TV DRAMA REVIEW HOME

相棒 (テレビ朝日系水曜21:00〜21:54)
制作/tv asahi、東映
プロデューサー/松本基弘、香月純一、須藤泰司、西平敦郎
脚本/輿水泰弘(1、2、10、11、13、18、21)、櫻井武晴(3、7、8、15、16)、砂本量(4、5、6、9、14、17)、深沢正樹(12、20)、坂田義和(19)
監督/和泉聖治(1、2、7、9、11、12、15、16、20、21)、大井利夫(3、4、5、6、10、13、14)、橋本一(8)、吉野晴亮(17)、長谷部安春(18、19)
音楽監督/義野裕明
音楽/池頼広
出演/杉下右京…水谷豊、亀山薫…寺脇康文、奥寺美和子…鈴木砂羽、宮部たまき…高樹沙耶、伊丹憲一…川原和久、三浦信輔…大谷亮介、角田六郎…山西惇、米沢守…六角精児、芹沢刑事…山中たかシ、内村警視長…片桐竜次、中園警視正…小野了、小野田公顕…岸部一徳、【以下ゲスト:第1、2回】小暮ひとみ…須藤理彩、武藤かおり…松下由樹、大河内春樹…神保悟志、監察官…並樹史朗、斉藤刑務官…黒沼弘己、真鍋純一郎…岩尾拓志、小暮慶介…清水紘治、浅倉禄郎…生瀬勝久、【第3回】藤間ゆり子…山口美也子、大曲幸吉…渡辺哲、滝沢恵美…西尾まり、榎並昭夫…二瓶鮫一、庚塚英明…大高洋夫、沼功…西田健、【第4回】苫篠武…下條アトム、十和田秀志…石山律雄、青山晴美…氏家恵、十和田ケイコ…高木りな、【第5回】七森雅美…中島ひろ子、斎東リカ…加藤貴子、斎藤肇…近江谷太朗、岸田義邦…日向勉、七森日出子…岩本多代、【第6回】菅原英人…大杉漣、菅原珠江…結城しのぶ、倉貫健太郎…中村俊太、高林安夫…新納敏正、永井のぞみ…梶原阿貴、【第7回】阿部由紀子…宮地雅子、若杉栄一…マギー、若杉真子…宮沢美保、マスター…田窪一世、多治見治…若松武史、【第8回】神田喜一…中原丈雄、辻真理子…麻丘めぐみ、【第9回】松金彰子…田島令子、小田島和也…入江雅人、田淵俊夫…岡崎二朗、西肇…六角慎司、小田島雅彦…須賀健太、【第10回】生瀬勝久、小林亘…坂上忍、岡本恭子…林美穂、青木征十郎…梅野泰晴、青木周作…鶴見辰吾、【第11回】蜷川るみ子…今陽子、吉池昌夫…菅原大吉、風間ひさし…木下政治、三峰涼子…室井滋、【第12回】村瀬真奈美…喜多嶋舞、大河内春樹…神保悟志、【第13回】吉田一郎…松尾貴史、大森郁夫…水上竜士、大森早苗…及森玲子、大森瑠奈…久保結季、長谷川均…細川俊之、【第14回】梅沢刑事…奥田達士、山中貴和子…木村多江、宇野レナ…川合千春、【第15、16回】若杉栄一…マギー、本宮沙雪…前田愛、沖真二…内田朝陽、美濃部耕筰…河原さぶ、北川渉…浜田学、加茂内敏樹…日比野玲、本宮みどり…一柳みる、工藤伊佐夫…小野武彦、【第17回】望月ちとせ…高田聖子、望月則彦…小市慢太郎、田嶋栄一郎…坂田雅彦、船村エリ…松本圭未、【第18回】大河内春樹…神保悟志、湊哲郎…山中聡、湊杏子…川越美和、【第19回】桐本達彦…小木茂光、桐本雅江…久野真紀子、【第20回】岡村留奈・留美…吉本多香美、ヒロコ…深沢敦、坪井真治…田付貴彦、【第21回】皆川千登勢…岸田今日子、永井紘子…国生さゆり、中津一義…伊藤洋三郎、笠井刑務官…小須田康人、斎藤刑務官…黒沼弘己、田端甲子男…泉谷しげる、武藤かおり…松下由樹、浅倉禄郎…生瀬勝久、瀬戸内米蔵…津川雅彦
ほか

