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君が想い出になる前に (フジテレビ系火曜22:00〜22:54)
制作/関西テレビ、共同テレビ
プロデューサー/笠置高弘、小椋久雄、谷古浩子
脚本/清水友佳子(1、3、6)、横田理恵(2、4、5、7、8、10)、小川智子(9)、李正姫(11)
脚本協力/横田理恵(11)、小川智子(11)
演出/河野圭太(1、3、5、8、11)、小林義則(2、4、7、10)、石川淳一(6、9)
音楽/西村由紀江
主題歌/『ALL FOR YOU』安室奈美恵
出演/佐伯奈緒…観月ありさ、望月光彦…椎名桔平、富田ちひろ…加藤あい、結城和也…玉山鉄二、阿久津順子…木村多江、小野寺慶…松崎しげる、望月美穂…森口瑤子、水島かおり、大塚良重、杉山悟…山口馬木也、望月祐輔…広田亮平、藤沢大悟、村岡優子…中山恵、若月彩子、モロ師岡、渡辺杉枝、中込佐知子、菅原禄弥、山中崇、大高洋夫、猫田直、藤井章満、中村陽一、能登愛、上原多香子、草村礼子、相島一之、小市慢太郎、榊英雄、小須田康人、東山明美、坂口進也、三谷侑未、三鴨絵里子、内山森彦、北見誠、瀧山雪絵、塚田若乃、山田えりか、滝沢和也、井下田真実、松本寛也、猪又太一、伊藤俊輔、幸野友之、野村啓介、岩田有弘、アドリナ・アリ、宋湘平、加藤四朗、吾方佑名、レオン、中泉英雄、藤原まゆか、工藤貴史、原田要相、井上健一、山本直輝、原楠緒子、速水陽子、猪岐英人、牧トオル、井津元啓汰、村林美和、樫村勲、ジョニー・ボーイ、ナヤ・ウィラタ、チェンダ、北見敏之、柏木孝之…平泉成、佐伯正治郎…小野武彦
ほか

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第11回(9/14放送)
☆☆
 一番ビックリしたのはいかなるサスペンスの成り行きよりも、大々的なシンガポール・ロケの方。光彦(椎名桔平)の記憶が銃声で完全に蘇るあたりの設定自体はいたってありがちなものだったが、それでも椎名桔平の蘇り演技は一見の価値ありかな。そしてついに、属性のさきがけ的存在であった美穂(森口瑤子)がリアルに死にゆく姿を明らかにする。
 仮に阿久津(木村多江)が柏木(平泉成)と杉山(山口馬木也)のグルだったとしたらそれはそれでありきたりだけれど、いい人のままで普遍というのも大いに拍子抜け。だったら何だったら良かったのだろうと考え込ませてしまうあたりに、このドラマの半端サスペンス調の難がある。
 事件が解決し、これまでの同居関係を解消するべく引っ越しする奈緒が助手席に乗るトラックを、寡黙に全力疾走で追いかけてくる光彦はちょっと怖いくらいにあまりにもらしい感じだったが、これまでの説明程度でこの義兄と妹の結びつきを語るのは大いに苦しい。祐輔(広田亮平)には出て行くことはふせてとの、縁を切る勢いもそれまでの道程からすると今一歩その必要性もわからず。大体、奈緒の最後のまとまった台詞が、

奈緒「あっ、そうだ。阿久津さん、会社辞められたんですって?」

って、そんな表現回し的台詞じゃあんまりでしょ。そこで思いついたのが、奈緒はサブキャラ的な存在として使っておいて、阿久津を主役に当てるような人物配置にすること。そうすれば、光彦と美穂に割って入るだけの困難によって幾分かはどろっとした感じが出て、物語の厚みも出たような気がするのだが。
 キャストの属性への忠実ぶりに目を奪われすぎて、大事な部分の欠落を見過ごしたままに最終回を迎えられたことは、ある意味幸せだったかも。というわけで、観月ありさの属性変更の試みはここでは完結せず、次の機会にも持ち越されたということで。ここまでのシリアス物はなかなか難しいかもしれないが(そういった意味では、希少価値の高い作品ではあった)、ぜひまたコメディ以外の作品に挑戦していただいて、今度はより苦悩に満ちた役柄を演じることで見事属性を変更しきってほしい。(麻生結一)


