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菊亭八百善の人びと (NHK総合月曜21:15〜21:58)
月曜ドラマシリーズ
制作・著作/NHK
制作統括/一井久司
原作/宮尾登美子
脚本/前川洋一
演出/小松隆(1、2、7)、梛川善郎(3、4、6)、松浦善之助(5)
音楽/渡辺俊幸
歌/ヤドランカ
出演/杉山汀子…夏川結衣、杉山福二郎…吹越満、鈴木彦次(小鈴)…金子昇、わか…美保純、高木惇子…三原じゅん子、杉山静子…久我陽子、杉山秀太郎…利重剛、楠木護…田中実、与之助…清水アキラ、久夫…畠中洋、京料理屋の板前…露の五郎、客・吉田…藤原喜明、料亭女将…山本みどり、社長…宮尾すすむ、さと…広岡由里子、琴…谷川清美、秋…楠トシエ、栄一…黄川田将也、杉山もと子…猫田直、健二…佐伯直之、竜夫…和田慎太郎、啓子・タイトル画…古谷充子、鈴木加江…麻ミナ、勝丸…宮沢美保、楠木真佐代…眞野裕子、楠木せい子…桂亜沙美、本橋…平野稔、正木…岡村洋一、一郎…木村良平、俊光…小林元樹、杉山園子…野口真緒、杉山尊之…藤田草次郎、楠木茂一…橋爪功、鈴木清次(大鈴)…塩見三省、中島みどり…井川遥、杉山れん…星由里子、杉山了二…杉浦直樹
ほか

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最終回「最後の茶会」(5/17放送)
☆☆☆
 ドラマのピークは第3、4話あたりで、八百善の凋落とともにその後は緩やかに下降していった印象だが、それでも今クール随一のドラマであったことに変わりはない。
 終始魅力的だった汀子(夏川結衣)のシンプル・シンキング=単純なヤツぶりは最後まで衰えることを知らず。汀子の受けにまわる福二郎(吹越満)のいなしっぷりは、情けなさと粋が同居する不思議なおかし味を醸し出して独特。とにかく、汀子と福二郎のツーショットには大いに楽しませてもらった。
 電車のラッシュ時にお客を電車に詰め込む押し屋を例に出して、時代が変わり風流が受け入れられなくなった、その時代の流れには逆らえないとしみじみと語る了二(杉浦直樹)が抜群。いまさら言うまでもないが、杉浦さんは本当にうまい。押し屋自体はちょっと前までは見かけましたけど、もはや絶滅したでしょうか。福二郎が営業でまわる会社の社長役で宮尾すすむが登場。「社長!」のフレーズがちょっと懐かしかったりして。
 小鈴(金子昇)の指の話にこだわりすぎて、ドラマのテンポが落ちてしまった点がちと残念。第6話あたりでもう一仕掛けあってもよかったか。何はともあれ、宮尾登美子原作のNHKドラマにははずれなしの神話は守られた。(麻生結一)


第六回「最大の危機」(5/10放送)
☆☆☆
 この第6話は、第5話と最終回の橋渡しのような役割だったので、点数に関してもこの回だけというよりも、ここまでの充実ぶりと次回への期待感をこめての採点ということでちょっと甘めに。
 みどり(井川遥)との結婚を明日に控えて、ついに汀子(夏川結衣)への思いを伝えようとするも言葉に詰まってしまう小鈴(金子昇)に対してまでも、汀子はやっぱり暴力でスキンシップ!小鈴とみどりの結婚式では、久々に秀太郎(利重剛)がヴァイオリンの腕前を披露。眉をひそめる一同ほどに演奏はひどくないんだけど、むしろ隣で悦に入る妻・もと子(猫田直)の方が怖い?!
 江戸料理の普及のために八百善の支店を出すことをもくろんでいた福二郎(吹越満)は、資金を調達するために手を出した小豆相場が大暴落して、1千万円の借金を背負ってしまうことに。いつものごとく人を見る目がからっきしでまんまとだまされるダメ男ぶりにも、憎めない愛嬌のようなものがあって、汀子ならずもといとおしくなる。もちろん、そんな福二郎にゲキも手も飛ばす汀子が魅力的だからこそなんだけど。大変な借財に八百善の屋台骨は揺らぐも、神社の階段でそんなすべてを汀子が豪快に笑い飛ばす場面はなどは胸のすく思い。(麻生結一)