>>公式サイト


第21回「私刑」(3/17放送)
☆☆☆★
 第2シリーズの大詰めも大詰めにいたって、ついにシリーズ最強キャラクター浅倉(生瀬勝久)が再登場。と思いきや、ドラマ開始30分を待たずして自殺!と思いきや、第1話で朝倉が脱獄したときの刑務官殺しにも疑問が投げかけられることに。何だか日本のドラマじゃないような伏線から解決までのタイムラグ加減が素敵すぎます。
 朝倉の死刑執行を一日も早くとごり押しする検察庁の妖怪・最高検察庁次長検事・皆川(岸田今日子)と決して死刑執行命令にサインしようとしない法務大臣・瀬戸内(津川雅彦)とが事件をめぐって対立、ぶつかり合う様は迫力満点。何だか久々にトップフォームの岸田今日子を見た気がする。やっぱり岸田さんは徹底的に恐ろしくないと岸田さんじゃないでしょ、と再認識させられる。昔のこの方は本当に怖かったですからね。
 見せ方の凝りっぷりもここに極まったか。朝倉が荼毘に付される火葬場の釜の中からのショットや、朝倉殺しの嫌疑をかける刑務官である中津(伊藤洋三郎)に迫って、マンションの下から右京(水谷豊)と薫の2人して見上げるカットなど、極度の意地悪ぶりが画面にまでにじみ出ることに。
 皆川の部下である永井紘子(国生さゆり)に対して、刑務所内で行われた朝倉に対する刑務官たちによるリンチの模様を録画したテープのことで詰め寄る薫に、以前のおばかさんぶりはいっさいなし。紘子は紘子で、皆川が中津と電話する会話を聞きつけて、いきなり悪い女に豹変。トリックの面白さではなく、登場人物の関係性をずらしながら見せる感じが、見事に決まっていてすっかり感心させられる。
 官僚主義に敗北する形で、事実上大臣職を更迭される瀬戸内を演じた津川雅彦を見ていたら、第1シリーズを締めくくったのが長門裕之であることを思い出した。2シーズン連続で兄弟俳優が締めくくるとは、そこに意図がないとは思えませんね。
 文字通り、すべての事実を飲み込んで(?!)死んでいった中津の遺書をきっかけに語られる、憎しみではなく哀れみの思いで、我が子を手にかける母親の気分で、一刻も早く朝倉をあの世へ送ろうとした皆川の思いが強烈。ねじれてよじれた嘱託殺人は、副題の「私刑」そのものだったか。官僚は大臣の気骨が嫌いとの社会派ぶりも、一筋縄ではいきません。(麻生結一)


第20回「ニ分の一の殺意」(3/10放送)
☆☆☆
 完全犯罪を企てる一卵性双生児の一枚岩の側面と、神経質といえるほど潔癖症で何事も完璧にこなす妹と粗こつなところがある姉の、似てれば似てるほどに張り合う危うい関係性が混ざり合って、ツイストしてくるブレンド具合が尋常じゃなくまろやかにして意地悪。
 姉の留奈と妹の留美を演じる吉本多香美が並ぶ画を見て、『ブルーもしくはブルー』『天使みたい』でNHKの専売特許になりつつあった一人二役物の牙城に、テレ朝ドラマも挑戦してきたかと思う。NHKほどはうまくなかったけど。青年実業家の坪井(田付貴彦)が歩道橋から突き落とされた事件の最初の容疑者、ゲイバーのママ・ヒロコ(深沢敦)が双子の姉妹に困惑するあたりは楽しいも、あれは合成じゃありませんからね。
 面白いのは、難攻不落に見えたトリックが完全主義者の妹の方から崩れていく点。同じ男と関係を持った2人の女の復讐劇も、『相棒』風だとここまで苦々しくなるわけです。右京(水谷豊)は女性の知能犯と対決したときが一番輝いているのでは(つまりは一番意地悪ってこと)。(麻生結一)


第19回「器物誘拐」(3/3放送)
☆☆★
 オープニングのアイフルのCMのパロディから、実はネタ晴らしがあったということか。このドラマの場合、つかみとて侮れませんね。弁護士・桐本(小木茂光)と妻・雅江(久野真紀子)が飼っている愛犬ラブの誘拐事件を休日出勤で担当することになった右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)だったが、ペットは法律上では器物にあたるため、捜査のための逆探知の許可がおりなかったり四苦八苦。桐本は弁護を担当した事件に関して怒鳴り込んできたという野崎(池田政典)の話をするも、野崎の部屋を訪ねた右京と薫はそこにラブと野崎の死体を発見する。
 ラブの誘拐は雅江が仕組んだという発想が薫らしい斬新な発想だなんて、相変わらず右京は意地悪な。

「ラブのことはお任せください」by右京

と雅江に宣言しつつ、右京は薫にラブを押し付けるあたりも悪すぎます。マンションではペットは禁止されてると美和子は怒るも、いつの間にかラブを犬っかわいがり。結局、

「人間には疲れますよ」by桐本

の一言が今回も事件のすべてを語る。殺人の動機が、妻の浮気以上のものにあったといったあたりはいかにもこのドラマらしい。(麻生結一)


