星井七瀬)が久(時任三郎)に送るバツサイン。笑顔で手を振り、家路につく久の背中があまりにもさびしそうで。そういえば、主人公の苗字も“家路”か……。
 見知らぬ現実に翻弄される主人公を飄々と演じる時任三郎も好演だが、まるで鏡像関係あるような2人の妻、カオル役の紺野美沙子とヨシコ役の戸田菜穂の熱演もまた心を打つ。(麻生結一)


第3週「夫婦の距離」(11/29〜12/2放送)
☆☆☆
 エピソードの面白さもさることながら、しみじみとした雰囲気に惹かれてしまうドラマ。連ドラではやれないようなこういう小品のよさこそをこの枠には期待したいところ。
  久(時任三郎)にちゃんと見えはじめていたていたヨシコ(戸田菜穂)とヨシオ(鶴八雲)の顔が、また仮面に見えはじめる。杏子(佐藤仁美)と出かけた居酒屋では、前妻・カオル(紺野美沙子)の夫である健児(石田靖)が若い女性といちゃつく様を目撃するも、何も言えない。そんなカオルが発作の苦痛に襲われるところで次週へ。
 久の記憶の欠落にダメを押すのが東京の実家のパート。弟・弘(内藤裕敬)の台詞が随所に説明的なのはマイナスだが、家業の酒屋をコンビニに替えさせたのは久の助言からも経営がうまくいってなかったり、母親の春代(島村晶子)が痴呆症になっていたりといった久に突きつけられる現実が妙にリアルでいたたまれなくなる。(麻生結一)


第2週「オレは誰?」(11/22〜11/25放送)
☆☆☆
 久(時任三郎)の同僚である高木(内場勝則)は、誰だって妻が他人のように見えるときがあると言う。このあたりのある種の一般論と久が抱える特殊な状況との重なり合い具合がこのドラマのテーマ的なミソと言えるのかもしれない。
 そんな仮面的妻・ヨシコ(戸田菜穂)から青森でレンタルしたビデオ『緊縛美女誘惑の園』の延滞料が7万5250円にまでなっていることを聞かされて、探し当てたそのビデオのパッケージには監督・山野辺俊(陣内孝則)の名前が。映画監督を目指していた大学時代の旧友にして、今はアダルトビデオの監督である山野辺は実はヨシコのかつての恋人だったらしいことがほのめかされて、久の抹消された人物関係図に更なる厚みが出来た格好だ。
 勢いで来てしまうなり、お手伝いをはじめる先妻・カオル(紺野美沙子)の父の七回忌では、カオルの妹・祥子(千堂あきほ)に発見されるまでのおかし味と、スバル(星井七瀬)が父も法事に来ていることを知る哀しみとがない交ぜに醸し出される。
 ただ、この第2週の本当の見せ場は、元愛人である杏子(佐藤仁美)が道づれとなる青森への自分探しの旅の方。印象的なのは、ぼやを出したアパートの部屋で、そこに住んでいる小山田(逢坂じゅん)との掛け合いで、ここでの逢坂じゅんが凄みがあっていい。久がみやこ銀行のやり手副支店長だったとき、融資の申し込みを断った男こそが小山田だったという記憶の断片を足がかりに、ついに冷酷な人間だった自分の過去がひも解かれていくあたりから、ドラマはますます盛り上がっていく。こういう大人の鑑賞に堪える作品は貴重です。(麻生結一)


第1週「仮面家族」(11/15〜11/18放送)
☆☆☆
 ここ半年ほどのよるドラにはグッとくる作品がなかったが、これは久々にいい予感をさせる作品。単身赴任先の青森で火事に遭い、その後遺症で過去5年間の記憶をなくしてしまったという設定の主人公・久(時任三郎)が、何気なく次から次へと他の家に帰ってしまうという設定のリアリティを細かくつめてしまうといかにも苦しいようにも思えるが、そういう嘘話だからこそ醸し出されるある種のリアリティが意表をつく展開をうまく引き出している。
 そういえば、浅野妙子脚本作の『ちょっと待って、神様』こそが心惹かれた最後のよるドラだったと思い出す。あの作品も死んでしまった母親が若い女の子の体を借りて家族の心配をするというありえない設定が巧みにさばかれていく過程に、何ともホロリとさせられたっけ。
 久しぶりに第1話で殺されなかった戸田菜穂が演じる久の現妻・ヨシコは、見覚えのない他人として仮面をつけてる!殺されてしまう以上のその特別待遇は、もはやおみや入りのレベルを超えてる?! 朝は『えぇにょぼ』に夜はこれと、ここ数週間は戸田菜穂ウィークが続きそう。(麻生結一)




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