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相棒 (テレビ朝日系水曜21:00〜21:54)
制作/tv asahi、東映
チーフプロデューサー/松本基弘
プロデューサー/島川博篤、香月純一、須藤泰司、西平敦郎
脚本/輿水泰弘(1、2、3、4、5、9、19)、砂本量(6、7、12、16)、櫻井武晴(8、11、13、15)、東多江子(10)、岩下悠子(14)、林誠人(17)、近藤俊明(18)
脚本協力/輿水泰弘(18)
監督/和泉聖治(1、2、3、4、5、11、12、15、16、19)、長谷部安春(6、7、10、13)、猪崎宣昭(8)、橋本一(9、14、17)、近藤俊明(18)
音楽/池頼広
音楽監督/義野裕明
出演/杉下右京…水谷豊、亀山薫…寺脇康文、奥寺美和子…鈴木砂羽、宮部たまき…高樹沙耶、伊丹憲一…川原和久、三浦信輔…大谷亮介、芹沢慶二…山中たかシ、角田六郎…山西惇、米沢守…六角精児、大木刑事…志水正義、小松刑事…久保田龍吉、内村警視長…片桐竜次、中園警視正…小野了、小野田公顕…岸部一徳、海音寺菊生…竹中直人、【以下ゲスト:第1〜3回】片山雛子…木村佳乃、朱雀武比古…本田博太郎、加賀谷秀之…佐戸井けん太、沢村久重…春田純一、大八木邦生…清水昭博、小松原秘書…中村方隆、バイオリン演奏…古橋ユキ、鹿手袋啓介…西村雅彦、瀬戸内米蔵…津川雅彦、【第4、5回】小峰夕月…羽田美智子、松永慎二郎…岡田浩暉、古谷彦六…深水三章、麹町東署署長…森下哲夫、木佐貫功…陰山泰、轟プロデューサー…みのすけ、【第6回】陣川公平…原田龍二、千葉ハル子…遠藤久美子、池田宏美…松永香織、松浦由里…永田めぐみ、尾田ヒロム…寺十吾、【第7回】辻村めぐみ…高岡早紀、清水直久…浜田晃、知念信夫…飯田孝男、大滝亮…伊藤初雄、佐伯要一…大石継太、【第8回】今井進一…尾藤イサオ、前田房江…深浦加奈子、本間実男…河西健司、伊勢谷隆…浅野和之、野呂啓介…徳井優、佐々原妙子…牛尾田恭代、田嶋栄一郎…坂田雅彦、前田勇一郎…渡辺哲、【第9回】葛城貫太郎…温水洋一、設楽聡子…吉野きみか、森本達也…小林高鹿、北潟誠吾…保坂尚輝、【第10回】沢村映子…筒井真理子、肥田育恵…春木みさよ、高木勉…片岡弘貴、【第11回】坪井貞一…上田耕一、坪井幸子…吉村実子、小見山勇司…信太昌之、鈴木隆…正名僕蔵、大久保康雄…阿南健治、港功…清郷流号、【第12回】秋山正則…榊英雄、佐藤愛…一戸奈未、堀明久…樋口浩二、田嶋栄一郎…坂田雅彦、【第13回】長谷川修…江藤潤、十河警視長…鶴田忍、阿部貴三郎…武野功雄、大久保康雄…阿南健治、茶畑幸弘…山崎清介、山岸広報課長…吉田朝、【第14回】龍ヶ崎綾子…涼風真世、山内久美子…水谷妃里、江川良治…近藤公園、【第15回】幸田紀夫…吹越満、柴耕太郎…京晋佑、岩槻巧…大林丈史、【第16回】塩塚玄…菅原大吉、若杉栄一…マギー、長橋貴信…山崎大輔、徳本卓爾…本城丸裕、【第17回】栗原ななみ…高畑淳子、武龍一…中丸新将、川島弘基…市川勇、ヒロコ…深沢敦、魚住次朗…江端英久、【第18回】平本昌恵……藤吉久美子、平本修治…新藤栄作、藤巌雄…綾田俊樹、間島謙作…きたろう、浅倉禄郎…生瀬勝久、【第19回】雀蓮・飯島佐和子…高橋由美子、鹿手袋啓介…西村雅彦、蓮妙…高橋惠子、瀬戸内米蔵…津川雅彦
ほか