第18回「ピルイーター」(2/25放送)
☆☆☆
 まったくこのドラマのだましっぷりには恐れ入るしかない。大河内(神保悟志)のピルイーターぶりなんか、第1、2話の聴聞会からの引っ張りでしょ。10分余しで事件が解決するあたりも、当然何かあるとか思っていたけれど、まさか……。
 警視庁警務部勤務の湊(山中聡)と不倫相手である里香(櫻井ゆか)の遺体が寄り添ったままに発見される。ともに頚動脈をかみそりで切られ、小指と小指は靴紐で結ばれていた。現場の状況は、湊による無理心中の線が濃厚。スキャンダルを恐れる上層部は事件そのものの是非そっちのけで、部署ごとに遺恨試合の様相になる。そんなとき、湊の上司である大河内(神保悟志)が右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)をわざわざ特命係に訪ね、真相の調査を依頼する。

「奴が女と心中するとは思えない」by大河内

なるほど何の変哲もない台詞に聞こえるなぁ。聴聞会後、つまりは新たなる島流し以降に特命係が15件の事件を解決に導いたとは、ドラマのエピソードときちっと一緒になってます。
 ここで湊による無理心中という仮説が成り立たなくなる。むしろ積極的だったのは、湊ではなく里香の方だったのだ。ホテルの部屋にタンブラーが3つのトリックは、むしろ2つの方がよかったのでは。3つでは誰でももう一人いたことに気がつくだろうし、里香の遺体からアルコールが検出されなかったところから、湊の妻・杏子(川越美和)の存在にまで行き着けるのでは。
 何はともあれ、自殺した杏子を発見するまでのためっぷりにはちょっとビックリ。あのマンションって、どれだけ広大なの。右京が発見した遺書には、杏子が里香を殺害したと書かれていた。何とかすると湊に言われ、ホテルの部屋をあとにしていた杏子。そして湊は偽装心中をでっち上げる。果たして湊は本当に里香を愛していたのだろうか?それとも、杏子の罪を消し去ろうとの思いだったのだろうか?
 そこに偶然大河内が居合わせた時点で怪しいと思うべきだった。ベランダで涙を流すねっとりとしたカットを見ればなおさらのこと。震える手にピルをとることが出来ない。大河内が確信していた心中事件を否定する確固たる根拠とは?真相の一歩手前でここではとどめておくことにしよう。ピルの真相にもまたまたビックリ。懲戒免職のちらつかせ方もキュートでいい。

「真相というものは、いつも意外なものですね」

この台詞は右京のためにあるような台詞では。(麻生結一)


第17回「同時多発誘拐 消えた16人の子供達」(2/18放送)
☆☆★
 前代未聞の15件連続同時多発誘拐事件。身代金の要求額は1億円、受け渡し場所は都庁前の都民広場。ところがそこに現われた身代金を手にした母親たちは16人。もしかしてあまり分の1人こそが犯人かと思わせたが、それは単なる警察に通報せずに犯人の要求にしたがっていた母親だったことが判明。デイバッグをかついでぞろぞろと集まってくる母親たちの画が抜群に面白かっただけに、この集団行動でエピソードを作ってもらしい面白さが出たような気がするのだが、そこはあっさりと放棄。このドラマのこと、さらなる意地悪な仕掛けが仕込まれているのかもとこの時点では思った次第。
 犯人からの指示で行き先がばらばらの高速バスに乗り込んだ母親たちのうち、右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)がはりついている児童養護施設を経営する学園長・望月ちとせ(高田聖子)ははした金しか集められぬままに、百貨店の副社長夫人・船村エリ(松本圭未)と甲府行きの同じバスに乗り込む。相模湖出口で高速を降りろとの指示のままに、運転手の協力のもと高速を下りるも、突然バスの中で煙が充満し、無愛想さがいかにも怪しかった運転手がそのスキに金を持ってバイクで逃走してしまう。
 16人の子供たちは無事解放。ちとせも無事に誘拐されていた純平に会うことが出来て感無量も、

「かあちゃん、おれちゃんとやったよ」by純平

の一言で、ドラマの全貌がわかってしまうことに。結局、普通の人情話になってしまって、少なくともこのドラマに期待するもの(=意地悪な仕掛け)とはかなり違った結末に。回を追うごとの期待感の高まりとともに、設定ハードルが高くなっていることも事実だけど。ところで、運転手はどうやって入れ替わったんでしょうね?(麻生結一)