第10回(9/7放送)
☆☆★
 警察の事情聴取にショックを受けた光彦(椎名桔平)が失踪。ところが、この一大事を奈緒(観月ありさ)は近所を一通り探しただけで一晩寝かせてるよ。このもう一歩必死さが感じられないところは、属性にあくまで忠実にやっぱり笑い続けている週刊スクープの記者・久野(小市慢太郎)の脅迫じみた接触によって、これまた属性を裏切ることなく不安の塊になる順子(木村多江)の伝令により連絡網がつながった二宮(水島かおり)が、警察に連絡するようにとのあまりにも普通のアドヴァイスを与えたことにより軌道修正される。またまた直感に任せて奈緒のもとに駆けつけた和也(玉山鉄二)の忠勤ぶりもいい感じだが、このドサクサにまぎれてスムーズに社会復帰しちゃうあたり、ちひろ(加藤あい)はポジティブでも悪女的?!
 入水自殺を試みる光彦を奈緒よりも先に和也が見つけてしまう可能性にちょっぴり心配するも、結局は奈緒が鼻の差で先んじてくれてよかったよかった。その一方を受けた暗闇の中の順子は、一体何時まで残業してるのよ。
 そんなスリリングの数々も、すべてはこのドラマの主演者である観月ありさの属性の揺らぎによるところ大。混迷作『川、いつか海へ』ではコメディ編に出演したはずも、今一歩お得意のおかし味を発揮しきれていなかったが、すでにあのときからシリアスの属性が芽生え始め、そして揺らぎ始めていたということか?! 最終回で楽しみなのは、そんな観月ありさの属性が一体どこへ向かい、どこに帰着するのかという謎。これは、紛失したデータ以上のサスペンスだったり?!
 この回でもっとも印象的だったのは、閉ざされた存在である光彦が、閃光するフラッシュバックの中でいっそう閉ざされていく過程。長時間にわたって奈緒との想い出をリピートしたくなる意図もわかる椎名桔平の心理演技のうまさには脱帽です。上出来だった『スカイハイ』の第1シリーズの最終エピソードを席巻した北見敏之、榊英雄の刑事コンビはここでも刑事コンビじゃないの。いやはや、このドラマにおいてのキャスティングが、どこまでも属性に忠実であろうとする様はもはや美的の域に。(麻生結一)


第9回(8/31放送)
☆☆
 これがやりたかったのはよくわかる。わかるけれど、この急展開自体は盛り上がってきているというべきか、安っぽいサスペンスになってきたというべきか、非常に微妙なところ。属性シリーズやってなかったら、ここまで興味を持続させることが出来たかどうか。キャストの属性への忠節ぶりは涙ぐましいほど。
 祐輔(広田亮平)が新しい小学校のお友達の家にお泊りに。奈緒(観月ありさ)と光彦(椎名桔平)は初めて2人だけで食事をし、ワインまで飲んでほろ酔い気分で家に帰る途中、いきなりの雨に降られる。家に到着して、ずぶ濡れの体をタオルで拭いていると、突然雷が鳴って思わず奈緒が和也に飛びついてしまう。この矢継ぎ早のベタからベタへの展開は、これまでの一貫したトーンとはかなり違うもの。
 祐輔が怪しげな男につけられてる感じの演技に恐れ入っていると、それこそがサスペンス風ドラマの序章であったことに後々気がつく。その祐輔をつけていた週刊スクープの記者、久野を演じる小市慢太郎は、いい人を演じるにしても悪い人を演じるにしても、笑ってるフォーマットは決していじってこない。役柄の善悪に関わらず、演技スタイルに属性を見せつけるあたりは、属性づくしであるこのドラマ中でもまったく新しい切り口だ。写真を撮ってるときでさえも常に笑ってるんだもん。映画『張り込み』でもとんでもない役柄を常時笑って演じてらっしゃいましたからね。
 これまででもっとも長時間となったフラッシュバックのシーンに、終始閉じられた存在であった光彦が、ゾクッとするような爆発を見せるあたりは、椎名桔平ほどにうまく演じられる人もなかなかいないでしょう。光彦が保険金殺人の疑いをスクープに書かれたことで、友達と遊んじゃいけないと言われたのがどうしてなのかと問う祐輔に切れそうになる場面にも、属性を裏切らないよさが炸裂。
 フラッシュバック後に倒れた光彦のもとに駆けつけた奈緒の医者(水島かおり)に対する第一声、