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第19回(3/23放送)
☆☆★
 このサードシーズンは第1エピソード(「双頭の悪魔」)、および第2エピソード(「女優」)の尋常ならざる充実ぶりに、ポピュラリティに背を向けてどこまで高みにのぼりつめるのかと心配になったほどだが、クールを折り返してからの3ヶ月は新規の脚本家作品が多かったせいか、いわゆる『相棒』的な面白みからのズレを感じることがしばしばだった。最終回は主席脚本家のお出ましとあって、いかにも『相棒』らしい仕掛けはふんだん。ただ、あまりにらしすぎて、逆に意外性がなかったのも事実。
 美和子(鈴木砂羽)を奪われたことを恨みに思った薫(寺脇康文)が、夜な夜な生霊になって首を絞めにくる、と妙ないちゃもんをわざわざつける鹿手袋(西村雅彦)が第1回以来の再登場。このキャラクターはもっと絡んでくるかと思ったのだけれど。魑魅魍魎がうごめく世界で生きているゆえに、いっそう人相が悪くなってる瀬戸内(津川雅彦)も再登場組だが、正直言ってこの人はいてもいなくてもよかった感じ。そうなっていくと、やはり右京(水谷豊)のライバルとして不足はなかった片山雛子(木村佳乃)の再登場がかなわなかったのがつくづく残念だ。木村佳乃は舞台(『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』)の方がお忙しかったようです。
 全裸の女性の幽霊を見た薫に対して右京が嫉妬するあたりは、2人の掛け合いの面白さが復活しているところ。何しろ、イギリス時代も幽霊出没ポイントに足しげく通うも、結局右京は1回もその姿を見ることが出来なかったらしい。さりとて発見された頭蓋骨から、被害者が黄色人種の女性30歳前後であるところまで見破るわけだから、法医学の知識も相当なもののよう。さすがに死因まではわからないとの言い草も、謙遜してるんだか何だかわからない感じが嫌味っぽくて楽しい。
 幽霊を見ることが出来ない右京の能力の欠如こそが、事件解決の糸口に。頭蓋骨からの複顔で、美人は記憶に残るとの小野田(岸部一徳)の情報により、幽霊の出る尼寺・慈妙院の尼僧・雀蓮(高橋由美子)にまであっという間にたどり着いてしまうあたりは、この手のサスペンスドラマとしては目くじらを立てるところでもない。
 『相棒』の『相棒』たるユニークさは、尼寺にいるからといって女と決め付けるのは浅はか、とのあまりの深読みが意地の悪い真相へと極まっていくこの感じだ。ここでトランスジェンダーが持ち出されるに、またかという感じもしたが、ここを強烈に感じられた方はいっそうこの回を楽しまれたのでは。実は庵主である蓮妙(高橋惠子)が、という二転三転は想定内で平凡。あまりにも複雑な一人二役を演じた高橋由美子の熱演が光った。ただ、この内容で1時間半はちょっと長すぎたか。ちなみに、死体を捨てることよりも(時効3年)、戸籍をいじることの方が罪はずっと重いらしいです(時効5年)。
 薫が鹿手袋を殴りつけるオチでこのサードシーズンをきれいに円環させたあたりは胸のすく思い。ただ、普通のサスペンスと化したクールを折り返して以降を考えると、フォースシーズンに対する思いは期待と不安半々ぐらいか。(麻生結一)


第18回(3/16放送)
☆☆☆
 シリーズ史上の最強キャラクターである平成の切り裂きジャックこと浅倉(生瀬勝久)は、死してなお存在感を示し続ける。その浅倉の立ち位置をお知らせするだけでも面白みは半減してしまうので、ネタバレにはご注意いただきたいが、ここに登場した市長(新藤栄作)と市長夫人(藤吉久美子)の二人ともが朝ドラヒロイン(一人は男だが)であったとの情報ぐらいは、ドラマの内容には関係ございませんので大丈夫かと(新藤栄作は『心はいつもラムネ色』、藤吉久美子は『よーいドン』)。
 トランク詰めの遺体として発見された静香(七森美江)が高級コールガールであった事実からも、そのキャスターつきのトランクを押していく姿を複数人に目撃されている浅倉が容疑者として浮上するのは至極当然。当時記憶喪失だった浅倉が犯人のはずはないと確信する薫(寺脇康文)は右京(水谷豊)と連れ立って、浅倉が一時期を過ごしていた管轄外の埼玉県の河川敷にホームレスたちが築いた田所市内の自由共和国に潜入する。
 自由主義、不干渉主義の部分と多少の共同体的要素とのバランスが絶妙であるらしいこの自由共和国の構成員がなかなか面白い。大統領(きたろう)は大統領と呼ばれるだけのことはある奇妙なカリスマぶりを発揮。浅倉が自由共和国の国民となろうしなかったことを語るあたりも変に威風堂々としていて楽しい。
 国務長官を務める藤(綾田俊樹)は、元大蔵省金融監査部管理課の課長だったというだけにとどまらず、収賄容疑で東京地検特捜部に摘発された際、その事件を担当したのが検事の浅倉だったとのひょんなつながり。自らをホームレスへと陥れた浅倉を自由共和国へと招き入れたのが国務大臣である藤であったとは、あまりにも皮肉なことで。
 大統領が土手から転落死したあたりから事態は急転。河川敷の開発を反故にすることを条件に、大統領は何者かから死体の処理を依頼されていたとの推測は、実際には法務大臣の要職にあった浅倉に、そのリスクを伴う仕事を大統領が再依頼していたとの事実と結びつく(ここで浅倉は名誉国民に任命される)。
 となると、地域浄化を裏の意味にその河川敷を開発予定地とすることを公約とした平本市長とその夫人のどちらかが右京のターゲットとなるあたりまでは予想がつくところ。大統領のおまもり、カンガルーの金玉袋が事件の鍵を握るだけに、ならば副題は「大統領の陰謀」などというパロディ風じゃなくて、「大統領のお守り」ぐらいにしてほしかった気持ちも。
 それなりの満足度はここ数回の安定飛行に等しいかと思っていたラストのその先に、右京には決して見えない、薫と美和子(鈴木砂羽)にだけ見える陸橋の上で微笑むシーン浅倉の亡霊がひっそりと添えられていて、その余韻にホロッときた。あまりにも普通じゃない『相棒』が普通であり続けることをついに拒絶したのは、このシリーズにおけるフェニックス的存在によってだったか。(麻生結一)