第16回「白い罠」(2/11放送)
☆☆☆★
 驚き以外の何ものでもない北海道出張捜査の後編的位置づけの第16話。このドラマにしては不出来の部類だった第15話は、2時間サスペンスでいけば話半ばの通過地点に過ぎなかったということか。
 沙雪(前田愛)をかばって足を負傷した工藤(小野武彦)が、人を殺したという言葉を残して病院から姿を消したとなっては、右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)も出張を延長しないわけにはいかない。工藤は沙雪の母・みどり(一柳みる)が営んでいる小樽の食堂の常連で、みどりは彼に沙雪のことをいろいろと相談していた。沙雪に対する真二(内田朝陽)の無償のやさしさに疑問を抱いた右京は、真二こそが沙雪の父・本宮恒夫が殺した被害者の遺族であることを突き止める。当時の新聞に被害者の写真はなく、外出していて難を逃れた家族の写真が掲載されているのはいかにも不自然。真二も家族が殺されたときと同じように、沙雪に自分のことを信じさせて、それから沙雪を殺そうとしたのだが、右京と薫の説得により犯行を思いとどまる。外見だけでは見分けがつかないので偽物には気をつけて、という小野田(岸部一徳)によるタラバガニ的アドヴァイスはここにかかってくる。ここまでの展開もそれなりに面白かったが、これだけだったら☆☆★レヴェル。ここから先は、ご覧になる前の方は読まないことをお勧めします。
 常に目的地に先回していた工藤が小樽に土地勘のある人間との右京の読みはずばり的中。そして何と、工藤は死刑囚だった恒夫の担当看守だったのだ。東京拘置所からかばん一つで出てくる様に、これはきっと刑期を終えた受刑者であろうという先入観を見事につかれた格好。しかも、恒夫の死刑を執行した刑務官その人だったとは。人を殺した、との告白は、死刑執行を経験した刑務官としての言葉だった。死刑囚と刑務官はよく似ているとの工藤の言葉が重く響く。沙雪の父親と工藤は、出身地が同じというばかりでなく、経歴もあまりにも似ていた。町工場をつぶしてしまうも、親身になってくれる人がいたことで出直すことが出来た工藤は、もしかしたら自分も恒夫のようになったかもしれないと思ったのだ。死刑執行の場面はあまりにも悲痛。映画『チョコレート』の前半部を思い出す。看守もまた先生と呼ばれる職業か。
 コレッジョの画集を差し出すも、振り払ってその場を去ろうとする沙雪に生きる価値がない人間なんかいないと詰め寄る薫がいい。薫もこんな立派なことを言う刑事になったんですね。みどりにもう来ないでほしいと言われ、自分の人生を否定された思いだった工藤を沙雪が見送るラストもいいんだけど、画集持参はちょっとやりすぎだったか。人生が否定されたわけじゃなかったと右京が付け加える言葉は、相棒的「冬の旅」の締めくくりにふさわしかった。(麻生結一)


第15回「雪原の殺意」(2/4放送)
☆☆★
 この回は内容そのものよりも、続き物のそぶりをまったく見せていなかったドラマのポーカーフェイスぶりにこそ感激した。薫(寺脇康文)が捕まえた売春行為をしていた沙雪(前田愛)は、売春と売春あっせんの容疑で北海道警察に起訴され、公判前に逃亡していた女性だった。薫は札幌に彼女を送り届けるため、北海道に向かう。沙雪がホストクラブの加茂内(日比野玲)にだまされ売春を始めたと聞いた薫は加茂内を問い詰めるが、裏付ける証拠はなかった。そんな中、薫が消息不明になる。右京(水谷豊)は薫を捜すため、札幌に向かう。一面の銀世界に置き去りにされていた薫を救出した右京は、一足違いで殺された加茂内の殺害現場に落ちていたボールペンが遺留品の中からなくなっていたことで、警察内部に犯人がいることに気がつく。早速、沙雪を中学生のころから補導していた刑事の美濃部(河原さぶ)の家を訪ねたのだが、すでに殺されていた。美濃部は同僚の北川(浜田学)が売春組織と関係していたことを知り、北川に自首を促し殺されたのだ。右京と薫は沙雪がいる教会にむかい、そこで沙雪を銃で狙っていた北川刑事(浜田学)を捕まえる。
 沙雪という変わった名前が事件の鍵を握る物語そのものは、1クール折り返してからの絶好調ぶりからすると中位の出来ばえだったが、一言もしゃべらなかった謎の男(小野武彦)に

「教えていただけませんか。あなたは誰なのか?」

と右京が尋ねるラストの台詞には、ただただビックリ仰天してしまった。変化球は変化球でも、ここまでくると反則に近い。道警までの護送に、しかも薫のテーマ曲にシューベルトの『冬の旅』とはやってくれますね。タクシーの業界用語でお荷物とは酔っ払いのことらしい。(麻生結一)


