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川、いつか海へ〜6つの愛の物語〜 (NHK総合)
テレビ放送50年記念ドラマ
制作・著作:NHK
制作統括:菅康弘
作:野沢尚(1、5)、三谷幸喜(2、4)、倉本聰(3、6)
演出:黛りんたろう(1、3、6)、清水一彦(2、4)、堀切園健太郎(5)
音楽:岩代太郎
出演:【第1話】本間多実…深津絵里、本間慎平…ユースケ・サンタマリア、多実(子役)…志田未来、海江田司郎…森本レオ、海江田遼子…浅丘ルリ子、【第2話】田沼六郎…渡辺謙、田沼敏江…小林聡美、番頭・川北…笹野高史、運転手・桑島…高橋克実、上司…嶋崎伸夫、仲居1…白神直子、仲居2…青田真弥、仲居3…須磨史衣、板前1…田辺伸之助、庭師…岩田丸、会社員1…檜尾健太、会社員2…山崎画大、矢島忠…西田敏行、【第3話】有田悦子…小泉今日子、有田正彦…柳葉敏郎、岡村公一…岡田慶太、有田しのぶ…塚本璃子、田沼修…春山幹介、岡村音吉…光石研、作次…江良潤、中川…田中要次、寺田…真実一路、三村…佐藤仁哉、部長…上田耕一、課長…斉藤暁、女の先生…山下容莉枝、土建屋社長…妹尾正文、木谷吾一…椎名桔平、【第4話】宗像栗子…観月ありさ、桜井敏雄…香川照之、桜井すみ子…磯野貴理子、尾沼切江…高瀬春奈、舞台監督・松坂…森川正太、部下・茂村…佐久間哲、社員1…大塚幸太、社員2…大塚太心、劇場スタッフ…緒方淑子、スタッフ1…井上智之、女優1…杉野未奈、サムソン…木津誠之、グレゴリ…榊原大豊、演出家…中尾彬、弁当屋…西田敏行、島田進…筒井道隆、尾沼健伍…江守徹、【第5話】海江田多実…深津絵里、本間慎平…ユースケ・サンタマリア、江原刑事…渡辺哲、松本刑事…大倉孝二、居酒屋店主…山谷初男、竹野内…豊嶋みのる、海江田司郎(回想)…森本レオ、海江田遼子…浅丘ルリ子、【第6話】海江田遼子…浅丘ルリ子、佐伯りん一…井川比佐志、水木社長…小沢昭一、増田エミ…江波杏子、大坪…石倉三郎、佐伯和夫…高杉亘、ニュースアナウンサー…中丸新将、女性事務員…広岡由里子、多実(子役)…志田未来、小島…新川將人、茶髪漁師…ポカスカジャン、田村…田村元治、船頭…玉川長太、佐伯昌子…土田ユミ、船員…岡部征純、セリ師…小杉幸彦、無線局員…高木順巨、伸介…蒲地ヒロシ、光子…竹原亜希子、男1…原武昭彦、男2…横山あきお、男3…渡辺火山、男4…山上賢治、海江田司郎…森本レオ、沖山二郎…奥田瑛二
ほか



 一つの浮き玉をめぐって繰り広げられる様々な人々の営みを、倉本聰、野沢尚、三谷幸喜がリレー形式で脚本を担当してドラマに仕立てたスペシャル企画。簡単に言ってしまえばオムニバスドラマなわけだが、そんな言葉を口走るのもはばかれるほどに、壮大な人間模様をNHKがPRしていただけに、いったいどんなドラマなのかとおっかなびっくりで見始めたが、この手の企画物らしくよかったり悪かったりする何とも言い難いドラマに仕上がっていた。一つ言えることは、全6話のいずれよりも、事前に放送された倉本聰v.s.野沢尚の構図がハラハラとさせるドキュメンタリーの方が面白かったということ。野沢さん、倉本先生に相当噛みついてましたからね。


第1話(12/21放送)
☆☆
 説明台詞の嵐に、幸先から大いに不安になった。まずは大前提。網元の娘・遼子(浅丘ルリ子)と山の男・司郎(森本レオ)は恋に落ち、結婚する。これが全話を通してのオープニングNR、