第17回(3/9放送)
☆☆★
 劇作家(中丸新将)殺人事件のターゲットは女優(高畑淳子)。右京(水谷豊)の名前を間違えたら最後、犯人は決して無傷ではいられないのだが、今回はよりによって3回も(最初が「杉浦」=それをいうなら『京都迷宮案内』、次は杉山、終いには杉内)。
 小物(=万年筆)でかまをかける手は、ピアノ調律師の携帯電話から引き続きゆえ新鮮味に欠ける。あそこで味をしめたということでの薫(寺脇康文)との小芝居つきならば、それはもはやセルフパロディ。右京の名前を間違える女流作家と回からもさほどたっていないので、今回はパロディづくしの面白さを狙っていたのか。
 並と特上の寿司の内容物の違いが綻びになるのはいいとしても、どうして劇作家はあの状況下で寿司を食べたのだろう?、などと考えると、このシンプルが身上の回に不満も出てくる。今回はトリックそのものよりも、トリックを暴くシーンが舞台劇的な見せ方になっているあたりの仕掛けの方がなかなか面白かった。右京ならば、

「幕間(まくま)ではなく幕間(まくあい)です」

と揚げ足を取ってくれるかとも思ったけれど。(麻生結一)


第16回(3/2放送)
☆☆★
 「人間爆弾」という副題は過激だったが、出来ばえはとても真っ当。これが普通のサスペンスならばむしろよく出来ている部類に入るのかもしれないが、何せ『相棒』だもので真っ当ではちょっと物足りなくも感じる。
 セカンドシーズンには2つのエピソードで登場した栄一(マギー)がまたまた登場。一俳優一キャラクターで役を継続するこのシリーズの代名詞が栄一だが(唯一の例外が渡辺哲?!)、何者かに爆弾をつけられて、現金輸送車を襲わなければそれを爆発させると脅されるという趣向自体はそれほど目新しくない。そんな極限の状態にありながら、冷徹に携帯のカメラを野次馬に向けてランダムに写真を撮るあたりはいかにも右京らしいが。
 チャリティイベントで「カリフォルニアコネクション」を熱唱する水谷さんを見ました。まるで別人のにこやかさに、右京は役柄なんだと当たり前のことを思ってしまう。それほどまでに右京役は完成されているということ。(麻生結一)


第15回(2/23放送)
☆☆★
 前話は下の☆☆★。このシリーズの出来にしては不満があったが、他の作品に比べればやはり楽しめたので。今話は上の☆☆★。殺人の動機に弱点があるが、見るべきところは無数にあったので。
 オープニングの一人たたずむ幸田(吹越満)のカットは後々の展開を見るになるほどと思ったが、そこで使われていたブラームスのシンフォニーに必然性がなかったのには、その意味を考えながら見ていたので随分と拍子抜けした。かつてピアニストを目指していた幸田だったら、難聴によって風を聴き分けられなくなって愕然という場面には、もっと違った音楽の方が似つかわしかったはず。
 それにしても、あの殺人の動機はいただけない。携帯の引っ掛けにまんまと引っかかるあたりも間が抜けているし。いただけない動機で殺人を犯しちゃうような調律師だから、間が抜けているという逆算は成り立つのだが。
 ビックリ仰天したのは右京(水谷豊)のピアノの腕前。推理+ピアノとダブルで畳み掛けられると、トータルではコロンボだって超えてるでしょう。かつてのドラマでもピアノを、最近では舞台『陽のあたる教室』もやってらっしゃるわけだから、もしかしたらと期待はしたけれど、水谷豊の万能には恐れ入るばかり。オルガンを弾く北野先生(『熱中時代』)も好きだった(実際に弾く場面があったかは忘れてしまったけれど、イメージでは弾いていたとしか思えない?!)。
 シリーズ中でも指折られるほどの名場面は、右京がピアノを弾いているときに、白鍵の側面に付着した血液に幸田が気がつく場面。こういう見せ方のうまさはヒッチコックばりでドキドキさせる。血液のルミノール反応をジャブに使って、ピアノ内に落ちている携帯電話でとどめをさすあたりも悪すぎるぞ、右京。ソフトペダルがあまかったから、との気がついた理由も名人の発想だし。
 携帯電話の電源を切らなきゃいけない場所はいくつかあるけれど、確かに私も昨日コンサートホールで電源を切りましたよ。室内劇的なテイストはいかにも櫻井武晴脚本の回。ドラマの雰囲気自体は最高だっただけに、あの殺人の動機は返す返すももったいない。あの程度の嫉妬で人を殺してたら、人類滅亡しちゃうでしょ。あの程度で人を殺さなきゃ、テレ朝のドラマも絶滅してしまうわけだが。(麻生結一)


第14回(2/16放送)
☆☆★
 ここ最近の社会派路線から一転、女の園である名門女子高校を舞台にした演劇的なアプローチも、扱われる素材がシェークスピアとなるのは英国趣味の右京(水谷豊)からすれば当然と言えるか。台詞の読み合わせをしている夕暮れ時の校内のワンショットの素晴らしさなど、演出のうまさには随所に感服した。ただ、物語自体は『相棒』の『相棒』的なるコードを生かしきれていない恨みも残る。
 口紅を塗った男性の水死体、遺体の内ポケットから発見されたメモ書きのある紙切れに入った名門女子高校・聖ジュリア女学院の校章の透かし、その校内に咲き誇るローズガーデンと、いつにも増してサスペンスの小道具は出揃っている感じもあったが、それらのアイテムのいずれもが肩透かし気味に終わっていたのが残念。その格調高さとドロッとした感じのミックスは独特なのだけれど、これも演出の領域か。
 「リチャード三世」を「リチャードスリー」と呼んでしまう薫(寺脇康文)に対して、