第五回「恋の味付け」(5/3放送)
☆☆☆
 これまで書き忘れていましたが、このドラマが今クール一番のお薦めです。といっても、あと2回で終わっちゃうんだけど。
 汀子(夏川結衣)の膝が入ったせいで腹部を負傷したとばっかり思ってたら、福二郎(吹越満)は酒の飲み過ぎで胃潰瘍になっていたことが判明。入院してまでもコソコソと胡散臭い行動をとる福二郎は、実はいとこだったみどり(井川遥)と一緒に住む芸者の勝丸(宮沢美保)とのことを汀子に突き止められて、あとはひたすら謝りっぱなし、加えて殴られっぱなし。汀子の手加減のない張り手がおかしすぎる!
 ここに小鈴(金子昇)とみどりの縁談話が急浮上。

みどり「私は汚れてます」

が新派の台詞風と笑い出す汀子に限らず、こういう時は決まって新派が引用されるもの。
 小鈴が縁談に乗り気じゃないのは、陰ながら汀子を思っているからのこと。皮肉なことに、そんなかなわぬ思いにケリをつけることになったのは、わか(美保純)&久夫(畠中洋)の裏切り者コンビがはじめた江戸料理の店の名前“八百久”の帰り、ぐでんぐでんに酔っ払った汀子が福二郎の名前を口にしたためだった。
 今話もまた、汀子役の夏川結衣が喜怒哀楽を全開にしたはじけっぷりに胸のすく思いがする。(麻生結一)


第四回「夫婦奮闘」(4/19放送)
☆☆☆★
 まじめで湿っぽいドラマが多い今クールの中では、活気に満ち溢れたこのドラマは異彩をはなっている。危機的状況を何とか切り抜けてほっとしたのもつかの間、新たな火種、元芸者のみどり(井川遥)が福二郎(吹越満)の手引きで八百善の仲居として迎えられたことで一騒動。となるかと思いきや、むしろリニューアルオープンから1年で運転資金もままならないほどの経営難話に物語はシフトする。
 金の無心をするも、時代のせいにするなと手厳しい了二(杉浦直樹)の前で、自分たちで何とかしますと言い切った汀子(夏川結衣)の悪戦苦闘ぶりが何ともダイナミック!逃げ腰の福二郎から下駄を預けられるや、まずもって店先の電灯を明るめに代えてみてって、幸先は地味な着手から。
 向学のためにと、小鈴(金子昇)と京料理の店に出向くエピソードがいい。素材を生かす京料理の方がおいしそうにも映るが、タコを大根で叩いてアクを抜くそのアイディアにこそ江戸料理の真髄があると熱弁をふるう小鈴の姿には、涙ぐむ汀子ならずとも好印象。
 確かに、汀子は普通に親兄弟の顔を見に実家に帰ったことがない。喧嘩して家を出てきたと思ったら、次は引越のトラックを借りに来て、ついには借金を乞いに。

汀子「お願いがあってきました」

の一言で、楠木家の扉を閉められてしまうあたりは笑えます。
 福ニ郎がここぞというところで頼もしい言葉をかける場面で、これまでになかったオーバーラップの連打でロマンティックに見せるあたりもうまい。仕出しと料理教室の二案のうちの料理教室案を了ニに却下されて、福ニ郎がはじめての了ニに口答えするところもいい感じ。

れん(星由里子)「いつの時代も新しいことをやろうとすると、反対されるもんでござんすね」

の一言も効いた。めったにしゃべらないキャラクターがしゃべると、効果は通常の2、3倍。
 料理教室の生徒さんがご主人を店に連れてきてくださって、そのご主人が仕事関係の方々を連れてきてくださって、と芋づる式に客が増えて、ついに八百善は黒字に転じる。めん玉飛び出るほど高かったテレビに喝采する八百善の人びとに、『てるてる家族』を思い出してみたり。
 電気洗濯機、電気掃除機と生活は便利になるばかりだったが、みどりの家の家賃を福二郎が払っていることが判明し、汀子は糸切バサミをちらつかせて福二郎に詰め寄る。テレビでやってたプロレス中継の力道山も真っ青といった感じで、助走をつけて福二郎の腹部に汀子のフライングニーが炸裂する。ここをスローモーションでみせちゃうあたりの茶目っ気も素敵。
 ところが福二郎はお腹が痛いと救急車で運ばれて。まさかあの後遺症?!(麻生結一)