第14回「氷女」(1/28放送)
☆☆☆★
 ワンクールを折り返したあたりから俄然調子が出てきたこの第2シリーズだが、凍りつく心臓と汗をかく死体についての真冬の怪談、「氷女」も着想が際立ってユニークな快作。ひねった面白さだったら、今やこれの右(もしくは左)に出るドラマはないでしょうね。このドラマの場合は、見てから読んでいただかないと、筋がわれちゃうとサプライズが半減してしまいますので。
 記録的な寒波に襲われた東京で、会社員の池永(山崎進哉)の凍死体が心臓まで凍った状態で発見される。他殺を確信した右京(水谷豊)は薫(寺脇康文)と捜査を開始し、池永の同僚・益田(有働正文)も4年前に凍死していたことを突き止める。益田は部下だった宇野レナ (川合千春)からセクハラを受けたと告発されたことがきっかけで退職。池永と宇野は特別な関係にあり、益田と昇進争いをしていた池永が宇野を使って益田にセクハラの濡れ衣を着せたというのがもっぱらの噂だ。右京と薫は、その夜池永が飲んでいた居酒屋に居合わせた常連客の山中貴和子(木村多江)から、水商売風の女性と腕を組んで歩く池永を見かけたという証言をえる。ところが、2人が立ち寄ったバーでその女がライターを持っていなかったことから、目撃された女は水商売には詳しくない人物であることがわかる。
 1時間のフォーマットに苦しむドラマが多い中で、涙が凍るほどの愛にまつわるゆがんだこの復讐劇は、あまりにもぴったりと1時間の中にピタリと収まる。池永の葬儀で川合千春演じる宇野レナがいかにも怪しく見えるも、山中貴和子を演じる木村多江はその存在がすでに怪しいだけに五分と五分か?!木村多江は、TBSの『それは、突然、嵐のように…』、NHKの『新選組!』、ちょっと前にはCXの『白い巨塔』と、日テレのドラマ以外は放送局制覇の勢い。
 知性の闘いというテイストから、『クイズ王』ともちょっと似ているが、あそこまで趣味的ではなく、右京お得意の一喝で翻意させるあたりからも情緒的な部分が勝っているところに大いに救われる。つまりは、愛についての物語だったということ。金の結婚指輪は、日本ではたった4%の普及率だと。結構、見ますけどね。イギリスしかサンプルがないかのような物言いで、自分が金を選んだことを説明する右京がまたいやみったらしくて。
 捜査一課の鼻を明かすため大いに張り切る薫に、そういう張り切り方はどうかと思うとの見解は、右京とたまき(高樹沙耶)でまったく一致。さすがは元夫婦です。それにしても、右京は液化天然ガスにまでも精通しているのか。言葉の勉強が一つ、“汚名”はそそぐだそうです。覆面パトカーが登場したのも初めてでは。(麻生結一)


第13回「神隠し」(1/21放送)
☆☆☆
 感心させられるのは、この話を思いついたことではなく、この話を実際にドラマにしようと決断したことの方。小学生の瑠奈(久保結季)が学校からの帰宅途中に突然、姿を消した。瑠奈が通っていた道々には、暗号を意図するかのように彼女が身に着けていたと思われる物が点々と残されている。しかし、瑠奈の家には営利目的の誘拐と思えるような電話はかかってこない。右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)は、瑠奈の親友であるらしいホームレスの一郎くん(松尾貴史)に話を聞き、2人が親しくなった場所である教会の神父・長谷川(細川俊之)を訪ねる。長谷川には、かつて少女への強制わいせつで服役した前科があった。
 神→荷→稲荷→玉→絵の解読が「神に祈りたまえ」とは、確かに「稲荷」がちょっと訛ってますね。母・早苗(及森玲子)に父・郁夫(水上竜士)は暴力をふるうも、一歩外へ出れば極めて仲の良い夫婦を演じる両親の姿に、真実がどこにあるのかわからなくなった瑠奈。さらにはお受験にも失敗して行き場を失ったとしたら、そのよりどころとして教会だって逃げ込みたくなるでしょうよ。逆に言えば、教会があってよかった。
 前(=前科)がある神父による狂言誘拐まがいのショック療法をとても是とは思えないが、薬が効きすぎた感じはいかにもこのドラマの路線。無実の罪で捕まったとき、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせたと語る長谷川の悟りの境地は、その冤罪までもを試練という名の神の思し召しにすりかえてしまうのか。何はともあれ、あの神父は苦労しているという朝シャン派のホームレス、一郎くんの読みはすべてあたっていたということで。