右京「自分が知っていること以上のことは語るな」

と『リア王』の台詞を引用してたしなめる右京だが、この回自体も自らで面白みのハードルをあげてしまった感じがする。シェークスピアの台詞の応酬で攻防を作ろうとしているところもあるが、こういう狙いはよほど分厚くやらないとそれほど面白くならない。台本は『リチャード三世』、ところが台詞の練習で右京が耳にしたのは『テンペスト』との変更も、最後の創立記念日にはシェークスピア最後の作品を上演したいとの校長(涼風真世)の思いだけだったとするならば、それが『テンペスト』である必要性は弱い。(麻生結一)


第13回(2/2放送)
☆☆☆
 ここのところ重厚にして小品という、この枠でしか不可能なようなテイストの作品が続いているが、その傾向はここでも引き継がれている。とりわけこの第13話は警察内部物としてすこぶる面白かった。
 住民に慕われる存在だった交番勤務の巡査・長谷川(江藤潤)がトカレフで撃たれて死亡する。容疑者として浮上したのが、長谷川が撃たれた犯行近くに交番近くで目撃されていた阿部(武野功雄)。阿部はかつて長谷川に逮捕され、つい3日前には長谷川からの職務質問を振りきって逃亡していた。その際、偶然ぶつかって転倒した近所のおばあちゃん・梅乃(披岸喜美子)は病院に搬送後に死亡してしまっている。
 至近距離からの発砲と威嚇射撃の不自然さ、さらには梅乃の家族に当てた預金通帳と遺書じみた手紙を不審に思った右京(水谷豊)は、長谷川は自殺であったと確信するが……。
 一巡査の死が警視庁内部を揺るがす大問題へと発展し、沸騰した鍋に蓋をすればいつかふきこぼれるとの右京の例えのままに、刑事部、地域部、生活安全部がそれぞれの思惑で手柄を取り合ったかと思えば、一転して責任転嫁合戦とその醜態ぶりを大いにさらしてくれる。
 緊急記者会見の模様とは対照的に、日比谷公園(?!)でハンバーガーとホットドッグのどちらを食べるかで最初はグーのじゃんけんに興じている右京と薫(寺脇康文)ののどかさにちょっと救われる。(麻生結一)


第12回(1/26放送)
☆☆★
 何ともやるせない気持ちになった回。捜査一課から要請された雑用として薫(寺脇康文)は被害者遺族支援会の集会に参加するも、相談役にして臨床心理士の堀(樋口浩二)からは、警察は何もしてくれないと強い口調で嫌味を言われる。ちょうど放送当日が桶川ストーカー殺人事件の国家賠償訴訟の控訴審判決と重なったために、いっそうこの言葉が身にしみてくる。この3rd Seasonは、放送日とその日のトピックを合わせてきているのだろうか。第10回の直木賞的ゴーストライター話しかり。
 あまりにも身勝手な理屈、しかもあまりにも小さい理由での予告連続殺人。ネタばれになるのでご用心いただきたいが、犯人だったタクシー運転手(榊英雄)の些細なことを逆恨みして、罪のない人を殺す行いはあまりにもひどい。犯行の手順に関してちょっと残念だったのが、美和子(鈴木砂羽)だけが殺人のターゲットではなく電話番だったという点。ここに何も用意がなされていなかったために、見ている間もずっとその理由が気になってしまった。事件そのものよりも、被害者の心情の方に眼目があったのはわかるが。ディテクティブの体裁としては、堀が犯人に見えるぐらいの仕掛けはないとまずいと思ったか。
 姉をストーカーに殺され、自身も襲われた愛(一戸奈未)が心を開くラストはあまりと言えば甘いが、これがなければやはりつらすぎた。からくもの救いだ。(麻生結一)


第11回(1/19放送)
☆☆☆
 いつものようなユーモアに落とすことなく、これほどまで淡々とした悲しみに暮れるままで貫かれた回は非常に珍しい。薫(寺脇康文)が注意した路上で寝ていた男・小見山(信太昌之)は、20年前に当時女子高生だった坪井里子(小林千恵)を殺害した犯人だったのだが、この事件は5年前に時効が成立、民事の時効も1ヶ月前にすでに成立していた。
 最近すっかり理性派に成り下がっていた薫が、時効の前では無力でしかない警察官という立場に対してストレートに憤りを爆発させることで、久々にその熱血漢ぶりを誇示。里子の父・貞一(上田耕一)と母・幸子(吉村実子)に底の浅い同情心を発揮してしまったことにより、被害者を加害者にしてしまう……。
 警察の組織には限界があることをクールに受け止めない右京はらしくないも、時効という制度にも限界があるとの認識はまったく右京らしい。薫に処分を下す監察官は、もちろんピルイーターこと大河内(神保悟志)。あれほどまでに娘を殺した犯人にこだわっていたその両親が、「ありふれた殺人」の犯人としてすれ違ってしまう皮肉な結末に、ただただほろ苦さだけが後味として残る。(麻生結一)