「山の男と海の女が恋をした」by司郎(森本レオ)

という民話的な語り口の大本になっている。嵐の日に海に出た司郎は波にさらわれたままに、命を落としてしまう。ドラマは始まったばかりも、いきなりに異議あり。よりによって浅丘ルリ子と森本レオに二十歳前後の若者時代を演じさせなくてもいいのに。このことで、ドラマの時間軸が非常にわかりにくくなってしまっている。
 多実(深津絵里)は愛人のもとに走った夫・慎平(ユースケサンタマリア)を、離婚届にサインすることの条件として山へのハイキングに誘う。それは、両親の愛の結晶であり、父が海に生きることを決意するために作った浮き玉を山奥深くの最初の一滴が生まれる水源の泉に里帰りさせるための離婚旅行だった。
 お互いの関係性にとどまらず、浮かれていた自分たちの境遇を日本がたどってきた時代に置き換えて説明する台詞から随所にわずらわしい。森林伐採からはじまる父と母の馴初めについての多実の語りは、父と母のロマンについて語っているというよりも、何がしかの説教を聞かされているような気分に。白黒の映像をインサートしてみたりと演出は凝りに凝っているのだが、統一したコンセプトは見出せずじまい。それぞれの心情もわかりづらいままに、とりあえずは先送りされた感じを受ける。ただ、ハイビジョンの技術を誇示するかのような映像美にはひたすら圧倒された。あの水しぶきも、ハイビジョンテレビで見ればすごいんだろうなぁ、と想像力だけをひたすらにはたらかせて。


第2話(12/22放送)
☆☆★
 第2話、三谷幸喜脚本のコメディ編では、あのガラスの浮き玉が元気の源化する。ひなびた温泉旅館の主人、六郎(渡辺謙)とその妻・敏江(小林聡美)は先月東京からやってきたばかりで慣れない仕事に四苦八苦。従業員からはそっぽを向かれ、ストライキされてしまう始末。掃除中に旅館の玄関に飾られていた高価なツボを割ってしまった六郎は、その代わりに川岸で拾った浮き玉を置く。
 六郎と敏江の掛け合いはいかにも重たくおかしみがわいてこないが、宿泊客の矢島(西田敏行)が登場してからは俄然面白くなる。恐怖のマンツーマン旅館ぶりに翻弄される矢島を演じる西田敏行が、面白個人技を連発。「三国志」に猪八戒は出てきませんが、猪八戒役で西田さんが出てたドラマはありましたよね。温泉旅館でなすびカレーが出てきた日にゃ、そりゃ落ち込みますわ。
 突然の団体客の接待に失敗する六郎と敏江を救うのが、即席チーフマネージャーとなった矢島その人。ホテルの営業部長だったら、宴会芸はお手の物とばかりに踊りまくる。ただ、『釣りバカ』で見せるようないつもの切れはなかったような。おそらく西田さんにとっては病気あけの復帰作だけに、いくぶんかセーブされてたんでしょうか。それでも十分下品で楽しいんだけど。結局、ドラマが面白かったのか、西田敏行が面白かったのか、よくわからなくなる。浮き玉、あんまり関係ないしね。


第3話(12/23放送)
☆☆★
 次に浮き玉を拾ったのは、ダム建設に揺れる街の子供たち。今日は浮き球が泣いている。昨日は確かに笑ってた。拾ったときは怒ってた。このあたりのドラマのテイストは、いかにも倉本節といった感じ。
 ダム建設促進のためにやってきた官僚の有田正彦(柳葉敏郎)と正彦の妻・悦子(小泉今日子)。彼女はもともとこの町の出身で、建設反対派のリーダーにして小学校の先生である吾一(椎名桔平)の元恋人だった。浮き玉を拾った公一(岡田慶太)は、転校生である悦子の娘・しのぶ(塚本璃子)と隣の席になる。「松たか子と松嶋菜々子を足して二で割った感じ」の美少女に思いを寄せる公一は、親友との秘密だった浮き玉の存在をしのぶに教える。
 しのぶを秘密工作員に見立てて、女の工作員は大体美人とはなるほどね。授業中に筆記しあった紙の匂いを一人かぐシーンなどは、いかにも倉本ワールド。背景にはダム建設の是非を問う主題があるのだが、そんな大人たちのしがらみや駆け引きから離れたところに子供たちを置いたおかげで、ドラマはメッセージ一辺倒になってしまうことから救われている。ダムに沈んでしまうであろう美しい村の風景が印象的。逆に、大人のキャストは全員印象薄。