「税金分ぐらい働け!警察」

とは、このドラマに出てくる小学生が言いそうなことで。「前があるから怪しい」との無能な刑事の常套句を並べて、三浦(大谷亮介)が久々に登場。(麻生結一)


第12回「クイズ王」(1/14放送)
☆☆☆★
 天才対決の末の言葉尻にこだわったプライド合戦と途方もない孤独。その意地悪さとひねり具合において、いよいよエンジン全開の感あり。薫(寺脇康文)に公園に呼び出された右京(水谷豊)は、薫から手錠をかけられ、携帯電話をかけてきた謎の人物とクイズをすることに。もし3問間違えたら、その時点で公園にいる誰かを無差別に射殺すると脅す犯人。2人はクイズに答えていくが、ついに3問不正解となり、近くにいた佐々木(大石継太)という男性が射殺される。ところが右京は、犯人が最初から佐々木を狙っていたと考察し、佐々木が結婚前に付き合っていたクイズ番組の女王にして人気塾講師の村瀬真奈美 (喜多嶋舞)を怪しむ。
 同じ東大出身者同士の右京と村瀬のインテリジェンスの競い合いに異色の面白さが満載。ただ、知性とプライドと孤独がナマにさらけ出される様の前では、村瀬が雇った狙撃手を遠隔操作していて、というトリック自体はかすんでしまったか。

「犯人は決して利口ではない」by右京

との誘導にものの見事にひっかかり、右京をあざ笑うために地面に書き残された円周率の1と7の欧米表記法に屈した村瀬の震えるほどの怒り心頭ぶりに見る側も震える。大体本を正せば、「怒り心頭に発する」を「達する」といい間違えた村瀬に、「酒の席とはいえ」差し出がましくもそのいい違えを指摘した右京こそが発端でしょ。「溜飲が下がる」を「溜飲をおさめる」といい間違えて、村瀬に一本とらせてあげる心遣いも含めて、やはり右京こそがもっともワルだったということで。第1シリーズで出てきた「汚名は返上、名誉が挽回」まで登場するとは、このドラマのしつこさは並大抵じゃない。(麻生結一)


第11回「秘書がやりました」(1/7放送)
☆☆☆
 必要とあらば、議員のためになるとあらば、何だってやる秘書たちのお話。衆議院議員の蜷川(十貫寺梅軒)のバラバラ死体が、産業廃棄物処理場で見つかった。クリーンなイメージだった政治家の死に、謀殺事件と騒ぎ立てるマスコミ。右京(水谷豊)は、遺体現場から議員バッジが発見されなかったことに疑問を持ち、三峰涼子(室井滋)、吉池昌夫(菅原大吉)、風間ひさし(木下政治)という3人の秘書が怪しいとにらむ。
 副題「秘書がやりました」とは、決まり文句の陳腐さと内容のアイロニーとが掛けられた絶妙タイトル。国会議員としての業績を高めるための秘書による偽装殺人のメインラインに絡めて、代議士の妻の嫉妬によるもう一つの殺人を裏に置くあたりのストーリーテリングのうまさは、『白い巨塔』同様に2クール連続放送となったドラマの面目躍如たるところだ。右京、薫(寺脇康文)、米沢(六角精児)による殺し方発見会議が、いかにもこのドラマらしいブラックな切り口で楽しい。蜷川の妻・るみ子(今陽子)が語る「女の秘書は妻の敵」との言葉に、妙な説得力あり。これまでの統計からいっても(?!)、輿水さん担当の脚本が最も充実しているかな。
 水谷豊→『青春の殺人者』→長谷川和彦→室井滋ラインに思いをはせたりして。ところで、薫の天敵、伊丹(川原和久)と相棒を組んでいる三浦(大谷亮介)はどこへ行った?(麻生結一)


第10回「殺意あり」(12/17放送)
☆☆☆
 らしい苦々しさが全開で、久々にトップフォームを取り戻した感じ。青木周作(鶴見辰吾)がメスを握った手術で、患者である父親・征十郎(梅野泰靖)は死亡してしまう。その一件を取材していた美和子(鈴木砂羽)に連絡してきたその病院に勤める医師・小林(坂上忍)は、それが周作による手術ミスだったことを告発する。
 息子が執刀した父親の手術で医療ミス。つまりは、仮に訴訟を起こすとなると、自分が原告で、かつまた自分が被告の立場になるというねじれ様だ。同じ医療過誤を扱っても、こういう意地の悪い設定をしてくるあたりがいかにもこのドラマらしいところ。
 『銀座まんまんなか』では珍しく善良な夫役を演じている坂上忍が、ここでは過去の復讐に燃えるわけありの医師役を妙演。やはり彼の本領はこっちでしょうね。見るからにあやしげだったし。そこにいかにも悪人風の鶴見辰吾が絡んでくるのだから、面白くならないわけがない。右京(水谷豊)の意地悪ぶりは以前からのことなれど、ここ最近は薫(寺脇康文)までも相当ネチネチとしてきていている印象。(麻生結一)