第三回「大鈴の味」(4/12放送)
☆☆☆
 汀子(夏川結衣)の後ろ盾だった大鈴(塩見三省)が脳溢血で逝ってしまった背後には、住み込みの板前や仲居たちが料理・酒に手をつけて宴会放題を繰り返していたという八百善の暗部が。ところが、糾弾を託された福二郎(吹越満)は、古参の仲居であるわか(美保純)に芸者といるところを見られた弱みを握られているために何も出来ない。思い余った汀子は従業員ともども一致団結することが必要と八百善に引越すのだが、わかや板前たちはすでに夜逃げしたあとだった。
 その日は珍しくも団体客が3件。深刻な人手不足で八百善絶体絶命のピンチに、汀子が大車輪の活躍。きらしたビールを自転車飛ばしてよその料亭に借りに行く姿は、たくましくも頼もしい。
 そんな頼りになる女将ぶりと、廊下で転んでうつぶせ大の字、畳を叩いて悔しがる様とのギャップを夏川結衣が大熱演。まったく頼りにならない福二郎、そんな夫婦をハラハラしながら見守る了二(杉浦直樹)、大鈴のあとを引き継いで八百善の板長になった小鈴(金子昇)の誰をとってもピタッとハマって、ドラマはいっそう活気づいてきている。(麻生結一)


第二回「ハリハリ漬けの味」(4/5放送)
☆☆☆
 ついに開店した菊亭八百善だったが、新米若女将の汀子(夏川結衣)は失敗ばかりで、その日の反省会では堂々主役をつとめることに。女将気取りの仲居・わか(美保純)には怒られるは、長男の尊之(藤田草次郎)は熱を出すはで、汀子は女将業と子育てとの両立に自信喪失。しかし、開店からしばらくたつと、客足もまばらに暇になった。
 風流を解さない客は追い返してしまう了二(杉浦直樹)の頑固一徹ぶりが愉快。政治家も銀行屋も、はたまた掛け軸の意味も解さない新聞記者も客として失格だとすると、よほどの文人墨客しか敷居をまたげないってこと?!それはあまりにも狭き門。
 八百善全盛期のハリハリ漬け小鉢に一つまみ5000円、なんて話を聞かされると、なるほどとも感心させられるが、一歩間違えばぼったくりでしょうよ。ハリハリ漬けの大根はみりんで洗うこだわりよう。お江戸は関東ローム層で土が悪くて青物が取れない。おまけに水も悪いとくれば、料理に手をかけるしかないとはなるほどね。
 お決まりの汀子と福二郎(吹越満)の喧嘩もいっそう盛大に。まくらのそば殻は飛ぶは、布団で羽交い絞めにしようとするは、凶器の孫の手に張り手が炸裂。首投げがかかりそうになったところには思わずビックリ。(麻生結一)


第一回「かつおにカラシ?」(3/29放送)
☆☆☆
 『藏』以来、宮尾登美子原作のNHKドラマにははずれがないので、これも大丈夫だろうとは思っていたが、大丈夫どころではなくとても面白かった。冒頭の妻・汀子(夏川結衣)と夫・福二郎(吹越満)のケンカからいきなりの取っ組み合いで、時には物まで飛びかう様が激しいやら、楽しいやら。そのケンカの理由はかつおは何で食べるのが一番うまいか?がちなみに、かつおはからしで食べるのが一番らしいです。次から早速。一度うんちくを傾けると止まらない福二郎の父・了二役の杉浦直樹をはじめとして、今クールのNHKドラマでは最高の俳優陣が脇を固める。ちょっと怖いお姉さん役の三原じゅん子が貫禄たっぷり。夏川結衣と橋爪功は『結婚前夜』コンビですね。
 江戸時代から続く高級料理屋・八百善についての余裕綽々な説明もウキウキとさせるし、出てくる料理は目にもたまらなく贅沢。とりわけ、大鈴(塩見三省)が語る江戸時代の八百善でのこと、美食に飽きた客に出した茶漬けの話がいい。半日待たされた茶漬けと香の物はべらぼうな高額。それもそのはず、早飛脚を走らせて玉露にあわせるために玉川上水まで水を求めたというから驚きだが、客はそのことに怒るどころか、さすがは八百善と称えたというから何とも風流ですこと。
 八百善の幕僚会議によって福二郎が八百善の跡継ぎに指名され、決して食べ物につられたわけではないけれど(?!)、ズブの素人ながら若女将としてスタートをきった汀子の今後の奮闘ぶりが大いに楽しみ。初物でおめでたい、一番料理の弁当がおいしそう!脚本は料理ものに定評のある前川洋一(って、『麻婆豆腐の女房』 だけですかね?)。(麻生結一)




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