第4話(12/24放送)
☆☆☆
 第1話に野沢尚、第2話に三谷幸喜、第3話に倉本聰とくれば、当然第4話には野沢尚の脚本がくるはずなのに、どうしたことか一人飛ばして三谷幸喜の順番に。重要話を倉本聰&野沢尚の浮き玉運命共同体に持っていかれたことに疎外感を感じてか、第2話に引き続いてメインの浮き玉の神話とはまったく接点のない話を書き上げた三谷幸喜だが、皮肉なことに全6話中、これがもっとも面白かった。十八番の演劇のバックステージ物を競作の中でやってしまうあたり、ズルい気もするけど。それを言ったら、子供にNRを読ませた第3話もズルいし、2話を続き物としてたっぷり描いた野沢編もズルいか(三谷さんは、配分された2話を続き物にいいんだったら、自分もやればよかったとおっしゃってますけど)。
 ヒデキ醤油では新入社員歓迎という名目で、実のところ尾沼社長(江守徹)の道楽から、毎年社員自らが出演する演劇公演が行われている。第8回を数える今回の演目は『ロミオとジュリエット』。ところが、本番前日のゲネプロになって、児童劇団出身で『中学生日記』にも出たことがある(何てNHKライクな)ロレンス神父役役の島田が、筋書きに反してハッピーエンドにしてしまう。島田がハッピーエンドにしたいのは、ジュリエットを演じる受付嬢・栗子(観月ありさ)への愛情が原因の模様。ただ、島田本人は栗子のことは思っていても、筋書きを変えてしまおうとまでは考えておらず、すべては舞台の小道具として置かれている浮き玉に導かれた言動だと言い訳する。島田から愛人関係である栗子との将来についてまで触れられた尾沼は大いに激怒。島田を役から外し、福利厚生係長で演劇に関してはド素人の桜井(香川照之)を代役に立てる。ちなみに、ヒデキ醤油のパッケージはキッコーマンのそれにそっくり!
 尾沼は楽屋に自分ののれんまで作ってるよ。「いかなるアクシデントがあろうとも芝居は続けろというのが、我々演劇にかかわる人間の鉄則だ」って、この人は醤油会社の社長さんでしょ。これまでの上演ラインナップもケッサク。チェーホフの『ワーニャ伯父さん』はまだしも、ミュージカル『グリース』までやっていたとは。隣の写真は『雨に唄えば』だし。そして今回は初シェークスピアらしい。音楽は王道でニーノ・ロータかい。大体、演劇に対する冒涜だ!シェークスピア先生、ごめんなさい!、ってほどお話は変わってないんだけど。やっちゃう公演は、こんなものじゃありませんからね。それにしても、こういう役をやらせると江守さんは抜群です。
 公演の前日にひょんなことから大役が回ってきた桜井と読み合わせでジュリエット役を務めるはその妻(磯野貴理子)。どうしたことか、普段着に甘い格好って、これは森尾由美のパロディ?! 名実ともに第2話を救った矢島(西田敏行)は、会社辞めて弁当屋になっちゃってるよ。例の社長擁立争いで、会社での立場をなくしたってことでしょうか。
 公演直前、ロレンス神父の格好の桜井が島田に助言する様が、見た目には正しいのに妙におかしい。案の定、本公演でも浮き玉の力で桜井はシェークスピアに反旗を翻し、ドラマをハッピーエンドにしてしまうも、大学時代の旧友でプロの演出家から斬新な解釈だと褒められて、尾沼もご満悦でめでたしめでたしという流れも、堂に入っていて安定感を感じた。尾沼の旧友役で中尾彬がカメオ出演しているあたりの遊び心も楽しい。
 公演後、矢島がゴミ置き場から浮き玉を見つけ、川に流す場面が美しい。上流に放たれた浮き球もとうとう下流に。出演陣はこぞって好演。ただ、浮き玉から遠ざかれば遠ざかるほど面白くなるというのは、企画的にはうまくないかね。