第10回(1/12放送)
☆☆★
 直木賞発表前日にこの作品を放送してしまうって、そりゃあんまりでしょ。その意地悪すぎる姿勢がたまらないのですが。
 右京(水谷豊)を漢字で書くと、京都の左京区、右京区の、それでもわからない無教養な人間には、右左の右に東京の京と懇切丁寧に教えてあげているにも関わらず、流行作家の沢村映子(筒井真理子)は「杉下左京」って書いちゃったよ。おまけに公務員の日常が退屈とのののしり。そこまで侮辱されれば何の捜査依頼がなくったって、

右京「ちょっと揺さぶってみましょうか」

程度のモチベーションは生んでしまうでしょうね。
 前話では圧倒的な記憶力を披露した右京は今度は速読の達人ぶりを発揮して、沢村映子の作品を読破。「出会う、出逢う、出合う」の使い分け、および謙譲語と尊敬語の使用ミスを発見してしまう。もちろん、「クイズ王」(前話のレビューでも登場しましたが、第2シリーズの第12話です)での言葉の達人(というか、重箱の隅知識の宝庫)ぶりを思いおこすならば、この程度は御茶の子さいさいとばかりに、担当編集者である肥田育恵(春木みさよ)も一緒にまとめて学力テスト的世界へといざなう。ただ、真っ向対決するにしては2人合わせても役不足と察してか(沢村映子のおバカさんぶりが肥田育恵の足を引っ張ればなおさら)、推理はもっぱら薫(寺脇康文)まかせ?!
 右京の言っていた右京「ちょっと揺さぶって」とは、この女流作家との倦怠期を克服した担当ゴーストライターのプライドを揺さぶるという意味だったか。トリック的な面白さの作品ではないのでもう少し書いてもよさそうも、やはり辞めておきましょう。『相棒』で女流脚本家は初?!(麻生結一)


第9回(1/5放送)
☆☆☆
 右京というか、水谷豊にガードマンをやらせてみたいとの逆算企画が妙にうれしい新春2時間スペシャル。まぁ、右京ほどに潜入捜査が似合わない刑事キャラも珍しいけれど(ある意味目立ちすぎるし)、ガードマンの深夜勤務にお昼の本職の方と大いなる寝不足解消に、怪しい動きを感ずかれて豚箱に入れられてしまうも、一切のだんまりを決め込んだのは、スパイとしての素質ありと小野田(岸部一徳)は言うけれど、実際には檻の中だからゆっくり眠れるだけだった?!
 急成長のIT企業の社長・北潟(保坂尚輝)が裏では過激派に資金を援助しているとの情報を仕入れた公安調査庁が送り込んだ森本(小林高鹿)という偽名の男が失踪。そんな森本の恋人だった聡子(吉野きみか)に設備管理員として会社に潜入した薫(寺脇康文)が近づいて、と話していくとどうしてもネタバレしてしまうのでこれ以上は差し控えさせていただきますが、出来ばえはさすがとしか言いようがない。
 女性を見る目は右京よりも薫の方が上?! ただ、一度見ただけで住所、氏名、電話番号まで暗記できてしまう右京の記憶力はさすがは「クイズ王」以上。薫と美和子(鈴木砂羽)の腰の下トークが意味不明!右京の恫喝はこの3rd Season初だったかも。(麻生結一)


第8回(12/15放送)
☆☆☆
 密室劇の体裁がアガサ・クリスティ風で、その場に居合わせた誰が犯人なのかを探す見ている方の面白さもあるのだけれど、それ以上にやってる方、作ってる方はもっと楽しそうな感じが伝わってきてそれがまた楽しかったり。最初はイメージキャラクターの無断使用云々で通販会社に呼ばれていた右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)だったが、あまりにもジャストなタイミングでで先代社長の前田(渡辺哲)を誘拐したとの電話がかかってくるや、ドラマが一切の寄り道を拒絶して、犯人探しオンリーの展開になる。パート2の第3回「殺人晩餐会」もまったく同様のテイストだったが、やはり脚本家は同じ方でしたか。
 ディテールが揺らぐ犯人からの要求の電話に混沌とする事件の最中、ティータイムを最優先する右京は流石にロンドン帰り。社長による狂言誘拐という薫の推理は暴論と却下されるも、その後の薫の何気ない一言が事件をとく鍵になるあたりの進め方は正統派そのものだが、その場に居合わせたみんながどのパートでいかなる罪を犯しているのか、ということをじりじりと明らかにするあたりはなかなかに凝ったもの。
 典型的なネタバレ注意ものにつき、あまり詳しいことは書くのはマナー違反だけれど、例えば外面のいい先代の尻拭いばかりしていた社長の今井(尾藤イサオ)が莫大な遺産を相続した妻の房江(深浦加奈子)が専心する慈善事業にいちゃもんをつけつつ、あずみのの森を守る会の機関紙を定期購読してたりする、その幾重にもわたるひねりぶりが大いに興味をそそる。カフェインを取らない、7年前から髪を伸ばし続けている常務(浅野和之)がパニック障害の発作を起こしてもほったらかしってのは、ちょっと悪魔的に過ぎるとも思うのだけれど。筆頭株主にして先代の愛人だった笹原妙子(牛尾田恭代)は、唯一後々にグループに合流。先代役の渡辺哲は、巨大パネルと声のみの出演?!
 いやはや、具体的にお話できないのが大いに残念です。ラストの殴り合い後の紅茶の味はなかなかにほろ苦い。ちなみに、犯人隠匿は7年たてば時効だそうです。(麻生結一)