奈緒「お兄さんは?」

はないでしょ。奈緒だったら、

奈緒「兄は?」

というはず。この第9回はいつも笑っている小市慢太郎のおかげで、またまた観月ありさの属性の行方は次週以降にひっぱらせていただきます。
 ちひろは奈緒と和也(玉山鉄二)の決別に驚くも(っていうか、あなたが原因でしょうに)、ちゃっかりスタイリストに復帰の見込み。無意識の悪ぶりにスッとする。美穂(森口瑤子)は今回だけでも何回殺されただろう。台詞よりも殺されてるカットの方が多いとは、さすがは属性の鏡!(麻生結一)


第8回(8/24放送)
☆☆★
 アテネ・オリンピックに夢中になる日々の連なりで考えるに、団体スポーツではそれぞれの個性が発揮されるときほどチームとしての輝きが増すように、このドラマも役者がそれぞれの属性に対して忠実にキャラクターを演じきろうとするほどに、作品としてのまとまりが出てきていると感慨深く思う次第。まぁ、オリンピックほどに感動的ではないにしても。
 これまで完全になりを潜めてきた美穂(森口瑤子)が、いきなりに殺されるインサートで登場。こういうビックリ系の死体をやらせると、森口さんはどうしてここまでの説得力を発揮するのかね。このジャンルにおいては、おそらく日本一でしょう?!
 和也(玉山鉄二)は自分をかばってケガを負ったちひろ(加藤あい)に徹夜で付き添った勢いのままに、企画会議があるから会えないと奈緒(観月ありさ)の約束をすっぽかしてお見舞いに行っていたバレバレな行為をご丁寧にも改めて告白。すると、奈緒からは光彦(椎名桔平)と海に行ったことを逆告白され、ひっぱったわりにはそれほどの意外性もなく2人の別れは決定的なものに。ハモる「ハッピーバースデー」で祝福してくれるレストランで想い出にひたりつつ、別れを切り出されるといきなりに未練がましくなる和也の常なる弱腰ぶりを玉山鉄二が終始深刻そうな顔を崩さずに演じきり、その属性への忠誠ぶりを見せつける。
 和也は前触れもなく病院からいなくなったちひろの行き先を追跡調査するのだが、これは勤め先の事務所に聞きゃ、あっさりわかりそうなものだけれど。順子(木村多江)はシンガポールの事件に不審な点があることを生命保険会社の調査員から聞かされるのだが、光彦が個人で加入していた保険の手続きまでも他人が勝手に出来るものだろうか?光彦のワルぶりが再三ほのめかされるのだが、今回こそはと思えどなかなか爆発しないもどかしさが続く。もちろん、まさかこのままでは終わらないでしょうけど。何といっても、閉鎖的なシチュエーションからの爆発こそをもっとも得意とする椎名桔平が演じているわけだから。
 そんな光彦のことが一応好きそうではあるけれども、雰囲気以上の関係にまでは発展しない奈緒は、順不同に愛情生活だけを先行させる。奈緒を演じる観月ありさこそが最後に残った属性的砦。代名詞である“お仕事”偏重主義をかなぐり捨て、しっとり風もすっかり板についてきたようにも思える彼女の属性は何処に?、というわけで、このドラマのやり方にならって、もう少しひっぱってみることにする。(麻生結一)