第9回「少年と金貨」(12/10放送)
☆☆★
 古銭ものとはまた推理ドラマらしい設定だこと。コインコレクターの倉野(大木史朗)が殺害される。薫(寺脇康文)は殺人現場の近所の自動販売機の下に入り込んでしまった金貨を取り出そうとしていた小田島(入江雅人)をいったん捕まえるも、すぐに逃げられてしまう。
 小田島の息子・雅彦(須賀健太)と薫(寺脇康文)のツーショットが、アメリカ映画の小品に出てきそうないい雰囲気をかもし出す。「刀幣」という中国の戦国時代に作られたコレクション以外が奪われている事実から、貨幣博物館館長・松金(田島令子)が犯人として浮かび上がってくるあたりのトリックは、地味に懲りすぎで痛快さからは程遠いけれど、小田島との取引のため公園にやってきた松金を、待ち伏せしていた右京(水谷豊)たちが取り囲む場面の異様な雰囲気は、意地悪極まりないこのドラマらしいところ。(麻生結一)


第8回「命の値段」(12/3放送)
☆☆★
 命の値段について。ドラマも最終盤に差し掛かるころに、何ともしれないもやもやとした気分にさせられるあたりは、いかにもこのドラマらしいところ。
 企業グループのトップである神田(中原丈雄)が、池袋の人生横丁という酒場で男性(吉満涼太)を殺したと警察に自ら通報してくる。肩がぶつかっただけの男をビール瓶で殴り殺してしまったというのだが、右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)はその被害者は保険会社に勤めていて、5人のうち2人が死亡するモーターボートの事故に巻き込まれて死亡した2人のうちの1人、神田の息子・陽一郎(村内貞介)の示談を担当していたのだった。もう1人の被害者、辻篤志(村内貞介=二役)の母・真理子(麻丘めぐみ)はその人生横丁で飲み屋を経営していた。右京の誘導尋問に引っかかった真理子は、神田とかつて恋人同士であった事実と、篤志は神田との間に出来た子供であることを自供する。
 殺人事件そのもののからくりにはまったく興味を示さず、背後の因縁に焦点を絞った異色篇(って、このドラマは毎度毎度異色なんだけど)。かつて見捨ててしまった恋人への償いの思いから、身代わりとなって罪をかぶろうとしただけであれば、ドラマとしての面白みは半減するのだが、最後の最後になって、右京が認知しなかった息子のために罪をかぶろうとしたのだと、神田の気持ちを推し量るくだりで、物語はようやくこのドラマらしいテイストを醸し出してくる。ちょっと遅かった気もするけど。(麻生結一)


第7回「消えた死体」(11/26放送)
☆☆★
 消えた死体のトリックの巻。ヤミ金融の取り立て屋、栄一(マギー)が発見した死体にまつわる謎に、事件でもないのにかかわっていく右京(水谷豊)の立ち位置が、いっそう探偵的にになってきた。それこそが、特命係なのかもしれないけれど。
 右京がヤミ金融の社長、多治見(若松武史)と名曲喫茶で偶然知り合っているという前提が、刑務所にエルガーのレコードを送るお仕置きにかかっていくあたりは、いかにもこのドラマらしく皮肉が効いたオチだ。(麻生結一)


第6回「殺してくれとアイツは言った」(11/19放送)
☆☆☆
 ネタバレ注意。犯罪小説家の菅原(大杉漣)が犯人であることに早々、察しがついてしまうあたりを意識してか否かは微妙なところだが、敵がトリックのプロであるあたりの設定なども含めて、非常に『刑事コロンボ』的だ。主筋の逆転劇にはそれほど驚きはないものの、あまりにも皮肉っぽいラストの方にはいかにもドラマらしいテイストを感じた。かつて愛した人、菅原の妻・珠江(結城しのぶ)の死を一人悼む小野田官房長(岸部一徳)の後姿が印象的。(麻生結一)


第5回「蜘蛛女の恋」(11/12放送)
☆☆☆
 薫(寺脇康文)、お見合いパーティーで雅美(中島ひろ子)と知り合ったのが運のつき。じわじわとペアルックで同化してくる雅美(中島ひろ子)があまりにも怖い。共依存症の対象者が誰であるか、という緊張感のあるどんでん返しも怖いが、新たなる共依存をほのめかすラストもほの暗く怖い。あとを引く悪魔性が、いかにも意地悪なこのシリーズらしい。(麻生結一)