第5話(12/25放送)
☆☆☆
 多実(深津絵里)と慎平(ユースケサンタマリア)によって最初の一滴が生まれる水源の泉に放たれたガラスの浮き玉は、人助けに活躍しつつ流れに流れて、再び多実と慎平のもとに。第1話では説明しかしていなかった野沢尚脚本だが、3人のローテーションまでも覆して望んだ第5話では、これでもかというほどの熱の入れようで、力作に仕上げていた。
 慎平と別れたから早1年。多実は芝草管理技術者3級の資格をとり、サッカースタジアムで働いている。家業つながりとはいえ、彼女は四級船舶免許も持ってるみたいで、もしかして密かなる資格マニア?! そこへ慎平が現れ、インターネットの情報であの浮き玉が濁流に流されてすでに下流近くまでたどり着いており、多実と一緒に見つけたいと懇願される。
 慎平が元サッカー少年であったことは、第1話で言っておくべきだったろう。そうしておけば、サッカー少年の留学事業の詐欺行為も唐突に思えなかったはず。慎平が山に浮き玉を探しに行った話を反故にするくだりも、そうする必要があったかどうか。ただ、元夫婦が夜の川で一緒に過ごす描写は、その雰囲気に心引かれた。力技ながら、この壮大な愛の物語をどうにかドラマティックにまとめようと必死になっているところもちょっぴりいとおしいかったりして。このがんばりに、ドキュメンタリーで浮き彫りになった倉本聰v.s.野沢尚の構図が頭をよぎる。
 鹿島スタジアムの撮影には迫力あり。先日アントラーズを解雇されたエウベルが映ってましたね。慎平が水中に浮かぶイメージは、『氷の世界』と同じものか。遼子(浅丘ルリ子)のことをそれまでの「遼子さん」ではなく「お母さん」と呼んで、慎平が手を振りながら戻ってくるエンディングも余韻があっていい。


第6話(12/26放送)
☆☆
 第1話以上にこの最終回には失望させられた。お話が壮大にすぎて、逆に陳腐な印象をあたえることに。弘法も筆の誤りとはこのことか。
 司郎(森本レオ)の祥月命日に、6匹の鮭が定置網にかかる。放流していた稚魚が帰ってきたのだと歓喜する遼子(浅丘ルリ子)。同じ日に台風に備えて網を見に行った漁師の佐伯(井川比佐志)と息子の和夫(高杉亘)が遭難した。蘇る夫を失ったときの悪夢。そんな遼子の前に、ずぶ濡れの司郎が姿を現す。
 ボランティアの手を借りて植林し、川に稚魚を放流していた地道な活動。その話自体が説教じみているとは思わないも、メルヘンな浮き玉話とセットになるとその違和感は否めない。違和感といえば、遼子と大学教授・沖山二郎(奥田瑛二)の恋愛話も、描写の生々しさもプラスされてとってつけたような印象。これは、遼子にとってのもう一つの人生を語るためではなく、第3話のダムの話を絡めるために持ってきたキャラクターだろう。

「森が海を作る。同時に生みも森を作る」

の言葉とともに、そのサンプルとして話はカナダにまで飛ぶ。
 司郎の亡霊と遼子との会話がこの最終話のメインだが、ここがどうしたことか心に響いてこない。大体、会うなり鮭の溯上の話をするってどういうことよ。ダムはダメ、っていう前に、佐伯親子のことを助けて、って頼むべきでしょ。話の流れから、佐伯親子が無事であるほかの道がないドラマの構成自体にもにも問題があるんだけど。
 最後の10分間は太平洋を渡る浮き玉につれて、環境ビデオのようになる。行き着いた先は、カナダのハイダ・グアイ。大前提のコンセプトがそうだから致し方ないわけだけれども、また教育的だこと。まぁ、『川、いつか海へ』なんて仰々しい題名を偽ることはなかったわけだけど。位置づけとしては、第6話というよりもメッセージつきの番外編といった感じだが、いっそこの最終回はないほうがよかったのでは。(麻生結一)




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