第7回(8/17放送)
☆☆★
 専務の柏木(平泉成)がついに腹黒さを見せはじめたのかと思いきや、外に漏れては困る裏金のデータが入ったディスクのことをあっさりと光彦(椎名桔平)に明かしてしまうとはどういうわけ?ここを引っ張ればもっといろいろ出来たのにと思いつつも、そんなありきたりのことをやってくれなくてよかったとの相反する思いもあったりして。小出しにしか登場しない妻・美穂(森口瑤子)との関係も良好だったとは言い難いフリも、あっさりと奈緒(観月ありさ)が肯定しちゃってあれでおしまい?クレジットが一枚のキャストがあの程度の出番で終わるわけがないと思いつつ、折り返しを過ぎてなおの不完全燃焼ぶりに致し方なく再び『カンパニー・会社』の古きよき思い出にひたったりして。
 一定したドラマのテイストには、近頃のドラマにはない居心地の良さがあるのも確か。雰囲気で見せようとする努力のほども伝わってはくるのだが、もう一歩踏み込んだおぞましい事実が発覚する風もなきゃ、連ドラとしてのひきは弱いか。
 当然の鉢合わせを恐れることなく、登場人物たちが同じ店に入り浸るのはドラマの常套手段も、和也(玉山鉄二)のことは吹っ切ったと宣言しているにもかかわらず、ヒロイン以上の美貌に引っ付いてくる目力にどうしても怨念がこもってしまう加藤あい(属性に裏切りなし!)が演じるちひろと、奈緒&和也がかち合う場面はそれなりの張り詰めた空気あり。登場人物たちに何らかの物体が降ってくる設定は(今回ちひろに降ってきたのはセットだか機材だか)、今年のモードみたいなものかな。ジョークじみた『東京湾景』の後に見ただけに、やはりこちらの方が韓流の本流っぽいとも確認できた次第。
 平泉成はこちらのドラマではダークサイドの人も、『ラストプレゼント』ではヒロインの良き父親役。こちらでは小野武彦が演じている役回りだが、だったらこちらでも小野武彦が演じている父親役だってありだったはず。もちろん「逆もまた真なり」というわけで、平泉成と小野武彦のイコールな属性なき属性(もしくは二極化した属性)に行き当たることに。このあたりの役柄を独占してしまうお二人の存在は、同世代の他の男優さんにとっては災難というしかないんだけど。2人いっぺんにはかせてしまって、属性シリーズもいよいよ苦しくなってきた。あとはあの人1人しかいないので。(麻生結一)