第7回(12/8放送)
☆☆★
 伊丹(川原和久)と三浦(大谷亮介)から薫(寺脇康文)が取り調べを振られる冒頭から、この第7話は自首マニアの話かと思ったが(いかにも『相棒』的なネタだし)、実際は定年後の60代の男性の間で密かなブームとなっている自分史を作りたいと思った初老の男たちが、その代筆を引き受ける美人図書館司書・辻村めぐみ(高岡早紀)と関わったばっかりに次々と殺されていくというお話。
 罪には問えない罪を扱うあたりは京都シリーズの十八番だが、人情落ちにならないところはクールが身上の『相棒』ならでは。自首マニアの話はフリだけではちょっともったいない。(麻生結一)


第6回(12/1放送)
☆☆★
 第1エピソードには第1回の2時間スペシャルに加えて第2、3話までも費やし、第2エピソードにも第4、5話の2話分をかけたところからいくと、ここから1話完結をやられては物足りなく感じるのではと心配もしたが、小品は小品なりに小気味よくまとめてくれるあたりは頼もしいところ。
 ただ今回は久々に市井の事件を扱ってはいるものの、眼目は捕り物的な面白みよりも、これまで経理畑一筋でやってくるも、捜査したさに指名手配犯を密かに追い、誤認逮捕を連続でやらかしたために懲戒処分的に特命係に配属された陣川警部補(原田龍二)の「第三の男」ぶりが見ものとなる。そういう意味では、番外編的な色彩が強いかも。
 陣川にとっての三度目の正直となるか、それとも二度あることは三度あるとなるかの張り込み対象、ハル子(遠藤久美子)に余計な思い込みをしたことが、むしろ事件解決のショートカットとなるあたりの二転三転ぶりは、このシリーズにしては普通と言っていいだろう。『おみやさん』の第3シリーズでも被害者の立場にして変形のおみや入りを果たしていた遠藤久美子だけに、ここでも大体の立ち位置の予想はついちゃった?!(麻生結一)


第5回(11/24放送)
☆☆☆★
 刑事v.s.女優の続きだが、予想に違わず非常にレベルの高い仕上がり。ただ、『相棒』シリーズに関してはもはや他のドラマとの相対的な評価というよりも、孤高のこのドラマの中での絶対評価になりつつあるので、そういった意味ではもう少し点数を辛くするべきなのかもしれないが……。
 テレビの刑事ドラマの主人公がどんな方法で犯人を追い詰めるのか、参考にするべく殺された脚本家の古谷(深水三章)がひねり出したオチを知りたいと持ちかける右京(水谷豊)の脱力しきったスタンスは、物語の構造が『刑事コロンボ』型であるだけにキャラクター設定までも非常に似通って見える。
 古谷のメモ書きがあるトイレには一度も入っていないと言う小峰夕月(羽田美智子)の嘘を暴くための突破口という位置づけで、右京がいかにもわざとらしく脱ぎ忘れたスリッパの裏側に髪の毛という証拠を捏造し、さらには敵をだますにはまず見方からと、本物だと信じてくれる人、もしくは猿回しの猿=薫(寺脇康文)を仕立てるあたりの右京の意地悪ぶりは、本家本元にも負けないクラス。意地になって証拠探ししていた薫があまりにも哀れで。
 この調子でいくならば、刑事v.s.女優のガチンコ勝負は極限までに高められていくのかと思いきやさにあらず、次第にはぐらかされて内縁の夫にして実の父親だった古谷との歪な関係性が浮き彫りにされていくにつれ、限りなくゼロに近かった夕月への共感が次第に高まっていく過程にはやはり身につまされるものがある。これまでに十分すぎるほどに演じてきたとの念押しは、なるほど女優だから実際の父の妻を演じ続けたというギリシア悲劇も真っ青の主人公が背負う過酷を意味していたのか。だからもう演じなくていいと。
 そこまで描いておいて、最後の最後で右京と薫が夕月と松永(岡田浩暉)の婚姻届の証人になってしまうオチをつけるあたりの抜きっぷりがやはりたまらない。2人の関係がそのままに、美和子(鈴木砂羽)をどうして幸せにしてやらなかったのか、という鹿手袋(西村雅彦)から薫へのクエスチョンに連なっていくあたりも手抜かりがない。
 無事に事件が解決したと思ったら、小野田(岸部一徳)が主席監察官の木佐貫(陰山泰)に首相補佐官のポストを餌として、免職を解いて右京を警視庁に戻す裏工作に成功。もちろん、カップリングの薫も自動的についていく形になり、不動のポジションにドラマは戻った形に。麹町東署に特命係を作る持論がぽしゃった刑事課長の海音寺(竹中直人)は第3シーズンでは第5話までの出番だったのかもしれないが、キャラクターを引きずるシリーズだけにいつの日かお目にかかれる日もあるかも。(麻生結一)