第4回「消える銃弾」(11/5放送)
☆☆☆
 消える銃弾の謎。毎度のことながら、ねたバレ注意!自殺した苫篠(下條アトム)の息子・孝一(渡部遼介)から教えてもらった歌を鼻歌で口ずさみながら骨の銃弾をセットし、孝一を自殺に追いやった建築家・十和田(石山律雄)の娘、ケイコ(高木りな)を狙撃しようとする晴美(氏家恵)の常軌を逸した様にはゾッとさせられる。右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)が風船を割って、間一髪狙撃を食い止めるの連係プレーも絶妙。右京(水谷豊)のポアロ風のマイペース捜査は、いっそう極まってきた感じだ。(麻生結一)


第3回「殺人晩餐会」(10/29放送)
☆☆☆
 ネタばれ厳重注意の回。初回と第2回であれだけのへヴィー級を繰り出しといて、第3回がアガサ・クリスティばりの室内劇風とは、まったくこのドラマ、確信犯過ぎるよ。
 生け花の家元争いとはまるで2時間サスペンスみたいと思わせといて、

「2時間のサスペンスみたいね」byたまき(高樹沙耶)

「2時間で解決すればいいんですけどね」by美和子(鈴木砂羽)

とすぐさまフォローの台詞を入れて、暗に全否定。このあたりのかゆいところに手が届く感じがたまらないし、人一人死んでいるとは思えないリラックスした雰囲気もイギリス風というか、日本の2時間サスペンスとは明らかに一線を画すマニアックな作り。メニューが出て、料理が出て、隣のテーブルの人間が順番に席を離れて、という大前提も正統派のパロディっぽくてワクワクさせられた。
 殺人トリック自体は予想範囲内だったとしても、凶器のイカを薫(寺脇康文)が食べ残していたというダメ押しにはうならずにはいられない。味オンチって言われるのはOKだけど、味覚バカは我慢ならんとの主張にも思わず納得。実はグルメガイドのインスペクターだった幸吉役の渡辺哲の、全編にわたる死体演技が妙に楽しげ。ちなみに、椅子は左から座るのがマナーだそうです。(麻生結一)


第2回「特命係復活」(10/15放送)
☆☆☆★
 初っ端のエピソードから2話3時間もかけて、こんな悪魔的な一筋縄ではいかないお話を濃厚に見せられるとは。その異色の面白さは土ワイ、および第1シリーズのときに勝るとも劣らず。小暮ひとみ(須藤理彩)と右京(水谷豊)との心理的な追い詰めあいに見ごたえがあり、複雑かつシンプルな結末にもゾクっとさせられた。
 迷宮チックなお屋敷に『サイコ』ばりの地下室で、物語の構造は裏サイコ風にするあたりの徹底ぶりに、大いに感心させられた。須藤理彩に悪役、あうね。そして浅倉(生瀬勝久)の脱走。岸壁のエンディングまで、普通なんて一つたりともない。(麻生結一)


第1回「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」(10/8放送)
☆☆☆
 よくぞまぁ、第1話目からこういう濃厚なものをこしらえたものよ。いきなり主人公がシャーロックホームズの本場、ロンドンにいて、冒頭20分以上出てこないという構成からひねりにひねっているが、斜めな視点はここからいっそうにエスカレートする。もちろん、古今東西の探偵ものは、すべからく主人公はなかなか出てこないものだけれども。
 前のシリーズで特命係は解散したため、右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)はいかにして捜査にかかわるのかと思いきや、とりあえずは勝手にやってる設定。右京の意地悪極まりない捜査方法は、いっそう陰険を極める。犯人の罪状がクリアーなあたりは、シャーロックホームズというよりもコロンボに近いかも。そして、いきなりの窮地に。ここまでの意地悪なドラマなんだから、自殺未遂を図って倒れる小暮ひとみ(須藤理彩)のまぶたがぴくっと動いてた、ってぐらいの意地悪は言ったっていいでしょ。
 シリーズ最大の凶悪犯、“平成の切り裂きジャック”浅倉(生瀬勝久)は依然健在。同じ殺人犯の匂いがしたと浅倉によって告発されるベラドンナの毒の罠を仕掛ける小暮ひとみ役を須藤理彩が怪演中(初の悪役?)。現在進行形はこの第1回スペシャル、2時間かけたのにまだ終わってないんです。時間の枠も取っ払って、自由気ままに作ってる感じがうらやましいし、わがまま度が高い分の期待感も大。ひねった面白さを求める方には、この作品はお薦めだ。
 そういえば、つい最近の『珍山荘ホテル』でも生瀬勝久と須藤理彩は共演してましたね。(麻生結一)




Copyright© 2003-2004 TV DRAMA REVIEW. All Rights Reserved.