第6回(8/10放送)
☆☆★
 ちひろ(加藤あい)が和也(玉山鉄二)と一夜を共にしたことを奈緒(観月ありさ)に告げる場面でいきなりに冷え冷え。奈緒がちひろのことで和也をなじると、和也は光彦(椎名桔平)とのことを疑ってさらに冷え冷え。やっぱり奈緒とは別れられないと、和也がちひろに別れを告げていっそう冷え冷え。和解した奈緒と和也だったが、光彦と祐輔(広田亮平)と一緒に光彦の母が最期のときを過ごした海辺の街を訪れたことを和也には言い出せず、ダメ押し的に冷え冷え。この猛暑にはこれぐらいの冷え冷えとした涼しげな展開こそがふさわしい?!
 順子(木村多江)がかつて光彦(椎名桔平)と付き合っていたことを奈緒(観月ありさ)に告白する回想シーンで、ついに動く美穂(森口瑤子)が登場。椎名桔平と森口瑤子のちゃんとしたツーショットを眺めていて、この2人こそが『カンパニー・会社』の主演の2人であることを思い出す。椎名桔平の回の属性シリーズで、『カンパニー・会社』を取り上げたのはまったくの偶然です。
 というわけで、冷え冷えつながりで属性シリーズは木村多江の回に。この女優さんの決して揺らぐことのない涼しげさは、ついには涼しげさを超えて、視聴者を不安な気持ちにまで陥れること多々。その涼しげさがあまりにも強烈なため、明るい役をやっていると(例えば『ある日、突然、嵐のように』)、逆に心配になってしまって、これまた不安になってしまうというあまりにも強固な存在感が素晴らしすぎる。
 圧倒的にCXのドラマ出演が多いも、NHK、日テレ、TBS、テレ朝、はたまたTXのドラマにまで網羅的に登場して、満遍なく涼しげであり続ける様は、もはや涼しげでもなんでもなく、あまりにも熱い!最近でも『新撰組!』では一言も言葉を発さないお富役を雰囲気で見せて、川平慈英がヒュースケンを演じる嘘っぽさに無言の異議を唱えてくれたあたりもある意味熱い?! 森口瑤子との実年齢差は5歳ほどだと思うが、さてどちらが年上でしょう、というクイズを出したくなるほどに会社の同期を演じてもまったく問題ない。よく何クール連続でドラマ出演、などという話を聞くが、この方こそそうなものなのでは。もちろん、木村多江の冷え冷えとした熱さの前ではカウント不能にならざるを得ないのだけれど。(麻生結一)


第5回(8/3放送)
☆☆★
 『おみやさん』がおみや入りさ加減のスリリングさを楽しむものだとするならば、このドラマはキャストの属性でこそ楽しむべし!娘の美穂(森口瑤子)が殺されたことに関して、光彦(椎名桔平)を一方的に目の仇にしていた正治郎(小野武彦)が美穂の墓の土地、及び墓石を手配する軟化さを示したことにより、ドラマのトーンが均等にならされて、よりいっそう属性を発見しやすい状況が整ってきた?!
 和也(玉山鉄二)の部屋に落としたイヤリングに気がついていながらにして取りに行かないちひろ(加藤あい)の悪女ぶりからしていかにも前途有望でしょ?! 和也を現場に戻してくれるのなら、嫌味キャラの藤嶋(相島一之)とだって喜んでホテルに行かせていただきます的な態度の誤り方にお付き合いする形で、そんな強迫キャラに心を打たれてしまう和也も、シリアスを維持しつつも一心不乱的にかなりの愚かぶりを発揮する。
 藤嶋を演じる相島一之の属性はと言えば、嫌味なわりに意外にいい人だったりする密かなる賢人ぶりか。つい先ごろ出番が終了した『新撰組!』の新見錦役などもその典型だし。『いのちの現場から7』の医師役も、嫌味からプチ賢人ぶりへの推移が美しく決まったパターン。ちょっと短めではありますが、これを属性シリーズ第5弾に代えさせていただきます。
 またまた属性シリーズをスルーさせていただいた木村多江演じる順子は近々のではなく、10年前の光彦(椎名桔平)の愛人だったことが判明する。ということは、出てくるなり殺される役(もしくは死んでる役)のスペシャリストである森口瑤子演じる美穂もぼちぼち回想あたりで登場するのかな。
 奈緒(観月ありさ)とちひろのお互いの状況をお互いに伝令し続ける優子(中山恵)が、ドラマのインフォメーションセンターのようになってるあたりは、『東京湾景』なぞよりもよほど韓国ドラマ的なテイストを有している部分。属性にこそ味のあるこのドラマに出演しているからといって、中山恵がインフォメーションセンター的な女優さんになっていくかどうかは不明だけれど。(麻生結一)