第4回(11/10放送)
☆☆☆
 初回2時間スペシャルを含めて3話分、4時間を要した第1エピソードに引き続き、この第2エピソードもまたまた続きものとなる長編。これが2クールドラマの余裕というものか。強盗ならばしそうなことをしないで、泥棒ならばしそうにないことをしている、逆に強盗ならばしそうにないことをして、泥棒ならばしそうなことをしていない、との一聴複雑も実はいたって単純にして素朴な泥棒と強盗の違いについての疑問を足がかりに、またまた厄介なお話をこしらえてくれました。
 官房長官・朱雀(本田博太郎)が殺人犯だったという前代未聞の事件はなお後を引くのか。朱雀の息のかかった主席監察官・木佐貫(陰山泰)の逆恨みをかったことで、右京(水谷豊)はエピソードをまたいでの時間差免職となる。そんなシリーズの存亡に関わるピンチもまったく意に介していないあたりがいかにも右京らしい。
 そんな右京に助け舟を出したのが、FBIだって超能力者を使って事件を解決しているとの持論を展開して麹町東署に特命係を作ろうとする刑事課長の海音寺(竹中直人)。海音寺の論でいけば、右京は超能力者ということになるのだが。
 強盗の犯行に見せかけて、女優の小峰夕月(羽田美智子)がマネージャーの松永(岡田浩暉)と共謀して夫で脚本家の古谷(深水三章)を殺す狂言殺人の一部始終をオープニングで見せてしまう語り口は、『刑事コロンボ』そのもの。殺された古谷がトイレでアイディアをひねり出しては壁に書き留めていたとの仕掛けは、この脚本家ご自身の実体験?! 事実婚の夫の喪中に狂言殺人の共犯者である松永と結婚宣言の記者会見をしてしまう夕月のぷっつん女優ぶりは、理詰めの右京(水谷豊)にしては組しづらい難敵となりそう。ここからは刑事v.s.女優の構図に。(麻生結一)


第3回(10/27放送)
☆☆☆
 官房長官・朱雀(本田博太郎)と二世議員の片山雛子(木村佳乃)の愛人関係の真相、および機密費流用疑惑についての最終章。片山の秘書である小松原(中村方隆)の自殺以後の捜査では、いっそう誰にはばかることなく右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)はほとんどコンビを復活させた風で、免職の危機なぞ微塵も感じさせないのはちょっと微妙だけれど、それじゃなきゃ『相棒』じゃないともいえるし。
 小松原の遺体を前にしてもあまりに冷淡に振舞う片山がついに本性を現したのが、小松原の遺書を託されていた筋を通す男、前法務大臣・瀬戸内(津川雅彦)と対面するあたりから。世の中には2種類の人間がいると大別し、それは犠牲を払って守る人とその犠牲によって守られる人で、犠牲によって守られる人(=片山)こそ美しいと居直るや、保護者気分の瀬戸内による「雛ちゃん」呼ばわりもきっぱりと拒否。
 少女買春でトラブルを起こしたときに手を回してもらって以来、朱雀の奴隷となったロリコン秘書官の加賀谷(佐戸井けん太)が首相補佐官である沢村(春田純一)の殺害に朱雀の指示で関与していたという、執念深さではマムシ顔負けの右京のアリバイ崩しによって明らかになった事件の真相自体はそれほど複雑なものではないが、すべてのきっかけであった盗聴疑惑はその朱雀が沢村に命じて行わせたものだったものの、沢村は官房長官の部屋にまで盗聴器を仕掛けて朱雀と片山の結びつきを知るにいたり、という閣議室の話で引っかかった右京によって暴かれた裏トリックの追い討ちはいかにもこのドラマらしい皮肉に満ちたもの。
 ただ、本当の眼目はアリバイ崩しそのものよりも、政界で生き抜いていくための処世術の方にあったようで、

片山「いつまでも難破船にしがみつくほど馬鹿じゃない」

と耳打ちしてあっさりと朱雀を裏切る片山の一人勝ちぶりが際立つ結末。片山はマッサージを呼んで、自らのアリバイだけはちゃっかり用意していたのか。
 使い道を言わなくていいから機密費とまたまた居直って、見返りの微笑みを見せるあたりはゾッとさせるし、小松原に雇われていた殺し屋からの連絡にたくらんだ笑いをもらすに至って、最強犯罪者と呼ぶにふさわしかった浅倉(生瀬勝久)なき今、片山こそが右京のライバルになってほしいという最初からの願望がかなった形になる。
 そんな右京も男と女の関係に関してはまったくの無力。ツーショット写真という物的証拠からの右京の解釈では窃盗と位置づけられる院内紙記者の鹿手袋(西村雅彦)が退院する日に待ち伏せして、ブン殴る作戦だった薫(寺脇康文)は、掴みかかるなり逆に鹿手袋にブン殴られちゃった。殺し屋にはあっさりと刺された鹿手袋も、実はなかなかの使い手だったってことで。
 人間は嘘をつく生き物なれど、世の中で一頭悪い嘘とは己を欺く嘘ともらす瀬戸内(津川雅彦)と右京が国会をバックに歩いていくエピローグが印象的。何はともあれ、官房長官を殺人犯にしちゃうドラマって、聞いたことがありません。3話を通しての点数はそのチャレンジぶりも加味して☆☆☆★。(麻生結一)


