TV DRAMA REVIEW HOME

ワルシャワの秋 (フジテレビ系2003.12.23)
関西テレビ放送開局45周年記念ドラマ
制作著作/関西テレビ放送
プロデューサー/笠置高弘
脚本/田向正健
演出/林宏樹
音楽/本田俊之
出演/青木葉子…竹内結子、本多隆則…坂口憲二、和地典子…山本未來、柿沼徳太郎…吹越満、カミル=レフ…イグナツィ・ザレフスキ、カロリナ…アグネシュカ・ピカワ、ザレフスキ…ダニエル・スコブロニスキ、村井克行、岡村信之…平岳大、入絵加奈子、蜷川みほ、佐藤めぐみ、岡あゆみ、草川祐馬、南条好輝、通訳…ヤロスワフ・ヴァチンスキ、スティーブ・サウスワード、アリーナ福島、平島…小林桂樹、アンナ・ヴィルケヴィッチ夫人…アンナ・ロマントフスカ、志津谷りつ…いしだあゆみ、青木葉子…岸惠子
ほか



☆☆☆
 2003年も最後の最後になって、素晴らしいドラマが放送された。ポーランドが帝政ロシアの支配下にあったその時代、シベリアに送られその地で親を失い、寒さと飢餓とに苦しんでいたポーランドの孤児たちを日本が救ったこの物語は、あまりにもタイムリーに今の時代に響いてくる。田向正健脚本作も随分と久しぶりだったので大いに期待したが、期待にたがわぬ出来ばえだった。
 大正11年、ロシア革命の余波を受けて混乱状態にあったシベリアで親を亡くし、行き場を失ったポーランドの子供たちを、要請を受けて日本が受け入れることになった。大阪赤十字病院の看護婦、青木葉子(竹内結子)は同僚の和地典子(山本未來)と共に、ポーランドの子供たちの収容所に勤務することを命じられる。受け入れ態勢を整えていた葉子たちの前に姿を現したのは、ボロをまとい、足を引きずり、生気を失った薄汚れた子供たちだった。医師の柿沼(吹越満)は子供たちの健康診断を始める。その中に口を利かないカミル(イグナツィ・ザレフスキ)という少年がいた。葉子は何かとカミルの世話をする。
 時を同じくして、葉子の許婚で新聞記者の隆則(坂口憲二)が、取材中のロシアで銃弾に倒れたという知らせが入る。許婚を失った悲しみを振り払うかのように、ポーランドの子供の世話に打ち込む葉子。ある日、子供たちと海へ行ったとき、海で水遊びをしていたカミルが言葉を取り戻す。本人の口から告げられた本当の名前は、レフであった。そんな子供たちにポーランドへ帰国の時がやってくる。
 日本赤十字の平島社長(小林圭樹)にポーランド児童救済委員会会長のヴィルケヴィッチ(アンナ・ロマントフスカ)が涙ながらに子供たちの受け入れを懇願する場面から、このドラマが特別なものであることが十二分に伝わってくる。揺れ動くカメラは、行き場をなくした子供たちの境遇そのもののようで。ここでのアンナ・ロマントフスカの迫真の演技が実に素晴らしかった。
 婦長(いしだあゆみ)の挨拶から、看護婦が葉子と典子の2人だけになる場面の作り方などは実にユニークで効果的だ。強風の中、驚くほどにボロボロなポーランドの子供たちが施設をたどり着くまでの長いシーンも、生々しくそのショックが伝わってくる。他にもジャンプカットやズームアップしたり、シーンとシーンを重ねてみたりと、どこかで何かしらはやっているという見せ方の凝り様は尋常じゃない。ただ、後半になるにしたがって、随所にやりすぎの感も。カミルがはじめて話すところなどは名場面なれど、海のさざなみと映像をクロスさせたのはどうなんだろう。子供たちの歌にエコーをかけるのも、何だか古めかしい効果に思えた。
 見返りを期待しない奉仕精神がかつての日本人にあったかどうかも含めて、いろんな意味でこの作品にはまさに祈りそのもののような意味合いを感じていたただけに、何もしないことこそがその表現にふさわしいと思える箇所が随所にあったことも事実。ロシア革命直後の政情不安定に、結婚を約束していた記者の(坂口憲二)が銃撃に巻き込まれて死んでしまう成り行きは、イラク支援の今の話とも重なって、あまりにもタイムリー。
 あどけない表情の裏にある重たい現実をにじませるポーランドの子供たちが、こぞって名演を見せてくれた。これまで、その潜在能力にしてはいいドラマに恵まれていない印象のあった竹内結子だが、この作品は彼女の代表作と呼べるものになったのでは。葉子の髪をレフがとかすシーンなどは、そういう意図があってかあらずか、何とも色っぽい場面に。そういう積み重ねもあるが、感動的なレフのと別れのシーンなどに、彼女のスケール感を感じた。竹内結子は将来的に大河ドラマの主役をやれる可能性をひめた数少ない女優なのでは。
 大いに残念だったのは、若き名指揮者のはずのレフが、指揮棒を振り下ろした瞬間に迷指揮者にしか見えなかったこと。あまりのお粗末な指揮ぶりに、せっかくのドラマの余韻が半減してしまうことに。この場面だけで、★ひとつ減点したわけでもないのだけれど。『さくら』を葉子が教えるくだりがあれば、オーケストラアレンジの『さくら』ももっと効いたかも、などと思いつつ、実際は田向脚本のドラマが見られただけでも感謝感激でした。(麻生結一)




Copyright© 2003 TV DRAMA REVIEW. All Rights Reserved.