第4回(7/27放送)
☆☆★
 日ごろ騒々しいドラマにばかりさらされていると、光彦(椎名桔平)の記憶がゆったりと手繰り寄せられていくのと歩みを同じく、しっとりとした語り口が印象的なこの作品はむしろ異彩を放っているかのようにも感じられる。相対的な比較での好印象ほどに個として作品が輝くかはどうかは、今後の展開にかかってくるのだけれど。
 光彦(椎名桔平)の出現によって、奈緒(観月ありさ)にとっての最優先事項ではなくなってしまう和也(玉山鉄二)が、弱り目に祟り目というか、踏んだり蹴ったりというか。せっかく通ったCMの企画も、ディレクターの藤嶋(相島一之)と衝突してしてしまい、そのことを奈緒に打ち明けられないままに奈緒と両親とあわせる段取りをするも、光彦が5歳から中学を卒業するまでの少年時代を過ごした孤児院に奈緒も同行することになり、ドタキャンされる羽目に。弱音を吐けるのは密かに和也に思いを寄せていたちひろ(加藤あい)だけで、結局2人はベットで体を重ねてしまう。
 そろそろ奈緒が光彦に固執する理由というプラスアルファが欲しい気もするが、順子(木村多江)が光彦に固執する理由は翡翠の指輪をきっかけに早々見え隠れしはじめる。いずれ属性シリーズでその木村多江にも登場願いたいが、第4弾は椎名桔平ということで。
 椎名桔平が閉鎖的シチュエーションでより輝くことはすでに書いた。それは閉じられた世界でこそ活きるという意味合いを含んでの、追い詰められてからの鬼気迫りっぷりが凄いということ。ぶち切れキャラにインパクトがあった映画作品も印象深いが、いっそう心に残ったのは深夜ドラマの『BLACK OUT』と『カンパニー・会社』あたりから。『カンパニー・会社』は90年代のドラマの中でもとりわけ出色の一本だけに、BS思い出館あたりでの再放送をお願いしたいところ。
 『BLACK OUT』にしろ『カンパニー』にしろ、エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』の翻案である『埋葬された愛』にしろ、そして前述の『彼女たちの時代』にしろ、朽ちていくキャラクターで本領を発揮する椎名に、だったらコメディは無理かというと然に非ず。『アンティーク』での甘いものが苦手なケーキオーナー役では最高のコメディ演技を披露くれたのだが、例えコメディであったとしてもやはり閉じられた存在であったりする首尾一貫ぶりは、あまりにも美しいですね。
 ちなみに、臥待月(ふしまちづき)とは、横になって待たなければいけない出るのが遅い月のことらしい。そんな月の日も満月になればきっと迎えに来てくれるという母親のウソを信じて待ち続けていた光彦の少年時代。やはりこの男はまさに椎名桔平が演じるべき役柄だったか。(麻生結一)