第2回(10/20放送)
☆☆☆★
 これまでがこれまでだけに(もちろんいい意味で)、さすがに第3シリーズまでいってしまうといかほどかの下降線をたどるのも致し方なしかとそれなりに覚悟はしていたが、それもすべて杞憂となって幸い。事前情報がなかったならばさらにビックリしたであろうテレビ的な常識をド返しした2時間スペシャル+さらに2話の4話分、CMをカットすると正味3時間となる長編の組み方だけでも映画さえも超える尺が圧巻なのに、天下の官房長官がその辺の小悪党チックに殺人事件の中心人物になってしまうお話って、まったくやってくれるよなぁ。まぁ、ここまで分厚くやってくれてるところでいきなり、第3話の途中で話が完結することだってありうるわけだから(『トリック』が前例)、油断はできないわけだが。
 薫(寺脇康文)がいなくなったことで底意地の悪さに拍車がかかった右京(水谷豊)の元には、沢村首相補佐官(春田純一)首吊自殺事件の捜査資料一式がリサイクル品として届く?! 特命係に里帰りした薫の手土産は、首相官邸に盗聴器が仕掛けられていたとの情報も、そのソースが美和子(鈴木砂羽)の新カレ・鹿手袋(西村雅彦)だったりする人物配置だと、如何様にしても薫はその苦々しい境遇から逃れられないというあまりの意地悪。それにしても、加賀谷秘書官(佐戸井けん太)と大八木秘書官(清水明博)はまたあっさりと盗聴の真偽に関してすべてを認めるものよ。東京の街のいたるところに盗聴電波が飛び交っていてもおかしくないとはゾッとする。
 朱雀(本田博太郎)の右京に対する圧力をホンのちょっとであっても止めてくれていたのは、ピルイーターこと警務部監察官の大河内(神保悟志)だった。その性癖を暴露しなかった分だけの右京への借りが大河内にはあるもんね。まさに情けは人のためならず。
 意表をついたのが、エリートと坊主が大嫌いな海音寺(竹中直人)が薫の永田町乱入に賛成だったこと。エリートはいいとしても、坊主って何?もしかして坊主が嫌いなのではなく、坊主役が嫌いとか(=『天花』の竹中さんご自身?!)。
 案の定、片山女史(木村佳乃)はやはり朱雀の愛人だったか。愛人へのお手当てのつもりか、多額の機密費が片山に流れているとの事実までは想像の範囲内だし、実は鹿手袋を襲わせていたのが片山の秘書・小松原(中村方隆)だったとの流れもそうつながるのかと感心こそしたが、まさか警官に取り囲まれた中でその小松原が死を選ぶとは、壮絶極まりない。質問に質問で応える右京に突っ込む片山。この2人の応酬に震えながら、片山は単に守られている存在であるだけなのか、それともそれ以上なのか、どうにもわからなくなる。バックに映る国会の黒い影の中から鬼が出る?蛇が出る?そしたらとんだ駒が出る?
 鹿手袋に事情聴取後の右京と薫が下りエレベーターで上りエレベーターに乗って鹿手袋のお見舞いに向かう美和子と擦れ違うイジワルさえも叙情的って、まったくこの作品は。(麻生結一)


第1回(10/13放送)
☆☆☆★
 連ドラ版としては第3弾となる『相棒』は、予想通りに期待を下回ることのない思わせぶりな飛ばしっぷりで早々随所にドキドキとさせてくれた。現大河に爪の垢でも煎じて飲ませたいほどの適材適所の渋め豪華キャストは、皆々様それぞれに癖っぽい魅力を披露する演技合戦の様相に。
 予告自殺電話を受けた官房長官・朱雀(本田博太郎)が第一発見者となることで、首相補佐官・沢村(春田純一)は自殺したとの仕立てられた同意事項を崩すべく、第2シリーズをしめた前法務大臣・瀬戸内(津川雅彦)が犯人がいればとりあえず友人であり、その素振りなどまったくなかった沢村の自殺は覆させるとの魂胆で自首するあたりから、そのひねりっぷりは並じゃない=あまりにも『相棒』的。
 美和子(鈴木砂羽)の不倫の恋人として登場するなり、いきなりに暴漢に襲われて重症をおった院内紙記者の鹿手袋(西村雅彦)がその直前につきまとっていのたが、若手会派のリーダー的存在である二世議員の片山雛子(木村佳乃)。この片山が実は最大の曲者風で、鹿手袋は片山と機密費の関係を探っていたのか?! さらには、右京(水谷豊)と小野田(岸部一徳)と片山の3人しか知らないはずの情報が朱雀に筒抜けになっていたりと、どうやら片山と朱雀との間にはホットラインが存在する模様。いや、それ以上の関係も匂う。
 幾多の難事件を解決に導いた実績がそれなりに評価されて見事現場復帰するも、そこは捜査一課ではなくて麹町東署捜査一係だった薫(寺脇康文)が今回一人蚊帳の外なのは、究極のエリートの集いとなっている現状致し方なしか。美和子には半年前から付き合ってる恋人がいるし、特命係を去る際も右京から心のこもったねぎらいの言葉もなしと、その踏んだり蹴ったりぶりがある意味唯一の庶民の目線かな。右京を評して、

薫「蛇蝎のごとく嫌われている」

との難しいボキャブラリーの使用は右京との付き合いの成果?! 実力はなくても無茶しなかったので出世コースを歩めたと自己分析する小野田が、いつもながらのガス抜きぶりで絶妙。と多士済々があまりにもダークなワルぶりを発揮するも、それでもやはり右京が最大のワルなのか、次回(もしかしたら次々回も)を待ちましょう。
 ちなみに私は2千円札を日常持ち歩いております。おつりでもらったあとにどうしても使えなくて。こういう人間ばかりだから、なかなか流通しないんでしょうね。アメリカでは20ドル札が一番使い勝手がいい。日本だってと思うんだけど。(麻生結一)




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