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向田邦子の恋文 (TBS系2004.01.02)
テレビ50年ドラマ特別企画
製作/KANOX、TBS
プロデューサー/三浦寛二
原作/向田和子『向田邦子の恋文』
脚本/大石静
演出/久世光彦
音楽/小林亜星
主題歌/一青窈『夢なかば』
出演/山口智子、石田ゆり子、田畑智子、大口広司、四谷シモン、田中隆三、岸本加世子、岸部一徳、久保晶、三上瓔子、青木和代、波多野藍、瑠依、本多彩子、佐々木征史、松岡史明、藤村志保、樹木希林、森繁久彌
ほか



☆☆★
 脚本家として大きく羽ばたこうとしていたころの向田邦子の知られざる秘めた恋を描いた痛切な物語。時は東京オリンピックを直前に控えた昭和38年。映画雑誌の記者から脚本家になり、寝る間もないほどの多忙な日々を送っていた向田家の長女・邦子(山口智子)は、二女の迪子(石田ゆり子)と三女の和子(田畑智子)から父(岸部一徳)が浮気をしていることを聞かされる。邦子もまた、家族には内証で妻子ある男、中原(大口広司)と付き合っていた。中原からの励ましの言葉に、邦子は幾度となく救われるのだったが……。
 見進めるにしたがって、たまらなく気が重くなっていってしまって。もう少し語り口や見せ方にうまさがあればとも思ったが、物語ではない、リアルな向田邦子を知る意味では非常に興味深いドラマになっていた。だったらなおさら、ドキュメンタリーでこそ見たいと思わせるところもあったけれど。
 脚本書きにホテルに缶詰でケーキを5つペロリ、なんて恋文の文面には大いにうなずく。ドラマで触れられた部分だけ見ても、抱えてる仕事と書く分量は半端じゃなかったことはうかがい知れる。ヒデコ(岸本加世子)の家の物干し台で父が歌う姿などには、向田ドラマのイデオムを見た思い。邦子の恋文以上に絶品だったのが、物の値段を書き連ねた中原(大口広司)の日記で、突き放したようなその言葉の羅列がこのドラマに陰影を与えていた。
 それにしても、岸部一徳と藤村志保が夫婦役とはね。親子ならともかく。まぁ、小林薫と岸恵子の夫婦っていうのも終戦記念に恒例となっている向田ドラマではありましたけど。家族の関係性の中で、役者を回してるだけなんだもん。森繁久弥の出演シーンはドラマとは直接関係ないも、邦子と父との会話で、

「森繁はうまい」

とわざわざ言わせるあたりに、ドラマとしての彼へのリスペクトがある。久々に見た山口智子の演技スタイルが、ここ最近の脱力進化した木村佳乃にそっくりだったのには驚いた。(麻生結一)




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