第3回(7/20放送)
☆☆★
 シリアスバージョンの観月ありさに目が慣れてきたというだけではないんだろうけれど、最初の2回よりも好印象を持った。前日に放送されているドラマのように嘘っぽくドラマをうねらせない、誠実さを貫き通すタッチは潔いし、やはり適材適所のキャストの魅力に心惹かれてしまう。
 社会復帰を目指す光彦(椎名桔平)が資料編纂室の配属になったエピソードを見ていたら、即座に『彼女たちの時代』を思い出してしまった。シチュエーションはまったく違えど、やはり椎名桔平にはこういう閉鎖的シチュエーションがよく似合う(もちろん、褒めてます!)。
 奈緒(観月ありさ)が人気アーティストのエリカ(上原多香子)の新曲のジャケット用の衣装を担当する話はそれ自体に新味はないものの、観月ありさが安定したシリアス演技を見せ始めたのを確認できて、正直ホッとする。いつもの彼女だったら、得意満面に衣装チェンジを言い出していたところだけれど、そういう素振りもなかったあたりにお墨付きをさしあげたくなった。
 意識せぬままに、第1回では森口瑤子、第2回では玉山鉄二の属性について触れたので、せっかくだからシリーズにしちゃいましょうか。第3回は悪女パートで輝く加藤あいということで。今クールの悪女合戦となると、どうしてもここで比較せざるを得ないのが『東京湾景』の佐藤江梨子ということになるだろうが、これは加藤あいの圧勝と言い切りたい。やはり悪女はヒロインよりも美貌の持ち主じゃないと雰囲気でないでしょ。韓国のドラマじゃないけれど、その目力にも大いなる差が。もちろん、美貌でも目力でも 悪女役に劣るヒロインがヒロインであることには、それなりの理由があるわけだけど。だからといって、『東京湾景』のヒロイン=仲間由紀恵と悪女=佐藤江梨子のキャストを入れ替えるわけにもいかないし。
 韓国のドラマをパロディ(?!)にしたようなドラマが増えつつある中で、今にして思えばその先駆的作品だったようにも思える『傷だらけのラブソング』でもキャストの順番は2番手だったにもかかわらず、加藤あいは悪女のパートを受け持っていた。新人ゆえも、3番手の中島美嘉がヒロインで。通常ではありえない、2番手=悪女、3番手=ヒロインの逆転現象を引き起こしてしまうほどに、加藤あいはまれにみる本格的な悪女キャラということか。松坂慶子の例に漏れず、若いころの悪女キャラは年月を重ねるとともに真の主役級へと変貌するもの。加藤あいにも10年後にそうなっていてほしいと願わずにはいられません。何はともあれ、和也(玉山鉄二)をめぐっての奈緒とちひろ(加藤あい)の静かなるバトルに期待。(麻生結一)


第2回(7/13放送)
☆☆
 失った記憶をたどるべく、かつて家族3人で行った場所であるはずの東武動物公園に祐輔(広田亮平)と出かけた光彦(椎名桔平)だったが、ソフトクリームを買っている隙に光彦がいなくなってしまう。光彦は今は亡き美穂(森口瑤子)に似た女性を見つけ、あとについていってしまって光彦とはぐれたのだった。
 そんな祐輔に対して、

光彦「お父さんがいます」

といって抱きしめる場面は感動的になるはずだったのだが、ちょっと待てよと思う。光彦の記憶喪失の症状は、あまりにもざっくりしているというか、乱雑すぎやしないか。どこまでをどのように記憶を喪失しているのか、最低限の説明はほしいところ。じゃないと、何でもありになってしまうので。
 これまでどうしたことか馬鹿っぽいキャラばかりを演じていた和也役の玉山鉄二は、今回はめっきりいい人キャラなれど、奈緒(観月ありさ)と結ばれないオーラはすでに大いに立ち込めている。(麻生結一)


第1回(7/6放送)
☆☆
 オープニングから一時は、スタイリストである奈緒(観月ありさ)がCM撮影の現場でテキパキと働く様を描いて、いつもの観月ありさドラマ的な軽快なトーンが維持されるも、姉・美穂(森口瑤子)が一回も登場することなく夫・光彦(椎名桔平)の赴任地であるシンガポールで殺され、生き残った光彦が記憶喪失になって帰国して以降は重苦しい雰囲気に一転する。
 同じく被害者であるはずの光彦が家族から一方的に責められるくだりは、この手のドラマの定番に過ぎてガッカリした。ドラマ的な対立を仕込むにしても、こういうデリケートな関係性を描く場合には、やはりリアリティが優先されるべきだと思う。ただ、光彦を演じる椎名桔平にこの役柄はハマリそうなので、今後のシリアスな展開には期待できるかも。脚本は『ほーむめーかー』が上出来だった清水友佳子。
 森口瑤子が出てくるなり殺される役(もしくは死んでる役)のスペシャリストであることをご存知でしょうか?! とりわけ、『ラビリンス』では第1回で殺されるも、キーワード「パ〜ピ〜ヨ〜ン」一言のためにその後も頻繁に登場した不死鳥ぶりが印象的だった。ただ、今回はそういうこけおどし的な登場はないかな。(麻生結一)




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